勤労所得と差別

経済学基礎理論A
9:勤労所得
勤労所得と差別
給料の学歴間での格差
新規学卒者の初任給:賃金構造基本統計調査(平成22年)
大学卒
高専・短大卒
高校卒
男性
200.3
173.6
160.7
女性
193.5
168.2
153.2
労働の限界生産性以外に、賃金に差がつくことはあるのだろうか?
1.均衡賃金に関するいくつかの決定要因
●補償格差:
仕事の金銭以外での属性の違いを埋め合わせるために生じる賃金の格差
世の中にはいろんな仕事が存在する
仕事A:簡単で面白くて安全
仕事B:きつくて面白くなくて危険
もし同じ賃金であれば、仕事Aにつきたがる人が圧倒的に多い
例)炭鉱労働者
炭鉱労働者は他の労働者よりも賃金が高い
理由:炭鉱で働くことは危険であり、健康にも影響が出てしまうから
例)夜勤
夜勤の工場労働者は昼間の工場労働者よりも賃金が高い
理由:夜に起きて昼間寝るというライフスタイルを強制されるため
●人的資本:
教育や実地訓練のような人々への投資の蓄積
多くの人的資本を持つ労働者は少ない人的資本を持つ労働者よりも多く稼ぐことができる。
アメリカでの例:大卒者は高卒者の二倍近く稼ぐ
理由:人的資本が多い労働者のほうが、
「 限界生産物 」を多く生産する。
高度な教育を受けた労働者のほうが、人的資本が多い。
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経済学基礎理論A
9:勤労所得
●ケース・スタディ:増大する技能・技術の価値
熟練労働者と非熟練労働者の「 賃金格差 」は拡大している。
1980
2000
高卒
大卒
差額%
36430ドル
52492ドル
44%
36770ドル
69421ドル
89%
高卒
大卒
差額%
21969ドル
29663ドル
35%
24970ドル
42575ドル
70%
男性
アメリカの例:
大卒と高卒の賃金格差は拡大している
女性
考えられる二つの理由
理由 1:国際貿易
多くの国では未熟練労働者が多く、低い賃金で働いている。アメリカは未熟練労働者が生
産した財を輸入し、熟練労働者が生産した財を輸出している。
国際貿易が拡大すると、アメリカ国内の熟練労働者の需要が「
増大
」し、未熟練労働
者の需要は「 減少 」する
理由2:技術革新
PCなどの登場により、新しい機械を使うことのできる熟練労働者の需要が「 増大 」
その一方でPCで代行できる仕事をしていた未熟練労働者の需要は「 減少 」
●能力、努力、運
能力:プロ野球選手の一軍選手と二軍選手、どちらが賃金が高いか?
生まれつきの能力が高ければ、スポーツ選手として高い賃金を得ることができる。
努力:ある人は一生懸命に働くが、ある人は怠け者
一生懸命働く人は生産性が「 高い 」
運:就職活動をする年の経済状況
●教育に関するもう一つの見方:シグナリング
大学を卒業するということ
→大学を卒業する人はもともと能力が高いために進学することが出来た。
人的資本理論:教育によって労働者の生産性が高くなる
シグナリング理論:教育水準と生まれつきの能力が相関
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9:勤労所得
●スーパースター現象
以前に比べると、一部の芸能人が多額の収入を得るようになっている。
スーパースターが生まれる市場の特徴
・その市場におけるすべての顧客が最良の生産者によって生み出される財・サービスを享
受したがっている
・そのような財・サービスは最良の生産者がすべての顧客に低い費用で供給することを可
能にする技術を用いて生産される。
(DVD、CDなど)
●均衡水準を上回る賃金:最低賃金法、労働組合、効率賃金
ある種の労働者には需要と供給が均衡する以上の水準で賃金が設定されている
1.最低賃金法
2.労働組合の市場支配力
労働組合:賃金や労働条件について雇用主と交渉する労働者の団体
労働組合は、ストライキなどを起こして、賃金を上昇させる。
いくつかの研究によれば、労働組合の存在によって賃金が 10%から 20%増える。
3.効率賃金理論
労働者の生産性を高めるために企業が均衡水準以上の賃金を支払うこと。
賃金の額によって労働者のやる気が変るのであれば、雇用主は高い賃金を払って労働者の
生産性を上げようとする。
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9:勤労所得
2.差別の経済学
●労働市場における差別の測定
差別:人種、民族、性別、年齢などの個人的属性が異なることで提供される就業機会が異
なること
アメリカにおける平均的な黒人男性の賃金は平均的な白人男性の賃金よりも 22%低い。
平均的な白人女性の賃金は平均的な白人男性の賃金よりも 11%低い。
差別の存在しない労働市場でも賃金に差は出る。
人的資本の差
白人男性に高学歴のものが多い
教育水準の差が賃金に結びついている?
仕事の経験
女性労働者は男性労働者よりも平均年齢が低い
補償格差
男性と女性は同じ仕事に就くわけではない
女性は今まで教育の機会が奪われてきた?
●雇用主による差別
人的資本や仕事の属性を考えてみても、それでも賃金に格差が存在する場合
→雇用主に責任がある?
社長が差別主義者で男性しか雇わない場合
男性しか雇わないことで、生産に余分な費用がかかる
結果として、差別を行わない企業との競争に負けてしまう
市場経済が機能しているのであれば、雇用主が差別をすることはできない
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9:勤労所得
●ケース・スタディ 人種隔離された市外電車と利潤動機
20 世紀のはじめ、アメリカ南部の町
法律のため、電車の中で白人が車内の前のほうに、黒人が後ろのほうに座る。
法律が無いとき:人種差別は無く、喫煙者と非喫煙者の隔離のほうが一般的。
法律の施行後:電車会社はしばしばこの法律に反対
異なる人種に対して別々の席を用意することは企業にとって負担増であり、
利潤を「 減少 」させるため
●顧客と政府による差別
顧客の好みと政府の政策
例)白人と黒人のウェイター
顧客の全員が白人のウェイターに給仕してもらいたいと思っている場合、
市場は差別的な賃金格差を是正できない
南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策
差別的な政策によって黒人はいくつかの仕事に就くことが禁じられてきた
市場競争には雇用主による差別を解消させる力がある。
しかし、顧客が差別的な慣行を維持する場合、政府が差別的な政策を行う場合、市場競争
は差別を是正できない。
●ケース・スタディ スポーツにおける差別
1988 年「ジャーナル・オブ・レイバー・エコノミクス」の研究
バスケットボール選手の収入
・同じ能力を持っていても、白人選手に比べて黒人選手の収入が 20%少ない。
・白人選手を多く要しているチームの観客動員数が多い。
1990 年「クウォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクス」の研究
ベースボールカードの市場価格
・同じくらいの成績であっても、白人野手に比べて黒人野手のカードの価格が 10%低い。
・投手の場合は白人に比べて、黒人のカードの価格が 16%低い。
これらの結果はスポーツの観客に差別意識が存在することを示している。
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