中国小売市場の国際化と構造変化

長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
0
1
4.
3)
〈研究論文〉
中国小売市場の国際化と構造変化
西島
博樹*
ば、とくに2
0
0
0年代以降の中国小売市場は、ま
! はじめに
さに小売国際化の舞台と化している。
1
中国小売市場の特徴は多様性にある 。これ
本稿の目的は、近年における中国小売市場の
には2つの意味が含まれている。第1の意味
現状を概観するとともに、外資系小売企業の市
は、国土の巨大性に由来する地域間の多様性・
場参入とそのインパクト、さらに、小売国際化
差異性である。例えば、沿海部と内陸部、北部
の深化にともなう中国小売市場の構造変化を時
と南部では、気候、生活習慣、言語などに大き
系列的に分析することである。
な違いがある。第2の意味は、都市内における
空間的な差異性・格差である。例えば、北京市
内では、所得レベル、住宅環境、ライフスタイ
" 中国小売市場の概況
ル、価値観などを異にするエリアがモザイク状
1.小売業態別概況
に混在している。こうした2つの意味における
中国小売市場は、好調な製造業(世界の工場)
小売市場の多様性・差異性は、標準的なオペ
に牽引された消費支出の急速な拡大が「世界の
レーションを武器として世界戦略を展開する外
市場」として注目を集め、国内企業だけでなく
資系小売企業にとっては厳しい市場条件として
外資系企業を巻き込んだ熾烈な競争が展開され
映ることになる。
ている。ここではまず、マクロ的にみた中国小
だが、中国政府による小売市場の開放政策を
売市場の小売業態別競争構造を概観してみよ
契機として、欧米系、東南アジア系、日系など
う。表1は、一定規模以上の企業を対象とした
が入り混じった、多様な国籍の外資系小売企業
2
0
1
1年における小売業態別の店舗数、売場面
が中国市場で熾烈な参入競争を繰り広げてい
積、従業員数、販売額の実数と全体に占める割
る。それだけ、中国市場は、厳しい市場条件を
合(占有率)を示したものである2。
乗り越えるだけの大きな魅力をもった市場であ
小売店舗数をみると、一定規模以上の中国小
るということだろう。小売外資の市場参入は、
売企業の店舗総数は1
6
3,
9
3
4店舗であり、この
国内の既存小売企業の行動に影響を与えるだけ
うち専門量販店が6
3,
8
3
5店舗で最も多く、総店
でなく、その行動の変化が連鎖的に増幅されて
舗数の3
8.
9%を占めている。以下、スーパー・
中国国内の流通システムを大きく変容させる。
大型スーパー(4
1,
0
9
6店舗、占有率2
5.
1%)
、
こうした一連の動きを小売国際化と呼ぶとすれ
ブランドショップ(3
1,
7
6
8店舗、同1
9.
4%)と
*
長崎県立大学経済学部教授
−9
5−
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
01
4.
3)
表1 中国小売業態別概況(2
0
1
1年)
店舗数
店
売場面積
比率
万㎡
従業員数
比率
万人
販売額
比率
億元
比率
百貨店
4,
8
2
6
2.
9
1,
7
2
2.
3
1
9.
3
2
6.
5
1
2.
2
3,
2
2
6.
8
1
7.
2
SM
4
1,
0
9
6
2
5.
1
3,
9
5
1.
5
4
4.
2
9
2.
3
4
2.
5
5,
9
9
2.
7
3
1.
9
CVS
1
3,
6
0
9
8.
3
1
0
9.
7
1.
2
7.
1
3.
3
2
2
6.
0
1.
2
専門量販店
8
3
5
6
3,
3
8.
9
2,
4
0
4.
6
2
6.
9
6
4.
6
2
9.
7
7,
1
7
6.
7
3
8.
2
ブランドショップ
3
1,
7
6
8
1
9.
4
3
6
6.
7
4.
1
1
6.
7
7.
7
1
0
3
1.
0
5.
5
DS 等
1,
4
0
3
0.
9
3
2
2.
1
3.
6
7.
6
3.
5
9
1
0.
9
4.
9
その他
7,
3
9
7
4.
5
5
6.
0
0.
6
2.
5
1.
2
2
0
4.
0
1
1.
1
6
3,
9
3
4
1
0
0.
0
8,
9
3
2.
9
1
0
0.
0
2
1
7.
3
1
0
0.
0
1
8,
7
6
8.
1
1
0
0.
0
合計
(注1)SM はスーパーと大型スーパーの合計、CVS はコンビニエンス・ストア、DS 等はディスカウントストア、
会員制小売店、ホームセンター、アウトレットの合計。なお、専門量販店はガソリンスタンドを除いている。
(注2)網掛けはそれぞれの指標で占有率が最も大きい小売業態を示す。
(出所)日中経済協会『中国経済データハンドブック』2
0
13年版より筆者作成。
図1 中国小売業態別販売額の占有率(2
0
1
1年)
(注)および(出所)表1に同じ。
続いている。
プは、売場面積ではわずか4.
1%にとどまって
売場面積をみると、一定規模以上の中国小売
いることから、その多くが小規模な店舗である
企業の総売場面 積 は8,
9
3
2.
9万 ㎡ と な っ て い
ことがわかる。また逆に、店舗数では全体のわ
る。このうち、売場面積がもっとも大きい小売
ずか2.
9%に過ぎなかった百貨店は、売場面積
業態はスーパー・大型スーパーの3,
9
5
1.
5万㎡
では1
9.
3%を占めている。
(占有率4
4.
2%)であり、次いで、専門量販店
従業員数をみると、一定規模以上の中国小売
(2,
4
0
4.
6万㎡、占有率2
6.
9%)
、
百貨店(1,
7
2
2.
3
企業の従業員総数は2
1
7.
3万人となっている。
万㎡、同1
9.
3%)と続いている。店舗数では全
このうち、従業員数がもっとも多い小売業態は
体の1
9.
4%の割合を占めていたブランドショッ
スーパー・大型スーパーの9
2.
3万人(占有率
−9
6−
中国小売市場の国際化と構造変化
4
2.
5%)であり、次いで、専門量販店(6
4.
6万
1.
2%にとどまっている。このことから、中国
人、占 有 率2
9.
7%)
、百 貨 店(2
6.
5万 人、同
のコンビニエンス・ストアは、国民の消費生活
1
2.
2%)と続いている。この上位3業態で約1
8
3
にとって相対的な重要度が未だ低いことがわか
万人(全体の8
4%)という大きな雇用を生み出
る。
している。
2.小売企業ランキング
販売額をみると、一定規模以上の中国小売企
業の販売総額は1
8,
7
6
8.
1億元となっている。こ
今度は上位企業の概況をみてみよう。表2
のうち、販売総額がもっとも大きい小売業態は
は、中国連鎖経営協会が発表した2
0
1
2年におけ
専門量販店の7,
1
7
6.
7億元(占有率3
8.
2%)で
る小売企業2
0社のランキングである3。これに
あり、次いで、スーパー・大型スーパー(5,
9
9
2.
7
よれば、次の2つの特徴がみてとれる。
第1は、
億元、占有率3
1.
9%)
、百貨店(3,
2
2
6.
8億元、
ハイパーマーケットやスーパーセンターを代表
同1
7.
2%)と続いている(図1参照)
。店舗数
とする低価格を売り物にした総合型小売店(大
では全体の8.
3%の割合を占めていたコンビニ
型スーパー)の優勢である。上位2
0社の内訳を
エンス・ストアであったが、販売額ではわずか
業態別にみると、大型スーパーを主たる業態と
表2 中国小売企業売上高上位2
0社(2
0
1
2年)
順位
1
企業名
蘇寧雲商
売上高
1
2,
4
0
0,
0
0
0
前年比
1
2.
7
0
(億元、店、%)
店舗数
1,
7
0
5
前年比
△1.
1
0
2
百聯集団
1
2,
2
0
5,
2
2
1
3.
3
0
5,
1
4
7
△8.
2
0
3
国美電器
1
1,
7
4
7,
9
7
4
6.
8
0
1,
6
8
5
△3.
0
0
4
華潤万家
9,
4
1
0,
0
0
0
1
3.
8
0
4,
4
2
3
1
1.
2
0
5
大潤発
7,
2
4
7,
0
0
0
1
7.
7
0
2
1
9
8.
4
0
1
6
ウォルマート
5,
8
0
0,
0
0
0
3.
6
0
3
9
5
6.
8
0
7
重慶商社
5,
4
4
9,
4
7
2
1
4.
0
0
3
2
7
0.
6
0
8
百勝餐飲
5,
2
2
0,
0
0
0
3
0.
5
0
5,
2
0
0
1
6.
9
0
9
山東省商業集団
4,
9
3
8,
0
6
6
2
1.
4
0
5
2
6
2
6.
7
0
1
0
カルフール
4,
5
2
7,
3
8
6
0.
2
2
1
8
7.
4
1
1
大商
5
0
0
3,
7
2
7,
4.
7
1
7
0
0.
0
1
2
農工商超市
3,
0
3
0,
2
7
5
0.
2
2,
7
3
4
△1
9.
0
1
3
永輝超市
2,
7
9
3,
0
0
0
3
7.
0
2
4
9
2
2.
1
1
4
武漢武商集団
2,
6
8
0,
0
1
0
2
9.
8
9
8
6.
5
1
5
宏図三胞高科技術
2,
6
4
5,
6
1
2
1
4.
0
4
8
2
1
5.
3
1
6
中百控股集
2,
6
2
1,
6
3
1
1
3.
7
9
4
8
1
3.
1
1
7
石家庄北国人百集
2,
5
4
1,
5
5
3
1
6.
2
1
9
8
4
8.
9
1
8
江蘇五星電器(ベストバイ)
2,
4
1
8,
5
3
0
△1
2.
0
2
5
2
△9.
7
1
9
長春欧亜集団
2,
4
1
4,
4
9
8
2
1.
3
5
8
1
6.
0
2
0
海航商業
2,
4
0
0,
0
0
0
2.
6
4
4
8
△4.
3
(注)網掛けは外資系小売企業を示す。
(出所)中国連鎖店協会公表データ。
−9
7−
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
01
4.
3)
する企業(中国連鎖店協会では「快速消費品連
いこう。
4
鎖」として区分されている)が1
0社(百聯集団 、
改革開放以前の中国では、流通部門は指令性
華潤万家、大潤発、ウォルマート、農工商超市、
計画経済を遂行するために縦割りと横割りにさ
永輝超市など)と最も多くランクインしてい
れた行政組織と多段階の流通機構によって構成
る。次いで百貨店を主たる業態とする企業が5
され、流通経路は商品(消費財)と物資(生産
社(重慶商社、山東省商業集団、大商、石家庄
財)
、国内流通と国際貿易、都市部と農村部に
北国人百集団、長春欧亜集団)、専門量販店(家
分けられていた6。小売部門に目を転じると、
電量販店、パソコン専門店)が4社(蘇寧雲商、
1
9
7
0年代までに存在していた小売業態は、百貨
国美電器、宏図三胞高科技術、江蘇五星電器)
、
店、専門店、一般小売店、総合型小売店の4業
ファストフードが1社(百勝餐飲)となってい
態だけであり、生産重視、流通軽視という風潮
る。大型スーパー、専門量販店、百貨店の3つ
の影響でこれらの既存小売業態は長い間停滞の
の小売業態が競争優位にあるという特性は、マ
状況に置かれていた7。閉鎖経済システム下に
クロ的にみた中国小売市場の競争特性と同様の
おける小売部門は、計画的配分を遂行するため
傾向を示している(図1参照)
。
の末端組織として位置づけられており、競争圧
第2に、外資系小売企業のプレゼンスの大き
さである。所有制別の内訳をみると、上位2
0社
力がなく、自己革新動機の余地が存在しなかっ
たのである。
5
の中に外資系小売企業が6社(華潤万家 、大
こうした停滞状況を揺り動かす契機となった
潤発、ウォルマート、百勝餐飲、カルフール、
のは、1
9
7
8年から実施された改革開放政策であ
ベストバイ)ランクインしている。後述するよ
る。その初期段階では、生産部門に偏重した政
うに、近年、中国市場では外資系小売企業は着
策が実行されたために、小売部門が直接的に影
実に影響力を増してきている。表1
1に示されて
響を受けたわけではなかった。しかし、改革開
いるように、2
0
1
2年における上位1
0
0社に占め
放政策が軌道に乗り始めた1
9
8
0年代半ば頃か
る外資系小売 企 業 の 販 売 額 で み た シ ェ ア は
ら、その間接的な波及効果が徐々に小売部門に
2
8.
2%となっており、さらに上位1
0社でみると
浸透しはじめる。すなわち、小売部門に対する
4
0.
8%まで拡大している。
直接的な市場開放は未だ実行されていないにも
かかわらず、中国国内における内的作用によっ
て、ミクロ現象としての小売企業の国際化およ
! 中国小売市場の国際化
びマクロ現象としての小売市場の国際化が限定
的ではあるが現出したのである8。
1.小売市場の開放
大型スーパーや専門量販店が競争優位性を獲
中国における小売国際化の扉をさらに大きく
得してきたこと、外資系小売企業がプレゼンス
開いたのは、政府による小売市場の開放政策(資
を拡大してきたこと、近年におけるこの2つの
本自由化政策)である。中国小売市場の開放プ
中国小売市場の大きな構造変化は、中国政府に
ロセスは、原則的閉鎖段階(1
9
9
2年7月以前)
、
よる市場開放政策に端を発した小売国際化の進
漸進的開放段階(1
9
9
2年7月∼1
9
9
7年5月)
、
展がもたらしたものである。そこで、
本節では、
整理整頓 段 階(1
9
9
7年5月∼1
9
9
9年6月)
、全
中国小売市場の国際化に焦点を絞って考察して
面的開放段階(1
9
9
9年6月以降)の4段階に整
−9
8−
中国小売市場の国際化と構造変化
理できる9。それぞれの特徴を簡潔に述べると、
ほか、2
0
1
2年に店舗数が1
0
0店舗を超えている
まず原則的閉鎖段階は、合弁メーカーの自社製
5
2
のは、ウォルマート(3
9
5店)、ベストバイ(2
品販売店と外国人宿泊施設の小売店だけに例外
店)
、大潤発(2
1
9店)
、カルフール(2
1
8店)
、
的に認められていた段階である。漸進的開放段
テスコ(1
1
1店)の5社(欧米系4社、台湾系
階では、沿海部6都市と5経済特区で小売外資
1社)である。これらの外資系小売企業が展開
が実験的に導入され(1
9
9
2年)
、北京と上海に
するのは、スーパーセンター、
ハイパーマーケッ
限って外資チェーン・ストアの設立が実験的に
ト、キャッシュ・アンド・キャリーなど、いず
認められた(1
9
9
5年)
。整理整頓段階では、地
れも多店舗展開による規模のメリットを武器に
方政府の越権行為としての小売外資プロジェク
した低価格戦略を追求する小売業態である。
トの許認可が再審査された(1
9
9
7年)
、同時に、
2
0
0
5年から2
0
1
2年における増加率をみると、
対外開放が沿岸部から中西部の省政府所在都市
最も高いのはウォルマートの7.
0
5倍である。こ
に拡大された(1
9
9
8年)
。全面的開放段階では、
れは2
0
0
9年に1
0
4店舗を有していた台湾系の好
原則的に全面開放の方向性が示され(1
9
9
9年)
、
又多が、その後にウォルマートの資本傘下に編
省都や経済特別区に限定されていた出店が原則
入されたことによるものである。この他の外資
的にどの地域でも認められ、全額出資の外資系
系小売企業もまた軒並み高い増加率を示してい
企業の設立が可能となった(2
0
0
4年)
。
る。3倍を超えているのは、オーシャン(4.
1
5
小売市場の開放は、従来の国内資本同士の競
倍)
、イオン(3.
2
7倍)
、大潤発(3.
6
5倍)の3
争関係に、外資系小売企業という外的要因を加
社であり、2倍を超えているのは、テスコ(2.
8
5
え、国内資本対国内資本、
国内資本対海外資本、
倍)、カルフール(2.
7
9倍)、イケア(2.
7
5倍)、
海外資本対海外資本という重層的な競争関係を
メトロ(2.
3
7倍)
、華潤 万 家(2.
0
7倍)の5社
生み出した。中国における小売国際化の特徴
である。増加率が2倍を超えている企業9社の
は、先進諸国のように漸次的に進展したのでは
出自をみると、6社が欧米系企業であり、
香港・
なく、1
9
7
8年を基点としてゼロの状態からス
台湾系企業が2社、日系企業が1社となってい
タートし、驚異的なスピードで進展したという
る。近年、欧米系企業が中国小売市場で着実に
点にある。
プレゼンスを高めている実態が示されている。
その一方で、東南アジア系企業と韓国系企業
2.外資系小売企業の参入
は、中国市場における存在感がやや薄らいでい
中国政府による全面的な市場開放は、外資系
る。東南アジア系企業の中国市場参入は比較的
小売企業の本格的な市場参入を促していった。
早い時期から開始されていたが、表3に示され
表3は、2
0
0
5年以降の主要な外資系小売企業の
ているように、パークソンはわずか1.
3倍の増
中国市場における店舗数の推移と、
2
0
0
5年を1
0
0
加率であり、ロータスにいたっては店舗数を減
とした増加率を示したものである。
少させている。韓国系企業のロッテと新世界の
外資系小売企業で店舗数が圧倒的に多いの
2社は、韓国国内で多様な小売業態を展開する
は、江蘇省の地域スーパーであった蘇果超市を
有力小売企業であるが、中国市場では苦戦が続
買収した香港系の華潤万家(2
0
1
2年現在4,
4
2
3
いている。ロッテマートは、中国市場参入にや
店、その内、蘇果超市2,
0
9
8店)である。この
や出遅れていたが、オランダ系のマクロと香港
−9
9−
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
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01
4.
3)
表3 外資系小売企業店舗数の推移
2
0
0
5年
カルフール
仏
オーシャン
仏
テスコ
英
メトロ
独
イケア
ス
ウォルマート
米
欧
米
ベストバイ
(五星電器)
イオン
日
本
(中国本土)
イトーヨーカ堂
華潤万家
米
日
日
港
香
港
・
台
百佳超市
(中国本土)
大潤発
港
台
湾
好又多
台
ロータス
タ
パークソン
マ
そ
の
他
(店、%)
2
0
0
9年
2
0
1
2年
店舗数
7
8
1
5
6
2
1
8
増加率
1
0
0.
0
2
0
0.
0
2
7
9.
5
店舗数
1
3
3
5
5
4
増加率
1
0
0.
0
2
6
9.
2
4
1
5.
4
店舗数
3
9
7
9
1
1
1
増加率
1
0
0.
0
2
0
2.
6
2
8
4.
6
店舗数
2
7
4
2
6
4
増加率
1
0
0.
0
1
5
5.
6
2
3
7.
0
店舗数
7
1
1
増加率
1
7
5.
0
0
2
7
5.
店舗数
5
6
1
7
5
3
9
5
増加率
1
0
0.
0
3
1
2.
5
7
0
5.
4
店舗数
1
9
3
2
6
2
2
5
2
増加率
1
0
0.
0
1
3
5.
8
1
3
0.
6
店舗数
1
1
2
1
3
6
増加率
1
0
0.
0
1
9
0.
9
3
2
7.
3
店舗数
7
1
2
1
3
増加率
1
0
0.
0
1
7
1.
4
1
8
5.
7
店舗数
2,
1
3
3
2,
9
2
6
4,
4
2
3
増加率
0.
0
1
0
1
3
7.
2
2
0
7.
4
店舗数
3
7
3
9
5
1
増加率
1
0
0.
0
1
0
5.
4
1
3
7.
8
店舗数
6
0
1
2
1
2
1
9
3
6
5.
0
増加率
1
0
0.
0
2
0
1.
7
店舗数
9
6
1
0
4
増加率
1
0
0.
0
1
0
8.
3
店舗数
6
1
7
7
5
7
増加率
1
0
0.
0
1
2
6.
2
9
3.
4
店舗数
3
6
4
4
4
8
増加率
1
0
0.
0
1
2
2.
2
3
1
3
3.
eマート
韓
店舗数
ロッテマート
韓
店舗数
2
0
1
6
9
9
(注)ス:スウェーデン、タ:タイ、マ:マレーシア。店舗数の空欄は不明。
なお、イケアの増加率は2
0
06年を1
00としたものである。
(出所)各社 HP および中国連鎖店協会公表データより筆者作成。
−1
0
0−
中国小売市場の国際化と構造変化
系の時代超市を買収して一気に店舗数を増やす
たことである。これにより、国内企業の経営近
ことに成功した。しかし、そのほとんどの店舗
代化および合理化を促すとともに、国内資本の
が赤字状態にあり、その後の出店ペースは鈍化
再編(合併・買収)の潮流を加速し、有力企業
傾向にある。また、新世界(e マート)は、企
のパワーをより強化する方向に作用した。ま
業買収により中国市場で最大2
7店舗まで展開し
た、ハイパーマーケットやコンビニエンス・ス
ていたが、業績が思うように伸びず、赤字店舗
トアなど、従来は中国国内に存在していなかっ
を大幅に整理した結果、2
0
1
2年ではピーク時の
た小売業態を一気に開花させるという効果をも
6割程度(1
6店舗)
まで店舗数が減少している。
たらした。しかし一方で、
都市部を中心として、
零細小売業者が淘汰され、伝統的小売市場が衰
3.外資系小売企業のインパクト
退していったという、負の影響もまた同時に存
外資系小売企業の中国市場への参入は、一定
在していたことを忘れてはならない。
の秩序を保っていた中国国内の水平的競争構造
および垂直的競争構造に大きな揺らぎを与え
る。外資系小売企業の市場参入はいわば撹乱要
! 中国小売市場の構造変化
因として作用し、小売業者のみならず、卸売業
1.小売総額の推移
者や、製造業者までも巻き込んだ重層的な競争
小売国際化の動きに影響されて、中国小売市
関係を生み出して、新たな秩序の形成を促す。
場はどのような構造変化をみせたのであろう
中国市場にグローバル小売競争を引き起こし、
か。本節の目的は、
小売企業トップ1
0社の変遷、
市場参入に直面した国内小売企業は、模倣、修
上位集中度の推移という視点から、時系列的な
正、拒絶などといった行動を顕在化させるだけ
構造変化を考察することにあるが、その前に小
でなく、卸売業者や製造業者さえも何らかの対
売市場そのもののパイの大きさがどのように推
1
0
応を迫られる 。
移していったのかについて確認しておこう。
外資系小売企業の市場参入は、次のような影
中国小売市場は相変わらず拡大を続けてい
響を与えたと考えられる。まず、
生産部門では、
る。中国政府による国民経済に関する統計公報
欧米流の近代的な取引契約が債権回収を確実化
によると、社会消費品小売総額は、2
0
0
3年度に
して、安定した大量生産体制が構築されていっ
5
2,
5
1
6.
3億元であったのが、4年後の2
0
0
7年度
た。また、先進的な情報技術を駆使したサプラ
には9
3,
5
7
1.
6億元(2
0
0
3年度 比1.
7
8倍)
、さ ら
イチェーンが導入され、効率的かつ計画的な生
にその5年後の2
0
1
2年度には2
1
0,
3
0
7.
0億元(同
産が可能になった。次に、消費部門では、外資
4.
0
1倍)となっている。僅か9年の間に約4倍
参入による小売店舗間の販売競争激化によっ
増という驚異的な伸びである(表4参照)
。こ
て、消費者は、低価格かつ高品質な商品の購買
うした急速な拡大傾向は、「世界の工場」に牽
機会が上昇し、近代的消費スタイルが定着して
引された好調な国内消費(「世界の市場」
)を反
いったのである。
映して、今後もしばらく持続していくことが予
最後に、流通部門に対するインパクトである
想される。
が、何よりも大きいのは、欧米流の近代的小売
経営技術が中国国内企業に移転・普及していっ
−1
0
1−
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
01
4.
3)
表4 中国社会消費品小売総額の推移
小売総額
(億元、%)
2
0
0
3年
2
0
0
4年
2
0
0
5年
2
0
0
6年
2
0
0
7年
5
2,
5
1
6.
3
5
9,
5
0
1.
0
6
8,
3
5
2.
6
7
9,
1
4
5.
2
9
3,
5
7
1.
6
前年比
9.
1
1
3.
3
1
4.
9
1
5.
8
1
8.
2
成長率
1
0
0.
0
1
1
3.
3
1
3
0.
2
1
5
0.
7
1
7
8.
2
2
0
0
9年
2
0
0
8年
小売総額
2
0
1
0年
2
0
1
1年
2
0
1
2年
1
1
4,
8
3
0.
1
1
3
2,
6
7
8.
4
1
5
6,
9
9
8.
4
1
8
3,
9
1
8.
6
2
1
0,
3
0
7.
0
前年比
2
2.
7
1
5.
5
1
8.
3
1
7.
1
1
4.
3
成長率
2
1
8.
7
2
5
2.
6
2
9
9.
0
3
5
0.
2
4
0
0.
5
(出所)日中経済協会『中国経済データハンドブック』各年版より筆者作成。
表5 中国小売業上位1
0社の変遷
順位
2
0
0
3年
2
0
0
8年
2
0
1
2年
1
聯華超市
国美電器
蘇寧電器
2
大連大商集団
蘇寧電器
百聯集団
3
華聯超市
百聯集団
国美電器
4
北京国美電器
華潤万家
華潤万家
5
北京華聯集団
大商集団
大潤発
6
カルフール
カルフール
ウォルマート
7
上海農工商超市
大潤発
重慶商社
8
蘇寧電器
物美控股集団
百勝餐飲集団
9
三聯商社
ウォルマート
山東省商業集団
1
0
華潤万家
農工商超市
カルフール
(注)網掛けは外資系小売企業を示す。
(出所)中国連鎖店協会公表データより筆者作成。
2.小売企業トップ1
0社の変遷
力企業がより巨大化したことである。国内資本
表5は、2
0
0
3年、2
0
0
8年、2
0
1
2年における小
をみると、2
0
1
2年2位の百聯集団は2
0
0
3年1位
売企業トップ1
0社の変遷を示したものである。
の聯華超市と3位の華聯超市など4社が合併し
この1
0年間における変化の特徴は次の2点であ
て誕生した企業集団であり、同年3位の国美電
る。第1は、外資系小売企業の躍進である。
2
0
0
3
器は2
0
0
3年9位の三聯商社と1
2位の上海永楽を
年には、カルフール(フランス)と華潤万家(香
吸収合併している。また、外資系企業では、香
港)の2社だったのが、2
0
0
8年はこの2社に加
港系企業である2
0
1
2年4位の華潤万家は2
0
0
3年
えて、大潤発(台湾)とウォルマート(アメリ
1
1位にあった蘇果超市を買収しており、同年6
カ)
の計4社がランクインしている。さらに2
0
1
2
位のウォルマートは2
0
0
6年に台湾系企業の好又
年には、ファストフードの百勝餐飲集団が加
多(Trust Mart)を傘下に収めている。
わってトップ1
0社のうち半数を外資系小売企業
3.上位集中度の推移
が占めるまでになっている。
第2は、上位の企業同士の合併が進展し、有
−1
0
2−
表6は中国小売企業の上位1
0
0社、5
0社、2
0
中国小売市場の国際化と構造変化
表6 中国上位小売企業の売上総額と占有率の推移
2
0
0
3年
社会消費品小売総額(A)
小売企業上位1
0
0社
小売企業上位5
0社
小売企業上位2
0社
小売企業上位1
0社
売上総額(B)
2
0
0
8年
2
0
1
2年
5
2,
5
1
6.
3
1
1
4,
8
3
0.
1
2
1
0,
3
0
7.
0
3,
5
1
5.
6
1
1,
9
9
8.
7
1
8,
6
6
4.
7
6.
7
1
0.
4
8.
9
3,
1
1
3.
6
1
0,
6
1
6.
0
1
5,
5
6
8.
9
シェア(B/A)
売上総額(C)
5.
9
9.
2
4
7.
2,
2
1
2.
2
7,
7
6
9.
2
1
0,
6
2
1.
8
シェア(C/A)
売上総額(D)
シェア(D/A)
売上総額(E)
(億元、%)
4.
2
6.
8
5.
1
1,
5
0
7.
6
5,
7
9
7.
0
7,
8
9
4.
5
2.
9
5.
0
3.
8
シェア(E/A)
(出所)日中経済協会『中国経済データハンドブック』各年版、中国連鎖店協会公表データより筆者作成。
社、1
0社の売上総額と社会消費品小売総額に対
する占有率の推移を示したものである。
! 外資系小売企業のウエイト
1.所有制別店舗数の推移
上位1
0
0社の占有率をみると、2
0
0
3年は6.
7%
であったが、2
0
0
8年度には1
0.
4%と中国小売額
中国政府による小売市場の開放政策を契機と
全体の1割を超えるまでに上昇している。同様
して、外資系小売企業の市場参入が本格化し、
の傾向は上位5
0社、
2
0社、
1
0社でも現れている。
そのプレゼンスが着実に高まっていることを述
2
0
0
3年から2
0
0
8年の占有率の推移は、
上位5
0社で
べてきた。そこで、以下では、店舗数、売場面
5.
9%から9.
2%へ、上位2
0社で4.
2%から6.
8%
積、従業員数、販売額という4つの視点から、
へ、上 位1
0社 で2.
9%か ら5.
0%に 高 ま っ て い
その実態を確認することにしよう。
る。このように、
上位企業を絞り込むにつれて、
表7は、一定規模以上の企業を対象とした
占有率が相対的に高くなる傾向にあることがわ
2
0
0
5年から2
0
1
1年における中国小売企業の所有
かる。例えば、
2
0
0
8年では中国小売総額の約1
0%
制別店舗数の推移を示したものである12。これ
を上位1
0
0社が占めていたが、さらにその半分
によると、内資企業の店舗数は、
2
0
0
5年の8
5,
2
2
3
(5%)を上位1
0社が占めているのである。
店から2
0
1
1年には1
6
9,
6
9
9店に増加し、この6
外資系小売企業の本格的な市場参入を契機と
年間で約2倍になっている。一方、外資系企業
した小売国際化が、内資、外資を問わず小売企
は、2
0
0
5年に5,
2
5
3店であったのが2
0
1
1年では
業の合併・再編を促して、小売市場における上
2
6,
0
8
0店に増加し、その増加率は4.
9
6倍で内資
位集中度をよりいっそう高める効果をもたらし
企業のそれを大きく上回っている。外資系企業
たといってよいだろう。ただし、急激なペース
の内訳をみると、香港・マカオ・台湾企業(以
で進展した上位集中度の上昇傾向は、2
0
1
0年を
下、香港等企業という)の増加率3.
7
7倍に対し
ピークとしてほぼ横ばいの傾向を示すようにな
て、その他の外資系企業は5.
4
4倍となってい
1
1
る 。
る。ウォルマートやカルフールを代表とする欧
米系小売企業が、中国小売市場において急速に
店舗網拡大を進めていることを示唆している。
−1
0
3−
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
01
4.
3)
表7 中国小売企業所有制別店舗数の推移
2
0
0
5年
店舗数
内資企業
外
資
系
企
香 港・
マカオ・
台 湾
その他
外資系
業
外資系
合計
合 計
8
5,
2
2
3
(店、%)
2
0
0
6年
2
0
0
7年
2
0
0
8年
2
0
0
9年
2
0
1
0年
2
0
1
1年
1
1
5,
9
9
6
1
3
0,
6
0
8
1
5
3,
7
8
9
1
5
8,
9
2
0
1
5
8,
1
9
6
1
6
9,
6
9
9
増加率
1
0
0
1
3
6
1
5
3
1
8
0
1
8
6
1
8
6
1
9
9
占有率
9
4.
2
9
3.
8
8
9.
8
9
1.
3
5
9
0.
8
9.
5
8
6.
7
店舗数
1,
4
9
2
3,
7
5
0
3,
5
2
8
2,
4
4
6
3,
1
3
2
4,
3
7
9
5,
6
2
4
増加率
1
0
0
2
5
1
2
3
6
1
6
4
2
1
0
2
9
3
3
7
7
占有率
1.
6
3.
0
2.
4
1.
5
1.
8
2.
5
2.
9
店舗数
3,
7
6
1
3,
9
4
4
1
1,
2
3
0
1
2,
2
6
7
1
3,
6
2
5
2
1
7
1
4,
2
0,
4
5
6
増加率
1
0
0
1
0
5
2
9
9
3
2
6
3
6
2
3
7
8
5
4
4
占有率
4.
2
3.
2
7.
7
7.
3
7.
8
8.
0
1
0.
4
店舗数
5,
2
5
3
7,
6
9
4
1
4,
7
5
8
1
4,
7
1
3
1
6,
7
5
7
1
8,
5
9
6
2
6,
0
8
0
増加率
1
0
0
1
4
6
2
8
1
2
8
0
3
1
9
3
5
4
4
9
6
占有率
5.
8
6.
2
1
0.
2
8.
7
5
9.
1
0.
5
1
3.
3
店舗数
9
0,
4
7
6
1
2
3,
6
9
0
1
4
5,
3
6
6
1
6
8,
5
0
2
1
7
5,
6
7
7
1
7
6,
7
9
2
1
9
5,
7
7
9
増加率
1
0
0
1
3
7
1
6
1
1
8
6
1
9
4
1
9
5
2
1
6
(出所)日中経済協会『中国経済データハンドブック』2
0
13年版より筆者作成。
表8 中国小売企業所有制別売場面積の推移
売場面積
内資企業
外
資
系
企
香 港・
マカオ・
台 湾
業
2
0
0
8年
2
0
0
9年
2
0
1
0年
2
0
1
1年
7,
4
8
8.
9
8,
4
6
2.
7
8,
8
0
0.
9
8,
8
0
0.
6 1
0,
0
7
5.
5 1
0,
7
2
6.
4 1
1,
4
7
5.
8
1
0
0
1
1
3
1
1
8
1
1
8
1
3
5
1
4
3
1
5
3
9
1.
3
8
8.
6
8
7.
6
6.
3
8
8
5.
3
8
4.
1
8
3.
9
2
3
3.
1
4
4
5.
7
2
3
3.
5
3
4
3.
8
6
1
6.
7
6
8
9.
7
8
5
7.
7
1
0
0
1
9
1
1
0
0
1
4
7
2
6
5
2
9
6
3
6
8
売場面積
増加率
占有率
2.
8
4.
7
2.
3
3.
4
5.
2
5.
4
6.
3
4
8
0.
7
6
4
1.
2
1,
0
0
9.
6
1,
0
5
3.
4
1
1
7.
0
1,
1,
3
4
0.
7
1,
3
3
7.
3
増加率
1
0
0
1
3
3
2
1
0
2
1
9
2
3
2
2
7
9
2
7
8
占有率
5.
9
6.
7
1
0.
1
1
0.
3
9.
5
1
0.
5
9.
8
7
1
3.
8
1,
0
8
6.
9
1,
2
4
3.
1
1,
3
9
7.
2
1,
7
3
3.
7
2,
0
3
0.
4
2,
1
9
5.
0
1
0
0
1
5
2
1
7
4
6
1
9
2
4
3
2
8
4
3
0
8
1
1.
4
1
2.
4
1
3.
7
1
4.
7
1
5.
9
1
6.
1
増加率
占有率
合 計
2
0
0
7年
増加率
売場面積
外資系
合計
2
0
0
6年
占有率
売場面積
その他
外資系
(万㎡、%)
2
0
0
5年
売場面積
増加率
8.
7
8,
2
0
2.
7
1
0
0
9,
5
4
9.
6 1
0,
0
4
4.
0 1
0,
1
9
7.
8 1
1,
8
0
9.
2 1
2,
7
5
6.
8 1
3,
6
7
0.
8
1
1
6
1
2
2
1
2
4
1
4
4
1
5
6
1
6
7
(出所)表7に同じ。
内資企業と外資系企業のシェアの推移をみる
のが、2
0
0
8年には8.
7%、2
0
1
1年 に は1
3.
3%に
と、外資系企業の店舗数の高い増加率を反映し
まで拡大し、この6年間におけるシェア拡大は
て、そのシェア拡大傾向が続いている。2
0
0
5年
2倍を超えている。特に、香港等企業よりも欧
における外資のシェアはわずか5.
8%であった
米系企業のシェアが高く、2
0
1
1年では1
0.
4%と
−1
0
4−
中国小売市場の国際化と構造変化
なっている。
1
3.
7%、2
0
1
1年には1
6.
1%と着実に拡大してい
る。また、2
0
1
1年における店舗数でみたシェア
2.所有制別売場面積の推移
(1
3.
3%)を上回っていることから、外資系企
表8は、一定規模以上の企業を対象とした
業の店舗が相対的に大規模であることがわか
2
0
0
5年から2
0
1
1年における中国小売企業の所有
る。
制別売場面積の推移を示したものである。これ
によると、内資企業の売場面積は、2
0
0
5年から
3.所有制別従業員数の推移
2
0
1
1年の6年間で約1.
5倍に拡大している。一
表9は、一定規模以上の企業を対象とした
方、外資系企業の拡大率は約3倍であり、内資
2
0
0
5年から2
0
1
1年における中国小売企業の所有
企業を大きく上回っている。外資系企業の内訳
制別従業員数の推移を示したものである。これ
をみると、香港等企業の拡大率3.
6
8倍に対し
0
5年の1
2
8
によると、内資企業の従業員数は、2
0
て、その他の外資系企業は2.
7
8倍となってい
万人から2
0
1
1年には1
9
8万人に増加し、この6
る。店舗数の増加率では欧米系企業(日系企業
年間の増加率は1.
5
5倍である。一方、外資系企
を含む)が高い数値を示していたが、売場面積
業の従業員数は、2
0
0
5年で2
1万人であったが
では逆に香港等企業の拡大率が大きくなってい
2
0
1
1年は5
1万人に増加している。その増加率は
る。
2.
4
1倍であり、内資企業のそれを大きく上回っ
内資企業と外資系企業のシェアの推移をみる
ている。外資系企業の内訳をみると、香港等企
と、外資系企業のシェア拡大が続いている。
業の増加率4.
0
0倍に対して、その他の外資系企
2
0
0
5年における外資のシェアは8.
7%であった
業は1.
9
1倍である。
外資系企業のシェアの推移をみると、2
0
0
5年
が、翌年の2
0
0
6年には1
0%を超え、2
0
0
8年には
表9 中国小売企業所有制別従業員数の推移
2
0
0
5年
従業員数
内資企業
香 港・
マカオ・
台 湾
外
資
系 その他外資系
企
業
外資系合計
1
4
3.
5
2
0
0
7年
1
5
3.
6
2
0
0
8年
1
6
1.
5
(万人、%)
2
0
0
9年
1
6
6.
3
2
0
1
0年
1
7
9.
7
2
0
1
1年
1
9
8.
2
増加率
1
0
0
1
1
2
1
2
0
1
2
6
1
3
0
1
4
1
1
5
5
占有率
8
5.
8
8
1.
3
8
2.
5
8
1.
9
7
8.
8
7
9.
8
7
9.
6
従業員数
5.
0
1
4.
2
6.
9
9.
0
1
4.
9
1
8.
0
2
0.
0
増加率
1
0
0
2
8
4
1
3
8
1
8
0
2
9
8
3
6
0
4
0
0
占有率
従業員数
3.
4
8.
0
3.
7
4.
6
7.
1
8.
0
8.
0
1
6.
1
1
8.
8
2
5.
7
2
6.
6
2
9.
8
2
7.
4
3
0.
8
増加率
1
0
0
1
1
7
1
6
0
1
6
5
1
8
5
1
7
0
1
9
1
占有率
1
0.
8
1
0.
7
1
3.
8
1
3.
5
4.
1
1
1
2.
2
1
2.
4
従業員数
2
1.
1
3
3.
0
3
2.
6
3
5.
6
4
4.
7
4
5.
4
5
0.
8
1
0
0
1
5
6
1
5
5
1
6
9
2
1
2
2
1
5
2
4
1
増加率
占有率
合 計
1
2
7.
7
2
0
0
6年
従業員数
増加率
1
4.
2
1
8.
7
1
7.
5
1
8.
1
2
1.
2
2
0.
2
2
0.
4
1
4
8.
8
1
7
6.
5
1
8
6.
2
1
9
7.
1
2
1
1.
0
2
2
5.
1
2
4
9.
0
0
1
0
1
1
9
1
2
5
1
3
2
1
4
2
1
5
1
1
6
7
(出所)表7に同じ。
−1
0
5−
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
01
4.
3)
におけるシェアは1
4.
2%であったが、2
0
0
9年に
6年間で3.
1
8倍になっている。一方、外資系企
は2
0%を超えるまで拡大し、その後、ほぼ横ば
業は、2
0
0
5年に1,
3
6
9億元であったのが2
0
1
1年
いで推移している。
では4,
9
8
1億元に増加し、その増加率は3.
6
4倍
である。これまでみてきた店舗数、売場面積、
4.所有制別販売額の推移
従業員数に比べて、販売額における内資と外資
表1
0は、一定規模以上の企業を対象とした
の増加率の差は小さくなっている。外資系企業
2
0
0
5年から2
0
1
1年における中国小売企業の所有
の内訳をみると、香港等企業の増加率6.
7
0倍に
制別販売額の推移を示したものである。これに
対して、その他の外資系企業は2.
7
4倍であり、
よると、内資企業の販売額は、2
0
0
5年の9,
2
9
9
販売額でみると香港等企業のウエイトの拡大が
億元から2
0
1
1年には2
9,
5
3
0億元に増加し、この
著しいことがわかる。
表1
0 中国小売企業所有制別販売額の推移
2
0
0
5年
販売額
内資企業
外
資
系
企
香 港・
マカオ・
台 湾
その他
外資系
業
外資系
合計
増加率
2
0
0
7年
2
0
0
8年
(億元、%)
2
0
0
9年
2
0
1
0年
2
0
1
1年
9,
2
9
9.
4 1
3,
4
7
9.
0 1
5,
1
5
9.
9 1
7,
2
4
2.
6 1
8,
6
0
2.
7 2
3,
3
2
4.
6 2
9,
5
3
0.
1
1
0
0
1
4
5
1
6
3
1
8
5
2
0
0
2
5
1
3
1
8
占有率
8
7.
2
8
6.
7
5.
4
8
8
4.
2
8
3.
6
8
5.
2
8
5.
6
販売額
3
1
0.
3
7
3
8.
4
5
3
2.
0
7
2
7.
2
1,
3
1
7.
3
1,
5
8
0.
2
2,
0
7
8.
0
増加率
1
0
0
2
3
8
1
7
1
2
3
4
4
2
5
5
0
9
6
7
0
占有率
2.
9
4.
7
3.
0
3.
6
5.
9
5.
8
6.
0
販売額
1,
0
5
8.
6
1,
3
3
1.
5
0
6
2.
5
2,
2,
4
9
6.
7
2,
3
2
0.
0
2,
4
8
0.
6
2,
9
0
2.
6
増加率
1
0
0
1
2
6
1
9
5
2
3
6
2
1
9
2
3
4
2
7
4
占有率
9.
9
8.
6
1
1.
6
1
2.
2
1
0.
4
9.
1
8.
4
販売額
1,
3
6
8.
9
2,
0
6
9.
9
2,
5
9
4.
5
3,
2
2
3.
9
3,
6
3
7.
3
8
4,
0
6
0.
4,
9
8
0.
6
増加率
1
0
0
1
5
1
1
9
0
2
3
6
2
6
6
2
9
7
3
6
4
1
2.
8
1
3.
3
1
4.
6
1
5.
8
1
6.
4
1
4.
8
1
4.
4
占有率
合 計
2
0
0
6年
販売額
増加率
1
0,
6
6
8.
3 1
5,
5
4
8.
9 1
7,
7
5
4.
4 2
0,
4
6
6.
5 2
2,
2
4
0.
0 2
7,
3
8
5.
4 3
4,
5
1
0.
7
1
0
0
1
4
6
6
1
6
1
9
2
2
0
8
2
5
7
3
2
3
(出所)表7に同じ。
図2 中国小売企業所有制別店舗数シェアの推移
図3 中国小売企業所有制別販売額シェアの推移
(出所)表7に同じ。
(出所)表7に同じ。
−1
0
6−
中国小売市場の国際化と構造変化
外資系企業のシェアは、2
0
0
5年から1
0%を超
年は1
5.
4%に拡大している。販売額でみた外資
えるシェアを有していたが、店舗数や売場面積
系の占有率は、2
0
1
2年は2
8.
2%となっており、
のような急激なシェアの上昇はみられず、ここ
トップ1
0
0社にランクインした2
0社の外資系小
6年間はほぼ横ばいで推移している。
売企業が有する1
5%の外資系店舗が、上位1
0
0
社全体の3割ほどの販売額を計上していること
5.上位企業における外資系のウエイト
になる。
今度は、中国小売ランキングの上位企業にお
次に、小売企業上位1
0社でみると、外資系小
ける外資系のウエイトの推移をみてみよう。表
売企業のウエイトはさらに大きくなっている。
1
1は、企業数、店舗数、販売額の3つの視点か
トップ1
0社にランクインした外資系企業は、
らみた、中国トップ1
0
0社とトップ1
0社におけ
0
0
8年に4
2
0
0
3年ではわずか2社であったが、2
る外資系小売企業のウエイトの推移を示したも
社と倍増し、2
0
1
2年にはトップ1
0社の半数であ
のである。
る5社を占めるまでになっている(5社の具体
まず、小売企業上位1
0
0社における外資系小
的企業名は表2を参照)
。上位1
0社における外
売企業のウエイトをみてみよう。トップ1
0
0社
資系小売企業の店舗数でみた占有率は、2
0
0
3年
にランクインした企業数は、2
0
0
3年では1
2社で
では8.
1%だった が、2
0
0
8年 に1
7.
8%、2
0
1
2年
あったが、2
0
0
8年に2
2社とほぼ倍増し、2
0
1
2年
には5
2.
7%まで拡大している。2
0
1
2年における
では2
0社となっている。店舗数でみた外資系小
外資系小売企業の販売額でみた占有率は4
0.
8%
売企業の占有率は、2
0
0
3年の1
1.
8%から、2
0
1
2
となっており、トップ1
0
0社 の 占 有 率 で あ る
表1
1 外資系小売企業のウエイトの推移
2
0
0
3年
総計
総店舗数(A)
2
0,
0
8
2
1
2
0,
7
7
2
9
3,
9
8
3
3
5,
1
5
6,
2
6
5
1
1
9,
9
8
6,
9
1
7
1
8
6,
6
4
7,
4
2
7
シェア(C/1
0
0)
外資系
小売企業
総店舗数(D)
シェア(D/A)
総販売高(E)
シェア(E/B)
総計
2
2
2
0
2
2.
0
2
0.
0
2,
3
6
0
7,
6
6
8
1
4,
4
3
4
1
1.
8
6.
3
1
5.
4
5,
9
1
3,
2
4
7
3
4,
3
0
0,
3
6
5
5
2,
5
4
4,
8
5
3
1
6.
8
2
8.
6
2
8.
2
6,
2
9
7
1
7,
1
3
8
1
9,
8
4
5
総販売高(B)
1
5,
0
7
6,
3
2
2
5
7,
9
7
0,
4
1
4
7
8,
9
4
5,
1
1
9
2
4
5
シェア(C/1
0)
外資系
小売企業
1
2
1
2.
0
総店舗数(A)
企業数(C)
小売企業
上位1
0社
2
0
1
2年
総販売高(B)
企業数(C)
小売企業
上位1
0
0社
(万元、%)
2
0
0
8年
総店舗数(D)
シェア(D/A)
総販売高(E)
シェア(E/B)
(出所)中国連鎖店協会公表データより筆者作成。
−1
0
7−
2
0.
0
4
0.
0
5
0.
0
5
0
8
3,
0
5
6
1
0,
4
5
5
8.
1
1
7.
8
5
2.
7
2,
3
7
6,
0
4
1
1
5,
9
0
0,
8
0
9
3
2,
2
0
4,
3
8
6
1
5.
8
2
7.
4
4
0.
8
長崎県立大学東アジア研究所
『東アジア評論』
第6号
(2
01
4.
3)
2
8.
2%を大きく上回っている。
注
1
川端基夫「小売市場の急拡大に沸く中国の流通市
場(上)―北京・天津地域―」
『流通とシステム』
第12
3号、20
05年、19
4ページ。
2 対象企業は、年末時点の従業員数2
0人以上、年間
売上額2
0
00万元以上の卸売企業、同6
0人以上、5
0
0
万元以上の小売企業である。店舗数合計には香港・
マカオ・台湾と海外の店舗を含む。
3 中国連鎖店協会は、毎年、中国小売企業の1
0
0社
ランキング(中国連鎖百強)を公表している。しか
し、これは、連鎖店協会による会員企業への調査を
中心とした統計であることから、年によってはラン
キングから抜け落ちた企業が存在したり、販売額や
店舗数が推計値として掲載されていたりする。した
がって、厳密な意味での統計としてではなく、中国
小売構造の変化の傾向を知るための資料として利用
したほうがよい。
(神谷渉「チェーンストアランキ
ングに見る中国における小売業の特徴と課題」流通
経済研究所『流通情 報』No.
4
8
4、20
1
0年、6ペ ー
ジ。
)
4 よく知られているように、ランキング2位の百聯
集団は、聯華超市を運営していた上海友誼集団、華
聯超市および華聯商厦を運営していた華聯集団、第
一百貨を運営していた上海一百集団、そして上海物
資集団の4社が統合して設立された国内巨大小売グ
ループである。したがって、厳密に言えば、百聯集
団は、百貨店、ハイパーマーケット、スーパーマー
ケット、コンビニエンス・ストアを複合的に展開す
る企業集団であるが、ここでは便宜的に第1のグ
ループに区分けした。
5 本稿では、香港資本である華潤万家を外資系小売
企業としてカウントした。
6 黄!「中国の小売業」佐々木信彰『現代中国ビジ
ネス論』世界思想社、2
0
0
3年、20
7ページ。
7 謝憲文「中国におけるスーパーマーケットの導入
と展開」名城大学商学会『名城商学』第4
6巻第4号、
19
97年、49ページ。なお、謝によれば、総合型小売
店とは日用雑貨店、副食品・雑貨店など主として最
寄品を取り扱う小売店である。当時、この種の小売
店は数多く存在し、中小規模の店舗が主流であった
という。
8 拙稿ではこれを内的国際化段階と呼んだ。この段
階の特徴は、国内企業による新業態の形式追求と表
面模倣である。また、市場開放を契機とした外資系
小売企業の参入による小売国際化を外的国際化段階
と呼んだ。この段階は外的作用の影響を強く受けた
本格的な小売国際化である。詳細は次の論文を参照
のこと。西島博樹「中国における小売国際化プロセ
ス」田中冨志雄・安部文彦・岩永忠康・宇野史郎編
著『現代の流通と経済』創成社、2
0
0
7年。
9 胡欣欣「日米欧がしのぎを削る中国」ロス・デー
ビス/矢作敏行編『アジア発グローバル小売競争』
日本経済新聞社、2
0
01年、1
6
7∼1
7
2ページ。なお、
于も同様の区分により整理している(于淑華「日米
欧小売企業の中国進出」黄!編著『WTO 加盟後の
中国市場』蒼蒼社、200
2年、1
6
5∼1
6
7ページ)
。な
お、中国小売市場の対外開放プロセスについては、
次の文献に詳しい。黄!「中国 WTO 加盟の経緯と
合意内容」黄!編著『WTO 加盟後の中国市場』蒼
蒼社、20
0
2年、6
0∼6
4ページ。黄!、前掲論文、20
03
年、1
9
4∼1
9
6ページ。陳立平「中国小売企業の国際
化と競争」松江宏編『現代中国の流通』同文舘、2
0
05
年、1
3
8∼1
4
0ページ。
1
0 向山雅夫「アジア流通革命の展望」ロス・デービ
ス/矢作敏行編『アジア発グローバル小売競争』日
本経済新聞社、2
0
01年、3
36ページ。
1
1 表6には掲載していないが、2
0
10年度における上
位1
0
0社、同5
0社、同1
0社 の シ ェ ア は、そ れ ぞ れ
1
0.
6%、9.
3%、5.
0%であったが、2
01
1年度では、
それぞれ9.
0%、7.
6%、3.
8%と、大きく減少して
いる。このシェア減少の大きな要因は、トップ2
0に
ランクされる有力小売企業数社が2
0
1
0年公表データ
と比較して、販売額を3
0%∼6
0%も減らしているこ
とによるものである。注3で述べたように、これら
はいずれも推計値として掲載されているために、大
枠の傾向としてはほぼ横ばいと考えてよい。
1
2 対象企業は、注2に同じ。
〔付記〕本稿は、平成2
3年∼2
5年度における科
−1
0
8−
学研究費補助金(基盤研究(C)「東ア
ジア地域の小売行動と小売構造の動態
分析(国際化と地域化との相克を課題
として)
」研究課題番号:2
3
5
3
0
5
3
8)に
もとづく研究成果の一部である。