第61号 - 一般財団法人海外産業人材育成協会

vol.61
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2011年1月31日
APPROACH
伊藤 勝己専門家(タイ)
小畠 博専門家(モンゴル)
鈴木 貴博専門家(インドネシア)
理事長からのエール
APPROACHは、海外各国で専門家として活
躍されている方々の指導現場での貴重な体験
談を掲載しております。
編集責任者:総務部長 大嶋 巖
http://www.jodc.or.jp/approach/
▲バックナンバーが閲覧できます。
かけて食べているタイ人を見かけると、どんな味覚をし
伊藤 勝己専門家
Mr. Katsumi Ito
タイ チョンブリ
派遣期間: 2010/1~2010/12
指導内容: 自動車変速機用潤滑油パイプ及び家電エア
コン用アキュームレータ製造の不良率低減に関する技術
指導
ているのかと不思議に感じる。
暑い国だから香辛料が多いことは理解出来るが、何で
砂糖なのか、単純に甘いもの好きと勝手に思っている。
私にはタイの食べ物は総じて違和感がなかった。1年
間の契約でタイにお世話になっているが、たまに嫁さん
が訪タイしたときには腕によりをかけて、おいしい料理を
タイでの生活
作ってくれるため、「ささやかな幸せかな」と密かに感じて
60歳を超えてから仕事をいただいたので、最初はやり
いる。仕事があって食べるものがおいしいと、これ以上の
がいと不安があり、タイでの1人住まいで一番心配なのは
洗濯と食事だった。
会社が用意してくれたアパートはバンナーと言う地名
幸せはないだろう。
バス旅行の思い出
のバンコクから約30分、会社までは1時間弱で初めはそ
会社恒例のバス旅行が11月20、21日に行なわれた。
んな遠いところ…と思ったが、タイではその位は当たり前
噂では、朝行くときからバスが揺れるほどの大騒ぎで歌
のことだった。
いっぱなしと聞かされていた。実際、タイ人も耳栓を持参
初めて洗濯をして、いざベランダに干してみると、私が
借りた部屋が北向きであることが分かった。
おいおい、これでは洗濯物が乾かないなと心配したの
していくと言っている。日本人は毎年疲労困憊してしまう
ため、今年は通勤用のワンボックスに分乗と言う事になっ
た。
もつかの間で見る見るうちに乾いていった。そうか、ここ
ナコンナ・ヨーク県までは2時間と尐しで、バンコクのよ
はタイだった。今ではルーズな私の性格もあって、エアコ
うな渋滞もないため、随分と走ったような気がした。バン
ンの室内で干しているが、それが乾燥防止にもなり一石
ナーやチョンブリでは見られないきれいな山が見えてき
二鳥になっている。もっとも、私のいる10階辺りでも外に
た。到着したところは、他の団体も入っている大きなリゾ
出すと風が強くて、下着が1枚飛ばされた経験がある。そ
ート地であった。
れ以来、下着共々部屋の中で干すことにしている。
食事については、1人暮らしで野菜をほとんど摂ること
が出来ないが、会社のお昼では気を遣っていただいてい
るおかげで日本米の食事である。
おかずはタイ料理でも味付けは日本的で野菜もまあま
ああり、1日の中で一番の御馳走である。たまに屋台で食
べるタイ料理は辛くて閉口する事が多い。こんな辛い物
をよく食べられるなと感心している傍ら、ラーメンに砂糖を
▲バス旅行に参加した現地スタッフたちと
(前列右から4番目が伊藤専門家)
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私たちのグループにはプレイングリーダーが8~9人付
いて、120人が6チームに分かれてゲームで競った。
60歳を過ぎてゲームに興じる事はほとんどなかった
が、今回は最後まで頑張る覚悟で臨んだ。目隠しゲーム
では若い女性社員が手取り足とりでリードしてくれたり、
手つなぎハイクまであって久しぶりに新鮮であったが、よ
く身体がついていけたと感心した。シャワーを浴びて尐し
休憩をとった後は、パーティーとなった。
日本人のパーティーは尐しずつ盛り上がっていくが、タ
イでは初めから100%の盛り上がりで、延々4時間以上の
カラオケと踊りタイムとなった。
翌日はシラパーガンと言う、大きなダムを見学して写真
撮影をしたり、タイで一番大きいゾウさんのピカーネート
神様とパラーマニー寺に寄って、お祈りを行なった。
▲幹部への指導の様子(右から2番目が小畠専門家)
モンゴルの気候とウランバートル生活
8月になると夜の10時位まで明るく、朝日は3時半に上
がっていました。気温は40度という日もありましたが、湿
タイ人のみなさんは信仰心が深くて、全員がおさい銭
度が極端に低いため、実際は北海道よりカラッとしていま
(寄付)を行なっているところを見ると、助け合いの精神が
す。雲ひとつない青空とウランバートル中に降り注いでい
高く感心した。
るかのような太陽のおかげで、洗濯物は室内でも4時間
2日間疲れたが、楽しい思い出が出来て行って良かっ
ほどで乾きます。
11月中頃の朝は8時になっても薄暗く、夜は15時頃か
たと思う。
ら太陽が見る見るうちに薄くなり、16時には真っ暗で石炭
の煙が街中を覆います。
小畠 博専門家
ウランバートルの交通事情は最悪で、信号無視、横か
Mr. Hiroshi Obata
らの割り込み、突然のUターン、ウインカーなしの車線変
モンゴル ウランバートル
更は当たり前です。(突然の進路変更の理由は、道路の
派遣期間: 2010/7~2011/2
継ぎはぎと穴を避けるためです。)
指導内容: 割箸製造における生産性及び品質向上に関
する技術指導
モンゴルでの指導
モンゴル国のネーチャー・ゲイト社(割箸の製造会社)
に赴任して、4ヵ月目に入りました。
モンゴル人の指導は当然、日本人に物を教えるように
しかし、それだけではなく元々、ウインカーを使う習慣
がないようで、車の先が出た方に優先権があり、ぶつか
る勇気がないと運転は出来ないと思います。特に左ハン
ドルのモンゴルで左折するのは神業で、交通規則遵守の
一般人には絶対無理でしょう!モンゴルに着いたその日
から彼らと対等に運転できるのは日本の若い暴走族しか
いない!と思うほどでした。
はいきませんでした。当初は非常に戸惑いましたが、幸
他にも、20年前の日本車が現役で黒煙を上げて走って
いにして日本人留学者2名と日本語を理解できる人が6名
いたり、トヨタのランドクルーザーが多いことにも驚きまし
ほどいたこともあり本当に助かっています。
た。
国民性の違いから時間はかかりますが、指導している
ことを真剣に吸収しようとしています。
現在、寒い時はマイナス20度位ですが、昨年はマイナ
ス40度にもなったそうです。今年も特に寒い朝はスモッグ
と自動車の排気ガスで10m先が見えないほどです。
幹部候補の中でも人材の開きがあり、男性と女性幹部
ウランバートルでは市街を取り囲むように、グレー色の
の連携が今ひとつ物足りなく感じることもありますが、自
ゲルが山の頂上まで建てられていて、人口の多さを感じ
分たちだけで手探り状態でやっていた時と比べると、明る
ます。日本の4倍の国土に住む270万人のうちの110万人
く活発になったと感じます。
がウランバートル市に集中しているため、人口密度が高
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い一方で、国全体で見ると家畜は4400万頭、1km四方に
1.7人が悠々と暮らしています。
国道や市内道路は狭く穴だらけ、1日のうちほとんどが
渋滞で私なら郊外に住みたいと思うのですが…。
驚いたことに、闇タクシーが堂々と営業していて、1km
あたり500トグルク(約35円)位で、渋滞で30分かかっても
割増はありません。タクシーが尐なく仕事がないモンゴル
では、大変合理的だと感心しています。
何も活用されていない白樺の樹皮を全部民芸品として
使い、残った白樺の原木を割箸にして、雇用を確保し都
市への人口流入を減尐させ、村民の現金収入が出来れ
ば国境の村に学校が出来る可能性があります。
継続可能な事業とそれに必要な技術、設備を援助出
来ればと思わずにはいられません。
私の赴任先であるネーチャー・ゲイト社の川井 章社
長はモンゴルに深く貢献している方で、ゲル地区に住む
どれくらい仕事がないかと言うと、日曜日の昼にアパー
人々を率先して採用し安定した仕事を与え、朝ご飯を食
トの下にあるスーパーへ、インスタントラーメンを買いに
べずに来る人達に昼食を食べさせ、毎日とはいかずとも
行った時のことですが、いつものレジの前に50人以上の
シャワーも用意してあげています。
若い男女が並んでいたのでなんだろうと思い、その先に
多くの人たちがゲルに住み、極寒のモンゴルをわずか
行ってみるとそのスーパーの店員募集(たった1名)でし
な水と充分と言えない食料、燃料で過ごしていますが、仕
た。
事の機会を用意すれば家族が1日3食摂れる暮らしが出
食に関しては極寒の冬を乗り切るには 基本的に肉を
食べないと駄目ですよ!とアドバイスを受けました。
ここモンゴルでは、日本より安いのですが果物と野菜
の種類が尐ないのが残念なところです。
野菜はじゃがいも、たまねぎ、人参、ピーマン、きゅうり
が揃いますが、モンゴル産は無農薬、無肥料が基本で
す。パンなど国境付近で自家製されているものは絶品で
す。
来るかもしれません。
ただ単に援助するだけで、その後はどうなっているの
かわからないと言うのは寂しい限りです。
日本国のモンゴルに対する莫大な援助がモンゴル国
民の底辺に深く貢献し、感謝されていることを心から願い
ました。
持続可能な雇用機会や地場農林業の育成と地味では
ありますが、底辺の人々に本当に望まれている事業への
最近になって、生しいたけが1kgで250円と言うのがわ
援助を日系企業だけでなく、日本国としても柔軟に考えて
かり、スーパーで買って窓際に3日置けばかんからかん
いただきたいと心から思っています。私の技術や指導が
に乾燥して高級食材に変わっています。
現地スタッフ全員の安定雇用に貢献できれば幸いです。
モンゴルの発展と課題
モンゴルは天然資源が豊富で肥沃な大地を持ってい
鈴木 貴博専門家
て、将来この国が日本を救うような懐の深さを感じます
インドネシア カラワン
が、インフラ整備の遅れが国の発展を妨げています。
派遣期間: 2010/9~2011/2
農林業に産業と呼べるような物が皆無に近く、仕事が
ないため雇用もありません。特に国境周辺はお手上げ状
態で、山羊、羊、牛、馬、ラクダが人間の何百倍もいます
が、食べる肉、パンがあっても都市部に運んで換金する
ための道路がありません。
Mr. Takahiro Suzuki
指導内容: 二輪/四輪部品の鋳造用金型設計精度向
上に関する技術指導
インドネシアの結婚式
私の赴任先であるPT.ISK INDONESIAは、インドネシア
仕事を求めウランバートルへ人口の一極集中となり産
のジャカルタ空港から高速道路を利用して、1時間30分ほ
業のアンバランスを生んでいると思います。貧富の差が
どのカラワンにあります。赴任し1ヵ月を過ぎようとした
非常に激しく、金持ちは黙っていても資源や不動産の利
頃、ローカルマネージャーより「娘の結婚式に出席しても
権で潤っていると地元の人が話していました。
らえないか?」と誘いを受けました。そこで結婚式につい
モンゴルの国境周辺では仕事がなく、貴重な天然資源
て情報を集めてみたところ、インドネシアの結婚式では
である白樺の民芸品を作るため、見渡す限りの樹皮が剥
親・兄弟・親戚はもちろん、知り合いや会社の人などを招
ぎ取られており白樺は枯渇寸前で、何も村人に貢献する
待するのが一般的で、本当に人数の多い結婚式では招
ことなく土に還っています。
待客が数千人と言うこともあるそうです。しかし、招待して
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も来ない人もいれば何人も連れてくる人もいるため、実際
いると聞きました。結婚式に出席することにより、インドネ
の人数は誰にも分からないそうです。
シアの貧富の差を再認識するきっかけになりました。
中には、数時間かけて山奥の会場まで行き、トイレが
なかったため川で用をたしたり、出てきたケーキにアリが
たかっていたなどの情報もあり、招待してもらったことを
理事長からのエール
~ 卯年の年頭にあたって ~
素直に喜べませんでした。
そして気乗りしないまま、結婚式当日を迎えました。
菅野 利徳
場所はカラワンにあるサンディエゴヒルズと言うところ
で、私の想像とは全く違う感じのところでした。
皆様、あけましておめでとうございます。
レンガが敷詰められた綺麗な建物からは、色とりどり
既に1月下旬となってしまい、日本では正月気分も薄れつつある
の花が咲いている庭と湖を望むことが出来るため、開放
この頃ですが、アジアではこれから旧正月・春節など新春の行事を
感に溢れていました。
迎える国もあって、それぞれに新年の抱負、目標等に思いを巡ら
せていることと思います。
今年の干支は「卯」で、証券業の世界では、「相場の跳ねる年」と
され、次の「辰(竜)」年にかけて上向きの流れに転じる縁起の良い
年と期待されているようですが、今年の経済社会を展望すると、世
銀が先般1月12日に公表した「今年の世界経済見通し」は要点【別
表】の通りで、先進国では、加盟国に信用不安を抱えるEU諸国、円
高や内需低迷に悩む日本が成長率を鈍化させ、米国経済も不透明
とされている一方、リーマンショック以降の回復・成長が著しかった
中国やアジア諸国についても、このところ物価上昇抑制等から金融
▲結婚式の様子(右から2番目が鈴木専門家)
引き締めへの政策転換が行われており、成長が若干鈍化すると予
測されています。
これまで何とかリーマンショックの波は乗り切ったものの、今年は
なお未解決のままになっている地球環境問題、ドーハラウンド交渉
の停滞、通貨レートの乱高下等、多くの課題を内包させた、言わば
調整の年とも言うべき局面にあると言えます。我が国の場合は、こ
れらに加えて財政規律問題、年金制度改革、尐子化対策等の先送
りされてきた課題にも直面しています。
内外にたくさんの課題のある年ですが、当協会としては我が国と
アジア等の開発途上国との連携関係強化に向けて、新規の事業へ
の取り組みを含め積極的かつ効率化にも心掛けながら取り組む所
▲結婚式場の外観
結婚式では生バンドの演奏を聴きながら、ブッフェスタ
イルの美味しいインドネシア料理を食べ、凄く充実した時
間を過ごしました。
インドネシアではまだまだ伝統的な結婚式が多く、この
ようなモダンな結婚式は珍しいと招待客の方が言ってい
たのを覚えています。
今回、結婚式に招待していただいたマネージャーの娘
さんと旦那さんは、ジャカルタの新聞社でジャーナリスト
をしているそうで、インドネシアの中でも裕福な生活をして
存ですので、皆様方のご協力、ご活躍を心よりお願い申し上げま
す。
【別表】2011年の実質経済成長率(世銀予測…抜粋…、単位:%)
'09年(実績) '10年(見込) '11年(予測)
世界
▲ 2.2
3.9
3.3
ユーロ圏
▲ 4.1
1.7
1.4
米国
▲ 2.6
2.8
2.8
日本
▲ 6.3
4.4
1.8
開発途上国
2.0
7.0
6.0
(東アジア太平洋地域)
7.4
9.3
8.0
中国
9.1
10.0
8.7
インドネシア
4.5
5.9
6.2
タイ
▲ 2.3
7.5
3.2
(南アジア地域)
7.0
8.7
7.7
インド
7.7
9.5
8.4
(ラ米・カリブ地域)
▲ 2.2
5.7
4.0
4