第14回 あなたが難民になったら

第14回 あなたが難民になったら
パナソニック提供龍谷講座 in 大阪
∼今、あなたに知ってほしい世界の現実∼
2010 年度 社会貢献・国際協力入門講座
日時
10 月 6 日(水)午後 7 時∼8 時 30 分
会場
龍谷大学大阪梅田キャンパス研修室
講師
中尾 秀一
アジア福祉教育財団 難民事業本部 関西支部 支部長代行
(http://www.rhq.gr.jp/)
ワークショップを通して、もしわたしたちが難民になったらどうす
るかを考え、難民の発生から解決までの流れについて理解を深めまし
た。
『難民』の定義とは?
そもそも難民とはどのような人のことなのでしょうか。参加者は以
下の①∼⑥について、難民なのかどうかを考えました。
①政府を批判する新聞を発行したために弾圧を受け、外国へ逃げた人
②政府軍とゲリラの戦闘が激化したため、隣国へ逃れた人
③隣国との戦争のため、戦火を避けて国内のほかの村へ逃れた人
④自国が貧しいため、より良い暮らしを求めて外国へ移った人
⑤火山の噴火のために、自分の暮らしていた村が火山灰に埋まってしまい、隣国へ移った人
⑥干ばつのために食糧が不足し、隣国へ逃げた人
難民を定義するための絶対的なルールはありません。最も基本的な国際ルールは、1951 年に採択され、
日本を含む 147 カ国が加入する「難民の地位に関する条約(以下難民条約)」です。難民条約では、「自
国にいては迫害を受ける恐れがある」「国外にいる」「自国の保護がない、もしくは望まない状態」の
三条件を満たす者を難民だと定義しています。
従って、上記①は難民です。難民条約が採択された 1951 年は、冷戦の初期にあたります。難民条約を
作る際に「社会主義体制の東側から西側に逃れてくる者を助ける」ことが念頭に置かれました。
②は、迫害を受ける恐れがないため、条約上の難民からは外れます。しかし、1951 年以降、特にアフ
リカやアジアで植民地が独立を目指して紛争が多発する中、その苦境から逃れるために、国境を越え隣
国へ保護を求めた人々がたくさんいました。アフリカでは地域条約によって、そのような人々を保護し
ようということになりました。そのため、地域条約などの視点から見ると、紛争から逃れてくる人々の
ことも、現在は難民と考えられます。国連で支援するだけでも 3,000 万人もの難民がいて、難民となる
理由の圧倒的多数は紛争なのです。
ただ、どのような人が難民かという基準は国によって違います。たとえば、日本では条約上の難民で
あるかという視点のみで難民を定義しています。
③は『国内避難民』と呼ばれます。現在、紛争は国対国の戦争では
なく、内戦や政府対反政府ゲリラなどの内戦が主流となってきており、
『国内避難民』が増加する傾向にあります。国際的な支援が必要だと
いう観点から、現在ではこの『国内避難民』を難民に含め、広い意味
で難民と呼称する場合があります。
④は『移民』
、⑤は『被災者』です。⑥は、一見④のような『移民』
にも思えますが、政治的状況から見ると難民といえるのではないかと
議論されています。たとえば、北朝鮮からの難民、脱北者のケースがあります。
『難民』はどのような状態で祖国を離れるのか?
続いて、受講者は「もし、今すぐ国外に逃れなければならない状況になった場合、物を各自一つしか
持っていけないとすれば何を持っていくか」などについてグループごとに話し合いました。受講者から
は、「キャッシュカード」
、「パスポート」、「食糧」
、「常備薬」などという意見がありました。
難民は世界の至るところで発生しており、地域やグループの構成員、季節、難民となる理由により持
ち物は変わりますが、非常に制限された物しか持てません。
一般的に、難民の家族構成では子どもがたくさんいることが多いそうです。また、父親がいないこと
も少なくありません。戦争の犠牲になったり、唯一の財産である田畑を守るために故郷に残ったりする
からです。また母親も亡くなり、兄弟の中で一番年上の者が幼い兄弟を引き連れて隣国へと移動すると
いうこともあります。こういった家族構成では、水のような重い荷物を運ぶことは非常に困難です。
一度『難民』になると帰還するのが困難
何日も歩いて国境を越え隣国に逃れてきた難民は、難民キャンプに留まることがあります。難民キャ
ンプでは、基本的に、米や小麦などの主食、豆などの副食、砂糖、塩、食用油の5点セットの食材が配
給されます。一日に成人ひとり 2,000 キロカロリーが必要だと言われています。難民キャンプでも 2,000
キロカロリーに相当する 400 グラムの米を配給しています。
難民の問題を解決するには3つの方法があります。一つは、難民の出身国での紛争や迫害などが解決
し、難民があくまで自発的に帰還することです。しかし、最近は紛争が長引くことが多く、難民を庇護
国(難民を保護する国)で市民として受け入れる方法があります。これが庇護国定住です。
難民が発生する地域は最貧国にあり、逃れる隣国もやはり貧しい国である場合が多数を占めます。隣
国は難民の受け入れが困難で庇護国定住が認められることが難しく、代わりに別の国が受け入れるとい
う第三国定住があります。2010 年 9 月から日本でも試験的に第三国定住を始めました。タイの難民キャ
ンプにいるミャンマーの難民約 30 人の受け入れを 3 年連続して行い、3 年間で約 90 人を受け入れるこ
とになっています。
しかし、第三国定住で難民を受け入れている国は十数ヵ国しかなく、受け入れられる人々は 10 万人程
度です。自国にも帰還できず、庇護国にも定住できない、第三国定住の可能性も非常に少ないとなると、
一度難民になるとずっと難民であり続けなければいけないということです。ある研究者によると、難民
が難民キャンプに滞在する平均的な期間は 17 年だそうです。
まず『難民』の状況を知ることが大切
難民とは世界的に広まっている、数千万人規模の大きな問題です。ただこれがあまりにも日常的に起
こっているため、ニュースに取り上げられることはほとんどありません。UNHCR(国連難民高等弁務官事
務所)のウェブサイトを見ると、世界中の難民の日々の動きを知ることができます。
(http://www.unhcr.or.jp/html/index.html)
「世界中の難民の存在を知り、気にかけることが難民問題の解決に繋がっていくのでは」、中尾さんは
こう講義を締めくくりました。