東京Bグレードオフィス 注目すべき投資セクター

Advance
5HVHDUFK5HSRUW
August 2013
東京Bグレードオフィス
注目すべき投資セクター
2 Advance
東京Bグレードオフィス
− 注目すべき投資セクター
図表1.
1. 日本経済と東京オフィスマーケット概観
世界主要都市オフィス賃料推移
100
れている日本は、特に金融緩和の恩恵を大きく受ける不動産市場は
国内外から熱い視線を浴びている。2008年の世界金融危機以降、
世界主要都市におけるオフィス市場の回復がみられた中で、唯一出
遅れていた日本において東京Aグレードオフィス
(以下、Aグレード)
市場のピーク = 100
「アベノミクス」
により、株式市場の改善と消費活動の活発化がみら
85
79
80
73
60
60
市場がようやく上向きとなってきたことも、海外から注目を集めてい
48
る大きな要因である
(図表1)
。
本レポートではこのような現在の市場環境下で、投資対象として最
40
4Q06
もシェアが高いオフィスセクターにおいて実質的に投資の中心と
東京
なっている東京Bグレードオフィス
(以下、Bグレード)市場の現状と
今後の見通しを、
トップクラスビルの指標であるAグレードとの比較
4Q07
4Q08
4Q09
ロンドン
4Q10
4Q11
4Q12
ニューヨーク
香港
シンガポール
出所:ジョーンズ ラング ラサール
から考えてみたい。
世界第3位の経済大国である日本における首都東京の不動産市場、
特にオフィス市場はニューヨーク、
ロンドンと並び世界でもまれにみ
る巨大な不動産市場を形成している。
アジアの中でみても、特にここ
図表2. ジョーンズ ラング ラサール オフィスビルグレード定義
オフィス
グレード
Aグレード
数年成長著しい香港に比して約4倍の市場規模を有している。
所在エリア
東京オフィス市場をより詳細に分析してみる。
ジョーンズ ラング ラ
延床面積
サールでは東京都心5区を中心業務地区(CBD)
と定義し、
当該エ
基準階面積
リアに立地するオフィスを建物スペックに応じてグレード分けしてい
建物高さ
る
(図表2)。
グレード毎のストック規模をみるとBグレードは貸床面
積比でAグレードの約1.2倍あり
(図表3)、棟数ベースでは約5倍に
達する非常にすそ野の広い市場であるといえる。
竣工年
東京都心5区
(千代田、
港、
中央、
新宿、
渋谷)
30,000 ㎡以上
5,000 ㎡以上
1,000 ㎡以上
300 ㎡以上
20 階以上
8 階以上
1990年以降
1982年以降
出所:ジョーンズ ラング ラサール
図表3.
オフィスグレード別ストック内訳
Aグレード
45%
(650万㎡)
Bグレード
Bグレード
55%
(790万㎡)
出所:ジョーンズ ラング ラサール
東京Bグレードオフィス 3
2. Bグレードオフィス賃貸市場 − Aグレードとの比較から
賃貸市場におけるBグレードの特性をAグレードとの比較から分析
する。
ビルグレードにより入居テナントの属性は異なってくる。例えばAグ
レードのテナントは大きな床面積を必要とする多国籍企業(MNC)
や国内大企業が多い傾向にある。一方のBグレードでは国内外の中
規模企業、専門職事務所(弁護士、会計士等)、新興企業、大企業の
支店といったテナントが中心となっており、
それぞれ特徴が異なって
いる。
このようにテナント属性の違いがあることからオフィスグレード毎に
マーケット環境も異なる傾向がある。
まず、2013年3月末現在のマーケット状況(図表4)
を見てみると、B
グレードの賃料水準はAグレードの約6割で、空室率は1%程度高く
なっている。
Aグレード賃料は昨年第2四半期に上昇に転じて以降4
四半期連続上昇、Bグレードは19四半期ぶりにわずかながらも上昇
ると、前回の賃料ピークはAグレードで2008年3月末、Bグレードで
2008年6月末と1四半期のラグ、賃料ボトムはAグレードで2012年
3月末、Bグレードで2012年12月末と3四半期のタイムラグがみら
れる。
に転じ、現在底値圏より脱出しつつある。
このようにマーケットサイク
ジョーンズ ラング ラサール プロパティ クロック
(図表5)
で、2013年
ルがオフィスグレードにより異なっており、Aグレードが先行し、
やや
3月末現在のマーケットサイクルを表すと、Aグレードは7時過ぎ、B
遅れてBグレードが追従する関係が見てとれる。過去のデータをみ
グレードは6時頃となっている。
図表4.
東京オフィス市場指標
オフィスグレード
賃料
(共益費込)
空室率
円/坪
前四半期比
前年比
3月末
前四半期比
Bグレード
JPY 19,002
0.9%
-2.1%
5.2%
-0.7% (↓)
Aグレード
JPY 31,282
0.7%
2.6%
4.4%
0.1% (↑)
出所:ジョーンズ ラング ラサール
図表5.
オフィス プロパティ クロック(2013年3月末)
Americas
Asia Pacific
EMEA
Paris CBD
Beijing
Berlin
Moscow
Hong Kong
Frankfurt
London
Mumbai
New York, Tokyo A
(東京A)
Seoul
出所:ジョーンズ ラング ラサール
Sydney
Washington DC
Chicago, Osaka A
(大阪A)
Tokyo B(東京B), Shanghai, Singapore
4 Advance
また、賃料・空室率の変動もグレードにより異
図表6. 賃料・空室率 変動幅比較
なっている。過去の推移をみても、市場のピーク
賃料
とボトムの差は、市場の上昇・下落期にかかわら
上昇期
+23,610 円
1Q04 → 1Q08
下落期
-21,945 円
1Q08 → 1Q12
られるため、Bグレードの方がより安定している。
空室率
Aグレード
よって、安定性を重視するよりコア寄りの投資家
低下期
-12.2 pts
2Q03 → 4Q06
上昇期
+7.2 pts
4Q06 → 2Q10
Aグレード
ず、Bグレードの方が賃料・空室率ともに変動幅
(ボラティリティ)
が小さくなっている
(図表6、
7)
。
比較
>
Bグレード
+8,730 円
1Q05 → 2Q08
-12,462 円
2Q08 → 4Q12
ボラティリティの大きさはリスクの大きさと考え
に適しているといえる。
3. Bグレードオフィス売買市場
比較
>
Bグレード
-6.3 pts
3Q03 → 2Q07
+5.9 pts
2Q07 → 1Q11
出所:ジョーンズ ラング ラサール
− Aグレードとの比較から
との比較から分析する。
図表7. 賃料・空室率の推移
60,000
14%
まずオフィスグレード毎に所有者をみてみる。
もしくは生命保険会社等が所有しており、長期
保有の所有者であるため、売却されることは極め
て稀である。
したがって、国内外を問わず第三者
賃料(円/坪)
Aグレードの大部分は、国内の大手デベロッパー
12%
10%
40,000
8%
6%
20,000
4%
2%
には投資機会がきわめて限られているのが現状
である。一方、Bグレードは物件の絶対数が多く、
所有者も事業法人・不動産ファンド・個人等、多
種多様であり、それぞれ売却を含めた投資戦略
が異なることから流動性が高く、投資チャンスが
多く存在していると考えられる。
0
0%
4Q02 4Q03 4Q04 4Q05 4Q06 4Q07 4Q08 4Q09 4Q10 4Q11 4Q12
Aグレード賃料(左軸)
Aグレード空室率(右軸)
出所:ジョーンズ ラング ラサール
次に、2011-2012年の間に東京都心5区で取
引されたオフィス売買事例の内訳(図表8)
をみる
と、Bグレードの取引数はAグレードのほぼ2倍
ある。更にAグレードの取引がJ-REITとそのスポ
図表8. オフィスグレード別 売買件数内訳
ンサー間の取引が中心となっていることを鑑みる
と、Bグレードにおける投資チャンスはAグレード
よりもはるかに多いと判断できる。
なお、Bより低
いグレードに関しては、
これらの多くは築年数が
経過している耐震性能の低いビル、小規模で市
場競争力の低いビルが大部分を占めていること
Aグレード
36%
Bグレード
64%
から、
オーソドックスな投資の観点からみると対
象外になるものが多いと考えられる。
よって、最大のボリュームゾーンであるBグレード
が投資対象の中心として注目されることは当然と
いえる。
出所:ジョーンズ ラング ラサール
Bグレード賃料(左軸)
Bグレード空室率(右軸)
空室率
売買市場におけるBグレードの特性をAグレード
東京Bグレードオフィス 5
昨年末以降、J-REITが取得したBグレードの事例(図表9)
を見てみると、NOIキャップレートは4-6%のレンジにあり、Aグレードの3.5-4%に
比べ相対的に高い水準となっていることがわかる。
図表9. Bグレードオフィス 売買事例
外観
取引時期
2013年6月
2013年4月
2013年3月
2012年12月
2012年12月
2013年4月
ビル名
トウセン道玄坂
第二ビル
TK新橋ビル
渋谷ガーデン
フロント
パシフィック
マークス新川
新四
curumuビル
竣工年
1988
1999
2003
1992
2012
所在地
渋谷区丸山町
港区新橋
渋谷区渋谷
中央区新川
新宿区新宿
価格(百万円)
4,500
5,650
11,569
2,900
9,650
延床面積(㎡)
5,645
7,144
22,651
6,059
9,235
貸床面積*1(㎡)
4,145
5,052
8,258
4,116
6,855
貸床単価
(千円/㎡)
1,086
1,118
1,401
705
1,408
NOI キャップ
レート
4.6%
5.2%
4.3%
6.2%
4.3%
買主
大和証券オフィス
投資法人
アクティビア・
プロパティーズ
投資法人
日本ビルファンド
投資法人
国内事業会社
大和証券オフィス
投資法人
売主
ゴールドマン・
サックス
グループのSPC
デカ・イモビリエンの
ファンド
住友生命
ユナイテッド・
アーバン投資法人
国内事業会社
2社
備考
*1 共有もしくは区分の場合は、
取得部分面積。
共有持分50%
6 Advance
キャップレートの推移(図表10)を見てみると、ここ数年はA・B
図表10. 投資利回り
(NOI キャップレート)
の推移
グレードともに低下傾向にあるが、2007年末から2009年のキャッ
6%
プレート上昇期も含めて、Bグレードの変動幅が大きくなっている
(図表11)。その結果、A・Bグレード間の利回りスプレッドはマー
ケットの過熱時には縮小し、悪化時には拡大する傾向も見て取れ
5%
る。Aグレードは前述の所有者属性の特殊性から、売却されることが
130bps
稀である一方で、
買い希望者は多く、常に需要が供給を大幅に超過
している市場環境にある。
したがって、
キャップレート上昇期におい
4%
ても、
それほど大きく上昇しなかったこともあり、
その後の低下期に
おいてもその幅は小さくなっていると考えられる。一方、Bグレードの
利回りにおけるボラティリティは高い。
これは市場環境に応じて変動
し、
その時々のマーケットをより忠実に反映していることの証左であ
3%
4Q02 4Q03
4Q04 4Q05 4Q06 4Q07 4Q08 4Q09 4Q10 4Q11
Aグレード キャップレート
4Q12
Bグレード キャップレート
り、適切なタイミングで投資を行うことによりリターンを得ることが
できると考えられる。
また、利回りの変動幅が大きいことで、
オポチュ
出所:ジョーンズ ラング ラサール
ニスティックからコアまでの多様な投資家がそれぞれのステージで
参入可能であり、幅広い投資チャンスを提供してくれるフィールドで
あるといえる。
また、10年物日本国債利回りが1%を下回るような現在の超低金利
下においては、Aグレードですらある程度のスプレッドが確保できて
いるが、Bグレードの場合は更に100bpsを超える上乗せが期待で
図表11. 投資利回り
(NOI キャップレート)変動幅比較
キャップレート
低下期
上昇期
Aグレード
比較
Bグレード
-1.9 pts
-2.0 pts
3Q03 → 4Q07
<
1Q03 → 4Q07
+0.7 pts
4Q07 → 2Q10
+1.7 pts
4Q07 → 3Q09
出所:ジョーンズ ラング ラサール
きることから、
グローバルでみても投資対象として非常に魅力的であ
るといえる。
図表12. SWOT分析−Bグレードオフィス
4. Bグレードオフィスの特徴 − SWOT分析
BグレードはAグレードよりも、建物スペック・テナント属性等が劣
るため、一般論として市況はより弱く、
ネガティブに語られることが
多い。
しかし、多くの強みや機会が存在していることも事実であり、
その特
・テナントの多様性に富む
・所有者が様々
・投資対象としての物件
数が多い
・利回りスプレッドが厚い
・賃料、空室率のボラティ
リティが低い
・ステータス性が高くない
・利回りのボラティリティ
が比較的高い
・Aグレードより回復が遅
れる
・物件が玉石混交
・競合には中小オーナーも
多く、差別化が容易
・オペレーション次第で
アップサイド余地が大きい
・国内外からの投資資金の
流入
・流動性が高く、投資機会
が多い
・近隣及び類似エリア内に
多くの競合ビルが存在し
ている
・新規競合ビルが増加しや
すい
・着工から竣工までの工期
が短い
徴を十分理解したうえで取り組むことにより、
よりリスクを低くかつ
リターンを極大化することができる。実際にこれらの点に着目して、
中規模オフィスを投資対象としているJ-REITも複数銘柄存在して
いる。
Bグレードの特徴をまとめてSWOT分析を行う
(図表12)
。
Strengths: 強み Weaknesses: 弱み Opportunities: 機会 Threats: 脅威
出所:ジョーンズ ラング ラサール
東京Bグレードオフィス 7
「アベノミクス」により日本経済は明らかにセンチメントの改善がみ
5. 今後はどうなるか
前述のSWOT分析の結果、賃料・空室率のボラティリティが低く、利
回りスプレッドも厚いBグレードは、
投資機会の多さ等の多様な特性
も有していることから、非常に魅力的な投資対象であるといえる。
られており、実際2013年6月調査の日銀短観では大企業はもちろ
ん、Bグレードの中心テナントとなる中小企業の業況判断DIが6月時
点の-14から3か月後の-7と7ポイントの改善が見込まれている。
ま
た、6月発表の1-3月期GDP2次速報値でも前期比+4.1%
(年率換
現在の市場環境を見ると、
ようやく東京Aグレード賃料は本格上昇
算)
と改善がみられている。今後も続くであろう企業業績の改善はB
期に入りつつある一方で、Bグレードは未だ上昇トレンドに入ったと
グレード市場にも追い風となることが期待される。
は言えない状況にある。
しかしながら、一部ビルの賃料上昇に加え、
未だ下落しているビルにおいてもその幅は明らかに小さくなってい
る。
また、過去の回復期のタイムラグも考慮すると、Aグレードに続き
Bグレードも底値圏にあるのは間違いないであろう。
市場回復の時がすぐそこまで来ている中、動き始めているプレイヤー
も日々増えている。
この回復が迫る中、船を出し、更なる追い風を受
けるべく帆を張る時期が来た。
投資市場においても、市場の回復期待に加え世界的な金融緩和と
円安も後押しとなって、既に活況を呈しつつある。
ただ、現時点では
市場での売却物件が少ないため、本格的回復には至っていないが、
賃貸市場の回復が定着することで、売却物件も増え、更に買い手も
投資シナリオを描き易くなり、投資目線が上がってくることが予想さ
れる。
そうするとオフィスセクターのボリュームゾーンであるBグレー
ドマーケットも回復に至るであろう。逆に、Bグレードの改善がマー
ケット全体の本格的回復であるともいえる。
ただ、一言にBグレード
といっても非常に幅が広く、個別物件のスペック・立地は玉石混交で
あるため、適切な投資対象を選定するには十分な情報と目利きの能
力が必要である。
また、
コスト削減を含めた適切な管理による差別化
が可能であることから、
エキスパートによるビルマネジメントも重要
であるといえる。
問い合わせ先
犬間由博
赤城威志
リサーチ事業部
アソシエイトダイレクター
[email protected]
リサーチ事業部長
ナショナルダイレクター
[email protected]
ジョーンズ ラング ラサール株式会社
本社所在地:
三番町オフィス:
関西支社:
福岡オフィス:
〒100-0014
東京都千代田区永田町
2-13-10
プルデンシャルタワー4F
tel 03 5501 9200
〒102-0075 東京都千代田区三番町
5-7
精糖会館5F
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〒541-0053 大阪府大阪市中央区本町
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