シンポジウム 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の基礎と臨床 座長 夏秋 優(兵庫医科大学皮膚科学) S1. 日本のマダニにおける SFTS ウイルス 宇田晶彦 (国立感染症研究所 獣医科学部) Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus in ticks in Japan. Akihiko Uda 重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome;SFTS)ウイルス は、2011 年に中国で同定されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるマダニ媒介性の新 興ウイルスである。SFTS 患者は、感染後 6~14 日間の潜伏期間の後、高熱、吐気、下痢、血小板 減少および白血球減少を主徴とする症状を示す事が知られている。日本においては、2013 年 1 月に 初めての患者が確認されて以降、2013 年から 2014 年の確定患者数は 108 名報告され、その内 35 名が死亡しており、極めて高い致死性を有する事が確認されている。また、韓国からも SFTS 患者 が報告され、日本・中国・韓国に渡って SFTS ウイルスが分布している事が明らかとなってきた。 日本の患者から分離された SFTS ウイルスゲノムの塩基配列は、中国の患者由来のウイルス塩基配 列と差異が有ることが明らかとなり、日本の SFTS ウイルスは、最近中国から入ってきたものでは なく、以前から日本国内に存在していたと考えられる。 中国や韓国では主にフタトゲチマダニから SFTS ウイルス遺伝子が検出され、このマダニが活動 的になる春から秋に、患者の多くが確認されたと報告されている。一方日本において、これまでに 実施した疫学調査の結果、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガマダニ、オオトゲチマダ ニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)から SFTS ウイルスの遺伝子が検出された。しかしなが ら、これらのマダニ種全てが、実際にヒトへの感染に関与しているかについては、まだ明らかにさ れていない。また、SFTS ウイルス陽性マダニは北海道から鹿児島までの日本の広範囲に渡って確 認されているが、SFTS 患者が西日本に局在する理由も明らかにされていない。ダニ種によるウイ ルス伝播能の差異および SFTS 患者の局在性が、ウイルスの塩基配列に依存しているのか否かが注 目されている。 そこで、これらを明らかにするために、植生マダニ、動物やヒトに付着していたマダニから RNA を抽出し、cDNA に変換した後 PCR を用いて SFTS ウイルスの遺伝子を増幅し、塩基配列解析を 試みている。これまでに得られたマダニにおける SFTS ウイルスに関する知見と併せて、これらの データについて紹介したい。 1 S2. マダニ媒介性ウイルス感染症:重症熱性血小板減少症候群の臨床像 北尾章人(公立豊岡病院組合立 豊岡病院 総合診療科) Clinical presentation of Sever Fever with Thrombocytopenia Syndrome. Akihito Kitao, MD. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は 2011 年に中国から報告された、ブニヤウイルス科フレボウ イルス属に属する SFTS ウイルスによる新興感染症である。日本国内では 2013 年に新規症例が確 認され、以後遡って診断された症例も含めて 2014 年 9 月現在で 101 例診断されているが、その病 態は未だ不明瞭な点が多い。今回異なる転帰を辿った 2 例を経験したので紹介する。 症例 1。73 歳、女性。2013 年 7 月に農作業後からの全身倦怠感を自覚。白血球 1700/µl、血小板 8.2 万/µl と血球減少あり当院入院となった。体温 37.6℃、GCS:E3V5M6 で発熱・軽度意識障害あ り、鼠径リンパ節腫大と脾腫を認めた。骨髄穿刺施行し血球貪食症候群と診断した。また左膝窩に 大きく膨隆したダニが噛みついているのを発見。SFTS を疑い、国立感染症研究所にて検査を行い血 液・咽頭スワブから RT-PCR で SFTS virus を検出し診断を確定した。プレドニゾロン 60mg(1mg/kg) 点滴を開始し、第 3 病日には白血球・血小板数の上昇傾向を認め、全身状態改善したため第 17 病 日に退院となった。 症例 2。82 歳、女性。2013 年 5 月に下痢・全身倦怠感を主訴に近医受診。血液検査で血小板 5.1 万/µl と低下認め、翌日には白血球 1100/µl、血小板 4.2 万/µl とさらに低下し意識レベルも GCS E3V2M4 と悪化したため当院転院搬送。転院時体温 37.7℃の発熱あり肝機能障害・腎機能障害を認 め、鼠径リンパ節腫大を認めた。骨髄穿刺を施行し、血球貪食症候群と診断した。原因精査を進め ながらステロイドパルス療法を開始するも全身状態は急速に悪化し第 8 病日に永眠された。その後 病理解剖を行いリンパ網内系臓器に血球貪食を認めたが原因は不明であった。ステロイド治療前に 凍結保存していた血清にて SFTS virus RT-PCR 検査を行い陽性であり確定診断を得た。 SFTS は 60 歳以上の高齢者に発症が多く、本邦での死亡率は約 30%である。当院で経験された 2 例は治癒と死亡の異なった経過を辿っている。臨床像の多変量解析を行った報告では意識レベルと 予後が相関しており、本症例においても診断時の意識レベルは異なっている。また、後日ウイルス 量も異なっている事が判明し、治癒症例では診断時 1×105 コピーであり 3 日後には 1×103 コピーま で減少していたのに対し、死亡症例では 1×107 コピーであった。1×106 コピー以上のウイルス量が あると死亡率が高いと考えられており今回の症例でも同様の結果であった。 発症と重症化に関連した因子は明確になっておらず、今後も 1 例ずつ症例を集積して研究を続け ていく必要があると思われる。 2 S3. SFTS 感染のベクター背景 高田伸弘(福井大学) Geopathology of tick vectors caused SFTS infection in Japan. Nobuhiro Takada 出血熱系ウイルス感染症の SFTS は,わが国では昨 2013 年初頭に初めて確認されたが,中国で は数年前から多発して調査研究の成果報告はあったので,そこからの類推でわが国でもマダニ,と くにフタトゲチマダニなどが媒介候補種(以下で候補種)と考えられた.すぐさま同年春から厚労 省研究班が立ち上げられて調査の結果,南西日本各地で症例の続発ないし発掘が進むのと平行して, チマダニ類を中心に病原ウイルスの保有が証明されるに至っている.ここでは,病原ウイルスの保 有が認められた6種(フタトゲチマダニ,キチマダニ,オオトゲチマダニ,ヒゲナガチマダニ,タ カサゴキララマダニおよびタイワンカクマダニ)をベクター候補種とみなして,それらの地理病理 学的側面を考察してみた. まず,国内各地で以前から不特定多数で蓄積されていたマダニの採集記録ならびに演者や協力者 らがSFTS患者発生地を含めて最近行った調査などから,上記候補種の分布パターンを眺めた場 合,日本紅斑熱の発生状況と似た形で南西日本に候補種の分布頻度や密度が高いという西高東低の 傾向が改めて確認された.また候補種が動物と人体のどちらを咬着嗜好するか,これまでの咬着例 を概観することで感染能の強弱の目安とした場合,ヒトへ媒介の機会の多い候補種は南西日本で優 占するフタトゲチマダニ,キチマダニおよびタカサゴキララマダニの3種に絞り込み得ると思われ た.もちろん,自然界の動物間におけるウイルスの維持には全ての候補種が複雑な役割を果たして いることは疑いなく,特にオオトゲチマダニとヒゲナガチマダニはシカに,タカサゴキララマダニ とタイワンカクマダニはイノシシに嗜好性が高い.こうした知見を参考にすれば,日本列島南北の 地方ごとに,特に南西日本で一定の感染防止対策の方向性も示し得ると思われる.関連して,下草 や地表環境を這いまわるマダニ類の活動パターンを念頭に置きさえすれば自ずから,ヒトへのマダ ニ咬着を回避する方法のポイントが分かることや,蚊刺し防止と同一視されるような誤解まで指摘 して,一般の啓蒙に役立てたい. 協力者:石畝 史(福井県衛生環境研究センター), 矢野泰弘(福井大学医学部) 3 1 石川県能登半島のマダニに関する研究 -採取パターンから推測されたマダニの 生態- ○及川陽三郎 1),村上 学 2)(1)金沢医大・医動物,2)同・総医研) Study on the tick of Ishikawa Prefect. Noto Peninsula. - The ecological aspect of the tick speculated from the picking pattern - Oikawa, Y. and Murakami, M. 演者らは,現在,石川県能登半島の口能登~中能登地区でマダニの調査を行っているが,その途中経 過から得られた結果をもとに,同地方におけるマダニの生態を推測した. 4~9 月に能登地方で出来るだけ山系を変えて合計 21 か所を調査したところ,18 か所でヤマトマダニ (I.o.),キチマダニ(H.f.)およびフタトゲチマダニ(H.l.)の主要 3 種のマダニがすべて捕獲でき,残 りの 3 地点では H.f.と H.l.の 2 種だった.今のところ 2 地点で,アカコッコマダニの若虫は合計 3 個体, タネガタマダニの♂♀はそれぞれ 1 個体捕れたのみである. 成虫では,I.o.は 5,6 月をピークに 4~6 月に採取され,7,8 月は採れなかったが 9 月に 1 匹採れた. H.f.は 4 月をピークとして 4~6 月に採取され,7,8 月は採れなかったが 9 月に 11 匹採れた.一方,H.l. は 7 月をピークとして 5~9 月に採取されたが,5 および 9 月は 1 匹のみだった.幼虫では,4~6 月は H.l.のみ少数採取され,7 月になると H.f.のみ多数,8,9 月には両者が多数採取された.若虫では,H.f. と H.l.で 4~6 月に多数採取されたが,7,8 月に減少し,9 月に再び増加傾向である. 以上より,能登地方では,I.o.の成虫の地上での活動期は 4~6 月であり,その後,幼虫・若虫は地上 に現れないが,9 月には成虫が地上に現れ始めると推測された. H.f.の成虫は 3~6 月に活動し,7,8 月は活動しないが,9 月には再び活動し始める.幼虫は 7~9 月に 多数現れ,若虫は 3~6 月に多数が地上で活動するがその後減少すると推測された. 一方,H.l.の成虫は活動期が 5~9 月と H.f.より遅れ,幼虫の出現も 8,9 月と遅れる.一方,若虫は H.f.の活動期とほぼ同様であると推測された. 2 市街地及び広域公園におけるマダニ生育と環境 〇宗清禮吉 1),内田健太 1),中野絵梨 2),田中郁也 1) (1)野田学園高等学校,2)野田学園中 学高等学校) Ticks inhabitation and environment in the urban areas and the regional park. Munekiyo, R., Uchida, K., Nakano, E and Tanaka, I. マダニは日本紅斑熱,ライム病,SFTS などを媒介するが,2013 年 1 月に,山口県で国内初の SFTS 患者が確認され,その後西日本を中心に SFTS 患者数が急増し,恐れられる存在になってきた.野生動 物が多い山間部では広く分布するマダニも,宿主である野生動物等の生育が限られている都市部でのマ ダニ生息状況はデータも少なく,よく分かっていないのが現状である. 本研究では,典型的な市街地と,広域公園内(野生動物の侵入が制限されている環境)でのマダニ生 息状況を調査し,両地域において,わずかではあるがマダニ生育地点(ホットスポットと命名)を見出 した.このホットスポット及びマダニが生息しない対照地点における照度,温度,湿度,土壌pH,土 壌水分量,野生動物生活痕などの自然環境条件を調査し,比較することで,ホットスポットの成立条件 等を検討した.傾向として,広域公園内でのマダニ生息環境は生息しない対照地点に比べて高温・多湿 であり,土壌の水分量は多く,土壌pHは低い傾向がみられた.一方,市街地のホットスポットでは広 域都市公園の結果と異なり,明るくしかも乾燥している地域でも生息していた.これらはマダニにとっ てかなり過酷な条件と考えられる.しかし,それでも生育できる理由は何であるか等は今後の研究課題 である.両地域とも,アナグマの生活痕が見られ,少なくとも若ダニ,成ダニ等はアナグマによっても たらされる可能性が高いことが推測された. 4 3 兵庫県北部の SFTS 発生域内でのマダニ調査(予報) ○高田伸弘 1,*),夏秋 優 2),矢野泰弘 1) (1)福井大・医,2)兵庫医大, *MFSS) Preliminary report of tick fauna in the northern half of Hyogo Prefecture as an endemic area for SFTS in Japan. N. Takada, M. Natsuaki and Y. Yano 昨 2013 年初頭の重症熱性血小板減少症候群(SFTS と略)の確認以来,本症の確認ないし発掘が南西 日本中心で続く中,兵庫県北部で 2013 年5および7月に各1例が相次ぎ確認され,現時点で和歌山県 と共に最も東寄りの発生地域となった.そこで,当該地域のベクターマダニの基礎調査(一部は今年度 学振科研基盤 C(26460506)の助成による)を 2014 年5月および7月に試みたので,結果を現地のランド スケープ疫学と絡めて予報する. 患者発生地を含む北部一帯の8地区で,チマダニ属のフタトゲ,ヒゲナガおよびオオトゲ,ならびに タカサゴキララマダニの計2属4種を得た.このうち当初からわが国の有力な SFTS ベクター候補とさ れたフタトゲが圧倒的に優占した事実は,本地域の患者にも本種の咬着をみていたこと,またこれらマ ダニ複数種から SFTS ウイルスを比較的高率に検出できたことを考え合わせれば興味深い.ところで, 兵庫県北部という地域は若狭湾を経て日本海側環境として北陸地方に繋がり,加えて演者らは若狭地方 でも SFTS ウイルスを検出しているので,このような地理病理学的な共通性が示唆するところは注目さ れる. 共同研究者:北尾章人(公立豊岡総合病院),石畝 史(福井県衛環研),宇田晶彦(国立感染研), 高田由美子(MFSS) 4 最近 10 年間にコンサルテーション依頼を受けた栃木県内のマダニ刺咬症例の動 向 ○千種雄一 1),桐木雅史 1),川合 覚 1),林 尚子 1),角坂照貴 2)(1)獨協医大,2)愛知医大). Ixodid tick bite: Trends and developments of consultation in Tochigi prefecture from January 2005 to September 2014. Chigusa, Y., Kirinoki, M., Kawai, S., Kato-Hayashi, N. and Kadosaka, T. 最近 10 年間(2005 年 1 月~2014 年 9 月)に栃木県内の医療機関よりコンサルテーション依頼のあっ たマダニ刺咬症例についてまとめた.期間中依頼があったのは 2006 年(2 件),2011 年(2 件),2013 年(9 件),2014 年(3 件)であった.加害マダニの種類は,2006 年はフタトゲチマダニ(1 件)およ び未同定(1 件:岩手県の症例),2011 年はタカサゴキララマダニ(1 件)およびフタトゲチマダニ(1 件),2013 年はヤマトマダニ(3 件),フタトゲチマダニ(3 件),キチマダニ(2 件),ヒトツトゲ マダニ(1 件:福島県で受傷)であった.2014 年はフタトゲチマダニ(2 件)および未同定(1 件)で あった.月別では 3 月から 10 月まで依頼があり,6 月が 4 件で最も多く,次いで 4 月,7 月,9 月に各 2 件であった. 2012 年以前は毎年 0~2 件程度であったマダニ類のコンサルテーション依頼が、2013 年に 9 件と突出 して多かった.この依頼件数の増加については,2013 年 1 月以来,マダニ媒介疾患である重症熱性血小 板減少症候群(SFTS)の国内感染例が次々と確認される状況が報道されたことにより,マダニ刺咬症へ の危機感が高まったことが要因のひとつとして考えられた. 5 5 2014 年のマダニ刺症のまとめ ○夏秋 優(兵庫医大皮膚科) Study on tick bites in 2014. Natsuaki, M. 2014 年 1 月から 9 月までに兵庫医科大学皮膚科とその関連病院,および兵庫県皮膚科医会会員などか ら集められたマダニ刺症の症例についてまとめた。症例数は75例で男性29名,女性46名,年齢は 2歳~88歳であり,そのうち60歳代が16名,70歳代が18名,80歳代が7名で60歳以上が 過半数を占めていた.マダニの種類としてはタカサゴキララマダニが57例(成虫4例,若虫49例, 幼虫4例)と最多で,その他にヤマトマダニ,シュルツェマダニ,カモシカマダニ,フタトゲチマダニ, キチマダニなども見られた.咬着を受けた地域としては兵庫県が大半であったが,近畿地方以外では北 海道や岡山県,愛媛県,宮崎県での咬着例もあった. 咬 着 部 の 皮 膚 に 直 径 5 c m 以 上 の 紅 斑 を 生 じ た 症 例 は 6 例 認 め ら れ , tick-associated rash illness(TARI)と考えられた.ライム病や日本紅斑熱,重症熱性血小板減少症候群などのマダニ媒介性疾 患を発症した症例はなかったが,マダニ摘出後にミノサイクリンを投与された後に好酸球性肺炎を生じ た症例があった. 6 マダニ刺傷による皮膚疾患 ○森田裕司(古座川町国保明神診療所) Tick bite skin diseases. Morita, H. マダニ刺傷による皮膚疾患で、下記の 5 症例を経験したので提示する。 ① TARI(tick-associated rash illness) ② 急性痒疹 ③ 滲出性紅斑 ④ 急性蕁麻疹 ⑤ 蕁麻疹様血管炎 6 7 新興回帰熱病原体 Borrelia miyamotoi の病原性解析 ○川端寛樹(国立感染研). Pathogenicity analysis of emerging relapsing fever borreliae, Borrelia miyamotoi. Kawabata, H. 回帰熱はボレリア属細菌感染に起因する一疾患である.我が国では第二次世界大戦後 2009 年まで、 輸入例,国内感染例ともに報告されておらず「遠い国の感染症」と認識されていた.しかしながら 2010,2012 年に海外からの輸入例が相次いで報告されるとともに,2013,2014 年に土着性回帰熱の国内 感染例が報告され,にわかに「身近な感染症」となりつつある. 2013 年に報告された,土着性回帰熱は Borrelia miyamotoi 感染に起因する.世界では 2011 年以降, ロシア,アメリカ,オランダで感染例報告がある.我が国の感染2例では,マダニ刺咬後の急激な発熱 と刺咬部位の紅斑がみられ,また高度の菌血症を呈していたことが報告されている*1. そこで本研究では,ライム病ボレリアではほとんど見出されない,ボレリア血症を規定する分子メカ ニズム解析に着手した.現在までに,B. miyamotoi 株の血清耐性,および血清耐性を付与する補体系 からの殺菌機構回避を観察した.また,補体系からの逃避機構にはヒト factor H との結合が重要である ことを見出し,これに関与するボレリア因子の解析を現在行っている. *1:Sato K, et al. Human Borerlia miyamotoi infection in Japan. Emerg. Infect. Dis. 20: 1391-1393, 2014. 8 「抗蚊唾液抗体価を用いたマラリア疫学調査の新規評価法の開発 -インドネシア 介入試験前のベースライン抗体価の調査- ○伊従光洋 1),藤吉里紗 1),Din Syafruddin2),吉田栄人 1)(1)金沢大学•薬学系, 2) Eijkman Institute for Molecular Biology. Antibody responses to salivary proteins of mosquitoes as a biomarker for malaria infection: Evaluation of IgG responses in Indonesian sera before the intervention trial. Iyori, M., Fujiyoshi, R., Din Syafruddin and Yoshida, S. [緒言]インドネシア政府は, 2012 年 10 月-2013 年 3 月の間, 蚊忌避剤が含有した蚊取り線香(SR) のマラリア感染率低下効果を調べるために, 三日熱マラリア感染地域であるスンバ島で大規模フィー ルド介入試験を実施した. 本研究は, この介入試験統括者である Din Syafruddin 博士(Eijkman Institute)と共同で, 我々が独自に発見したハマダラカ唾液タンパク AAPP を用いて介入試験期間とそ の直後 3 年間の試験地域住民(SR 群 vs Placebo 群)の AAPP 抗体価の変動を調べ, マラリア感染率 との相関関係を解明することを目的とする. [材料と方法]ハマダラカ唾液タンパク AAPP, ネッタイシ マカ唾液タンパク Aegyption ならびに各種マラリア抗原(PfCSP, PvCSP, PfMSP1, PvMSP1)は大腸 菌発現系を用いて精製した. 各抗原タンパクは 400 ng/well で EIA プレートにコートされた. 血清サン プルは 200 倍に希釈した後, 各ウェルで反応させ, HRP 標識抗ヒト IgG (H+L)(Bio-Rad)ならびに ペルオキシダーゼ基質溶液を用いて特異的抗体を検出した. [結果] 介入試験前(雨季の前)のインド ネシア人血清を調査したところ, 抗蚊唾液タンパク抗体価と抗マラリア抗体価は, コントロール抗原 に対する抗体応答に比べ有意に高い値をとった.特に熱帯熱マラリアメロゾイトへの暴露を意味する抗 PfMSP1 抗体価は他の抗体応答に比べ顕著に高い傾向があり, 同地域のマラリア罹患率の高さが示唆 された. 現在,介入試験時の血清に関しても調査中であり, 本発表においては最新の知見を紹介する予 定である. 7 P 9 SFTS virus の組織化学的証明:高感度 in situ hybridization 法と免疫染色の応用 ○塩竈和也,水谷泰嘉,尾之内高慶,稲田健一,堤 寬(藤田保健衛生大学医学部第一 病理 学) Histochemical demonstration of SFTS virus: application of high-sensitivity in situ hybridization and immunostaining. Shiogama, K., Mizutani, Y., Onouchi, T., Inada, K. and Tsutsumi Y. SFTS 感染症例のホルマリン固定パラフィン切片を用いて,in situ hybridization-AT tailing(ISH-AT tailing)法および免疫染色による SFTS virus 証明法を確立した. SFTS により死亡した剖検標本 6 例のホルマリン固定パラフィン切片を対象とした.陰性コントロー ルとして,壊死性リンパ節炎,日本紅斑熱の皮膚刺し口,紅斑熱リケッチア感染 L 細胞 2 種類およびオ リエンチア・ツツガムシ感染 L 細胞 4 種類を用いた.ISH-AT tailing 法では,SFTS ゲノムの三分節を ターゲットとした AT tailing オリゴヌクレオチドプローブを作製し,ISH-AT tailing 法とチラミド増感 を組み合わせた高感度法により検出した.免疫染色では,3 種類の抗 SFTS virus マウスモノクローナ ル抗体(長崎大熱研 Dr. 森田より供与)による免疫染色を施行した. 壊死部および血球貪食マクロファージに貪食された SFTS virus の RNA ゲノムと mRNA に一致して 陽性シグナルが確認された.SFTS 剖検例の 5/6 例で陽性シグナルが検出され,ISH-AT tailing 法と免 疫染色の結果はいずれも一致した.電顕 ISH において径 100 nm 前後の球状ウイルス粒子が確認され, 特異性が確認された.陰性コントロールにおける交差反応は認められなかった.本法は,ホルマリン固 定パラフィン切片上での SFTS virus 検出に有効な手法であり,高感度かつ明瞭にターゲットを検出す ることができた. P 10 福井県南部で初確認できた紅斑熱の速報,若狭湾地方の環境要因と症例比較から ○ 高田伸弘 1,*),清水達人 2),五十嵐一誠 2),小村一浩 2),林 百合香 3),石畝 史 4),矢野 泰弘 1),御供田睦代 5)(1)福井大・医,2)市立敦賀病院,3)公立豊岡病院,4)福井県衛環研, 5) 鹿児島県環保セ,*MFSS) Rapid report of spotted fever diagnosed first in the southern part of Fukui Prefecture, referring to endemic factors and cases arround Wakasa Bay. Takada, N., Shimizu, T., Igarashi, I., Komura, K., Hayashi, Y., Yano, Y., Ishiguro, F. and Gokuden, M. 福井県南部若狭湾東部に在住で本年 2014 年 9 月中旬に発症して重症化するも救命し得た熱性発疹性 の1例が,免疫ぺルオキシダーゼ染色法にて有意な血清抗体の上昇をみて紅斑熱と診断でき,本県南部 初例となった.既に本県北部の奥越地方でみていた紅斑熱は欧州共通 R.helvetica 感染とされているが (2004),今回は検体が不足で病原 Rickettsia の分離ないし刺し口皮膚の PCR もできなかったものの, 数種紅斑熱抗原での反応性および後記マダニ相からみて,本県初の日本紅斑熱(R.japonica)と判断さ れた.そこで 10 月上旬に推定感染地(若狭湾東部沿岸)で環境視察およびマダニの採集を試みたとこ ろ,既に周辺市町村でみていたと同様にチマダニ属で占められた(Rickettsia 分離は試行中).一方, 本例に先立つ8月上旬に,兵庫県北部(若狭湾西部)で相次ぎみた夫婦の日本紅斑熱も検査診断したの で,やや巨視的に捉えれば,日本海若狭湾地方は本病発生リスクを抱えた地域として認識されるべきだ ろう.(調査の一部は今年度厚労省科研費による). 共同研究者:高田由美子(MFSS) 8 11 ワクモ Dermanyssus gallinae の気流による反応 ○寺中正人 1),上羽智恵美 2),矢野小夜子 2),原田正和 1),松本由樹 3),新井明治 1)(1)香川大・ 医・国際医動物,2)京都府農林水産技術センター畜産センター・研究・支援部,3)香川大・農・ 家畜生態機構学) Response of Dermanyssus gallinae to airflow. Teranaka, M., Ueba, C., Yano, S., Harada, M., Matsumoto, Y. and Arai M. ワクモ Dermanyssus gallinae は人畜共通の吸血性ダニであり,養鶏産業に大きな被害を与えている 衛生動物である.駆除には殺ダニ剤が用いられるが,労力やコスト,生産品の薬剤汚染の問題があり, また同種薬剤の連続使用で速やかに耐性を獲得することが報告されている.香川大学では,農学部と医 学部が連携してワクモ被害軽減のための研究を行っており,環境条件によるワクモの行動の変化につい て調べることで,薬剤を使用しない新たな駆除方法の開発を目指している. この基礎研究の一環として,ワクモが吸血ダニ類としては稀な,コロニーを形成する性質に着目し, 気流がワクモのコロニー形成にどのような影響を与えるかについて調べた. ワクモが通過できないメッシュで遮断して空気の流入,流出を可能にした容器にワクモを入れ,ファ ンを用いて風を送ると,風上側にワクモがコロニーを形成する現象がみられた.コロニー形成は即時に 起こるものではなく,半日単位で風上側の個体数の増加が見られた.さらにファンの種類や回転数を調 節した場合の,風量によるコロニー形成の程度について報告する. 気流の条件によってコロニーの形成を誘導できることは、薬剤を用いない新しい駆除方法の開発に役立 つと考えている. 12 被災地におけるイナトミシオカの多発生について ○渡辺 護 1), 渡辺はるな 2),沢辺京子 1)(1)感染研・昆虫医科学,2)富山市) Notes on the Mass-Occurrence of Culex(Barraudius) inatomii in disaster areas of the Great East Japan Earthquake. Watanabe, M., Watanabe, H. and Sawabe, K. 東日本大震災の津波被災地におけるイナトミシオカの大発生ついては,すでに Tsuda and Kim(2012) による宮城県の名取川と阿武隈川に挟まれた地域で観察した報告がある.演者らは岩手県陸前高田市, 宮城県気仙沼市,石巻市などにおいて被災当年の 2011 年 6 月から 2014 年 8 月まで蚊類の発生状況を調 査・監視してきた.その過程で,イナトミシオカの多発生が観察されたので報告する. 成虫は CDC ミニチュアトラップによるドライアイス誘引捕集,幼虫は発生溜水を探索しての柄杓採 集で行った.2011 年は 6 月から 10 月まで 7 回,2012 年と 2013 年は 5 月から 10 月まで 6 回,2014 年は 7 月と 8 月の 2 回調査を行った. イナトミシオカ成虫の捕集数は 2011 年(総数 625 個体)に比べ,2012 年(総数 2,579 個体)さらに 2013 年(総数 3,210 個体)と増加したが,2014 年は陸前高田市下和野地域を除いて減少した(総数 1,908 個体). 幼虫の生息が確認された溜水は人口の容器や池などよりも津波による流失家屋の土台跡や被災水田 さらに道路側溝の溜りに多くみられた.それらは復旧工事とともに水質が改善されると同時に塩分濃度 が低くなる傾向がみられた.それが幼虫の発生を促し,2011 年は 22 箇所の溜水から 267 個体採集され たのが,2012 年は 61 箇所から 832 個体,2013 年は 74 箇所から 673 個体が採集された.2014 年は 10 箇 所から 37 個体と大幅に減少した. 2014 年は成虫,幼虫ともに発生数は減少したと判断され,それは被災地の更地化,道路側溝の復旧さ らに大掛かりな嵩上工事で溜水環境が消失したのが大きな原因と推察された. 9 13 都市域の住宅地でのビストリフルロンとホウ酸を含有するベイト剤使用によるア ルゼンチンアリ Linepithema humile(Mayr)(Hymenoptera: Formicidae) 防除の効果 ○中嶋智子,関 誠一,片山哲郎,横田 景,分銅絵美,越智広志(京都府保健環境研究所) Evaluation of ant baits containing bistrifluron and boric acid to Argentine ants, Linepithema humile(Mayr)(Hymenoptera: Formicidae) at residential area in Kyoto city. Nakajima, S., Seki, S., Katayama, T., Yokota, K., Fundo, E. and Ochi, H. 京都市内のアルゼンチンアリの侵入境界付近の町内会(面積約 10,000m2)で 2012 年 5 月 末から 2013 年 5 月までの 1 年間、住民による集団防除対策に協力し,被害状況やアリ相の推移を調査 した. 町内の 61 か所(ほぼ 10m×10m に 1 個の割合)で,アース・バイオケミカル株式会社から自治会へ提 供されたビストリフルロン・ホウ酸含有ベイト剤(アンツノー粒剤®)を用い,住宅の周囲や住宅と接 する道路脇,町内の児童公園などに 2-4g のベイト剤を入れた専用容器を配し,住民により実施された. アリにより完食された場合や降雨などで薬剤が膨潤した場合などには,1-2 週間ごとに適宜同量のベイ ト剤を追加補充した.アリ類捕獲は,濱田ら(2011)に従い,グラニュー糖 0.1g の誘引餌で市販のアリ 用粘着トラップ(むしむし探偵団®)を 24 時間設置して実施した. アルゼンチンアリへの薬剤効果は処理 1 か月後から明確に現れ,屋内侵入を充分に抑制することがで きた.一方,町内会単位の一斉防除では,周辺から繰り返し本種が再侵入することも明らかとなり,ま た,次シーズンの再発生を抑制するためにはベイト剤消費が落ちる 11 月から 5 月の期間の適切な防除 法などを再検討する必要性も示唆された. 14 ゴキブリ水死殺虫の基礎データ(2)-大型個体・泡殺虫について- ○辻英明 1), 前田浩志 2)(1),環境生物研究会, 2)環境機器(株)) Basic data on drowning cockroaches (2). Tsuji, H. and Maeda, H. ゴキブリは台所の洗剤液のような界面活性剤をあびせると,洗剤液がゴキブリの気門から呼吸管に入 り,ゴキブリを窒息死させる.この性質を念頭において洗剤等の水希釈倍数とゴキブリの死亡との関係 を調べ一部はすでに発表した.たとえば,洗剤を含まない水,あるいは市販洗剤(ジョイ,P&G 社) の 100 万倍希釈液にクロゴキブリ 1~4 齢幼虫を落下させても,幼虫は水に浮かんで泳ぐように移動し, 容器壁面をよじ登ってしまうが,10 万倍希釈液では 18℃1~2 分で仮死硬直状態となる.仮死後 5 分以 上水中に放置すれば蘇生せず死亡する(2~3 分で引き上げると蘇生する).1 万倍希釈液では成虫・終齢 幼虫でも 29℃35~40 秒で仮死硬直し,その後 5 分の水中放置で大部分が死亡した.また 1000 倍希釈 の高濃度では,2~4 齢幼虫を投入後 10 秒で引き上げると,直後歩くものの結局硬直死亡した. いっぽう,駆除の現場でゴキブリを希釈液中に入れる目的には,泡状態の液を使用することが便利と 言えるので,短時間の接触での効果を目指して基礎的な試験も行った(上径 8 ㎝,深さ 5 ㎝のカップ中 で 1ml の液を発泡させた).その結果,クロゴキブリの成虫でも,100 倍希釈液の泡の中に落下させる と1分前後で硬直不動化し,取り出した後も蘇生せず死亡していた.さらに同条件下で泡中に 5 秒間だ け落下させて取り出した場合でも,30 秒前後の苦悶活動の後に硬直不動化し,そのまま死亡した. 界面活性剤による水死殺虫法は,潜伏するゴキブリの追い出し法との併用で効果を高めることも期 待される. 10 15 福井県定点調査地におけるマダニの季節的消長―重症熱性血小板減少症候群の媒 介サイクルの解明に向けて ○矢野泰弘 1),石畒 史 2),平野映子 2),大村勝彦 2),高田伸弘 1)(1)福井大学医学部, 2) 福井県衛生環境研究センター) Seasonal prevalence of ticks in fixed surveillance points in Fukui Prefecture. Yano, Y., Ishiguro, F., Hirano, E., Omura, K., Takada, N. 昨年実施した福井県内のマダニにおける重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス遺伝子の保有 状況調査から,本県にもウイルス遺伝子保有マダニの生息を確認した.そこで、本年度から定点調査地 を設定し,マダニ類の季節的消長と遺伝子保有状況を調査することとした.今回はその経過報告をおこ なう. 定点調査地を若狭地区の若狭町三方石観世音と敦賀市野坂岳の登山道とし,本年 5 月,7 月および 9 月 にフランネル法により植生上のマダニを採集した.採集されたマダニ種はタカサゴキララマダニ(At), タイワンカクマダニ(Dt),キチマダニ(Hf),ヤマアラシチマダニ(Hh),ヒゲナガチマダニ(Hk), フタトゲチマダニ(Hl),オオトゲチマダニ(Hm)およびヤマトマダニ(Io)の 4 属 8 種であった. At, Hf, Hl および Hm はいずれの時期にも採集され,調査地の優占種と考えられた.Hk 成虫は 5 月の みに採集され,同時期 Hl と Hm の若虫の採集個体数が多かった(計 248 個体).一方,9 月には Hl と Hm の幼虫塊がフランネルに多数付着した。これまでに SFTS 遺伝子検出には 5 月採集分を供したが、 すべて陰性であった. なお,今年主に関西・中四国地方から当研究室に持ち込まれたマダニ刺咬症 14 例の種同定を行った. At♂2 例,At 若虫 9 例,Hf♀1 例および Hl♀2 例であった.(本研究は平成 26 年度科学研究費基盤研 究(C)課題番号:26460506 の助成を受けた) 16 福井県内のマダニにおける重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス遺伝子保 有状況の追加調査 ○石畒 史 1), 平野映子 1), 大村勝彦 1), 矢野泰弘 2), 高田 伸弘 2)(1)福井県衛生環境研 Serveillance of Virus gene of Severe Fever with 究センター, 2) 福井大学医学部) Thrombocytopenia Syndrome in Tick of Fukui Prefecture. Ishiguro, F., Hirano, E., Omura, K., Yano, Y. and Takada, N. 昨年実施した福井県内のマダニにおける重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス遺伝子の保有 状況につき追加調査を実施した. マダニ採集は 2014 年 5~6 月に県内の 10 地点で,フランネル法で主に登山道で行った.成虫は 1~3 個体,若虫および幼虫は 2~5 個体をプールして 1 検体とし,SFTS ウイルス遺伝子の検索を国立感染研が 示したマニュアルに従い実施した. 得られたマダニ類はチマダニ属 5 種(キチマダニ(Hf),フタトゲチマダニ(Hl),オオトゲチマダニ(Hm), ヒゲナガチマダニ(Hk),ヤマトチマダニ),またマダニ属 4 種(ヤマトマダニ(Io),ヒトツトゲマダ ニ(Im) ,タネガタマダニ(In),シュルツェマダニ),さらにタイワンカクマダニ(Dt)およびタカサゴ キララマダニ(At)の計 4 属 11 種 512 個体であった.マダニの分布パターンをみると,昨年 Hk は若狭 地区のみの確認であったが,今回は越前地区の 3 地点で,また,昨年奥越地区では確認されなかった Hl が 今回は荒島岳で確認された.さらに,昨年未確認の In が越前地区の 2 地点で確認できた.SFTS ウイル ス遺伝子検査の結果、全て陰性であった.検査個体数が多かったのは,成虫では Hl が 22 個体,Hk が 25 個体,Io が 37 個体および Im が 23 個体で,若虫では Hf が 147 個体,Hl が 45 個体,Hm が 163 個体およ び At が 12 個体であった. 今回の 5~6 月採集個体では新たな地点から陽性マダニを確認することはできなかった.9~10 月にも 若干の追加調査を実施しており,合わせて報告する予定である. 11 17 和歌山県の野生哺乳類におけるダニ媒介性感染症の血清疫学調査(予報) ○藤田博己 1),鈴木和男 2),藤田信子 1) (1)馬原アカリ医学研究所,2)田辺市ふるさと自然公 園センター) Preliminary report on seroepidemiological survey of acari-borne diseases in wild mammals of Wakayama Prefecture, Japan. Fujita, H., Suzuki, K. and Fujita, N. 和歌山県で 2014 年 10 月現在までに確認されたヒトのダニ媒介性感染症は,恙虫病,日本紅斑熱(紅 斑熱),野兎病,重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の 4 種類である.これら疾患の県内における媒介 種や感染環の実態解明はまだ十分とはいえないことから,われわれは,県内で捕獲数の多いアライグマ を主体に各種野生哺乳類を対象に SFTS を除く抗体検査を実施し,各疾患の発生頻度や分布域の推定を 試みたので,その経過を報告する. 検査は,野兎病を菌凝集反応,それ以外を免疫ペルオキシダーゼ反応で行った. 2007 年以降に採取した血清サンプルのうち,アライグマ約 600 頭とタヌキ約 250 頭においては,恙虫 病リケッチアに対する抗体保有率が高く,とくに患者発生が集中している田辺市では半数以上が抗体陽 性であった.感染型別はタテツツガムシ媒介型が最も多かった.紅斑熱抗体は患者多発地域の古座川町 のサンプルが未検査のためか概して低く,2%に満たなかった.県内には複数種の紅斑熱群リケッチアの 分布が推測されているが,今回検出された抗体がヒト病原性の Rickettsia japonica に対するものかどう かは不明である.野兎病はアライグマ 2 頭で抗体が検出されたが,これらの陽性地点は異なり,また既 知の患者発生地点からは遠隔地であったことから,県内の広い地域における潜在が推測された.その他 の動物についてもサンプル数を集積しつつ,抗体検査を実施中である. 18 四国型恙虫病の媒介種トサツツガムシの現況(予報) ○藤田信子 1),藤田博己 1),角坂照貴 2),安藤秀二 3),川端寛樹 3)(1)馬原アカリ医学研究所, 2) 愛知医科大学医学部,3)国立感染症研究所) Preliminary survey of Leptotrombidium tosa, the vector mite of Shikoku-type tsutsugamushi disease. Fujita, N., Fujita, H., Kadosaka, T., Ando, S. and Kawabata, H. かつて四国の一部海岸域と淡路島南部には夏に発生する不明発熱性発疹性疾患として,香川県の馬宿 病(熱),徳島県の腸胃熱,淡路島の福良熱,高知県のホッパン熱などが知られていた.これらのうち 馬宿病とホッパン熱は,1950 年代にトサツツガムシ媒介性の四国型恙虫病とみなされた.現在のこれら の地域では,夏の恙虫病の発生はほとんど知られず,トサツツガムシの生息情報もほとんど絶えている. 振り返るに,当時の病原リケッチアは,ツツガムシの種類と型別の特異関係から推測して現在の型別に 含まれない新型の可能性もある.そこでわれわれは,2014 年 6 月から 9 月に,かつての患者発生地を含 む地域において,トサツツガムシの生息確認調査を実施した. これまでに調査した地点は,香川県の馬宿地区とその周辺,淡路島福良地区,徳島県の吉野川水系河 口と美波町の海岸で,おもに土壌サンプルからのツルグレン装置による虫体回収を行ったが,一部の地 点ではネズミからの回収も併行した. ツツガムシ類はほとんどの土壌サンプルにおいて見いだすことはできず,淡路島の福良地区でフトゲ ツツガムシ 1 個体が採集されたのみであった.ネズミにおいては,馬宿地区に隣接する引田港の薮で捕 獲したアカネズミにトサツツガムシ 1 個体が,また,馬宿川河口部の河川敷のアカネズミからキタサト ツツガムシの少数個体が採集された. 今回の調査によって,トサツツガムシが確認できた事実からは,近年の四国型恙虫病の激減にも関わ らず,トサツツガムシ媒介による感染リスクは現在でも維持されていることが推測された. 12 19 Karp 型 Orientia tsutsugamushi 感染によるツツガムシ病の1例 ○竹之下秀雄 1),本荘 浩 2),岡本裕正 3),千葉一樹 4),藤田博己 5)(1)白河厚生総合, 2) 同放射線科,3)同内科,4)福島県衛生研究所,5)馬原アカリ医学研究所) A case of tsutsugamushi disease by Karp type Orientia tsutsugamushi. Takenoshita, H., Honnzyou, H., Okamoto, K., Tiba, H. and Fujita, H. 36 歳,男性.2014 年7月初診.初診の3日前から発熱と全身倦怠感が出現した.初診時 39℃台の発 熱,顔面と体幹に指頭大の淡い紅斑を伴う粟粒大の小水疱様丘疹が散在しており,左鼡径部リンパ節が 腫脹していた.白血球 2400 /µl であり,皮疹の形状から水痘を疑って同日当科に入院し,抗ウイルス薬 の全身投与を開始した.入院3日目に水痘・帯状疱疹ウイルス IgG が陽性と判明し,水痘が否定され たため,不明熱ではあるが何らかのウイルス感性症を考え,入院3日目からミノサイクリン塩酸塩を投 与した結果,翌日(入院4日目)から急激に解熱し改善した.このためツツガムシ病も考えられたため, 刺し口を探したが見つけられなかった.入院3日目に胸~骨盤 CT 検査を,11 日目にPET‐CT検査を 施行したところ,両側の頸部,鎖骨上,腋窩,鼠径部の他,膵頭部周囲や外腸骨動脈周囲などに広範囲 にリンパ節腫脹が認められ,肝臓と脾臓は肥大していた.これらの所見は悪性リンパ腫を示唆するもの であった.ツツガムシ病抗体価は入院7日目が陰性,14 日目は陽性(入院 15 日目に退院し,退院翌日 に判明)で,Karp 型 Orientia tsutsugamushi 感染によるツツガムシ病と診断した.このため,退院2 日目に受診していただき,改めて刺し口をさがしたところ,左殿部に刺し口(4×3mmの痂皮を有す る2×0.8cmの紅斑)があり,左鼡径部のリンパ節の腫脹との関連が考えられた.入院中,左鼡径 部のリンパ節の腫脹は徐々に縮小したことから,全身のリンパ節腫脹,および肝臓と脾臓の肥大もツツ ガムシ病が原因の可能性が考えられた.9月19日に胸~骨盤 CT 検査を再度実施したところ,肝臓と 脾臓は縮小傾向があり,全身のリンパ節も全て縮小傾向がみられた.SIL-2R は 7 月4日が 1130U/ml, 7月 14 が 887 U/ml,7月 29 日が 337 U/ml,9月 19 日が 176 U/ml であった.このためツツガムシ病 によって,反応性に全身のリンパ節腫脹および肝臓と脾臓の肥大が生じたと考えられた. 20 福井県近隣発症のつつが虫病にみる重症化要因 ○岩崎博道 1),高田伸弘 2),池ヶ谷諭史 1) 3),田居克規 3),酒巻一平 3),重見博子 3),矢野泰 弘 2),上田孝典 3) (1)福井大学医学部附属病院 感染制御部,2)医動物,3)内科学(1)) Factors for severity in tsutsugasmushi disease diagnosed around Fukui Prefecture. Iwasaki, H., Takada N., Ikegaya S., Tai, K., Sakamaki, I., Shigemi, H., Yano, Y. and Ueda, T. 【諸言】わが国にみられるリケッチア症は,つつが虫病(Orientia tsutsugamushi 感染)が多数を占め る.症状は日本紅斑熱(Rickettsia japonica 感染)に極めて類似するが,臨床的にはテトラサイクリン系 抗菌薬が著効する.しかし,時に生命の危機に陥っている症例にも遭遇する.最近,経験したつつが虫 病 4 例の重症化要因について臨床データを解析した. 【症例】2011 年から 2013 年にかけて,当院周辺よ り血清型の異なる 4 例が診断された.重症化スコア(Iwasaki H et al. J Clin Microbiol ; 1997)を用いる と Gilliam 型(65 歳男性)が最重症であり,著明な血小板減少等,DIC を合併した.Shimokoshi 型(85 歳女性)症例では尿路感染(E. coli)を合併していたことより診断が遅れ,一時会話困難な状態を呈して いた.Kuroki 型(64 歳男性)症例は当初,麻疹と診断されていた.Kawasaki 型(72 歳男性)症例は外来 診療のみで治癒した.すべての症例で 38℃以上の高熱,全身性発疹および刺し口を認めた.急性期には いずれも高サイトカイン血症を呈したが,IFN-γ 値が最も重症度を反映した.全例 MINO 投与により軽 快した(Gilliam 型症例のみ CPFX 併用). 【考察】重症化の要因には,血清型の相違によるよりむしろ, サイトカイン産生をはじめとする生体側の免疫学的過剰反応や,治療開始までに要した経過時間が関与 する可能性が示唆された. 13 第 9 回日本衛生動物学会西日本支部例会 日時:平成 14 年 11 月 8 日(土)16 時〜 会場:愛知医科大学 医心館(7 号館) テーマ:マダニの同定(世話人 夏秋 優) 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の問題がクローズアップされる中、そのベクターとなるマ ダニにも注目が集まっています。全国各地でマダニの調査がより盛んに実施されるようになってい ますし、地域の衛生行政機関や研究機関にマダニが持ち込まれる機会も多くなっています。しかし、 サンプルの状態によっては、その同定は必ずしも容易ではありません。今回の例会では「マダニの 同定」をテーマとし、ご専門の先生方にご講演をいただくと共に、同定困難なサンプルを持ち寄り、 実体顕微鏡を用いて同定のポイントを伺う機会も設定したいと思います。マダニの同定に興味を持 つ多数の会員の方々のご参加をお待ちしております。 1 マダニ同定のポイント-形の見かた- 藤田博己(馬原アカリ医学研究所) 2 遺伝子によるマダニ同定-形態同定の補助として- 高野 愛(山口大学共同獣医学部) *自由討論 14 藤田博己(馬原アカリ医学研) Morphological key point for the identification of ticks. Hiromi Fujita 国内のマダニ類には和名が既知の 47 種に加えて不明種が 10 種以上知られる.これらはヒメダニ 科とマダニ科に 2 分される.各科には複数の属が含まれるが,各属に所属させるべき種や属の定義 は関係者間の見解の相違もあって流動的ながら種はほぼ一定の傾向にはある. 分類,鑑定,鑑別と同定は厳密には同一ではない.同定とは,種が記載(原記載)されたときに 永久保存される模式標本(タイプ標本)と同一かどうかの「見たて」のことである. 従来の正攻法ではタイプ標本や原記載論文の内容との比較を基本に,検索表を辿るのが一般的で ある.ここでは,より簡易な同定を目指す立場から,従来の手法はほぼ無視したい. 実際のところ,2,3 箇所ほどの基本的な部位を観察することで済むように思われる.原則,同定 は発育期別に行われる.脚が 3 対であれば幼虫,脚が 4 対で生殖孔がなければ若虫,生殖孔がある のが成虫で,背甲板が背面全体を被っていれば♂,幼虫と若虫同様に上半身程度の被いであれば♀ である.発育期の区別はほぼ肉眼で可能である.幼虫と若虫については通常性別は問題とされない が,区別は剖検による生殖原器の確認によるほかない. 見るべき部位としては,脚基節,顎体部腹面(口下片,触肢,耳状体),顎体部基部背面の角状 体でほぼ決着する.特にチマダニ属の幼虫では角状体と触肢は種間変異に富む.マダニ属幼虫では 背面の剛毛の配列(剛毛式)が種別に規則性がある. 難解な解剖学用語の修得は同定の際に有用ながら,苦手な方面向きとして現在,画像による簡易 同定のガイド作りが関係者によって検討されている.マダニの「見た目の印象」によるスクリーニ ングから始まり,見るべき部位の指示を的確に画像に付すことで将来的には同定作業はかなりの程 度に「楽しい」ものになることを期待したい. 参考文献:ダニと新興再興感染症(全国農村教育協会) 15 R2. 遺伝子によるマダニ同定 -形態同定の補助として- 高野 愛(山口大学共同獣医学部病態制御学講座) Ai Takano マダニはライム病や日本紅斑熱、重症熱性血小板減少症候群などの起因病原体を伝播することか ら、人体刺咬例などのマダニの迅速同定法開発が急務とされている。加えて、マダニの同定は形態 学的な手法が Gold standard であるが、虫体が保全されていない場合などは形態同定が困難である。 このため、マダニ種同定の一助として、マダニミトコンドリア 16S rRNA(mt-rrs)DNA 配列 の遺伝子データベースを構築し、DNA 配列をもとにした系統学的な解析を行うとともに、その遺 伝学的同定法の感度を調べた。 既知の日本国内に生息するとされるマダニ 47 種中、採集できた 40 種について、可能な範囲で複 数個体よりゲノム DNA を抽出し、Ushijima らの方法(J. Parasitology 2003)に従い、mt-rrs の遺 伝子配列を決定した。その結果、試験に用いた 40 種中 37 種(92.5%)は、DNA 配列により区別でき る一方、ダグラスチマダニ、ヤマトチマダニ、オオトゲチマダニの 3 種は区別ができなかった。 以上の結果より、mt-rrs による遺伝学的同定法は形態学的同定法に対して、90%以上の感度を示 したことから、今後、マダニ形態同定が困難な場合でもその迅速同定が可能になると思われる。一 方、未試験のマダニ種については、今後順次採集、DNA 配列を決定しデータベース化を計るとと もに、上記のマダニ3種の DNA 同定のために、より高感度の DNA 同定法開発も行う必要がある。 参考文献:Med. Entomol. Zoo. Vol. 65(1), 13-21, 2014. 16
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