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タンパク質水溶液からの核酸選択除去のための
ポリカチオン固定化高分子粒子の設計と応用
○坂田 眞砂代, 柳一寛, 國武 雅司,平山 忠一(熊本大学工学部)
中山 実(チッソ・熊本大学), 山口淑久 (くまもとテクノ産業財団)
1.はじめに
2.実験
現在,市販されている人体用および動物
種々のアミノ化セルロース微粒子の基体
用ワクチンの大部分は,細菌から抽出・精
としては、細孔径の異なるセルロース粒子
製されたものである。このようにして産出
(CellufineGC-15 および CPC,チッソ製)を
されたワクチン材料中には,多くの核酸
選択した。同粒子に化学修飾する官能基(リ
(DNA)も混在している。このため,これら
ガンド)としては、ポリアリルアミン(PAA,
の材料中からワクチンとしての有効成分を
分子量:10,000)、ポリエチレンイミン(PEI,
分離・精製するためには,核酸を除去する
分子量:70,000)、ポリ(ジメチルアミノプ
ことが重要な課題である。我々は、独自の
ロピルアクリルアミド)(poly-DMAPAA)(分子
懸濁重合法により調製したポリアミンの架
量:400,000)を用いた(図1)。
橋体が、DNA 選択性が高いことを報告してき
種々のアミノ化セルロース粒子は、エポ
た[1,2]。しかしながら、両架橋体の調製法
キシ化セルロース粒子に種々のポリカチオ
は、収率が低い、重合法のスケールアップ
ンを化学修飾して調製された[3]。得られた
が困難である等の問題があり、工業レベル
粒子のうち粒径 46
で製造するには到っていない。
と し て 用 い た 。 粒 子 細 孔 径 は size-
本研究では、核酸がその構造上にリン酸
exclusionchromatography による 糖の排除
残基をもつ高分子物質であることに着目し、
限界分子量(Mlim)として算出した。粒子表面
アミノ化セルロース粒子を核酸吸着剤とし
のアミノ基含有量および pKa は、pH 滴定法
て応用することを試みた。本年度は DNA 選
により定量した。DNA 吸着実験はバッチ法を
択吸着能に及ぼす粒子の細孔径およびリガ
用いて行い,吸着処理前後の試料中の DNA
ンドの化学構造の影響について調査した。
濃度は蛍光法[4],タンパク質濃度は UV 法
106µmの粒子を吸着剤
およびローリー法により定量した。
( CH2
CH )
n
( NHCH2
CH2 )
CH2NH2
Polyallylamine(PAA)
(Mw=10,000)
Polyetylenimine(PEI)
(Mw=70,000)
n
CH2= CH
CONH(CH2)3 N(CH3)2
poly-N,N’-dimethylaminopropylacrylamide
(poly-DMAPAA)
図1.核酸吸着のためのリガンド
(Mw=400,000)
ロース吸着剤の DNA およびタンパク質に対
する吸着能に及ぼす緩衝液のイオン強度の
影響を調べた結果を示す。どの吸着剤も幅
広いイ オン強度域 (μ=0.05
100
Adsorption(%)
3.結果と考察
図2に、種々のポリカチオン固定化セル
80
60
40
20
0.8) で高い
0
0
DNA 吸着率(98%以上)を示した。ポリカチ
100
吸着活性は、ポリカチオンと DNA とのマル
80
考えられる。
牛血清アルブミン (BSA) は、低いイオン
強度域 (μ=0.05
0.1)で、大きい細孔径を
もつ Cell-DMAPAA-106 吸着剤に対して高い
吸着率を示したが、イオン強度の増大とと
もに著しくその吸着率は低下した。このよ
うなイオン強度に依存する吸着は、主にイ
オン性相互作用が示唆される。一方、γ-グ
ロブリンは、緩衝液のイオン強度にあまり
依存せず、どの吸着剤とも、4
20%程度の
吸着率を示した。このようなイオン強度に
依存しない吸着は、主に疎水的吸着が示唆
される。
結 果 と し て 、 細 孔 径 の 小 さ い CellDMAPAA-103 が最も DNA 選択性が高かった。
同吸着剤は、イオン強度μ=0.2
0.8 の条
件下で、両タンパク質を吸着することなく
(4%以下)、 高い DNA 吸着率を示した。
以上の結果より、リガンドのカチオン性・
疎水性・配向性、および基体の細孔径を制
御することにより、生体環境に近い緩衝液
中で、種々のタンパク質水溶液に混在する
DNA を選択吸着除去可能な吸着剤を設計でき
ることがわかった。
今回の基礎実験に用いたリガンドである
poly(DMAPAA),PAA,および PEI は、工業レベ
ルで製造されている一般の試薬であるため、
試作吸着剤としての大量製造が期待できる。
Adsorption(%)
オン固定化セルロースの DNA に対する高い
チアタッチメント効果により生じるものと
Cell-DMAPAA-106
Cell-DMAPAA-103
0.2 0.4 0.6 0.8
Ionic strength(μ)
0
0.2 0.4 0.6 0.8
Ionic strength(μ)
1.0
Cell-PAA
Cell-PEI
60
40
20
0
0
0.2 0.4 0.6 0.8
Ionic strength(μ)
0
0.2 0.4 0.6 0.8
Ionic strength(μ)
1.0
図 2. Effect of buffer’s ionic strength on
adsorption of DNA, BSA, and γ-globulin
by various aminated cellulose adsorbents.
The selective adsorption of DNA
determined using a batchwise method
0.2 g of the wet adsorbent and 2 ml
sample solution (100 µg/ml, pH 7.0,
strength of µ = 0.05-0.8).
Sample: ○ = DNA (salmon spermary);
● = BSA; ◆= γ-globulin
was
with
of a
ionic
4.参考文献
[1] M. Sakata, K. Matsumoto, N. Obaru, M.
Kunitake, H. Mizokami, C. Hirayama, Journal
of Liquid Chromatography & Related
technologies, 26, (2), 231-246 (2003).
[2] M. Sakata, M. Nakayama, T. Kamada, M.
Kunitake, H. Mizokami, C. Hirayama, Journal
of Chromatography A, 1030, (1-2), 117-122
(2004).
[3] M. Todokoro, M. Sakata, S. Matama, M.
Kunitake, K. Ohkuma, C. Hirayama, J. Liq.
Chrom. & Rel. Technol., 25 (4), 601-614
(2002).
[4] C.F. Brunk, K.C. Jones, T.W. James, Anal.
Biochem., 92, 497-500 (1979).
[問い合せ先]坂田 眞砂代
熊本大学工学部
物質生命化学科
TEL096-342-3674
[email protected]