国際競争下における グローバル・ビジネス・リーダー

経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
国際競争下における
グローバル・ビジネス・リーダー
の育成と活用
経済広報センターは3月11日、経団連会館で「国際競争下におけるグローバル・ビジネス・リーダーの
イン部門には、リーダー候補者にキャリアを積ませ
同様にグローバルな人事制度を
るために優秀な人材を手放すことが求められる。ラ
導入し、国内外一体で運営して
イン部門からの反対を抑えるには、ボードメンバー
いる。
が積極的に関わることが必要である。
合前は、人事の重要な意思決定
プレゼンテーション
グローバル・リーダーの要件と育成
たちばな
さきえ
橘 ・フクシマ・咲江
G&S Global Advisors Inc. 社長
は基本的に東京本社が行ってい
た。統合後は地域と機能のマトリックスで各部門を
つなげ、重要な意思決定を必ずしも東京本社で行う
体制ではなくなった。
グローバル人材とは、多様な文化・背景を持つ人
日本の人財(資産としての人
間集団において、業務を遂行し、成果を上げること
材)市場における問題点は、需
ができる人材である。必要な資質は、多様性に対す
要(求人企業)と供給(求職者・
る受容力・対応力や、世界共通の言語を操る能力で
る、海外で通用する統率力を習得させる、部下管理
候 補 者 )の ミ ス マ ッ チ で あ る。
あり、日本人であるとは限らない。
日本企業におけるグローバル・ビジネス・
リーダーの育成と活用
の基本を習得させる、の3点がポイントとなる。非
需 要 側 が「 グ ロ ー バ ル な プ ロ
統合後に人事運営上で以前と大きく変わった点
日本人に対しては、自社への囲い込み、自社のグ
フェッショナルのチェンジエー
は、肩書き・業績評価・報酬制度の一元化、研修プ
おおたき れ い じ
ローバル・リーダーとしての育成、また、社内ネッ
ジェント(変革者)」を求めるのに対し、供給側はド
ログラムの再編・強化、適材適所の配置と次世代人
トワークの形成がポイントとなる。
メスティックな組織人であり管理者的人材だという
材の見極め・育成などである。
育成と活用」と題するシンポジウムを開催した。モデレーターは早稲田大学大学院商学研究科ビジネスス
クールの大滝令嗣教授(兼エーオンヒューイットジャパン会長)
。参加者は約130名。
講演
大滝令嗣
早稲田大学大学院
商学研究科 ビジネススクール 教授 兼
エーオンヒューイットジャパン(株) 会長
ことだ。
企業のグローバル化モデルとし
ドイツ企業におけるグローバル・ビジネス・
リーダーの育成と活用
躍できる人財、②組織を超えた汎用性の高いプロ
て、①海外展開の初期段階の輸
フランツ・ヴァルデンベルガー
フェッショナルスキルを持つ起・企業家的人財、③
組織スタイルから見た日本
出モデルに対応した「インター
筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 教授
ナショナル企業」、②権限を本
グローバル・リーダーとは、①国境を超えて活
創造的問題解決能力を持つ人財のことだ。つまり、
ダイムラーグループにおけるグローバル・
ビジネス・リーダーの育成・活用
えがみしげき
江上茂樹
三菱ふそうトラック・バス(株) 人事担当常務 人事・総務本部長
ドイツにおいてグローバル・
グローバルな専門性とマネジメント力を併せ持った
三 菱 ふ そ う ト ラ ッ ク・ バ ス
国に集中させ本国と同質的な文
ビジネス・リーダー育成とは、
プロフェッショナルな変革者的人財である。グロー
の資本構成はダイムラーグルー
化を持つ「グローバル企業」、③権限を各国に分散さ
「単一のリーダー育成プロセス」
バル・リーダーの要件としては、戦略的思考、起・
プが約90%、三菱グループが約
せ各国の文化を持つ「マルチナショナル企業」、④本
をグローバルに展開することが
企業家精神、多様性への対応能力と、そのための危
10%であり、ダイムラートラッ
国と各国の権限をバランスさせ企業特有の文化を持つ
基本である。
機管理、コミュニケーション、創造的問題解決、な
ク部門の大きな柱となっている。
リーダー育成に投資する理由
どの能力が挙げられる。グローバル市場では、人材
2006年に組織の階層をダイム
日本企業の組織の現状は、開発・製造・財務機能
は、表面的には上位のポジションへの準備や上位者
に市場価値があることを日本企業も意識することが
ラーに合わせるとともに、機能・事業ごとのマト
は集中型、営業は分散型であるが、人事については
への訓練であるが、その背景に
「競争優位をもたら
重要である。
リックス組織に変更したが、これをベースに、あら
本社人事と現地人事の間のコミュニケーションがな
すのは従業員である」という哲学があり、優秀な人
グローバルに成功するためには「外柔内剛」がポイ
く、グローバル化の足を引っ張っている。
材を囲い込むために魅力的なキャリアパスが必要だ
ントとなる。努力や誠実さといった日本的な長所や
からである。
日本企業のDNAをしっかりと保持しつつ、海外では
先ほどヴァルデンベルガー氏から話のあった、い
したたかに、柔軟に対応することが最も重要である。
わゆる
「単一のリーダー育成プロセス」を、ダイム
「トランスナショナル企業」
、の4つが挙げられる。
日本企業は、目指すグローバルモデルをはっき
りさせる必要がある。グローバル企業やトランス
リーダーの選別に当たっては、能力と実績が基本
ナショナル企業を目指す場合は「グローバル・ビジ
となるが、会社のビジョン、戦略、文化なども考慮
ネス・リーダー」が必要となる。インターナショナ
される。その検証のプロセスも重要である。
ル企業は日本人の海外赴任者が対応すればよく、マ
課題としては、グローバル基準が個々の国に必ず
ルチナショナル企業は海外赴任者プラス現地人リー
しもフィットしないことが挙げられる。その解決の
ダーでよい。
ためには、①リーダーの役割は定義するが、やり方
「グローバル・ビジネス・リーダー」の育成に当
はそれぞれに委ねる、②成果となるアウトプットは
たっては、日本人と非日本人それぞれに対して異な
定義するが、インプットは定義しない、といった対
るプログラムで行う必要がある。日本人には、自社
応が必要である。
のことを外国人に伝えられるレベルまで理解させ
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リーマン・ブラザーズとの統
〔経済広報〕2011年5月号
リーダーの育成は人事部門だけではできない。ラ
ゆる人事制度を順次ダイムラーのグローバルスキー
ムに変更している。
ラーグループも適用している。三菱ふそうトラック・
野村グループにおけるグローバル・
ビジネス・リーダーの育成・活用
バスでも評価制度、昇進制度、教育制度などで実施
やまにし
これらの制度に基づいて、日本人社員の海外研修へ
ひとし
山西 均
野村ホールディングス(株)
グループHR企画室長
野村グループの事業は大きく「営業(リテール)」
「資産運用(アセット・マネジメント)」「投資銀行業
務(ホールセール)」の3つに分けられる。このうち、
「投資銀行業務」については、欧米の競合金融機関と
しており、グローバルでの人材最適化を図っている。
の派遣やグローバル・プロジェクトを遂行するため
の海外駐在も含めた人材配置が増えてきた。今後は、
ドイツ本社でマネジメントを担うことのできる日本
人をいかに育成していくかが課題である。
k
(文責:前 国際広報部主任研究員 北井優康)
2011年5月号〔経済広報〕
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