アメリカの認知症ケア動向Ⅰ

アメリカの認知症ケア動向Ⅰ
アメリカの高齢者の生活状況
<目 次>
1. 高齢化率と高齢者人口 .................................................................................. 1
(1) 現状 ....................................................................................................... 1
(2) 今後の推移.............................................................................................. 1
2. 高齢者の就業および所得等の状況.................................................................. 2
(1) 就業状況................................................................................................. 2
(2) 所得状況................................................................................................. 2
(3) 貧困率 .................................................................................................... 5
(4) 医療保険の加入状況................................................................................. 6
3. 高齢者の世帯の状況と住宅事情 ..................................................................... 8
(1) 世帯の状況.............................................................................................. 8
(2) 住宅事情................................................................................................. 8
Ⅰ アメリカの高齢者の生活状況
1. 高齢化率と高齢者人口
(1) 現状
WHO の The World Health Report 2006 によると、2006 年におけるアメリカ人
の平均寿命は 78 歳(男性 75 歳、女性 80 歳)で、世界 26 位となっている。2007
年データによると、65 歳の平均余命は 18.6 年(女性 19.8 年、男性 17.1 年)で、
2008 年には 65 歳以上の高齢者人口は 3,890 万人となっている。これは、総人口の
12.8%にあたる。高齢化率をみると、1900 年の 4.1%から 12.8%まで上昇してお
り、男女別 65 歳以上の人口1をみると、男性は 1,650 万人、女性は 2,240 万人とな
っている。65 歳以上の高齢者で女性の占める割合は 57.6%、85 歳以上では 64.5%
と、年齢の上昇とともに女性の比率が大きくなっている。
(2) 今後の推移
アメリカでは、ベビーブーマー世代が 65 歳を迎える 2010 年以降に高齢者人口
が急激に増加することが予側されており、2030 年には 65 歳以上の高齢者が 7,210
万人となる。総人口に占める高齢者率は、2030 年に 19.3%(2008 年は 12.8%)
になると予測されているが、日本と比べると高齢化のスピードは緩やかである。
アメリカの65歳以上人口の推移(1900~2030年)
(百万人)
80
72.1
70
60
54.8
50
40
31.2
30
0
40.2
25.5
20
10
35
16.6
3.1
4.9
9
1900 1920 1940 1960 1980 1990 2000 2010 2020 2030
(7月1日現在)
出典:Administration on Aging U.S. Department of Health and Human
Services,A Profile of Older Americans, 2009
U.S. Bureau of the Census 並びに The National Center for Health
Statistics/Health Data Interactive
1(出典)The
1
2. 高齢者の就業および所得等の状況
(1) 就業状況
2008 年の 65 歳以上の労働力人口は 620 万人、就業率2は 16.8%となっている。
男女別に見ると、男性は 21.5%、女性は 13.3%が就業しており、女性の退職年齢
が比較的に早い。65 歳以上の高齢者の就業率の推移を見ると、男性は 1952 年の約
42.6%から、1985 年には 15.8%にまで低下し、その後は 16%から 18%で推移して
いる。女性は、1952 年の 9.1%から 1956 年の 10.8%まで漸増し、1985 年には 7.3%
に低下したものの、2000 年に入ると 10%を超えて徐々に上昇している。
65歳以上の高齢者の就業率(1952~2008年)
(%)
45
40
35
65歳以上全体
65歳以上男性
65歳以上女性
30
25
20
15
10
5
2008
2004
2006
2002
1998
2000
1996
1992
1994
1990
1986
1988
1984
1980
1982
1978
1974
1976
1970
1972
1966
1968
1962
1964
1958
1960
1954
1956
1952
0
出典:Older Workers, U.S. Bureau of Labor Statistics
(2) 所得状況
65 歳以上の高齢者の 1 人当たりの年間所得3は、2008 年には平均$18,3374(165
万円)で、男性は$25,503(230 万円)
、女性は$14,559(131 万円)となっている。
年間所得が$25,000(225 万円)以下が 63.6%を占め、$10,000(90 万円)未満
は 20.3%となっている。
Population Survey, labor force statistics.
Population Survey, Annual Social and Economic
Supplement,Income,Poverty, and Health Insurance Coverage in the United States:
2008" 並びに Fast Facts and Figures About Social Security, 2009
1 ドル=90 円で換算
2(出典)Current
3(出典)Current
4
2
65歳以上の高齢者の所得階層別割合
0%
5%
$5,000未満
10%
15%
20%
25%
4.0%
16.3%
$5,000 - $9,999
19.6%
$10,000 - $14,999
$15,000 - $24,999
23.7%
$25,000 - $34,999
12.5%
$35,000 - $49,999
9.8%
$50,000 以上
14.1%
(合計100%)
出典:Administration on Aging U.S. Department of Health and Human
Services,A Profile of Older Americans, 2009
65 歳以上の世帯主がいる世帯の平均所得は$44,188(398 万円)で、$35,000(315
万円)以上の世帯が 62.1%を占め、$15,000(135 万円)以下の低所得世帯は 7.3%
となっている。
65 歳以上の世帯主がいる世帯の所得階層別割合
0.0%
$10,000未満
$10,000 - $14,999
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
3.0%
4.3%
14.6%
$15,000 - $24,999
16.0%
$25,000 - $34,999
$35,000 - $49,999
18.2%
$50,000 - $74,999
18.2%
25.7%
$75,000以上
(合計100%)
出典:Administration on Aging U.S. Department of Health and Human
Services,A Profile of Older Americans, 2009
3
所得の内訳を見ると、公的年金が 35%を占め、以下、就労 29%、資産 16%、私
的年金 9%、政府職員年金 8%となっており、日本と比較して、公的年金に依存す
る割合は低い。
65 歳以上の世帯主がいる世帯の所得の内訳(2007 年)
政府職員年金
8%
その他
3%
私的年金
9%
公的年金
35%
資産
16%
就労
29%
出典:Fast Facts & Figures About Social Security: 2009
4
(3) 貧困率
65 歳以上の高齢者のうち 370 万人は貧困ライン5以下の所得しかなく、貧困率6は
9.7%となっている。2008 年の貧困率は、18 歳から 64 歳の層で 11.7%、65 歳以
上で 19.0%となっている。また、高齢者のうち、240 万人(6.3%)が準貧困者(貧困ラ
イン所得の 125%以内)に位置付けられ、貧困者と準貧困者を合わせると高齢者全
体の 18.9%を占める。
(%)
貧困率の推移
35.0
30.0
65歳以上
18~64歳
18歳未満
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
1968
1966
0.0
出典:Fast Facts & Figures About Social Security: 2009
最も所得の少ない「0.5 貧困ライン7」該当者の割合は、全体では 5.7%なのに対
して、65 歳以上は 2.5%と 3 ポイント以上少ない。これは、65 歳から開始される
年金受給が影響していると考えられる。また、グラフからは、65 歳以上では所得
格差が大きくなっている様子がわかる。
OECD による定義:等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った値)
が、全国民の等価可処分所得の中央値の半分のレベルを意味する。
6 貧困ライン以下の所得者割合。
(出典)Current Population Survey, Annual Social and Economic Supplement,
"Income,Poverty, and Health Insurance Coverage in the United States: 2008
7 全国民の等価可処分所得の中央値の半分のレベル(貧困ライン)を 1 とした場合、さらにそ
の半分の水準であることを意味する。
5
5
低所得者の所得状況(全年齢層・65 歳以上)
40.0
(%)
35.0
36.2
31.9
全年齢層
30.0
65 歳以上
29.8
27.3
25.0
22.7
22.6
17.9
20.0
15.9
13.2
15.0
9.7
9.1
10.0
5.7
4.8
5.0
2.6
0.0
全年齢層
0.5(貧困ライン/2)
0.75
65歳以上
1.0(貧困ライン)
1.25
1.5
1.75
2.0(貧困ライン×2)
出典:U.S. Bureau of the Census, Current Population Survey,
Annual Social and Economic Supplements.
(4) 医療保険の加入状況
医療保険の加入状況8は、在宅で暮らす高齢者の 93.4%がメディケア9(公的医療
保険制度)に加入している(2008 年データ)
。メディケアは救急医療の保障を主な
目的としているが、保障される入院日数が定められていたり(年間 150 日以内。た
だし自己負担はない)、検査を受けられる回数が決まっているなど、様々な規制も
多い。このため高齢者の 59.0%は、公的医療保険に加えて民間の医療保険にも加入
し、メディケアが保障しない部分を補っている。一方、メディケイド10(低所得者
向け公的医療保険制度)に加入している者は高齢者全体の 9.1%となっており、ナ
ーシングホーム入居者のみでみると、入居者全体の 59.7%11に相当する。入居時点
のメディケイド受給者は 34.8%にとどまることから、入居後に、メディケアからメ
ディケイドに切り替えている状況が分かる。
Center for Health Statistics
メディケア(Medicare)とは、高齢者または障害者向け公的医療保険制度で、連邦政府
が管轄している。
10 一定の要件を満たす低所得者や疾患を持つ患者を対象にした公的医療保険制度で、州政
府によって運営されている。
11(出典)The National Nursing Home Survey:2004
8(出典)National
9
6
65 歳以上の高齢者の医療保険加入状況
保険非加入1.7%
何らかの保険に加入 98.3%
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
公的保険
(%)
7.5
軍人保険
9.1
メディケイド
メディケア
93.4
公的保険
93.8
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
民間保険
(%)
26.7
個人加入
35.0
職域加入
59.0
民間保険に加入
0
10
20
30
40
50
60
70
出典:Administration on Aging U.S. Department of Health and Human
Services,A Profile of Older Americans, 2009
7
3. 高齢者の世帯の状況と住宅事情
(1) 世帯の状況12
65 歳以上の高齢者のうち、男性の 72%(1,130 万人)、女性の 41.7%(860 万人)
が配偶者と生活をしている。また、単身世帯者は 1,120 万人(男性 290 万人、女性
830 万人)で、高齢者の 30.5%(男性高齢者の 18.5%、女性高齢者の 39.5%)を占め
ている。単身世帯は高齢になるほど増え、75 歳以上女性の約半数が単身世帯とな
っている。
65 歳以上の者の世帯状況( 2008 年)
(%)
男性
女性
配偶者と同居
71.9
41.7
独居
18.5
39.5
9.5
18.9
その他
出典:Administration on Aging U.S. Department of Health
and Human Services,A Profile of Older Americans, 2009
65 歳以上の高齢者のナーシングホームヘの入居状況を見ると、2008 年の入居者
は 160 万人で、高齢者全体(3,890 万人)の 4.1%となっている。これを年齢段階別に
みると、65 歳から 74 歳は 1.3%、75 歳から 84 歳は 3.8%、85 歳以上は 15.4%と
なっており、85 歳以上になると入居率が加速して高まる。また、65 歳以上の高齢
者の 2.4%がアシステッドリビングホーム(ケア付き住宅)等で生活している。
(2) 住宅事情13
アメリカでは、高齢者世帯の持ち家率が 80.1%と高く(2008 年データ)
、家を持
つ高齢者世帯の平均所得は$29,899(269 万円
2007 年)となっている。借家人で
ある高齢者世帯の平均所得$15,130(136 万円)と比べると、概ね 2 倍の所得があ
る。
高齢者世帯の 46%は、所得の 4 分の 1 以上を住宅費に費やしている。居住形態
別にみると、持ち家では 39%、賃貸住宅では 73%が住居費に充てられている。こ
のため、若年層が将来に備えて住宅を購入しようとうするニーズが高い。
12(出典)U.S.
Bureau of the Census
Housing Survey for the United States: 2007
13(出典)Amer.
8
高齢者世帯が所有する住宅の価格は平均$168,654(1,518 万円)で、全世帯の平
均価格$191,471(1,723 万円)よりやや低い。これは、高齢になると世帯人数に応
じた小さめの家に引っ越していくという背景があるようである。しかし、資産から
負債を差し引いた純資産額を比べると、2000 年の統計で、高齢者世帯は平均
$108,885(980 万円)なのに対して、全世帯平均は$55,000(495 万円)に過ぎず、
老後に備えて蓄えている様子がうかがえる。なお、自宅保有高齢者の 68%は既に
借り入れの返済を終えており、自宅価値分以外の純資産額は$23,369(210 万円)
となっている。
9
<参考文献>
A Profile of Older Americans:2009, Administration on Aging U.S. Deparment of
Health and Human Services
Statistical Abstract of the United States:1999, U.S. Census Bureau
Fast Facts & Figures, Social Security Administration
65+ in the United States, U.S. Department of Commerce
Income, Poverty and Health Insurance Coverage in the United States: 2008
American Housing Survey for the United States: 2007
National Center for Health Statistics
Older Americans 2008
(財)自治体国際化協会,「CLAIR REPORT NUMBER 202 米国における高齢者福祉対策」,
2000
<調査協力>
株式会社ニッセイ基礎研究所
10