校外活動で情報を収集し整理する能力を高める指導法の研究 -「ディジタルワークシート」を活用した総合的な学習の時間の授業実践を通して- 真庭市立中津井小学校 教諭 中 井 良 徳 研究の概要 本研究では,小学校第3学年の総合的な学習の時間において,校外で調べる活動を通して,情報を収集 し整理する能力を高めるための指導法を探った。具体的にはタブレットPC上の「ディジタルワークシー ト」を活用して,収集した写真の情報としての価値に気付かせ,さらに他の情報(数値,文章)と組み合 わせて整理することで,お互いに共有できる情報になることを体験的にとらえさせた。その結果,収集し た情報を比べたりまとめたりして,正確さや適正さを判断しながら情報を収集し整理しようとする意識の 高まりが認められた。また,様々な情報の収集法を教えることで,思いつく情報の収集手段が増えた。 [キーワード] 情報を収集し整理する能力 ディジタルワークシート タブレットPC 校外活動 1 はじめに での活用が可能になる。 総合的な学習の時間については, 「教科の枠では そこで,タブレットPCの機動性や操作性を生 できなかった体験的な学習,長期にわたった課題 かした「ディジタルワークシート」を作成し,校 学習,校外活動など学校の工夫による様々な学習 外で工夫して活用させることによって,情報を収 活動が期待されている。これらの学習活動そのも 集し整理する能力を高めることができると考え, のが情報活用の実践力の育成に最適な場面といえ 本研究を行った。 る。 」と述べられている (1) 。 総合的な学習の時間では,調査活動を校外で行 2 研究の目的 い,情報を収集する機会が多い。児童はディジタ タブレットPCの機動性や操作性を生かした ルカメラで写真を撮り,人々にインタビューをす 「ディジタルワークシート」を作成し,授業実践 る。さらに気が付いたことをメモに取っていくよ を行う。活用した場合と活用しなかった場合とで うな活動が多い。 児童の意識の違いを比較し, 「ディジタルワークシ しかし,適切な手だてがないと,集められた情 ート」を活用した授業が,児童の情報を収集し整 報は整理されず,何のための情報か分からなくな 理する能力を高めることに有効であるかどうかを ったり,不十分な情報のため再調査が必要になっ 検証する。 たりする。特に調査活動の経験の浅い児童にとっ ては,メモを取る能力,必要な情報を取捨選択で 3 「ディジタルワークシート」の作成 「ディジタルワークシート」は, 「OneNote(マ きる能力は十分ではなく,一定時間内での効果的 な活動が行いづらい傾向がある。 小林らは,携帯情報機器の活用が,情報活用の イクロソフト社)」で作成し,3~4名のグループ で1台のタブレットPCを活用した。 実践力における,必要な情報を収集・選択して活 用する力を育成する上で有効であることを示して いる(2)。校外で情報を収集し整理するのに有効 3.1.「ディジタルワークシート」で高めたい能力 な学習の道具としてタブレットPCがある。タブ 第3学年の児童が情報を収集し整理する活動の中 レットPCは,コンピュータの操作経験が少ない で高めたい能力として次の2点に着目した。 児童でも,簡単に画像が貼り付けられる,ペン入 ・ (3) から, 本実践では, 「情報教育の目標リスト」 力ができる,情報を共有できるといった特長があ 身近なところから様々なメディアを使って情 る。また,軽量で長時間バッテリのため校外活動 報を集める ・ - 17 - 集めた情報を比べたり,まとめたりできる 3.2.「ディジタルワークシート」の内容 写真情報を収集する時, 「同じ場所の写真を2枚 「ディジタルワークシート」は,図1のように 以上撮る」という指示を出し,そのうち1枚を選 「書き込みワークシート」 ,「情報ボックス」 , 「調 択させる。どの写真を選択するかを判断する場を べ方とらのまき」, 「地図情報」で構成した。 作り,情報の正確さや適正さについて話し合わせ ることができるようにする。 また,選択した写真と実物を見ながら情報を 「デ 調べ方とらのまき ィジタルワークシート」に書き込ませる。タブレ ディジタルカメラの使い方, インタビューなどの留意点 ットPCの機動性を生かして,その場で写真と実 物を比べながら,収集した情報の正確さや適正さ を判断させ,必要に応じて再収集を行わせること ができるようにする。 (2) グループで収集した情報の共有 一つの情 報ご と にページ作成 タイトルをつける 単元の最後に報告書を作成させる。グループで 収集した情報を,ネットワークを介して共有し, 写真を貼り付ける 活用させることで,情報の正確さや適正さが大切 であることを意識させるようにする。 書き込みワークシート 収集した日時,場所 (3) 校外での資料提示装置として 気がついたこ と などの情報を 文 章で書き込む 野外や見学先では,一斉に資料を提示すること が難しい。その時に「情報ボックス」を活用させ る。図鑑やインターネットの情報の活用体験を通 情報ボックス 日本にある古墳, 古墳時代のくらし の様子などの写真 や動画の資料 地図情報 学校周辺の主な 場所の位置情報 して,多様なメディア活用に気付かせる。 4 授業実践 「ディジタルワークシート」を活用した授業実 大仙古ふん 践を,平成 18 年6月~7月に中津井小学校第3学 年 18 名を対象に,総合的な学習の時間「飛び出 せ!中津井っ子探検隊~大谷1号墳の秘密をあば け!」の単元で行った。 図1 「ディジタルワークシート」の構成 4.1.単元構成 3.3.「ディジタルワークシート」作成の留意点 「ディジタルワークシート」の作成に当たって 単元構成は,表1に示すように第一次から第四 次の 20 時間からなる。第二次の集める活動と第三 は次の3点に留意した。 次のまとめる活動で, 「ディジタルワークシート」 ・ を活用する。 「書き込みワークシート」は,一画面に収め て分かりやすくし,集めた情報を比べたりまと 表1 単元構成 めたりできるようにする。 ・ 次数 「情報ボックス」には,図鑑やインターネッ 学習内容 時間数 3 トの内容を入れ,情報収集の選択肢が広がるよ 第二次 校外に出かけ,情報を集める。 12 うにする。 第三次 集めた情報を報告書にまとめる。 4 第四次 報告書を発表し,相互評価する。 1 ・ 第一次 探検の計画を立てる。 文字や写真は大きく表示して,4~5名のグ ループが校外で活用できるようにする。 4.2.授業の様子 3.4.授業で効果を上げるための手だて (1) 情報の正確さや適正さを判断する場面の設定 第二次第6~8時にディジタルカメラや巻尺を 使って大谷1号墳の情報を収集した。教師が「同 - 18 - じ場所の写真を2枚以上撮る」という指示を出し 表2 意識調査の質問内容 た後,3~4名のグループに分かれて写真を撮影 質問内容 ①知らないことを調べることは好きですか。 した。 その後, 「伝えたいもの全体が写っている」 , ②何について調べればよいか分かりましたか。 「大きさがよく分かる」などの観点で写真を選択 ③調べる方法を考えることができましたか。 し, 「ディジタルワークシート」に貼り付けた。そ ④調べる方法はうまくいきましたか。 れから,巻尺で大きさを測定したり周りの様子を ⑤欲しい資料を集めることができましたか。 観察したりして,受け手に客観的に分かる資料に ⑥撮った写真が良いか悪いかという自分の考えを言うことができましたか。 ⑦写真だけでは伝えたいことはきちんと伝わらないと思いますか。 していった(図2)。グループで作業をしていく中 ⑧調べたことをまとめる時,自分の考えを言うことができましたか。 で,測定した数値が誤っていたりもっと詳しく見 ⑨グループで話し合いができましたか。 てみたいことがあったりすればその都度調べ直し ⑩調べたことを写真や文章などでまとめることができましたか。 ⑪調べたことは相手のことを考えて整理することが必要だと思いますか。 をしていった。 ⑫他のグループの資料は参考になりますか。 ⑬調べる方法をたくさん書きましょう。 ⑭調べる時に気を付けることを書きましょう。 5.1.情報活用能力に関わる評価 (1) 情報を収集する手段の記述数 表2の⑬「調べる方法」については,自由記述 で回答を求め,似通っていたりあいまいであった 図2 情報を整理する様子(左)と画面(右) りする表現を除外したものを有効記述数とした。 表3には,標本数 17 の有効記述数の平均値,標準 第二次第9~11 時には,地域にある資料館の見 偏差,t値を示している。情報を収集する手段の 学で,インタビュー活動を取り入れた。イメージ 数の変容について, 「事前-紙のワークシート活用 を持ちづらい点について,児童は「ディジタルワ 後」の比較では有意差が認められなかったが, 「紙 ークシート」の「情報ボックス」から埋蔵物の写 のワークシート活用後-ディジタルワークシート 真,古墳時代の生活の様子の動画などで情報を得 活用後」の比較では,有意水準 0.1%で有意差が た(図3) 。 認められた。事前では「人に聞く」 ,「見に行く」 が情報を収集する手段だったが,紙のワークシー トを活用した授業後には「ディジタルカメラで撮 影する」 , 「大きさを巻尺で計る」,さらに「ディジ タルワークシート」を活用した授業後には「図鑑 で調べる」 , 「インターネットで調べる」と情報を 収集する手段の数が多くなった。 表3 「情報を収集する手段」の数の調査 質問内容 ⑬調べる方法をたくさん書きましょう。 平均値 標準偏差 t値 事前 紙ワークシート活用後 事前 紙ワークシート活用後 1.3 1.8 0.7 1.0 1.65 平均値 標準偏差 t値 図3 「資料ボックス」から情報を得る様子 5 実践結果と考察 表2は,今回の授業実践に関した児童の意識調 紙ワークシート活用後 ディジタルワークシート活用後 紙ワークシート活用後 ディジタルワークシート活用後 査である。項目⑬と⑭については,授業実践前(6 1.8 月7日)にも調査を行い,実践後との意識の違い 3.0 1.0 1.0 4.24 有意水準 有意水準 *** (2) 「情報の適正さ」の記述数 を比較した。 表2の⑭「調べる時の留意点」についても自由 また,紙のワークシート活用後(6月 12 日)と 記述で回答を求め,情報の正確さや適正さに関す 「ディジタルワークシート」活用後(6月 21 日) る記述を有効記述数とした。表4には,標本数 17 には,①~⑭の全項目の調査を行い,比較した。 の有効記述数の平均値,標準偏差,t値を示して - 19 - いる。情報の適正さに対する意識の変容について, 表6 「ディジタルワークシート」に対する児童の評価 事前・紙のワークシート活用では有意水準5%で 質問内容 そう思う ややそう思う どちらでもない やや思わない そう思わない 有意差が認められた。 「紙のワークシート活用後- ①操作は簡単か。 55 17 22 6 0 ディジタルワークシート活用後」では有意差は認 ②話し合いがしやすいか。 50 44 6 0 0 められなかったが,有効な記述ができた児童数は ③分かりやすく整理ができたか。 50 44 6 0 0 ④発表がしやすいか。 55 28 11 6 0 ⑤「情報ボックス」は役に立つか。 83 11 6 0 0 ⑥「調べ方とらのまき」は役に立つか。 22 11 67 0 0 増えていた。事前は, 「ふざけない」などの態度面 の内容の記述がほとんどであったが, 「ディジタル ワークシート」を活用した授業後には, 「長さは正 標本数=18,数値は% 確に測る」 , 「様子がよく分かる写真を撮る」など 5.3.考察 の情報の正確さや適正さを意識した記述が増えた。 有効性を実践結果から考察する。 表4 「情報の適正さ」に対する意識調査 質問内容 ⑭調べる時に気を付けることを書きましょう。 平均値 標準偏差 t値 事前 紙ワークシート活用後 事前 紙ワークシート活用後 0.0 0.4 0.0 0.7 2.38 平均値 標準偏差 t値 紙ワークシート活用後 ディジタルワークシート活用後 紙ワークシート活用後 ディジタルワークシート活用後 0.4 0.5 0.7 0.7 「ディジタルワークシート」を活用した授業の (1) 情報を収集する手段 見学やインタビューなどの実際の活動に加え, 有意水準 「情報ボックス」で様々なメディアを体験する活 * 動により,児童が情報を収集する手段として有益 有意水準 0.37 であった。そのため, 「ディジタルワークシート」 活用後の児童の「情報を収集する手段の数」が増 (3) 「情報の正確さ」に対する意識の変容 えている。 表2の①~⑫については, 「そう思う‐5点」 , (2) 収集した情報を分析・整理する能力 「ややそう思う‐4点」 , 「どちらでもない‐3点」 , 収集した情報を整理する活動での「ディジタル 「やや思わない‐2点」 ,「そう思わない‐1点」 ワークシート」の活用は,情報の正確さや適正さ の5件法で回答を求めた。 について話し合う上での大きな支援になっている。 表5には,表2の⑦「情報の正確さ」について, そのため,情報の正確さや適正さを意識する児童 標本数 17 の平均値,標準偏差, t値を示している。 の数が増えている。活用に当たっては,複数の写 「写真だけでは伝えたいことはきちんと伝わらな 真から1枚を選択する場を作ったり, 「何を伝える い」という意識の変容について,有意水準5%で ための写真かな?」といった助言をしたりするな 有意差が認められた。 「ディジタルワークシート」 どの教師の支援が重要であった。 を活用しなかった授業後より「ディジタルワーク シート」を活用した授業後の方が「写真だけでは 6 おわりに 伝えたいことはきちんと伝わらない」と考える意 タブレットPCの機動性や操作性を生かした 識が高まった。 「ディジタルワークシート」を活用した授業は, 児童の情報を収集し整理する能力を高めることに 表5 「情報の正確さ」に対する意識調査 質問内容 ⑦写真だけでは伝えたいことはきちんと伝わらないと思いますか。 平均値 標準偏差 t値 有意水準 紙ワークシート活用後 ディジタルワークシート活用後 紙ワークシート活用後 ディジタルワークシート活用後 1.8 2.6 1.0 1.4 2.31 * 有効であった。 本実践では様々なメディアを使って情報を収集 する手段の数は増えた。しかし,その手段が適切 に扱われているかどうかは十分に吟味が必要であ る。今後は,適切な情報手段を選択する視点も組 5.2.「ディジタルワークシート」の評価 また, 「ディジタルワークシート」に対する児童 の意識調査を5件法で行った。 表6は調査の結果である。六つの質問項目のう ち,四つの質問項目②,③,④,⑤において, 「そ う思う」 ,「ややそう思う」を合わせた肯定的な回 答が8割を超えている。 み入れて実践を進めていきたい。 [参考文献等] (1) 文部科学省:情報教育の実践と学校の情報化~ 新「情報教育に関する手引き」~,2002 (2) 小林朝雄ほか:携帯情報機器を活用した学習支 援,岡山県情報教育センター研究紀要,2005 (3) 情報ネットワーク教育活用研究協議会:情報教 育の目標リスト http://kayoo.org/home/ - 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