アシアナ航空777-200の着陸事故

HuFac Solutions, Inc.
アシアナ航空 777-200 の着陸事故
2013-07-07
更新:2013-07-17
2013-07-06 に発生したサンフランシスコ空港におけるアシアナ航空 214 便 777-200 の事故に関して、現時点
におけるコメントを述べさせていただきます。(もちろん、今後の詳細調査により修正あるいは
撤回することもあり得ます。
・ 報道によると、事故機の胴体上部が激しく焼損していますが、これは着陸の失敗によるも
のとは考えにくく、飛行中における火災発生→コンピュータを含む操縦系統の故障→着陸失敗
ではないかと思われます。
・ 下記に述べる「Fly-By-Wire 機の問題」が事故原因に関係しているものと思われます。
・ Fly-By-Wire 機は膨大な量の電線を用いていますが、重量軽減のために電線の被覆の厚さ
を最小限に設計しています。
・ そのために、経年化による被覆の固化や振動による摩耗で、電線間にアークが飛んでショートし
やすくなります。
・ 777 の胴体上部、操縦室近辺には緊急時におえるパイロットの酸素供給のためのパイプが設置さ
れており、わずかに漏れる酸素が電線間のアークで引火することがあります。
・ 2011-07-29 に、エジプト航空の同型機がカイロ空港で上記の原因で焼損(全損)しています。
・ 777 以外の Fly-By-Wire 機でも同種の火災による事故が何件か発生しています。
・ FAA は Fly-By-Wire 機における電気火災を皆無にはできないと考え、AQP というヒューマンファクタ
ー訓練を開発して法制化しています。
・ 具体的には、火災警報の計器では検知できない電気火災をパイロット自身による嗅覚や視覚、
あるいは客室乗務員の協力を得て、できるだけ早期に緊急降下、代替空港への緊急着陸を
決断するという訓練です。
・ 一時頻発したユナイテッド航空の 787 のパイロットによる緊急着陸も、我が国では過剰反応と考え
るかも知れませんが、彼らは AQP で訓練した通りの行動をとっているのです。
・ アシアナ航空のパイロットが AQP の訓練をしていたのか、214 便が代替空港に緊急着陸できなかっ
たのかが今後の調査の焦点になるのではないでしょうか?
2013-07-17 追加
アシアナ航空 214 便 777-200 の事故に関して、NTSB が事故機の DFDR(デジタル飛行記録装置)と CVR
(操縦室会話記録装置)を解読して、近年にない異例の早さで公表しています。ALPA(米国民
間航空操縦士協会)はこの動きに対して「パイロット・ミスに誘導するもの」と批判していますが、
NTSB は「NTSB は航空業界やパイロット協会のために仕事をしているのではなく、国民のために働
いているだけ」と批判を一蹴しています。今回は NTSB による最新の公表も踏まえて解説させ
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ていただきます。
・ 航空機の着陸は着陸決定高度(Decision Altitude/Height)において視界や航空機の状況
など安全を確認した上で行われます。安全な着陸が確保できそうにない場合には進入復行
(Missed Approach、いわゆるゴーアラウンド)が行われます。
・ 因みに、着陸決定高度以下での進入復行は禁止されています。接地直前に前方の滑走路に
他の航空機や車両の進入が認められた場合には、一度接地した後に再び離陸します。これ
を着陸復行(Missed Landing、いわゆるタッチアンドゴー)といいます。我が国では、着陸復行
を訓練時に訓練時間短縮のために計画的に行っているものの、緊急操作のための着陸復行
は認められておらず、訓練も行われていません。我が国の航空会社から運航方式を習った
韓国でも同じではないかと思われます。事故機のパイロットが着陸決定高度以下で進入復行を
試みた行為は危険であり、我が国でも過去に同様の事故を起こしています。事故機が進入
復行ではなく着陸復行を行っていれば事故は回避できたかも知れません。
・ その後、パイロット(PF: Pilot Flying)は昇降舵と補助翼、方向舵を操作して約 3°のグライ
ドパス(進入角度)を維持するとともに、エンジンの推力を調整して各フラップ角に応じた進入
速度を保持しながら滑走路に接近します。
・ ILS(Instrument Landing System; Glide Slope + Localizer)が稼働している場合には
その支援を受けますが、
事故当時にはサンフランシスコ空港の滑走路 28L の ILS が整備中との NOTAM
(Notice to Air Man)が出ていたために、事故機は ILS を利用していませんでした。
・ 777 のようなハイテク航空機(Fly-By-Wire 機)では、燃費向上のために主翼に遷音速翼型を
採用するとか、尾翼の面積を小さくして抵抗を減らすなどの設計がなされていますが(詳
しくは拙著「ハイテク技術の光と影」参照)、この技術が離着陸における航空機の安定性を悪
くしています。
・ 従って、777 のようなハイテク航空機(Fly-By-Wire 機)では、天候のよい場合にもカテゴリーⅢ
などの高度な自動着陸を用いるよう推奨されており、ILS がなくオートパイロットを使えない場合
でも、オートスロットル(自動エンジン推力制御装置)を併用するよう指導されています。言い換え
れば、ハイテク航空機(Fly-By-Wire 機)は、パイロットにとって何らかの自動操縦装置の助けな
しには着陸させるのが非常に困難な航空機であると言っても過言ではありません。
・ 着陸時の進入速度はスレッシュホールド速度(VTH; 失速速度の 1.3 倍、事故機では 137 ノット)を絶
対に下回ってはならないとされています。パイロットはオートスロットルが VTH を下回らない速度を維
持するようターゲット速度を調整します。
・ NTSB は、パイロットがオートスロットルを ARM 位置(必要な時にはいつでもエンゲージできる状態)にセッ
トしていたことを残骸から確認していますが、DFDR によると、オートスロットルは明らかに VTH 以
上の速度を維持できていません。そのために事故寸前に失速警報(Stall Warning)が作
動したものと思われます。
・ オートスロットルは左右のエンジンに独立して装備されていますが、DFDR によると、推力レバーの角度
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にして最大 10°の差異があったとされています。また、高度 500 フィートから 200 フィートに降下
している時に、パイロットは”Lateral Deviation(機体の横揺れ)
”を感じています。NTSB は
明言していませんが、このことから、オートスロットルは実際にエンゲージされていたものの、どち
らかのオートスロットルに異常が生じたものと推察されます。
・ オートスロットルに異常をきたした要因は何かということが NTSB の今後の調査課題になりますが、
私は、これまでの経験から、
「電磁波」ではないかと考えています。
・ これまでも、ハイテク機のエンジン推力レバーがオートスロットルを ARM 位置にしている時に勝手に動いて
オーバーランや滑走路逸脱、ショートランディング(滑走路手前での接地)するといった事故やインシデント
は何件か報告されています。詳しくは「アーカーブ」にあるフジサンケイビジネスアイ紙寄稿記事「ブラ
ジルの航空機事故に学ぶ」を参照して下さい。
・ 航空機の離着陸時には携帯電話や電子機器の使用が禁じられるなど、航空機器に対する電
磁波の影響はよく知られるようになっていますが、航空機器に影響する電磁波には3種類
あります。乗客が機内に持ち込む電子機器と地上の施設からの電磁波、意外に知られてい
ないのが航空機の装備自体が発生する電磁波です。中でも影響が大きいのが続報6で述べ
た被覆の剥げた電線間のスパークが発生する電磁波です。
・ NTSB はこれまで事故機の胴体上部が激しく焼損していることと事故との因果関係につい
て特にコメントしていませんが、私は最初から焼損の原因を被覆の剥げた電線間のスパークと疑
っています。そう考えれば、胴体上部の激しい焼損とアークが生じる電磁波に因るオートスロットル
の異常(おそらくコンピュータの誤作動)の両方が論理的に説明できるからです。
・ 胴体上部には特に可燃物はありませんので、激しく燃えていたのは乗客用の酸素ボトルで化
学的に生成された酸素だと思います。通常は客室の圧力が規定値以下になった時に乗客用
酸素マスクのラッチが自動的に外れて、落下したマスクを乗客が引っ張った時に酸素ボトル内で酸素
が生成されます。
・ 事故機では多くの酸素マスクが落下したことが確認されていますが、それらのマスクを何人かの
乗客が引っ張って吸おうとしたために、酸素ボトル内で酸素が生成された可能性があります。
その酸素を発火させたのは事故時の衝撃とは考えにくく、やはり飛行中から発生していた
電線間のスパークではないかと考えます。
・ 操縦室にパイロットが 3 名もいながら(1 名は非番のパイロット)なぜ速度が失速速度に近づくま
で低下しているのに気づかなかったかという疑問が残ります。その点についても、従来か
ら指摘されているハイテク機(Fly-By-Wire 機)の問題点で説明できます。
・ ハイテク機では、従来の機種に装備されていたアナログ速度計に代わってデジタル速度計(PFD:
Primary Flight Display の左端の部分 )が装備されています。
(下図参照)デジタル速度計
は”Moving Scale”ともいわれる、針が静止していて目盛りが動く方式になっています。
この方式では、実際の速度がスレッシュホールド速度(VTH)に対してどのような位置にあるのか
という相対関係を把握しにくいといわれています。事故機を操縦していたパイロットは 777 に
移行してわずかに 43 時間しか飛んでいないといわれていますが、それ以前に従来型機に
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乗務していたのかどうかは報じられていません。しかしながら、ハイテク機に長時間乗ってい
るベテラン・パイロットからも、デジタル速度計は状況認識に適さないとの声が聞かれます。
・ デジタル速度計は、欧米人よりもアジア人(特に日本人)の方が苦手意識をもっているといわ
れています。我が国でかつて流行ったデジタル時計を、今ではほとんどの日本人が使ってい
ませんが、欧米人は約半数が利用しています。欧米人とアジア人の脳の機能の違いによると
いう学説もあります。
アナログ速度計
デジタル速度計(PFD の左端の部分)
・ 以上のように、当該事故はまさに典型的なハイテク航空機(Fly-By-Wire 機)のヒューマンファクターの
問題ということができ、起きるべくして起きたものといえます。NTSB や FAA、ボーイングが
ヒューマンファクターの分析にまで踏み込むかどうかが注目されます。とるべき対策については「アー
カーブ」にあるフジサンケイビジネスアイ紙寄稿記事「ブラジルの航空機事故に学ぶ」の中で提言して
います。