チェーンストアランキングに見る中国に おける小売業の

特集 中国流通の新局面
チェーンストアランキングに見る中国に
おける小売業の特徴と課題
神 谷 渉
財団法人流通経済研究所主任研究員
1.はじめに
公布である。2004年に実施された投資規制
の緩和は、外資系小売業の中国展開を加速さ
中国は、北京五輪や上海万博などの国家プ
せるとともに、中国内資系企業を中心とした
チェーンストアランキングに見る中国における小売業の特徴と課題
ロジェクトを契機として一層の経済発展を遂
合併・買収による急速な規模拡大をもたらし
げている。これまではどちらかというと中国
た。
流通経済研究所 主任研究員
の輸出型産業に注目が集まることが大きかっ
本稿では、中国連鎖経営協会が発表する「中
たが、近年では一人当たりの GDP や消費支
国トップチェーンストア100(中国連鎖百
出の成長により、内需に対する注目が高まっ
1.はじめに
強)」をベースとしながら、中国における上
ている。すなわち、資材・商材の調達先とし
位小売業の変化をもとに中国における小売業
神谷 渉
ての中国から、売り込み先・顧客先としての
の特徴と課題を整理する。
「中国トップチェー
中国は、北京五輪や上海万博などの国家プロジェクトを契機として一層の経済発展を遂
げている。これまではどちらかというと中国の輸出型産業に注目が集まることが大きかっ
中国に注目がシフトしてきている。
ンストア100」は、毎年中国連鎖経営協会が
たが、近年では一人当たりの GDP や消費支出の成長により、内需に対する注目が高まって
消費支出の拡大は、中国の小売業の発展に
発表するチェーンストアのランキングであり、
いる。すなわち、資材・商材の調達先としての中国から、売り込み先・顧客先としての中
も大きく寄与することになる。事実、中国
一般的に用いられることの多いデータである。
国に注目がシフトしてきている。
国家統計局によると小売総額は2003年から
ただし、協会の会員小売企業への調査を中心
2008年の6年間で約2倍となっている。中
とした統計であることなどから、年度により
消費支出の拡大は、中国の小売業の発展にも大きく寄与することになる。事実、中国国
家統計局によると小売総額は 2003 年から 2008 年の 6 年間で約 2 倍となっている。中国小
国小売業の発展は、消費支出の拡大だけでは
ランキングには掲載されない企業が存在した
売業の発展は、消費支出の拡大だけではなく、小売業に対する投資環境の整備によっても
なく、小売業に対する投資環境の整備によっ
り、企業によっては推計値であったりするこ
後押しされた。具体的には、外資系企業による小売分野への投資規制緩和を明記した
2004
ても後押しされた。具体的には、外資系企業
とに注意しておきたい。
年の「外商投資商業領域管理弁法」の公布である。
2004 年に実施された投資規制の緩和は、
外資系小売業の中国展開を加速させるとともに、中国内資系企業を中心とした合併・買収
による小売分野への投資規制緩和を明記した
による急速な規模拡大をもたらした。
2004年の「外商投資商業領域管理弁法」の
図表:小売総額の推移
図表1 小売総額の推移
(単位:億元)
年度
小売総額
2003
52,516.3
2004
59,501.0
2005
67,176.6
2006
76,410.0
2007
89,210.0
2008 108,487.7
出所)中国統計摘要2009
出所)中国統計摘要
2009
2.チェーンストアランキング
からみた中国小売業の特徴
(1) 最新ランキングから
2009年の中国上位小売業の特徴的な点と
しては、上位企業でも依然として2桁成長を
遂げる企業が多く存在することである。また
ランキング面の特徴として挙げられるのが1
位2位を占める蘇寧・国美が家電量販チェー
本稿では、中国連鎖経営協会が発表する「中国トップチェーンストア 100(中国連鎖百強)」
をベースとしながら、中国における上位小売業の変化をもとに中国における小売業の特徴
6
情報 流通 2010(484)
と課題を整理する。「中国トップチェーンストア 100」は、毎年中国連鎖経営協会が発表す
るチェーンストアのランキングであり、一般的に用いられるの多いデータである。ただし、
協会の会員小売企業への調査を中心とした統計であることなどから、年度によりランキン
グには掲載されない企業が存在したり、企業によっては推計値であったりすることに注意
ンであるという点である。2009年のランキ
外資系小売業では、フランスのオーシャン
ングでは、これまで国美が守ってきたトップ
系列の康成投資(大潤発)がトップ(同6位)
チェーンストア企業の座を蘇寧が奪うなど2
であり、次にフランスのカルフール(同7位)、
社間の競争もこれまで以上に熾烈なものと
アメリカのウォルマート(同9位)と続く。
なっている。なお、蘇寧は日本のラオックス
日本系では、イオンが44位につけていると
を買収したことでも知られている。
いう状況である。香港系を除く外資系小売業
一方、3位以下の企業は、百貨店、ハイパー
ではこれまで、中国市場でのトップを守って
マーケット、スーパーマーケットを複合的に
きていたカルフールが大潤発に抜かれたとい
展開する企業が中心となっている。最も大き
う点が2009年における変化として挙げられ
いのは上海を拠点とする国営企業集団、百聯
る。
集団(ランキング3位)であり、傘下に中国
このランキングから見て取れる特徴は次の
最大手スーパーマーケットチェーンである聯
ように整理できる。第一に全国的な展開を
華超市を抱える。聯華超市は、 2009年に同
行っている企業は上位企業においても少なく、
じく百聯集団の傘下にあった上海を拠点とす
家電量販店や外資系小売業、大手総合小売業
る華聯超市と合併している。このほか、上位
など一部にとどまる。第二に昨年と比べて成
チェーンには大商集団(大連)、徽商集団(安
長率の高い企業の特徴としては、外資系企業
徽省)、物美(北京)、重慶商社(重慶)など
であること(大潤発、ウォルマート)や沿岸
地域を拠点とする小売業が多いことが特徴と
部の主要都市(1級都市)以外の2・3級都
して挙げられる。
市に積極的に進出している(大潤発、ウォル
図表:中国チェーンストアランキング 2009
図表2 中国チェーンストアランキング2009
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
企業名
外資(国名)
蘇寧電器集団
国美電器集団
昨年
順位
2
1
其中:三联商社股份有限公司
百聯集団有限公司
其中:聯華超市股份有限公司(含華聯)
華聯集团吉买盛购物中心有限公司
好美家装潢建材有限公司
大商集団有限公司
華潤万家有限公司
其中:蘇果超市有限公司
康成投資(中国)有限公司(大潤発)
家楽福(中国)管理咨詢服務有限公司
台湾、オーシャン(フランス)
カルフール(フランス)
安徽省徽商集团有限公司
其中:安徽商之都股份有限公司
安徽徽商农家福有限公司
沃爾瑪(中国)投資有限公司
7
6
33
ウォルマート(アメリカ)
9
8
11
18
12
10
13
3
5
4
物美控股集团有限公司
重慶商社(集団)有限公司
新合作商贸连锁集团有限公司
百勝餐飲集団中国事業部
农工商超市(集团)有限公司
百思买(中国内地)
其中:江蘇五星電気有限公司
KFC(アメリカ)
ベストバイ(アメリカ)
売上規模
前年比%
(万元)
11700267
14.3
10680165
2.1
137996
-27.0
9791537
3.8
6716978
3.2
392618
-2.9
210000
-17.0
7053590
12.8
6800000
6.6
3323600
9.5
4043169
20.5
3660000
8.2
3437883
13.5
726413
14.6
184490
4.9
3400000
22.2
*
3270000
6.7
3004698
14.4
3000000
76.5
2880000
9.9
2673800
0.2
*
2570000
2470000
7.4
店舗数
941
1170
5
6153
5599
22
14
160
2926
1852
121
156
2884
928
1918
175
2333
313
88653
3200
3331
262
256
前年比%
15.9
-14.1
-37.5
-4.1
-4.7
4.8
-44.0
6.7
8.5
2.8
19.8
16.4
15.5
41.9
6.2
45.8
16.1
6.5
24.8
18.5
0.0
0.0
※ 印は推計値
出所)中国連鎖経営協会「2009 中国トップチェーンストア 100」
出所)中国連鎖経営協会「2009中国トップチェーンストア100」
※ 印は推計値
チェーンストアランキングに見る中国における小売業の特徴と課題
(2)ランキングの推移からみた成長小売業
中国小売企業の変化を見るため、2004 年のランキングとの比較を行う。2004 年は、前述
のとおり外資系企業による小売分野への投資規制緩和が実現した年でもある。
7
マート、新合作)、といったことが挙げられ
販店である。売上・店舗数ともに5年で5倍
る。新合作は、地方都市や農村部での食品スー
程度となっており、大きな成長を遂げたこと
パーマーケット展開を強化・促進するために
がわかる(図表4)。蘇寧は主にフランチャ
2003年に設立されたボランタリーチェーン
イズ形式による成長を、国美は買収による成
である。
長で業績を拡大してきている。
このような家電量販チェーン躍進の理由と
(2) ランキングの推移からみた成長小売
して考えられるのが、消費者の家電製品に対
業
する需要の拡大を的確に捉えて成長できたこ
中国小売企業の変化を見るため、 2004年
と、家電製品というスケールメリットが出や
のランキングとの比較を行う。2004年は、
すい商材であったこと、一般消費財とは異な
前述のとおり外資系企業による小売分野への
り商材に対する消費者の購入意欲が高いこと
投資規制緩和が実現した年でもある。
(テレビ、洗濯機、冷蔵庫などの三種の神器)、
2004年のランキングからわかるように、・
買収やフランチャイズ等を行いながら中国全
そ も そ も 前 述 し た2009年 と は ラ ン キ ン グ
国への店舗網の拡大に成功したこと、といっ
自体が大きく異なっていることがわかる。
たことである。生鮮や日配品を扱うスーパー
2004年は、上海系の国有小売企業が合同し、
マーケットとは異なり、調達(品揃え)・配
百聯集団を形成した年である。2位以下の小
送などが標準化しやすいという点で、全国展
売業を抑え、中国内では圧倒的な売上規模を
開をいち早く実施できたといえるだろう1)。
誇っていた。ところが、百聯集団の地位はわ
②買収・合併による上位集中化の進展
ずか数年のうちに家電量販店に譲ることに
業態に関わらず、買収・合併による上位企
なったのである。
業の巨大化は加速しており、上位集中化が進
①家電量販チェーンの躍進
展しつつあると捉えることができる。ただし、
2009年と2004年を比較すると最も成長し
業態によっての集中度の度合い、意味合いが
ているのが、蘇寧・国美に代表される家電量
異なっている。中国全土で見た場合、家電量
図表:中国チェーンストアランキング 2004
図表3 中国チェーンストアランキング2004
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
企業名
百聯集団有限公司
国美電器集団
大商集団有限公司
蘇寧電器集団
家楽福(中国)管理咨詢服務有限公司
北京華聯集団投資控股有限公司
上海永楽家用電器有限公司
蘇果超市有限公司
农工商超市(集团)有限公司
物美控股集团有限公司
三聯商社
重慶商社(集団)有限公司
好又多管理咨詢服務(上海)有限公司
百勝餐飲集団中国事業部
華潤万家有限公司
外資(国名)
カルフール(フランス)
台湾、ウォルマート(アメリカ)
KFC(アメリカ)
(香港)
売上規模
前年比%
(万元)
6762714
22.0
2387886
34.0
2308492
27.0
2210764
80.0
1624050
21.0
1600000
18.0
1584910
62.0
1388000
45.0
1370300
11.0
1327674
56.0
1325580
24.0
1311315
18.0
1200000
155.0
1186879
26.0
1101444
7.0
店舗数
5493
227
120
193
62
70
108
1345
1232
608
254
153
88
1400
476
前年比%
25.0
63.0
25.0
30.0
51.0
13.0
71.0
16.0
2.0
17.0
26.0
16.0
226.0
27.0
2.0
出所)中国連鎖経営協会「2004 中国トップチェーンストア 100」
出所)中国連鎖経営協会「2004中国トップチェーンストア100」
① 家電量販チェーンの躍進
8
2009 年と 2004 年を比較すると最も成長しているのが、蘇寧・国美に代表される家
流通情報 2010(484)
電量販店である。売上・店舗数ともに 5 年で 5 倍程度となっており、大きな成長を遂
げたことがわかる。蘇寧は主にフランチャイズ形式による成長を、国美は買収による
等を行いながら中国全国への店舗網の拡大に成功したこと、といったことである。生
鮮や日配品を扱うスーパーマーケットとは異なり、調達(品揃え)・配送などが標準
化しやすいという点で、全国展開をいち早く実施できたといえるだろうi。
図表4 蘇寧・国美の成長 図表:蘇寧・国美の成長
店舗数
売上高
蘇寧電器集団
国美電器集団
2004
2,210,764
2,387,886
2009
09/04
11,700,267
5.3
10,680,165
4.5
2004
193
227
2009
09/04
941
4.9
1170
5.2
出所)中国連鎖経営協会「2009中国トップチェーンストア100」
、
「2004中国トップ
出所)中国連鎖経営協会「2009
中国トップチェーンストア 100」、
「2004
中国トップチェ
チェーンストア100」
ーンストア 100」
販業態における上位集中度は高いが、スー
一同にしのぎを削ることとなった。このよう
パーマーケットや百貨店などの業態では必ず
に出店を加速する外資系小売業に対抗するた
しも高いとは言えない。しかしながらスー
めに、中国ローカル小売業も合併や買収など
パーマーケットで見た場合、全国的な規模は
による巨大化が進められてきたという側面も
それほど大きくなくとも地域商圏で圧倒的な
ある。
2)
地位を占める企業も少なくない 。
図表5は、 2004年のランキングに掲載の
家電量販チェーンでは2004年のランキン
あった外資系小売業の2004年と2009年の比
グで7位だった上海永楽や同11位の三聯商
較である。ウォルマートは自前での出店に
社は国美に吸収合併されている。スーパー
より4倍以上の成長を遂げている。ウォル
マーケット関連では、蘇果超市が香港系の華
マートに関しては、自前での成長に加えて、
潤万家に買収されている。また、百聯集団
2006年には好又多(Trust Mart)に資本参
も2003年に誕生した百貨店やスーパーマー
加するなど積極的な展開を見せている。好又
ケットの連合企業である。2009年のランキ
多は、 2009年のランキングでは20位に位置
ングに出現している新合作のようなボランタ
する企業であり、ウォルマートと好又多の売
リーチェーン型のスーパーマーケットチェー
上を足すと、6位の康成投資を上回る位置づ
ンも上位集中化の過程で成長してきたものだ
けになる。
といえるだろう。
一方で、古くから進出を行っているカル
③外資系企業の浸透
フールやメトロは一見すると成長のペースが
2004年の外資系小売業に対する規制緩和
さほど速くないようにみえる。ただし、カル
を受け、外資系企業の出店が加速した。特に
フールについても、別会社でハードディスカ
ウォルマート、カルフールの二大外資系の出
ウント業態(Dia)を展開しており、その業
店が2004年以降加速している。また、 2004
績は当ランキングに反映されていないことに
年以降ベストバイやテスコが買収により中国
注意しておく必要がある。ハードディスカウ
進出を果たすなど、世界的な小売業が中国で
ント業態は2003年から急速に店舗数を拡大
図表:外資系小売業の
2004 年/2009 年比較
図表5 外資系小売業の2004年
/2009年比較
華潤万家有限公司
家楽福(中国)管理咨詢服務有限公司(カルフール)
沃爾瑪(中国)投資有限公司(ウォルマート)
錦江麦徳龍現購自運有限公司(メトロ)
2004
1,101,444
1,624,050
763,542
636,445
売上高
2009
09/04
6,800,000
6.17
3,660,000
2.25
3,400,000
4.45
1202277
1.89
2004
476
62
43
23
店舗数
2009
09/04
2926
6.15
156
2.52
175
4.07
42
1.83
出所)中国連鎖経営協会「2009中国トップチェーンストア100」
、「2004中国トップチェーンストア100」
出所)中国連鎖経営協会「2009 中国トップチェーンストア
100」、
「2004 中国トップ
チェーンストア 100」
チェーンストアランキングに見る中国における小売業の特徴と課題
図表:中国カルフールの出店数推移
9
350
322
錦江麦徳龍現購自運有限公司(メトロ)
636,445
1202277
1.89
23
42
1.83
出所)中国連鎖経営協会「2009 中国トップチェーンストア 100」、
「2004 中国トップ
チェーンストア 100」
図表:中国カルフールの出店数推移
図表6 中国カルフールの出店数推移
350
322
ハイパーマーケット
スーパーマーケット
ハードディスカウント
300
250
275
255
225
200
164
150
134
100
112
55
50
40
70
56
8
6
0
2003年度
2004年度
90
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
出所)カルフールアニュアルレポート
出所)カルフールアニュアルレポート
しており、カルフール全体としては依然出店
高い食品小売業は、買収などの拡大も含め概
ペースを緩めていないことがわかる(図表6)。
3.まとめ
ね地域での競争基盤の確立に注力している。
中国内資の食品小売業が地域を中心とした
本稿では、チェーンストアランキングから中国における小売業の特徴と課題の整理を試
展開を意識する一方で、スーパーセンター・
みた。ランキングから明らかなことは、調達のスケールメリットが出やすく、品揃えやオ
3.まとめ
ハイパーマーケットなど大型店を擁する外資
ペレーションの標準化が行いやすい業態で全国的な展開や企業の巨大化が進展していると
本稿では、チェーンストアランキングから
系小売業は、全国展開を試みつつある点にも
いうことである。しかしながら、食品を扱う小売業では、生鮮食品の調達など、全国で統
中国における小売業の特徴と課題の整理を試
注意を向けておきたい。これまでは、これら
一的なオペレーションを実施しにくい商材を抱えているため、現在のところ巨大な全国企
みた。ランキングから明らかなことは、調達
の外資系小売業でも沿岸部主要都市における
業の誕生には至っていない。事実、食品小売業界でトップである聯華超市(百聯集団)も
のスケールメリットが出やすく、品揃えやオ
数店舗の「点」としての展開が中心であっ
主な展開地域は上海を中心とする華東地域であり、華東地域の店舗構成比は大型ハイパー
ペレーションの標準化が行いやすい業態で全
た。しかしながら、ウォルマートなどは、調
マーケット店で 78%、スーパーマーケット店で 9 割を占めるiii。この他、北京を拠点とす
国的な展開や企業の巨大化が進展していると
達、物流などの標準化に取り組んでおり、こ
る物美(2009
年ランキング
9
位)
、福建省を拠点とする永輝(同
34 位)など成長力の高い
いうことである。しかしながら、食品を扱う
れらの確固とした基盤が完成することになれ
小売業では、生鮮食品の調達など、全国で統
ば、家電量販チェーンのような拡大をしてい
一的なオペレーションを実施しにくい商材を
く可能性が十分にある。
抱えているため、現在のところ巨大な全国企
従来の「外資」対「内資」という競争構造
業の誕生には至っていない。事実、食品小売
が「全国(ナショナル)」対「地域(ローカ
業界でトップである聯華超市(百聯集団)も
ル)」に変化していくことになった場合、「地
主な展開地域は上海を中心とする華東地域で
域(ローカル)」としてのオペレーションの
あり、華東地域の店舗構成比は大型ハイパー
卓越性(例えば生鮮食品の調達力など)を確
マーケット店で78%、スーパーマーケット
立できない地域企業は淘汰されていくことに
3)
店で9割を占める 。この他、北京を拠点と
なると予想される。一方、地域での強みを生
する物美(2009年ランキング9位)、福建省
かすことができれば、全国的な展開を行う企
を拠点とする永輝(同34位)など成長力の
業に対抗することは十分に可能である。前述
10
流通情報 2010(484)
の永輝などは、生鮮の調達力を背景に福建省
2)
で圧倒的なシェアを持っており、外資系小売
業などに対抗できている企業の一つである。
食品小売業においても、「全国(ナショナ
ル)」対「地域(ローカル)」という競争構造
が明確になれば、更なる企業再編が起こるこ
3)
例えば福建省に拠点を置く永輝超市は、 2009
年のランキングでは34位の企業であるが、福
建省では圧倒的なシェアを持つスーパーマー
ケットとなっている。
聯華超市2009年度アニュアルレポートより。
聯華は全国展開を模索していた時期もあったが、
近年では上海を含む長江デルタ地域での出店強
化に変化している。
とも考えられる。このような変化に日系の小
売業が加わることになるのか、今後の展開に
注目したい。
〈注〉
1) 中国家電量販店の品揃えの標準化については関
根(2008)も指摘している。
〈参考文献〉
関根孝、矢作敏行 他、
(2008)
『発展する中国の流
通』白桃書房
流通経済研究所(2008)
『小売業の海外展開に関す
る調査報告書(インド・中国編)』
チェーンストアランキングに見る中国における小売業の特徴と課題
11