情報番号:01080354 テーマ:役員や社員が勝手に行った契約の効力と

情報番号:01080354
テーマ:役員や社員が勝手に行った契約の効力と責任はどうなるのか
編著者:弁護士 高山 満(高山満法律事務所)
Q:役員や従業員が勝手に契約をした場合、会社および当該契約者はどのよう
な責任を問われるか
役員や従業員が勝手に契約を締結した場合,その有効性及び行為者の責任等
は,行為者が役員の場合と従業員の場合で大きく異なります。そこで,以下,
役員と従業員とに分けて説明します。
Ⅰ
役員が勝手に契約をした場合
役員といっても,代表取締役か一般の取締役かで異なります。
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代表取締役の場合
(1) 代表権の範囲
代表取締役は,会社の営業に関する一切の行為をなす権限を有するとされて
います(包括代表権。商法261条3項,78条1項)。
この代表権は,取引の安全(会社と取引関係に入った者乃至入ろうとする者
の利益保護)の観点から,内部的に制限することはできないとされています。
従って,たとえ会社が定款の規定をもって株主総会や取締役会の決議による
べきと定めた事項につき,代表取締役がそれらの決議を得ずに勝手に何らかの
契約をした場合であっても,その契約は相手方との関係では有効となります。
もっとも,会社の内部的制限を知っている相手方については,取引の安全を
考慮する必要はないので,会社は,このような者に対しては,契約の無効を主
張できることになります。
(2) 代表権の濫用
代表取締役が,客観的には代表権の範囲内の行為について,自己の利益を図
るために行為をすることを代表権の濫用といいます。
代表権濫用行為は,そもそも権限内の行為ですから,取引の安全が重視され
ます。すなわち,代表取締役が個人的な利益を図る目的で権限内の何らかの契
約を結んだ場合でも,その契約は相手方との関係では有効とされます。
もっとも,相手方が権限濫用の事実を知っていれば,会社はそのような相手
方に対し,契約の無効を主張できるといえるでしょう。この点は,代表権の内
部的制限の場合と同様です。
*著作権法等に基づき、この情報の無断コピーを禁じます。
(株)ジェイ・アール・エス(略称JRS)
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(3) 前提となる決議を欠いた行為の効力
法令によって株主総会や取締役会の決議事項とされているものについては,
次のとおり,行為の内容によって効果が異なると考えられます。
① 株主総会の決議を欠いた代表取締役の行為の効力
法令によって株主総会の決議事項とされているものについては,第三者とし
ては決議が法律上必要であることを知るべきである上,会社にとっては重要な
事項といえますから,有効な決議に基づかない代表取締役の行為は原則として
無効と考えられます。
例えば,事後設立(商法246条)や営業譲渡(商法245条)などがこれ
に当たりますので,代表取締役がこのような契約を勝手に結んだとしても,契
約は無効と考えられています。
② 取締役会の決議を欠いた代表取締役の行為の効力
取締役会の決議事項(商法260条2項各号等)については,代表取締役の
選任・監督につき会社(株主等)に責任があり,また,取締役会の決議は適法
になされていると第三者は合理的に期待すると考えられることから,会社の利
益より取引の安全を保護すべき必要が大きいといえます。
従って,例えば,重要な財産の処分や譲受に該当する取引(商法260条2
項1号)について,代表取締役が勝手に契約を結んだ場合,会社は,相手方に
対し,原則としてその契約の無効を主張することはできないと考えられます。
ただし,相手方が取締役会の決議を欠くことを知っていた場合であれば,会
社は相手方に対し,契約の無効を主張できるといえるでしょう。
2 一般の取締役の場合
一般の取締役は,代表権,すなわち会社を代表して行為する権限がありませ
ん。従って,一般の取締役が勝手に契約を締結した場合,原則として,会社は
その契約の無効を主張できます。
ただし,一般の取締役であっても,①「副社長」,「専務取締役」,「常務
取締役」など,通常は代表取締役に付される名称を付された取締役であって,
②そのような名称使用を会社が黙示的にでも認めており,③取引の相手方が代
表権限のないことを知らず,かつ,知らなかったことにつき重大な過失がない
場合,その相手方は,例外的に保護されます(商法262条)。
従って,一般の取締役が勝手に契約を締結した場合であっても,上記の①な
いし③の要件を充たす場合には,会社は相手方に対し契約の無効を主張できな
いことになります。
3 役員及び会社の責任
このように,役員が勝手に契約を締結した場合,その役員の地位や契約内容,
相手方の認識等によって契約の有効・無効が決まることになります。
もっとも,最終的に契約が有効になるか無効になるかとは別に,相手方に損
害が発生すれば,勝手な契約を締結した役員は,相手方に対し,損害を賠償す
る責任を負います(商法266条ノ3,民法709条)。また,行為を行った
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役員以外の役員も,監督義務を怠ったといえる場合には,行為者たる役員と連
帯して損害賠償の責任を負います。
他方,会社も,相手方に対し,損害賠償の責任を負うことになります(民法
44条1項)。このように,会社が相手方に対し損害賠償責任を負担する場合,
結局,役員が会社に損害を与えたことになるので,役員は会社に対しても損害
賠償しなければなりません(商法266条1項5号,2項,3項)。
Ⅱ
社員(従業員)が勝手に契約をした場合
1 契約の有効性
従業員が勝手に契約を締結した場合の契約の有効性は,その従業員の地位、
権限などの立場によって異なります。
まず,法律上,「商業使用人」といわれる従業員に該当する場合には,一定
程度の包括代理権を有することになります。
例えば,支店長など,営業の主任者に該当する者は,その営業に関しては包
括代理権を有するとされ(商法38条1項),また,部長・課長・係長・主任な
ど,営業に関するある種類または特定の事項に関する代理権を有する従業員は,
部分的な包括代理権を有するとされています(商法43条1項)。
従って,会社が何らかの内部的制限を定めており,これらの従業員がその内
部的制限に反する契約を勝手に締結した場合であっても,その契約締結が包括
代理権の範囲内の行為であれば,会社は,そのような制限を知らない相手方に
対して,契約の無効を主張することはできません(商法38条3項,43条2
項)。
しかし,従業員が,包括代理権を越える契約を締結した場合は,会社は契約
の相手方に対し,契約の無効を主張できます。
他方,包括代理権を有さない従業員の場合は,表見代理(民法110条等)
が成立する例外的な場合を除いて,勝手に締結した契約が有効となることはあ
りません。
2 従業員及び会社の責任
従業員が勝手に契約を締結したことにより相手方に損害が生じた場合,その
従業員は,相手方に対し,損害賠償責任を負います(民法709条)。
他方,会社も,相手方に対し,使用者として,損害賠償責任を負うことにな
ります(民法715条1項)。会社が相手方に対し損害を賠償した場合,会社
は,当該従業員に対し,求償することができますが(同条3項),求償の範囲
は過失割合によって制限される場合があります。
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