vol.76 1. 中小サービス業等海外現地人材研修支援事業の紹介 2. 森本 大典専門家(米国) 3. 深田 昇専門家(シンガポール) 4. 深 豊幸専門家(カンボジア) 5. 鬼頭 量一専門家(米国) 6. 若光 宏専門家(インドネシア) 2014年4月3日 APPROACH 編集責任者: 一般財団法人海外産業人材育成協会 派遣業務部長 中村 比呂志 http://www.hidajapan.or.jp/jp/pr/approach/index.html ▲バックナンバーが閲覧できます。 今回は中小サービス業等海外現地人材研修支援事業の 特集号です。 APPROACHは、(一財)海外産業人材育成 協会(HIDA)の専門家として海外各国で活躍 されている方々の指導現場での貴重な体験談 を掲載しております。 1.中小サービス業等海外現地人材研修支援事業 の紹介 この度HIDAは、中小企業庁の平成24年度の補 正予算である中小サービス業等海外現地人材研 修支援事業を全国中小企業団体中央会から受託 し、今年度の4月より実施しております。本事業 は、日本的なサービスマインド・おもてなしの心を 持った現地人材の育成を通じて日本の中小サー ビス業の海外展開を人材育成の面から支援をす るものです。 今回は、専門家派遣の制度を利用された(米 国、シンガポール、カンボジア、インドネシア)5名 の専門家の経験談を紹介致します。 2.森本 大典専門家 Mr. Daisuke Morimoto 米国・ニューヨーク 派遣期間: 2013/8~2013/11 指導内容: 日本式接客およびネイル施術に関する指導 ▲指導の様子(中央が森本専門家) りません。人気のある店は、忙しい代わりにチップが多い ので働き甲斐があります。出来る技術が多ければ多いほ ど稼ぐことが出来るので、目新しい技術に関しては非常 に貪欲で、こちらが教える前に「それはどうやってやるの か、何のためにやるのか」と聞いてきます。技術的な指導 に関しては、最短距離でどれだけ効率良く稼ぐかを考え ているスタッフが多いため、やる気を上手く引き出し、こち らが丁寧に指導するとやりやすい環境です。 赴任国や受入企業の印象 美容・サービス業務関係は、過酷な業務内容のためか 以前アメリカでの生活経験があったため、赴任にあた 高所得者層ではありません。例えば教育をしっかり受け り心配することはありませんでしたが、ニューヨークは、移 ていない者、幼少期に移住して未だに英語が苦手な現地 民が多い土地なので、求められるデザインが人種によっ スタッフもいます。アメリカには、いたる所にそれぞれの て違うこと、自己主張をしっかりする国柄のためか派手で 民族が結束する場所があり、とあるチャイナタウンに至っ 個性的なものが好まれること、スピードを重視しているこ ては町全体のレストランのメニュー表記が中国語で、英 と等々、日本とは大きく違うので技術指導を開始するにあ 語を必要としない所もあります。そんな中で日々生活する たり、まず文化的・習慣的な違いを理解することからはじ 現地スタッフは20年アメリカにいても英語が上達しないの めました。文化的な違いからスタッフ教育も日本とは異な です。そこで、おもてなしの指導は、お客様のご来店時の りますので、スタッフに指導する技術も現地仕様に変える 挨拶や御見送りのお声がけといった基本的な動作からス 必要がありました。 タートしました。掃除の仕方やスタッフの身だしなみがお 例えば、アメリカにはチップという制度があります。サービ もてなしに繋がることも時間をかけて教育する必要があり ス業は特にチップの良し悪しで仕事を選ぶ者も少なくあ ました。 現地での生活について 身が考える今後の課題をピックアップし、明日以降に備え 世界の中心NYは、やはりエキサイティングでスピード るというスタンスで進めようとするのですが、そういった習 感のある独特な土地だと感じました。こと芸術に関しては 慣がないようで、早く帰宅したがることです。そして、レポ 皆関心が高く、いつも新しい作家の名前を耳にします。 ートの内容も極度に簡潔であり、抽象的なことばかりでな かなかこちらの思惑通り進まず、どう進めるべきか現時 点においてもこれぞという解決策は見いだせておりませ ん。 ▲ニューヨークのアート 美術館の数も多く、休みになるとメトロポリタン、グッゲ ンハイム、ホイットニーなどの美術館めぐりをすることが ▲指導の様子(右端が深田専門家) 多かったです。お客様とのコミュニケーションの題材にも なり、新しいデザインのインスピレーションにもなるので、 その中で、現時点で実践しているのは、当日どのよう スタッフにもおススメしました。身近にあると意外に行かな な作業を実施したかを箇条書きにして頂くのみとし、本人 いものだそうです。 が当日何を実践したと認識しているかを確認することで 交通手段は地下鉄です。一度コツをつかむと、地図無 す。すると、その記入順は、本人が理解・習得できたと考 しでどこへでも出かけることが出来ます。東京の路線図よ えている順位になる傾向があることに気づきました。 りわかりやすく、使いやすいと感じました。 そのため、その上位の項目に対しては基本的に褒め、下 頻繁に見かけるのは、駅構内にて何かしらパフォーマ 位の2項目に関しては苦手意識と習得度が低いと本人が ンスをしている光景です。日によっては声帯模写でコメデ 認識している前提で、翌日以降のスケジュールに取り入 ィーショーをやっていたり、ゴスペルを歌っていたり、ジャ れると共に、改善策や留意すべき点を指導するというスタ ズ演奏をやっていたりと、なかなか面白いものが見られ ンスで振り返りを実施しております。その手法が最善策な ることがあります。上手な人に対しては快くチップを渡す のかどうかは未だ手探り状態ではありますが、現地スタッ 人が多いのも印象的でした。 フもその振り返りに快く向き合って頂けるようになってお 良い芸術に関しては、お金を惜しまない環境が出来上 り、現状はそのスタンスで進めております。 がっていることを羨ましく感じました。 4.深 豊幸専門家 3.深田 昇専門家 カンボジア・プノンペン Mr. Noboru Fukada 派遣期間: シンガポール 派遣期間: 2013/8~2013/11 指導内容: ラーメン店における調理、接客、店舗マネジ メントに関する指導 指導に関してお困りになった点とその解決方法 指導を進めていくうえで、国民性・地域性というものが Mr. Toyoyuki Fuka 2013/8~2013/12 指導内容: カーディーラーの店舗運営管理、店舗書類 作成及び日本式接客に関する指導 現地での生活について HIDA専門家として滞在したカンボジアのプノンペンで最 も良く、印象に残ったことは何かと聞かれれば、私の場 大いに関係しているとは考えられますが、困ったというよ 合、「自分がまだ知らなかった、これまでとは全く違う世界 り意外であったのが、日々、当日の最後にレポートを書い に出会えた」ということです。 ていただいたうえで振り返りを実施し、本日の反省点、自 さて、私が所属する有限会社ウイングスは長崎県にお いて自動車買取業、販売業及び整備業を手掛ける企業 であり、ウイングスと今回の受入企業とは経営者を同じく 必要がありました。 他にも、カンボジアはフェアな経済競争を許していない する謂わば兄弟企業であり、日本の中古車を輸出する取 国であることも驚きでした。その原因となっているのは、 引先でもあります。今回、縁あって私は、受入企業、つま VATと呼ばれる消費税です。同国政府への商業登録の り日本からカンボジアのプノンペンに進出した最初のトー 仕方によって、この税を納めなくてもよい店が市内に存在 タルカーディーラーであるウイングス・ガレージの店舗運 し、納めている店と納めていない店の間には10%の価格 営・管理のHIDA専門家として、2013年8月から12月までの 差が生じています。カンボジアでは税務制度にまだまだ 4ヵ月間、同地に滞在しました。そこで見たこと、経験した 曖昧なところがあり、それが公平な競争を難しくしている ことは、私にとって「世界はまだまだ広く、知らないことが という現実があります。 たくさんあるな」と感じさせられることばかりでした。 「郷に入っては郷に従え」と言われるように、新しい土 地に行っても、その土地のルールや風習を理解し、それ を見習って生活していくことは重要です。 それを踏まえて、4ヵ月間、HIDA専門家としてカンボジア 滞在に臨んだが、自分自身が目の当たりにした状況が、 自分の想像以上であり、驚きが尽きなかったです。今回 のカンボジア滞在は違う世界を見るという意味で、私にと って本当に貴重な機会でした。今後は、上記した驚きの 背景にきっとあるだろう経済格差や学歴格差などについ てもクールな頭と暖かい心で触れ、その社会に対する理 解をもっと深めることに尽力していきたいと思います。 ▲カンボジアのウイングス・ガレージの店舗 まず、交通事情の中で見つけた驚きでした。プノンペン 市内中心部には南北に走る大きな商業ストリート、モニボ ン通りというのがあります。駐車のために当たり前のよう に利用される歩道スペース、対向車線に広がって信号待 ちするバイクの群れ、後ろから蜂が飛ぶかのように猛ス ピードで迫ってくるバイク、交通法規が理解され、きちんと 取り締まりが実施されれば、交通マナーが改善されていく 5.鬼頭 量一専門家 Mr. Ryoichi Kito 米国・ロス・アンジェルス 派遣期間: 2013/11~2013/12 指導内容: 生花・造花の制作及び店舗での販売方法 に関する指導 効果的な指導方法 現地スタッフに指導する中で、言葉の壁が一番の問題 のであろうが、残念なことにまだまだそんな段階にありま だと思っていましたが、幸い私たちの仕事の多くが形の せん。 ないものを3次元化し立体化していくことが多いので、そ また、毎日の生活のなかで行う掃除のなかにも驚があり の場で実践し見せることで、言葉で説明するよりも多く理 ました。日本では、学校教育のなかで掃除が取り入れら 解を得られたと思います。しかし、日本のクオリティーを れ、小さい頃から掃除に従事することの大切さを学んで 理解してもらう点では苦心しました。 おり、掃除は「履く」ことであり、掃除をすることで、色々な 米国では花束や切花を購入した際に保水などは特に ものを自分の心から「吐く」ことができるといった美徳とし しませんし、気にもしない人が多く、それが普通になって て捉えられていることも多いと思います。しかし、カンボジ いますが、日本では花束に保水するのは当たり前のこと アでは、掃除が、誰もが従事すべき大切な作業として捉 だし、切花に対しても同じような感覚でもあります。その えられているわけでは必ずしもありません。高等教育を 感覚を指導することは大変難しく、日本人は花を買った後 受けた現地スタッフのなかには、掃除は「レベルの低い」 や貰った後のことを考えて、花を購入する人が多く、花を 仕事であると考え、従事することを嫌がるものも少なから 愛しみ扱うということは「生花」の文化でもあります。欧米 ずいます。毎日の作業のなかで、年齢、学歴、ポジション では、貰った瞬間や、飾ったときの場面など、花はあくま に関わらず、掃除作業を取り入れていた受入企業として でも脇役であり気持ちを伝えるための手段というような印 は、誤解を避けるため、新規で現地スタッフを雇用する際 象を受けました。日本では企業間で扱う花のような場面 には、面接で掃除の意味合いや大切さを十分に説明する に類似していますが、「社交的な花の文化」と「花それ 自体を愛しみ扱う文化」は全く異なりました。 これを指導し理解してもらうには、花への情熱を注ぎ込 み何度も繰り返し指導することしか出来ませんでしたが、 最終的には何回も繰り返し実践していくことで現地スタッ フが花への愛情を持つことが出来、お客様にお花を買う ことを勧められる商売人にまでなりました。 ▲完成した門松 6.若光 宏専門家 Mr. Hiroshi Wakamitsu インドネシア・ジャカルタ 派遣期間: 2013/11~2013/12 指導内容: 日本食レストランにおける調理技術及び日本 ▲製作したアレンジメント 指導に関してお困りになった点とその解決方法 式接客方法に関する指導 効果的な指導方法 米国滞在中に、日系のスーパーから門松の注文が入 宗教、文化、風習など全てが異なるインドネシアで、現 りました。勿論、現地に製作出来る人も無く、私が現地ス 地スタッフに日本食レストランの調理技術や接客作法を1 タッフに指導し無事に納品することが出来ました。 ヵ月という短期間で指導するのは容易ではありませんで 日本で当たり前にあるものが現地には無く、材料の調達 した。着任初日、最初に感じた衛生環境や調理技術、サ には苦労しました。現地スタッフに指導する際には、ただ ービス業務内容などは日本と比較すると明確な差があり でさえ日本のことはよくわからないのに、ましてや「門松っ ました。短期間の指導で私が選択した指導方法は、日本 て何?」といった状態だったので、1から10まで指導する 食レストランで働く心構えや、基本の衛生管理、接客態度 必要がありました。バケツやセメントなどの資材は、市場 などの意味、理由を理解してもらうマニュアルを作成し、 で仲良くなったアルマンに安く譲って貰いました。そして、 これらを把握してもらった上で、実演して見せるという方 随時現地スタッフと行動を共にし、来年度の注文などのこ 法でした。これによって、一つ一つの心構えや作業を納 とも考慮し、その場で必要な資材は、メモ書きしていただ 得してもらい、改善することが出来ました。結果的に、技 き来年からは私が居なくても出来るように極力自分たち 術や言葉使いも日々向上することが出来ました。このよう の手で何かするように指導にあたりました。 な指導を通じて、一連の作業を指導するのではなく、一つ 日本人のきめ細やかな仕事に対し、不慣れな一面もあ りましたが、皆、真面目に作業に取り組んでいただいたの 一つ作業の持つ意味や理由を詳しく教えることが成長へ の近道の一つだと実感しました。 で、最終的には「仕入」「竹を切る」「バケツに竹を立てセメ ントを流し込む」「松、梅、葉牡丹を飾り付ける」「バケツに 藁を巻く」仕上げるところまで1人で出来るようになりまし た。更に、門松を製作すると同時に、日本の文化を伝える 必要がありました。古事記の榊のことや、武士は斜め切 りで、商人は寸胴切り(他にも説はあります)、葉牡丹は紅 白だから入れるなど、物を作る技術を覚えるということは 同時にその物の存在の理由も知らなければ作り上げるこ とが出来ず、それを知った上で、最終的には門松を作る ことが出来るのだと、日本人としての心得も現地スタッフ は、習得致しました。 ▲現地スタッフの皆さん(左後方が若光専門家)
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