Aくんの家庭復帰までの取り組みについて~ペアレント・トレーニングの実践

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Aくんの家庭復帰までの取り組みについて
~ペアレント・トレーニングの実践〜
桐の実会 わたらせ養護園 太田 徹
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はじめに
福祉型障害児入所施設わたらせ養護園は、来年創立 50 周年を迎える。当園は、知的障害
児の就学前の早期療育を目的に設立されたが、近年、入所理由の傾向が大きく変わってき
ている。発達障害といわれる児童が増え、その障害特徴から家庭での養育が難しくなり、
小学校高学年から入所してくるケースが後を絶たない。そのようなケースに対応するため、
今まで行ってきた児童の発達支援だけでなく、保護者の養育能力を高める家族支援にも力
を注いでいる。今回はペアレント・トレーニングを活用した入所から家庭復帰するまでの
取り組みを報告したい。
2 A くんのプロフィール
利用開始 平成 25 年 5 月中旬
性別年齢
男性 6 才
障害特徴 自閉症スペクトラム 療育手帳なし
I
66+α(田中ビネー)
A D
L
ほぼ自立
行動特徴
Q
多動 他害(叩く、噛む、引っ掻く)衣類を散らかす
入所理由 多動や集団行動の苦手さ、コミュニケーションの問題に加えて母子の愛着関係
があり、適切な環境において専門的な生活訓練を受けさせたいため。
3
平成 25 年度・26 年度の様子
平成 25 年 5 月に入所し、当初から他害や自分の思い通りにいかなくてガラスや扉にあた
る事がみられたが、折り紙やお絵描きなど本児の興味が持てる物を提供し、根気強く職員
が関わっていく中で平成 25 年度の終わりには、落ち着いた生活が送れるようになった。そ
の変化は、帰省した時の家庭でも同じであった。
しかし、平成 26 年 2 月に B くんが入所し、A くんはその行動が気になり始める。平成 26
年度始まってからは、それがエスカレートしていき何もしていない B くんに対して手を上
げたり、文句をつけるようになる。その事で、職員から注意を受ける事が増え、日常生活
では落ち着かない様子が増え始める。そんな中、母親は、平成 27 年 3 月に家庭復帰を希望
しているが不安を抱えていた。このまま、A くんが好ましくない行動をとり、職員に注意
される事が増えていけば子育ての悪循環に陥り、抜けられなくなる危険性を感じた。また、
家庭復帰後、良い親子関係を築くのが難しくなってしまう事も考え、子育ての悪循環を断
つ事ができるというペアレント・トレーニングの実践を試みる事にした。
4
ペアレント・トレーニングとは
・アメリカで ADHD への対応法として生まれたトレーニングプログラムである。
・保護者や支援者が子どもの行動背景を理解して、より適切な接し方をするための練習を
体系化したものである。
・子どもを変えるのではなく、保護者や支援者がよりよい対応法を身につけて楽になるた
めのものである。練習するのも変わるのも大人である。大人が変わる事で、間接的に子
どもの行動へと影響していく。
・子どもの行動を 3 種類に分けて、それぞれの行動に合わせた対応をする。
行動を 3 種類に分ける具体例
行動
対応
具体例
好ましい行動
ほめる
・声を掛けると宿題をする。
(増やしたい行動)
・人に玩具を貸せる。
・自分からお手伝いできる。
・「ありがとう」と言える。
・イライラを我慢できる。
好ましくない行動
注目しない
・「クソババア」と言う。
(減らしたい行動)
良い行動がみられたら
・入浴を嫌がってぐずる。
ほめる
・欲しい物を大声でねだる。
許しがたい行動
警告とタイムアウト
・人を思いきり叩く。
(すぐやめるべき行動)
良い行動がみられたら
・危険な所にわざと上がる。
ほめる
・「死ね」と暴言を吐く。
・ふざけて赤信号を渡る。
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ペアレント・トレーニングの実践開始(平成 26 年 7 月 15 日~)
①A くんの日常生活における行動を全職員で 3 種類に分けて確認する。
②実践評価を 1 か月に 1 回全職員で行う(3 ヶ月間)。
③実践評価を考察し、平成 27 年 3 月下旬の退園まで実践を継続する。
①A くんの日常生活における行動を全職員で 3 種類に分けて確認する(7/15)。
行動
対応
具体例
好ましい行動
ほめる
・手伝いができる。
・人に玩具を貨せる。
・他児の面倒をみられる。
・他児がいけない事をしたら報告できる。
・言われたらすぐに行動に移す。
・「ありがとう」
「ごめんね」が言える。
・待つ事ができる。
・(声を掛けると)片付けができる。
・頑張った後に良い事があると活動を頑張れる。
・動物、魚、虫など色々な物に興味を示す。
・自分のやりたい事を言える。
・癇癪を起しても、制止を聞きいれられる事がある。
・きのこを食べるのを頑張っている。
好ましくない行動
注目しない
・自分や他児の衣類を散らかす。
・自分の気持ちを素直に言えず、すねてしまう。
・遊んだものをそのままにしてしまう。
・思い通りにならないと大声で泣く。
・他児に悪口を言う。
・時々、口が悪い。
・スプーンで遊ぶ。
・ナフキンでペンギンを作って遊ぶ。
許しがたい行動
警告と
・思い通りにならないと人を叩く、押す、物にあたる。
タイムアウト
・何もなくても他害することがある。
②実践評価を 1 か月に 1 回全職員で行う(3 ヶ月間)。
・1回目(7/21~8/21 分)8/26 に評価
・2回目(8/22~9/28 分)9/30 に評価
・3回目(9/28~10/28 分)10/29 に評価
好ましい行動の比較
8/26~10/29
評価日
行動内容
計
1 回目評価日:8/26
・手伝いができた(洗濯物をたたむ②、荷物運び)
:3 件。
13
(7/21~8/21 分)
・職員が指示し行えた(片付け、きのこを食べた)
:2 件。
・折り紙やお絵描きをして静かに過ごせた:2 件。
・衣類を散らかさなかった。
・自ら行動できた(歯磨き③、着席②)
:5 件。
2 回目評価日:9/30
・手伝いができた(洗濯物をたたむ②、荷物運び②)
:4 件。
(8/22~9/28 分)
・自ら行動できた(歯磨き②、片付け②)
:4 件。
27
・職員が指示し行えた(片付け②、着席②、入浴②、就寝)
:7 件。
・好きな事をして静かに過ごせた(折り紙②、お絵描き)
:3 件。
・他児が洗濯物に乗っているのを職員に報告できた。
・他児に物を貸せた(タオル、玩具)
:2 件。
・カブト虫の絵と自分の名前を上手に書けた。
・嫌な事あり説明できた(折り紙破れる②、服濡れる):3 件。Ⅰ
・
「折り紙を出してください」と丁寧に言えた:2 件。
3 回目評価日:10/29
・絵本を上手に読めた。
(9/28~10/28 分)
・職員に礼を言えた(タオル、折り紙):2 件。
・手伝いができた:3 件。
・職員が指示し行えた(本②、折り紙⑥)
:8 件。
・活動に落ち着いて参加できた:3 件。
・自ら行動できた(ゴミ拾い、着席):2 件。
・他児がおむつで遊んでいるのを注意できた。
・他児に折り紙を食べられたが、八つ当たりしなかった。
・状況を見て玩具を出してと要求できた。 Ⅱ
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好ましくない行動の比較
評価日
行動内容
1 回目評価日:8/26
・食事中、離席あり。職員が理由を問うとお替りであると言えた。 8
(7/21~8/21 分)
・おやつ時、缶のプルタブが折れ、中に入る。「違うのがいい!」
と怒るが、職員は注目せず見守る。その後、落ち着いた。
計
怒
・思い通りいかず怒るが、職員は注目しないと落ち着く(折り紙)
。 4
・食事を早く片付けたいと訴え、机を動かして不機嫌な声を上げて
怒るが、職員はその行動に注目しないと待てた。
・食事中、職員が指示し行えた(足癖直す、席移動しない)
:2 件。
・
「外に出たい」と主張するが、状況により入浴になると怒る。職
員が「お風呂で水遊びしよう」と提案すると風呂に行ける。
・食事前、食堂に入るように声を掛けると「25 分になったら入る」
と答える。25 分過ぎたため、再度、声を掛けると入室できた。
2 回目評価日:9/30
・衣類で遊ぶ。片付けるように指示すると片付けられた:2 件。
(8/22~9/28 分)
・思い通りいかず怒るが、注目しないと落ち着く(玩具③)
:3 件。
11
・思い通りいかず怒るが、職員が指示し行えた(入浴②、ドライブ、 怒
活動):4 件。
7
・高い場所に登っているため、降りるように指示すると降りられた。
・食事中、離席する。職員が注目しないと座り、その後離席無し。
3 回目評価日:10/29
・思い通りいかず怒る。理由を聞くと、落ち着く(風呂②、外遊び)
: 5
(9/28~10/28 分)
3 件。
・食事時間を守れず。指示すると怒らず入室できた。
怒
・活動中、座る場面で立っている。指示すると怒らず着席できた。 3
許しがたい行動の比較
評価日
行動内容
計
1 回目評価日:8/26
・板を持って他児を追いかけている。止めるように指示するが、続 2
けているため、板を預かり、居室に 1 人にすると落ち着く。
(7/21~8/21 分)
・他児を追い回している。職員が理由と尋ねると謝り止めた。
2 回目評価日:9/30
・なし
0
・なし
0
(8/22~9/28 分)
3 回目評価日:10/29
(9/28~10/28 分)
3 回の評価を終え、考察
行動の種類
評価・考察
好ましい行動
・1 回目評価 13 回、2 回目評価 27 回、3 回目評価 22 回である。7 月 21 日
(ペアレント・トレーニング開始)~10 月 28 日までで計 62 回ほめられた。
・嫌な事があっても怒らず説明する事が増えた:Ⅰ。
・状況を考え判断できるようになった:Ⅱ。
好ましくない行動 ・1 回目評価 8 回、2 回目評価 11 回、3 回目評価 5 回であり、3 回目は 1 回
目よりも少なくなった。
・怒る事が 1 回目評価 4 回、2 回目評価 7 回、3 回目評価 3 回と減った。
・職員の指示に対して怒らず行える事が増えた。
・職員が注目しない対応をとる事で早めに落ち着いている。
許しがたい行動
・1 回目評価 2 回あったが、2、3 回目評価ではみられていない。
職員の気付き
・好ましくない行動に対してもほめて終了できるので気持ちが楽である。
③実践結果から効果的と評価できたため、退園まで実践を継続する。 10/29~3/下旬
好ましい行動
月 行動内容
計
10 ・職員が指示し、片付けができた。
3
・自ら片付けできた。
・活動に参加できた。
※10/29~10/31 の記録
11 ・自らできた(入浴、挨拶②、スリッパ届ける、食事の間違い報告、就寝)
:6 件。 17
・活動に参加できた:3 件。
・職員が指示し行えた(折り紙を待つ、入浴、居室の移動)
:3 件。
・他児にブランコを譲れた。
・他児との関わり(衣類の片付けを手伝う、遊具の使い方を教える):2 件。
・食堂で静かに過ごせた。:2 件。
12 ・自らできた(歯磨き、挨拶)
:2 件。
13
・活動に参加できた:2 件。
・職員が指示し行えた(帰省中止報告、通院、靴下履く、テープ待つ):4 件。
・他児に物を貸せた(玩具、スコップ):2 件。
・他児との関わり(呼びに行く、靴を出す):2 件。
・食堂で静かに過ごせた。
1
8
・苦手なきのこを食べた:4 件。
・職員が指示し片付けた。
・他児と仲良く遊べた。
・食事の配膳を手伝えた。
・礼を言えた。
2
※冬休み帰省
12/27~1/6
・活動に参加できた:4 件。
13
・職員が指示し行えた(折り紙待つ②、遊びの中断、片付け③):6 件。
・食堂で静かに過ごせた。
・礼を言えた:2 件。
3
・手伝いできた(おむつたたみ③、ナフキンたたみ③):6 件。
10
・職員が指示し行えた(折り紙待つ②、片付け②):4 件。
好ましくない行動(許しがたい行動なし)
月 行動内容
10 ・なし
計
※10/29~10/31 の記録
11 ・食事中、突然離席する。理由を問うとお替わりである事を説明できた。
0
9
・好きな菓子がなくて怒る。笑顔で食べると美味しい事を伝えると食べた。
・活動に参加せず、砂遊びしている。参加するように指示すると参加できた。
・他児に砂を投げている。好ましい行動であるか確認すると謝れた。
・衣類を散らかし遊んでいる。好ましい行動であるか確認すると謝り、片付けた。
・玩具で遊んで食堂入室できず。籠を渡すと片付けられた。
・食事中、離席するが、座るように指示すると座れた。
・居室の移動をお願いするが、遊びたいと怒る。笑顔を向けると移動できた。
・好きな菓子を選べず、コップを投げる。職員が注目しないで見守ると落ち着く。
12 ・好きな児童の隣に座れなくて怒る。その行動に注目しないと落ち着く。
5
・注射を嫌がる。職員が励ますと落ち着いて接種できた。
・食事中、残した物を隠してお替りしようとする。一口食べようと促すと食べた。
・病児のため、行事に参加できず泣いて騒ぐ。玩具を渡すと落ち着く。
・他児と喧嘩をする。2 人で話し合い、仲直りできた。
1
・食事中、離席しようとする。みんなが食べ終わるまで待つように話すと待てた。 5
・食事前、遊んでいて食堂入室できない。笑顔を向けると片付けられた。
・テレビを見たくて、怒り風呂に入れず。注目しないと落ち着き、入浴できた。
・就前入室するが、扉を開けてふざけている。注目しないと止めた:2 件。
※冬休み帰省 12/27~1/6
2
・食事中、汁物で服が汚れた事に怒り、泣き叫ぶ。声掛けず見守ると落ち着く。
2
・活動に入るため、テレビを消すと、怒るが我慢できた事をほめると落ち着く。
3
・なし
0
実践評価
好ましい行動は毎月ほぼ 10 回以上みられ、好ましくない行動は軽減し、許しがたい行
動はみられなくなった。このことから入所当初に比べてかなり落ち着いて生活できてい
ると評価できる。この実践をまとめ、役立てられるように家庭訪問を行った。
6
平成 27 年 3 月退所前の家庭訪問実施
・母親から A くんの帰省した時の行動について聞き取る
①トイレ掃除をすると祖父に怒られる。
②玄関にある靴を揃える事ができたが、ほめた事はない。
③起床後、親を起こさず、1 人で過ごせたが、ほめた事はない。
・職員より助言
上記の①~③は、好ましい行動に分類される。今後、その行動がみられたら必ずほめて
ほしいとお願いする。A くんはほめられる機会が増える事で好ましい行動が増え、好ま
しくない行動が軽減する傾向がある事を伝える。
7
平成 27 年 4 月退所後の家庭訪問実施
・母親に家庭における A くんの行動を 3 種類に分けてもらい、対応策を一緒に考える。
・母親より、退所後、A くんとの関わりで子育ての悪循環に陥る危険を感じたが、自分が
ゆとりを持つように意識して関わる事で子どもも変わる事を実感されていた。この話し
を聞き、行動を客観的に捉えられるペアレント・トレーニングは子育てを手助けしてく
れると感じた。
・母親に行動を 3 種類に分けてもらい、職員が対応策を助言する。
好ましい行動
行動内容(保護者記入)
①トイレの掃除ができる。
・好き嫌いなく何でも食べられる。
②玄関にある靴を揃える事ができる。
・洗濯物をたたむ手伝いができる。
③1 人で起きて 1 人の時間を過ごせる。
・1 人で寝られる。
・すぐ礼が言える。
「ありがとう、ごめんね」
。 ・好きな事が言える。
・着替えを風呂に入る前に用意できる。
・「行ってきます」と元気に登校できる。
・一緒に他の人の着替えを用意してくれる。 ・帰宅後、必ず手洗い、うがいができる。
・親の仕事場に来ると掃除を手伝える。
・自分から部屋に行き 1 人で遊べる。
対応策(職員の助言)
好ましい行動が、14 個もある事自体が素晴らしい。これらの行動がみられたら必ずほめて
ほしい。 ※①~③は、退所前の家庭訪問で必ずほめてほしいとお願いした事柄である。
好ましくない行動
行動内容(保護者記入)
対応策(職員の助言)
・思い通りにいかないとすぐにすねる。
注目しない。すねるのを止めたらほめる。
・テレビを見ながら食事が進まない。
食事中、可能ならテレビを消し、会話する時間
にする。テレビを見ずに食事できたらほめる。
・物にあたる。
危険ない範囲で注目しない。止めたらほめる。
・テレビや好きな事に熱中していると 熱中するのは良い事である。何も熱中するもの
声を掛けても全く反応がない。
がない時、話す。
・学校の時の朝の着替えに時間がかかる スケジュールの掲示(起床、着替えの時間な
(20 分もふざけている)
。
ど)。できたらカレンダーにシールを貼る。
・クッションや布団など駄目と言ってもパ 注目しない。ふざけるのを止めたらほめる。
タパタとしふざける(何度も何度も)。
・悪い事をしても自分から「ごめんね」と 注目しない。悪い事をしたのは自覚している可
謝る事がたまにできない。
・1 人で遊んでいても独り言が多い。
能性あり。謝れた時に大げさにほめる。
独り言自体は問題ないが、問題があるならば独
り言なく遊べた時にほめる。
許しがたい行動
行動内容(保護者記入)
対応策(職員の助言)
・物にあたる(投げる・蹴る)
。
「次に物にあたったら○○します」と警告し、
止めない場合は行動制限を実行する。※注
・扉など壁を蹴る。
「次に扉を蹴ったら○○します」と警告し、止
めない場合は行動制限を実行する。※注
・話しをしていてもふざける。
ふざけるのであれば注目しない。話しを聞けた
時にほめる。
・怒られても分かっている様子がない
怒り顔が刺激になっている場合もあるので、無
(笑ってふざけている)
。
表情で伝える。ふざけない時にほめる。
・駄目と言うと余計に駄目な事などいけな 「次に駄目な事(具体的に)をしたら○○しま
い事などをする行動。
す」と警告し、止めない場合、行動制限を実行
する。※注
・外へ出ると石を投げる事が多い。
河原で石を好きに投げる機会を与え、投げたい
のであれば河原で投げようと伝える。外出時、
石を投げなかったり、話しを聞けたらほめる。
・赤ん坊のような声で叫ぶ。奇声をあげる。 叫び声や奇声に注目しない。穏やかに話せた時
ほめる。
※注意:行動制限は事前に決めておく。1日食事抜きとか1日話さないという制限は厳し
すぎる。例えば、好きなゲームの時間を 10 分減らすとか 10 分早く寝るなどが良い。
8
平成 27 年 5 月 C 児童相談所との連携
家庭でもペアレント・トレーニングを実践できるように支援したが、保護者だけでは実
践を継続していくのは難しいと考え、より長く実践できるように C 児童相談所の在宅支援
係りの方にも同じものを引き継ぎ母親のサポートを頼んだ。
9
まとめ
A くんは、最初に職員間で確認した好ましくない行動、許しがたい行動は影を潜め、好
ましい行動だけが目立つようになった。入所当初、保護者から「空気が読めるようにして
ほしい」という要望を第一優先でお願いされた時、どう支援していったらよいか悩んだが、
好ましい行動にもあるように自分の要望があっても自ら状況を判断して行動できるまでに
なった。今の A くんであれば、きっと充実した家庭生活を送れると確信している。
実践を通してペアレント・トレーニングの効果を実感できたが、A くんが入所支援を受
けなければ家庭復帰は難しかったと考えている。家庭でつくられた子育ての悪循環を断ち
切るのは容易なものではない。入所した事で、保護者には冷静に考えられる環境を作り、
児童には第三者である職員がペアレント・トレーニングを実践した事で子育ての好循環に
つながり、よいタイミングで家庭につなげる事ができた。今回、家庭での危機的状況から
2 年以内に家庭復帰ができたのも保護者に代わって児童をお預かりするという入所施設だ
からこそ実現したと考えて良いのではないか。入所施設の今後の方向性として、児童と保
護者に落ち着いた環境を提供するだけではなく、家庭復帰につなげる保護者支援も大切で
ある。それに加えて退所後の福祉サービスにつなげていく調整、つまり横の連携もまた重
要であると感じている。これからも共生社会の実現に向けて地域福祉の要としての役割を
担えるようにより良い支援を考えながら取り組んでいきたい。
10
参考文献
・「発達障害の子の育て方が分かる!ペアレント・トレーニング」 上林靖子監修
講談社(2009)