スマートウィングズ社737

HuFac Solutions, Inc.
スマートウィングズ社737-800で携帯電話が発火
2014-11-30
Q: どのような出来事だったのでしょうか?
A: 2014年8月14日、イスラエルのテルアビブ空港において、
チェコのスマートウィングズ社のQS1287便
(ボーイング737-800)
がプラハに向けて乗客の搭乗を開始していたところ、すでに搭乗していた女性乗客の携帯電話(ス
マートフォン型)が発火、炎上しました。女性は携帯電話をハンドバッグに入れていましたが、中からの
発煙にきづいてハンドバッグを開けたところ、携帯電話が燃えていたものです。精神的なショックで降
機した女性は、
待ち受けていた地元の報道陣にインタビューされました。
(図.1) このトラブルでQS1287
便は出発が1時間ほど遅れました。客室乗務員がどのように消火に当ったかについては詳しく
報道されていません。
図.1 降機後に報道陣にインタビューされる女性乗客(TV Nova)
Q: 携帯電話の発火の原因は何だと考えられますか?
A: 航空機のドアが閉められる前の出来事ですので、公式には航空機事故やインシデントになりません。
ですが、事の重大性から、イスラエルの航空当局が調査を開始するものと思われます。この携帯電話
の電池はリチウムイオン電池ですので、電池が発火源であることは間違いないでしょう。これまでも、
リチウム電池(充電できるリチウムイオン電池と充電できないリチウムメタル電池などの総称)が航空機内で発火
した例は数多くあります。それでも、発火原因はあまり明らかにされていません。この出来事
は、電池の発火原因をある程度具体的に絞り込めるという点で、貴重な情報といえそうです。
Q: 一般的には、リチウム電池は回路のショートや過充電、過放電、衝撃などで発火するといわれています
が、これまでの航空機内での発火の原因が明らかにされていないというのは意外ですね?
A: 航空会社だけでなく、航空機メーカーや各国の航空行政当局、航空事故調査機関が協力して原因の
調査に当っていることはいうまでもありません。それでも、確固たる原因が判明していないの
が現実です。エアバスのA320やボーイングの787といった機種である新技術が導入されて以来、このよ
うな難解な問題が目立っています。これまでのボトムアップ思考で臨んでいる既存の組織では対応
が難しくなっているような気がしています。
Q: 御社が提言するトップダウン思考で臨むとすれば、どのような原因が考えられるのですか?
A: 以前にもお話しましたが、電磁干渉(EMI)です。欧米の電池メーカーの技術者は、リチウム電池などの
高性能電池がEMIで発火する可能性について論文を書いています。ですが、航空界の技術者はま
だそのことに気づいていないようです。欧米の電池メーカーの技術者は、自社製の電池がEMIによる
発火に対して防止策を講じていることを強調するだけで、
なぜEMIで発火するのかについては明
らかにしていません。もしかしたら、企業秘密を知られたくないからなのかも知れません。ボ
ーイングがその事実を知っていれば、リチウム電池を787の部品として採用することはなかったでしょ
うし、FAAも認可することはなかったでしょう。
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Q: QS1287便の出来事が、なぜ電池の発火原因を具体的に絞り込めることにつながるのですか?
A: リチウム電池が貨物室や客室で発火したという例は数多くありますが、電池が粗雑に扱われたため
と思われているようです。しかし、QS1287便の出来事では、その事実がないことは明らかです。
電池の発火は乗客が機内に持ち込んだ直後のことですから、少し洞察力がある人は、周囲の環
境の変化に関係があるのではないかと考えるでしょう。
Q: そういえば、2014年4月26日に起きた、フィジー航空の乗客の手荷物のリチウムイオン電池が発火した重大
インシデントでも、機種は737-800でしたね?
A: 弊社は、2つの出来事が737-800で起きたのは必ずしも偶然ではないと考えています。737-800
に採用されたある新技術が電池を発火させる要因になったと考えています。
Q: ところで、787のリチウム電池の発火問題はどうなったのですか?
A: 787はこの問題で運航停止になりましたが、発火の原因はわからないものの、ボーイングが80にも
のぼる対策を打って、運航停止が解除されました。それでも、その後に電池が発火しています
ので、対策が有効でなかったことは明らかです。ボーイングが打った対策は、電池が発火しても燃
え広がらないようにするだけのものでした。FAAは、787の耐空性検討チームを組織して、787の耐
空性を審査した後に、
2014年3月に、787の耐空性に問題がないとの公式見解を発表しています。
Q: 米国の運輸安全委員会(NTSB)は、FAAの公式見解をどのように考えているのですか?
A: NTSBはFAAの公式見解に納得していません。とはいえ、NTSBも問題解決ができていませんので、
FAAに対して、外部から知恵を借りるよう提言するに留めています。
Q: 2013年7月12日に、ロンドンのヒースロー空港で駐機していたエチオピア航空のボーイング787-8で、尾部上面が
焼損するというインシデントがありましたが、調査はどうなったのですか?
A: 英国の航空事故調査局(AAIB: Air Accident Investigations Branch)が調査しました。これ
までの報道によると、発火源は航空機用救命無線機(ELT: Emergency Locator Transmitter)
のリチウム電池です。
発火原因は、ELTのメーカーであるハネウェル社の下請け会社の作業ミスとされています。
電極のリード線の配線を間違えて、ショートが起きたと考えています。JALやANAの787のリチウムイオン電池
とは異なるタイプのリチウム電池であり、互いの関連性はないと強調しています。
図.2 駐機中のエチオピア航空787-8の火災
Q: AAIBの調査結果をどう思いますか?
A: AAIB はEMIを疑っていないようです。ハネウェル社の下請け会社の作業ミスとしていますが、激しく焼
損したリチウム電池の残存物から、作業ミスを明確に特定できるのでしょうか?作業ミスが原因であれ
ば、もっと早く発火していたでしょう。状況から考えても、EMIの可能性は否定できません。ヒ
ューマンファクターでは、事故調査機関のエラーもあり得ると考えています。
Q: 充電できるリチウムイオン電池だけでなく、充電できないリチウム電池も、EMIで発火するのですか?
A: 充電できるかどうかにかかわらず、EMIで発火する可能性があります。エチオピア航空のケースは充電
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できないリチウム電池ですので、JALやANAのケースとは関連性がないとしていますが、このようなAAIB
の見解は理解に苦しみます。
Q: 権威あるFAAやNTSB、各国の事故調査機関が原因をつかめないという問題が、これまでにもあっ
たのですか?
A: ないとはいえません。EMIの問題がその一例です。EMIは、リチウム電池だけではなく他のシステムにも
影響を及ぼしますが、
それが明確にされたことはほとんどありません。
米国の航空宇宙局
(NASA)
は、
これまでの宇宙開発で宇宙線などによるEMIの影響に悩まされ続けてきたことを論文で告白
しています。穿って考えれば、NASAが宇宙開発に消極的になっている理由の一つがこのことで
はないかとさえ思えます。
Q: QS1287便のリチウムイオン電池の発火で、EMIが影響したという証拠は見つかるのでしょうか?
A: 以前にもいいましたが、EMIには再現性がありませんので、証拠は見つからないでしょう。裁判
でいえば物証がない状況ですので、状況証拠で判断するしかありません。それには、これまで
のボトムアップ思考ではなく、トップダウン思考が必要になります。航空界の関係組織にそれができる
かどうかが鍵になると思います。
Q: リチウム電池の発火問題について、航空界はどのように対処しているのでしょうか?
A: 最近になって、航空界は急速に問題の深刻さを実感し始めています。フィジー航空の重大インシデント
が契機になっているのかも知れません。国連の民間航空機関(ICAO)は、本年7月に、リチウム電
池の取り扱いのガイドラインを大幅に改定しています。詳細は省きますが、図.2のような衝撃的な
写真を公表して、航空関係者や一般社会の関心を強く喚起しています。客室乗務員などの乗務
員に対しても、効果的な消火活動のための訓練を課しています。今や、この問題に対する認識
が低い航空会社は「選ばれる航空会社」とはいえないようです。
図.3 航空機の座席で炎上するパソコンのリチウムイオン電池(ICAO)
Q: 航空機メーカーはどのように対処しているのでしょうか?
A: ICAOは航空機メーカーにも対応を要求しています。ボーイングは、貨物室や客室でリチウム電池が発火した
際の消火などの事細かな取り使い手順を関係者に提示しています。
Q: 今後、社会はこの問題にどのように向き合えばよいのでしょうか?
A: 社会はこれまで、経済効率を追求して多くの技術分野でリチウム電池などの高性能電池を採用して
きました。一方では、同じく経済効率を追求して、航空機のハイテク化を目指してきました。リチウム
電池の発火は、その接点で起きている深刻な問題といえます。ですが、この問題は、あまりに
も複雑すぎて、航空界だけでは対処できません。問題を放置すれば、航空輸送の信頼が徐々に
失墜して、世界の政治や経済、文化の交流に多大な影響を及ぼしかねません。航空界は、この
問題を包み隠すのではなく、社会にあるがままに伝えて、乗客を含む関係者(Stakeholder)の
協力を仰ぐべきです。何よりも、冷静かつ沈着な対応が必要と思われます。
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