招待講演………………………………… - J

招待講演 …………………………………29
特別講演 …………………………………31
教育講演 …………………………………32
シンポジウム ……………………………34
ランチョンセミナー ……………………39
小児耳 30(2): 8586, 2009
招待講演
A Short History of Canadian Pediatric Otolaryngology
/Sialorrhea―My Clinical Passion
William S. Crysdale M.D., F. R. C. S.(C)
Japan has four times the otolaryngologists
the vast majority of his patients were children.
that Canada has relative to our populations (127
He was a wonderfully skilled endoscopist and
vs. 33 million) and apparently nearly 10 times
teacher of that skill in the days preceding the
the number of pediatric otolaryngologists! The
evolution of the more sophisticated equipment
development of pediatric otolaryngology in
that we all have at our disposal now. He pub-
Canada really has paralleled its development in
lished extensively. One of the more signiˆcant
the United States. So, until the second half of
evolutions of care that he championed was the
century, it was only interested individ-
establishment of airway control (usually with a
uals who usually treated both adults and chil-
bronchoscope without anesthesia!) prior to
dren who developed a reputation as ``pediatric
deˆnitive airway management (tracheotomy
otolaryngologists'' really because they dealt in a
prior to the introduction of ETT's in the
more adept fashion with the otolaryngological
1970's!). With the introduction of the concept
problems in children. There was no formal
of airway control prior to tracheotomy, mortali-
pediatric otolaryngology forum to share these
ty (and other morbidity) in that feared condi-
the
20th
experiences with peers. There were no recog-
tion was reduced from 40 to 2. However, all
nized pediatric otolaryngology fellowships at
of this is now just an interesting anecdote fol-
that time. The American Society of Pediatric
lowing the introduction of H. In‰uenza vaccine
Otolaryngology was only established 25 years
in the late 1980's which basically has eliminated
ago; it was preceded by the Pediatric Study
that disease. A fulltime fellow in the early
Group in which Canadian otolaryngologists par-
1970's was Dr. Robin Cotton; they collaborated
ticipated.
pediatric
on the development of a surgical technique for
otolarygologists do not yet have their own socie-
the management of subglottic stenosis which, at
ty but usually meet for a half day during the an-
that time, was a very common consequence of
nual spring meeting of the Canadian Otolarygol-
neonatal intubation for respiratory distress syn-
ogy―Head and Neck Society.
drome. Of course, the rest is history. Fortunate-
Even
now,
Canadian
To me, Canadian pediatric otolaryngology
was really established as a credible subspecialty
ly, subglottic stenosis is now a less frequent
complication of endotracheal intubation.
of our specialty by Dr. Blair William Fearon
The management of sialorrhea (drooling) in
(19191996). He joined the staŠ at the Hospital
neurologically compromised children was a clin-
for Sick Children in Toronto in 1950 following a
ical passion of mine. I retired in July 2007 and
1 year endoscopy orientated fellowship in
to January 1st of that year, I had been part of a
Philadelphia. He did consult on some adults but
four specialty team (pediatric otolaryngologist,
― 29 ―
( 85 )
小児耳 30(2), 2009
speech pathologist, pediatric dentist, and social
duct ligation (simultaneous ligation of both
worker) that had assessed and made manage-
parotid & submandibular ducts) which was
ment decisions in 1599 referred children over
completed in 22 patients.
the preceding 31 years. These numbers are ac-
Over the years, we published extensively
curate as over that time period I had maintained
about this patient population stressing the ad-
an ExcelR program in which I recorded demo-
vantages of a team approach1, detailing the sur-
graphic information, management decisions,
gical techniques involved2, and relating the
surgical procedures completed, complications
results of surgical intervention3.
Perhaps the most gratifying aspect for all of
of surgery and outcome information on all
patients referred for assessment.
us to witness in such children was the increased
The majority of these children had cerebral
conˆdence that they exhibited as they became
palsy which is unfortunately quite common (1
more acceptable to their peers. All of us on the
in 300 live births); it is estimated that 10 of
``drooling'' team came to realize that the most
such children will have saliva control issues
important outcome aspect from the patient's
( drooling
Fortunately
perspective was the elimination of the stigma
drooling is very much more common problem
associated with the persistence of problematic
(an estimated ratio of 1 to 50) than aspiration
drooling.
and / or
aspiration ) .
which is usually much more problematic to
manage. Management recommendations for
1.
Saliva Control Issues in Neurologically
problematic drooling consisted of no interven-
Challenged Children―A 30 Year Ex-
tion, oral motor training therapy, elimination of
perience in Team Management William S.
signiˆcant situational factors, and treatment of
Crysdale M.D., Catherine McCann, Lisa
dental disease, BOTOX(R) injections, and sur-
Roske, Melissa Joseph, Dan Semenuk,
gery. Over the years, the commonest procedure
Peter Chait. Int. Jour. Ped. Otorhinolaryn-
completed for drooling has been submandibular
gol 70: 51927, 2006.
duct relocation(SDR). In 225 patients prior to
2.
1988, SDR was completed alone. However, as
Otolaryngology. C. Bluestone, Rosenfeld
ranulas developed in about 10 of this patient
group, simultaneous sublingual gland excision
Drooling. Surgical Procedures in Pediatric
Ed. W. B. Saunders, 2002
3.
Management
Drooling ― Experience
was added to SDR and that combined proce-
with
dure was completed in an additional 446
Crysdale, W. S., Raveh, E., McCann, C.,
patients. No ranulas occurred in this latter
Roske, L., Kotler, A. Dev Med & Child
group of patients. The surgical procedure of
Neur 2001 June; 43(6): 37983.
choice for aspiration was operation called 4
( 86 )
― 30 ―
1,103
of
Patients
over
23
Years.
小児耳 30(2): 87 , 2009
特別講演
日本における小児耳鼻咽喉科学発展の歴史と今後の展望
川城信子
元国立成育医療センター
第二専門診療部
日本においては 1967 年(昭和 42 年)に小児
2) 診断方法の進歩難聴の診断の進歩1970
専門の病院(国立小児病院)が設立された。そ
年 ABR の 発見 に より 難 聴 診断 が 確 実に な っ
の 後 各 地 に 小 児 病 院 が 設 立 さ れ た 。 1979 年
た。近年では新生児聴覚スクリーニングの施行
(昭和 54 年)に日本小児耳鼻咽喉科研究会の第
により難聴が早期に診断され,対応がとられる
1 回が鈴木淳一・古賀慶次郎両先生の発案で開
ようになった。遺伝子診断も進められるように
催され年 2 回開催された。 25 年を経過し 2005
なった。
年に小児耳鼻咽喉科学会への昇格が決定した。
喉頭疾患 30 年前には直達鏡による診断で困
今回,第 4 回が内藤健晴教授(藤田保健衛生大
難であったが,ファイバースコープの開発によ
学)の主催で開催される。研究会は大変有意義
り生理的な状態で観察が可能になった。声門下
であったが,学会になってから益々その意義は
も laryngeal
大きく小児に関連する医療人がより多く参加す
能になった。
るようになった。経験に頼ることが多々あった
3) 治療の進歩難聴児に人工内耳が施行され
が,症例の積み重ねにより学問として体系化さ
効果をあげている。
れてきた。
4)
この約 30 年の経過をみて,どのような変化
があったか。
mask と三方弁の使用で観察が可
放射線診断技術があがり,腫瘍,炎症疾
患,異物の診断が容易になった。
今後の期待と問題
1) 疾患の変化急性中耳炎の中に反復性難治
1) 胎児診断の進歩胎児期から肺疾患,頚部
性中耳炎が増加し,その一つの原因として耐性
腫瘍,気道疾患が診断され,EXIT 法が行われ
菌の問題があり,対処する抗生物質も考慮され
ている。このような周産期救命が進むであろう。
急性中耳炎ガイドライン( 2006 年)が作成さ
2) 再生医療への期待小耳症,気管喉頭狭窄
れた。
に再生医療が行われる時代になるか。
睡眠時無呼吸が小児でも問題になっており,ア
3) チーム医療小児の特徴ゆえに他の科との
デノイド扁桃肥大による睡眠時無呼吸は低年齢
連携が益々,必要である。
化している。
4) キャリーオバーの問題疾患は成人に持ち
周産期医学の進歩により低体重出生児の救命と
越すのでいかに対応するか。
ともに気道疾患が増加した。
― 31 ―
( 87 )
小児耳 30(2): 88 , 2009
教育講演
小児科医に知ってもらいたい中耳炎の知識
工藤典代
千葉県立保健医療大学健康科学部
【はじめに】中耳炎といえばまず急性中耳炎が
状と鼓膜所見から軽症,中等症,重症の 3 段階
思い浮かぶ。上気道炎後に熱が下がらない乳幼
 重症度別に治療を開始することが述
に分け,◯
児が急性中耳炎を併発していた,という経験は
べられている。
日常臨床上,よく経験する。0 歳児や 1 歳児で
 2 歳未満児はより重症と
治療の考え方は,◯
は症状をうまく伝えることができず,気が付き
 AMPC を第一選択とし,その高用
考える,◯
量( 1.5 ~ 2 倍量), CVA / AMPC ,セフェム系
にくいことが一因である。
症状が乏しい中耳炎では滲出性中耳炎も就学
 セカンド
では CDTRPI が推奨されている。◯
前の小児では気をつけたい中耳炎であり,主と
ラインでは中耳貯留液,鼻咽腔の細菌の抗菌薬
してこの 2 つの中耳炎について述べる。
感受性結果を参考にし,抗菌薬を変更,鼓膜切
【急性中耳炎とは】中耳に病原体が侵入し感染
開も選択肢となる。これらの方針は急性中耳炎
を起こし急性中耳炎を発症する。中耳は鼻咽腔
の 2 大起炎菌が肺炎球菌とインフルエンザ菌で
と耳管でつながっているために,容易に鼻咽腔
あり,ペニシリン耐性化が進んでいる現状と幼
の病原体が中耳に侵入する。病原体はウイルス
小児では特に耐性率が高いことからエビデンス
も細菌もある。しかし,鼓膜所見からは病原体
に基づいて推奨された。
の判断が困難である。中耳に感染を来している
【滲出性中耳炎とは】中耳に滲出液が貯留する
ため,耳痛,耳閉感,難聴が生じているはずで
ために耳閉感や難聴が生じる。鼻咽腔から耳管
ある。診断は耳症状と鼓膜所見から行うことに
を通じて含気されず,中耳腔が陰圧になってい
なる。通常の急性中耳炎では CRP や白血球数
る。鼻副鼻腔炎やアデノイド肥大,上気道炎な
など検査値にはほとんど影響を来さない。
どにより耳管機能が低下していることが原因で
【急性中耳炎の治療】ウイルス感染は self limit-
ある。問題は幼児期に多く,難聴が言語発達や
ing であり,基本的には抗菌薬を投与しなくて
性格,母子関係なども影響することである。症
も治癒する。細菌感染の場合は抗菌薬治療が重
状を訴えないために発見が遅れ偶然に見つかる
要となる。 2006 年 3 月に「小児急性中耳炎診
ことが多い。
療ガイドライン」がリリースされ,推奨する治
【滲出性中耳炎の治療】耳管機能に影響を来し
療法が提示された。また 2009 年 1 月には改訂
ている疾患の治療を行う。鼻治療,咽頭の治療
版が出されているが,基本的な治療アルゴリズ
が主体である。 1 , 2 か月以上治癒傾向なけれ
ムは同じで,反復性中耳炎の治療が提案されて
ば鼓膜切開を行い,それ以上長期に及ぶ場合は
 臨床症
いる。ガイドラインには急性中耳炎を◯
鼓膜換気チューブ留置を行う。
( 88 )
― 32 ―
小児耳 30(2): 89 , 2009
教育講演
小児期における扁桃の役割と扁桃摘出の適応
黒野祐一
鹿児島大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】扁桃(口蓋扁桃)はワルダイエル
織としても機能することを示している。近年,
扁桃輪を構成する最大のリンパ組織であり,鼻
ヒト扁桃がげっ歯類の鼻咽腔関連リンパ組織
腔や口腔から侵入する微生物に対して重要な防
( NALT )に相当する臓器として考えられてい
御機能を司っている。その一方で,扁桃そのも
るが, NALT は誘導組織であって実効組織と
のが感染のターゲットとなって,扁桃炎や扁桃
しては働かないことが大きく異なる。また,扁
病巣感染症を発症する。また,反復感染によっ
桃上皮には分泌因子の発現がなく,実効組織と
て肥大した扁桃がしばしば睡眠時無呼吸の原因
しての機能も異なる。発生学的にも扁桃よりも
となる。このように,扁桃は免疫と感染の二面
むしろアデノイドのほうが NALT に類似して
性を同時に有する非常にユニークな臓器であ
いる。
り,そのため扁桃の働きが活発な小児期では扁
扁桃が感染臓器となるのは扁桃に陰窩とリン
桃摘出術の適応の決断に悩むことが少なくな
パ濾胞があるためで,陰窩から侵入する微生物
い。そこで,扁桃の免疫学的な役割を概説し,
に対してリンパ濾胞が直接反応してリンパ球が
扁桃摘出術を行う上での留意点をまとめてみた
増殖し扁桃が腫大する。これが繰り返されると
い。
慢性的な扁桃炎や扁桃肥大となり,ときに感作
【扁桃の免疫臓器としての特異性】 1971 年に
PL. Ogra がアデノイド切除術および扁桃摘出
されたリンパ球や IgA が遠隔臓器にホーミン
グして IgA 腎症や掌蹠膿疱症をもたらす.
術を行った小児では経口ポリオワクチンに対す
【扁桃摘出術の免疫学的影響】Schidler らは,2
る上気道の粘膜免疫応答が抑制され,さらにワ
~8 歳児における扁桃摘出術後の血清中免疫グ
クチン接種後にアデノイド切除術と扁桃摘出術
ロブリン値の推移を無作為対照試験で検証して
を行うと鼻咽腔液中のポリオに対する分泌型
いる。それによると,術後に IgA 値は有意に
IgA が有意に低下することを報告した。この論
低下したが,その後次第に増加し,他の咽頭リ
文は小児に対して扁桃摘出術を安易に行うこと
ンパ組織による代償が働くことを報告してい
への警鐘であるとともに,アデノイドや扁桃の
る。したがって,免疫不全などの合併がない場
免疫臓器としての重要性を指摘している。すな
合は扁桃摘出術による免疫学的欠落症状は来た
わち,扁桃摘出術によって上気道の免疫応答が
さないと思われる。しかし,代償による他の咽
抑制されたことは,扁桃が粘膜免疫応答の誘導
頭リンパ組織の肥大による弊害については注意
組織として働き,さらにワクチン接種後に特異
が必要と考える。
的 IgA 応答が低下することは,扁桃が実効組
― 33 ―
( 89 )
小児耳 30(2): 90 , 2009
シンポジウム
小児の持続性咳嗽の原因と治療
司会の言葉
宇理須厚雄
藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院小児科
咳嗽は日常診療においても最もよく見られる
るとはいえない。さらには,複数の原因疾患が
症状の 1 つである。しかし,2 ヵ月以上持続す
関与していると考えられる患者も経験するが,
る咳となるとその頻度は低くなる。成人領域で
併発している疾患を正確に診断することは非常
は遷延性咳嗽や慢性咳嗽の定義や原因となる疾
に困難である。
患についても明らかにされており,ガイドライ
本シンポジウムでは,慢性咳嗽(持続する咳
ンも作成されている。一方,小児期では,遷延
嗽)について,小児期と成人との原因疾患の違
性・慢性咳嗽の明確な定義がない。原因となる
いを検討し,小児慢性咳嗽の特徴を明らかにす
疾患は成人とは異なり,その頻度からみた順位
る。これらに基づいて,小児期慢性咳嗽の診断
は異なるとされているが不明な点が多い。ま
法と治療法の確立を目指した議論がなされるで
た,慢性咳嗽をきたす疾患は多数あり,適切な
あろう。このシンポジウムが小児慢性咳嗽研究
治療方針を立てるためには,鑑別診断が重要な
のさらなる進歩に寄与することを期待する。
ステップであるが,その方法は十分確立してい
( 90 )
― 34 ―
小児耳 30(2): 91 , 2009
小児持続性咳嗽に対する耳鼻咽喉科医の対応
阪本浩一
兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科
「咳」は,日常臨床においてよく見られる症
アレルギー,咽喉頭酸逆流を念頭においた鑑別
状の一つである。咳の多くは急性の上気道,下
診断と治療を報告する。これに対比して,兵庫
気道炎症に伴う咳嗽であり,比較的短期間に軽
県立こども病院耳鼻咽喉科において経験され
快する。一方,長期間持続する遷延性,慢性咳
た,遷延性,慢性咳嗽を示した小児例を紹介
嗽の原因として,喘息,アトピー咳嗽など下気
し,小児の持続性咳嗽における耳鼻咽喉科的鑑
道を中心とした,いわゆる内科的疾患に加え
別診断について成人の鑑別診断を用いることの
て,慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に伴う後
妥当性について検討する。
鼻漏,喉頭アレルギー,咽喉頭酸逆流などの存
耳鼻咽喉医が小児の持続性咳嗽を診る場合,
在の重要性が指摘されており,耳鼻咽喉科医に
多くは,小児科にて下気道の精査,投薬が行わ
とっても,このような鑑別診断を念頭においた
れていることが多く,経過が長く,原因の特定
遷延性慢性咳嗽への認識が高まりつつある。し
が困難な例も多い。成人においても,小児にお
かし,小児の持続性咳嗽の診断と治療について
いても咳嗽の原因が複数にわたり,症状が変化
は,成人と異なり,後鼻漏,咽喉頭酸逆流の頻
する例があることを念頭に置く必要がある。耳
度は低いとの報告もあり,耳鼻咽喉科からの検
鼻咽喉科医が鼻腔,咽頭,喉頭所見を観察し,
討は十分行われていないのが現状である。
後鼻漏の性状,腫瘤の有無を確認し報告するこ
今回,兵庫県立加古川病院耳鼻咽喉科にて,
成人における,遷延性慢性咳嗽を主訴として耳
とで,小児科医と協力して治療の効果を向上さ
せることが期待される。
鼻咽喉科を受診した症例に対し,後鼻漏,喉頭
― 35 ―
( 91 )
小児耳 30(2): 92 , 2009
小児科医の立場から
望月博之
群馬大学大学院小児科学
近年,小児科領域においても慢性咳嗽への関
おいて,気道に起こる慢性炎症の最も頻度の高
心は高く,ひとつの疾患単位として考えられる
い原因はアレルギー反応であるからにほかなら
ようになった。しかしながら,小児の持続する
ない。ダニやハウスダスト等が抗原となり,こ
咳嗽の原因疾患は多岐に及び,原因疾患を特定
れらが炎症細胞を活性化することにより,気道
できない症例も多くみられる。このため,まず
局所に炎症が引き起こされる。結果として,気
持続する咳嗽の臨床的分類が重要であるため,
道平滑筋の収縮や粘膜の腫張が生じ,気道の内
我々はこれまでの報告をもとに,“原因となる
腔の狭小化が起こる。さらに多量の痰が分泌さ
疾患や治療にかかわらず,2 ヶ月以上咳嗽の続
れることから,咳嗽の出現は顕著となる。
いた症例”を慢性咳嗽とし,原因疾患の確定で
一方,小児の咳嗽全体の原因として,圧倒的
きたものを広義の慢性咳嗽,明らかな原因疾患
に多いのは呼吸器感染症である。このなかで 4
がみられないものを狭義の慢性咳嗽と定義し
週間以上の遷延性の咳嗽を認めるものとして
た。この狭義の慢性咳嗽の範疇には,咳喘息や
は,昨年流行した百日咳がよく知られている。
藤村らの指摘するアトピー咳嗽が含まれるが,
気道感染による咳嗽を考える場合,診断・治療
咳喘息の定義として,便宜上,”狭義の慢性咳
の際の年齢,ワクチン接種歴を考慮することは
嗽に加え気道過敏性の亢進が認められるもの”
重要である。この他,胃食道逆流症や心因性咳
としている。
嗽,気道異物などで咳嗽が遷延する場合があ
小児の慢性咳嗽において,咳嗽が持続する原
る。また,原因疾患を特定できない慢性咳嗽と
 咳受容体の感受性の亢進と
 気道
因として,
して,咳喘息(Cough Variant Asthma; CVA)
への刺激の存在,さらにはその両者が考えられ
も散見される。
 感染やアレルギー
るが,気道への刺激には,
小児科領域では,持続する咳嗽を示す小児の
 喀痰や鼻
反応による気道炎症による刺激,
多くは低年齢であるため,呼吸機能検査そのも
 気道の
漏,胃液による直接的,間接的刺激,
のを行うことができない。このため,確定診断
 室内外の環境
収縮や粘膜の浮腫による刺激,
されないままに,患者が離れていくことも少な
 これらの合併,が想定
に関連した汚染物質,
くない。持続する咳嗽の治療にあたっては,効
される。
果の不明な薬剤を長期に使用しないこと,原疾
8 週間以上の遷延性咳嗽の原因としては,喘
息やアレルギー性鼻炎など,アレルギーに関連
患を常に確定すべく心がけ,疾患に特異的な治
療を進めることが重要である.
する疾患の頻度は極めて高い。これは,小児に
( 92 )
― 36 ―
小児耳 30(2): 93 , 2009
耳鼻咽喉科と小児科の外来でみる小児の持続性咳嗽
増田佐和子
国立病院機構三重病院耳鼻咽喉科
咳嗽は小児によくみられる症状の一つであり
重要であり後鼻漏が大きく関与していることが
耳鼻咽喉科外来でも咳嗽を訴える児は多い。当
示唆された。一方副鼻腔炎を合併しない鼻アレ
科外来での小児の咳嗽有症率は39.7で,特に
ルギーは28.1でそのほとんどが喘息を有し,
年少児において高率であった。受診までの咳嗽
1 例のみ百日咳による咳嗽と診断された。鼻ア
の持続期間は約半数が 1 週間以内であり,4 週
レルギーは単独で咳嗽の原因となるというより
間以上続いていたものは 7.9 と決して多くは
も,持続する咳嗽をきたす副鼻腔炎や喘息に合
ない。しかしこれら持続する咳嗽の原因には副
併することが多いという点で注意すべきである
鼻腔炎,喘息,原発性線毛機能不全,心因性咳
と考えられる。また全体の43.8が小児科と耳
嗽などが含まれ,上気道疾患だけでなく多様な
鼻科の双方による複数の疾患を診断され,咳嗽
疾患が関わっていた。
の原因が必ずしもひとつとは限らないことも示
ACCP(American College of Chest Physi-
された。副鼻腔炎には少量の 14 員環マクロラ
cians )による小児慢性咳嗽に関するガイドラ
イド,喘息・咳喘息にはロイコトリエン受容体
イン( 2006 )は 4 週間以上続く咳嗽を chronic
拮抗薬を中心に治療を行い,咳嗽は 1 か月後に
cough としている。また小児によくみられる気
は80以上が消失または著明改善した。
道感染に伴う咳の多くは 1 3 週間以内に改善
小児の持続する咳の診療にあたっては年齢や
するとされる。そこで 4 週間以上続く咳を訴え
一般状態,咳の性質,随伴症状,環境,予防接
る 小 児 32 名 を 小 児 科 と 耳 鼻 科 で 同 日 に 診 察
種状況や地域の流行疾患情報などさまざまな点
し,それぞれの診断をもとに治療して検討を行
に留意する必要がある。耳鼻科領域では副鼻腔
った。対象児の咳嗽は湿性のものが59.4を占
炎に伴う湿性咳嗽が多く小児科領域では喘息が
め,年少児ほどその割合が高かった。小児科医
多いが,その他にも下気道感染症,心因性咳
による診断は喘息または咳喘息が 40.6 を占
嗽,百日咳,原発性線毛機能不全,異物,さら
め,気管支炎がこれに次ぎ,心因性咳嗽,百日
には喉頭アレルギーや咽喉頭酸逆流症,複数の
咳,肺炎なども認められた。小児科で診断がつ
疾患の合併の可能性も考えなくてはならない。
かなかったのは34.4でこれらはすべて湿性咳
しかし原因疾患に対する治療を行うことで多く
嗽であった。一方耳鼻科では50.0が副鼻腔炎
が改善することから,小児科と耳鼻咽喉科が連
と診断され,その咳嗽はすべて湿性または混合
携して多方面からアプローチし的確な診断と治
性であった。このことから小児においても持続
療を行うことが重要であると考える。
性咳嗽の原因として耳鼻科領域では副鼻腔炎が
― 37 ―
( 93 )
小児耳 30(2): 94 , 2009
小児慢性咳嗽の原因と治療
小松原
亮
藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院小児科
小児科領域において,咳嗽は日常診療で最も
などの治療を続けるのではなく,問診,理学的
頻度の高い症候の一つである。多くの場合は,
所見,ウイルス,細菌学的検索,胸部 X 線撮
急性の呼吸器感染症が主な原因であり,持続期
影,副鼻腔 X 線・ CT,カプサイシン咳感受性
間が 3 週間以内である急性咳嗽が多い。しか
試験や気道過敏性検査などを行い,原因疾患の
し,咳嗽の原因がはっきりせず,8 週間以上持
鑑別を行う。そのうえで,疾患に応じた治療を
続する慢性咳嗽の患児もしばしば認められ,近
する必要がある。カプサイシン咳感受性試験,
年,小児科領域においても,慢性咳嗽は注目さ
気道過敏性試験は,咳喘息,アトピー咳嗽,喉
れるようになってきた。小児の慢性咳嗽の一番
頭アレルギーといった疾患の鑑別に重要な検査
の特徴としては,年齢によって原因となる疾患
で,低年齢の患児には手技的に施行が難しい場
が異なることである。乳幼児期には気管食道
合もあるが,診断に有用な検査であるため,出
瘻,気管狭窄,血管輪といった先天性心血管,
来る限り施行すべきである。ただし,疾患を合
呼吸器系異常疾患や異物誤嚥による咳嗽など,
併しているような症例では,検査結果がそれぞ
成人にはあまりみられない疾患が原因となるこ
れの疾患の診断基準に矛盾することもあるが,
とが特徴である。一方で成人と共通した疾患と
問診,検査などをふまえ総合的に診断し,治療
して,咳喘息などの慢性気道炎症性の疾患,副
を選択する必要がある。
鼻腔気管支症候群といった慢性気道感染疾患
慢性咳嗽をきたす疾患を複数合併しているよ
や,学童期以降では心因性咳嗽なども原因疾患
うな症例の診断や治療は難しく,これまでの行
として多くなる。
われている検査に加え,さらに鑑別診断に有用
慢性咳嗽の診断を行う上で難しい点として,
な検査が求められるが,小児慢性咳嗽の患児に
原因疾患が 1 つではなく,例えば咳喘息に喉頭
おいて気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などの炎
アレルギーを合併しているというような,いく
症性呼吸器疾患の気道炎症の病態解明や,モニ
つかの疾患が合併していることが,慢性咳嗽を
タリングに,呼気凝縮液や喀痰中のバイオマー
呈する患児の中に少なくないこともあげられる。
カーの有用性が報告されている。今回我々が経
このため小児慢性咳嗽の治療を行う上で重要
験した症例の中で呼気凝縮液を採取できた症例
なことは,原因疾患の鑑別を積極的に行い,治
に関して,バイオマーカーを測定しその結果に
療を選択することである。上記のように,小児
つき病態との関連や,疾患を合併しているよう
の慢性咳嗽では,年齢に応じてアレルギー疾患
な症例の診断に対する有用性などの検討も行っ
や感染症など多岐にわたり,疾患を合併してい
たため,文献的考察を加えて報告する。
る症例も多くみられるため,ただ漠然と鎮咳剤
( 94 )
― 38 ―
小児耳 30(2): 95 , 2009
ランチョンセミナー
耳鼻咽喉科医に役立つ小児疾患の診かた
―安全な抗ヒスタミン薬の使用法―
新島新一
順天堂大学医学部附属練馬病院小児科
小児は成人と比較すると神経系が未発達であ
を服用する可能性が高い小児アレルギー性疾患
ることから,痙攣を発症しやすい。小児の痙攣
患者は小児科だけでなく,耳鼻咽喉科,皮膚
の原因疾患としてはてんかん,熱性痙攣以外に
科,眼科,アレルギー科・呼吸器科など,通院
低血糖・低カルシウム血症・低マグネシウム血
する科は多岐にわたっている。そのため,小児
症などの代謝性異常,脳器質性病変などの他,
科以外の診療科でも小児に対する抗ヒスタミン
ノロウイルス・ロタウイルスなどの感染性胃腸
薬の処方の機会は多く,おのずと抗ヒスタミン
炎,インフルエンザウイルスや突発性発疹など
薬による小児痙攣に遭遇する機会がある。
の感染症などが挙げられる。わが国の小児にお
各種抗ヒスタミン薬における脳内移行性の検
ける熱性痙攣およびてんかん発症頻度は,それ
討によれば,第一世代抗ヒスタミン薬と一部の
ぞれ 6 ~ 8 , 0.5 ~ 0.8 と小児の約 10 人に 1
第二世代抗ヒスタミン薬は,脳内ヒスタミン受
人は痙攣を起こし易い。
容体占拠率が 50 以上(鎮静性)に認められ
近年,抗ヒスタミン薬と痙攣の関係が数多く
た。そのほか,多くの第二世代抗ヒスタミン薬
報告されるようになり注目を集めている。脳内
は 30 以下となったが,第二世代抗ヒスタミ
ヒスタミン神経系には多彩な脳機能があり,覚
ン薬でも占拠率に差があり,フェキソフェナジ
醒・睡眠機能には覚醒の増加と徐派睡眠の減
ンやエピナスチンでは 10 以下(非鎮静性)
少,認知機能には学習と記憶の増強,運動機能
であった。小児アレルギー性疾患患者に抗ヒス
には自発運動量の増加,摂食機能には摂食行動
タミン薬を使用する場合には,問診等で痙攣性
の抑制,ストレスにはストレスによる過興奮の
疾患の既往歴の確認を十分行い,特に痙攣発症
抑制,そして痙攣に対しては痙攣発症を抑制す
リスクの高い患者に対しては脳内移行性が低
る。すなわち脳内ヒスタミン神経系の賦活化は
く,痙攣誘発性の低い非鎮静性の抗ヒスタミン
痙攣を抑制するが,抑制すれば痙攣の誘発につ
薬を選択することが望ましいと考える。
ながる。そのためアレルギー疾患治療に使用さ
本講演では,耳鼻咽喉科医に知っていただき
れている抗ヒスタミン薬は,脳内に移行すると
たい小児科診療の知識を概説し,さらに小児の
ヒスタミンの作用を抑制するため,痙攣を誘発
脳内ヒスタミン神経系と抗ヒスタミン薬の関
すると考えられる。
係,脳内ヒスタミン量と痙攣の関係,小児痙攣
成人だけでなく,小児アレルギー疾患も年々
と抗ヒスタミン薬および小児痙攣に留意した抗
増加を認めているが,抗ヒスタミン薬がその治
ヒスタミン薬の使用法等について,近年の基礎
療に処方されるケースが多くなった。したがっ
および臨床エビデンスを踏まえ解説する。
て,日常の臨床現場において,抗ヒスタミン薬
― 39 ―
( 95 )
小児耳 30(2): 96 , 2009
ランチョンセミナー
小児アレルギー性鼻炎のトピックス
大久保公裕
日本医科大学耳鼻咽喉科
小児耳鼻咽喉科領域にはアレルギー性鼻炎や
雑な病態を示すことが多いので,注意する必要
副鼻腔炎などの呼吸器疾患が多く,その後に生
がある。子供では鼻を啜っている動作と口呼吸
じる滲出性中耳炎なども大きな問題となる。ア
の動作を鼻閉症状の指標とすべきで,鼻や目を
レルギー性鼻炎は成人や小児でも増加してい
こすっているしぐさなども重要である。
る。一方,副鼻腔炎はその様相は様変わりし,
アレルギー性鼻炎の関与が疑われる副鼻腔炎
好中球有意から好酸球有意の病態になって来て
や中耳炎などの小児耳鼻咽喉科疾患ではその疾
いる。
患の治療で抗生物質などを使用することはもち
今回のテーマであるアレルギー性鼻炎に関し
ろんであるが,根幹となるアレルギー疾患の治
て小児では通年性アレルギー性鼻炎が多い。
療を必ず併用しければならない。小児アレル
2000 年に当科で 15 歳以下の小児の通年性アレ
ギー性鼻炎の治療では鼻汁の吸引,ネブライ
ルギー性鼻炎と花粉症の割合を検討したとこ
ザーやネラトンカテーテルによる耳鼻咽喉科的
ろ,通年性アレルギー性鼻炎単独例が52.5を
処置も有効だが,大多数の患者を治療する手段
占め,通年性アレルギー性鼻炎と花粉症の合併
となるのはやはり薬物療法である。小児アレル
例も34.4を占め,花粉症単独例も13.1と決
ギー性鼻炎の薬物治療は,経口薬と点鼻薬が中
して少ない数字ではなかった。さらに小児の花
心となる。経口薬では,ケミカルメディエー
粉症は今も増加しており, 1998 年と 2008 年を
ター遊離抑制薬や抗ヒスタミン薬などの小児用
比較した論文では 5 歳から 9 歳まで 7.2 から
製剤を用いる。小児では成長などの問題も考慮
13.7まで増加している。また同じ調査同じ年
し,経口ステロイドの処方は極力避け,用いる
齢のでは通年性アレルギー性鼻炎全体では25.5
場合は短期間に限定すべきである。このためス
から 22.5 まで減少したのである。アレル
テロイド薬としては小児ではもちろん点鼻薬を
ギー疾患既往がなかったのにスギ花粉やヒノキ
中心的に使用する。小児専用の鼻噴霧用ステロ
科花粉症を突然発症する患児の増加傾向も目立
イド薬ができた現在では十分に鼻閉も含めたア
ち,ヒノキ科花粉の飛散シーズンが終わった後
レルギー性鼻炎・花粉症の治療が可能であり,
もカモガヤ花粉などにより長期わたり花粉症が
今後は 1 日 1 回と回数が多いと嫌がる小児へ
継続する症例もしばしば経験する。また小児で
の鼻噴霧用ステロイド薬の開発が必須となる。
は風邪を引きやすいので副鼻腔炎混ざりあう複
( 96 )
― 40 ―
一
般
演
題
第日目
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
第群
内耳奇形など(演題番号 1~4) ………………… 41
中耳炎(演題番号 5~8) ………………………… 45
真珠腫(演題番号 9~12) ………………………… 49
喉頭 1(演題番号13~15) ………………………… 53
喉頭 2(演題番号16~19) ………………………… 56
気管(演題番号20~24) ………………………… 60
人工内耳(演題番号25~29) …………………… 65
難聴 1(演題番号30~34) ………………………… 70
言語(演題番号35~37) ………………………… 75
感染症(演題番号38~40) ……………………… 78
先天性疾患など(演題番号41~44) …………… 81
鼻腔 1(演題番号45~48) ………………………… 85
口腔咽頭 1(演題番号49~53) …………………… 89
口腔咽頭 2(演題番号54~56) …………………… 94
睡眠時無呼吸 1(演題番号57~61) ……………… 97
睡眠時無呼吸 2(演題番号62~64) ………………102
第日目
第群
第群
第群
第群
第群
第群
めまい(演題番号65~67) ………………………105
難聴 2(演題番号68~70)…………………………108
難聴 3(演題番号71~76)…………………………111
慢性副鼻腔炎(演題番号77~80) ………………117
鼻腔 2(演題番号81~83)…………………………121
急性副鼻腔炎など(演題番号84~89) …………124
小児耳 30(2): 97 , 2009
1
急性顔面神経麻痺で発症した小児顔面神経鞘腫の手術経験
村上信五,中山明峰,横田
誠
名古屋市立大学耳鼻科
10 歳 の 男 児 で , 急 性 顔 面 神 経 麻 痺 で 発 症
突部にかけて,充血した拍動性の腫瘤が認めら
し,側頭骨 CT で顔面神経腫瘍が疑われ,経中
れた。手術顕微鏡所見では神経鞘腫よりはむし
頭蓋窩法と経乳突法の併用にて腫瘍を摘出し,
ろ血管腫が疑われたが,生検の永久病理標本に
大耳介神経で神経移植した症例を経験したので
て血管に富んだ神経鞘腫と診断された。試験的
報告する。
鼓室開放術の際に腫瘍が膝部より中枢に進展し
現病歴平成 20 年 2 月初め,急に右顔面神
て可能性が示唆されたため,7 月28日,経中頭
経麻痺が発症し,近医耳鼻咽喉科を受診する。
蓋窩法と経乳突法の併用による腫瘍摘出と神経
ベル麻痺ノ診断にてステロイドとビタミン剤の
移植術を計画した。顔面神経は内耳道底の
治療を受けるも麻痺の改善傾向が認めらなかっ
meatal portion から乳突部まで腫瘍化していた
たため総合病院に紹介される。側頭骨 CT にて
ため, I S joint を離断し,キヌタ骨を一時的
側頭骨内顔面神経腫瘍が疑われたため,4 月23
に除去し,顔面神経を内耳道部と乳突部で切断
日紹介受診となる。
して大耳介神経による神経移植を施行した。耳
受診時所見顔面神経麻痺スコアは 10/40点
小骨の再建はキヌタ骨を用いてC とした。
術後経過顔面神経麻痺は術後 7 カ月で回復
の高度麻痺であったが,麻痺以外,特記する臨
傾向が認められ,現在 9 カ月目で経過観察中で
床症状や理学所見は認められなかった。
手術および手術所見4 月28日試験的鼓室開
放術を施行したところ,顔面神経の膝部から乳
ある。手術および顔面神経麻痺の回復をビデオ
にて供覧する。
― 41 ―
( 97 )
小児耳 30(2): 98 , 2009
2
内耳奇形の顔面神経走行について
竹腰英樹1),加我君孝2),伊藤
健3)
1) 国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科,2) 国立病院機構東京医療センター感覚器センター,
3)帝京大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】人工内耳は先天性難聴児に音声言
比較することである。
語によるコミュニケーション能力を習得させる
【対象】側頭骨 HRCT にて内耳奇形を認めた
手段として大きく貢献している。先天性感音難
23 例 46 耳,同年齢の内耳正常 29 例 29 耳を対象
聴 児 の 約 20 ~ 30  に 内 耳 奇 形 を 認 め る 。 以
とした。
前,内耳奇形症例は人工内耳手術の適応外とさ
【方法】 1 mm スライスで撮影した HRCT 画像
れていた。しかし,近年の画像診断の進歩によ
を用いて内耳奇形,顔面神経走行を評価した。
り手術適応が拡大され,慎重な適応判断が必要
内耳奇形の程度は Sennaroglu 分類を用いた。
なものの内耳奇形に対し人工内耳手術が施行さ
顔面神経走行は, Bill's bar を基準点として各
れるようになってきた。内耳奇形に対する人工
部位を定量的に計測した。
内耳は電極挿入が困難であったり,挿入しても
【結果】 Common cavity ,外側半規管が欠損し
術後装用効果が乏しかったりと問題がある。人
て い る incomplete partition type  や type 
工内耳手術時の後鼓室開放は常に顔面神経損傷
は内耳道と顔面神経迷路部のなす角度,顔面神
を起こす危険があり,術前画像評価,術中神経
経第一膝部のなす角度が内耳正常群に比べ有意
モニターを用いるのが一般的である。内耳奇形
に鈍角であった。また外側半規管が欠損してい
の約 15 に顔面神経走行異常があると報告さ
る症例や内耳道狭窄症例は顔面神経鼓室部の長
れているが,内耳奇形における顔面神経走行の
さが有意に短かった。
定量的評価,内耳奇形の程度による評価はない。
【まとめ】顔面神経迷路部と鼓室部の走行は外
【目的】内耳奇形の程度と顔面神経走行との関
側半規管の奇形に大きく影響を受け,蝸牛奇形
係を検討し,また内耳正常例の顔面神経走行と
( 98 )
による影響は少ないことが示された。
― 42 ―
小児耳 30(2): 99 , 2009
3
ABR 無反応に関わらず幼児聴力検査で閾値が得られた
内耳形態異常と内耳道狭窄の二症例
村上一索1),2),中川尚志1),坂田俊文2)
1)福岡大学医学部耳鼻咽喉科,2)福岡大学筑紫病院耳鼻咽喉科
【はじめに】新生児聴覚スクリーニングの普及
れた。03
B 聾学校で教育相談。補聴器装用
に伴い,難聴が新生児期にみつかるようになっ
開 始 。 COR で 70 dB 程 度 の 閾 値 が 得 ら れ ,
てきた。精査のときの ABR が無反応にも関わ
ABR と 乖 離 し て い た 。 精 査 目 的 で , 当 院 紹
らず,その後,幼児聴力検査で閾値が得られる
介 。 当 院 所 見  COR ( 両 耳 聴 ) 70 dB, ABR
児がいることが知られている。今回, ABR 無
(クリック音 105 dB )反応なし,(トーンピッ
反応にも関わらず幼児聴力検査で閾値が得られ
プ音0.5 kHz 95 (dBnHL), 1 kHz 95, 2 kHz 95,
た 2 例を経験したので報告する。
反応なし。DP
OAE, AR 反応なし。
4 kHz 100)
【症例】症例 1  2 9 女児。現病歴新生児聴
MRI, CT で,右耳の内耳無形成,左蝸牛低形
覚スクリーニングで要精査。そのまま放置。
成で前庭半規管は嚢胞状,蝸牛軸の同定が不良
1  0 ,他院受診。 ABR で反応無かった。 1 
であった。
5,補聴器装用開始。 2 0, A 聾学校で教育相
【 考 察 】 呈 示 し た 二 症 例 は い ず れ も ABR,
談。この頃より常時装用になった。COR で50
COR, DPOAE など諸検査の結果の乖離が精査
60 dB の閾値が得られるが,装用効果が充分で
のきっかけとなった。本症例は双方とも DP 
ないため,当院紹介。当院所見 COR (両耳
OAE で反応が得られないため, auditory neu-
聴)70 dB,ABR(クリック音105 dB)反応な
ropathy の概念にあてはまらない。症例 1 は内
し,(トーンピップ音0.5 kHz 95 (dBnHL), 1
耳性難聴に加えて,聴神経の要因も加わってお
kHz 95, 2 kHz 95, 4 kHz 100)反応なし。DP
り,症例 2 は内耳の機能不全および蝸牛神経の
OAE, AR 反応なし。非言語性 2  11 ,言語性
問題でこのような症候を呈したものと考えられ
1 5 相当。 MRI, CT で両側とも外側半規管低
た。 ABR はしばしば難聴診断の決め手として
形成,内耳道狭窄が認められ,蝸牛神経の描出
用いられるが,非典型的な検査結果を示す症例
が不明瞭であった。
では画像検査を含む複数の検査による精査が病
症例 2  1  4 男児。現病歴新生児聴覚ス
クリーニングで要精査。他院の ABR で反応無
態の把握,およびその後の療育の方針決定に重
要であると考えられた。
かったため,
1 歳半での人工内耳手術を勧めら
― 43 ―
( 99 )
小児耳 30(2): 100 , 2009
4
側頭骨高分解能 CT にて蝸牛神経低形成が疑われた症例の検討
浅沼
聡1),安達のどか1),井上雄太1),坂田英明2),山岨達也3),加我君孝4)
1)埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科,2)目白大学言語聴覚学科,3)東京大学耳鼻咽喉科,
4)国立病院機構東京医療センター臨床研究センター感覚器センター
【はじめに】当院では新生児聴覚スクリーニン
例であった。内耳道の狭小或いは左右差を伴っ
グ後の精密検査などで難聴が確定診断された児
たのは 24 例,残りの 18 例は蝸牛神経管のみの
および各種学校検診などで難聴が疑われ当院に
狭窄であった。 42 例のうち中等度の難聴は 7
て確定された児には,側頭骨 CT を施行してい
例( 7 耳),残りの 35 例( 37 耳)は閾値 90 dB
る。側頭骨高分解能 CT の発達により,従来は
以上の高度の難聴であった。尚難聴と蝸牛神経
指摘されなかった蝸牛神経管の狭窄が明らかに
管狭窄の罹患側はすべて一致している。
【考察】 CT による蝸牛神経管の狭窄は,蝸牛
されるようになった。
【目的】 CT による蝸牛神経管狭窄症例を検討
神経の低形成を示唆する重要な所見とされてい
る。今回検討した 42 例( 84 耳)の内,内耳道
する。
【対象】当院にて難聴の精査目的で平成 19 年 1
の狭小や左右差を伴わない例が 18 例ありこれ
月から平成 20 年 12 月までの間に側頭骨 CT が
らは従来難聴の原因不明として扱われていた群
施行され,蝸牛神経管の狭窄を認めた 42 例。
と思われる。
染色体の異常や合併奇形のある症例は除外した。
また 7 例(7 耳)は中等度の難聴であり必ず
【方法】側頭骨 CT にて蝸牛神経管の狭窄を認
しも高度の難聴だけを生じるものではないこと
めた症例について内耳道の異常(狭小或いは左
右差)の有無および主として ABR による聴力
所見を検討した。
【まとめ】小児感音性難聴の診断にあたっては,
蝸牛神経の形成不全を念頭に置く必要があり,
【結果】蝸牛神経管の狭窄を認めた 42例の内,
一側のみの狭窄が
40 例,両側とも狭窄例が 2
( 100 )
も判明した。
その診断にあたっては,高分解 CT が有用であ
る。
― 44 ―
小児耳 30(2): 101 , 2009
5
当科における小児急性中耳炎の現状
服部玲子,伊藤由紀子
独立行政法人国立病院機構三重中央医療センター耳鼻咽喉科
【はじめに】近年,医療の機能分担や専門化が
ち熱源精査のため受診した例が 17 例,次に耳
進むなか,当院は地域の基幹病院として位置づ
痛 8 例であった。2)紹介受診は19例57.6で,
けされている。Primary で急性疾患を診察する
抗菌薬がすでに使われている例は19例57.6で
ことは少ないが,地域医療連携によりかかりつ
あった。 3 )中耳炎以外に気管支,肺炎など他
け医などにより紹介を受ける。小児急性中耳炎
部位の炎症を認める場合は 8 例,当院小児科入
もそういった急性疾患のひとつで,当科を受診
院例は 13 例だった。 4 )重症度分類は軽症 19
する例は小児科,耳鼻咽喉科開業医などで診療
耳,中等症 19 耳,重症 19 耳であった。鼓膜切
を受け,重症例と判断された例や治療抵抗例が
開術をおこなった例は 24 耳,軽症 2 耳,中等
紹介されることが多い。不適切な抗菌薬の乱用
症 6 耳,重症 16耳であった。 5)治癒までの観
を防ぐことを目的のひとつとされた小児急性中
察 し え た 17 例 で 完 治 ま で の 日 数 は 平 均 24 日
耳炎診療ガイドラインが提唱されている。これ
で,保存的に見た例 27 日,鼓膜切開をおこな
に基づきスコア化し重症度分類をすることによ
った例 21 日であった。中耳炎が改善しても副
って治療方針をアルゴリズムより決定すればよ
鼻腔炎による治療を継続している例は 5 例だっ
いので primary で治療を開始する場合にはたい
た。
へん有用な指標となる。しかし複雑な経過のあ
る例などは判断に迷うことも多い。
【考察】当科受診する小児急性中耳炎例は約半
分は熱源精査のため小児科より紹介された例で
【目的】当科を受診した小児急性中耳炎例の現
ある。こういった例は気管支肺炎などの他部位
状を把握し,治療経過中の問題点について検討
の炎症も認められ,すでに抗生剤投与が開始さ
することを目的とした。
れていることが多い。この場合使用されていた
【対象】2008年11月から2009年 2 月までに当科
抗菌薬の種類にかかわらずガイドラインにおけ
を受診した小児急性中耳炎は 33 例 57 耳(男児
るアルゴリズムの何次治療に当たるのか推察
18例,女児15例),月齢は 2 カ月から96カ月で
し,やみくもな変更を避けるようにして経過を
3 歳未満が23例69.6であった。
見た結果,鼓膜切開をおこなった例が重症例に
【方法】小児急性中耳炎診療ガイドライン 2009
なるほど多く,急性症状の速やかな改善につな
年度版に従い重症度分類を行い経過,重症度,
がった。このことより鼓膜切開の重要性を再認
予後など検討した。
識した。
【結果】
1 )主訴は発熱 18 例で最も多くそのう
― 45 ―
( 101 )
小児耳 30(2): 102 , 2009
6
授乳児と中耳炎
加藤俊徳
加藤耳鼻咽喉科医院
【はじめに】乳幼児の中耳炎は,発症の要因と
た授乳児の臨床経過は後方視的に検討した。
して,授乳の時の姿勢,睡眠時の姿勢,胃・食
【結果】授乳児の母親の約 80は,寝せた姿勢
道逆流などがあり,そこに上気道の感染がから
で授乳をしている。授乳児の約 40 は中耳炎
むと考える。
に罹患している。中耳炎児のうち,授乳の姿勢
【目的】乳幼児特に授乳児の中耳炎発症の要因
のなかで,授乳の姿勢はどの程度関与している
の指導のみで,軽快した例がある。
【考察】授乳姿勢の関与する中耳炎の特徴を考
察した。
かを検討した。
【対象】2007年 6 月から2008年 5 月までの,初
診時に,授乳児であった乳幼児300例
【まとめ】まず正しい授乳の姿勢を指導して,
ついで他の発症の要因(上気道炎,胃・食道逆
【方法】初診時の授乳方法は問診から,鼓膜所
見は硬性のファイバーにて観察しファイルに保
流,寝ているときの姿勢)についての指導・治
療にあたるべきである。
存した。初診時に鼓膜所見から中耳炎と診断し
( 102 )
― 46 ―
小児耳 30(2): 103 , 2009
7
RS ウイルスと小児急性中耳炎―2008年 9 月からの
動向調査と再燃を繰り返した 1 症例の報告
岩永康成1),柳島正博2)
1)いわなが耳鼻咽喉科クリニック,2)やなぎしまこども医院
【はじめに】第 3 回日本小児耳鼻咽喉科学会に
RSV 陰性 43 例中 15 例( 35 )に細菌の合併を
おいて小児急性中耳炎(以下,中耳炎)の中耳
認めた。菌種では, BRNAR 8 例, BLNAS 12
貯留液から高率に RS ウイルス(以下,RSV)
例,PRSP 5 例,PISP 5 例,PSSP 5 例が検出
抗原が検出されたことを報告した。今回 2008
されていた。月別の発生件数をみると,9 月
年 9 月から小児科と共同で RSV 感染と中耳炎
RSV 感染数 8 /中耳炎数 15 (中耳 RSV 陽性数
の発生動向調査を始めたので,その結果を報告
9), 10月 21/31( 15), 11月 10/36(22),
すると共に, RSV による再燃を繰り返した典
12 月 4 / 46 ( 22 ),と RSV 感染増加に伴い中
型的な 1 例を報告する。
耳炎も増えてきたが, RSV 感染流行が収まっ
【目的】RSV 感染発生と中耳炎発生動向及び,
中耳貯留液での RSV 抗原検出率を調べ,中耳
炎における RSV の関わりを調べること。
てきた後も,中耳炎は減らず,尚且つ中耳
RSV 陽性例が半数近くに認められた。
【症例】 11カ月男児。 39°
C以上の発熱が続き小
【対象】 2008 年 9 月~ 12 月までに RSV 感染症
児科にて RSV と診断され,2008年10月17日当
と診断された小児 43 例,及び当院にて急性中
院紹介受診,両側中耳炎を認めた。その後 1 カ
耳炎と診断された小児128例。
月間に 3 回再燃し,計 3 回中耳 RSV 陽性であ
【方法】小児科で鼻汁吸引液から RSV 迅速検
査を行い,当院では中耳貯留液から RSV 迅速
った。頻回なる再燃のため鼓膜チューブ留置術
を施行するにいたった。
【まとめ】RSV 感染の65に中耳炎の合併があ
検査と細菌検査を行った。
【結果】鼻汁吸引液で RSV 抗原(以下,鼻汁
り,また中耳炎の半数近くに RSV との関与が
RSV )陽性であった 43 例中 28 例( 65 )に中
確認されたこと,そして RSV 流行と同時に中
耳炎合併を認め,その中耳炎 28 例中 16 例( 57
耳炎が増えることから,原因微生物として
 ) で 中 耳 貯 留 液 の RSV 抗 原 ( 以 下 , 中 耳
RSV は重要だと考えられる。さらに,症例の
RSV )が陽性であった。当院に受診した中耳
ように再燃時にも中耳から RS 抗原が確認され
炎 128 例では,鼻汁または中耳 RSV 陽性が 68
ている事から,炎症の持続に何らかの関与があ
例(53)あり,うち中耳 RSV 陽性56例(33
るのではないかと思われた。
),中耳 RSV 陰性 43 例( 30 )であった。
また中耳 RSV 陽性 56 例中 27 例( 48 ),中耳
【補足】発表時には 2009年 4 月までの調査デー
ターを呈示する予定である。
― 47 ―
( 103 )
小児耳 30(2): 104 , 2009
8
極めて難治な反復性中耳炎に認められた胃食道逆流症の 3 症例
上出洋介1),2)
1)かみで耳鼻咽喉科クリニック,2)東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科
【はじめに】反復性中耳炎は乳児期の免疫学的
小児科で喘息治療開始した。1 歳11カ月で同院
な不応答や未熟性が主因と考えられている。こ
耳鼻咽喉科で遷延性中耳炎に対しチューブ留置
れに対応して早期の鼓膜チューブ留置術が奏効
を予定したが喘息制御が十分でなかった。2 歳
しているが,チューブ留置をおこなっても耳漏
2 カ月でセカンドオピニオンを目的に当院(慈
制御ができない症例があり治療に難渋すること
恵医大耳鼻科)を受診した。局麻下に鼓膜チ
がある。今回このような 3 症例に対して上部消
ューブを留置したが以後耳漏は止まることなく
化管造影(BSS)や胃,食道下部24時間 pH モ
続いた。保護者の事情により最初の病院と当院
ニターを施行したところ胃食道逆流症(GERD)
(慈恵医大耳鼻科)と他の診療所の 3 カ所を治
療基点とした。 4 歳 4 カ月で GERD を疑い当
を認めたので報告する。
【症例 1 】男児。生後 4 カ月で不機嫌,発熱 37
院小児外科精査依頼した。pH index 8.4,逆
度にて当院(かみでクリニック)を受診した。
流回数 164 回, pH 4 以下の最長持続時間が 15
両側に遷延性中耳炎を認め鼓膜換気チューブ留
分間,合計時間が121分であった。
置したが耳漏流出は制御できなかった。複数回
【考察】小児胃食道逆流症診断治療指針によれ
の呼吸器感染症も起こしたため生後 8 カ月時に
ば呼吸器症状として反復性呼吸器感染症,喘鳴
易感染性の精査を県立こども病院に依頼したと
が記載されており,今回の 3 症例には同様の症
こ ろ BSS に て 逆 流 が 確 認 さ れ た 。 希 釈 し た
状が認められていたが, GERD と難治な反復
barium を 200 ml 摂取後 5 分間臥位にて観察し
性中耳炎と関連付けて治療に当たることはなか
45 回/5 分の逆流を認めた。
った。欧米や本邦でも難治性中耳炎の背景に胃
【症例 2 】女児。既往歴に肺炎による 2 回の入
食道逆流の関与を示唆した報告がある。今回症
院がある。他医にて 1 歳 2 カ月で中耳炎の診
例 1 で易感染性の精査時に逆流を発見されたの
断があり鼓膜切開チューブ留置術施行した。以
がきっかけとなった。症例 1 と 2 はその後の
後緩解増悪を繰り返し,耳漏制御ができないた
H2 ブロッカーの内服,食事と日常生活の留意
め 1 歳 7 カ月時当院(慈恵医大耳鼻科)を受
点を指導したことで中耳炎は明らかに改善し
診した。 GERD を疑い当院小児外科精査依頼
た。症例 3 は内服を拒んでおり食事療法にも同
し た と こ ろ BSS に て 僅 か な 逆 流 と pH モ ニ
意が得られない。施設は限られるものの現時点
ターにて pH index が 4.3 ,逆流回数 143 回,
では反復性中耳炎と GERD の関連を求めるに
pH 4 以下の最長持続時間が 5 分間,合計持続
は上部消化管造影,24時間 pH モニター,中耳
時間が63分であった。
貯留液の成分解析が平衡して行われることが確
【症例
3 】男児。 1 歳 8 カ月より他県総合病院
( 104 )
実な方法と思われる。
― 48 ―
小児耳 30(2): 105 , 2009
9
当科における先天性真珠腫59症例の臨床的検討
兵頭
純,羽藤直人,暁
清文
愛媛大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】先天性真珠腫の多くは無症状で経
( ASQ ) に 限 局 し て い た 例 が 19 例 , 後 上 部
過し,検診や中耳炎の精査の際に偶然発見され
( PSQ )に限局していた例が 20例,鼓室全体あ
るケースが多い。しかしながら,進展例では難
るいは上鼓室から乳突洞へ進展していた例が
聴や顔面神経麻痺をきたし,単回の手術では制
18 例,多発的に存在していた例が 2 例であっ
御困難となる例が多い。今回我々は,当科で経
た。手術方法については,経外耳道的に摘出
験した先天性真珠腫症例について臨床的検討を
(乳突非削開型鼓室形成術)した例が 32 例で,
乳突削開を追加して摘出(乳突削開型鼓室形成
行ったので報告する。
【対象と検討方法】対象は平成元年 1 月から平
術)した例は 27 例であった。段階的手術は 25
成年 20 月までの 20 年間に,愛媛大学医学部附
例で施行されており,このうち 23 例は PSQ 例
属病院耳鼻咽喉科で治療を行った先天性真珠腫
もしくは進展例であった。1 年以上の経過観察
59 例とした。先天性真珠腫の診断基準として
が 可 能 で あ っ た 55 例 中 10 例 で 遺 残 再 発 を 認
鼓膜に内陥,穿孔,肉芽形成を認めない,
は,◯
め,そのうち 5 例は進展例であった。
 真珠腫上皮が鼓膜と連続していない,◯
 鼓膜
◯
【考察】今回の検討で,先天性真珠腫は低年齢
チューブ挿入術などの手術既往がない,の 3 項
で偶然に発見されるケースが多かった。また,
目を満たすものとした。錐体尖の真珠腫は除外
PSQ 例や進展例では乳突削開型の段階的鼓室
した。男性が 33 例,女性が 26 例であった。年
形成術が選択されることが多かった。さらに,
齢は 1~23歳(平均5.9歳),患側は右耳21例,
進展例では再発率が高かった。これらの結果か
左耳 17 例で両側例はなかった。先天性真珠腫
ら早期に発見,治療を行うことは手術侵襲を小
の発見の契機や局在部位,手術方法,再発につ
さくし,真珠腫の再発率を低くする可能性が示
いて検討した。
唆された。そのためには,乳幼児においては耳
【結果】発見の契機については,難聴を主訴と
症状がなくとも先天性真珠腫を念頭に置き,鼓
して発見された例が 3 例,急性中耳炎または滲
膜を顕微鏡で注意深く観察する習慣をつけるこ
出性中耳炎治療時に診断されたものが 29 例,
とが望ましいと思われる。進展例では再発率が
検診で見つかった例が 10 例,耳とは無関係の
高いことから,術後においても厳重な経過観察
疾患で受診した際に偶然発見された例が 17 例
が必要であると考えられた。
であった。局在部位については,鼓室前上部
― 49 ―
( 105 )
小児耳 30(2): 106 , 2009
10
鼓膜切開で摘出した小児先天性中耳真珠腫の検討
呉
晃一,松井和夫,大田隆之,内藤
聡,三好
豊
聖隷横浜病院耳鼻咽喉科
【はじめに】先天性中耳真珠腫は,小児期にお
残なく摘出でき現在のところ再発を認めていな
いて発見されることが多い。通常真珠腫は,進
いが, 1 例は鼓膜張筋腱に遺残が考えられ,
行性の疾患であり伝音性難聴を伴うことも多
CT にて経過観察中に真珠腫を認めたため鼓室
く,鼓室形成術による摘出,伝音再建を行うこ
形成術を行った。全例とも術後鼓膜穿孔残存は
とがある。しかし,我々は限局した先天性中耳
ない。
真珠腫に対して鼓膜切開で摘出したのでここに
【考察】限局した ASQ の先天性中耳真珠腫に
対して,鼓膜切開による真珠腫の摘出は低侵襲
報告する。
【目的】先天性中耳真珠腫に対して鼓膜切開に
て摘出した 6 症例に関して検討する。
で有効な手段であると考えられた。しかしなが
ら,一部 Open な Type の真珠腫や鼓膜張筋腱
【対象】2004年 4 月より2008年12月までの期間
に癒着している真珠腫である可能性もあるた
において先天性中耳真珠腫に対して鼓膜切開を
め,そのような症例では遺残する可能性があ
用いて真珠腫を摘出した 6 症例。
る。そのため,術前に充分な説明と術後の経過
【 方法】鼓膜 ASQ に限局した Closed Type と
観察が必要と考えられる。術後再発を認めた場
考えられる先天性中耳真珠腫かつ耳小骨病変を
合,再度鼓膜切開にて摘出するか,鼓室形成術
有しない症例に対して,全身麻酔下で鼓膜切開
を行うか選択する必要があるが,初回手術で鼓
にて中耳真珠腫を摘出する。摘出後内視鏡を用
膜張筋腱に癒着している場合など鼓膜切開では
いて真珠腫の遺残がないか点検する。術後は定
全摘出は困難であると考えられる症例に関して
期的に CT を撮影し真珠腫再発の有無を確認す
は年齢を考慮して鼓室形成術を選択するべきで
る。
あると考えられる。
【結果】初診時年齢は, 1 歳から 6 歳まで平均
2.3歳。男児
2 人であった。聴力
中耳真珠腫 6 症例に関して検討した。低年齢で
は, ABR ,もしくは純音聴力検査にて正常で
の鼓室形成術を控えることができ,今後外科的
あ っ た 。 全 症 例 真 珠 腫 の 大 き さ は , 概 ね 3.0
処置として選択できる手段の一つとしてこれか
mm3.0 mm 大であった。 5 例に関しては,遺
らも検討していく必要がある。
( 106 )
4人
女児
【まとめ】今回,鼓膜切開にて摘出した先天性
― 50 ―
小児耳 30(2): 107 , 2009
11
当院で経験した小児の先天性中耳真珠腫
―鼓膜所見から見た真珠腫の存在部位による検討―
松井和夫,大田隆之,呉
晃一,三好
豊
聖隷横浜病院耳鼻咽喉科
【はじめに】鼓膜から透見される白色病変とし
が,手術所見から PSQ 部と mastoid に 3 こあ
て発見される先天性中耳真珠腫症例の報告が増
った先天性多発真珠腫を合併していた例が 1 人
加している。中鼓室のみに存在し,鼓膜の 1 象
の計 24 人であった。鼓膜所見から分類した当
限に限局した小真珠腫の割合が 2 歳以下の幼小
院の先天性中耳真珠腫は特に 2 歳以下の 6 例
児に増加している。
は ASQ が 5 人, ASQ + PSQ が 1 人で ASQ の
【目的】今回我々は聖隷横浜病院の耳鼻咽喉科
1 象限に限局している症例が多く,従来から日
設立以来 5 年間に経験した手術治療を行った小
本で多いとされる PSQ に限局した小真珠腫は
児の先天性中耳真珠腫症例の鼓膜所見から見た
2 人で 2 歳以下の症例にはなかった。手術の術
存在部位を検討したので報告する。
式は鼓膜所見からの分類で見ると ASQ の 8 人
【対象】2004年 1 月から2008年12月までの 5 年
の術式は鼓膜切開術が 5 人,1 型が 1 人,c
間に手術を行った小児(1 歳から15歳)の先天
が 1 人,鼓膜切開術で摘出できず 2 年後にc
性中耳真珠腫は 24 例であった。男性 14 例,女
を施行したのが 1 人であった。 ASQ + PSQ に
性 10 例で男性がやや多かった。初回手術時の
真珠腫が透見された 3 人の術式はi が 1 人,
年齢は 1 歳 3 人,2 歳 3 人,3 歳 2 人,4 歳 3
WO →C が 2 人,鼓膜全象限に真珠腫が透
人, 5 歳 3 人で 5 歳以下が 14 人, 6 歳 3 人, 8
見された 3 人の術式はc が 1 人, WO →
歳 1 人, 9 歳 1 人, 10 歳 3 人で 10 歳以下が 22
c が 2 人,鼓膜所見正常の 3 人は
C が 1 人,
人であった。11歳以上は13歳が 1 人,15歳が 1
WO→c が 1 人,耳小骨奇形を合併していた
人の 2 名であった。
1 人はC であった。 PSQ のみに透見された
【結果】真珠腫の鼓膜所見から見た存在部位は
2 人 は 1 型が 1 人, WO →C が 1 人であ っ
多かった順に ASQ が 8 人と最も多く, ASQ+
た 。 ASQ + AIQ に 透 見 さ れ た 1 人 は 1 型 ,
PSQ の 2 象限に透見出来たのが 3 人,鼓膜全
PSQ + PIQ に透見された 1 人は WO →C で
象限に透見出来たのが 3 人,鼓膜所見正常が 3
あった。また今までの報告では極めて稀と思わ
人( 1 人は耳小骨奇形を合併), PSQ は 2 人,
れる PIQ の鼓膜後下部に透見出来た 1 人は 1
ASQ + AIQ の鼓膜前半部に透見出来たのは 1
型,鼓膜のツチ骨周囲に多発していた 1 人は
人 , PSQ + PIQ の 鼓 膜 後 半 部 が 1 人 で あ っ
c →c 型を行い,後天性の上鼓室型真珠腫
た。また今までの報告では極めて稀と思われる
の鼓膜所見を呈していたが,手術所見から
PIQ の鼓膜後下部に透見出来た例が 1 人,鼓
PSQ 部と mastoid に 3 こあった先天性多発真
膜のツチ骨周囲に多発していた例が 1 人,後天
珠腫を合併していた 1 人はc 型を施行して
性の上鼓室型真珠腫の鼓膜所見を呈していた
いた。
― 51 ―
( 107 )
小児耳 30(2): 108 , 2009
12
鼓室形成術後に生じた環軸椎回旋位固定例
坂井田寛,竹内万彦
三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科
【はじめに】耳鼻咽喉科・頭頸部外科の手術は
運動制限は消失し退院した。
頸部を伸展・念転した体位で行われることが多
【考察】環軸椎回旋位固定は第 1 頸椎(環椎)
く,患者が術後に頸部痛や頸部不快感を訴える
と第 2 頸椎(軸椎)の関節面が,頸を回旋させ
ことは少なくない。多くの場合は非特異的・一
ることにより,ある位置で固定され回旋できな
過性であるものの,持続する場合には重篤な病
く な る 病 態 を さ す 。 10 歳 以 下 の 小 児 に 好 発
態のこともあり,早急な対応が要求される。環
し,外傷・素因・炎症などが要因となり,急性
軸椎回旋位固定(atlantoaxial rotatory ˆxation)
ないし亜急性に発症する。 cock robin position
は環軸関節脱臼の一つであるが,頭頸部手術後
という斜頸位が外観上の特徴である。予後は比
に発症した例も報告されている。今回われわれ
較的良好であるが,診断の遅れは再発頻度の増
は鼓室形成術後に環軸椎回旋位固定を発症した
加,回旋位固定への移行につながると指摘さ
症例を経験したので報告する。
れ,早期治癒のためには早期診断が最も重要で
【症例】 6 歳男児。右中耳真珠腫に対して全身
ある。
麻酔下に鼓室形成術を施行した。手術は仰臥
本症例は 6 歳との年齢的因子に加え,術中の
位・頸部を左へ念転した体位で行った。術後 1
頸部の過捻転が誘因となり発症したと考えられ
日目から頸部痛を訴え,頸部を右へ側屈,左へ
た。整形外科医への速やかなコンサルテーショ
回旋した斜頸位で固定していた。術創部痛とし
ンにより迅速に治療し得た。環軸椎回旋位固定
て保存的に消炎加療をしたものの頸部痛と運動
は耳鼻咽喉科診療で生じうる合併症であり,本
制限は改善されず,術後 3 日目に整形外科医に
疾患の存在を認識した上で予防対策・早期発
より環軸椎回旋位固定と診断された。診断には
見・発生時の速やかな対応を行うことが重要で
3 次 元 CT が 有用 であ っ た。 数 日間 の頸 椎 カ
ある。
ラー装用と頸部牽引による治療で頸部痛および
( 108 )
― 52 ―
小児耳 30(2): 109 , 2009
13
小児の喉頭に発生した顆粒細胞腫の 1 症例
上村彰博,片田彰博,吉崎智貴,林
達哉,原渕保明
旭川医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】顆粒細胞腫は AbrikossoŠ によっ
あり,顆粒細胞腫と診断された。現在,術後 3
て 1926 年に最初に報告された病変であり,全
カ月が経過しているが再発を認めず経過良好で
身の臓器に発生する良性腫瘍である。好発部位
ある。
は皮膚,舌,口腔などであるが,喉頭での発生
【考察】顆粒細胞腫は通常良性の経過をとる腫
例はきわめてまれであり,本邦では 12 例が報
瘍であり,好発年齢は30から40歳代,性差は 2
告されているが,そのなかでも小児例は 1 例の
対 1 で女性に多いとされる。発生部位は全身の
みである。今回われわれは小児の喉頭に発生し
各所であるが,顆粒細胞腫全体の 50 が頭頸
た顆粒細胞腫の 1 症例を経験したので報告する。
部領域に発生するといわれている。頭頸部領域
【症例】症例は 9 歳男児。 1 歳頃から嗄声を認
では舌や口腔での発生頻度が高く,喉頭に発生
め, 2008 年 10 月に鼻アレルギー症状で近医耳
する頻度はそのうち 10 といわれ,海外の文
鼻咽喉科を受診の際に左声帯に腫瘤性病変を認
献では 150余例が報告されている。しかし,本
められ,精査加療目的にて当科を紹介となっ
邦ではきわめてまれで,現在までに 12 症例の
た。喉頭ファイバースコピー上,左声帯の中央
報告をみるのみである。発症時年齢は 13 歳か
3 分の 1 を首座に表面平滑な隆起性病変を認め
ら 72 歳,性別は男性 6 例・女性 7 例で,発生
た。頸部 CT 検査では同部位に腫瘤性病変の存
部位は声門が 7 例で声門上が 5 例である。治
在が示唆された。声帯の良性腫瘍を疑い 2008
療は報告された全症例にて手術的治療が選択さ
年 11 月 12 日に喉頭微細手術による腫瘍摘出術
れており,完全摘出症例ではいずれも再発は認
を施行した。病理組織診においては腫瘍組織は
められてはいないが,断端陽性となった 1 症例
PAS 染色陽性像を示す細胞境界の不明瞭な淡
が術後 18 カ月で再発が報告されている。本症
好酸性細顆粒状の胞体を持つ腫瘍細胞の集簇か
例においても手術的に腫瘍を完全摘出し現在経
らなっており,核異型や分裂像は認められなか
過良好であり,今後も定期的な経過観察を行っ
った。また,免疫染色では S100 蛋白が陽性で
ていく予定である。
― 53 ―
( 109 )
小児耳 30(2): 110 , 2009
14
乳児喉頭乳頭腫に対する microdbrider の使用経験
廣瀬正幸,佐野光仁
大阪府立母子保健総合医療センター耳鼻咽喉科
【はじめに】 10カ月の乳児喉頭乳頭腫に対して
microdebrider を使用したので報告する。
【考察 】欧 米では 再発 性乳頭 腫症 ( recurrent
respiratory papillomatosis, RRP)といわれ,
【症例】 7 カ月時に嗄声が出現, 9 カ月時前医
HPV 6, 11が原因で,産道感染によると考えら
を受診し,喉頭ファイバーにて喉頭乳頭腫を疑
れており,喉頭特に声帯が病変となることが多
われ, 10 カ月時当科紹介となった。病変は両
い。米国での罹患率は 10 万人あたり小児で 3.6
側声帯にあり,声門の狭窄は高度で嗄声を認
例,成人で 1.8 例で,小児一人あたり平均 19.7
め,啼泣時は喘鳴が著明であった。 CT による
回の手術,年間平均 4.4 回の手術受けており,
末梢気道の評価は是非必要と考えたが,喘鳴強
再発性という名前の由来となっている。コンジ
いため鎮静をかけるのは危険と判断し,自然睡
ローマ病変を有する母親の約 400経膣分娩で一
眠で投薬なしに CT を撮影, CT 上わかる明ら
人の発症率といわれ, HPV に関しては女性の
かな末梢気道の病変はなかった。11カ月時に 1
60 で抗体陽性であるため非常にありふれた
回目の切除を行った。まずラリンゲアルマスク
感染疾患といえるが,それが極めてまれに小児
麻酔にて声門下の観察を行なった後に気管内挿
に乳頭腫症を引き起こすということになる。治
管し,食道,胃,十二指腸の内視鏡検査施行,
療としては,制酸剤内服,抗ウィルス薬の局所
さらに喉頭直達鏡下に生検後, midrodebrider
投与などがあるが,外科的切除が第一選択とな
による切除を行った。 Microdebrider は喉頭専
る。また,最近では HPV ワクチンが認可され
用の blade を用い,生食による還流はせずに
今後に期待されている。外科的切除としては,
500 rpm で使用,末梢気道に切除片が落ち込ま
CO2 レーザーが使用されてきたが,ウィルス
ないように,生食を湿らせた弁シーツを声門下
拡散,火傷の危険性などの問題があり,最近で
に挿入し,ボスミンで十分に収縮させてから,
は microdebrider が手術の簡便性,手術時間の
あまり押しつけないように,かすめ取るように
短さ,術後瘢痕形成の少なさなどが評価されて
して切除した。前交連付近の病変はそのままと
いる。我々の経験したところでも同様の結果で
した。その後 17 カ月時に 2 回目の切除を行っ
あり,乳児喉頭腫症に対する治療の選択肢とし
ている。 1 回目の切除検体から PCR にてヒト
て第一に考えてもよいものと思われた。
パピローマウィルス(HPV)6 が検出された。
( 110 )
― 54 ―
小児耳 30(2): 111 , 2009
15
マイクロデブリッダーにて治療を行った小児喉頭乳頭腫の 1 例
大久保
剛,平川勝洋,立川隆治,井門健太郎
広島大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】若年型喉頭乳頭腫の多くは再発性
病変の十分な評価は不能であった。
気道乳頭腫症であり難治性であることが知られ
【臨床経過】平成 20年 8 月 27日,全身麻酔下に
ている。本邦における外科治療の中心はレー
顕 微 鏡 下 喉 頭 微 細 手 術 を 施 行 し た 。 内 径 3.5
ザー焼灼術であるが,欧米においては,マイク
mm の小児用カフ付き気管チューブを使用し気
ロデブリッダーによる手術が第一選択とされて
道確保を行ったのち,小児用喉頭直達鏡にて術
いる。今回我々は,小児喉頭乳頭腫に対してマ
野を確保,XPS 2000 Powered ENT System
イクロデブリッダーにて手術を行ったので報告
Skimmer AngleTip Laryngeal Blade を使用し
する。
病変の切除を行った。術後は手術室にて抜管し
【症例】3 歳 4 カ月
男児
一般病棟にて経過観察を行った。術直後より嗄
【主訴】嗄声
声の著名な改善を認め,また,術後心配された
【現病歴】第 3 子,自然分娩にて出生。 1 歳頃
気道狭窄等生じることなく,平成 20 年 8 月 30
より嗄声あるも放置,3 歳ごろより嗄声の増悪
日退院となった。切除標本の病理組織診断は扁
あり近医耳鼻科受診。精査加療目的にて平成
平型乳頭腫と診断された。切除標本にて施行し
20年 7 月22日当科紹介受診となる。
た HPV ( DNA ) ジ ェ ノ タ イ ピ ン グ に て は
【初診時所見】喉頭ファイバースコピーでは,
HPV は検出されなかった。平成 21 年 2 月 25 日
乳頭状病変の著明な増殖を認めていた。小児例
現在,明らかな局所再発なく良好に経過してい
ゆえに観察困難であり,起始部の同定を含めて
る。
― 55 ―
( 111 )
小児耳 30(2): 112 , 2009
16
脳性麻痺児の喉頭軟弱症 6 症例の臨床的検討
豊田
実,安岡義人,中島恭子,長井今日子,古屋信彦
群馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学
【はじめに】喉頭軟弱症は,出生間もなく発症
例,喉頭蓋・披裂喉頭蓋ヒダ型 1 例,声門上部
する喘鳴や呼吸障害をきたす疾患であり,病態
構造全体が軟弱でまきこまれるのが 2 例であっ
は未熟な喉頭の声門上部構造が吸気時喉頭内に
た。軟弱症に対する対策は,保存的治療で経過
陥入し喘鳴と異常音,呼吸障害を生じるが,ほ
観 察 1 例,短期気管 挿管 1 例,気管開 窓術 1
とんどは 2 年以内に軽快治癒する。一方,脳性
例,気管開窓+粘膜切除術 1 例,喉頭気管分離
麻痺児や神経筋疾患児などにみられる喉頭軟弱
術 1 例,喉頭気管分離を予定していたが死亡し
症は,特殊な病態を示し,遅発性喉頭軟弱症と
た児が 1 例であった。食餌摂取は,経管栄養の
も考えられる。今回我々は,脳性麻痺児の軟弱
み 3 例,経管栄養と経口摂取併用が 3 例であ
症 6 症例を経験し,この特殊な喉頭軟弱症の病
った。
態と治療について検討を行った。
【まとめと考察】脳性麻痺児の喉頭軟弱症は発
【対象】先天性あるいは出生時に何らかの原因
症時期が生後早期ではなく,遅発性と考えられ
にて脳性麻痺となった小児 6 例。年齢は 3 歳
た。喉頭の局所所見は,披裂部を中心に余剰粘
~9歳,男 4 例,女 2 例
膜を伴い浮腫が強く,合併型が多かった。上気
【病態と経過】脳性麻痺の原因疾患としては,
道炎で増悪をくりかえし,症状,所見が悪化
新生児重症仮死による低酸素性虚血性脳症 3 例,
し,呼吸管理のため気管開窓術や粘膜切除術,
West 症 候 群 2 例 , 先 天 性 水 頭 症 1 例 で あ っ
喉頭気管分離術が必要となる例があった。個々
た。喉頭軟弱症と診断された年齢は 6 カ月~ 7
の症例に応じて上気道感染時には特に注意しな
歳であった。この軟弱症の喉頭所見は余剰粘膜
がら厳重に経過観察(喉頭ファイバースコピー
を伴う粘膜浮腫が強い。タイプは合併型が多
による喉頭所見の詳細な観察)し,手術治療を
く,披裂型 1 例,披裂・披裂喉頭蓋ヒダ型 2
含めたタイムリーな治療選択が必要である。
( 112 )
― 56 ―
小児耳 30(2): 113 , 2009
17
急激な経過をたどった小児急性喉頭蓋炎の 2 例
永井世里1),吉岡正展2),浅田貴康2),村上信五3)
1)さくら病院耳鼻咽喉科,2)春日井市民病院耳鼻咽喉科,3)名古屋市立大学病院耳鼻咽喉科
【はじめに】急性喉頭蓋炎は,急速に呼吸障害
症例 2
4 歳男児
をきたすため,生命予後や窒息による神経学的
平成20年 2 月18日600頃から咽頭痛あり。
予後が極めて悪い疾患であり,特に小児ではそ
900,近医 C を受診した。1130呼吸苦がみ
の進行が早い。
られ,発声ができなくなった。 12  30 近医 D
春日井市民病院を受診した 2 例の小児の急性
を受診し吸入,抗生剤点滴,ステロイド点滴等
喉頭蓋炎を検討し報告する。
を施行されたが,徐々に SpO2 が低下し,呼吸
3 歳男児
状態が悪化した。 13  48 当科へ救急搬送。吸
症例 1
平成19年11月20日,起床時から咽頭痛あり。
気性喘鳴・陥凹呼吸が著明で,下顎を突き出す
11  30 近医 A を受診し,咽頭発赤を指摘され
様 な 姿 勢 あ り 。 14  00 喉 頭 フ ァ イ バ ー ス コ
た。高熱と嘔吐があり 20  00 近医 B を受診。
ピーにて喉頭蓋の著明な腫脹をみとめ,急性喉
喘鳴著明で,チアノーゼ・下顎呼吸・陥凹呼吸
頭蓋炎と診断。ステロイド静脈注射後,座位の
がみられた。 SpO2 の低下があり,医師が同乗
状態での麻酔科医による経鼻挿管により気道が
し,救急搬送となった。搬送時,酸素吸入を開
確保された。その後,気管切開を施行し後遺症
始したが,酸素マスクを嫌がって暴れ,ぐった
なく退院した。
りした。さらに臥位にしたところ, 21  10 救
小児の急性喉頭蓋炎は成人よりも早期に呼吸
急車内で呼吸停止・心拍数低下したため,心肺
困難に陥ることが多く注意が必要であるといわ
蘇 生 を 開 始 。 21  18 当 院 救 急 外 来 着 。 来 院
れている。今回の 2 例とも気道狭窄による症状
時,心肺停止。気管内挿管の際腫脹した喉頭蓋
進行が非常に早く十分に注意するべき症例であ
を認めた。気道確保ののち心拍再開し,救命は
った。このような症例に対し耳鼻咽喉科医とし
したものの,脳死状態となり,発症 262日目に
て取るべき対応について若干の文献的考察を加
永眠された。
えて報告する。
― 57 ―
( 113 )
小児耳 30(2): 114 , 2009
18
喉頭浮腫を呈した Kostmann 症候群の一例
吉江うらら,仲野敦子,有本友季子1),工藤典代2)
1)千葉県こども病院耳鼻咽喉科,2)千葉県立医療保健大学健康科学部
【はじめに】今回我々は,先天性無顆粒球症の
脹を認め,白苔付着を認めた。深頚部膿瘍,喉
女児で,上気道感染から頚部膿瘍,喉頭浮腫を
頭浮腫として,緊急入院とし, MEPM, DEX
きたした症例を経験したので報告する。
で治療を開始した。14日から GCSF も併用と
【症例】症例は 6 歳女児。双胎第 2 子として出
したが,依然 38 度の発熱は継続。 19 日喉頭蓋
生。双胎第 1 子が日齢 10 日で発熱,生後 1 カ
の 浮腫は さらに 悪化した ため, VCM 併用 ,
月で尿路感染症を罹患し,好中球減少症と診
DEX 連日使用,GCSF 増量とした。20日以降
断。患児も生後 3 カ月時不明熱で前医受診,そ
解熱。咽頭培養は Pseudomonaus
の後耳介後部蜂窩織炎反復し,先天性無顆粒球
Streptococcus
症( kostmann 症候群)の疑いで当院血液腫瘍
好中球も増加し,炎症所見は改善。頚部腫瘤影
科紹介となった。その後も,肝肉芽腫,口内
も縮小し, 1/23DEX 中止。 2/3MEPM, VCM,
炎,膿痂疹,上気道下気道感染症など感染を反
G CSF 中止。喉頭蓋の浮腫は軽快はするもの
復し,抗生剤対応したいた。最近は。バクタ・
の,依然残存していたが,全身状態安定したた
aeruginosa,
pneumoniae であった。徐々に
ファンギソンを予防内服し外来通院していた。
め退院とした。現在外来で経過観察している。
平成21年 1 月 6 日頃より上気道炎症状あり。
【まとめ】 Kostmann 症候群は,前骨髄球,骨
10 日 38 度の発熱,嗄声出現。 13 日右顎下部の
髄球の成熟障害による,先天性の好中球減少症
腫脹に気づき,当院感染症科を受診した。受診
である。そのため,新生児期から致命的な化膿
時,咽頭痛,開口障害,呼吸障害は認めなかっ
性感染症を引き起こしやすい。今回の症例も,
た。右口蓋扁桃下極のみ腫脹発赤を認めた。血
乳児期から感染症を反復していた。好中球が少
液検査では CRP23.5と高値。 CT で右副咽頭間
ないため,頸部の膿瘍も排膿するまでにはいた
隙 に 境 界 不 明 瞭 な mass , 喉 頭 蓋 腫 脹 を 認 め
らず,抗生剤, G CSF 投与の保存的治療で改
た。喉頭ファイバーでは右口蓋扁桃下極の腫
善を認めた。
脹,喉頭蓋の右優位の腫脹,右被裂部優位の腫
( 114 )
― 58 ―
小児耳 30(2): 115 , 2009
19
幼児声門下喉頭嚢胞の 1 例
長屋朋典1),2),坪田 大1),新谷朋子1),郷
永井洋輔1),氷見徹夫1)
充1),才川悦子1),荒
志保子1),
1)札幌医科大学耳鼻咽喉科,2)帯広厚生病院耳鼻咽喉科
幼児における喉頭嚢胞はまれではあるが喘鳴
位に T2W1 で著明な高信号 T1W1 では中等度
や呼吸困難の原因になりうる疾患である。その
高信号の混濁した内容物が予想される嚢胞性腫
中でも声門下に発生する嚢胞は極めて報告が少
瘤を認めた。声門下に存在する嚢胞ということ
ない。今回我々は声門下に発生した乳幼児の喉
もあり麻酔科医と相談し術後の確実な気道確保
頭嚢胞を経験した。症例は 1 歳 3 カ月女児。
のためにまずラリンジアルマスク換気下に気管
生下時より嗄声を認めていた。平成 20 年 1 月
切 開 を 施 行 し , そ の 後 直 達 鏡 下 に CO2 レ ー
よりクループ様症状を繰り返しおり風邪をひく
ザーを用いて嚢胞を切除した。切除部からはや
度にチアノーゼが出現し月に 1 度前医小児科に
や混濁した粘液の漏出を認めた。術後,左声帯
入院していた。5 月に前医耳鼻科を受診し喉頭
後方に肉芽の発生を認めるも切除およびステロ
嚢胞疑いにて当科紹介となった。喉頭ファイ
イド吸入にて消失,現在までに嚢胞,肉芽とも
バー上右の声門下に粘膜の腫脹を認め, CT で
に再発を認めていない。嚢胞の起源を含め,文
は右仮声帯レベルの傍喉頭間隙から声門にかけ
献的に考察を行ったので報告する。
て低濃度の腫瘤性病変を認め, MRI では同部
― 59 ―
( 115 )
小児耳 30(2): 116 , 2009
20
ライソゾーム病症例における気道病変の検討
仲野敦子1),有本友季子1),吉江うらら1),工藤典代2)
1)千葉県こども病院耳鼻咽喉科,2)千葉県立保健医療大学健康科学部
【はじめに】ライソゾーム病は,細胞内のライ
よる気管狭窄が著明で気管切開後も気道管理に
ソゾームに数多く存在する分解酵素の一つが欠
難渋していた。ゴーシェ病 6 例では,2 例で気
損するためにおこる病気で,細胞内に分解され
管切開を必要としていた。気管切開を施行した
ない老廃物が蓄積し次第に病気が進行してい
2 例はいずれも現在酵素補充療法中であり,気
く。欠損する酵素の種類により出現する症状が
管切開後は現在まで大きな気道のトラブルは見
異なりその代表的な疾患としてムコ多糖症,ム
られていない。cell 病 5 例はいずれも気道
コリピドーシス等がある。その中には上気道病
病変が認められ,現在経過観察中の 2 例は気管
変,気道狭窄が見られ耳鼻咽喉科的対応が求め
切開を施行している。1 例は呼吸障害時に緊急
られる疾患がある。
挿管できず死亡となっていた。
【目的】ライソゾーム病のうち気道病変が出現
【まとめ】過去 20年間に経験したライソゾーム
しやすく,耳鼻咽喉科としての対応が必要とな
病患者の経過を見ると,欠損する酵素により沈
っている疾患を中心に,症状の出現と進行,治
着する部位が異なるだけではなく,同一疾患で
療経過について検討して報告する。
あってもそれぞれに経過が異なっていた。特に
【対象】千葉県こども病院耳鼻咽喉科を受診し
現在有効な治療手段がないcell 病では,気
た,ライソゾーム病の患者を対象として検討し
道病変が予後に大きく関係していた。気管切開
た。症例はムコ多糖症 9 例,ゴーシェ病 6
をしても気管内病変が死因と考えられた症例も
例,ムコリピドーシス型(cell 病)5 例,
あったが,頸部等への蓄積により緊急気道確保
その他 5 例であった。
ができずに死亡していた例もみられていた。近
【結果】耳鼻咽喉科には気道病変のほかに,難
年ムコ多糖症やゴーシェ病に対しては,酵素補
聴や難聴疑いのために受診となっていた。現在
充療法が行われるようになっており,その有効
までに気管切開または喉頭気管分離を施行した
性が報告されている。したがって今後も同様の
症例は,ムコ多糖症 2 例,ゴーシェ病 2 例,
経過となるかは不明であるが,ライソゾーム病
 cell 病 2 例 , そ の 他 1 例 の 計 7 例 で あ っ
患者に対する適切な気道病変の評価と個々の症
た。ムコ多糖症 9 例のうち,型( Hunter 症
例に合わせた気道管理が重要であると思われた。
候群)の 2 例では気管内へのムコ多糖の沈着に
( 116 )
― 60 ―
小児耳 30(2): 117 , 2009
21
T チューブ迷入による気管食道瘻症例
須藤
敏1),原
稔1),崎浜教之1),福里吉充2),松茂良力3),與座朝義4)
1)沖縄県立中部病院耳鼻咽喉・頭頸部外科,2)沖縄県立中部病院小児外科,
3)沖縄県立中部病院小児科,4)よざ耳鼻咽喉科
【はじめに】 T チューブは気管内の狭窄防止と
肺炎が疑われた。精査の結果,T チューブが気
同時に気道確保を目的に使用されるが,長期留
管に迷入し,気管食道瘻孔を形成していたと判
置に伴う合併症の報告も散見される。今回我々
明した。翌月全身麻酔下に T チューブ抜去術
は,T チューブが気管内に迷入,気管食道瘻を
施行。誤嚥性肺炎の可能性があるため瘻孔閉鎖
形成した症例を経験したので報告する。
術を勧めたが母親が拒否された。以後外来で経
【症例】8 歳
男児
双胎第子
27週638 g で
過観察していたが,気管食道瘻による誤嚥性肺
炎で入院加療を繰り返した。平成 18年 5 月( 9
出生
【既往歴】気管支喘息,成長不良,精神運動発
歳)母親の同意を得て右開胸,気管食道瘻切
離,肋間筋充填術を施行した。以後,瘻孔の再
達遅滞
【経過】極少低出生体重児のため NICU 室,長
発や肺炎は認めず,経過良好である。
期人工呼吸管理を受けた。人工呼吸器よりの離
【考察】後天性気管食道瘻は種々の原因で生じ
脱は一時的には可能であったものの,感染の度
るが,T チューブ迷入によるものは稀である。
に挿管,人工呼吸管理を繰り返し,平成 10 年
また,誤嚥による肺炎や低栄養状態を惹起しや
12月(1 歳)慢性肺疾患,抜管困難症のため気
すく致命的となる疾患である。本症例において
管切開術施行。平成16年10月(7 歳)気管カニ
は, T チューブを抜去したという訴えのみか
ューレ抜去,気管肉芽切除,T チューブ挿入術
ら,頸部レントゲンのみ撮影し,迷入している
施行した。T チューブ抜去を翌月に控えていた
T チューブに気づかなかったこと,内視鏡検査
平成 17 年 3 月( 8 歳),母親より T チューブを
を行わなかったこと,抜去したという T チ
抜去したとの訴えで当院救急室受診した。小児
ューブを確認しなかったことが診断の遅れとな
科,耳鼻科医師の診察では,呼吸障害なく,気
管孔周囲に異常認めなかった。入院経過観察中
も異常を認めず,気管カニューレを挿入し退院
ったと考える。
【まとめ】非常に稀と考える T チューブの気管
迷入による気管食道瘻症例を経験した。
となった。このとき,内視鏡による気管内観察
T チューブ抜去後,瘻孔の切離閉鎖および肋
は行わなかった。さらに,抜去したという T
間筋充填を行い,良好な結果を得た。稀である
チューブの確認も行わなかった。
が,T チューブ留置の合併症として気管迷入の
平成17年 6 月(8 歳)肺炎様症状で入院した。
可能性を考慮する必要があると考える。
気管切開孔より食物の漏出を認めたため誤嚥性
― 61 ―
( 117 )
小児耳 30(2): 118 , 2009
22
気管切開術を施行した Noonan 症候群の 1 例
佐藤伸矢
宮崎大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科
【はじめに】 Noonan 症候群は,低身長,思春
26 日全身麻酔下に中気管切開術を施行した。
期遅発,心奇形,翼状頸,眼裂斜下および眼間
前頸部皮膚を正中で縦切開し,甲状腺を狭部で
開離や耳介低位といった顔貌に特徴づけられる
結紮離断して気管に到達した。皮下組織をトリ
先天奇形症候群である。ときに知能低下,難
ミング後,気管を正中で縦切開し,皮膚と気管
聴,出血性素因,男児外性器形成障害,胎児水
壁を縫合して,アジャストフィット neo(内径
腫も出現する。発生頻度は出生 1000 ~ 2500 人
4 mm )を挿入した。術後,体動により,カニ
に 1 人とされ,多くは弧発性だが,常染色体優
ューレが浅くなり換気困難となったが,カニ
性遺伝形式の家系例も報告されている。予後は
ューレの深さを調節すると換気が可能となっ
重症の心奇形や発育不良がなければ良好とされ
た。その後,気管カニューレトラブルなく経過
ているが,今回,肥大型心筋症,肺動脈弁狭窄
したが,呼吸不全と心不全が進行し, 12 月 13
症,多源性心房頻脈や肺水腫を合併し,心不全
日永眠された。
と呼吸不全が増悪したため,気管切開術を施行
【考察】 Noonan 症候群の特徴のである翼状頸
や水腫により前頸部が高度に腫大し,気管切開
した症例を経験したので報告する。
【症例】 5 カ月の男児。母親は,妊娠 26 週で羊
術だけではなく,術後の気管カニューレ管理も
水過多を認めた。妊娠 30 週より胎児の心室中
困難が予想された症例を経験した。前頸部の皮
隔肥厚と水腫が出現したため,当院産科に入院
下肥厚により,通常の気管カニューレでは,気
となった。その後,胎児の胸水は増加し,水腫
管に届かないと予想されたため,アジャストフ
の増悪と判断され,6 月21日妊娠32週で緊急帝
ィット neo を使用した。アジャストフィット
王切開にて出生した。出生時は全身浮腫が強
は,固定の高さを調節できること,通常の気管
く,筋緊張低下,心拍数低下を認めたため,気
カニューレに比べ長いため,接続部分は皺に入
管内挿管,持続胸腔ドレナージを施行された。
り込まず外部で管理可能であったことで有用で
7 月11日抜管したが,呼吸状態が安定せず,す
あった。術後,体動により,カニューレが浅く
ぐに再挿管となった。7 月27日再び抜管し,呼
なり換気困難となったが,カニューレのアジャ
吸状態は安定した。9 月頃より多呼吸を認め,
スト機能により事なきを得た。通常のカニュー
10 月 19 日呼吸状態がさらに悪化し,気管内挿
レでは対応困難であったと考えられる。小児の
管が施行された。呼吸不全や心不全に改善な
気管切開術の周術期には予想されないトラブル
く,長期間の呼吸管理が予想されること,体動
が発生しやすく,手術手技および使用する気管
により自己抜管する危険性があり,自己抜管し
カニューレの種類,取り扱いに習熟しておく必
た場合には再挿管が困難であることから 11 月
要がある。
( 118 )
― 62 ―
小児耳 30(2): 119 , 2009
23
気管切開 6 カ月後の医療形態在宅 or 入院
余谷暢之1),守本倫子2),川崎一輝3),鈴木康之4),泰地秀信2),阪井裕一1)
1)国立成育医療センター総合診療部,2)同耳鼻咽喉科,3)同呼吸器科,4)同手術集中治療部
【緒言】気管切開は,中枢気道狭窄や換気能低
異常なし 12 例/ 21 ( 57 )。入院継続( 24 例)
下を有する小児が長期入院から在宅医療へ移行
の理由としては,気道感染や人工呼吸の離脱困
する際の有力な処置と考えられている。しか
難などの医療上の問題が 14 例,病状や在宅医
し,実際にはさまざまな要因から気管切開を行
療についての受容が困難という家族側の問題が
っても在宅への移行が円滑に進まない場合もあ
10 例。この 10 例中 8 例では緊急気管内挿管後
る。はたして気管切開は在宅医療への移行にど
に気管切開が行われていた。
【考察】今回の気管切開の目的は全例で在宅医
のくらい貢献するのであろうか
【目的】気管切開 6 カ月後の在宅への移行状況
と問題点を明らかにする。
療への移行推進というものではなく,緊急避難
的な症例もあった。したがって,在宅移行を目
【対象】 2002年 9 月以降の 6 年間に当院で気管
的とした気管切開症例に絞れば,移行率はさら
切開を行い,6 カ月以上経過観察した47例(男
に高くなるものと思われた。人工呼吸器の装着
30,女 17)。気管切開時の年齢は日齢 0 から27
例では移行率が低かった。人工呼吸器の装着が
歳(中央値 1 歳 0 カ月)。基礎疾患は中枢神経
家族の受容に影響を与えた可能性が高い。中枢
異常あり 26 例(先天性 7 ,後天性 19 ),中枢神
神経異常を有する症例は,在宅医療への移行に
経異常なし21例(呼吸運動障害 8,上気道狭窄
不利という傾向はみられなかった。特記すべき
13)。気管切開前からの人工呼吸管理は37例。
点と思われた。在宅移行への受容が困難な家族
【方法】気管切開 6 カ月後の転帰をカルテから
には,本人と家族の両方の QOL を考慮した上
後方視的に調査し,在宅に移行できなかった症
での医療形態の選択を十分に話し合う必要があ
例ではその原因を検討した。
ると考える。
【結果】 47 例中,在宅移行は 23 例( 49 ),入
【結論】気管切開 6 カ月後には約半数で在宅医
院継続は 24 例。人工呼吸管理については離脱
療へ移行できていた。移行できなかった原因の
18 例,継続 19 例で,継続例のうち在宅は 5 例
約 6 割は医療上の問題,約 4 割は家族側の問
( 26 ),入院は 14 例。中枢神経異常の有無に
題であった。気管切開の目的が結果に影響を与
よる在宅移行率は,異常あり14例/26(54),
えた可能性があると考えられた。
― 63 ―
( 119 )
小児耳 30(2): 120 , 2009
24
当科における気管支異物の統計~新開発の320列面検出器
CT による小児気管支異物診断を含め~
吉岡哲志1),三村英也1),内藤健晴1),藤井直子2),片田和広2)
1)藤田保健衛生大学医学部耳鼻咽喉科,2)藤田保健衛生大学医学部放射線医学
【はじめに】気管支異物は小児期に非常に多い
られた。入院期間は平均約 13 日であった。肺
ことが知られ,小児期のそれは,大半が X 線
炎・気管支炎合併症例が約 30 に認められ,
透過性異物であり診断に苦慮する。そのため保
ほとんどが,ピーナッツ異物であった。死亡は
護者の認識とともに受診エピソードの詳細な把
1 例で, 1 歳男子のピーナッツ異物で,麻疹に
握が重要とされている。今回,当教室開講後,
より全身状態が悪化していた症例であった。
36 年 間 に 経 験 し た 気 管 支 異 物 に つ き 検 討 し
【320列面検出器 CT による小児気管支異物の診
た。当科で行っている最新の画像診断方法を含
断】従来,気管支異物の診断においては胸部単
純 XP, CT による診断が行われてきた。我々は
め,報告する。
【対象および方法】昭和48年から平成 20年の36
新しい撮影装置である高速多列面検出器 CT に
年間に当科で経験した小児例・成人例を合わせ
より,小児気管支異物の診断を行っている。機
た気管支異物症例全 101例を対象とした。各症
器 は 当 施 設 等 で 開 発 さ れ た 東 芝 製 Aquilion
例について,年齢,性別,異物介在部位,異物
ONEで,従来の 64 列 CT の 200 倍もの著しく
内容などについて調査し,小児期に特徴的な傾
面積が広い検出器を持ち, 1 回転のみで 16 cm
向があるかについて検討を加えた。
幅の広範囲の撮影が可能で,撮像範囲の全部位
【結果】気管支異物の年平均は2.8例であり,年
において時間差がない画像を最短0.35秒で撮影
次による増減傾向はなかった。3 歳以下の乳幼
可能である。連続スキャンにより,時間的に連
児が全症例の約 7 割を占め,年齢にかかわら
続する立体画像データを得る事が可能となる
ず,男性女性は約 7 3 で男性に多かった。
(4DCT)。本機器により,薬物睡眠無しでの撮
異物種は X 線透過性異物が全体の 74 で,特
影や,立体動画による呼吸動態の観察が可能と
に豆類が 60 例をしめ,特に幼小児でのピーナ
なった。撮像中の時間差によるモーションアー
ッツ異物がきわめて多い結果であった。成人で
チファクトが皆無であることから, MPR 像に
は,歯科材料が多かった。誤嚥エピソードは,
おいては,従来の機器で高率に発生していた,
3 歳以下の乳幼児では食事中の驚愕,号泣,咳
偽血管といわれる軟部組織陰影と見紛う陰影
嗽により誤嚥した症例が多く,遊戯中のものは
や,気管が 2 重に写ってしまうようなアーチフ
4 歳から15歳の小児例に 7 例あった。異物介在
ァクトが完全に消失し,画像の連続性や末梢気
部位は, 15 歳以下では左右の症例数に差がな
管支の描出能が飛躍的に改善した。これらの革
く, 16 歳以上の症例では右気管支に多くなっ
新的な新技術の概要,有用性,問題点などにつ
た。幼小児においては,気管支の分岐角の左右
いても検討・報告する。
差がないとされており,これが要因として考え
( 120 )
― 64 ―
小児耳 30(2): 121 , 2009
25
人工内耳埋め込み術を行った Waardenburg 症候群 6 症例の検討
山田哲也,河野
鈴木 衞
淳,西山信宏,河口幸江,田村直子,北原智子,小野智子,
東京医科大学病院耳鼻咽喉科
【はじめに】 Waardenburg 症候群(以下 WS)
に経過を評価する。
は白髪,青色強膜,内眼角解離,部分白皮症と
【結果】初診時年齢は 1 歳 1 カ月~5 歳 3 カ月,
ともに先天性難聴を合併する症候群として有名
補聴器装用開始年齢は 5~ 6 カ月,手術時年齢
であり,しばしば人工内耳の適応になる。過去
は 1 歳 7 カ月~ 5 歳 9 カ月であった。 WS とし
に人工内耳を行った WS 症例の報告も散見さ
ては型が 5 例,型が 1 例であった。全て
れ,当科でも過去に 1 例報告をしており,いず
の症例も術前の補聴器装用効果は得られず,言
れも 1 ~ 2 例の報告が多い。現在当科を受診し
語の遅れがみられた。術後の人工内耳装用閾値
た WS 患児は計 7 例でおり,うち 6 例が人工
は全ての症例で良好であった。術後長期間経っ
内耳を行い経過計観察中である。この 6 例の経
ている症例では聴き取り良好で,言語発達も順
過について検討し報告する。
調であった。
【目的】 WS 患児は難聴を合併しやすく,高度
【考察】 WS は感音難聴をきたす疾患ではある
難聴の場合は人工内耳埋め込み術を行い聴覚補
が,内耳奇形や精神発達遅滞をきたす疾患では
償をすることで,言語に対する療育をすること
ないため高度難聴の場合は人工内耳のよい適応
ができる。この WS 患児の特徴の周知,およ
となり,効果も十分に期待できる。我々の経験
び当科での人工内耳埋め込み術後の成績を報告
した症例でも人工内耳埋め込み術により,術後
する。
経過の短い症例でも聴覚の活用が確認され,経
【対象】当科を受診したことのある WS 患児 7
例のうち,当科で人工内耳埋め込む術を行った
6 例を対象とする。
過の長い症例では聴き取り・言語発達も良好で
あった。
【まとめ】先天性高度難聴を伴う WS 症例に対
【方法】対象症例のカルテの記述(病歴,聴覚
検査,発達評価検査)からレトロスペクティブ
し人工内耳埋め込み術を行い良好な経過をたど
っている。
― 65 ―
( 121 )
小児耳 30(2): 122 , 2009
26
広汎性発達障害と精神運動発達遅滞を伴う重複障害児の
人工内耳装用の経過
北川可恵1),光澤博昭1),新谷朋子2),川端
文2),氷見徹夫2)
1)北海道立子ども総合医療・療育センター耳鼻咽喉科,2)札幌医科大学耳鼻咽喉科
【はじめに】重複障害児では,補聴器の装用効
ず。
果の判定や人工内耳の装用評価に時間を要す
3.
人工内耳装用とコミュニケーションの経
る。今回,われわれは広汎性発達障害と精神運
過 2 才 1 カ月より補聴器を装用し, 2 才 5 カ
動発達遅滞を伴う重複障害児の人工内耳装用の
月に常時装用可能になった。初診時より,視線
経過を報告する。
が合いにくく,大人との関わりを意識的に拒む
【症例】 4 才 7 カ月女児。両高度感音難聴,広
場面が多かった。補聴器装用時の COR では 50
dB で反応が見られたが,日常生活では音への
汎性発達障害,精神運動発達遅滞。
受診の経緯37週2468 g,二卵性双胎第
反応が一貫しなかった。2 才11カ月に歩行が可
1 子。周産期異常なし。 4 カ月健診で定頚不十
能になったが,発声は乏しく,マイペースに遊
分のため他病院を受診し,頭部 MRI ,脳波等
び,動作の模倣は認めなかった。視線の合いづ
行われたが,特に異常は認められなかった。 1
らさや表情の変化の乏しさ,多動傾向や特定の
才 0 カ月より理学療法を開始したが,音への反
物や遊びへのこだわりは顕著になり,3 才 9 カ
応が乏しく, 1 才 2 カ月の ABR で両側 80 dB
月時に当センター小児科で広汎性発達障害の診
であった。1 才 8 カ月時に札幌医大耳鼻科に紹
断を受けた。3 才 4 カ月頃より補聴器の利得を
介され,2 才 1 カ月より補聴器装用を開始し,
上げても音への反応が乏しくなり,聴力は悪化
2 才 3 カ月に当センターに紹介された。
傾向を認めた。4 才 2 カ月時の補聴器装用下で
1.
聴力検査 2 才 3 カ月時
行った音場 ASSR では補聴効果を認められな
の COR は 70 dB で , ASSR は 右 80 dB で 無 反
かったため,4 才 5 カ月時に人工内耳挿入術を
応,左80 dB (500, 1 kHz)のみ反応を認めた。
受けた。音入れ 2 カ月後には COR45 ~ 50 dB
2 才 10 カ月時, COR は 80 ~ 90 dB で再現性の
で再現性を認め,TV の音の onoŠ や楽器遊び
ある反応が見られた。 3 才 7 カ月時の COR は
を好んで行うようになった。術前よりも笑顔が
90 dB で 再 現 性 が な く , ASSR は 両 耳 110 dB
多くなる,視線が合う回数が増える,数少ない
で無反応であった。4 才 2 カ月時の補聴器装用
が動作模倣が出現するなど,対人コミュニケー
時の音場 ASSR は両側 100 dB で無反応であっ
ションに改善が見られた。
2.
検査結果 1 )
た。 2 )
側頭骨 CT 内耳奇形を認めず。 3 )
【まとめ】重度難聴に精神発達の全体的な遅れ
発達評価津守稲毛式乳幼児精神発達質問紙
と広汎性発達障害を有した症例に人工内耳を装
( 3 才時)運動 15 カ月,探索操作 15 カ月,社会
用した結果,聴覚活用によって対人コミュニ
4 カ月,食事11カ月,理解言語 1 カ月に該当せ
( 122 )
ケーションの発達が促された。
― 66 ―
小児耳 30(2): 123 , 2009
27
先天性 CMV 感染症による重度感音難聴児に対する
人工内耳の聴覚活用
中島恭子1),長井今日子1),古屋信彦1),緒方朋美2),大木康史2)
1)群馬大学耳鼻咽喉科頭頸部外科学,2)群馬大学小児生体防御学
また,語彙数も手術直前は 80 程度であった
【はじめに】近年,我が国における妊婦の
cytomegalovirus( CMV )抗体保有率は低下傾
向にあり,先天性 CMV 感染症の増加が懸念さ
が,術後は約200に増加した。
【症例 2】9 歳 5 カ月,男児。1 歳過ぎまでは音
れる。先天性 CMV 感染症は出生後難聴をきた
に対する反応があり,数個単語の発語もあった。
すウイルス疾患としても知られていて,この難
2 歳頃より音への反応が悪く,発語が全くなく
聴は生直後に明らかになる症例ばかりでなく,
な っ た た め 2 歳 1 カ 月 時 当 科 受 診 。 ABR,
生後進行し遅発性発症の形をとることもある。
COR で約 100.0 dB 前後の重度難聴を認めた。
今回我々は先天性 CMV 感染症による重度感音
MRI で脳の白質病変を認めたため,小児科紹
難聴に対し人工内耳埋め込み術を行った児 2 症
介。
血液検査,髄液検査で先天性 CMV 感染症と
例を経験したので報告する。
【症例 1 】 3 歳 2 カ月,女児。新生児聴覚スク
診断され,それによる難聴の進行で重度難聴に
リーニングで refer となり,近医にて ABR 施
なったと判断された。早急に補聴器装用と言語
行したところ無反応なため 1 歳 5 カ月で当科
訓練を開始し,当初は補聴器装用閾値が 50.0
受診。小児科で先天性 CMV 感染症と診断され
dB まで改善を認めた。 3 歳過ぎて難聴が更に
た。補聴器装用と言語訓練を開始したが,2 歳
進行したため 3 歳 5 カ月で人工内耳埋め込み
過ぎても有意語の発語無く,補聴効果に乏しい
術施行。現在の人工内耳装着時の語音明瞭度は
ため 2 歳 5 カ月時,右耳に人工内耳埋め込み
62 で,日常生活における会話聴取は良好で
術施行。術前の聴力(条件詮索反応= COR と
あり普通小学校に通っている。
示す)は,平均 110.0 dB であった。補聴器装
【まとめ】先天性 CMV 感染症による重度感音
用時の閾値は80~90 dB と補聴効果は極めて不
難聴に対する人工内耳埋め込みは,認知面の遅
良であった。人工内耳装着 7 カ月後の現在の閾
れがなければ良好な聴覚活用が期待できると思
値は40~50 dB と著明な改善を認めた。
われた。
― 67 ―
( 123 )
小児耳 30(2): 124 , 2009
28
髄膜炎後両側聾に対し 1 歳 2 カ月で人工内耳埋込術を
施行した 1 例
井上雄太1),安達のどか1),浅沼 聡1),坂田英明2),加我君孝3),赤松裕介4),
尾形エリカ4),樫尾昭憲4),山岨達也4)
1)埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科,2)目白大学言語聴覚学科,
3)国立病院機構東京医療センター感覚器センター,4)東京大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】小児の髄膜炎後高度難聴は,人工
時には明らかな発声量の増大が認められた。ま
内耳適応となる主要な原因の一つである。髄膜
た手術施行した病院による聴覚管理と並行し療
炎後の聾症例で蝸牛内骨化が認められる場合,
育機関での言語指導も開始された。術後 3 カ月
人工内耳の電極挿入に際して困難をきたすこと
後(1 歳 5 カ月時)より日常生活でも有意味語
や挿入できても有効な電気刺激を行えない可能
の発語がみられるようになった。1 年経過した
性が高いことが問題となる。今回我々は,髄膜
現在 MAIS 及び MUSS 得点は術前に比し 1 →
炎後両側聾となり蝸牛内の一部骨化が認められ
39,0→11となり,人工内耳による聴覚代償が
たため 1 歳 2 カ月で人工内耳埋込術を施行し
良好な聴覚言語発達を促進している。
た 1 例を経験したので,若干の文献学的考察を
【考察】小児の細菌性髄膜炎は重症となりやす
く,約 10 に難聴を併発する。日本では人工
加えて報告する。
【症例】 1 歳 2 カ月男児。 2007 年 8 月(生後 11
内耳埋込術のうち難聴の原因が髄膜炎後聾によ
カ月時)細菌性髄膜炎罹患にて総合病院小児科
るものが約 10 で,英国では約 24 を占める
に入院。発症前発達に特記すべき異常なかった
との報告がある。英国では髄膜炎後聾に対して
が,発症後音に対する反応がないことに気づか
人工内耳埋込術を生後 7 カ月で施行された報告
れ ABR 施行したところ両側無反応であった。
があった。今回我々は,待機すると骨化が進行
発症 1 カ月後(1 歳時)当科を受診し両側聾と
し電極挿入が困難になることが予想されたため,
診断された。CT で両側蝸牛基底回転にすでに
1 歳 2 カ月で手術を施行した。早期に手術を施
骨化が認められた。発症 3 カ月後(1 歳 2 カ月)
行したことにより全電極を挿入することがで
に人工内耳埋込術を施行した。蝸牛鼓室階の開
き,その後の人工内耳装用効果は良好であった。
窓時,基底回転内腔は骨様に変性した組織が充
当科では小児難聴症例に対して聴力レベルの
満していたが,削開をさらに奥に進めると内腔
精査のみならず,難聴が発見された場合には保
が 開 い て い た 。 コ ク レ ア 社 Nucleus CI24R
護者へのガイダンスと早期の補聴器装用,及び
( CS )使用し鼓室階にアクティブ電極 22 個+
療育機関へのスムーズな移行を支援している。
マーカー 3 つが挿入可能であった。術中の神経
本症例は髄膜炎による骨化の進行が予想された
反応テレメトリ( NRT )にて良好な反応波形
ため,人工内耳埋込術施行までの期間が極めて
が得られた。
短かったが,手術適応判断から療育環境の整備
音入れ時より良好な聴性行動が観察され, 1
カ月後には呼名反応が得られるようになり装用
( 124 )
まで遅滞なく対応することができたと考えられ
る。
― 68 ―
小児耳 30(2): 125 , 2009
29
先天性高度難聴児の診断について
―先天性サイトメガロウイルス感染症の人工内耳術前術後での
脳機能評価―
坂田英明1),大石
勉2),安達のどか3),浅沼
聡3),山岨達也4),加我君孝5)
1)目白大学言語聴覚科,2)埼玉県立小児医療センター感染免疫科,
3)埼玉県立小児医療センター耳鼻科,4)東京大学耳鼻科,
5)国立東京医療センター・感覚器センター
【はじめに】日本において 2000年に始まった全
新生児を対象とした新生児聴覚スクリーニング
( NHS )は, 2008 年現在約 70 の普及率であ
る。その結果人工内耳適応症例も飛躍的に増加
し手術時期も早まった。一方,先天性サイトメ
ガロウイルス( CMV )感染症は胎内感染のな
かでもっとも頻度が高く,難聴をきたすことが
知られている。また, CMV 感染症は内耳だけ
でなく,脳にも障害をきたし発達障害の原因と
なることが多い。今回われわれは,先天性高度
難聴児の診断のなかでも脳の機能評価について
検討したので報告する。
【目的】脳皮質レベルでの機能検査として近赤
外線分光法を用いて CMV 感染症の人工内耳術
前後での音に対する脳の反応の評価を目的とし
た。
(対象)対象は,2006年 1 月より2007年 9 月ま
での間に産科で新生児聴覚スクリーニング検査
を受け「要再検」となり埼玉県立小児医療セン
ター耳鼻咽喉科を受診した新生児から乳児 245
例のうち, CMV 検査で先天性 CMV 感染症と
診断され初期療育を行い,後に人工内耳を施行
した 4 例である。
【方法】方法は,近赤外線分光法(光トポグラ
フィー日立製作所)による脳活動計測は,可
視できる近赤外光を用いた 2 波長分光計測
(l1, l2)により生体組織中の oxyHb, deoxy
Hb 濃度変化を測定した。頭部に照射点,検出
点を約 3 cm 離して配置し,その間の大脳皮質
(両側側頭葉)における活動( Hb 濃度変化記
号)を計測した。検査は睡眠導入剤(トリクロ
リールシロップあるいはエスクレ座薬,ラボナ
散剤)使用下で検査した。音刺激は裸耳での気
導音,補聴器装用下の気導音,人工内耳装用下
での気導音とした。音源はハープの音源を 360
度移動させたものを 60 秒間流し, 30 秒休止で
一回とし,計三回聞かせた。
【結果】聴力が変化せず人工内耳を施行した両
側高度難聴例は 4 例であった。人工内耳術前後
に近赤外分光法を用いて音に対する脳の反応の
評価を行った。 2 例は MRI 所見で石灰化・髄
鞘化遅延・多小脳回などの所見が多く発育も遅
延していた。他の 2 例は MRI で石灰化のみ,
明らかな異常なしなど発育遅延はなかった。光
トポグラフィーの結果は,発育遅延症例は裸耳
での気導音,補聴器装用下の気導音,人工内耳
装用下での気導音いずれも反応がはっきりしな
かった。他の二例は,裸耳で反応なし,補聴器
両側装用で反応なし,人工内耳装用下において
同側の側頭葉で反応がみられた。
【考察とまとめ】先天性難聴の原因は様々であ
るが,遺伝子異常( GJB2 )が約 3 割,内耳奇
形が約 2 割,他には先天性 CMV 感染症が約 2
割で認められる。先天性 CMV 感染症は従来か
らよく知られているが,そのほとんどが不顕性
感染である。今回の音刺激による大脳皮質(側
頭葉)の反応は,人工内耳挿入側でみられ裸耳
でみられていない。さらに MRI で脳の異常所
見の多かった発育遅延症例では反応が乏しかっ
たことは,人工内耳術前の脳(側頭葉)の機能
検査として有効である可能性がある。
― 69 ―
( 125 )
小児耳 30(2): 126 , 2009
30
山梨県における新生児聴覚スクリーニングの現状
遠藤周一郎1),今村俊一2),水越昭仁1),増山敬祐1)
1)山梨大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科,2)今村耳鼻咽喉科めまい難聴クリニック
【はじめに】新生児聴覚スクリーニング(以下
新スク)は,厚生労働省のモデル事業として開
導入され,しっかり機能しているかどうか検討
すること。
始され全国各地でおこなわれるようになってい
【方法】平成 13年度から平成 19年度までは,新
る。山梨県においても多くの産婦人科で新スク
スクで要再検となり当科小児難聴外来を受診し
が自発的に開始され,要再検となった児が県内
た新生児の受診状況について,平成 20 年度に
唯一の精密聴力検査機関である当科小児難聴外
ついては県に報告されたスクリーニング機関の
来に紹介されている。しかしこれまではスク
受診状況および精密協力検査機関である当科の
リーニングから精密検査,早期療育へのシステ
受診状況について調査をおこない,その結果に
ムは系統的には確立されておらず,その実態を
ついて検討をおこなった。
十分に把握することができなかった。そこで,
【結果】平成 13年度から平成 19年度までに新ス
新生児聴覚検査体制整備連絡協議会を立ち上
クで要再検となり当科小児難聴外来を受診した
げ,「新生児聴覚検査の手引き」を作成し,平
新生児は,それぞれ10人,8 人,20人,21人,
成 20 年度より県の事業として統制されたスク
38 人, 36 人, 31 人であった。平成 20 年度にお
リーニングを開始した。1 次スクリーニング機
いては, 20 年 12 月までのデーターだが,当科
関(産科医院あるいは病院)で要再検となった
を受診した新生児は 33 人であった。その後精
児は,2 次スクリーニング機関(検査可能な耳
密聴力検査をおこない,両側難聴が考えられた
鼻咽喉科)へ紹介され再度検査をおこないそれ
児は 7 人( 21.2 ),片側難聴が考えられた児
でも要再検となった児は精密聴力検査機関であ
は 2 人(6.1)であった。
る当科に紹介されるようにし,それぞれの機関
【考察】新スクで要再検となり当科小児難聴外
は四半期ごとに県へ報告し患者状況がしっかり
来を受診した新生児は,検査の普及に伴い平成
把握できるようにした。また,スクリーニング
13 年度から徐々に増加傾向にあり,平成 17 年
で要再検になった児に対しては,保健福祉事務
度 以 降 は 年 間 30 人 以 上 で 横 ば い に な っ て い
所や市町村保健センターに情報提供され,早期
る。平成 20 年度から 2 次スクリーニング機関
に新生児訪問などの個別支援がおこなえるよう
を設けスクリーニングを 2 段階方式にしたが,
整備した。
当科に紹介された新生児の偽陽性率は 7 割以上
【目的】上記のように県の事業として新スクを
開始し,導入前後の患者状況を調査することに
と依然として高いなど問題点もいくつか考えら
れた。
よって,行政と連携したこの事業がスムーズに
( 126 )
― 70 ―
小児耳 30(2): 127 , 2009
31
当科の音場 ASSR 検査の検討
川端
文1),新谷朋子1),才川悦子1),吉野真代1),氷見徹夫1),北川可恵2)
1)札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科,2)北海道立子ども総合医療・療育センター
【はじめに】 ASSR (聴性定常反応)は純音の
た。補聴器装用症例では,左右別の補聴器装用
変調音を使用した周波数特異性がある他覚的聴
閾値の推定が可能であった。音場 COR の反応
力検査で,乳幼児の低音域の聴力評価が可能で
が曖昧で,再現性を認めなかった精神発達遅
ある。今回,補聴器装用児・人工内耳装用児に
滞・運動発達遅滞の 2 症例に音場 ASSR を行
気導 ASSR と音場 ASSR 検査に行い,その有
った。補聴器装用の 1 症例の音場 ASSR 結果
は,低音部で 90 100 dBHL 高音部はスケール
用性について検討した。
【対象および方法】2007年 7 月から2009年 3 月
アウトであった。COR・ABR・OAE の結果と
までに当科で 9 例を対象とした。年齢は 11 カ
合わせて,人工内耳の適応と考えられた。人工
月から 5 才 6 カ月(平均 2 才 4 カ月)であっ
内耳の 1 症例の音場 ASSR 結果は,各周波数
た。補聴器両耳装用児 7 例,補聴器片耳装用児
で 6080 dBHLの閾値を認めた。人工内耳装用
1 例,人工内耳装用 1 例であった。ASSR 検査
利得は不十分であるものの人工内耳装用下で音
は Bio Logic 社 Navigator PRO, Multiple Audi-
反応があることがわかった。人工内耳の継続使
tory SteadyState Response(MASTER)をデ
用と手話・文字の使用を積極的に取り入れた療
フォルト設定( MF80 Hz )で使用した。音場
育を選択した。
ASSR 検査は, Fostex PM0.5 MK のスピー
【まとめ】補聴器装用症例では,左右別の補聴
カーを校正して行なった。全症例がトリクロホ
器装用閾値の推定が可能となり,補聴器適合の
ストナトリウム内服または包水クロラール座薬
参考に有用であった。補聴効果が分かりにくい
を使用して,沈静下で検査を行った。
重複障害児では,補聴効果の客観的評価として
【結果】補聴器装用症例の音場 ASSR 閾値は,
音場 COR 閾値とほぼ一致した。低周波数では
音場 ASSR は,補聴効果が推定でき,療育の
方向性を決める上で有効であった。
COR に 比 し て ASSR 閾 値 が 高 い 症 例 が あ っ
― 71 ―
( 127 )
小児耳 30(2): 128 , 2009
32
急性散在性脳脊髄炎症例における ABR の検討
高野賢一1),吉岡
巌2),佐藤
純3),氷見徹夫1)
1)札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科,2)帯広厚生病院耳鼻咽喉科,3)すずらん耳鼻咽喉科
dis-
散在性の高信号域を認めたため, ADEM と診
seminated encephalomyelitis; ADEM)は,感
断された。診断された時点で,聴力精査目的に
染症や予防接種後に発熱,嘔吐,頭痛などの症
当科紹介となった。
【はじめに】急性散在性脳脊髄炎( acute
状で急性発症して,意識障害,巣症状,視力障
現象当科受診時,歩行障害は認めるもの
害などの中枢神経症状および膀胱直腸障害,歩
の,自発および注視眼振は認められず,他の神
行障害などの脊髄症状を呈する炎症性脱髄性疾
経学的所見も異常所見はなかった。標準純音聴
患である。人口 10 万人に対し,年 0.8 人の発症
力検査を施行したところ,右 8.8 dB,左 3.8 dB
率とされる比較的稀な疾患である。
と正常範囲であったが, ABR 検査では左側の
ADEM のような大脳~脳幹に白質病変を認
,,波の不明瞭化あるいは消失がみら
める疾患は, ABR の異常をきたすことが知ら
れ,さらに波間潜時差,特に波間潜
れている。今回,われわれは稀な脱髄疾患であ
時の延長が認められた。
る ADEM 症 例 の ABR 検 査 を 経 時 的 に 施 行
経過治療開始 5 日目には歩行可能となり,
し,病巣部位の検出や経過観察に有用であると
その後も症状は徐々に改善し,治療開始 1 カ月
考えられたので,若干の考察を加えて報告する。
後には脳 MRI 所見も改善し退院となった。退
【症例】患者7 歳,男児
院後も経時的な ABR を行ったところ,~
波は,初診時から 5 カ月後に明瞭化してきて,
主訴頭痛,嘔気
既往歴・家族歴特記事項なし
10 カ月後に正常の波形となった。波間潜
現病歴上記主訴にて小児科を受診し,髄液
時も時間を追って短くなり, 10 カ月後には右
検査にてリンパ球有意の細胞数増多が認められ
側と同程度になった。
たため,無菌性髄膜炎と診断された。この時点
【考察】聴覚閾値の上昇がなく,ABR の異常の
で脳 MRI に異常は認められなかった。入院 7
みが遷延したことは, ABR の鋭敏さを裏付け
日目に突如歩行障害が出現するも,神経学的所
るものである。今日, MRI などの各種画像検
見と乖離しており,心因反応と考えられた。歩
査が進歩しているが,本症例のような神経疾患
行障害が続くため,入院 25 日目に再度脳 MRI
の診断,スクリーニングおよびフォローアップ
検査を施行したところ,T2 強調像,FLAIR 像
において, ABR による機能的検査の診断意義
にて小脳半球,第脳室周囲,大脳深部などに
はいまだ重要であると思われる。
( 128 )
― 72 ―
小児耳 30(2): 129 , 2009
33
NHS refer 児における Auditory Nerve disease(AN)の
頻度の検討
安達のどか1),井上雄太1),浅沼
聡1),坂田英明2),山岨達也3),加我君孝4)
1)埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科,2)目白大学言語聴覚学科,
3)東京大学附属病院耳鼻咽喉科,4)国立病院機構東京医療センター・感覚器センター
【はじめに】新生児聴覚スクリーニング(NHS)
( DPOAE )の結果が乖離している症例に絞っ
が日本で浸透しはじめ,約 10 年が経過した。
て 検 討 し た 。 OAE ( DPOAE ) は , OAE
中でも, NHS 後の偽陰性については様々な論
analyzer を用いて原則として判定表示に従った
議があり,特に AN (Auditory Nerve disease or
が,測定 3 周波数(2, 3, 4 kHz)のうち 1 周波
Auditory Neuropathy)については注意が必要
数が refer でも他の周波数の反応がいずれも 5
である。現在,日本を含め世界において,
dB 以上であれば pass とし,それ以外を refer
NHS で使用される簡易器機は,自動 ABR も
とした。
しくは OAE である。しかし特に OAE 施行例
【結果】OAE(DPOAE)は pass,ABR にて難
の場合, AN の発見は困難である。 AN とは,
聴を認めた20例(5.7)(26耳(3.7))につ
蝸牛神経レベルの難聴で,OAE では pass であ
いて検討した。結果は両側例が 6 例( 12耳),
るが, ABR にて反応低下あるいは無反応にな
一側例が 14 例( 14 耳),中等度難聴( 50 dB 以
るため, NHS で OAE が pass であれば,正常
上 70 dB 未満)は 13 例( 18 耳),高度難聴( 70
という判断がなされてしまう可能性がある。
dB 以上)は 7 例( 8 耳)であった。またその
【目的】 OAE ( DPOAE )と ABR を同時に行
内 , 合 併 症 を 有 し た 症 例 は , 12 例 認 め ら れ
うことにより OAE ( DPOAE )で pass , ABR
た。残りの 8 例中 4 例が Speech delay を主訴
で異常となる,いわゆる AN の発生頻度を検
としていた。現在の進路状況は,療育施設 11
討した。
例,普通学校 4 例,聾学校 1 例,死亡 1 例,
【対象】 H12 年 12 月~ H16 年 6 月の 4 年 6 カ月
不明 3 例であった。
間 に , 当 科 を 受 診 し た NHS 後 難 聴 の 疑 い
【考察とまとめ】今回の検討により, 5.7 の
( NHS にて refer ,もしくは speech delay を主
AN が示唆されたが,海外では 7 ~ 15と比較
訴来院)の患者 349 例( 698 耳), 0 カ月~ 3 才
的高い報告がある。AN では聴力レベル,聴力
(平均 1 才 3 カ月)を対象とし, retrospective
パターン,言語発達レベルは様々であり慎重な
に検討した。
精査が必要とされる。 NHS の際に使用される
【方法】 OAE ( DPOAE )と ABR を同日に施
器機については,より安価で簡易な OAE が選
行 し 両者 の 比 較検 討 を行 っ た 。 ABR は click
択 さ れ る 場 合 が あ る が , 実 際 に は Speech
50 dBHL 刺激以上にて反応がない場合を難聴
delay 例もあり偽陰性率をより軽減させるには,
とし,今回は 40 dBHL での反応が乏しい軽度
OAE よりも自動 ABR の方が推奨される。
難
聴 例 の も の は 除 外 し , よ り ABR と OAE
― 73 ―
( 129 )
小児耳 30(2): 130 , 2009
34
ダウン症児における聴力評価法の比較検討
任
智美1),奥中美恵子2),大西和歌3),阪上雅史4)
1)神戸百年記念病院耳鼻咽喉科,2)明和病院耳鼻咽喉科,3)尼崎中央病院耳鼻咽喉科,
4)兵庫医科大学耳鼻咽喉科
【はじめに】ダウン症児は伝音,感音性難聴の
し た 。 12 耳 ( 40.0  ) で は ASSR と ABR
合併が多いとされている。高率に滲出性中耳炎
( 2000 Hz と 4000 Hz の 平 均 値 ) に 30 dB 以 上
に罹患すること,月齢とともに ABR 閾値の改
の乖離がみられた。そのうち 7 耳は中耳炎の治
善が見られることもあることから,聴力評価を
療中であった。年齢構成は 1 歳未満が 4 耳
慎重にかつ定期的に行い,経過を観察していく
( 33.3), 1 歳~ 2 歳が 5 耳( 41.7), 2 歳~
3 歳が 1 耳(8.3),3 歳以上が 2 耳(16.7)
必要がある。
【目的】現在, ASSR や ABR は COR,
BOA,
であった。ASSR を再施行できた 6 例において
peep show などの聴性行動反応検査とともに乳
は 1 例が中耳炎治癒のため閾値改善あったもの
幼児の聴力評価に広く使用されている。しか
の 5 例では有意な閾値改善は認めなかった。
し,発達障害を伴う児では検査間で乖離がみら
【考察】 ASSR は ABR と比較して刺激間隔が
れることを多く経験する。今回,ダウン症児に
長く,より高位中枢からの電位であるため発達
おいて ASSR を中心に検査結果を比較検討し
程度により本来の聴力より高度な難聴を示す場
たので報告する。
合があると考えられる。また,これとは逆の
【対象】2004年 9 月から2008年 1 月31日までに
ケースもみられることがあり, ASSR や ABR
聴覚精査に当科を受診したダウン症児 15 例 30
の結果単独で判断すると誤った補聴器調整や聴
耳を対象とした。内訳は男児 9 例,女児 6
覚障害の申請を行ってしまう可能性もあり,聴
例,年齢は 0 歳 2 カ月から 5 歳 3 カ月,平均
性行動反応検査も同時に施行し,総合的に評価
年齢は 1 歳 5 カ月であった。
することが必須と再確認された。ダウン症児で
【方法】全例に ASSR, ABR を施行し,年齢,
は ABR が無反応でも後に反応がみられるケー
患児の能力に応じて, COR (音場,ヘッドホ
スが報告されているが,今回の 6 例では明らか
ン着用), peep show を併用し,測定された結
に中耳炎が改善された 1 例を除いては ASSR
果を比較した。15児中 6 例では半年~1 年毎に
の閾値に有意な改善はみられなかった。しか
再度 ASSR を施行し,経過を追った。
し,観察年数が短いこともあり,今後経過をお
【結果】 ASSR で測定した難聴の程度は聴力正
っていきたい。また,乖離がみられる例におい
常が 6 耳(20.0),軽度難聴が 6 耳(20.0),
て中耳炎に罹患している例が58.3あることか
中等度が 6 耳(20.0),高度が12耳(40.0)
ら,今後更なる検討を加え,中耳炎が ASSR
であった。中耳炎罹患歴は26耳(86.7)にあ
閾値に及ぼす影響についても考察していきたい。
り, 8 耳( 26.7)は経過中にチューブを挿入
( 130 )
― 74 ―
小児耳 30(2): 131 , 2009
35
外来でできる言語発達障碍の簡便な検査法
田中美郷1),2)
1)田中美郷教育研究所,2)神尾記念病院
【はじめに】最近言語障碍児の状態に異常が見
【結果】臨床例で検討したところでは,言語環
られ,特に成育環境ないし言語生活の変化によ
境ないし育児上の問題(例えば金魚の絵に対し
ると思われる問題が気になるようになった。か
て単に「サカナ」,鳩を「カラス」又は「トリ」,
かる現状認識から言語発達障碍の背景に着目し
飯茶碗を「オサラ」と言うなど,ある母親は子
て,外来で簡単にできる検査法を考案したので
どもに向かって「これはオチャワンというオサ
報告する。
ラだよ」と言う等),構音障碍,難聴(ささや
【目的】最近目立ってきた幼児のことばの乱れ
き声では聞こえない),精神発達遅滞(難聴は
の検出と,保護者に気付かれずにいる比較的軽
無いが言語理解が全般に悪い),特異的言語発
い難聴の検出,並びに言語発達障害の原因的分
達遅滞ないし運動性発語発達遅滞(言語理解は
類
良いのに話せない)などが鑑別できた。
【対象】ことばの遅れや構音障碍を主訴にして
訪れた 3~5 歳児
【考察】如何なるタイプの言語発達障碍であれ,
その原因を知ることは対策を適切に講じる上で
【方法】猫,飯茶碗,鳩,時計,西瓜,金魚の
重要である。この検査によって保護者が気付い
6 個の絵よりなる絵シートを子どもに示し,こ
ていない比較的軽い難聴が鑑別できること,最
れらについての自発語,聴覚的理解,ささやき
近気になる家庭ないし親子の貧困な言語生活の
声による聞き取り,絵についての質問,の順に
実態,などがチェックでき,かつ大まかではあ
検査を進める。自発語は絵の名を言わせる検査
るが原因を異にする言語発達障碍の鑑別ができ
であり,子どもの発語は構音障碍も含めて在り
ることや,それに基づいて保護者に証拠を示し
のままを記述し,これに親が付言する場合はそ
てその場で対策上重要なアドバイスができるこ
れも記録する。次に聴覚的理解では,絵の名を
との意義は大きい。
言ってそれを指せるか,さらに口を隠してささ
【まとめ】この検査法は簡単ではあるものの,
やき声で同じ検査をして正答できるかを調べ
ことばの遅れや構音障碍の実態及びその訴えの
る。最後に各絵について質問,例えば「時間を
背景にある問題を鑑別できる点で臨床的に有意
見るのはどれか」と尋ねて時計を指せるかを
義と言える。
チェックする。
― 75 ―
( 131 )
小児耳 30(2): 132 , 2009
36
イ列音で異常構音を呈した機能性構音障害の一例
清水雅子1),堀部智子1),堀部晴司1),内藤健晴1),間宮淑子2)
1)藤田保健衛生大学医学部耳鼻咽喉科学教室,2)蒲郡市民病院耳鼻咽喉科
構音障害とは,正常とは異なった構音が獲得
近医耳鼻咽喉科を受診。その際,異常構音を来
されて習慣化された状態を示し,原因疾患別に
たす器質的疾患がみられなかったため,イ列音
器質性構音障害,機能性構音障害,運動障害性
のみに異常構音を認める機能性構音障害と診断
構音障害の 3 つに大別される。そのうち機能性
された。同時期より構音訓練を開始したが異常
構音障害は,明らかな器質的疾患や精神遅滞を
構音は改善されず,また遠方のため構音訓練の
認めない状態であり,耳鼻咽喉科医が日常外来
継続が困難となり,5 歳 9 カ月時に構音訓練可
診療で遭遇することは稀である。今回我々は,
能な当院関連病院耳鼻咽喉科を紹介受診となっ
イ列音で異常構音を呈した機能性構音障害の一
た。以後,2 カ月間当院関連病院耳鼻咽喉科へ
例を経験したので報告する。
の通院と言語聴覚士による構音訓練を受けてい
症例は 6 歳 1 カ月の男児, 2162 g で出生,
その後の身体発育面での異常はなかった。2 歳
たが,イ列音のみの異常構音が改善されず当科
紹介受診となった。
8 カ月頃より兄弟と比較して全体的に言語発達
当科初診時に鼻咽頭の器質的疾患の有無,構
が遅く, 3 歳児検診で言語発達遅延を指摘さ
音時の鼻咽腔の閉鎖状況を鼻咽腔ファイバーで
れ,複数の医療機関を受診した。
確認したが,やはりイ列音のみで軟口蓋の挙上
3 歳 1 カ月時の言語発達検査上, 8 カ月程度
と鼻咽腔の閉鎖がみられず,他に器質的異常も
の言語発達遅延があったが,聴力に異常がなく,
認めなかった。当院および当院関連病院の言語
1 年間経過観察のみされていた。 4 歳 1 カ月時
聴覚士による構音訓練を 4 カ月間施行した。 6
に再度行った言語発達検査では,言語発達遅延
歳 5 カ月時の再評価では,言語聴覚士による聴
は改善されたが,半年間の経過観察後も言葉が
覚判定は良好で,鼻咽腔ファイバーでも構音時
不明瞭なため,4 歳 7 カ月時に構音訓練が可能
に軟口蓋が挙上し鼻咽腔は閉鎖していた。
な医療機関を受診した。言語聴覚士の構音評価
にて,イ列音のみの異常構音を指摘されたため
( 132 )
現在,当院関連病院にて経過観察中だが,構
音障害はなく経過良好である。
― 76 ―
小児耳 30(2): 133 , 2009
37
吃音児の早期対応への現状と課題
長嶋比奈美1),2),宇高二良1),由良いづみ2),島田亜紀2),武田憲昭2)
1)宇高耳鼻咽喉科医院,2)徳島大学医学部耳鼻咽喉科
発吃年齢は, 2 歳代 22 名( 39 ), 3 歳代 24
【はじめに】幼児期の吃音は発吃からできるだ
け早期に対応するのが望ましいと考えられてい
名 ( 42  ), 4 歳 代 6 名 ( 10  ), 5 歳 代 1 名
る。当院では,言語聴覚療法の一環として,従
(2),6 歳代 1 名(2),7 歳代以上 3 名( 5
来より吃音児の治療に当たってきたが,早期に
)であった。
吃音に気づかれているにもかかわらず,十分な
発吃から初診までの期間は,6 カ月未満18名
対応がなされていない症例が少なくなかった。
( 32 ), 6 カ月から 1 年未満 9 名( 16 ), 1
その反省から種々の機会をとらえて,吃音の概
年から 2 年未満 12 名( 21 ), 2 年から 3 年未
念や対応について広報活動を行うとともに,地
満 4 名(7),3 年から4 年未満 6 名(10),
域の医療・保健・福祉・教育機関と連携を図り
4 年から 5 年未満 1 名( 2 ), 5 年から 6 年未
ながら,幼児期前半から積極的な言語聴覚療法
満 2 名(3),7 年以上 5 名(9)であった。
を展開している。今回は, 2008 年度の吃音児
紹介元は,自己受診 18名( 32),他医療機
について統計的に分析するとともに,早期対応
関 11 名( 19 ),保健機関 9 名( 16 ),福祉
への現状と課題について検討したので報告する。
機関 7 名( 12 ),教育機関 7 名( 12 ),当
【対象および方法】対象は,2008年 4 月~2009
院医師 5 名(9)であった。
年 2 月に,当院で言語聴覚療法を実施した吃音
【考察】発吃から初診までの期間は, 6 カ月未
児の内,3 カ月以上の指導期間がある18歳未満
満の者が 3 割,1 年未満の者を含めると約 5 割
の子ども 57 名である。吃音以外の主訴で来院
と,早期対応例が多くなっていた。一方,5 年
し,指導期間中に発症した者は除外した。方法
以上経過して来院する者も少なくはなかった。
としては,初診時年齢,発吃年齢,発吃から初
また,他機関の専門職(医師,保健師,保育
診までの期間,紹介元などについて分析した。
士,教員など)からの紹介受診が約 6 割を占め
【結果】初診時年齢は, 2 歳代 5 名( 9 ), 3
ていた。広報活動や他機関との積極的な連携の
歳代17名(30),4 歳代13名(23),5 歳代
結果,発吃より早期受診する例が増加してきて
7 名( 12 ), 6 歳代 5 名( 9 ), 7 歳以上 10
おり,今後の小児吃の治療改善につなげてゆき
名(17)であった。
たいと考えている。
― 77 ―
( 133 )
小児耳 30(2): 134 , 2009
38
新しい経口カルバペネム(TBPMPI)の小児上気道感染症に
対する有用性
鈴木賢二1),2),馬場駿吉2),生方公子2),戸塚恭一2),堀
誠治2),砂川慶介2)
1)藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院耳鼻咽喉科,2)ME1211開発研究班
【はじめに】近年小児において耐性肺炎球菌
【成績】 4 mg /kg× 2 回/日投与群の投与終了時
( PISP, PRSP ), 耐 性 イ ン フ ル エ ン ザ 菌
( 中 止 時 ) に お け る 有 効 率 は , 中 耳 炎 98.0 
( BLNAR )の検出比率が増加し,小児上気道
(150例/153例)及び副鼻腔炎79.2(19例/24
感染症が難治化しており, CDTRPI 高用量使
例)であり十分な臨床効果が認められた。ま
用や CVA / AMPC の使用が推奨されている。
た,反復例又は前治療無効例における投与終了
今回新しく開発されてきた経口カルバペネムで
時(中止時)の有効率は 91.1( 41 例/ 45 例)
ある TBPMPI の有用性につき検討した。
であった。一方,原因菌は肺炎球菌,インフル
【対象と方法】小児の中耳炎および副鼻腔炎を
エンザ菌を中心に検出され,細菌学的効果は
対象とした小児臨床第相試験は,成人におけ
99.2 ( 132株/133株)の消失率であった。ま
る臨床第相試験の成績を基にして実施した。
た小児中耳炎を対象とした二重盲検比較試験で
小児用法用量は,成人の推奨用法用量を基に
は,投与終了時(中止時)の有効率において,
PKPD 解析を応用して得られた 1 回 4 mg/kg
TBPMPI の CDTRPI 高用量に対する非劣性
の 1 日 2 回投与,及び高用量の 1 回 6 mg / kg
が検証された。また,自他覚症状に関する
の 1 日 2 回投与を設定した。投与終了時(中
TBPM PI 投与群の副作用発現率は, CDTR 
止時)の有効率はどちらの投与群でも 100で
PI 高用量投与群に比較して同程度であった。
あった。さらにこの成績を踏まえ,中耳炎及び
【まとめ】小児急性中耳炎診療ガイドライン
副鼻腔炎を対象とした小児臨床第相試験(一
2006 年版では投与開始時の臨床症状をスコア
般臨床試験)では, 1 回 4 mg / kg の 1 日 2 回
化し,重症度別での診療方針を定めており,重
投与を推奨用法用量とし, 1 回 6 mg / kg の 1
症例では経口抗菌薬の高用量投与による治療を
日 2 回投与は反復例又は前治療無効例において
推奨している。小児臨床第相試験に組み込ま
症状・程度に応じて選択可能として有効性,安
れた中耳炎症例では,軽症例はなく,中等症例
全性を検討した。さらに小児中耳炎を対象とし
が約 4 割,重症例が約 6 割であった。重症例
た二重盲検比較試験では,小児急性中耳炎診療
に対する臨床効果は,どちらの投与群でもほぼ
ガイドラインで標準治療が無効であった中等症
100であった。今回,これまでの臨床試験で
および重症例に推奨されている CDTRPI 高用
得られた中耳炎および副鼻腔炎に対する有効
量投与を対照に臨床推奨用法用量である,1 回
性,ならびに比較試験における有効性,安全性
4 mg/kg の 1 日 2 回,7 日間投与における有効
につき詳細を報告する。
性を検証した。
( 134 )
― 78 ―
小児耳 30(2): 135 , 2009
39
小児頸部膿瘍の 1 例
水田匡信,庄司和彦
天理よろづ相談所病院耳鼻咽喉科
小児の頸部膿瘍の多くは口腔,咽頭の局在性
部充実性であり頸部化膿性リンパ節炎疑いとし
感染がリンパ行性に波及したものであり,近年
て抗生剤を投与した。第 7 病日には解熱し血液
は抗生剤の早期使用によりその頻度は減少して
データ上炎症反応の改善を認めたが,第 9 病日
いる。しかしながら,その臨床症状は多彩で理
には再度 38 度台の発熱をきたし,頸部腫瘤の
学的所見も乏しいため診断は容易ではない。診
発赤を認めた。このため第10病日頸部造影 CT
断の遅れにより呼吸障害や縦隔炎をきたし致死
を施行したところ咽後部から副咽頭間隙,後頸
的になるおそれがあるため,早期診断が必要で
部にかけて広汎な膿瘍形成を認めたため,当科
ある。今回我々は咽後部から副咽頭間隙,後頸
コンサルトとなり頸部切開排膿を行った。その
部にまで膿瘍を形成した症例を経験したので報
後炎症反応は速やかに低下し,膿瘍も CT 上消
告する。症例は 1 歳 6 カ月の男児。 38 度の発
失し退院となった。本症例では幸いにして呼吸
熱をきたし近医を受診した。第 3 病日からは発
障害や縦隔炎をきたさなかったが,小児重症上
熱に加え右頸部腫瘤が出現し当院小児科紹介と
気道感染症において頸部膿瘍は早期に鑑別すべ
なった。初診時は4.5× 3 cm 大の弾性硬の腫瘤
き疾患で,その診断には造影 CT が有用である
を右頸部に認めた。超音波検査上頸部腫瘤は内
と考えられた。
― 79 ―
( 135 )
小児耳 30(2): 136 , 2009
40
最近経験した小児深頸部膿瘍症例の検討
西田幸平,小林正佳,竹尾
哲,北野雅子,坂井田寛,竹内万彦
三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科
【はじめに】深頸部膿瘍は耳鼻咽喉科領域の重
1 例は Eikenella corrodens, 1 例では嫌性菌感染
篤な疾患の一つであるが,小児には比較的稀と
が疑われた。治療はドレナージ術および連日の
されている。今回,当科でドレナージ術を要し
創洗浄,セフェム系抗菌薬またはカルバペネム
た症例について検討したので報告する。
系抗菌薬に CLDM の併用を行った。入院期間
【対象と方法】2005年 1 月から2008年12月まで
は 8 日~38日まで,平均18.4日であった。気道
に当科に入院加療した 15 歳未満の深頸部膿瘍
確保を要した例は 1 例であった。全例で膿瘍は
症例を対象とした。性別,年齢,主症状,入院
消失し後遺症はなかった。
前抗菌薬投与の有無,発症から入院までの期
気道確保を要した例は, 14 歳男性の咽後膿
間,膿瘍の存在部位,原疾患,細菌検査結果,
瘍症例であった。当院受診は発症 4 日目であっ
入院期間,気道確保処置の有無について検討し
たがすでに咽後膿瘍の縦隔進展を認めた。気道
た。
狭窄を認めたため頸部外切開・縦隔ドレナージ
【結果】性別は男児 4 例,女児 3 例で,年齢は
術に併せて気管切開を行った。
5 カ月~ 14 歳までで平均 7.3 歳であった。主症
【考察】今回の 7 症例の治療において,セフェ
状は発熱,咽頭痛,頸部腫脹,呼吸困難であっ
ム系抗菌薬あるいはカルバペネム系抗菌薬に嫌
た。当院入院前の抗菌薬投与については全例で
気性菌の混合感染を考えて CLDM の併用を行
内服あるいは静注の抗菌薬投与が行われてい
った。細菌培養検査結果はレンサ球菌属が 7 例
た。発症から当院入院までの期間は 4 日から
中 5 例で検出された。薬剤感受性試験ではこれ
11 日で平均 6.7 日であった。原因疾患は急性化
らのレンサ球菌は一部のセフェム系抗菌薬を除
膿性耳下腺炎が 3 例で,咽後膿瘍が 2 例,下
いて耐性化はみられなかった。抗菌薬の選択
咽頭梨状窩瘻が 1 例,扁桃周囲膿瘍が 1 例で
は,臨床所見,薬剤感受性試験結果をもとに適
あった。細菌培養検査結果では 7 例中 5 例で
宜変更することが重要であると考えられた。
菌株の同定をなしえた。5 例がレンサ球菌属で,
( 136 )
― 80 ―
小児耳 30(2): 137 , 2009
41
ヒトヒフバエによる皮膚ハエ幼虫症の小児例
留守卓也1),小田切啓之2),賀来秀文2),菅沼明彦3)
1)がん・感染症センター都立駒込病院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科,
2)がん・感染症センター都立駒込病院小児科,3)がん・感染症センター都立駒込病院感染症科
【はじめに】ヒトヒフバエ( Dermatobia homi-
8 月29日に全身麻酔下に切除術を施行。切除
nis )は中南米の低地森林地帯に生息し,ヒト
した腫瘤内から体長 10 mm ほどの虫体を摘出
や動物に真性寄生し皮膚ハエ幼虫症(myiasis)
した。某大学の寄生虫学教室に確認を依頼した
を発症する。これまでに国内では 30 数例の報
ところ,ヒトヒフバエ 2 齢幼虫による myiasis
告があるが,小児の報告は数例に過ぎない。今
であることが判明した。患児の術後状態は良好
回我々は小児の myiasis を経験したので報告す
で 9 月 3 日に退院となった。その後の経過も
る。
良好で,審美的にも改善傾向にある。
【 症 例 提 示 】 症 例 は 3 歳 女児 。 2008 年 8 月 15
【考察】ヒトヒフバエの myiasis は海外旅行の
日,帰省先のボリビアにて右頸部の虫刺痕に気
活発化により近年日本でも増加傾向にある。中
付く。疼痛があったが特に処置は行わず帰国。
南米ではよく知られている疾患であり,呼吸孔
改善傾向みられないため,8 月20日に近医小児
である穿孔部位に軟膏などを大量に塗布する
科を受診。創部内に 1 mm ほどの白色線虫らし
と,呼吸が出来なくなった幼虫が自然に排出さ
きものを認め,駆虫薬と外用剤を処方されたも
れるという報告がある。しかし日本での報告の
のの,創部に改善がみられないため,8 月27日
多くは外科切除により治療されており,これは
当院小児科に紹介となった。
知識不足による過分な治療である可能性は否め
【経過】初診時の全身状態は良好であった。右
ない。われわれも小児に対して外科切除に至っ
頸部に約 1 mm の中心穿孔を伴う径 13 mm の
た点で大いに反省が残る。他国からの輸入感染
発赤・腫脹を確認。圧迫すると穿孔部から透明
症は一般臨床でも常に念頭に置かなければいけ
な滲出液と液内で活発に動く白色鞭毛様の物体
ない時代であり,今後も多種多様な感染症が輸
を認めた。ボリビアでの類症について家族や親
入されてくると思われる。南米からの渡航者で
族に尋ねたが,特に確認されなかった。当院感
粉瘤様の腫瘤を認めた場合には,同疾患を念頭
染症科に相談したところ,切除を勧められたた
に置いて診療するべきだと思われた。
め当科に紹介となった。
― 81 ―
( 137 )
小児耳 30(2): 138 , 2009
42
ムコ多糖症38例の呼吸器病態および治療効果の検討
守本倫子1),宮嵜
泰地秀信1)
治2),田中藤樹3),本村朋子1),小須賀基通3),奥山虎之3),
1)国立成育医療センター耳鼻咽喉科,2)国立成育医療センター放射線科,
3)国立成育医療センター遺伝診療科
【はじめに】ムコ多糖症はムコ多糖分解酵素欠
損により,ムコ多糖物質が気道を含めた全身組
り,型の 2 例,型の 4 例は特に治療は行
われていなかった。
上気道閉塞の評価3 歳から 5 歳の間にアデ
織に蓄積するライソゾーム病である。これによ
り重篤な気道狭窄,閉塞症状をきたし,呼吸不
ノイド切除(+口蓋扁桃摘出術)を行った例は
全による死につながる症例は少なくない。しか
17 例,酵素補充療法開始していたにも関わら
し,近年一部の型では欠損している酵素を補充
ず,アデノイド肥大などにより上気道閉塞症状
することにより代謝を活性化し,肝脾腫や関節
の増悪が認められた例は 3 例であった。
拘縮などに対して良好な成績を挙げるようにな
喉頭所見の評価酵素補充療法を行っている
った。そこで,当院にて経過観察を行っている
27 例中,粘膜肥厚などの所見が改善 14 例,増
ムコ多糖症 38 例の呼吸器病態と治療法および
悪 3 例,不変 3 例,未検査 1 例( 2009 年 2 月
骨髄移植,酵素補充療法の治療成績について検
現在)であった。骨髄移植例(生存例)3 例で
討を行った。
は,改善 2 例,増悪 1 例が認められた。無治
【対象】ムコ多糖症( 1 歳 10 カ月から 32 歳) 38
療であった型の 2 例は喉頭所見が改善 1
例中,ハーラー症候群( MPS  H 型) 3 例,
例,不変 1 例であり,型の 4 例は増悪 1 例
ハーラー・シャイエ症候群(MPSH/S 型)1
を除くと,もともと喉頭所見に異常がなく変化
例,ハンター症候群( MPS 型) 26 例,サン
も見られなかった。
フィリポ症候群(MPS型)2 例,モルキオ症
気管狭窄の評価胸部単純 X 線正面像の T1
候群(MPS型)4 例,マルトーラミー症候群
レベルの高さでの気管径を比較した。酵素補充
(MPS型)2 例,であった。
療法を行っていた 27 例中,気管径が 1 年間に
【方法】上気道の評価については,アデノイド
不変,または拡大した例は 12 例,狭窄した例
切除術 の既往,経皮酸素飽和 度による Sleep
が 9 例 ,未検査 6 例であ った。骨髄移 植例 3
study の評価を行った。喉頭所見については,
例中では,不変・拡大が 2 例,狭窄 1 例であ
経鼻喉頭内視鏡により,酵素補充療法を開始す
った。型は 2 例とも気管径の拡大を認めた
る直前および 1 年後の喉頭蓋,披裂部,仮声帯
が,型は胸郭変形が強く,単純 X 剪では評
部の粘膜肥厚の有無を 3 段階に評価した。ま
価が困難であった。
た,同時期の気管径も単純 X 線上で測定し,
【考察】酵素補充療法,骨髄移植などは喉頭気
比較した。治療を行っていない症例,骨髄移植
管の粘膜肥厚には進行を抑えることは期待でき
後の症例についても当院を受診してからの 1 年
るが,アデノイド肥大などに伴う上気道閉塞な
間で喉頭,気管の評価を行った。
どの症状を緩和することは困難と思われた。治
【結果】 38 例中骨髄移植 5 例(うち 2 例は移植
後死亡),酵素補充療法は 27 例に施行してお
( 138 )
療効果については今後さらに長期的な評価が必
要であろう。
― 82 ―
小児耳 30(2): 139 , 2009
43
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病に対する耳鼻咽喉科治療
松谷幸子
仙台赤十字病院耳鼻咽喉科
【はじめに】ヘノッホ・シェーンライン紫斑病
た。当科的病巣があった場合は鼻炎,副鼻腔
(以下 HSP )は IgA 免疫複合体沈着による小
炎,中耳炎に対する局所治療と投薬を行った。
血管の血管炎症候群である。 HSP の病因は不
慢性副鼻腔炎は可及的にレントゲン所見が改善
明な点が多いが,約半数で 1 ~ 2 週間前の急性
するまで治療を継続した。 HSPN を発症した
上気道感染症の既往を認める。また, 10 ~ 60
のは 53 児中 13 児であった。 HSPN を発症した
に出現する紫斑病性腎炎(以下 HSPN )の
10 児および重症で前述の治療でも症状が改善
腎病理所見は IgA 腎症と同様で, IgA 免疫複
しない症例,扁桃炎罹患時に再燃をくりかえし
合体の糸球体メサンギウム領域への沈着が認め
た症例の計 21 児に扁摘を施行し(うち 14 児で
られる。この為,当院では HSP に対して病巣
はアデノイド切除も行った),尿所見の改善や
感染の関与を考え,病巣に対する治療を行う事
症状の消失を得ることができた。
により良好な成績を得ている。病巣としては齲
【考察】 HSP における病巣は副鼻腔炎・中耳
歯,根尖性歯周炎などの歯科領域と副鼻腔炎・
炎・扁桃炎や齲歯,根尖性歯周炎などの炎症が
中耳炎・扁桃炎の耳鼻咽喉科領域とが主なもの
各々単独というより複合的に関与していると考
と考えられる。そこで HSP に対する当科領域
えられ,良好な経過を得るためには病巣全ての
の関与について検討したので報告する。
コントロールが必要と思われた。当科領域では
【対象】 1999 年から 2008 年の間に 66 児の HSP
慢性副鼻腔炎が見過ごされていたり,症状がな
症例が当院小児科を受診した。このうち当科を
くなり治療が中断してしまっていた例が多かっ
受診し,経過を追えた 53児(男29児,女24児)
た。また,保存治療をおこなっても長期に亘り
の HSP 症例につき検討した。HSP 発症時の年
運動制限やステロイド投与をおこなわざるえな
齢は 3~14才である。
い重症例や再燃をくりかえす症例では,扁桃摘
【結果】 53児中40児(75)で齲歯,根尖性歯
出 術 も 考 慮 す べ き と 考 え ら れ た 。 HSPN は
周炎などの歯科疾患があり, 34 児( 64 )で
HSP の予後を考える上で,もっとも重要な合
鼻炎,慢性副鼻腔炎を認め,7 児で中耳炎を認
併症であるが,腎炎を発症した 10 例でアデノ
めた。治療は原則として入院の上,安静と抗生
イド切除を含む扁桃摘出術を行い,良好な結果
物質およびステロイドの投与を行い,症例によ
を得ることができた。
ってはパルス療法も行った。多数の高度な齲
【まとめ】腎炎の発症や症状の再燃を避けるた
歯,根尖性歯周炎をおこしている場合は全身麻
めにも HSP における当科領域の病巣の有無を
酔下の乳歯の抜歯などを含む歯科治療を行っ
確認し,治療するのは重要と考えられた。
― 83 ―
( 139 )
小児耳 30(2): 140 , 2009
44
耳下腺原発先天性 Sialolipoma の 1 例
川田和己,上村佐恵子,笹村佳美,市村恵一
自治医科大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】耳下腺に発生する Sialolipoma は
稀な疾患であり,渉猟し得た限りではこれまで
の右口角不全麻痺が出現したが,約 1 カ月程度
で改善。現在,再発所見は認めていない。
で全 13 例,うち先天性 Sialolipoma は 2 例の報
【考察】 Sialolipoma は, 2001 年に Nagao らに
告を認めるのみであった。今回我々は,耳下腺
よって,唾液腺良性脂肪腫の新しい病理組織学
に発生した先天性 Sialolipoma の 1 例を経験し
的カテゴリーとして提案された疾患である。境
たので,若干の文献的考察を加えて報告する。
界明瞭な被膜に覆われ,内部は腺組織と脂肪組
【症例】 1 歳 6 カ月の女児。出生時より右耳下
織からなる腫瘍で,通常の lipoma と異なり正
部腫瘤を認め,某院耳鼻咽喉科でフォローアッ
常腺組織が必ず存在することが特徴である。臨
プされた。前記以外に先天異常なし,発達異常
床症状は腫瘤性病変のみで,顔面神経麻痺を伴
なし。生検結果では悪性所見はみられなかった
うものはなく,通常増大速度はゆっくりであ
が,耳下部腫瘤は増大傾向を示し続けた。腫瘤
る。診断は, MRI が有用である。治療は,外
増大に伴い脂肪成分増加を認め,また Gd 造影
科的治療が選択されており,これまでの症例報
効果は乏しく,脂肪抑制を有する MRI 所見か
告では再発は認めていない予後良好な疾患であ
ら sialolipoma が疑われ,手術目的で当科紹介
る。
となった。治療は,顔面神経温存腫瘍全摘出手
【まとめ】今回我々は,過去に報告例の少ない,
術を施行した。顔面神経は腫瘍により上方に圧
耳下腺に発生した先天性 Sialolipoma の 1 例を
排され,腫瘍は主に下主枝と接した状態であっ
経験した。先天性の Sialopioma としては,文
た。正常耳下腺組織は上方にわずかに残存する
献的には 3 例目の報告となる。顔面神経を温存
のみで,浅葉深葉の区別は困難であった。顔面
した腫瘍全摘出術で良好な結果を得た。
神経を温存し,腫瘍を全摘出した。術後,軽度
( 140 )
― 84 ―
小児耳 30(2): 141 , 2009
45
当科における鼻腔血管腫症例
南部多加子1),小河原
昇1),佐久間直子1),佃
守2)
1)神奈川県立こども医療センター耳鼻咽喉科,2)横浜市立大学耳鼻咽喉科頭頸部外科
【はじめに】血管腫は頭頸部をはじめ,様々な
孔を認め,悪性腫瘍が疑われたため,4 カ月時
部位に発生するが,鼻副鼻腔では稀であると言
に全身麻酔下にて生検術を施行した。病理組織
われている。今回,当科を受診した鼻腔血管腫
学 的 検 査 に て Lobular capillary hemangioma
の症例について検討した。
と診断された。鼻出血の頻度は減少し呼吸障害
【対象と方法】1995年 4 月から2009年 2 月まで
も改善傾向を認めたため,自然退縮を待つ方針
に当科を受診した鼻腔血管腫 4 例について臨床
とした。退院後,腫瘍は縮小を認め,術後 12
的に検討し,そのうちの 1 例について臨床経過
年経過しているが,現在は完全に退縮した状態
を報告する。
である。
【結果】症例は男児 3 例,女児 1 例で,初診時
【考察】文献で鼻腔血管腫は稀であり,小児例
年齢は平均 2 歳( 1 カ月~ 7 歳)であった。初
での報告は少ない。血管腫は WHO 分類では
発症状は鼻閉塞による哺乳障害が 2 例,生下時
組 織 学 的 に capillary hemangioma ( 毛 細 血 管
からの右鼻腔入口部の腫瘤が 1 例,頻回の鼻出
腫),cavernous hemangioma(海綿状血管腫)
血が 1 例であった。病変部位は鼻入口部側壁が
とに分けられるが,鼻腔血管腫では capillary
2 例,鼻前庭が 2 例であった。病理組織学的に
hemangioma の頻度が高く, Kiesselbach 部位
は capillary hemangioma ( 毛 細 血 管 腫 ) が 2
に好発するとの報告がある。発生要因には先天
例であり,2 例は不明であった。経過は 3 例が
性素因説,外傷圧迫説,炎症説があるが未だ不
経過観察のみで自然退縮した。1 例は呼吸症状
明である。治療は外科的治療であり,摘出術,
が増悪したため摘出術を施行していたが再発は
凍結療法,塞栓術などがある。頻回の鼻出血や
認められない。
上気道閉塞による呼吸障害を認める場合に外科
【症例】 3 カ月女児。生下時より右鼻前庭を中
的治療の適応となるとされている。今までの報
心に腫瘤を認めた。その後出血を反復するよう
告では,外科的治療となった例が多い。しか
になり,また鼻閉による呼吸障害や哺乳障害を
し,今回の検討では 4 例中 3 例は自然退縮
認めたため,当科初診となった。右鼻前庭に径
し,外科的治療を必要としなかった。
約 1 cm,赤色の腫瘤性病変を認め, MRI では
【まとめ】当科で過去 13年間に当科を受診した
T1 強調画像にて軟部組織と等信号, T2 強調
鼻腔血管腫例を検討した。小児では自然退縮す
画像にて高信号の内部均一の腫瘤であった。以
ることもあり,呼吸障害や鼻出血などの症状が
上により鼻腔血管腫が疑われた。その後,鼻出
軽度であれば,経過観察するという方針でも良
血と呼吸障害が増悪し腫瘍拡大による鼻中隔穿
いと考える。
― 85 ―
( 141 )
小児耳 30(2): 142 , 2009
46
鼻腔内逆性歯の 2 症例
伊藤周史1),寺島万成1),堀部智子1),堀部晴司1),櫻井一生1),内藤健晴1),
大山俊廣2),宮城島正和3)
1)藤田保健衛生大学医学部耳鼻咽喉科学教室,2)医療法人宏潤会大同病院耳鼻咽喉科,
3)宮城島耳鼻咽喉科医院
鼻腔内逆性歯は,歯牙が正常歯列から外れ,
把持し,捻転牽引することで出血もほとんどな
歯冠が正常と逆方向に萌出した疾患である。若
く摘出することができた。摘出標本は,歯根を
年者に多いとされているが,日常診療でこの疾
有する歯牙であった。
患に遭遇することはほとんどなく,潜在的に放
症例 2  9 歳男児。 2 歳時に近医耳鼻科から
置されている症例も少なくない。治療として
右鼻腔底腫瘤精査目的に当科紹介受診。その
は,加齢に伴い症状が出現することがあるた
際,右鼻腔底に肉芽様腫瘤があり生検施行。し
め,発見した場合は無症状であっても摘出する
ばらく当院で経過観察するも増大傾向なく,病
ことが望ましいとされている。今回我々は,鼻
理も炎症性肉芽との結果であったため,以後は
腔内逆性歯が疑われ,全身麻酔下に摘出した 2
近医で経過観察されていた。平成 20 年 6 月 20
症例を経験したため報告する。
日,1 カ月前から咳漱あり当科再診。再診時,
症例 1 5 歳女児。平成 16 年 2 月,感冒のた
明らかな増大傾向はないものの,右鼻腔底の肉
め近医耳鼻咽喉科受診。その際,左鼻腔内に白
芽様腫瘤は残存していた。歯牙欠損はみられな
色異物を指摘された。同院にて白色異物の摘出
かった。 CT 上,右鼻腔底に歯牙と同等の濃度
を試みるも困難なため,同年 2 月 21 日に当院
の腫瘤陰影があり,その周囲に軟部組織陰影を
関連病院耳鼻咽喉科へ紹介受診。初診時,左鼻
認めた。肉芽に覆われた鼻腔内逆性歯を疑い,
腔底に可動性の乏しい白色で硬い歯牙様の腫瘤
同年 12 月 24 日に全身麻酔下で摘出術を施行し
を認めた。歯牙の欠損はなかった。 CT 上,左
た。硬性内視鏡下に鉗子で肉芽様腫瘤を把持
鼻腔底に歯牙と同等の濃度の腫瘤陰影があり,
し,肉芽の下方を切開して摘出した。出血はほ
鼻腔内逆性歯を疑い,全身麻酔下で摘出術を施
とんどなく容易に摘出できた。摘出標本は,歯
行した。術中,歯牙様の腫瘤は鼻腔底に強固に
冠部分が肉芽で覆われた歯牙であった。
固着していたが,硬性内視鏡下に腫瘤を鉗子で
( 142 )
― 86 ―
小児耳 30(2): 143 , 2009
47
鼻腔内異物を疑われた逆生歯の 2 例
川畠雅樹,大堀純一郎,黒野祐一
鹿児島大学大学院聴覚頭頸部疾患学講座
【はじめに】逆生歯は歯牙が鼻腔や上顎洞に萌
指摘された。鼻腔内異物疑いにて,摘出を試み
出する比較的まれな疾患である。本邦では
るも困難であった為,平成 18 年 7 月 10 日,当
1901年に金杉らの報告以来100例以上の報告が
科紹介された。左総鼻道に固い白色塊を認め,
ある。今回,われわれは鼻腔内異物を疑われた
先端は下鼻甲介に刺入していた。単純 X 線
小児の鼻腔内逆生歯 2 例を経験したので,若干
(後前方撮影, WATERS 法)にて,右鼻腔に
歯牙を疑う陰影を認めた。副鼻腔単純 CT に
の文献的考察を加えて報告する。
【症例 1】6 歳,男性
て,左鼻腔底より下鼻甲介に刺入する逆生歯を
鼻閉を主訴に平成 17 年 12 月 6 日,近医耳鼻
認めた。平成 18 年 8 月 25 日,全身麻酔下,鼻
咽喉科を受診。右総鼻道に白色塊を認め,異物
内視鏡下に摘出を行った。鉗子を用いて容易に
を疑われ摘出を試みるも固着しており摘出困難
摘出できた。犬歯状の歯根を伴った歯牙であっ
であった為,同日,当科紹介された。単純 X
た。
線(後前方撮影,WATWERS 法)では,鼻腔
【考察】逆生歯の発生原因には,歯胚の反転,
内の腫瘤の同定は困難であった。診察,処置の
過剰歯胚,外傷による歯胚の移動などが挙げら
協力も得られず,同日,全身麻酔下に摘出術を
れる。今回の 2 例とも,萌出歯は過剰歯であっ
行った。白色塊は鼻腔底より肉芽組織を伴って
た。小児の場合,鼻腔内逆生歯は,鼻腔内異物
突出しており,鉗子を用いて容易に摘出でき
を疑われる可能性があり,念頭に入れるべき疾
た。摘出した白色塊は歯根を伴った歯牙であっ
患であると考えられた。
【まとめ】鼻腔内異物を疑われた,小児の鼻腔
た。
【症例 2】8 歳,男性
内逆生歯 2 例を報告した。2 例とも,鼻内視鏡
急性中耳炎にて平成 18 年 7 月 7 日,近医耳
下に容易に摘出でき,経過は良好であった。
鼻咽喉科を受診した際に,左鼻腔内の白色塊を
― 87 ―
( 143 )
小児耳 30(2): 144 , 2009
48
ボタン型リチウム電池による鼻腔異物の 1 例
山口宗太,大木幹文,大久保はるか,石井祥子,櫻井秀一郎,大越俊夫
東邦大学医学部耳鼻咽喉科学第二講座
ボタン型電池は電気機器の小型化に伴い現代
除去試みるも体動激しく除去ができず。同日午
において広く使用されている。しかし小型であ
後 3 時 30 分全身麻酔下で左鼻腔異物除去を行
るが故に耳鼻咽喉科領域において外耳道,鼻
った。直径約 10 ミリ大のボタン電池が除去さ
腔,食道などの異物になる可能性がある。ボタ
れた。除去後の鼻腔内はボタン電池と接触して
ン型電池が異物になった場合,早期に組織障害
いた左下鼻甲介と鼻中隔に痂皮が付着してい
を起こすことは多数報告されているが,鼻腔異
た。右鼻腔内は正常であった。除去後蒸留水に
物の報告はまれである。
て洗浄を行い手術終了した。
術後ネブライザー,蒸留水での鼻腔内洗浄,
今回我々は,ボタン型リチウム電池による鼻
抗生剤の点滴を行った。術後出血は認めず疼痛
腔異物の症例を経験したので報告する。
症例 4 歳 4 カ月女児。平成 20 年 8 月 30 日午
も認めないため 9 月 1 日退院とした。
前 9 時 30 分 頃 泣 い て い る の を 両 親 が 気 づ い
退院後,外来にて経過観察を行った。左鼻腔
た。お祭りで買ったおもちゃのボタン電池 1 個
内の痂皮は徐々に減少。術後 2 カ月目には鼻腔
が床に落ちており,もう 1 個が鼻腔内に挿入さ
内痂皮は認めず鼻中隔穿孔も認めなかった。術
れたものと考えられ近医耳鼻咽喉科を受診し
後 3 カ月目も異常所見を認めなかった。
今回経験したボタン型電池による鼻腔異物に
た。左鼻腔内にボタン電池と思われる異物認め
るも体動激しく,全身麻酔での除去必要とのこ
ついて文献的考察を加えて検討する。
とで当科紹介受診となった。当科外来で改めて
( 144 )
― 88 ―
小児耳 30(2): 145 , 2009
49
小児ガマ腫 7 症例の臨床的検討
計良
宗,朝倉光司,本間
朝
市立室蘭総合病院耳鼻咽喉科
ガマ腫は口腔底前方にみられる嚢胞で,舌下
のうち 1 例は両側性),舌下・顎下型が 1 例で
腺の開口部が炎症などにより閉塞することによ
あった。この 7 症例に対し,再発した際の追加
って生じた貯留嚢胞である。生じる原因として
治療も別に集計し,のべ 9 例として検討した。
は,炎症性の他,外傷性,医原性のものもある
嚢胞摘出術が 5 例,嚢胞開窓術が 1 例,舌下
といわれている。また,解剖学的に存在する部
腺摘出術が 3 例であった。嚢胞摘出術を施行し
位から,口腔底に限局する舌下型,顎舌骨筋を
た 5 例中, 2 例が再発した。 2 例とも同一症例
超え顎下部に進展する顎下型,両方にまたがる
が 2 度再発し,いずれも嚢胞摘出術を行ったも
舌下・顎下型に分類される。その治療法には嚢
のであった。嚢胞開窓術を施行した 1 例は再発
胞開窓術,嚢胞摘出術,舌下腺摘出術があり,
を認めたが自然消失した。舌下腺摘出術を施行
最近では OK432の注入療法も行われるように
した 3 例中,1 例は舌下・顎下型,もう 2 例は
なっている。
舌下型であった。いずれの症例についても再発
今回,我々は 2000 年 1 月から 2008 年 12 月ま
を認めていない。
で市立室蘭総合病院を受診した小児ガマ腫患者
ガマ腫の治療法には一定の基準はないが,そ
7 症例について臨床的に検討したので報告す
れぞれ長所,短所があり,それを十分に理解し
る。男女別では,男性 2 名,女性 5 名と女性
たうえで,治療法を選択することが大切である
に多く発生していた。病型は舌下型が 6 例(そ
と考えられた。
― 89 ―
( 145 )
小児耳 30(2): 146 , 2009
50
口腔底に発生した teratoid cyst の 1 例
佐久間直子1),小河原昇1),南部多加子1),佃
守 2)
1)神奈川県立こども医療センター耳鼻咽喉科,2)横浜市立大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【 は じ め に 】 口 腔 底 の 嚢 胞 性 病 変 で teratoid
より teratoid cyst と診断された。術中・術後
cyst は稀と報告されている。今回口腔底に生
に合併症はなく,呼吸状態も良好であった。術
じ た teratoid cyst の 乳 児 1 例 を 経 験 し た の で
後哺乳障害は改善した。現在まで再発は認めら
報告する。
れていない。
【症例】 3 カ月女児。出生時より口腔底の腫脹
【考察】口腔底に発生する dermoid cyst(広義)
に気付かれていた。呼吸障害は認めなかったが
は組織学的に epidermoid cyst, dermoid cyst
哺乳障害があり,当科受診となった。受診時,
(狭義),teratoid cyst に分類される。口腔内の
舌下面正中から口腔底正中にかけて腫瘤性病変
dermoid cyst の 中 で teratoid cyst の 頻 度 は 低
が見られ,この腫瘤によって舌が頭側へ押し上
いとされている。画像検査で嚢胞性疾患を鑑別
げられていた。 MRI では舌下から口腔底部に
することは困難なことが多く,確定診断には病
かけて約 2 cm 大の T1 強調画像にて等信号,
理組織学的検査が必要である。小児特に新生児
T2 強調画像にて高信号の 2 房性の境界明瞭な
における,口腔底の腫瘤性病変は,それにより
嚢胞性腫瘤が認められた。以上により口腔底嚢
舌が圧排されて気道が狭窄し,重篤な呼吸障害
胞と診断した。外来受診時に呼吸障害は認めて
が生じることも多いため早期の治療が必要とな
いなかったが,哺乳障害を認めていたことと,
る。治療は外科的切除であり,再発は少ないと
今後増大すると重篤な呼吸障害を引き起こす可
されている。
能性があることから,生後 4 カ月時に全身麻酔
【まとめ】口腔底に発生した teratoid cyst の乳
下にて嚢胞摘出術を施行した。舌下面を正中で
児 1 例を経験した。術前に診断することは困難
縦に切開し,嚢胞壁に沿って剥離し摘出した。
であった。小児期では,気道が狭窄し,呼吸障
嚢胞は 2 房性であり,白色で表面は平滑であっ
害や哺乳障害が生じることが多く,早期に外科
た。内容物は黄白色粘調の液体とカッテージ
的治療が必要である。
チーズ様の物質であった。病理組織学的検査に
( 146 )
― 90 ―
小児耳 30(2): 147 , 2009
51
呼吸障害を呈した神経線維腫の乳児例
有本友季子1),仲野敦子1),厳
2),吉江うらら1),工藤典代3)
1)千葉県こども病院耳鼻咽喉科,2)千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学教室,
3)千葉県立保健医療大学健康科学部
【はじめに】神経線維腫症は最も多い神経皮膚
【現病歴】平成 20 年 5 月末から睡眠時のいびき
症候群と言われている。神経線維腫が複数あ
が出現した。同年 6 月 23 日より発熱,吸気性
り,他の診断基準を満たす場合,神経線維腫症
喘鳴出現し,翌 24 日に前医を受診した。その
NF1 と NF2 に診断される症例もある。NF1 は,
際,左前口蓋弓,扁桃上極外側の腫大が認めら
von Recklinghausen 病と呼ばれ, 17 番染色体
れた。造影 CT が施行され,左副咽頭間隙に第
に原因遺伝子があり,常染色体優性遺伝を示す。
2 鰓裂胞が疑われる腫瘤あり,とのことで当
NF1 遺伝子にコードされる neuroˆbromin は癌
科 紹 介 と な り , 同 月 25 日 に 当 科 初 診 と な っ
抑制蛋白として機能し,神経堤由来のメラノサ
た。超音波検査では充実性腫瘤の所見を呈して
イトや Schwan 細胞,血管内皮細胞と平滑筋細
おり,翌 26 日に当科にて全身麻酔下に口腔内
胞 な ど の 機 能 発 現 に 関 与 し て い る 。 Neu-
より生検を行った。迅速病理組織診断では,良
roˆbromin の発現が失われるため, NF1 では
性の所見であった。生検後は ICU にて挿管管
皮膚,軟部組織,中枢神経,末梢神経,骨,眼
理とした。最終的に病理組織診断で神経線維腫
球,内臓に多彩な病変を認める。診断基準にあ
の診断となり, NF1 の検索となった。家族歴
るカフェオレ斑,視神経膠腫,freckling, Lisch
がなく,またカフェオレ・スポットや,視神経
結節は乳幼児期から学童期にかけて徐々に出現
膠腫等の特徴的所見は認めなかった。同年 7 月
する。頻度は 3000 から 4000 人に 1 人で,神経
2 日に全身麻酔下,口腔内より腫瘤を全摘出
線維腫症の 9 割を占める。それに対して,NF2
し,術後は経過良好で同月 4 日に抜管となっ
は 4 万人に 1 人と NF1 に比し頻度が低く,発
た。現在は外来にて経過観察中である。
症は青年期で,両側性の聴神経鞘腫が特徴的で
【まとめと考察】呼吸障害を呈した頚部腫瘤の
ある。原因遺伝子は 22 番染色体にあり,皮膚
乳児例で神経線維腫が原因であった症例を経験
病変は軽微である。
し,報告した。小児で神経線維腫がみられた場
呼吸障害を呈した乳児を診察する機会は稀で
合, NF1 の検索が必要だが,上記のように,
はないが,今回は原因として頚部腫瘤があり,
診断基準となっている徴候が徐々に出現してく
精査の結果,神経線維腫と判明した症例を経験
ることや,神経線維腫は良性疾患に分類される
したので報告する。
ものの,出現部位や大きさによっては臨床的に
【症例】初診時 0 歳11カ月男児
悲惨な経過をとる症例も報告されており,慎重
【当科紹介時の主訴】呼吸障害を伴う頚部腫瘤
な経過観察が必要と思われた。
― 91 ―
( 147 )
小児耳 30(2): 148 , 2009
52
直達鏡下に染色し摘出した下咽頭梨状窩瘻の 1 例
成尾一彦1),宮原
裕2),家根旦有1),細井裕司1)
1)奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室,
2)大阪府立急性期・総合医療センター耳鼻咽喉・頭頸部外科
【はじめに】下咽頭梨状窩瘻は繰り返す化膿性
テルを挿入しピオクタニンを注入し瘻管を染色
甲状腺炎や頸部蜂窩織炎の原因となる先天性瘻
した。その後,頸部襟状切開した。左甲状腺を
孔で 1973 年に初めて報告された。根治的には
露出し,染色された瘻管を同定することができ
瘻管摘出が必要である。実際の手術では炎症に
た。瘻管は周囲と軽度癒着みられたが慎重に剥
よる瘢痕で瘻管の同定に難渋することもある。
離した。できるだけ梨状窩粘膜近傍まで瘻管を
術式として,当初は瘻管とともに甲状腺も合併
追い摘出した。左甲状腺は合併切除しなかった。
切除していたが,最近では同定した瘻管のみを
【術後経過】術後経鼻チューブを自己抜去した
摘出したという報告も散見される。このたび,
ため,術翌日より飲水し,術後 2 日目より経口
頸部外切開に先だって,経口的に直達鏡を挿入
摂取とした。術後経過良好で術後 6 日目に退院
し瘻管を染色後容易に瘻管を同定し摘出した症
となった。
【考察】瘻管摘出術に際しては,瘻管の同定が
例を経験したので報告する。
【症例】 7 歳女児。平成 18 年 4 月 5 日より発熱
困難な場合もあり,いくつかの瘻管の同定方法
と前頸部腫脹があり当院小児科に入院となっ
が報告されている。直達鏡下に瘻孔を確認し染
た。頸部膿瘍の疑いで耳鼻咽喉科受診となる。
色する方法以外に,直達鏡下にカテーテルを挿
左甲状腺炎周囲の炎症が疑われた。抗生剤の点
入し留置する方法,手術前に経口的に染色液を
滴で消炎後に,下咽頭造影検査で左梨状窩より
内服する方法などがある。それぞれに一長一短
造影される瘻管を指摘され,下咽頭梨状窩瘻と
があるが,本例のように直達鏡下に瘻孔を確認
診断された。その後一旦消炎したが 6 月に再感
し染色する方法を推奨している報告が多い。ま
染したため,7 月26日に瘻管摘出術を施行した。
た同法では甲状腺を温存できる可能性も高く第
【手術所見】直達鏡を挿入し左梨状窩に開口し
一選択になりうると思われる。
ている瘻孔を同定した。瘻孔開口部よりカテー
( 148 )
― 92 ―
小児耳 30(2): 149 , 2009
53
小児甲状腺癌の検討
下出祐造1),辻
裕之1),宮澤
徹1),鈴鹿有子2)
1)金沢医科大学耳鼻咽喉科,2)金沢医科大学氷見市民病院耳鼻咽喉科
【目的】小児の結節性甲状腺疾患に占める癌の
指 摘 さ れ た。 大 学 病 院 に 紹介 さ れ US,
CT,
頻度は 8~50と報告に幅があるが,成人に比
MRI, PET, FNA での検査の結果,右甲状腺乳
べ頚部リンパ節転移や遠隔転移を高頻度に認め
頭癌,右顎下リンパ節に転移が疑われた。全身
るのが特徴である。小児の甲状腺癌は全甲状腺
麻酔下で甲状腺右葉峡切除術,同側頸部郭清術
分化癌症例 2程度と成人に比し発生頻度は少
が施行された。
ないため,標準的治療が確立されていない。今
左側頚部については画像上リンパ節腫脹所見
回当科で経験した小児甲状腺癌の 2 症例を提示
に乏しく気道狭窄など小児症例における安全性
して,文献的考察を加え治療方針について検討
を考慮し,術後画像検査で厳重に経過観察し再
する。
発を認めた段階で追加手術の上で内照射加療を
【対象】症例 1  12 歳,女児
風邪をきっかけ
行うこととしている。標本の割面は限局充実
に右前頸部が腫脹,近医内科を受診し,大学病
型,乳頭癌で,微小灰沈着あり。一部で甲状腺
院へ紹介となった。術前の US, CT, MRI, Ga
周囲脂肪織にわずかに浸潤性あり。右頸部リン
シ ン チ , FNA で は 濾 胞 性 病 変 が 疑 わ れ て い
パ節の計 6 個に転移が認められた。現在 TSH
た。全身麻酔下甲状腺右葉峡切除術を施行。病
抑制加療中であるが,明らかな再発,転移は認
理の結果は濾胞型乳頭癌であった。標本では腫
められない。
瘍内出血はあるも壊死や石灰化はないが,わず
【考察】検査,診断,手術,術後のフォロー,
かに甲状腺周囲結合織に浸潤は認められた。腫
また本人への説明,家族の理解等,小児の悪性
瘍は白色充実型で,主腫瘍の近傍に 12 mm 大
腫瘍への対応は長期にわたり,課題も多い。小
の腺内転移巣が 8 個認められた。現在も TSH
児甲状腺癌の治療については根治性,かつ安全
抑制加療中で,術後 6 年を経過したが明らかな
性についてバランスをもった治療が必要であ
再発,転移は認めていない。
る。したがって長期にわたる一貫した方針と,
症例 22 例目
12歳,女児
それを支える専門医が確立していることが必要
予防接種の際に診療所を受診,甲状腺腫瘍を
である。
― 93 ―
( 149 )
小児耳 30(2): 150 , 2009
54
副咽頭間隙に病変を認めた咽後膿瘍と川崎病症例について
北村貴裕
大阪労災病院耳鼻咽喉科
【はじめに】咽後膿瘍と川崎病はまったく異な
Low density area 認め,咽後膿瘍疑いにて当科
る疾患(一方は重症感染症,他方は血管炎)に
紹介。咽後膿瘍疑いにて頸部 MRI 施行し,同
も関わらず,両者の診断が困難であることを時
部位は MRI にて多発性のリンパ節腫大の所見
に経験する。病初期に頭頸部 CT において咽後
を認め,腫瘤性および川崎病と考えた。心臓超
膿瘍と診断されるも精査(頸部 MRI など)や
音波検査にて,左冠動脈主幹部の若干の拡張も
また時には試験切開排膿の後,川崎病と診断さ
認めた。川崎病の診断基準 6 項目中の 3 項目
れることもある。今回当院において副咽頭間隙
のみ満たし,川崎病の不全型の診断にてグロブ
に病変を認めた咽後膿瘍および川崎病の症例に
リン大量投与にて副咽頭間隙のリンパ節も縮小
ついて若干の文献的考察を追加し検討したい。
し,軽快にて退院。外来 follow の MRI にて副
【症例 1 】 4 歳男児。主訴は発熱,頸部腫脹,
咽頭間隙および頸部のリンパ節は消失した。
開口障害。H20年 6 月初旬頃から上記認める。
【考察】症例 1 について病変部は頸部造影 CT
近医総合病院小児科にて頸部 CT 施行にて咽頭
にて Low density area,造影 MRI にて T1 low
後壁右側に腫脹を認め,咽後膿瘍疑いにて 6 月
intensity, T2 high intensity であり,膿瘍病変
11 日 当 院 当 科 紹 介 受 診 。 当 科 に て 頸 部 CT,
と考えられる。手術時にも膿汁の流出を確認
MRI 施行し,咽頭後壁および副咽頭間隙に ab-
し,診断は咽後膿瘍で正しかったと言える。症
scess 様病変を認め,咽後膿瘍の診断にて加療
例 2 に つ い て 病 変 部 の CT は Iso-Low density
目的に入院。同日全身麻酔下に膿瘍切開排膿術
area ,だったが, MRI にて多発性のリンパ節
を施行。膿汁の流出を認め,創部を開放創と
腫大の所見を認めた。川崎病の一症状である非
し,挿管状態のまま集中治療室に入室。 follow
化膿性頸部リンパ節腫張と考えられた。川崎病
up の CT にても病巣は縮小しており,第 6 病
の不全型の診断にてグロブリン大量投与し,副
日に抜管し,第 13 病日より経口摂取再開し,
咽頭間隙のリンパ節は消失した。川崎病が疑わ
軽快にて第 19 病日退院。外来経過観察にて再
しいと考えられる症例であった。
発なく経過良好。
【まとめ】副咽頭間隙に炎症性病変を認めた咽
【症例 2 】 5 歳男児。主訴は発熱,頸部リンパ
後膿瘍および川崎病疑い例について画像所見を
節腫脹,頸部痛。頸部リンパ節炎の診断にて抗
中心に検討した。咽後膿瘍が疑われるも画像検
生剤投与するも軽快せず。頸部リンパ節腫脹,
査などにて川崎病と診断されるケースについて
咽頭左側の腫脹を認め,頸部 CT 施行にて Iso 若干の文献的考察を加え,検討した。
( 150 )
― 94 ―
小児耳 30(2): 151 , 2009
55
低年齢児および著明な低身長を呈する症例に対する Powered
instruments を用いたアデノイド切除術
吉崎智貴,片田彰博,上田征吾,上村明寛,林
達哉,原渕保明
旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】小児に対するアデノイド切除術は
【方法】全身麻酔下,仰臥位懸垂頭位で 60度弯
主に睡眠時無呼吸症候群に対して耳鼻咽喉科日
曲のマイクロデブライダーと 70 度の硬性内視
常診療でもっとも多く行われている手術の一つ
鏡を経口的に挿入し,アデノイド切除を行った。
であるが,これまで 2 歳未満の乳幼児に対して
【結果】全例とも術野は非常に狭かったが,内
はあまり一般的ではなかった。しかし,近年の
視鏡により十分に術野を観察しながら安全に手
手術器具の進歩および麻酔技術の進歩により 2
術が可能であった。内視鏡の視野の妨げになる
歳未満の乳児に対しても安全確実に手術が可能
ような出血もなく,また,従来のベックマン切
になってきた。今回我々は睡眠時無呼吸症候群
除刀などを用いる方法では取り残しやすい耳管
を呈する生後7カ月と1歳2カ月の乳児2
隆起付近や鼻中隔後端のアデノイド組織も確実
例,および先天的な成長障害により著明な低身
な切除が可能であった。術後は全例で鼻呼吸障
長 を 呈 す る 軟 骨 無 形 成 症 お よ び Rubinstein-
害の著明な改善を認めた。
Taybi 症 候 群 の 2 例 に 対 し て Powered instru-
【考察】 Powered instrument を用いたアデノイ
ments を用いたアデノイド手術を施行したので
ド手術は,内視鏡により十分術野を観察しなが
報告する。
ら手術ができるため,低年齢児の狭い術野でも
【症例】乳児例 2 例はそれぞれ生後 7 カ月と 1
副損傷の危険性が少なく安全に手術が可能であ
歳 2 カ月であり,著明なアデノイド肥大による
り,また,従来の方法よりもアデノイド組織の
鼻呼吸障害とそれによる哺乳障害のため,睡眠
取り残しが少ない。特に低年齢児においてはア
時無呼吸および体重増加不良を呈していた。ま
デノイド組織の取り残しは再増殖につながるた
た,軟骨無形成症の児は 3 歳であったが身長は
め,本術式により確実にアデノイド組織を切除
72 cm と 1 歳児相当, Rubinstein-Taybi 症候群
することが重要である。また,先天的な成長障
の児は 5 歳であったが身長が84 cm と 2 歳児相
害による著明な低身長を呈する症例においても
当であった。
本術式は非常に有用であると思われた。
― 95 ―
( 151 )
小児耳 30(2): 152 , 2009
56
小児口蓋扁桃摘出術における予防的抗菌薬投与の検討
―術後 7 日間投与と術前 1 回投与の比較―
藤田 岳1),後藤友佳子2),松元雪絵2),越智尚樹2),香山智佳子3),小嶋康隆1),
長谷川信吾1),丹生健一1)
1)神戸大学大学院医学研究科外科系講座耳鼻咽喉科頭頚部外科学分野,2)甲南病院耳鼻咽喉科,
3)六甲アイランド病院耳鼻咽喉科
【はじめに】口蓋扁桃摘出術は耳鼻咽喉科にお
討を行った。
いて小児に対して最も多く行われる手術の一つ
 発熱術後に 37.5 °
【結果】◯
C 以上の発熱をき
である。口蓋扁桃摘出術周術期における抗菌薬
たした人数を両群で比較したところ,術後投与
投与についての報告はいくつかみられるもの
群 42 名,術前投与群 36 名と両群間で有意な差
の,本邦からの報告は少ない。
は認めなかった。また37.5°
C以上発熱した患者
【目的】我々は 2007年 3 月頃まで小児の口蓋扁
の平均発熱期間は術後投与群で1.40日,術前投
桃摘出術では術直後より主にホスホマイシン
与群で1.44日であり,有意差は認めなかった。
(FOM)を一度点滴し,術翌日からはエリスロ
 疼痛鎮痛薬を追加使用した症例は両群とも
◯
マイシン(EM)を 7 日間あるいはアジスロマ
41 名で,追加使用した平均回数は術後投与群
イシン( AZM )を 3 日間投与してきた。 2007
が1.95回,術前投与群が1.71回であり,両群間
年 3 月 以 降 , 執 刀 約 30 分 前 に セ フ ァ ゾ リ ン
に差は認めなかった。
( CEZ)を一度点滴静注するのみで,以降は抗
 摂食状況五分粥摂取可能となるまでの日数
◯
菌薬を投与しない方法へと変更した。そこで今
は,術後投与群では平均1.75日,術前投与群で
回それぞれの投与法における術後経過について
は平均1.60日で両群間に差は認めなかった。
検討した。
 術後出血術後投与群では全身麻酔下に止血
◯
【対象】2004年12月から2009年 1 月までの50カ
術を行った児が 1 名,手術には至らず点滴を追
月間に甲南病院あるいは六甲アイランド病院で
加した児が 1 名であった。術前投与群では術後
口蓋扁桃摘出術を行った 2 才~ 13才の小児140
出血し点滴を追加した児が 1 名,退院後出血し
名を対象とした。
再入院した上で点滴した児が 1 名であった。
術後から抗菌薬投与した群を術後投与群と
 有害事象術後投与群で術後に下痢が 4 名に
◯
し,術前 1 回のみ CEZ を点滴静注投与した群
みられた。術前投与群では下痢はみられなかっ
を術前投与群とした。術後投与群は 72 名(男
た。その他,術後投与群で皮疹が 1 名みられた。
児 54 名,女児 18 名)で,平均年齢は 5.9 歳であ
【考察】口蓋扁桃摘出術周術期の抗菌薬投与は
った。術前投与群は 68 名(男児 40 名,女児 28
術後一週間の投与と術前 1 回投与で術後の発
名)で平均年齢は5.9歳であった。
熱,疼痛などに差は見られず,むしろ術後投与
【方法】当科では口蓋扁桃摘出術の際は入院期
群では下痢などの副作用が問題となると考えら
間を術後 6 日間としており,入院期間中に観察
れる。小児における口蓋扁桃摘出周術期の抗菌
 術後
された術後投与群と術前投与群における◯
薬投与は, CEZ の術前 1 回投与で十分である
 術後の疼痛,◯
 摂食状況,◯
 術後出
の発熱,◯
と考える。
 その他の有害事象の各項目について比較検
血◯
( 152 )
― 96 ―
小児耳 30(2): 153 , 2009
57
小児睡眠時無呼吸症候群の終夜睡眠ポリグラフによる検討
新谷朋子,氷見徹夫
札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】小児睡眠時無呼吸症候群( SAS 
【対象と方法】2008年 2 月から2009年 1 月の間
Sleep Apnea Syndrome )の診断には終夜睡眠
に n PSG を行い電極の装着状況が良かった 20
ポリグラフ検査( n PSG )が必要であるが,
例。男児 9 例,女児 11 例,年齢は 1 歳から 8
多数の電極をつける本検査は簡便に行えないた
歳(平均年齢3.8歳)である。
同じ n PSG 結果を用いて従来の成人の基準
め簡易検査やパルスオキシメーターで診断する
での AHI( 10秒)と ICSD2 での診断基準での
ことが多い。
一方,小児の上気道は狭いわりに虚脱しにく
AHI ( 2 呼吸)のそれぞれ解析をし, AHI ≧ 1
く,呼吸数が多く,機能的残気量が少ないため
を軽症,AHI≧5 を中等症,AHI≧10を重症と
に成人に比べてより軽度の無呼吸で酸素飽和度
分 類 し た 。 ま た 3  ODI ( Oxygen Desatura-
の低下が起こるという特徴があるため従来の成
tion Index)と 14 名で問診による症状を検討し
人の 10 秒以上の無呼吸低呼吸が一時間に 5 回
た。
以上という SAS の基準では,症状の重篤度に
【結果】 AHI ( 10 秒)は平均 11.3 /時, AHI ( 2
比して診断がなされないことが指摘されている。
呼吸)は平均 17.2 /時で ICSD2 の基準による
2005年改定された国際睡眠障害診断分類第 2
AHI が有意に高くなっていた。3ODI では,
版 ( ICSD2  International
of
平均 29.7 回/時であった。 AHI ( 10 秒), AHI
sleep disorder 2nd.)では呼吸関連睡眠障害の
(2 呼吸)と 3ODI,問診のスコアのそれぞれ
Classiˆcation
なかに閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep
の値は有意な相関を示した。
ApneaOSA)が小児ではじめて独立して分類
AHI(10秒)では,軽症11名,中等症 0 名,
され,臨床症状と PSG の所見による診断基準
重症 9 名で AHI ( 2 呼吸)では軽症 7 名,中
が明記された。従来の成人の n PSG の基準で
等症 4 名,重症 9 名であった。
無呼吸低呼吸の長さが 10 秒以上であったもの
【考察】 ICSD2 の基準によると AHI が高くな
が,新たに小児では呼吸 2 回分の長さと定義さ
り従来の成人の基準を用いた簡易検査では正常
れ, 無呼吸低呼吸 指数( AHI  apnea hypop-
範囲となるような軽中等症例の重症度が把握さ
nea index ) 1 以上が SAS となった。今回,従
れていた。しかし,AHI≧1 以上が必ずしも手
来の成人にならっていた基準と比較して重症度
術等の治療適応ではなく,症状スコア,問診な
を検討した。
ども参考にすべきと考えられた。
― 97 ―
( 153 )
小児耳 30(2): 154 , 2009
58
複数 PSG 検査を受けた小児例の検討
中山明峰1),濱島有喜1),勝美さち代1),飯田達夫2),佐原紀子2),安藤
近藤雅幸2)
豪 2) ,
1)名古屋市立大学耳鼻咽喉科,2)豊橋市民病院耳鼻咽喉科
【はじめに】アメリカ小児学会や ICSD を含
め,小児睡眠時無呼吸症候群のガイドラインは
示されているものの,実際 PSG の判読に対し
て,診療に直接役立つ明白な臨床判定基準が示
されていない。このことについて,まだ追跡が
【対象】いびきまたは睡眠時無呼吸を訴えた小
児症例
【方法】1 年間に 2 回以上 PSG 検査を行った小
児症例の検査結果について,検討する。
【結果】過去に検討した多数の症例同様,同一
症例において,複数の PSG を行っても, 1 年
必要である。
【目的】われわれは 2008年日本睡眠学会におい
間に異なる結果が得られた。
て, 295 例の小児 PSG を月別に分析したとこ
【考察】小児検査結果が変動しやすい理由に,
ろ,小児の睡眠検査結果は,季節で変動がある
上気道感染を起こしやすいこと,鼻疾患を合併
可能性を指摘した。しかしながら,この分析は
しやすいことなどが考えられる。
それぞれが別々の症例であり,一症例につき,
【まとめ】成人と同じく「わかりやすい」ガイ
季節別に分析した成績は含まれていない。今
ドラインを作成するには,小児 PSG 結果に変
回,一年間に約 6 カ月の間隔を空けて検査しえ
動があることを,さらに多数の症例,ならびに
た症例について,その結果を比較し,同症例に
詳細な分析を続ける必要がある。
おいて,季節的変化があるかどうか,検討した。
( 154 )
― 98 ―
小児耳 30(2): 155 , 2009
59
小児の睡眠時無呼吸患者に対する簡易アプノモニター
検査 SD101について
今井丈英
日本医科大学多摩永山病院小児科
【はじめに】当科では睡眠時無呼吸( SAS)が
ODI4 1/h 以上は 22回の検査中 1 回だった。
疑われる児の評価に簡易検査を用いている。簡
OSAS 疑い群では平均=4.78/h, SD=7.28/h,
易検査は SpO2 測定と圧センサーを 4 cm 間隔
分布は 0.24 ~ 32.74 / h であった。“ OSAS 疑い
で敷き詰めたシート型簡易終夜睡眠検査機器
群”の 6 例は 2 晩とも ODI4 が 1 / h 未満, 4
SD101を併用し,連続 2 晩の睡眠検査を入院で
例が 1 晩は 1 / h 未満で 1 晩は 1 / h 以上であっ
行っている。 SpO2 測定は「小児は肺の機能的
た。
残気量が少ないので短時間の無呼吸でも SpO2
 AHI 正常群で平均 7.9 / h, SD 2.7 / h ,最低
◯
が低下しやすい」ので有効である,との観点か
値 4.4 / h,最高値 16.3 / h であった。一方 OSAS
ら重視している。SD101は被検児に装着するセ
疑 い 群 は 平 均 11.1 / h, SD 4.8 / h , 最 低 値 3.9 /
ンサー類が無く,睡眠を妨げずに呼吸運動と体
h ,最高値 25.0 / h だった。 2 群の比較では p <
位(仰臥位か側臥位)を測定できるのが長所で
0.01の有意差を認めたが, 2 群の分布は重複部
あり,成人では PSG との高い相関が報告され
分も多かった。
ている。
 ODI4 と AHI の関連 ODI4 を正常群 1 /
◯
【方法】SD101で AHI を測定し,終夜 SpO2 測
h 未満,軽症群 1/h 以上・5/h 未満,中等症以
定検査の評価指標である ODI4と比較した。
上群 5 / h 以上の 3 群に振り分け,各群の AHI
対象)いびきも扁桃肥大もない“正常群”と扁
を検討した。 3 群の AHI 平均値は順に 9.4 / h,
桃肥大と鼾がある“OSAS 疑い群”の 2 群を検
9.5 / h, 14.6 / h であり隣接する 2 群どうしの有
討した。正常群は 2~11歳の小児13例に延べ22
意差はなかったが,1/h 未満の群と 5/h を上回
回,OSAS 疑い群は 2~10歳の22例に延べ40回
る群の比較では有意差を認めた
の検査を行った。
結 語 ) ODI4  に 基 づ く SD101 の 評 価 で は
 ODI4正常群では平均=0.55/h,
【結果】◯
ODI4の重症度と一定の関連を認めた
標準偏差(SD)=0.36/h,最高値1.38/h であり
― 99 ―
( 155 )
小児耳 30(2): 156 , 2009
60
小児睡眠時無呼吸症候群に対する簡易検査
―小児用多点感圧センサーシートの開発と問題点―
工
穣,矢野卓也,宇佐美真一
信州大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】小児の睡眠時無呼吸症候群(SAS)
院の上,就寝時に SD101を敷布団とシーツの
ではいびき,夜尿,寝汗,日中傾眠,成長障
間に敷き,夜間の呼吸状態を記録した。この
害,摂食障害,学習障害,漏斗胸,脳機能異常
際,可能な限り full PSG を装着して SD101の
などをきたす可能性があり,小児全体の約 2
結果と比較検討し,相関性を検討した。なお本
が該当するという報告もあるため,早期診断・
研究ではセンサー数を 2 倍にした小児用 SD 
早期治療が望まれる。しかしその診断は容易で
101(開発中)を用いた。
はなく,正しい評価をされないまま過ごしてい
【 結 果 】 成 人 で の 先 行 研 究 で は , SD 101 と
る小児が存在することも事実である。成人
PSG は良好な相関を得ていたが,これをその
SAS の診断には一泊入院での終夜ポリソムノ
まま小児へ応用したところ,陥没呼吸などが体
グラフィー(PSG)を用いるが,小児の場合は
動と誤認されて無呼吸・低呼吸と判定されず,
その機器の装着は極めて困難であり,また育児
PSG と の 間 に 大 き な 誤 差 を 生 む 結 果 と な っ
上一泊入院が困難である場合もある。我々は昨
た。そこで陥没呼吸を呈する小児の呼吸状態の
株 らによって開発された,敷い
年より, GAC 
特徴などを分析して解析ソフトの改良を重ねた
て眠るだけで無拘束に呼吸状態を評価できる多
ところ, r2= 0.94と高い相関(回帰)が得られ
点感圧センサーシート(スリープレコーダー
た。
SD 101 )を用いて小児 SAS の簡易検査を行
【考察】小児 SAS は,その推定患児数に見合っ
い,その有用性を検討している。今回さらに症
た適当な簡易検査機器(スクリーニング機器)
例を増やして PSG との相関性をみて将来的な
がなく,また小児の full PSG を施行できる施
簡易検査機器としての有用性を検討したので報
設も限られているため,正しい評価をされずに
告する。
潜在化している症例が少なくない。小児用 SD
【目的】小児において SD 101 と full PSG の同
101 は完全無拘束で終夜の呼吸状態を記録で
時計測を行い,その相関性をみて有用性と問題
きる画期的な簡易検査機器であり,本研究で
PSG との高い相関(回帰)が得られたことか
点を検討し,必要に応じて改良を行う。
【対象】信州大学医学部附属病院を受診し,
ら,今後小児 SAS に対しての簡易検査機器と
SAS が疑われた被検児 27 例および普段の睡眠
して利用できる可能性が高いことが示唆された。
中 に 明 ら か な SAS を 認 め な い 健 常 小 児 5 例
【まとめ】多点感圧センサーシート SD 101 は
で,両親あるいは両祖父母よりインフォームド
無拘束に呼吸状態を評価でき,小児睡眠時無呼
コンセントが得られた小児を対象とした。
吸症候群の簡易検査機器として臨床応用が可能
【方法】共同研究施設である城西病院へ一泊入
( 156 )
なレベルに達してきたと思われる。
― 100 ―
小児耳 30(2): 157 , 2009
61
小児睡眠時無呼吸症候群の評価方法
牧瀬高穂,馬越瑞夫,田中紀充,松根彰志,黒野祐一
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科頭頸部外科学
【はじめに】小児期における睡眠障害は成人と
睡眠時無呼吸症候群を評価するためには PSG
異なり,その評価方法を画一化することが困難
の結果を中心に,各年齢層別の症状や理学所見
とされている。その理由として,小児の睡眠障
を加味して評価する必要があった。また治療介
害はその各年齢層における身体の物理的構造や
入後の治療効果判定方法としては PSG が有用
発育発達が異なるため,各年齢層に応じた様々
であるものの,それのみで判断することは困難
な病態を呈することがその要因の一つと考えら
であり,やはり各年齢層ごとの背景因子を十分
れる。今回我々は,当科における小児睡眠時無
加味した上で,治療効果判定をする必要があっ
呼吸の評価方法について検討したので報告する。
た。
【目的】小児における睡眠時無呼吸の評価とそ
【考察】小児睡眠時無呼吸症候群の診断と評価
の後の治療について,その妥当性について明確
には,成人の場合と比較し,患児それぞれの年
にする。また診断後の治療介入によって,どの
齢や発育状態などの多くの要因を考慮する必要
程度症状改善を認めたのかを客観的に評価でき
があった。また,治療介入後の治療効果判定に
る指標について検討する。
ついても同様で, PSG の結果のみならず,患
【対象】睡眠障害を主訴に当科外来受診し,問
児それぞれの病態を十分に考慮した上で評価す
診や診察による理学所見, PSG での評価を施
る必要性が示唆された。画一的な評価法ではな
行し,睡眠時無呼吸症候群と診断され,その後
く,より柔軟でかつ統一性のある評価法の確立
に手術などによる治療介入を行った小児。
が必要であることが示唆された。
【方法】レトロスペクティブに患児の症状や理
【まとめ】当科における小児睡眠時無呼吸症候
学 所 見 , PSG の 各 パ ラ メ ー タ ー な ど を 比 較
群の評価と治療について報告した。小児の場合
し,小児睡眠時無呼吸症候群の診断における重
には成人以上に多くの外的因子が関与している
要な他覚的所見と,その後の治療と,治療後の
ことが示唆され,小児の睡眠障害を診断するう
治療効果判定方法について,統計学的手法を用
えではより患児の成長発育に合わせた評価法の
い検討した。
確立が必要であることが示唆された。
【結果】従来から提唱されているように,小児
― 101 ―
( 157 )
小児耳 30(2): 158 , 2009
62
小児閉塞性睡眠時無呼吸症候群における病因因子および術直後,
1 年後における検討
中田誠一,森永麻美,加藤賢史,中島
務
名古屋大学大学院頭頚部・感覚器外科学講座耳鼻咽喉科
【はじめに】小児の閉塞性睡眠時無呼吸は診断
AHI にだけ有意な相関を認めた( p < 0.05 )。
ま た こ れ ら 全 症 例 に 対 し Adenotonsillectomy
基準など,まだまだ曖昧な部分が多い。
病因としては扁桃・アデノイド肥大がある
を行った。術前後での BMIZscore には変化を
が,よりどちらが病因として強いのかはほとん
認めず,かつ術後口蓋扁桃の残存は認めなかっ
どわかっていない。かつ術前・後
ポリソムノ
た。術後 AHI は 5.3 ± 4.6 / hr, L SPO2 は 89.3
グラフィーにて評価している施設は日本ではほ
± 3.7 と有意( p < 0.001 )に改善を認めた。
とんどない。
また 1 年後の術後評価において術後 AHI は7.8
【目的】小児の閉塞性睡眠時無呼吸に対し病因
±5.5/hr. であった。(この13例の術直後の平均
や手術治療の短期・長期成績を明らかにするた
AHI は 6.4±5.9/hr.)また手術直後と 1 年後の
め。
AHI の変化数とアデノイドの上咽頭における
【対象】術前の病因因子・術直後の睡眠パラメー
占有度の変化度に相関関係を認めた。
ターの検討は,当院で小児睡眠時無呼吸と診断
【考察】 AHI を 1 以上が小児睡眠時無呼吸の診
した(睡眠時無呼吸の症状があり自然睡眠下
断基準とすると術後数値上だけの所見から見る
PSG にて AHI が 1 以上) 35 例(平均年齢 5.1
と依然睡眠時無呼吸は残っていると考えざるを
± 2.2 歳
得ない。しかし母親からみたいびき・無呼吸な
平 均 AHI 27.1 ± 32.7 / hr , 平 均 L 
SPO2 80.3 ± 11.3 )術後 1 年間長期フォロー
どはほとんど止まっており客観的数値と主観的
しえた症例は13例(平均年齢4.7±2.2歳
な評価では若干の乖離がみられ今後の検討課題
平均
AHI 37.6±46.3/hr)
である。
【方法】 BMIZscore 及び年齢,術前・後に口蓋
【まとめ】術前の小児閉塞性睡眠時無呼吸の病
扁桃およびアデノイドをファイバー所見から 4
因としてはアデノイドのほうが扁桃より強い可
段階に分類し,それらと睡眠パラメーターとの
能性があり,術後の長期の評価としてもアデノ
関係を調べた。
イドの再増殖の有無が鍵を握っている可能性が
【結果】口蓋扁桃と睡眠パラメーターに関して
ある。
は有意な相関を認めず,アデノイドの大きさと
( 158 )
― 102 ―
小児耳 30(2): 159 , 2009
63
当科における乳幼児睡眠時無呼吸症候群に対する手術の検討
宋
碩柱1),兵頭政光1),濱田昌史2)
1)高知大学医学部耳鼻咽喉科,2)東海大学医学部耳鼻咽喉科
従来,乳幼児の扁摘の適応は確立されておら
ド 切 除 を 施 行 し た 3 歳 以 下 の SAS 症 例 51 例
ず,回避される傾向にあった。しかし重症の睡
(0 歳 1 例,1 歳 4 例,2 歳14例,3 歳32例)で
眠時無呼吸症候群(SAS)罹患患児は少なくな
ある。SAS の重症度は簡易モニター(LT200)
く,放置されると学習障害や成長障害などを招
及び可能な限り PSG にて評価した。手術は全
くとされる。今回われわれは当科で施行した乳
例全身麻酔下に行い,時間の短縮と切除の確実
幼児の手術症例について術前の SAS 重症度,
性向上を目的に超音波凝固切開装置(カーブド
手術時間及び出血量,術後合併症,及び術後経
シザーズ,ボールコアグレーター)を使用し
過を検討し,その治療効果と安全性につき検証
た。結果,肺炎など重篤な合併症もなく,良好
した。対象はこの 4 年半の間に扁摘,アデノイ
な治療成績が得られた。
― 103 ―
( 159 )
小児耳 30(2): 160 , 2009
64
緊急手術を必要とした小児睡眠時無呼吸症候群症例
飯田達夫1),佐原紀子1),安藤
豪1),中山明峰2),近藤雅幸1)
1)豊橋市民病院耳鼻咽喉科,2)名古屋市立大学耳鼻咽喉科
【はじめに】睡眠時無呼吸症候群が小児の成長
【考察】小児の睡眠時無呼吸症候群の検査は
に多大な影響を与えることは知られている。一
PSG が ゴ ー ル ド ス タ ン ダ ー ド と 言 わ れ て い
方では生命に危険性は薄いと思われ,医療が疎
る。しかしながら成人と異なり,自ら症状を訴
かにされていることも見受ける。今回,重症の
えることができない小児である上,病態が急変
睡眠時無呼吸症候群により,緊急手術を必要と
し,生命に危険性を及ぼす可能性がある。PSG
した小児症例を報告する。
は地域によっては容易に受けることはできな
【症例】 2 歳 5 カ月児。 2007 年 4 月頃よりいび
い。その場合は血中酸素飽和度が重要な判断材
き,無呼吸を訴え,近医受診。睡眠センターに
料となる。小児の場合は重症度を判断し,重症
紹介され, PSG を予定した。ところが PSG 施
である場合は PSG 検査を行えなくても然るべ
行する前の 5 月 18 日に呼吸障害,チアノーゼ
き処置,手術を行うべきだと考えている。小児
が出現し,救急車で来院。検査したところ,血
の睡眠時無呼吸症候群は脳発達に障害を与える
中酸素飽和度が 60 台,さらにレントゲンで心
ことが言われている。一刻も早い疾病の発見に
拡大と循環障害を来たしたことが判明し,緊急
にアデノイド切除術,口蓋扁桃摘出術を施行し
た。
啓蒙を発したい。
【まとめ】緊急手術を必要とした小児睡眠時無
呼吸症候群症例を報告する。本症例は救命し得
本症例について,救命し得たが,症状が落ち
たが,言語発達障害,精神発達障害が残った。
着いたところ,言語発達障害,精神発達障害が
重症小児睡眠時無呼吸症候群症は一刻も早い発
あることが判明された。
見がなされ,然るべき処置が取られたい。
( 160 )
― 104 ―
小児耳 30(2): 161 , 2009
65
当科における小児めまい症例の臨床的検討
澤井八千代1),山中敏彰1),村井孝行1),清水直樹1),岡本英之1),福田多介彦1),
藤田信哉2),細井裕司1)
1)奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室,2)県立奈良病院耳鼻咽喉科
【目的】小児のめまいは,訴えが不明確で臨床
最近の 5 年間においては,メニエール病や良性
検査の施行にも制限があるため,的確な評価を
発作性頭位めまい症などを示唆する内耳性疾患
行うのに難渋することが多い。その頻度は高く
が増加する傾向にあった。随伴症状は,嘔吐や
はないが,近年徐々に増加傾向にある。今回,
嘔気などの自律神経症状を訴える症例が多く認
当科における小児のめまい平衡障害症例につい
められた。また難聴や耳鳴,耳閉感などの蝸牛
て検討したので報告する。
症状を伴う症例も約 30 にみられたが,聴力
【対象と方法】1995年から2008年までの14年間
検査における異常率は 10 程度で,自覚症状
に,奈良県立医科大学附属病院耳鼻咽喉科めま
と乖離する結果であった。温度刺激検査での異
い 平 衡 外 来 を 受 診 し た 15 歳 以 下 の 小 児 60 例
常率は低く約 5 であった。 CT や MRI など
(男児 25例,女児 35例)を対象にして,神経耳
の画像検査で異常を認めたのは 5以下であっ
科学検査や画像検査,シェロング試験,血液検
たにもかかわらず,視運動性眼振検査や追跡眼
査を行い,その特徴について調べた。
球運動検査で異常を示した症例が約 25 に認
【結果】小児めまい症例は 13歳以上の中学生に
められたことから,小児めまい疾患における中
約 50 と最も多く,続いて小学生が約 35 に
枢性病変の検出に機能検査が有用であることが
みられ, 7 歳以上で大半を占めた。一方, 6 歳
示唆された。治療は,薬物治療が主体であった
以下の幼児期は全体の約 15 に認められ,最
が,無治療で寛解する症例も約60に認めた。
低年齢は 4 歳であった。全症例においては,起
【考察】小児のめまい症例においては,確定診
立性調節障害( OD )が最も多く認められた。
断に至ることがしばしば困難であるが,詳細な
10 歳以上の小学生高学年以降の症例では OD
問診を両親や本人からできるだけ聴取し,さら
や心因性めまいなど,全身的な要因によるめま
には確実な手順で検査を可能な限り行って,注
いの割合が高く,一方 9 歳以下では中枢性めま
意深く診断と治療にあたることが重要と思われ
い疾患が多い傾向にあったが,原因が不明であ
る。
るいわゆるめまい症も多く認められた。また,
― 105 ―
( 161 )
小児耳 30(2): 162 , 2009
66
めまいを有する起立性調節障害患者の検討
浅井正嗣,上田直子,渡辺行雄
富山大学大学院耳鼻咽喉科頭頸部外科
【はじめに】小児においても成人と同様に,末
るなどがみられた。6 名とも立位をとることに
梢前庭障害や中枢障害によるめまいがみられ
よりめまいが誘発されるが,運動や疲労で誘発
る。一方,小児あるいは若年者に特徴的なめま
される場合もあった。平衡機能検査では,閉眼
いの原因疾患として,起立性調節障害,小児良
下自発眼振,注視眼振は全例認めず,頭位眼振
性発作性めまい,片頭痛,心因性めまい,てん
は 2 名,頭位変換眼振は 1 名で認めた。視標
かんなどがあげられる。実際の診療において,
追跡検査(水平方向)は 6 名とも smooth であ
これらの小児に特徴的な疾患を鑑別すること
った。温度刺激検査は 5 名で CP なし, 1 名で
は,それほど容易ではないと感じる。よって診
CP がみられた。視運動性眼振検査は 1 名が吐
断の精度を上げるためには,これらの疾患 1 つ
き気で中止,残る 5 名では異常はみられなかっ
1 つについてその輪郭を明らかにしていく必要
た。シェロング検査では 6 名とも陽性で著しい
があると思われる。
脈拍数の増加を認めた。しかし,脈圧狭小化,
【目的】起立性調節障害患者における,めまい
収縮期血圧の有意な低下はみられなかった。重
の性状や平衡機能検査異常所見の有無などにつ
心動揺検査外周面積での異常は 1 名,電気性身
いて検討する。
体動揺検査反応は全員で認められた。
【対象】2002年から2007年までの間に,めまい
【考察】めまいの性状については,一般的なイ
を主訴として当科を受診して平衡機能検査を施
メージである起立時のふらつきや暗黒感だけで
行した小児患者は 40 名であった。このうち,
なく,回転性めまいの方が多いことが意外であ
起立性調節障害の診断基準に合致した 6 名
った。平衡機能検査の異常出現率は,少ないと
を対象とした。
(11才~15才,男 2 名,女 4 名)
考えてよいようである。ただし,シェロングテ
【方法】めまいの性状,頭痛および他の症状,
スト陽性は必発と思われる。頭痛合併頻度が高
く,Migraneous vertigo などとの関連性が高い
平衡機能検査結果を中心に検討した。
【結果】めまいの主な性状は,回転性めまい 3
ことが分かった。
名,ふらつき 1 名,その他 2 名であった。頭
【まとめ】症例数が少ないため,さらに検討し
痛の合併は 5 名にみられ,1 名では激しい頭痛
ていく必要はあるが,起立性調節障害患者のめ
のために入院歴もあった。視性の症状を訴えた
まいについておおよその傾向が確認できたと考
のは 3 名で,眩しくて目が開けられない,目の
える。
前が白くなって見えなくなる,目がちかちかす
( 162 )
― 106 ―
小児耳 30(2): 163 , 2009
67
めまいで小児科を初診した前庭水管拡大症の 2 例
那須野智光,佐野
肇,上条貴裕,猪
健志,大原卓哉,岡本牧人
北里大学医学部耳鼻咽喉科
小児のめまい発作を生じる疾患に前庭水管拡
症例 2 は 2 歳 1 カ月の男児で, 2007 年 10 月
大症がある。当疾患は症状として進行性の感音
に歩行障害・右眼球上転が急に出現し,他院の
難聴も示すため,早期診断および対応をする必
小児科を受診し入院した。症状は翌日にはほぼ
要がある。今回,症状はめまい発作であった
消失したが, ABR の反応閾値は右 60 dB 以
が,精密検査にて前庭水管拡大症と診断し,早
上,左無反応で両側性の難聴が認められた。
期に対応することのできた 2 症例を報告する。
精査加療目的のため,当科に紹介された。
症例 1 は 3 歳 3 カ月の男児 で, 2006 年 4 月
ASSR の反応閾値は右110 dB 以上(4000 Hz
に嘔吐・めまい症状が急に出現し,当大学の小
のみ 100 dB ),左 80 ~ 100 dB で両側に難聴
児科を受診し入院した。症状は軽快傾向を示し
が認められ, CT および MRI にて両側前庭水
翌日には座位保持可,2 日目には歩行可となっ
管拡大が認められた。また,言語発達遅滞も認
たが, ABR の反応閾値は右 10 dB ,左 80
められた。現在は補聴器を両耳装用し,言語療
dB で左に難聴が認められ,側頭骨 CT にて両
法を受けている。
側前庭水管拡大が認められたため,当科に紹介
上記 2 症例はめまいで発症し小児科を初診し
された。それ以前には難聴に気付かれることは
たが, ABR や CT 等の精密検査で前庭水管拡
なく,言語を含め発達に問題はなかった。以後
大症が疑われたため,当科に紹介された例であ
2006 年 6 月, 2007 年 6 月, 10 月にめまい症状
る。当科への紹介が速やかであったため,疾患
が出現しているが,いずれも 1 日以内に症状は
に対する対応を早期に行うことができた。2 症
軽快している。 2007 年 6 月と 10 月のめまい発
例ともめまい発作自体は入院後 1 ~ 2 日目で消
作の際には聴力低下の訴えも認められた。 CT
失しており,精密検査を行わずに退院させた場
および MRI にて両側前庭水管拡大が認められ
合,疾患の存在に気付かずに症状が進行してい
た 。 遺 伝 子 検 査 の 結 果 , 患 児 に SLC26A4 の
った可能性があった。小児のめまい発作に対し
2111ins5 と S532I の変異が認められ,父親に
ては,症状の持続時間の長短にかかわらず精密
S532I のヘテロ接合変異,母親に 2111ins5 の
検査を行い,必要な場合には耳鼻咽喉科と連携
ヘテロ接合変異が認められ,両変異のコンパウ
して治療を行うべきである。
ンドヘテロが原因と推測された。
― 107 ―
( 163 )
小児耳 30(2): 164 , 2009
68
受容型 SLI の合併が語音聴取の低下に影響を及ぼした
片側軽度難聴の一例
吉野真代1),新谷朋子1),川端
文1),川崎聡大2),氷見徹夫1)
1)札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科,2)岡山大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】受容型 SLI( speciˆc language im-
dBHL であった。語音聴力検査では,最高語音
pairment)は知的発達に問題を認めないが,言
明 瞭 度 は 右 耳 50 dB 時 90  , 左 耳 50 dB 時 85
語性意味理解障害を中核症状とする病態であ
,語音閾値は左右とも28 dB で,正常聴力の
る。今回,「会話の聞き取りにくさ」が主訴で
範囲であった。 SISI 検査は左右とも 4000 Hz
あった片側軽度難聴を伴う受容型 SLI 症例を
で 35 ,自記オージオメトリは左右とも型
経験したので報告する。
であった。
【対象および方法】症例は 13歳右利き女児。現
在中学校通常学級 1 年に在籍している。「会話
中枢性聴覚機能検査両耳競合下での聴取課
題や聴覚補完課題で成績の低下を認めた。
が聞き取れない」「授業についていけない」こ
神経心理学的検査RCPM の成績は35/36で
とを主訴として来院となる。頭部 MRI では異
当該年齢群の標準誤差範囲内であった。 ITPA
常を認めなかった。聴覚検査として標準純音聴
では PLA9 歳 8 カ月で,非言語性意味理解課
力検査, SISI 検査,自記オージオメトリ,語
題に比し,言語性意味理解課題の成績低下が顕
音聴力検査,DPOAE, ABR, MLR, ASSR を実
著 で あ っ た 。 PVT R で は VA10 歳 11 カ 月 ,
施した。聴覚情報処理障害( APD )の精査を
SCTAW では聴覚指さし,文字指さしの両
目的として小渕ら( 2003 )の既報にしたがっ
課題ともに 23/32正答で,若年群の平均値と比
て,中枢性聴覚機能検査を実施した。神経心理
し聴覚指さし課題は- 2 SD 以下,文字指さ
学的検査としてレーブン色彩マトリックス検査
し課題は- 3 SD 以下と,著しい成績低下を認
(RCPM), WISC,イリノイ式言語学習能力
めた。 SLTA では呼称で成績低下を認めた。
診断検査(ITPA),標準失語症検査(SLTA),
STA では理解と産生ともに関係節まで通過し
絵画語彙発達検査(PVTR),抽象語理解力検
ていた。
査( SCTAW ),失語症構文検査( STA )を施
行した。
【まとめ】本症例の「会話の聞き取りにくさ」
の要因を,片側軽度難聴の要因と帰結すること
【結果】聴覚検査結果標準純音聴力検査では
は困難であった。聴覚検査,中枢性聴覚機能検
閾値が安定せず,初診時は右耳 45 dB,左耳 64
査及び神経心理学的検査の結果から,難聴だけ
dB,現在は右耳 20 dB ,左耳 43 dB と,左軽度
でなく,受容型 SLI の存在と聴覚情報処理の
難聴を認めた。ABR 閾値は左右とも20 dBHL,
弱さがコミュニケーションレベルの低下を引き
MLR 閾 値 は 右 耳 20 dBHL , 左 耳 60 dBHL,
起こした要因として考えられた。
ASSR で は 右 耳 20 30 dBHL , 左 耳 20 40
( 164 )
― 108 ―
小児耳 30(2): 165 , 2009
69
著しく言語発達が遅延した中等度難聴の 1 症例
奥中美恵子1),任
智美2),大西和歌3),阪上雅史2)
1)明和病院耳鼻咽喉科,2)兵庫医科大学病院耳鼻咽喉科,3)尼崎中央病院耳鼻咽喉科
【はじめに】難聴児に対する言語指導は,単語
く,音にも反応しない状態であった。3 歳頃か
や短文の模倣を要求したり,定められたリスト
ら聾学校を欠席しがちとなり,当院の言語外来
を反復ドリルすることではく,家族や遊び仲間
に定期的に通院するようになった。言語外来受
など,幼児にとって大切な人々と感情や考えを
診時に母親は子どもに声かけする様子もなく,
相互に伝え合う技術の獲得を援助することであ
補聴器を忘れてくることもあった。父親からの
る。幼児と言葉を使ってやり取りする頻度が最
聞き取りにより母親がわが子の難聴を受け入れ
も大きいのは親と保育職員である。言語指導が
ることができず,聾学校への母子通学をいやが
効果的に実践されるには,言語療法士などによ
っており,また家庭での母子の言葉のやり取り
る専門的な支えが必要であるが,言語の獲得と
がほとんどない現状が浮き彫りとなった。3 歳
その指導は,幼児に全人的な影響を与える立場
8 カ月,母親の復職に伴い聾学校を転校し,毎
にある親または保育者によって行うことが最適
日担任と 1 対 1 の生活となった。3 歳10カ月で
であると考える。今回,早期に補聴器装用を開
音を聞くことを楽しめるようになり,発声が増
始したにもかかわらず,家族との関係がうまく
え始めた。夏休みに少し後退したものの,その
いかず,著しく言語発達が遅延した中等度難聴
後は口形模倣が可能となり,4 歳 2 カ月時には
症例を経験したので報告する。
徐々に母音の発声ができるようになった。4 歳
【症例】 4 歳 7 カ月の女児
新生児スクリーニ
6 カ月,発声練習を嫌がらなくなり, 2 音節の
ングにて聴覚障害を指摘され,4 カ月時当科初
ことばは口声模倣が可能,あいさつもできるよ
診。モロー反射は認められず, ASSR にて 85
うになった。
dB の聴力と予測された。 6 カ月時より両耳に
【考察】子どもの聴力損失の事実を親が受容す
補聴器装用開始し,聾学校月 2 回の通園を開始
ることが,早期発見を生かす最大の要因である
した。 11カ月時には補聴器を 1 日 4 ~ 5 時間装
と考えられた。子どもが言葉を学習するのは,
用可能となり,呼びかけの声に反応するように
気持ちを通じ合いたいからであり,これによる
なった。1 歳時,COR にて70 dB であった。津
満足が学習の意欲を支えると思われた。
守式精神発達質問紙を用いて検査を行うと,運
【まとめ】早期に補聴器装用を開始したにもか
動面,認知面,言語理解ではほぼ齢相当の発達
かわらず,家族との関係がうまくいかず,著し
が見られた。1 歳 8 カ月と 2 歳 5 カ月で滲出性
く言語発達が遅延した中等度難聴症例を経験し
中耳炎のため,鼓膜チューブ挿入術を行った。
た。環境の変化により言語発達が促され,家庭
術後の幼児聴力検査は両耳とも 57 dB であっ
や教育環境の重要性が示唆された。
た。聾学校では声を発することもほとんどな
― 109 ―
( 165 )
小児耳 30(2): 166 , 2009
70
先天性両側高度感音難聴児の乳児期における運動発達
田中 学1),安達のどか2),井上雄太2),浅沼
山岨達也5),浜野晋一郎1)
聡2),坂田英明3),加我君孝4),
1)埼玉県立小児医療センター神経科,2)同耳鼻咽喉科,3)目白大学クリニック,
4)国立病院機構東京医療センター感覚器センター,5)東京大学耳鼻咽喉科
【はじめに】先天性両側高度難聴児のなかで,
した。各症例について,保護者への説明と同意
運動発達が遅れる児が多いことは以前から知ら
の上で,側頭骨 CT, GJB2 遺伝子検査および
れている。近年は難聴の発見が早期に可能とな
CMV の新生児期検体(ガスリー検査紙,臍帯
り,その原因が明らかになってきていること
など)の PCR 検査といった難聴の原因検索が
で,補聴器装用や療育の開始が早期化してき
行われた。聴取された発達歴および乳児期の粗
た。乳児期以降に様々な発達上の問題が明らか
大運動発達について,難聴の原因別に比較検討
になった場合,難聴と関連性があるのか判断や
した。
対応に苦慮することがある。そのため,埼玉県
【結果】上記の条件に該当した症例は 23 例であ
立小児医療センター(以下,当センターと略)
った(男女比 12  11 )。難聴の原因は, GJB2
では,高度難聴をもつ乳児の発達評価を小児神
遺 伝 子 変 異 10 例 , 両 側 内 耳 奇 形 6 例 ,
Waardenburg 症候群 1 例および不明 6 例であ
経科医が行っている。
【目的】当センター耳鼻咽喉科では受診から早
った(重複無し)。 GJB2 変異群では,少なく
期に難聴の原因検索が行われており,原因別に
とも 4 例で筋緊張低下が目立っていたが, 10
発達経過と特徴をまとめた。本発表では,乳児
例とも 1 歳 6 カ月までに歩行獲得した。内耳
奇形群では,4 例で筋緊張低下が目立ち,坐位
期における粗大運動について検討した。
【対象】 2004 年から 2008 年までの間に当セン
保持に時間を要し,歩行獲得は 1 歳 6 カ月よ
ター耳鼻咽喉科を受診した両側高度感音難聴児
りも後であった。原因不明群で歩行獲得が 1 歳
のなかから,生後 1 歳 6 カ月までに神経科発
6 カ月以降であったのは 1 例で,その例のみ精
達外来に評価目的で紹介された児を対象とし
神発達も遅延していた。
た。対象症例の大部分が,新生児聴覚スクリー
【考察】乳児期の診察において筋緊張低下は定
ニング検査において両側 refer と判断され,当
性的な所見であり,各症例での単純な比較は困
センターに紹介され受診した。明らかな中枢神
難である。低緊張が目立っていた例では,ハイ
経障害の合併や,先天性サイトメガロウイルス
ハイが出来ない,反りかえり姿勢といった問題
(CMV)感染症は,全例でスクリーニング検査
が生じていた。 GJB2 変異では,機能的なバラ
を行い,除外した。
ンス障害を合併しやすい傾向がみられたが,代
【方法】発達外来初診リストから,当センター
償が働くものと考えられた。内耳奇形群では,
耳鼻咽喉科の初診当時に施行された気導 ABR
側頭骨 CT 所見と運動発達との明らかな関連性
検査および ASSR 検査で両側の聴覚閾値がそ
はみられなかった。
れぞれ70 dB 以上であった児を後方視的に選別
( 166 )
― 110 ―
小児耳 30(2): 167 , 2009
71
小児心因性難聴の検討
熊本真優子1),迫真矢子1),稲光まゆみ1),2),小宗静男3)
1)福岡市立こども病院・感染症センター耳鼻咽喉科,2)いなみつこどもクリニック耳鼻咽喉科,
3)九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】近年耳鼻咽喉科医の認識が向上し,
は 2005 年より増加していたが,平均年齢の推
小児心因性難聴症例が早期発見・早期診断され
移では明らかな若年化は認めなかった。受診契
るようになった。一方,家庭形態の多様化や,
機は検診群が 29 例,受診群が 32 例で両群間の
携帯電話・ PC 等による情報の氾濫とコミュニ
平均年齢に有意差はなかったが,受診群では
ケーション様式の変化に伴い,こどもたちを取
14 例に耳症状以外の身体症状を伴っていた。
り巻く環境は激変した。このため発症数の増加
患側は両側 46 例,一側 15 例で,標準純音聴力
と若年化,発症の背景にある外因子の多様化も
検査の結果は感音難聴 39 例,初診時正常閾値
深刻である。心因性難聴では一般に器質疾患が
10 例,混合難聴 9 例,伝音難聴 3 例と諸文献
ないか,あっても本症状の原因ではないため,
同様感音難聴が多かった。聴力レベルは軽度
日常診療では経過観察という形で放置されがち
17 例,中等度 31 例,高度 9 例,重度 2 例であ
であるが,医療従事者が介入すべき内因子を発
った。発症の背景因子は内因子を有したものが
見することもしばしばである。当科で経験した
14 例,外因子を有したものが 46 例で, 22 例に
小児心因性難聴症例について検討したので報告
心理発達検査を実施した。聴力が改善した症例
する。
は健診群が 11 例,受診群が 13 例で,改善まで
【目的】当科を受診した小児心因性難聴症例を
の期間も含め両群間に有意差は認めなかった。
診断確定後,受診しないなど経過が不明な症例
検討する。
【対象】1998年 4 月から2008年 3 月までの10年
間に当科を受診した 15 歳未満の心因性難聴 61
症例。
が33例と過半数であった。
【考察】同一症例に複数の背景因子を重複する
傾向が高く,また精神遅滞や学習障害など内因
【方法】対象について,男女比,年齢分布,年
子を有する症例も少なくなかった。耳鼻咽喉科
度別症例数と平均年齢の推移,受診契機,聴力
医は保護者や児と信頼関係と築き,背景因子の
検査の結果,発症の背景因子,予後について検
把握に努めることが必要と感じた。また診断後
討した。
も,聴力変動を指標に心理的要因の変化を把握
【結果】男児16例,女児45例で男女比は 12.8
であった。初診時年齢は 5 歳 6 カ月から
歳
14
10 カ月で平均年齢は 9.0 歳だった。症例数
し,児童精神科医や臨床心理士,ソーシャル
ワーカーや学校関係者と連携を取りながら適切
に対応することが重要と考えた。
― 111 ―
( 167 )
小児耳 30(2): 168 , 2009
72
心因性難聴・めまいを主訴に小児病院精神科を受診した
症例の検討
星野崇啓,平山優美
埼玉県立小児医療センター精神科
【はじめに】埼玉県立小児医療センターには,
いのみが 2 名,その他耳鳴りを主訴としたもの
小児専門の耳鼻科・精神科を有している。学校
が 1 例であった。難聴を訴えない症例 3 例は
検診時に難聴を疑われる,もしくは「聞こえが
全員男児であり,全例に発達障害が認められ
悪い」という本人や親の訴えることから耳鼻咽
た。難聴を訴えた 14 例のうち,男児 2 例,女
喉科を受診する症例があるが,精査の結果心因
児 12 例で,男児 2 例と女児 4 名に発達障害が
的と判断されるケースは精神科に紹介される。
認められた。初診時年齢は最低年齢 7 歳,最高
専門病院の耳鼻科・精神科ともに外来初診まで
年齢 14 歳,平均 9 歳で小学校 1 年の健診等で
に時間もかかることから,心因性の症状を呈す
指摘される症例が多かった。発達障害を疑わな
る患児や家族の特徴を把握することにより,初
い症例に関しては家族内の問題を抱えている可
期段階で介入しうる方法があるのではないかと
能性が考えられた。
【考察】心因性難聴の訴えは男児に比べ女児に
いう視点から本研究を企画した。
【目的】心因性の難聴・めまいを主訴とする症
多く,高機能の発達障害の可能性をもった児童
例において,本人の特性を明らかにするととも
が初診時低年齢の多く認められた。難聴の訴え
に,環境的な要因との関連性について考察し,
が,一般的に発見されにくい女児の発達障害発
今後より効率的かつ有効な支援のあり方を検討
見の契機になる可能性があり,また家族も発達
する。
障害の傾向に気づいていることが多いことか
【対象】2006年 4 月から2008年12月までに,耳
ら,家族にとっても具体的な相談をする契機で
鼻咽喉科で心因性難聴もしくは心因性のめまい
あった可能性がある。一方男児はめまい等の症
と診断され当科に紹介された17例。
状を訴えて受診するケースが多く,女児と傾向
【方法】上記症例に対し,性別,初診時年齢,
が異なる。初診時高年齢のものは家庭環境や母
症状発見の契機,発達的・行動的特徴,家族状
子関係等に不安のあるケースが多く,低年齢群
況,登校状況等について分析し,実際の支援内
とは背景が異なることが疑われた。
容から,今後具体的な支援のあり方について考
察した。
【まとめ】心因性難聴に注目することは,一般
的に発見されにくい女児の発達障害が相談につ
【結果】 17例中,男児 5 名,女児 12名と女児の
ながる契機となっており,教育機関との連携を
方 が 優 位 に 多 か っ た 。 主 訴 は 難 聴 の み が 13
とりつつ支援してゆくことが問題の解決上必要
例,難聴とめまい両方認めたものは 1 名,めま
と考えられた。
( 168 )
― 112 ―
小児耳 30(2): 169 , 2009
73
乳児期に難聴が進行したサイトメガロウィルス感染児の検討
針谷しげ子,田中美郷
神尾記念病院
3 カ月…500~4 KHz 90~100 dB
【はじめに】近年,新生児聴覚スクリーニング
の普及に伴い,小児難聴の原因因子の一つと考
6 カ月… 〃
60~ 60 dB
えられるサイトメガロウイルス(以下 CMV )
9 カ月… 〃
100~100 dB
感染症への関心が高まっている。今回,乳児期
10カ月… 〃
100↓100 dB
に難聴が進行した CMV 感染児の聴力低下の詳
細な経過と聴覚補償・言語指導について代表例
1 歳 9 カ月
人工内耳埋め込み手術を受ける
【考察とまとめ】上記症例は,右耳の聴力を活
用し,補聴器装用の効果もみられたが,7 カ月
を中心に報告する。
「対象」経過観察中の難聴を伴う CMV 感染
頃より音への反応が不確実になりその後無反応
児 8 例の内,乳児期に難聴が進行した 4 例で
になった。児の両親はホームトレーニングで学
ある。症例 1 ・ 2 は新生児聴覚スクリーニング
習したゼスチャーや簡単な手話で言語を育て,
で難聴が発見されその後,脳質拡大と CMV 抗
良好な親子関係で人工内耳の手術に臨んだ。術
体価上昇が認められた症例。症例 3 は CMV 感
後 10 カ月,耳で覚えた単語を手話で確認する
染による母胎内の発育不全の症例。症例 4 は,
経過で言語発達が進んでいる。症例 2 ・ 4 も人
出生後肝脾腫と CMV 抗体価の上昇が認められ
工内耳装用児である。術前の聴覚活用とゼスチ
た例である。4 症例の内,症例 1 を代表例とし
ャー・手話による言語獲得は人工内耳装用後の
て記す。
発達の利点となっている。症例 3 の難聴も高度
【症例 1 】 2006 / 7 / 29 。 1111 グラムで出生した
である。手話環境の聾学校に学び,聴覚口話も
女児
活用し言語発達良好である。 4 症例とも, 1 歳
ABR の結果の推移
前の難聴の進行である。難聴の進行経過の共有
日齢
4日
…右(70 dB) 左(90 dB 無反応)
と難聴の受容に対する支援が重要であり,さら
月齢
2 カ月…右(70 dB) 左(90 dB 無反応)
に聴覚補償・言語獲得への道筋を示す支援も必
9 カ月… 両側
要であることを強調したい。
(90 dB 無反応)

BOA・COR の結果の推移
― 113 ―
( 169 )
小児耳 30(2): 170 , 2009
74
先天性サイトメガロウイルス感染症児の画像所見と
神経発達予後に関する検討
安達正時1),岡
明1),大石
勉2),浅沼
聡3),安達のどか3),坂田英明4)
1)東京大学医学部小児科,2)埼玉県立小児医療センター感染免疫科,
3)埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科,4)目白大学保健医療学部言語聴覚学科
【はじめに】先天性サイトメガロウイルス
CT,聴性脳幹反応( ABR)などを行い,中耳
(CMV)感染症は,先天性ウイルス感染症の中
間葉系遺残などによる伝音難聴や,内耳奇形な
で最も頻度が高い疾患である。近年,先天性
どによる感音難聴,また Connexin26 異常によ
CMV 感染症に対する抗ウイルス治療の有効性
る遺伝異常による難聴は除外した。
を示唆されており,今後新生児期スクリーニン
【結果】 12 名中で神経発達が正常範囲であった
のは 5 名,軽度~中等度発達遅滞 3 名,重度
グが課題となっている。
【目的】埼玉小児医療センター耳鼻咽喉科へ新
発達遅滞 4 名であった。頭部 CT にて石灰化を
生児聴覚スクリーニングにて要再検となった児
認めたのは 3 名であり,頭部 MRI で異常が指
を対象に, CMV 検査を行い先天性 CMV 感染
摘されたのは 9 名で,髄鞘化遅延( 6 名),皮
症の確定診断を行った。その内治療を受けた症
質形成不全( 5 名),側脳室後角拡大( 4 名),
例の画像所見と神経発達予後について検討を行
両側性白質病変( 3 名),小脳形成異常( 2 名)
った。
であった。画像上異常を認めたが神経学的発達
【対象】新生児聴覚スクリーニングにて要再検
が正常から軽度・中等度と比較的良好な例は
となり,埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科
12 例中 6 例で,重度発達遅滞を認めた症例で
を受診した患者全例を対象に,乾燥臍帯の血液
は全例皮質形成不全を伴っていた。全例で聴力
や新生児期の血液・尿を用いた PCR 法にて,
の変動を認めた。
先天性 CMV 感染症と診断を行った。その内,
【考察・まとめ】今回先天性 CMV 感染症と診
先天性 CMV 感染症と診断され治療を受け神経
断された 12 例の画像所見と神経学的所見につ
発達予後の評価が可能であった 12 名について
いて検討を行った。これらの症例は診断時に希
画像所見と神経学的所見について検討を行っ
望による抗ウイルス治療を受けており,今後臨
た。最終評価時の月令は 2 カ月から 7 歳であ
床像および治療の有効性に関する検討が必要と
った。画像は頭部 CT ( 5 名)・ MRI ( 12 名)
いえる。先天性 CMV 感染症は多臓器に及ぶこ
を施行し,神経学的評価は小児神経科医の診察,
とから小児耳鼻咽喉科だけでなく,小児神経
KIDS 質問票,遠城式発達評価にて行った。聴
科,小児感染症科,小児眼科と連携した受診体
力評価は,小児耳鼻科医による耳内所見,聴器
制が重要である。
( 170 )
― 114 ―
小児耳 30(2): 171 , 2009
75
難聴を合併した副甲状腺機能低下症の 2 例
河野智敬1),望月
弘1),安達のどか2),浅沼
聡2),坂田英明3)
1)埼玉県立小児医療センター代謝内分泌科,2)同耳鼻咽喉科,3)目白大学クリニック
【はじめに】難聴に副甲状腺機能低下症を合併
服を行い,生後 8 カ月にフォロー終了となって
する症例を稀に経験する。副甲状腺機能低下症
いた。その後 1 歳時に両側難聴と診断され,補
は副甲状腺ホルモン(以下 PTH )の作用不足
聴器使用中のため当センター耳鼻科でフォロー
により低カルシウム血症,高リン血症をきたす
中である。家族歴に副甲状腺疾患および難聴は
病態である。さらに,難聴,副甲状腺機能低下
なかった。平成 19 年 5 月,耳鼻科受診時に低
症に腎形成異常を伴う HDR 症候群も注目され
カルシウム血症( 6.7 mg / dl )および高リン血
ており,その原因として GATA3 遺伝子の異
症( 8.2 mg / dl )を指摘され,当科紹介となっ
常が同定されている。今回,われわれは難聴を
た。血中 PTH 低値とあわせて, PTH 不足性
合併した副甲状腺機能低下症の 2 例について詳
副甲状腺機能低下症と診断した。腹部超音波検
細に検討したので報告する。
査および膀胱造影検査にて腎形成異常は認めな
【症例 1 】 12 歳男児。主訴は痙攣および低カル
シウム血症。以前より難聴を認めていたが,特
かった。また,GATA3 遺伝子の異常も認めな
かった。
別な検査や治療は受けていなかった。平成 8 年
【考察】症例 1 では家族性の副甲状腺機能低下
10 月に短時間の全身性強直性痙攣が出現し,
症および難聴を認め,GATA3 遺伝子異常が証
血液検査にて低カルシウム血症を認めた。当科
明され, HDR 症候群不全型と診断した。一方
紹介入院となり,低カルシウム血症( 7.6 mg /
症例 2 では家族性のない副甲状腺機能低下症お
dl)・高リン血症(6.4 mg/dl)・血中 PTH 低値
よび難聴を認めたが,GATA3 遺伝子異常は証
より, PTH 不足性副甲状腺機能低下症と診断
明されなかった。さらに当科では 3 主徴のそろ
した。腹部超音波所見にて腎形成異常は認めな
った HDR 症候群で GATA3 遺伝子異常の証明
かった。家系内には,同様に難聴や低カルシウ
された症例と証明されなかった症例を経験して
ム血症を確認された人が複数おり,家族性の疾
いる。このように難聴と副甲状腺機能低下症を
患が疑われていたが,後の遺伝子検索にて
合併した症例の表現型はかなり幅広いので,一
GATA3 遺伝子の異常が証明された。
例一例について詳細に検討する必要があると考
【症例 2 】 12 歳男児。主訴は低カルシウム血症
えられた。
および高リン血症。平成 6 年 7 月に妊娠分娩
【まとめ】耳鼻科領域において,難聴を認めた
経過に異常なく出生したが,日齢 7 に痙攣が出
場合には副甲状腺機能低下症の合併について念
現し,その際 5.0 mg/ dl と低カルシウム血症を
頭におく必要があり,さらに腎形成異常を伴う
指摘された。前医にて副甲状腺機能低下症と診
HDR 症候群についても認識しておくべきと考
断され, Ca 製剤および活性型 VitD 製剤の内
えられた。
― 115 ―
( 171 )
小児耳 30(2): 172 , 2009
76
耳瘻孔,頸瘻に難聴を合併した Rowley 症候群の一例
長井今日子,設楽直也,中島恭子,豊田
実,安岡義人,古屋信彦
群馬大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】第 1 ,第 2 鰓弓由来の奇形(耳小
18 歳に右側頸瘻管摘出術を予定した。頸部瘻
骨奇形,耳介奇形,耳瘻孔,側頸部瘻孔,下顎
孔から,造影剤を逆行性に注入して X 線撮影
骨形成不全など)に難聴や腎形成不全を合併し
で,咽頭方向に続く瘻管を確認した。また,造
た も の を brachio-oto-renal dysplasia  Bran-
影剤の咽頭腔への漏出所見は認めなかった。平
chiootic syndrome ,腎異常を伴わないものを
成20年 8 月29日手術を施行した。皮切は,2 本
brachio-oto dysplasia  Rowley 症 候 群 と し て
の水平皮切で,下方は瘻孔を含むようにした。
1975 年及び 1976 年に Melnick らが疾患概念を
瘻孔は胸鎖乳突筋前部では広頸筋下で上行し,
提唱した。頸部病変については,側頸瘻管や瘻
外頚動脈と内頚動脈の間を通り,顎二腹筋後腹
孔が半数以上を占めるといわれている。今回,
の内側を上行し,咽頭側壁筋層に到達していた
我々は, Rowley 症候群の 1 例を経験したので
が,咽頭腔への交通はなかった。瘻孔の全長は
報告する。
約 8.5 cm で あ っ た 。 標 本 の 摘 出 病 理 所 見 で
【対象】症例18歳,男児。
は,異所性唾液腺は認めなかった。なお,本症
主訴両側難聴,右側頸瘻孔からの反復する粘
例においては,腎機能に問題なく,腎形成不全
液の流出
も認めなかった。
家族歴父方祖父,父,兄,姉に両側感音難聴
【考察】本症候群の分類については,腎奇形の
を認めた。また,父には,耳瘻孔を認め,姉に
ないものを brachio-oto dysplasia とよぶことが
は,耳瘻孔の他,両側鼻側部に瘻孔を認めた。
あ る が , 現 在 は , brachio-oto-renal dysplasia
現病歴出生時から,左耳瘻孔と,右側頸部瘻
の表現型の変異の中に含まれると考えられてい
管を認め,時々,透明の分泌物が流出を認め
る。
た。就学時検診で難聴を指摘され,6 歳時に当
患児の難聴は感音難聴であり,父,姉,兄い
院小児科を受診し,当科を紹介され受診。純音
ずれも感音難聴であった。しかし,本症候群の
聴力検査で,両側とも平均聴力レベルで 30 dB
難聴は,中耳や内耳の奇形の組み合わせにによ
の軽度感音難聴を認めた。言語発達検査にて遅
り混合性難聴や伝音性難聴も多く報告されてい
れなく,57 S の語音明瞭度検査でも55 dB 入力
る。従って,難聴については,CT などで,そ
で 90 と良好であったため,補聴器は装用せ
の原因について十分に精査を行い,適切な難聴
ず,定期的に聴力検査を行っていた。側頭骨
治療の選択を行うべきである。また,頸部病変
CT では,中耳の異常所見はなく,半規管の低
については,瘻孔や,のう胞病変の報告が半数
形成を認めた。前庭機能検査 VOG では,右
以上であるが,軟骨母斑や異所性唾液腺など鰓
耳の CP を認めた。16歳頃から,右側頸瘻孔よ
弓由来による形態異常の報告もあるため,それ
り粘液の流出が頻繁になり,手術を希望し,
らを考慮のうえ,術式を検討すべきである。
( 172 )
― 116 ―
小児耳 30(2): 173 , 2009
77
小児の鼻閉に漢方薬を用いた症例多数
松山
稔
医療法人一光会幸内科クリニック
【はじめに】プライマリケア医として,半年一
おいて前医の治療より症状の改善が認められ
年と長期間の治療中にも関わらず,鼻閉が改善
た。有効例のうち効果が最も早く現れた症例で
しない小児を診察することが多い。はたして副
は内服したその日から改善が見られた,小建中
鼻腔炎の治療に抗生物質の少量長期投与が本当
湯,辛夷清肺湯の処方では約 3 ~ 4 日後から,
に有効なのであろうか。
葛根湯,桔梗石膏の処方では約 7~10日で効果
【目的】長期間の治療に対して改善傾向の認め
が認められた。漢方薬の処方に対しても効果が
られない小児の鼻閉において,早期の症状改善
認められない症例については,耳鼻科医に紹介
を目指して治療薬として漢方薬を処方してその
をしてその原因を精査,診察して頂き検討した。
【考察】小児の鼻閉の治療において漢方薬を用
効果を検討した。
【対象】小児科,耳鼻科にて鼻閉の治療(ムコ
いて改善した症例を多数認めた。鼻の正常機能
ダイン,抗生物質,抗アレルギー剤など)を受
を早期に回復させるのに漢方薬は有効であっ
けているが改善の認められない小児を対象にし
た。漢方薬の無効例のうち薬の独特なにおい,
て漢方薬の治療を加えるか,漢方薬に変更して
風味から内服できない例が多く認められた。抗
治療をした 0 歳から 15歳の小児症例約 500例に
生物質の内服による皮膚の荒れ,下痢などの副
ついてその効果を検討した。
作用は漢方薬では認められなかった。
【方法】 0 歳から 15 歳の鼻閉に苦しむ小児に対
【まとめ】小児の鼻閉の治療において抗生物質
して,小建中湯,辛夷清肺湯または葛根湯,桔
の少量長期投与を基本とする現在の治療(ムコ
梗石膏を年齢や体重に応じて内服量を調整して
ダイン,抗生物質,抗アレルギー剤など)を続
処方した。
けるより漢方薬を組み合わせることが短期間に
【結果】小児の鼻閉約 500 例に対して漢方薬の
症状を改善できる治療として有効と考える。医
処方による自覚症状の変化を母子と医師の客間
療経済的にも 1/3~ 1/5 の薬剤費ですみ,副作
的な視点から効果判定した,ウオータースなど
用なども少なく安全に治療が行える。
の画像判定は行っていない。約 70 の症例に
― 117 ―
( 173 )
小児耳 30(2): 174 , 2009
78
キリアン・久保洗浄管を用いて上顎洞洗浄を施行した
慢性副鼻腔炎の治療経験
遠藤
明1),田中大介2),板橋家頭夫1)
1)昭和大学医学部小児科,2)昭和大学付属豊洲病院小児科
【はじめに】成人と同様に小児においても臨床
に減少し,週に 1 回上顎洞洗浄を行ったところ
症状が 3 カ月以上持続し慢性副鼻腔炎に分類さ
すべての呼吸器症状が 3 回目の洗浄後に消失し
れる症例が存在する。今回われわれは画像診断
た。
により慢性副鼻腔炎と診断され,キリアン・久
症例 3
9 歳男児平成 19 年 5 月から両側の
保上顎洞洗浄管を用いた骨穿刺によらない上顎
中耳炎をくり返し耳鼻咽喉科で 6 カ月間に鼓膜
洞洗浄により改善した慢性副鼻腔炎の 3 小児例
切開を 3 回施行し,さらにチューブ挿入術を薦
を経験したので報告する。
められた。 12 月に滲出性中耳炎と聴力障害を
10 歳女児平成 19 年 6 月初旬
主訴に当院受診。中鼻道に鼻汁排泄あり。単純
から疲労時に前額部と右側側頭部に拍動性頭痛
X 線写真で両側の上顎洞に陰影を認めた。左側
が 3, 4 時間続くようになった。近くの小児科
の鼓膜切開施行。4 回の上顎洞洗浄と通院ごと
で感冒および片頭痛と診断。7 月から乾性咳嗽
のカテーテル耳管通気により副鼻腔炎および滲
と鼻汁が出現し,症状が改善しないため 9 月当
出性中耳炎は改善した。
【症例】症例 1
院受診。単純 X 線写真で両側の上顎洞に陰影
【考察】副鼻腔の炎症が進行した症例では換気
を認め慢性副鼻腔炎と診断して自然孔経由の上
による洞の低酸素状態の改善と粘液および膿の
顎洞洗浄を施行した。洗浄の翌日には頭痛,咳
排泄が必要である。小児の上顎洞底は固有鼻腔
嗽,鼻汁は軽減し週に 1 回の割合で上顎洞洗浄
より高位置にあるのでシュミット探膿針による
を行ったところ頭痛は 2 回目の洗浄後に消失し,
上顎洞穿刺洗浄を施行しにくい。一方,小児の
6 回目の洗浄後に排泄液が透明となった。10月
上顎洞自然孔は相対的に広く中鼻道経由の上顎
30 日の単純 X 線所見は改善し,上顎洞洗浄を
洞洗浄は小児の解剖学的特性に合致しており反
7 回で終了した。
復して施行可能であった。
6 歳男児平成 17 年 1 月から感冒時
【まとめ】1)小児にも内科的治療が奏功せず,
に咳嗽が強くなり長期間持続するため近医を通
長期間症状が持続する慢性副鼻腔炎の症例が存
症例 2
院した。胸部単純 X 線所見正常,アレルギー
在する。2)小児の慢性副鼻腔炎の症状は頭痛,
検査で異常なく,気管支喘息の疑いによりオノ
慢性咳嗽,滲出性中耳炎などであった。 3 )キ
ン DS の長期内服を薦められた。平成19年 9 月
リアン・久保洗浄管を用いる自然孔経由の上顎
に慢性咳嗽を主訴に当院受診。単純 X 線写真
洞洗浄は小児の慢性副鼻腔炎に対する有効な治
で両側の上顎洞に陰影を認めたため慢性副鼻腔
療法と考えられる。
炎と診断し上顎洞洗浄を施行した。咳嗽は急速
( 174 )
― 118 ―
小児耳 30(2): 175 , 2009
79
小児に対する鼻内内視鏡手術の経験
堀川利之1),堀川久美子2),伊藤真人3)
1)福井県済生会病院耳鼻咽喉科,2)堀川医院,3)金沢大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】内視鏡下鼻副鼻腔手術 Endoscopic
中。幼少時より鼻閉鼻漏を認め,鼻内にはポ
Sinus Surgery ( ESS )は耳鼻咽喉科各施設に
リープがあり,両側 ESS ,下甲介切除術を施
おいて日常的に行われている手術手技である
行した。症例 4 は 12 歳女児。左上顎洞後鼻孔
が,一方小児への手術例は限られている。当科
ポ リ ー プ が 左 鼻 腔 を 閉 塞 。 左 ESS を 施 行 し
での2007年度(2007.42008.3)の ESS 施行件
た。症例 1 は当院救急を受診しての緊急手術で
数は,中央手術室にて 81 件,外来手術を含め
あり,症例 2, 3, 4 は近医耳鼻咽喉科よりの手
て 100件以上であったが,うち小学生以下の小
術依頼紹介患者であった。いずれの症例も術後
児に対しての手術は 4 件であった。
経過良好である。
【目的】当科における2007年度の小児への ESS
【考察】 ESS は各施設において日常的に行われ
手術例を検討し,今後の小児に対する同手術の
ている手術手技であり,小児においても技術的
方向性などについて考えたい。
には成人とほぼ同様の手技で手術可能であっ
【対象】 2007 年度に当科で ESS を施行した,
小学生以下の小児 4 症例。
た。一方小児への手術適応は限られており,ま
た明確に定まっておらず,施設,術者によって
【方法】上記 4 症例の手術,経過を検討する。
ばらついた適応,手技にて施行されているのが
【結果】症例 1 は, 11 歳男児。頭痛,発熱,嘔
現状ではないだろうか。当科では現状小学生以
吐にて当院受診。 CT, MRI 等精査にて副鼻腔
下に対しての ESS には消極的であるが,今後
炎由来の硬膜外膿瘍,髄膜炎判明し,緊急手術
の小児に対する同手術の適応や方向性などにつ
(左 ESS)を施行した。症例 2 は 5 歳男児。肥
いて本発表のなかで考察したい。
厚性鼻炎,アデノイド肥大にて鼻閉,睡眠時無
【まとめ】当科における昨年度の小児への手術
呼吸を認め,両側下甲介切除,アデノイド切除
経験をもとに小児への ESS 手術につき検討し
術を施行した。症例 3 は 10 歳男児。喘息加療
た。
― 119 ―
( 175 )
小児耳 30(2): 176 , 2009
80
原発性線毛運動不全の同胞例
田中孝明1),増田佐和子2),臼井智子2),小川
覚3),中谷
中4),竹内万彦5)
1)国立病院機構三重病院小児科,2)同耳鼻咽喉科,
3)三重大学医学部・医学系研究科電子顕微鏡室,
4)三重大学医学部附属病院オーダーメイド医療部,5)同耳鼻咽喉・頭頚部外科
【 は じ め に 】 原 発 性 線 毛 運 動 不 全 ( primary
脈血酸素飽和度は room air で 94 と低下し,
ciliary dyskinesia  PCD ) は 全 身 の 線 毛 の 形
両側前胸部に水泡音および笛声音を聴取した。
態・機能的異常を認める遺伝性疾患である。線
血液検査で炎症反応の軽度上昇,胸部画像検査
毛運動の異常のために慢性副鼻腔炎,気管支拡
で右中葉および左舌区の無気肺と気管支拡張像
張症,男性不妊,子宮外妊娠など多彩な病像を
を呈していた。好中球減少症や低ガンマグロブ
呈する。今回反復する呼吸器感染を認め,電顕
リン血症,内臓逆位を認めず, PCD を疑い鼻
的に鼻粘膜線毛の微細構造の異常および遺伝子
粘膜生検を施行した。
変異が証明された PCD の同胞例を経験したの
【結果】鼻粘膜生検では,症例 1, 2 とも線毛の
inner および outer dynein arm の不完全欠損を
で報告する。
【症例 1 】 11 歳女児。祖父母に肺疾患の家族歴
電顕的に確認し, PCD と診断された。また遺
がある。両親及び症例 2 以外の同胞 1 名に特
伝子検査では,2 例とも DNAI1 (dynein arm
記すべき症状はない。幼少時より肺炎や急性中
intermediate chain 1) exon13にコドン388が
耳炎・副鼻腔炎を反復し,数年前から湿性咳嗽
TGT ( Cys )から TAT ( Tyr )へのホモ接合
や膿性痰,胸痛が持続していた。平成 19 年 9
性の変異が検出された。さらに両親に同部位の
月に当院耳鼻咽喉科初診し,滲出性中耳炎と慢
ヘテロ接合性の変異が検出された。
性副鼻腔炎に対し薬物治療を行っていたが著効
【考察】PCD は現在のところ根治治療はなく,
はなく,同年 12 月に精査目的で当科紹介受診
早期発見して生活指導やワクチン接種,呼吸器
となった。受診時動脈血酸素飽和度の低下はな
感染時の適切な治療などにより気管支拡張症の
く,両側前胸部に水泡音および笛声音を聴取し
進展や肺機能低下を予防することが生命予後に
た。胸部画像検査で右中葉および左舌区の無気
重要である。だが本症の一部と考えられている
肺と気管支拡張像を呈していた。好中球減少症
Kartagener 症候群や進行例を除くと診断は容
や低ガンマグロブリン血症,内臓逆位は認めな
易でないため,幼少時より反復する呼吸器感染
かった。臨床経過や検査所見,家族歴から
を認める症例では,家族歴を詳細に聴取し,本
PCD を疑い鼻粘膜生検を施行した。
症を念頭に置く必要がある。また本症は常染色
【症例 2 】 8 歳男児。幼少時より呼吸器感染を
体劣性遺伝を主とした遺伝性疾患であり,診断
反復していた。当院耳鼻咽喉科で通院治療を行
後は適切な遺伝カウンセリングが極めて重要で
っていたが,症例 1 と同様の臨床症状と経過で
あると考える。
あり,平成 20 年 1 月に当科受診となった。動
( 176 )
― 120 ―
小児耳 30(2): 177 , 2009
81
先天性無嗅覚症の一症例
泰地秀信1),守本倫子1),佐久間文子2)
1)国立成育医療センター耳鼻咽喉科,2)神尾記念病院耳鼻咽喉科
【はじめに】先天的に無嗅覚または嗅覚低下を
【対象と方法】本例は単発性の先天性無嗅覚症
きたす疾患には, Kallmann 症候群, Johnson
と診断されたが, Kallmann 症候群がこの先に
神経外胚葉症候群,Refsum 病,Kartagener 症
発現してくる可能性も否定できないので,引き
候群などがあるが,いずれも嗅覚障害を主訴と
続きフォローを行う予定である。そこで,
して受診されることはほとんどない。もとから
2002 年 3 月 ~ 2007 年 4 月 に 当 院 を 受 診 し
小児では嗅覚低下があっても訴えることは少な
Kallmann 症候群と診断された 13 例につき病歴
い。嗅覚障害で受診された場合,通常は耳鼻咽
と嗅覚障害の有無を検討してみた。症例は男性
喉所見の診察,単純 X 線検査あるいは CT に
9 例,女性 4 例で,当院受診時の年齢は 0 ~ 36
よる鼻腔・副鼻腔病変の有無の診断,嗅覚検査
歳である。
が行われるが, MRI は頭蓋内病変の有無,嗅
【結果】検討した 13 例では,下垂体性腺機能不
球・嗅溝の異常を CT より明確にとらえること
全,口唇口蓋裂,無月経,停留精巣から精査を
ができるので有用である。今回我々は MRI が
行い Kallmann 症候群と診断されているものが
診断に有用であった無嗅覚症を経験したので,
多かった。嗅覚障害を主訴とした例はなかっ
過去の症例の検討もあわせ報告する。
た。遺伝子診断目的あるいは一時的なホルモン
【症例】症例は 13 歳女児。主訴嗅覚障害。既
療法目的で受診された症例が 3 例, 0 歳児が 1
往歴・家族歴には特記するべきことはない。両
例あるが,その他の 9 例については嗅覚異常の
親・兄弟には嗅覚障害はない。嗅覚障害の発症
有無について問診がなされ全例に嗅覚障害を認
時期は不明であり,電気ストーブのボヤに児が
めた。うち 1 例については中途で嗅覚障害が出
気がつかなかったことで耳鼻咽喉科を受診し
現したとのことであった。嗅覚検査を行った例
た。鼻内視診,副鼻腔単純 X 線検査では異常
はすべて嗅覚脱失あるいは高度の嗅覚障害がみ
がなく,紹介にて当院受診された。静脈性嗅覚
られた。 MRI 検査は 4 例に行われていて,嗅
検査を行ったがにおいは感じず。基準嗅覚検査
球の欠損あるいは低形成が認められた。
では A~E のすべてスケールアウトで,嗅覚脱
【考察】無嗅覚以外の臨床症状のない先天性無
失と診断された。頭部 MRI 検査を行ったとこ
嗅 覚 症 の 報 告 は 散 見 さ れ ( Assouline S ら ,
ろ,嗅溝は明確ではなく,嗅球は欠損していた。
Lygonis CS, Singh N ら),胎生 7~16.5週に嗅
Kallmann 症 候 群 を 疑 い 内 分 泌 検 査 , 腹 部 エ
球・嗅索の発生異常が起こったものと考えられ
コ ー を 行 っ た が 異 常 所 見 は な く , 血 中 LH,
ている。ただしその本態は例数が少なく不明で
FSH ,エストラジオール値は正常であった。
ある。小児の先天性嗅覚障害の診断には MRI
二次性徴や月経も順調である。家族の同意が得
は必須の検査である。
られず遺伝子検査は施行していない。
― 121 ―
( 177 )
小児耳 30(2): 178 , 2009
82
みかんアレルギーと花粉との交差反応性の検討
安 在根,成瀬徳彦,小松原
宇理須厚雄
亮,鈴木聖子,安藤仁志,近藤康人,柘植郁哉,
藤田保健衛生大学医学部・小児科
【はじめに】みかん(Citrus unshiu)アレルギー
(0.001, 0.01, 0.1, 1.0 mg/ml)濃度の抗原液と
の症例を経験した。海外ではオレンジとイネ科
反応させた血清を用いて行なった。 Immunob-
花粉との交差反応性が報告されている。しかし
lot は各抗原を SDS PAGE ( 4 20 
オレンジと同一の属であるが種が異なるみかん
cine gel)で120 V, 2 時間電気泳動後 PVDF 膜
では,花粉との交差抗原性に関する報告はない。
に転写し,反応した IgE は ECL Western Blot-
【目的】みかん抗原とカモガヤ花粉との交差抗
Tris-gly
ting analysis System を用いて検出した。
【結果】 Inhibition ELISA で 2 症例においてカ
原性について検討した。
【対象】みかんアレルギー 4 症例は, 10歳から
モガヤ抗原との共通抗原性がみられ,これら 2
15 歳,いずれも数年前からミカン摂取後に口
症例の Immunoblot では分子量 13.25 kDa のタ
唇腫脹や痒み,喉頭の掻痒感などの口腔アレル
ンパク質に IgE 結合が見られた。また,これ
ギー症状であった。また 4 症例におけるカモガ
ら IgE 結合はカモガヤ花粉抗原の添加により
ヤ特異的 IgE 抗体は CAP 法でクラス 2 以上で
あった。
阻害された。
【考察】みかん口腔アレルギー症状を呈した症
【方法】みかん抗原は 1M Sucrose バッファー
例の一部で Inhibition ELISA および Inhibition
で,花粉抗原は 0.125 M NaHCO3 を用いて抽
Immunoblot によってみかんとカモガヤ花粉と
出した後,透析されたものを使用した。Inhibition ELISA は , 各 抗 原 を プ レ ー ト に 固 相 化
し,ブロッキング処理後,あらかじめ 4 段階
( 178 )
の共通抗原性が証明された。
【まとめ】みかんとイネ科花粉には共通抗原性
が存在する。
― 122 ―
小児耳 30(2): 179 , 2009
83
小児における鼻腔抵抗値―正常群と鼻疾患群の比較―
小林隆一1),2),宮崎総一郎3),唐木將行4),唐木りえ2)
1)綾川町国民健康保険陶病院睡眠呼吸障害センター,
2)綾川町国民健康保険陶病院耳鼻咽喉・アレルギー科,3)滋賀医科大学睡眠学講座,
4)香川大学医学部耳鼻咽喉科
【はじめに】鼻腔通気度検査は外来で簡単にで
【 結 果 】 全 体 で の 鼻 腔 抵 抗 値 の 平 均 は 0.43 ±
きる検査であり,客観的な鼻閉の評価に有用で
0.50 Pa / cm3 / sec ,男児の平均は 0.46 ± 0.65 Pa
ある。成人については基準値が設けられてお
/ cm3 / sec ,女児の平均は 0.39 ± 0.22 Pa / cm3 /
り,疾患の治療前後の他覚的評価が行われてい
sec であった。扁桃肥大の有無で鼻腔抵抗値に
る。しかし小児の鼻腔抵抗基準値についてはコ
影響をおよぼさなかったため,扁桃肥大を除外
ンセンサスが得られていないため,小児の鼻疾
せずに検討した。検診で鼻疾患があったのは
患の治療効果は本人の自覚症状の改善のみで行
335名で鼻疾患なし(正常群)と判断されたの
われているのが現状である。また,小児は鼻疾
は 557 名であった。鼻疾患あり群は 0.56 ± 0.75
患があっても自覚症状に乏しいため,成人と比
Pa / cm3 / sec ,正常群は 0.36 ± 0.21 Pa/ cm3 / sec
べ無治療で放置されていることも多く,学校健
で,鼻疾患あり群は正常群と比較し鼻腔抵抗が
有意に高値であった。学年別では 1 年生が他学
診にて鼻疾患を指摘されることも多い。
【目的】今回我々は,学校健診にて鼻疾患あり
と診断された小学生(鼻疾患群)の鼻腔抵抗値
を測定し,正常群との比較検討を行ったので報
年より鼻腔抵抗が有意に高値であった。疾患の
有無での検討でも同様の結果が得られた。
【考察とまとめ】小児は解剖学的に固有鼻腔が
せまく,鼻閉になりやすいが,本人の自覚症状
告する。
【対象】香川県綾川町(人口約 26,000 人)の小
に乏しい。また,上気道感染を繰り返しやす
学校 3 校で趣意書に同意が得られた児童 939 名
く,大人と比較すると鼻粘膜の炎症が長く続く
のうち鼻腔通気度検査ができた 892 名,男児
と言われている。さらにアレルギー性鼻炎の合
472名,女児420名を対象とした。
併により,さらに鼻閉がひどくなる。しかし,
【方法】平成 20 年 5 月 13 日~ 6 月 3 日の期間,
小児鼻疾患患者の鼻疾患を他覚的に評価した報
耳鼻咽喉科検診時に,日本光電製鼻腔通気度計
告は少ない。今回鼻疾患ありの児童は全体の
( MPR 3100 )を用い,ノズルアンテリオール
37.6であった。成人と比べ小児の鼻腔抵抗は
法にて鼻腔通気度検査を行った。鼻疾患群の定
もともと高いことが予想されるが,小児につい
義は鼻炎(急性,慢性,アレルギー性),副鼻
ても鼻腔抵抗基準値の設定が望まれる。また診
腔炎(急性,慢性),鼻中隔湾曲症のあるもの
療においても治療の他覚的評価として鼻腔通気
とした。また扁桃肥大の定義は Friedman 分類
度検査が行われ,治療の適応の目安とすること
の Grade 3, 4 とし,鼻腔抵抗値に扁桃肥大が
が重要であると思われた。
影響を及ぼすかどうか検討した。
― 123 ―
( 179 )
小児耳 30(2): 180 , 2009
84
市中病院小児科における乳幼児急性副鼻腔炎への取り組み
成相昭吉
横浜南共済病院小児科
【はじめに】乳幼児急性副鼻腔炎(AS)の診断
12.7日であった。膿性鼻汁は15例,後鼻漏は 3
は中鼻道を確認できれば容易だが,小児科医に
例,発熱を認めたのは 6 例であった。 AMPC
は困難である。アメリカ小児科学会( AAP )
が 有 効 だ っ た の は 13 例 , こ の う ち 3 例 で は
は臨床症状から診断する診療ガイドライン
BLNAR が分離されていた。無効例は 3 例で,
(GL)を公表しているが,国内小児科において
いずれも AZM に変更し軽快したが, BLNAR
GL はない。現在,耳鼻科により作成されつつ
ある ASGL の刊行が,乳幼児への抗菌薬適正
使用のために待たれる。
分離例は 1 例のみであった。
【考察】 AS と診断した乳幼児は 16 例のみで,
この症例数が臨床症状のみからの診断の限界を
【目的】 AAPGL を基本に乳幼児 AS の診断基
示すのか,多くの症例が開業小児科・耳鼻科を
準と昨年第 3 回本学会で報告した当科における
受診することを示すのか不明だが,急性肺炎と
急性中耳炎に対する抗菌薬療法案に準じて抗菌
診断し抗菌薬を投与する症例よりはるかに少な
薬選択基準を作成したうえで乳幼児 AS の診療
かった。膿性鼻汁は高率であったが後鼻漏は
を行い,急性期市中病院小児科における AS 症
21.4 で, AS の存在を想起する契機としてや
例の頻度・症例特性を検討した。
はり遷延する咳嗽は重要と考えられた。治療で
【対象】2008年 3 月~2009年 2 月までの 6 歳以
は AMPC 高用量により 81.3 は 3 日目後に軽
快した。しかし,有効例で BLNAR 分離例が 3
下の乳幼児例を対象にした。
 普通感冒などの急性
【方法】 AS の診断は,◯
例,無効例で BLNAR 非分離例が 2 例あり,
 色のついた(膿
上気道炎が先行,そのうえで◯
上咽頭培養結果と AMPC の効果が一致しない
 湿性咳嗽が 10
性)鼻汁や鼻閉が認められ,◯
症例を 3 例認め,原因菌検索には限界があると
 咽頭所見で後鼻漏を認める場合
日以上持続,◯
考えられた。無効例においては AZM が有用で
 を必須条件とした。細菌学的検査は経
とし,◯
あったことから,これらの症例では BLNAR
鼻腔上咽頭培養を行い, 1 綿棒あたり 105CFU
が関与し無効の背景に細胞内寄生・バイオフィ
(++≦)分離された場合を原因菌と想定した。
ル形成などが要因ではないかと推測された。
初期抗菌薬療法は AMPC を 80 mg / kg /日,分
【まとめ】耳鼻科による乳幼児 ASGL の完成を
3 , 3 日間とし, 3 日後に再来,症状が軽快し
待ち,小児科医はそれを参考にする必要があ
ていた場合を有効,2 日間追加し終了とした。
る。当面,抗菌薬の適正使用を目的に,
無 効 の 場 合 は AZM ( 10 mg / kg / 日 ) ま た は
AAPGL 診断基準に沿って診断し初期抗菌薬と
CDTRPI(18 mg/kg/日)に変更した。
して AMPC 高用量を選択する方法は,有用性
【結果】診断例は16例(男/女9/7,平均年齢
2.8 歳)であった。湿性咳嗽の持続時間は平均
( 180 )
が高いと考えられた。また,無効例には AZM
が有用である可能性が示唆された。
― 124 ―
小児耳 30(2): 181 , 2009
85
発熱を伴う小児急性上顎洞炎の 2 例
松原茂規
松原耳鼻いんこう科医院
【はじめに】発熱を伴う小児鼻副鼻腔炎例の頻
M. catarrhalis を検出した。鼻単純撮影で左上
度は多くない。今回 38 度以上の発熱と膿性鼻
顎洞にびまん性陰影を認めた。AMPC1500 mg
汁がともに 2 日以上続く小児急性上顎洞炎を
(40 mg/kg)を10日間内服し治癒を確認した。
AMPC 高用量(成人の常用量を超えない)に
上顎洞穿刺洗浄は施行しなかった。
【症例まとめ】 2 例とも小学生男児で既往歴に
て治療し,良好な結果を得たので報告する。
【症例 1 】 7 歳(小学 2 年)男児。既往歴に鼻
鼻アレルギーがあった。症例 1 は 2 日間,症
アレルギー(ダニ,スギ,ヒノキ陽性)がある。
例 2 は 3 日間の 38 度以上の発熱と中鼻道に限
平成 20 年 9 月 12 日, 38.7 度の発熱があり鼻閉
局した膿性鼻汁を認めた。起炎菌は症例 1 では
を自覚した。食欲は良好であった。以後 3 日間
PSSP と M. catarrhalis を 症 例 2 で は BLNAS
37 度台の発熱はあるが全身状態は良好であっ
と M. catarrhalis であった。治療は症例 1 では
た。 16 日学校に行った。 17 日昼学校で 38.3 度
AMPC 14 日間,症例 2 では AMPC 10 日間内
であり,鼻閉,鼻水を自覚した。頭痛,咳嗽は
服し治癒した。
認めなかった。同日当院を受診した。初診時,
【考察】全米小児科学会・副鼻腔炎の取り扱い
体温は37.1度であった。左中鼻道に限局して膿
に関する分科会による小児急性細菌性副鼻腔炎
性鼻汁を認め,同部からの細菌検査で PSSP と
の治療ガイドラインでは, 39 度以上の発熱と
M. catarrhalis を検出した。また鼻単純撮影で
膿性鼻汁がともに 3 ~ 4 日続く場合重症に分類
左上顎洞にびまん性陰影を認めた。治療は
されアモキシシリン( AMPC )倍量投与が推
AMPC1500 mg ( 60 mg / kg )を 14 日間内服し
奨されている。
治癒を確認した。上顎洞穿刺洗浄は施行しなか
った。
小児急性鼻副鼻腔炎に発熱を伴う頻度は多く
はない。その際の鼻内所見は中鼻道に限局して
【症例 2 】 12 歳(小学 6 年)男児。既往歴に鼻
いることが多く,鼻内の膿性鼻汁量は多くな
アレルギー(春期のみ)がある。平成 20 年 12
い。よって鼻内所見では重症と判定されない可
月23日に,38.9度の発熱と膿性鼻汁,咳嗽があ
能性がある。以上から,わが国での小児急性鼻
った。発熱は 2 日間あり解熱したが, 27 日に
副鼻腔炎のガイドラインを考える上で,臨床症
再び38.3度の発熱があった。膿性鼻汁と咳嗽は
状に発熱の項目が採用されることが望ましいと
続いた。食事は 7 割程度摂れ,水分摂取は良好
考える。
であった。 27 日当院を受診した。初診時体温
は37.8度であった。両中鼻道に限局して膿性鼻
【まとめ】発熱と膿性鼻汁がともに続く小児急
性鼻副鼻腔炎の 2 例を経験し報告した。
汁を認め,同部からの細菌検査で BLNAS と
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小児耳 30(2): 182 , 2009
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迅速な対応により視力の著明改善を得た小児鼻性視神経炎例
福嶋宗久,宮口
衛,神原留美,佐々木崇博
東大阪市立総合病院耳鼻咽喉科
【はじめに】鼻性視神経炎は副鼻腔炎により視
手術所見)右中鼻道からのアプローチを行な
神経の障害をきたす疾患で,早急な手術的治療
い,篩骨洞の隔壁を下方を中心に開放した。洞
を要する。今回我々は事故を契機に判明した右
粘膜はポリープ状となっていたため病的粘膜を
目の高度視力低下に対し,内視鏡下上顎洞篩骨
一部採取し病理に提出した。後部篩骨洞まで開
洞開放術を行ない視力の改善を得た小児副鼻腔
放し眼窩板を明視下においたが,明らかな骨欠
炎例を経験したので報告する。
損は認めなかった。上顎洞自然口周囲のポリー
症例)2 歳男性
プ状粘膜も可及的に鉗除し開窓した。ゼラチン
家族歴・既往歴)特になし
貼付剤(スポンゼル)を篩骨洞に挿入し手術終
現病歴)2 月 1 日転倒した時に手に持っていた
了とした。
シャーペンで右上眼瞼を突いて芯が刺さり,急
病理組織)炎症細胞浸潤が軽度見られた。
病診療所を受診。刺創はごく浅かったが視力検
【経過】術後 2 月 4 日か ら 2 月 6 日まで抗生剤
査を行なったところ右目の高度視力低下が判
CTX 1.5 g とヒドロコルチゾン 300 mg を連日
明。眼圧も正常であったため脳腫瘍を疑われ 2
投与。右の術前視力は手動弁であったが,2 月
月 3 日当院眼科を紹介受診。頭部 CT 撮影した
6 日に 0.1 と著明に改善。 2 月 12 日までに 0.4 と
ところ右側優位に上顎洞・篩骨洞を中心とする
なった。2 月12日に副鼻腔 CT 撮影し,非術側
副鼻腔炎が判明。2 月 4 日耳鼻科を受診。鼻性
の副鼻腔炎も改善していることを確認。2 月13
視神経炎が疑われたが眼底所見は乳頭萎縮もな
日に退院,当院眼科フォローとなった。
く,発症早期と判断。当日より入院し,ただち
考察)副鼻腔炎に起因する鼻性視神経炎に対し
に内視鏡下副鼻腔手術の方針となった。
て,副鼻腔手術は早期に視力改善をもたらし得
【所見】両鼻腔内はアレルギー様に粘膜肥厚し
る手段であると考えられた。
水様性鼻漏が見られたが,膿汁は明らかではな
【まとめ】1.事故を契機に鼻性視神経炎が判明
かった。機嫌は良く疼痛の訴えや熱発はなく,
した小児例を経験した。 2 .副鼻腔炎からの視
眼瞼周囲の発赤腫脹も認めなかった。血液検査
力低下が疑われる場合,耳鼻科医の迅速な対応
では明らかな炎症所見を認めなかった。
が重要である。
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本院小児耳鼻咽喉科の現況
愛場庸雅1),久保武志1),中野友明1),楠木
松下直樹2),植村 剛1)
誠1),古下尚美1),比良野彩子1),
1)大阪市立総合医療センター耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科,2)大阪市立大学耳鼻咽喉科
【はじめに】大阪市立総合医療センターは,総
にある。
合病院としての機能を持ちながら,その中に小
入院患者数は,持ち病床数に変化がないにも
児医療センターという専門的部門がある。小児
かかわらず増加しつつある。大半が手術目的で
耳鼻咽喉科は成人対象の耳鼻咽喉科とは別の科
あり,手術件数も増加している。術式では,ア
としてそこに所属しており,このような構造は
デノイド切除,扁桃摘出,鼓膜チューブ挿入が
他の施設にはみられない。本院における取り扱
多い。院内外からの紹介による,気管切開や喉
い疾患の現状を把握する事は,小児耳鼻咽喉科
頭気管分離手術の件数が増えてきつつある。
の役割を考える時に有用であると考え,開院以
【考察】総合病院の中にさらに小児専門施設が
来の患者の動向,疾病構造,手術件数などにつ
 高額の医療機
あることのメリットとしては,
き調査を行った。
器や ICU をはじめとする高度の設備を成人部
【対象】【方法】 1993 年開院以来,本院小児耳
門と共用する事により,有効利用が可能になる。
鼻咽喉科(原則中学生以下を対象とする)で取
 小児病院で問題となるキャリーオーバー児へ

り扱った,外来患者,聴力検査件数,入院患
の対応が同一施設で可能であり,患者にとって
者,手術件数,について調査を行った。経年的
安心できる。などの点が考えられる。
耳鼻咽喉科内における役割としても,小児耳
変化を見るとともに成人対象の耳鼻咽喉科の状
鼻咽喉科の比重は増加している。新生児聴覚ス
況とも比較した。
【結果】外来新患数は,経年的に大きな変動は
クリーニングの普及や滲出性中耳炎の増加によ
なく,およそ 1000 人前後である。その内約 80
り,一般病院の耳鼻咽喉科では困難な乳幼児期
の患者に聴力検査を行っており,難聴の精査
の聴力検査の件数が増えてきている。手術件数
目的の患者が圧倒的に多い。聴力検査の件数は
が増加している理由としては,小児科医や麻酔
増加傾向にあり,特に COR や ABR の件数が
科医の不足により一般病院での小児の手術が困
増加してきている。新生児聴覚スクリーニング
難になっていること,院内他科からの紹介によ
が一般的になってから,その精査のための
る合併症を有する児が多いことなどが考えられ
ABR の件数が増加したが,最近は頭打ち傾向
る。
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小児耳 30(2): 184 , 2009
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在宅支援相談室の耳鼻科領域の活動について
紫藤
隆1),浅沼
聡2),安達のどか2),井上雄太2),坂田英明3)
1)埼玉県立小児医療センター看護部在宅支援相談室,2)埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科,
3)目白大学言語聴覚学科
【はじめに】当センターの在宅支援相談室は設
て家族支援を担当している。また,地域保健施
立後 5 年目であり,在宅療養を行う患児・家族
設との連携窓口となり,継続した支援を提供し
の支援を目的として活動している。各種の相
ている。
談・指導,退院調整,地域連携を主な業務とし
3 )教育活動気管切開や難聴の子どもを持つ
ている。耳鼻科領域でも,気管切開外来・難聴
家族に対しての講演会を 4 回,地域保健師や訪
ベビー外来の運営に参加している。
問看護ステーション看護師を対象とした研修会
そこで今回,これまでの在宅支援相談室にお
を毎年開催している。
ける耳鼻科領域の活動をまとめ,現状と課題に
4 )地域連携気管切開を中心とした医療的ケ
ついて検討したのでここに報告する。
アを行う患児の地域支援を強化するために,行
【目的】1)在宅支援相談室の耳鼻科領域におけ
政や他施設との意見交換を行っている。埼玉県
る活動の現状を報告する。
重症心身障害児施設・関係機関連絡会議への参
2 )今後の在宅支援相談室の耳鼻科領域におけ
加や医療機関・福祉機関への訪問を実施してい
る課題を検討する。
る。
【結果】1)気管切開患児支援当センターでは
【考察】高度難聴や気管切開を行っている患児・
平 成 20 年 度 に , 在 宅 人 工 呼 吸 器 指 導 管 理 料
家族にとって,医療者の継続的な支援は重要で
(陽圧換気) 139 件,在宅気管切開患者指導管
ある。これは,医師・看護師・コメディカル等
理料 285件を算定しており,月に約 50人の気管
の各職種の協働が必要である。在宅支援相談室
カニューレ管理を行っている。在宅支援相談室
は,医療者間の連携の要となる役割を担ってお
では,気管切開管理患者全てに担当看護師を配
り,これまでの活動で医療者間の連携体制は整
置し,気管切開外来を中心として,医療的ケア
いつつある。しかし,地域との連携は十分とは
の指導や日常生活支援を行っている。
いえない。今後も耳鼻咽喉科の医師と協働し,
2 )新生児高度難聴患児支援新生児高度難聴
地域の支援体制を強化していく必要がある。特
患児の多職種外来である難聴ベビー外来の受診
に今後は,地域教育機関との連携を強化し,高
患者は,年間延べ約 250名である。在宅支援相
度難聴や気管切開を行っている患児・家族の教
談室では,外来運営を支援している。特に両側
育環境を整備してくことが課題である。
高度難聴の患者の場合は,告知の場面に同席し
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小児耳 30(2): 185 , 2009
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埼玉県立小児医療センター診療時間外における耳鼻科疾患の
電話相談対応(第 3 報)
細井千晴1),浅沼
聡2),安達のどか2),井上雄太2),坂田英明3)
1)埼玉県立小児医療センター外来・救急,2)埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科,
3)目白大学言語聴覚学科
【はじめに】小児救急医療は保護者の「いつで
容は,異物に関する事項が 31 件( 38.5 ),外
も」「どこでも」専門医による「質の高い診療」
傷に関する事項が 13 件( 16.0 ),鼻出血に関
を希望するものの,それに対応する体制が構築
する事項が 10 件( 12.3 ),耳痛に関する事項
できないことから,社会問題化している。この
が 7 件( 8.6 )であった。改訂後の相談は 51
社会問題を解決する一手段として小児救急電話
件あり,その内容は,異物に関する事項が 14
相談事業をはじめとする,電話相談が注目され
件( 27.5 ),外傷に関する事項が 6 件( 11.8
ている。当院では以前より,耳鼻咽喉科疾患に
),鼻出血に関する事項が 4 件( 7.8 ),耳
関連した電話相談を救急外来看護師が院内電話
痛に関する事項が15件(29.4)であった。
2 )改訂前の対応結果は, 32 件( 40.5 )が
対応マニュアルに沿って行っている。その結果,
65.4が救急受診を回避していたことを第 2 回
初期対応指導のみで解決し,21件(26.6)が
の本学会で発表した。第 3 回本学会においては
初期対応指導と翌日の近医受診の指導で解決し
救急受診を回避することができなかった症例を
ていた。一方,緊急性があると判断し,救急受
検証し,電話相談マニュアルの改訂を発表した。
診をアドバイスしたものは26件(32.9)であ
今回我々は,電話相談マニュアルの改訂によ
った。改訂後の対応結果は,17件(33.3)が
り,電話相談対応結果に変化がみられたかを明
初期対応指導のみで解決し,19件(37.3)が
らかにする目的で検討を行ったので報告する。
初期対応指導と翌日の近医受診の指導で解決し
【目的】埼玉県立小児医療センター診療時間外
ていた。一方,緊急性があると判断し,救急受
の耳鼻咽喉科疾患に関連する電話相談対応にお
診をアドバイスしたものは15件(29.4)であ
いて,電話相談対応マニュアルの改訂による対
った。
【考察】電話相談対応マニュアルの改訂前後に
応結果の変化を明らかにする。
【 対 象 ・ 方 法 】 対 象 は , 2006 年 1 月 1 日 か ら
おいて,若干の改善がみられた。電話相談対応
2006 年 3 月 31 日(改訂前とする)および 2008
において,症状や疾患の特徴を理解した上で緊
年 11 月 1 日から 2009 年 2 月 28 日(改訂後とす
急度を判断し,さらに適切な指導を行うこと
る)の診療時間外に耳鼻咽喉科疾患に関連する
は,小児救急医療の抱える問題の解決として大
電話による相談を受けた 132 名である。方法
変意義深く,簡便で対応に差の生じないことを
は,電話相談対応ノートから,相談の内容,そ
ポイントにおいた電話対応マニュアルは有用と
の対応を後方視的に調査した。
考えられる。
【結果】
1 )改訂前の相談は 81 件あり,その内
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