到着頻度の集中度合を考慮した駅のトイレ規模算定 正会員 正会員 鉄道駅 待ち行列 1 トイレ 到着頻度 ○*1 木下 芳郎 *3 坂本 圭司 *2 会員外 久世 智洋 規模算定 はじめに 果と現行の算定方法を検討して、対象駅で多くの待ちが発 駅のような利用頻度の高い空間のトイレ規模(便器数) を検討する際には、乗降人数や待ち時間を考慮した算定基 準を用いることが一般的である。この基準は実調査にもと づいた数値シミュレーションの研究成果 1),2),3) によって 生している原因を以下のように考察した。 ・到着頻度が電車到着時に想定以上に集中する 現行算定方法での到着頻度はポアソン分布(ランダ ム型)であり、路線が複数ある比較的大規模な駅では、 算定方法が作成されている。ところが、算定方法通りに計 電車到着時のトイレ到着頻度をランダム型で十分表現 画したトイレで想定を超える待ち行列が発生する事象が報 できることが確認されている。しかし、対象駅では路 告されている。そこで本稿では、このような駅を対象とし 線数が 1 つであり、商業施設への利用も多い。このこ て多数の待ちが生じている原因を検討し、改良した方法に とから、降車客によるトイレ到着頻度の集中度合が図 よって適正な規模算定を行った過程について報告する。 2 の模式図のように高く、ランダム型で表現しきれな 2 いため、想定よりも多い待ちが生じると考えられる。 対象駅における待ち人数等の調査 女性用トイレに多数の待ちが生じている駅を対象として、 利用者数の多い午前 7~10 時を中心に 5 分単位でトイレ到 着人数と最大待ち人数、トイレ利用時間を調査した。駅の 概要を表 1 に、調査結果を図 1 に示す。1 時間あたりの利 用人数から現行の算定方法(最大待ち時間の平均の条件: 194 秒)を用いて得られる便器数は 13 であり、現状の規 模で十分である。一方、調査結果では最大待ち時間がほぼ すべての調査日で 3 分を上回り、平均は 5 分だった。 3 調査結果から 1 人あたりの利用時間が平均 30 秒長い ため、待ちを多く生じさせていると考えられる。 以上より、集中到着とランダム到着の比率(集中率=集 中型到着人数/到着人数とする)を設定して到着頻度を定 め、さらに利用時間を任意に設定可能なトイレ利用シミュ レータを作成した。シミュレータの流れを図 3 に示す。ま た、トイレに到着した旅客にはトイレを利用しない場合が トイレ規模算定方法の改良 現行のトイレ規模算定方法の概要を表 2 に示す。調査結 あるため、実利用率も設定できるようにした。 到 集中型到着 着 (主に降車客) 頻 度 表 2 現行規模算定方法 表 1 対象駅の概要 シェア ヒストグラム 路線数 1 乗車人数 約7万人/日 女性トイレ便器数 13(+多目的1) 近接した商業施設 の利用者が多い 特徴 ・利用時間が長い 利用時間[s] 0.40 平均159秒 0.30 0.20 0.10 到着頻度 ポアソン分布 = + 利用時間 平均130秒* 3次のアーラン分布 条件 最大待ち時間の平均を194秒 以下とする(目標レベル) 0.00 ランダム型到着 実際の到着頻度 (主に乗車客) 時刻 *整備マニュアルより逆算した値 時刻 時刻 図 2 到着頻度の集中 開始 ■各調査日の結果概要 ■入力データ設定 ・旅客到着率データ 調査日(2013年) 2月1日(金) 3月31日(日)7月13日(土)7月26日(金) 7月28日(土)7月29日(日)8月9日(金) 8月10日(土) 調査時間 9:00-10:00 7:00-9:00 8:00-10:00 8:00-10:00 7:00-10:00 7:00-10:00 7:00-10:00 7:00-10:00 1時間あたりの平均 328 333 367 338 334 318 345 327 到着人数[人/時間] 最大待ち人数[人] 43 29 29 15 21 23 25 34 最大待ち時間[分]* 8.0 5.2 5.2 2.7 3.8 4.2 4.5 ・平均利用時間、便器数、集中率、実利用率 ■シミュレーション終了判定 6.2 Yes *最大待ち人数からブース数14、利用時間159秒として算出 55 45 人数[人] 試行回数は300回か No 65 到着人数[人/5分] 35 ■結果集計 ■初期設定:旅客発生人数・時刻の設定 ・最大待ち時間と ・到着率にしたがい、トイレ利用者数の発生時刻を設定 待ち人数の平均、 (集中型到着は5分毎) 待ち時間の発生確率 ・各旅客のトイレ利用時間を設定 を算出 最大待ち人数[人] 25 15 ■1回分の試行終了判定 全ての旅客がトイレ利用済みか 終了 Yes No 5 7:00 7:15 7:30 7:45 8:00 8:15 8:30 8:45 9:00 9:15 9:30 9:45 ■5分間ごとの到着頻度と最大待ち人数の変動(8月10日の例) 図 1 調査結果 Planning the Number of Railway Station Lavatory Considering Degree of Arrival Concentration ■シミュレーションの実施 ・時間を単位時間(1秒)進める ・各利用者の状態(到着前/待ち/利用/利用済)を変化させる 図 3 トイレ利用シミュレータ KINOSHITA Yoshiro*1, KUZE Tomohiro*2, SAKAMOTO Kiyoshi*3 ■試行1回分の集計 ・各旅客の待ち時間 ・待ち人数の発生頻度 4 改良による規模算定 4-2 規模算定 4-1 集中率と利用割合の推定 得られた特性を組み込んで改良したシミュレータを用い 集中率、実利用率は調査から直接わからないため、調査に て規模算定を行った。条件を表 5 に示す。サービスレベル よる 5 分間ごとの最大待ち人数とシミュレータによる結果 条件については最大値の平均値ではなく、文献 4),5) を参考 を比較して、誤差が最小となる集中率、実利用率を求めた。 に発生確率で定める方法に改めた。規模と待ち時間の発生 集中率と実利用率の推定方法を図 4 に示す。なお、待ち人 確率の関係と規模算定結果を図 7 に示す。目標とするサー 数が多い場合の精度が高くなるよう、誤差は以下のような ビスレベルに応じて便器数をどの程度整備するべきかを得 重みづけをした。その他の条件を表 3 に、推定結果を図 5 ることができた。 に示す。誤差が最小となる値を探した結果、集中率 0.88、 実利用率 0.70 となった。この結果を用いて最大待ち人数 表 5 規模算定の条件 を算出した例を図 6 に示す。シミュレータによって待ち人 到着頻度 調査日の値を平均し、標準偏差を最も大きかった日と等しくする 数がおおむね表現できていることから、これを用いて規模 サービスレベル条件 利用時間、集中率、実利用率 調査結果、推定結果を用いる 算定を行うこととした。得られた対象駅の特性を現行算定 最大待ち時間が設定時間(ハイレベル100秒、目標レベル194秒、 標準レベル287秒)以上となる確率を0.1%未満とする 30 0.005 25 20 15 方法と比較して表 4 に示す。 トイレ便器数 0.004 サービスレベル 誤差 調査結果とシミュレータの差 2 ハイレベル 0.003 目標レベル 確率 5分毎の全データ 調査結果とシミュレータの差 標準レベル 0.002 実際の最大待ち人数 10 の場合 5 実際の最大待ち人数-シミュレータの最大待ち人数 = 実際の最大待ち人数<10 の場合 実際の最大待ち人数-シミュレータの最大待ち人数 必要便器数 (多目的含まない) 24 19 16 0.001 0.0~ 15.0~ 30.0~ 45.0~ 60.0~ 75.0~ 90.0~ 105.0~ 120.0~ 135.0~ 150.0~ 165.0~ 180.0~ 195.0~ 210.0~ 225.0~ 240.0~ 255.0~ 270.0~ 285.0~ 300.0~ 315.0~ 330.0~ 345.0~ 360.0~ 0 待ち時間[秒] 到着頻度 (計測データ) 〇人/5分 集中率による調査結果と シミュレーションの差(実利用率は0.70に固定) 150000 図 7 規模と待ちの確率 集中率 トイレ利用 シミュレータ x% (初期値) 誤差 145000 5 140000 135000 トイレ実利用率 130000 0.8 0.82 0.84 0.86 0.88 0.9 0.92 0.94 0.96 0.98 y% トイレ実利用率による調査結果と シミュレーションの差(集中率は0.88に固定) 350000 集中率 比較してx, 修正 トイレ実利用率 (推定値) 誤差 最小 yを 誤差 300000 x% (推定値) y% 1 集中率 (初期値) 最大待ち人数 (予測値) 因について検討した。主な原因は到着頻度の集中度合が高 いことと利用時間が長いことであり、これらの駅の特性を 定量的に求め、駅の特性を考慮して改良した数値シミュレ 250000 ーションを用いて規模の算定を行った。 200000 14(多目的含めた数) 集中率 0から1まで0.02単位で変化 トイレ実利用率 0.5から1までまで0.02単位で変化 対象データ 全調査日のデータ その他 最初の15分間は誤差に含めない 対象駅以外にも単路線駅などでは同様の特性を持つ駅が 100000 最大待ち人数 (計測データ) トイレ便器数 0.6 0.62 0.64 0.66 0.68 0.7 0.72 0.74 0.76 0.78 0.8 あり、本報告で作成した算定方法によって適切な規模算定 トイレ利用率 図 5 推定結果 ができると考えられる。 表 4 対象駅の特性 対象駅 1人あたりトイレ 利用時間 集中率 トイレ実利用率 現行規模算定方法 平均160秒 平均130秒 88% 0%(全てランダム) 70% 60~70%* 65 55 人数[人] のトイレを対象として調査を行い、多数の待ちが生じる原 150000 図 4 集中率と 実利用率の推定方法 表 3 推定の条件 45 到着人数[人/5分] 35 最大待ち人数[人] 25 最大待ちの推計結果[人] 15 5 7:00 7:15 7:30 7:45 8:00 8:15 8:30 8:45 9:00 9:15 9:30 9:45 図 6 最大待ち人数の推定結果 *1 *2 *3 まとめ 現行の算定方法では想定を超える待ち行列がみられる駅 ベクトル総研 東日本旅客鉄道 千葉支社 東日本旅客鉄道 フロンティアサービス研究所 *1 *2 *3 [参考文献] 1)村川 三郎 , 坂上 恭助 , 越川 康夫 , 高津 靖夫 , 仲川 ゆ り:駅舎における乗降者数とトイレ利用者数の検討 : 駅舎トイレ における器具数算定法に関する研究 その 1、日本建築学会計画系 論文集 (522), 91-96, 1999 2)越川 康夫 , 村川 三郎 , 坂上 恭助 , 高津 靖夫 , 仲川 ゆ り:駅舎トイレにおける器具使用とその特性の検討 : 駅舎トイレ における器具数算定法に関する研究 その 2、日本建築学会計画系 論文集 (528), p.59-65, 2000 3)村川 三郎 , 坂上 恭助 , 越川 康夫 , 高津 靖夫 , 仲川 ゆり , 薬師神 厚志:駅舎トイレにおける器具数算定法の一提案 : 駅舎ト イレにおける器具数算定法に関する研究 その 3、日本建築学会計 画系論文集 (545), 59-64, 2001 4)吉武泰水:施設規模の算定について、日本建築學會論文集 (42), p.117-127, 1951 5)岡田光正:建築計画学(12)施設規模、丸善、1970 Vector Research Institute, Inc. East Japan Railway Company Chiba East Japan Railway Company, Frontier Service Development Laboratory
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