・NASAガイドラインは、NASAの発行 ではあるが、個人的活動である

2000. 09.19
NO. 253
日本航空機長組合
TEL 03-5756- 3909
日 本 航 空 先 任 航 空 機 関 士 組 合
日本航空乗員組合
TEL 03-5756-3074
TEL 03-5756-9251
控訴から実に 7 ヶ月、会社から控訴理由書提出される!
・NASAガイドラインは、NASAの発行
ではあるが、個人的活動である?!
・DLRの論文は、主観的疲労調査により、
制限値を求めており、問題がある?!
(会社主張)
控訴理由書解説シリーズ⑤
・NASAガイドライン、DLR研究報告の評価に対する反論
会社控訴理由書より抜粋
・ NASAガイドラインは、発行名義こそ米国航空宇宙局とさ
れているが、その実質は、いかなる団体をも代表しない。こ
こで述べられている内容は研究者の個人的活動であり、いか
なる団体の見解も表明するものでもない。
・ DLR論文では飛行勤務時間の制限値を導くにあたって、主
観的疲労度の測定結果を根拠にしているが、この分析方法は、
使用した主観的疲労測定の測定手法に疑問があること、測定
値とパフォーマンスとの関係が検証されていないという二つ
の問題がある。
会社は、控訴理由書を提出するにあたり、かつてボーイング社に出向経歴
を持つ運航企画部元課長を運航技術部に異動させた上で、ボーイング社へ派
遣し、特に2名編成機の安全性を強調するためにメーカーである同社のテス
トパイロットやエンジニアに供述書を書かせています。
また、第一審の判決が参考とした「NASAガイドライン」 1)や「DL
Rの論文」2 )の位置づけを意図的に低めるために、NASAガイドライン
の5人の研究者のひとりであり、現在ボーイング社所属となっているカーテ
ィス・グレーバー博士に宣誓供述書を書かせ、会社はこれらの供述書を基に
控訴理由を組み立てています。そしてこの控訴理由書の中で、会社はシリー
ズ②でお知らせしたような「諸系統の誤操作による全損事故の多くは、航空
機関士が原因要素になっている」と主張しています。またグレーバー博士の
供述書の内容は、判決への反論を意識するあまり、彼が過去の研究論文で述
べていることと大きく矛盾する意見を述べているなど、多くの問題を含んで
います。
会社控訴理由書より抜粋
・NASAガイドラインについて
NASAガイドラインは、発行名義こそ米国航空宇宙局とされているが、その実質
は、いかなる団体をも代表しない、5名の科学者が個人的に集まったワーキンググル
ープが行った活動の結果である。要するに、ここで述べられている内容は研究者の個
人的活動であり、いかなる団体の見解も表明するものでもないのである。また、NA
SAガイドラインの共著者のひとりであるグレーバー博士によれば、NASAガイド
ラインはNASAの公式プロジェクトではなく、勿論80年代初頭よりNASAが継
続して研究してきた一連のNASA疲労対策プログラムの一環でもなければ集大成で
もなく、これらの研究とは別箇にまとめられたものである。
原判決は、NASAガイドラインを、一連のNASA疲労対策プログラムの延長に
あるものと理解しているようであるが、それは誤りである。
会社控訴理由書より抜粋
1)FAAからの依頼によりNASAが1995年に発行した「民間航空における運航乗務員の勤務
と休養のスケジュール作成・運用についての原則とガイドライン」
2)欧州統一航空局とドイツ運輸省の依頼を受けて、ドイツ航空医学研究所が1993年に発表した
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原審はNASAガイドラインを引用して、「この制限は、飛行時間が12時間経過以
降に能力を低下させる疲労の傾向が著しく増加したことを証明する航空界からのデー
タを含む多様な情報源からの科学的研究結果を根拠にしている。」と記しているが、実
際のところ、グレーバー博士によれば、この科学的データには航空産業以外の分野に
おける研究成果によるものがかなり多数含まれているのである。自動化が進み、他の
一般の業務とは大きく異なる作業環境にある航空機運航乗務員の飛行勤務時間制限値
が、こうした航空産業以外の分野における研究成果を多数含めたアプローチにより導
かれていることを理解すれば、この制限値をそのまま安全の基準として捉えることが
いかに奇抜なことであるかが理解されよう。
<組合解説>
ここで、会社が何を主張したのか必ずしも明確ではありませんが、もし、会社の運
航乗務員の業務に対する認識が、「運航乗務員の作業環境は、自動化が進み、一般の産
業界の業務とは大きく異なる(軽減されている)ので、安全基準としての制限時間は、
一般産業の制限時間よりも長くても安全上問題がない」であるとするならば、大きな
間違いであり、早急に乗員全体で会社の認識を改めさせる必要があります。
絶対安全を追求しなければならないはずの航空経営が、時差、徹夜、騒音、低湿度、
低酸素、宇宙放射線の被爆という環境の中で、しかもある時は悪天候の中で長時間乗
務を行っている乗員の労働環境に対して、もしこのようにしか考えていないとするな
らば、運航の安全など守れるはずはありません。
会社控訴理由書より抜粋
原審は、NASAガイドラインの「24時間中の累積の飛行勤務時間3)10時間を
超えないことが望ましく、24時間中12時間までは延長することができ、…能力を
低下させる疲労は飛行時間12時間を超えると増大し、セーフティー・マージン(安
全の余裕度)が低下することになる得る」との提言を、そのまま安全基準として採用
している。(中略)しかしながらガイドラインの実施にあたってはさらに多数の考慮が
必要であるとされており、なおかつ、考慮しなければならない事項には経済、法律、
コストと利益その他が含まれるのであるが、、、(中略)この論文で提案されている飛行
勤務時間の制限値は、科学的見地からの安全の基準についての一つの提言に留まると
理解すべきものであって、原判決がこの提言を絶対視し、安全の基準としてそのまま
用いようとしたことの不当性は明らかである。
運航乗務員の疲労と飛行勤務時間制限についてまとめた論文
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<組合解説>
勿論、航空会社として、コストや利益を考慮しなければならないことは否定しませ
んが、それは科学的見地からの提言があるならば、その内側でどこに制限値を設定す
るかという場面で考慮される事項ではあっても、その提言を超えて制限値を設定する
ための理由とはなり得ません。飛行勤務時間10時間という科学的な提言があり、コ
ストや利益その他の状況を考慮し、その内側で飛行時間制限を8時間とするのかある
いは10時間と設定するのかという場面で考慮すべきことはあっても、この科学的見
地からの提言を超えて例えば15時間という制限値を設定する理由とはなり得ません。
会社控訴理由書より抜粋
・DLR論文について
DLR論文は、DLRが、ドイツ運輸省及び欧州航空当局(JAA)からの依頼に
基づき、91年から2名編成機の長距離運航について行った研究の結果及び関連する
当時の研究についてとりまとめ、93年に発表されたものである。
(中略)DLR論文
では、これらのうち主観的疲労度測定の結果のみに基づいて飛行勤務時間の制限値を
提言している。以下にその手法の問題点について述べる。
DLR論文では飛行勤務時間の制限値を導くにあたって、主観的疲労度の測定結果
を根拠にしているが、グレーバー博士によれば、この分析方法は、そのそも主観的疲
労度の測定結果のみに基づいているという問題に加えて、使用した主観的疲労測定の
測定手法に疑問があること、測定値とパフォーマンスとの関係が検証されていないと
いう二つの問題がある。以下にその問題点を明らかにする。
(1) 主観的疲労度測定手法の問題点
(2) 主観的疲労度測定値から安全基準を導く手法における問題点
<組合解説>
会社は、DLR研究は主観的疲労度の測定のみにより飛行勤務時間を導いているの
で、問題があるとしていますが、その一方でボーイング社はB767やー400型機
のワークロードの検証では、PSEという主観的評価方法での検証で結果を導いてい
ます。また、JAPAの調査でも一応の医学的検証(ただし、脳波や眼球運動の調査
は行われていない)は行われていますが、主に主観的疲労調査により2名編成機と3
名編成機の疲労度には差がないとの結論を導いています。
3)飛行勤務時間とは、ショウアップからブロックインまたは勤務終了までと定義。日本航空の規定
の場合、乗務時間に1時間30分∼2時間30分を加えたものが飛行勤務時間に相当する。
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