第 45 回日本小児歯科学会 ワークショップ(2)報告書 日 時 : 2007年7

第 45 回日本小児歯科学会
ワークショップ(2)報告書
日
時
:
2007年7月 19 日(木)
16:00∼18:00
会
場
:
タワーホール船堀
題
名
:
初期う蝕への対応を考え る
(120分)
407 号室
う蝕新時代の診断と処置
報告者:柘植
紳平
主旨:う蝕は歯周病とならぶ2大疾患の一つである。臨床に携わる小児歯科医
が最も多く診断し処置する疾患である。このう蝕の病態は時代とともに変化し
ている。「う蝕洪水の時代」(昭和40年代
50年代初頭)には、早く発見し
て切削修復しないと重症化し、歯の喪失につながったが、今では罹患率も減少
し、う蝕も軽症化してきている。これに伴って当然う蝕の診断や処置の内容も
変化するはずである。診断と処置に関して何が重要で何が緊急性があるのか。
我々が社会から信頼される歯科医師であるために検討してみる。
基調講演の内容:初期う蝕への対応を考える。
う蝕新時代の診断と処置
基調講演者:柘植紳平(岐阜県)
* 集団健診と診療室での診断の違い:集団健診はスクリーニング、診療室では
処置を前提とした確定診断
* 初期う蝕検出基準の流れ
(1) 病理所見に近づける
歯科疾患実態調査(1963
1981)、島田の基準
(1971)
(2) 処置の要否で判断
(3) 要観察を検出
(4) 今後
学校保健法施行規則(1958)、WHO の基準(1971,1997)
日学歯(1986,2002)、口腔衛生学会(2000)
ICDAS㈼(2005)
* う蝕の定義:歯面と唾液との間で起きている脱灰と再石灰化の間を揺れ動く
ダイナミックなプロセス(Pitts.N.B)
* 歯科医師が 100 人いたら 100 通りの診断基準?
* 検査の信頼性:(1)診査者の誤診(判定基準によるものが最大)(2)記録
過程のミス(3)判定不能
* う蝕診断法、診断機器の移り変わり:
(1)視診(2)触診(探針使用の有無)
(3)機器
エックス線、電気抵抗測定、超音波、赤外線カメラ、FOTI、
DIAGNodent、QLF
* 処置決定の流れとカリエスリスク
* 再石灰化促進療法
* 小窩裂溝対策
* 国民から望まれる歯科医師像(厚生省編:歯科医師臨床に関する資料、1995)
* 歯科医師の任務:歯科医師法第一章第一条
結果:今回のワークショップでは基調講演を基に、KJ 法を用いて、まず「診断
と処置に関する課題は何か(個人として、組織として)」を検討し、次に「その
課題への対応策(個人として、組織として)
」を各グループで討議した。
参加者:4グループ各6名 合計24名
Aグループ
責任者:岡崎好秀(岡山大学) 参加者:王陽基(愛院大)草部能孝(愛院大)
佐伯克彦(兵庫県)下野洋史(愛院大)中江寿美(広島大)野村信人(滋賀県)
「課題は何か」
(図1): A 斑では最も緊急度が高く、最も重要な課題として
「診査・診断の基準」が上げられた。診断基準がよく分からない、Dr.によって
判断が違う、探針を使わなければ詳しくは分からない、等である。そのための
「情報」が重要であり、どこで知識を得たら良いのか、みんなで同じ基準を共
有することが重要である。その情報を「患者様」にきちんと伝えて理解しても
らうことが必要であるし、
「診療室」での対応にも関わってくる。基準がはっき
りしないと「処置」が決まらない、患者様にうまく説明できない、どこまでが
削らないで診ていくのか自信がない、などの問題が提議される。また、決まっ
た基準に対する処置法も明確にして欲しい等の意見があった。
「課題への対応策」
(図 2):「診査・診断基準」ヘの対応策では基準の統一化に
向けての意見が出された。集団として埋もれがちなCOを的確にスクリーニン
グする、ドクターとしてう蝕を判定できる目を持つこと、Dr.個人個人の健診誤
差をなくす方法、探針の使用について明確化する、等である。
「患者様との人間
関係」は、予防の大切さを伝える、患者様個人個人に対して指導を行う、地域
における口腔清掃指導の実施などであり、これが「リコール」
「リスク判定」と
関連している。これらのために重要度が高いのが「交流」である。積極的に学
会や勉強会に参加し知識を得ることが大切である。また、
「リスク分析」
(統計、
データ収集)、「治療法」
(エンドポイントの視覚化、レーザーフッ化物の活用)
も大切である。
Bグループ
責任者:鈴木広幸(福島県)
参加者:宇多川未帆(兵庫県)岡本卓真(愛院
大)近藤美砂(愛院大)竹村旭代(愛院大)中松理恵(愛院大)平野慶子(岡
山大)
「課題は何か」
(図 3)
:最も緊急度が高く重要なのは「初期う蝕に対する明確
な基準」である。基準の説明が文章でなされているため分かりにくい。など、
個人的にも組織としても基準が曖昧である。その割にはそれに対する「ディス
カッション等がない」
。また、患者への説明も曖昧なものになり、
「患者の理解」
も得にくい。
「治療」に関しても誰が行っても同じクオリティの診断・治療が行
えるにはどうしたらよいか。MI の考え方にたって行う必要がある。
「リコール」
についても、診断基準がはっきりしないため、どれぐらいの期間で行うか、経
時的な変化をどう記録していけば良いのか難しい、等の意見があった。
「探針の
使用」や「萠出途中のカリエスの処置」も離れているが診断基準と関連してい
る。
「課題への対応策」:(図4)緊急度と重要性が高いのは「リスク判定」であ
り、患者個々の状態を含めた客観的なリスク判定法を構築することが急務であ
る。そのために小児歯科学会が頑張って統一見解を作り、意見交換できる場を
増やす。それが「ドクター間の連携」につながる。そのためには、若いドクタ
ーへのしっかりした教育と術車が基準を遵守するように「統一された知識・教
育」ができるようにせねばならない。ドクターが連携して「データ集積」に努
め基準をビジュアル化すること。それと平行して「診査方法の統一化」が重要
である。
C グループ
責任者:星野倫範(長崎大学)
参加者:加藤孝明(愛院大)佐々真由子(愛
院大)竹中裕貴(岐阜県)寺田奈津子(愛院大)仲村陽平(兵庫県)宮川佳子
(愛院大)
「課題は何か」
(図 5):C グループは「診断基準」が緊急度重要度とも最も高
い課題とした。診断基準が術者の感覚による、治療が必要か不要かのボーダー
曖昧である、毎回同じ基準で診断できるか、等が個人の課題とした上げられ、
組織としては、集団検診の診断基準にばらつきがある、ビジュアルで判断基準
を統一する必要性等の意見があった。具体的には「経過・予後・モチベーショ
ン」としてまとめられ、予防処置と経過観察、初期う蝕について明確な説明が
できないためリコールさせられない、初期う蝕の経過をどこまで負うことがで
きるか等の意見があった。診断基準の山に関連して「スクリーニング」
「診断条
件」の山があり、集団健診でどこまで初期う蝕が検出できるか、証明等の環境
による診断誤差、整った設備を使えない、等の意見があった。緊急度は低いが
重要度としては最も高いと言える「保険点数」の問題もある。経験や技術に差
があるのに同じ点数である、小児治療の点数の問題などが上げられ、それと関
連して「ドクターのモチベーション」という意見もあった。
「課題への対応策」
(図 6):「診断基準」に対しては、歯科全体で統一した基
準を作る、院内カンファレンスで視診の基準を作る、認定医専門医の元での研
修を義務化する、術者の感覚ではなく、明確に数値化できる機器を使って診断
する等の意見があり、その「対応」として「教育」「説明」「処置」がある。ま
た、
「検診制度」の在り方を見直す、健診者の複数化、健診場所を作る、学校等
の検診頻度を上げる、関心の低い家庭への呼びかけなどの意見があった。そし
てやはり「診療報酬」の問題が重要性が大きい。経験年数、技術力に応じた点
数の配分、や自費の健診等を考えていかねばならない。
Dグループ
責任者:蔵本銘子(広島大学)
参加者:荻田修二(三重県)加藤真理(愛院
大)澤田奈緒(愛院大)徳倉健(愛院大)丹羽英之(愛院大)藤原里紗(兵庫
県)
「課題は何か」
(図 7):D グループでは、最も緊急性が高く最も重要なことと
して「診査・診断基準の統一」を上げた。組織として診断基準の画一化や診断
方法のマニュアル化、各自治体レベルでの基準の統一が必要であるとした。C
Oについては、歯科医師の認知度を高める、COの状態を正しくし会誌に教え
る等の意見があった。このグループでは「予防における公的機関の役割の重要
性」に多くの意見が上げられた。自治体と連携しての集団健診、法的健診以外
の健診、母子教室での集団指導の充実、健康フェスティバル等におけるフッ素
塗布・洗口の実施、幼稚園・保育園・小学校における指導やフッ化物応用等の
意見があった。緊急性は基準の統一ほどではないが重要度の高いこととして「患
者教育」が上げられた。初期う蝕に対する認識や意識の向上、う蝕の原因、C
Oの認識などの意見が出され、患者にきちんと説明できる歯科医師のスキルア
ップ、各クリニックでの健康教室等が受け入れ側の問題として出された。
「課題への対応策」
(図 8)
:最も緊急性が高く重要度が高い「診査・診断基準
の統一」に関しては、組織として、小児歯科学会が統一した基準を発表する、
小児歯科学会から日本歯科医師会を通じて各歯科医に正しい診断基準及び処置
法を伝達する、歯科医師会、自治体等で基準を調整する等の意見が出された。
個人としては、予防に関する知識を身につける、歯だけ見ないで生活態度を見
る、知識の強化、等の意見が出された。
「公的機関での予防」では、小児科と連
携して初期う蝕の実態と予防についてアピールする、各地域の小児歯科専門医
が歯科医師会等を通じて公的機関にアピールする等が出された。そして課題で
は出てこなかった「院内での対応」が患者教育にはなくてはならないものとし
て上げられ、患者さんとの信頼関係を築く、ドクターのコミニュケーション能
力、診療室の良い雰囲気づくり等が「患者教育」の効果を高める。
「患者教育」
では、はがきチラシの配布、ホームページの活用、きちんとした説明等ととも
に、組織として患者教育のための勉強会の提供や指導内容の統一化、患者個々
の状態にあった指導内容の充実に努める、などの意見が出された。
総括:すべてのグループが緊急度重要度ともに最も高いとした課題は「診断基
準の統一」であった。組織としてその時代に適合した診断基準を歯科医師会な
り学会なりがイニシアティブを取って統一し、情報伝達に努める。一方では歯
科医師個人として常に情報収集を怠らないようにすることが重要である、とい
える。今の診断基準は非常に曖昧に捉えられており、浸透していないことを伺
わせる結果となった。その他の課題や対応策は、グループそれぞれの特徴が出
ており、ワークショップとして一応の成果をあげることができたと思われる。
残念だったのは全体的に時間に余裕がなく、参加者同士の交流や各グループ同
士の意見交換がほとんどできなかったことである。
ワークショップを終えてグループ責任者から出された意見としては、
* テーマについてグループで話し合い意見をまとめて発表する形式は各グルー
プでいろんな意見が出てとても良かった。
* 各グループに大学の人や開業医の先生や衛生士がうまく配分されていたのも
よかった。
* 慣れていない先生が多く、設定された課題に対する答えを導き出すのに時間
がかかった。
* 若い先生が多かったので、同じような考えに偏ってしまって個性的な意見が
少なかったのが残念だった。
* 全国各地、各年代の様々なドクターの齲蝕に関する認識の違いを意見交換す
る場を作ることが出来て非常に興味深いものとなったのではないかと思う。
また、改善すべき点としては,
*ワークショップの時間が短すぎたことが一番の問題であった。
* 自己紹介の時間を長く取ってもらって、班のメンバー同士がもうちょっと交
流したり、発表の後にみんなが自由に討論して話し合う時間が欲しかった。
* 事前に、WSの進行方法、概略を通知し、自分がWSでどのような役割をするか
を考えてもらう時間が必要であった。
* 課題の設問をもっと具体的な回答を導き出せるような質問にするとよかった。
(ただしこれは注意しないと一問一答的になり、多岐に渡る答えを得られな
い。)
* 発表の時に,問題点と解決策の2枚の用紙を並べて貼って発表するスペース
があれば内容をもっと理解しやすかった。
以上、ワークショップ(2)の報告とする。
う蝕新時代の診断と処置
課題は何か
重
要
度
A斑
情報
診査・診断基準
患者様
診療室での
対応
処置
図1
緊急度
う蝕新時代の診断と処置
課題ヘの対応策
重
要
度
交流
A斑
患者様との
人間関係
診査・診断の
基準
リスク分析
リスクの判定
リコール
治療法
図2
緊急度
1
重
要
度
う蝕新時代の診断と処置
課題は何か
萠出途中のカ
リエス処置
B斑
初期う蝕に対
する明確な基
準
患者の理解
探針の使用に
ついて
治療について
ディスカッ
ションの機会
リコールに
ついて
図3
重
要
度
う蝕新時代の診断と処置
課題ヘの対応策
審査方法の
統一化
データ収集
統一された
知識・教育
図4
緊急度
B斑
リスク判定
ドクター間の
連携
緊急度
2
う蝕新時代の診断と処置
課題は何か
重
要
度
保健点数
C斑
スクリー
ニング
ドクターのモ
チベーション
診断基準
診断条件
経過・予後・
モチベーショ
ン
図5
重
要
度
う蝕新時代の診断と処置
課題ヘの対応策
緊急度
C斑
診療報酬
診断基準
検診制度
教育
説明
処置
対応
図6
緊急度
3
う蝕新時代の診断と処置
課題は何か
重
要
度
患者教育
D斑
公的機関
での予防
診査・診断基
準の統一
図7
う蝕新時代の診断と処置
課題への対応策
重
要
度
患者教育
公的機関
での予防
緊急度
D斑
診査・診断基
準の統一
院内での対処
図8
緊急度
4