オーストラリア国立大学 高田優大

留学生レポート
オーストラリア/オーストラリア国立大学
高田優大(商学部 3 年)
平成25年2月から平成25年11月までの10ヶ月間、第27期派遣交換留学生として
オーストラリア国立大学(以下 ANU)で勉強する機会を頂いた、商学部3年の高田優大と
申します。今回の留学では 1) 統計学を中心に一橋大学では学べない分野を学ぶこと 2) 世界
中の誰とでもチームを組めるようにすること 3) 世界中の人と議論をすることの3つを目標
に掲げていました。これらの目標に向けてどのような活動をし、どのような結果を得られた
かということを学業、課外活動、寮生活の3点から振り返り、ここに報告させて頂きたいと
思います。
1.
学業
私は途上国向けの製品開発というものに興味があります。特に文化や生活環境が大きく異
なる途上国においていかに現地ニーズを把握するのか、また製品を市場投入した際にどのよ
うに個人の生活、社会全体が変化するのかに興味があり、今回の留学では統計学・計量経済
学・人類学・経営学・環境科学合わせて8つの科目を履修しました。
統計学では第一学期第二学期合わせて3つの講義を履修しました。これらはすべて一橋大
学を含め日本の大学には存在していないと言われている統計学科の科目であり、リサーチ機
関に強みを持つオーストラリア国立大学でこれらを履修することこそ私が留学を決めた大き
な理由の一つでした。履修した科目は①Regression Modelling
②Generalised Linear
Modelling ③Graphical Data Analysis の3つで、どれも学部生、院生の両方を対象に開講
されていました。
①の Regression Modelling は3年時に履修可能な統計や金融、アクチュアリー関係講義の
多くが必須科目として指定しており、この分野では非常に重要な科目です。単回帰分析から
分散分析、重回帰分析が扱う範囲であり、変数選択やモデルの診断・選択に関して学びまし
た。2年生向けの科目であり、かつ大学生活初めてに近い統計学の科目であったため、留学
前に独学こそしていましたが最初はついていくのにとても苦労しました。統計学には専門用
語が多く、もちろん英語で学ぶことになるので概念を理解するのが大変でした。またチュー
トリアルでは R という統計ソフトウェアを用い、実際にデータを分析するという演習を大量
にこなしました。
②の Generalised Linear Modelling は最終学年及び院生向けの講義であり、実験データの
解析や一般化線形モデル、分割表などを扱いました。チュートリアルも含めた週4時間の講
義では全13回の演習に加え3つの課題が課されかなりヘビーでした。それでもなんとかし
て食らいつくために各講義で紹介されていた参考文献を毎回図書館でコピーし読み込むとい
う作業を必死に繰り返すなど、様々な方法で予習復習を行いました。留学中一番時間をかけ
た科目であり、それだけに期末試験が終わったときの達成感はとても大きかったです。
③の Graphical Data Analysis も最終学年及び院生向けの科目でした。この科目はデータ
の視覚化に焦点を絞っていました。おもしろかったのはこのクラスの課題です。あるデータ
を統計コンサルタントとして分析し、クライアントの問いに答え、レポートを作るというも
のでした。どのように分析するか、グラフから何が言えるのかを見極め、また問題を表すの
に一番適したグラフを考えるなど、非常に頭を使いました。
計量経済学に関しては Econometric Method と Econometric Modelling の2つを履修しま
した。2つの講義を合わせて計量経済学の分野では世界標準とされている Wooldridge の
“Introductory Econometrics: A Modern Approach”を一冊読み切りました。演習では統計ソ
フトウェアの STATA を用い実際に講義で学んだ理論分野に関してデータを分析していきま
した。課題の量もとても多かったのですが、じっくりと時間をかけて取り組むことで、講義
を聞いているだけでは得られなかったであろう理解不足の点の発見方法や最後まで粘り強く
課題に取り組む姿勢を身につけることができました。
人類学では Culture and Development という科目を履修しました。このクラスでは途上国
における様々な開発の理論や手法について実際の問題やケーススタディを通じて学んでいく
というものでした。教授が様々な開発関係のプロジェクトに人類学者として参加している方
のため、実際どのような利害関係の問題があったりするのかを教えてくれました。チュート
リアルではその利害関係の対立を体験すべく Stakeholder discussion というものをやりまし
た。例えば、開発対象地域の現地政府、村のエリート、村の貧困層、村の失業者、NGO、人
類学者のように分かれこれからやろうとするプロジェクトに関して意見を述べあうといった
ことを行いました。これのおもしろいところは、自分が担当する役割の視点を持って論文を
読むと見えてこなかった問題が見えてくるということです。
経営学では International Strategic Management という科目を履修しました。講義では
扱いませんでしたが、毎回3つから5つの関連するジャーナルやレビューを紹介されたので、
それらを読み込むことで各分野のフロンティアを垣間みることができたと思います。また、
プレゼンテーションやレポートなどではグループワークが課されました。国籍や考え方が大
きく異なるチームの意見をどうまとめるか、またどのように役割を分担するか等非常に苦労
しましたが、将来に向けてのいい経験ができたと思います。
環境科学では GIS and Spatial Analysis という科目を履修しました。オーストラリアへの
留学前から使用したことこそなかったものの Geographic Information System(地理情報シ
ステム、以下 GIS)というソフトウェアでの商圏分析といったエリアマーケティングの分野で
の可能性を私は感じており、是非この GIS でどんなことができるのかを知りたいという思い
から履修を決めました。学期を通してプロジェクトを進めるというのが骨子で、レクチャー
では GIS の理論分野、演習では実際に ArcGIS を用いてプロジェクトに関する分析を行うと
いうものでした。プロジェクト内容ですが、ANU の研究施設を Kioloa という地域に作る際
に、その地域の最適な土地利用について考えよというものでした。最適な土地利用のために
は、保護地域、農業地域、森林利用、建物の場所また洪水や火事と行った自然災害のリスク
なども考慮する必要があります。そこで例えば斜面の角度や道路との距離によって土地のコ
ストを変えたり、土地が高いところや海岸に近いところの価値を上げたりなどをし、各地域
に点数をつけ保護地域用のモデルや農業用のモデルなどを作り、それらを Multi Objective
Land Evaluation(MOLA)という手法によって weight をつけて最適なマップを作るという作
業を行いました。Science の科目であり一橋大学ではおそらく触れることのなかったことを
学べたのでとてもいい経験ができました。GIS のフリーソフトもいくつか存在するというこ
とを聞いたので、今後も学習を続けていこうと考えています。
2.
課外活動
ANU では学業の他に Ultimate Frisbee(アルティメットフリスビー)というスポーツを
部活動でやっていました。おそらく日本ではアルティメットをご存知の方は少ないでしょう。
ルールはラグビーのようでパスをつないでいき、ラインを超えてキャッチすればポイントと
いうものです。フリスビーと聞くと緩い遊びのように聞こえるかも知れませんが、このアル
ティメットというスポーツ、非常に戦略的でタフな種目です。私はアルティメットを通して
チームへの貢献方法について実力と信頼という二つの面から多くを考えさせられました。
一つ目の実力に関してですが、ANU のクラブに所属する前、私のアルティメットの経験
はというと一橋大学のスポーツ方法 I でフライングディスクをとっていたぐらいであり、大
まかなルールは知っていたもののほとんど初心者同然でした。ところがなんと ANU の
Ultimate Frisbee Club はとても強く、今年はなんと全オーストラリア大学大会で3位であ
り、U-23 のオーストラリア代表も数多くクラブから選出されていました。また、これまで
バドミントンやソフトテニスといった多くて2人の個人種目しか経験がなかったため、集団
スポーツの難しさを知りました。まずは何よりも個人戦がないため、試合に出るためには実
力をつけなければなりません。そのために毎回の練習後にノートをつけたり、周りから積極
的にアドバイスをもらったり、部活外の日にも昼休みなどを使い友達とフリスビーを投げ練
習をしました。また、一ヶ月ほど大学外のチームでの練習も参加させてもらうなどして猛特
訓していきました。キッチンで料理中に皿などを使って素振りをしていて友達に笑われたこ
ともしばしばありました。
また集団スポーツであるが故にチームメイトとのコミュニケーションが非常に重要でした。
そして私はこの部分に入部当初非常に苦労しました。語学面ももちろんですが、文化の違い
というものが大きな理由です。部員のほとんどがオーストラリア人であり、他の留学生もア
メリカやイギリス、ドイツ、オランダといった欧米諸国からでありアジア人が男子では2人
しかおらず、どこか圧倒されていました。そして何よりも欧米文化では自分から積極的に存
在をアピールし、意見を主張していかなければなりません。そこで、プレー中や練習中にで
きるだけ大きな声を出すことを心がけ、1人2人と少しずつ会話をしていくことで徐々に信
頼を得ることができました。
このように実力をつけ、信頼を得ていった結果としてある投げ方において部内で一番うま
いとまで言われるようになり、それを活かした戦略までチームとして立てられるようになり
ました。しかしながら、非常に残念なことに一番大きな試合には出場することができません
でした。ですが、小さな試合にはいくつか出場でき、シドニーといった都市に遠征試合に行
くという貴重な経験を積むことができました。朝4時にチームメイトの車で出発し、マクド
ナルドで朝食をとり、試合をし、日帰りの場合は水平線上に広がる星を眺めながら帰宅し、
泊まりの場合は大音量のクラブでパーティーをするなど本当にたくさんの思い出ができまし
た。
3.
寮生活
学業や部活などいろいろ取り組んでいたのですが、やはり生活の中心は寮生活でした。私
は Burton and Garran Hall という寮に済んでいたのですが、驚くべきはキッチンの大きさ
でなんと500人以上の寮生が一つのキッチンエリアで料理をするのです。過去にあそこま
で巨大なキッチンを私は見たことがありませんでしたし、これからもないでしょう。巨大キ
ッチンでみんな料理を作りご飯を食べるので、その場で私も数多くの友人を作ることができ
ました。また、寮生活は学業の面でも非常に多くの刺激を受けました。私は一部で話題にな
るぐらい寮の computer lab に居座っていたのですが、そこでは朝から晩まで必死に勉強す
る学生の姿を見ることができました。そのような場では講義内容を友人と相談したり過去の
履修者に質問したりする姿もよく見受けられ、お互いが切磋琢磨し合う様子に寮生活の強み
を感じました。
寮生活において時事問題・政治問題についても友人と議論する場がよくありました。オー
ストラリアが今後どのような立場をとっていくのかといった国のあり方の話から中国などで
行われている反日教育、それに対し日本がどのように考えているのか、どう変えていけばい
いかといった話までおそらく日本にいる間ではできなかった内容を議論することができまし
た。そして、当時寮には日本人が僕1人のみであったため自分の意見≒日本を代表しての意
見となるので、発言に関する責任感と自分(日本)の意見を発信していくことの重要性を改
めて考えさせられました。
一年という短い期間でしたが、今回の留学ではここには書ききれないほど貴重な経験を積む
ことができました。このような素晴らしいチャンスを与えてくださった如水会の皆様、明治
産業株式会社及び明産株式会社の皆様に心より御礼申し上げます。そして国際課の皆様とご
指導いただきました清水洋先生にこの場を借りてお礼をもし上げると共に、留学報告とさせ
て頂きます。
Ultimate Frisbee club のチームメイトと共に
のチームメイトと共に
あるキャンベラの夕日
(2013/12/27)