電子記録債権取引における 法律上の留意点 (下請法上の取扱い等) 平成26年2月12日(水) 電子記録債権取引における法律上の留意点 (1)電子記録債権取引全般について (2)下請法上の取扱いについて (3)税法上の取扱いについて (4)法的手続き等について (5)記録請求等について ※でんさいネットのコールセンター等に寄せられる照会を 参考に解説。 1 (1)電子記録債権取引全般について ①手形で取引にしている取引先から、決済方法をでんさいに 移行したいとの打診があった。ファクタリングや期日振込との 違いを教えてほしい。 【回答】 「でんさい」は電子債権記録機関の記録原簿に電子記録す ることでその効力発生要件とする金銭債権であり、利用方法 は手形取引をイメージいただきたい。 ファクタリングは、ファクタリング契約を結んで、限られた金 融機関で利用をするクローズな世界であるが、「でんさい」は オープンな世界であり、その流通性が異なる。 売掛債権との違いは、支払期日に自動で口座間送金決済 が行われること、および支払期日以前に割引や譲渡により資 金化できることである。 2 (1)電子記録債権取引全般について ②-1 支払企業として、手形取引を「でんさい」に移行させたい 。手形の場合には、「月末締め翌月末起算90日手形」等の表 現をしているが、「でんさい」に移行した場合の表現をすれば よいか。 ②-2 債務者との間で個別に売買契約を結ぶときに、契約書 の中に決済条件を記載する。従来の手形では「毎月末締めと し、○日に●日後支払の手形を振り出す」といった表現を使 用してきたが、「でんさい」で決済をする場合の表現について 教えてほしい。 【回答】 例えば、「毎月末日締めとし、翌月末日に支払期日を○日以 内の日とする「でんさい」を発生させる」などが考えられる。 3 (1)電子記録債権取引全般について ③領収書の発行は必須か。仮に領収書を発行した場合には、 収入印紙の貼付は必要か。 【回答】 領収書を発行するか否かについては、当事者間の取り決め 次第であり、必ずしも発行する必要はなく、記録事項の開示 で対応することが考えられる。 ただし、複数回譲渡が行われた場合には、中間の譲渡記録 が閲覧できなくなる可能性があるので留意いただきたい。 なお、領収書を発行した場合には、収入印紙の貼付は必要 ないが、「でんさい」で受け取った旨の記載が必要となる。 4 (1)電子記録債権取引全般について ④手形が不渡りになった場合には、手形現物の写しを証拠とし て裁判所に提出していたが、「でんさい」の場合には、何をもっ て支払不能となった証拠とすればよいか。 【回答】 支払不能となった支払期日の3銀行営業日後に窓口金融機 関より出される支払不能通知、または「でんさい」の開示請求 をして支払不能となった記録事項証明書を提出することが考 えられる。 5 (1)電子記録債権取引全般について ⑤原因債権に対して「でんさい」発生前に手形が、別途、振り 出された場合において、「でんさい」の支払がされたときには、 手形の効力はどのようになるか。 【回答】 手形と「でんさい」は異なる権利であるから仮に「でんさい」 の支払をした場合にであっても手形債務が当然に消滅するも のではなく、手形債務の履行を請求された場合の人的抗弁 になるものと考えられる。 なお、手形の債権者と「でんさい」の債権者が同一であり、 かつ同一の原因債権にもとづくものであれば、手形について は「第2号不渡事由(債務不存在)」で異議申立をしていただき 、別途、債権者に対して「でんさい」で支払い済みであることを 開示書面等で証明するなどの対応が考えられる。 6 (1)電子記録債権取引全般について ⑥手形の場合には、代表者が同じだと取締役会承認済みとい う印鑑が押印されるが、でんさいネットで譲渡する場合に、こ の取締役会承認済みという印鑑に代わるものはあるか。 【回答】 取締役会等承認については、「でんさい」上記録することは できない。これは、取締役本人が会社と直接取引をする場合 に、利益相反関係に立つことから必要となる手続きであるが 、でんさいネットは個人事業主でなければ利用者登録するこ とができないことから、直接取引として取締役会等承認が必 要な場合は想定しがたい。 万が一、利益相反取引に該当する場合には、異議申立をし て、口座間送金決済を中止するとともに、支払不能処分の猶 予を受けることができる。 7 (2)下請法上の取扱いについて ①下請法との関係で、手形の支払サイト120日以内という制 限は、「でんさい」でも適用されるのか。 【回答】 適用される。 8 (2)下請法上の取扱いについて ②取引先から「でんさい」での支払に移行したいと言われてい るが、すぐに「でんさい」での取引に変更することが難しい。 この点、でんさいネットへ移行しなければいけない、強制とい うことはないか。また、「でんさい」での支払を断った場合には 取引先から取引停止等の報復措置を受けそうであるが、支払 方法変更の強制を抑制するようなルール等はないのか。 【回答】 「でんさい」の支払を強制されるようなことはなく、貴社の判断 である。下請法では支払手段の変更の強制を禁じ、また報復 措置を禁じる定めがあるので、問題があれば、公正取引委員 会へ相談することが考えられる。 9 (2)下請法上の取扱いについて ③下請け業者への支払に「でんさい」を発生させた場合に、当 該発生記録請求に係る手数料を差し引いたとしても下請法上 問題ないか。 【回答】 振込手数料の問題について、公正取引委員会のHP「よくある質 問」で「下請事業者の了解をえた上で、下請け代金を下請事業者の 銀行口座に振り込む際の振込手数料を下請代金の額から差し引 いて支払うことは認められますか」という質問があり、回答として「発 注前に振込手数料を下請事業者が負担する旨の書面の合意があ る場合には、親事業者が負担した実費の範囲内で当該手数料を 差し引いて下請代金を支払うことが認められます」と記載されてい ることを踏まえると、書面での合意があり、かつ実費の範囲内であ れば、直ちに問題視されることはないと考えられる。 10 (2)下請法上の取扱いについて ④平成21年6月19日の公正取引委員会事務総長通達で「電子記録債権 の発生記録又は譲渡記録により下請代金を支払う場合に,下請事業者が 当該下請代金の額に相当する金銭の全額について支払を受けることがで きないときは,下請法第4条第1項第2号(下請代金の支払遅延の禁止)の 規定に違反するものとして扱う。」とあるが、これは、発生記録に記録され た債権金額が下請代金相当額であれば下請法に違反しないと定めたもの なのか。それとも金融機関に割引をした場合に、割引料が差し引かれた後 の金額が下請代金相当額であることが必要なのか。 【回答】 平成21年6月19日に公正取引委員会が事務総長通達等に係るパブリッ クコメントの回答として、「手形と同様、電子記録債権を用いて下請代金の 支払いを行う場合についても、発生記録または譲渡記録をすることにより 生じる電子記録債権の金額が当該下請代金の額であれば足りる」と回答 している。 したがって、発生記録に記録された債権金額が下請代金相当 額であれば足りると考えられる。 11 (3)税法上の取扱いについて ○貸倒引当金繰入事由として、でんさいネットの支払不能処分 も認められるのか。 【回答】 平成25年4月1日付の法人税法施行規則および所得税法施 行規則の改正により、でんさいネットの支払不能処分制度の 取引停止処分についても貸倒引当金繰入事由として認められ るようになった。 12 (4)法的手続き等について ①債権者として「でんさい」を保有しているが、債務者が支払期 日前に破産等した場合には、でんさいネットから補てんや保証 などはあるのか。 【回答】 ない。 13 (4)法的手続き等について ②債権者について民事再生手続きが開始された場合には、「 でんさい」の譲渡等ができなくなるのか。なぜ、「でんさい」を譲 渡することができなくなるのか。 【回答】 業務規程第22条1項7号に該当するため、原則として「でんさ い」の発生や譲渡をすることができなくなる。 民事再生手続き開始の決定により、自ら保有している財産 の処分が禁止されること、またこのような状況では譲渡に伴う 担保責任を果たすこともできないためである。 14 (4)法的手続き等について ③「でんさい」は手形と異なり券面がないため紛失盗難の心配 はないが、例えば、経理担当者が不正に第三者に譲渡するな ど、盗難と同様の事態になった場合には、訴訟などはどのよう な手続で行えばよいか。 【回答】 第三者に対してでんさいの返還を求める又は経理担当者に 対して損害賠償を求める等の通常の民事訴訟手続き行うこと になる。 15 (4)法的手続き等について ④手形割引のように「でんさい」を金融機関に割引に出すこと が考えられるが、債務者が倒産した場合に、割引で受け取っ た資金は差押えの対象となるか。 【回答】 割引で受け取った資金は差押の対象とはならないが、金融 機関からの買戻し請求等を受けることになる。 16 (5)記録請求等について ①債務者請求方式の場合は、債務者からの単独請求で発生 記録が成立しているが、電子記録債権法第5条では、電子記 録義務者および電子記録権利者双方の請求が義務付けられ ている。この点をどのように理解すべきか。 【回答】 業務規程第26条4項にもとづき、債権者の発生記録請求権 を債務者に委託することにより、債務者が債権者の発生記録 請求も併せて行うことで双方請求が成立している。 17 (5)記録請求等について ②債権者であるが、「でんさい」の発生記録があった旨、窓口 金融機関から通知がきたが、手形でいう「振出日」は、この通 知を受け取った日と理解してよいか。 【回答】 「でんさい」の場合において、手形の振出日に該当するのは 、発生記録の「電子記録年月日(発生日)」である。通知日は あくまで発生記録がされた旨の通知がされた日に過ぎない。 18 (5)記録請求等について ③譲渡における対抗要件は不要と理解してよいか。 【回答】 ご認識のとおりである 19 (5)記録請求等について ④特別求償権の範囲について、遅延損害金まで含む金額とな るのか。なお、遅延損害金の額をどのように記録するのか。 【回答】 一般的には遅延損害金も含まれるが、支払等記録に電子記 録保証人が記録するか否かで異なる。なお、遅延損害金の額 は、支払等記録の「費用等」の金額欄に記録される。 20 (5)記録請求等について ⑤でんさいネットでは、発生記録に遅延損害金に関する定め を記録することができないことから、遅延損害金の額を定める 場合には、別途、契約で定めることになると考えられるが、電 子記録保証人が弁済する場合の遅延損害金の額はどのよう に決定すべきか。 【回答】 遅延損害金の額については、当事者間の契約に従うことに なる。なお、契約定めがない場合には商事法定利率が適用さ れると解される。 21 (5)記録請求等について ⑥でんさいネットHPの「よくある質問」で「(民法上の保証人が 弁済した場合について)一部弁済にとどまる場合は、支払等 記録を行うことはできない」とあるが、業務規程の参照箇所と 電子記録債権法第7条2項との整合性をどのように考えている のか教えてほしい。 【回答】 業務規程第40条2項で、そもそも民法上の保証人の支払を 全額弁済に限定しており、その債務の本旨に外れた一部弁 済は無効であって、支払等記録を請求する根拠に欠ける。し たがって、電子記録債権法第7条2項に反するものではない。 ただし、個別の事情について、一律に拒絶する趣旨ではなく 、どうしても権利の行使に必要なことがあればご相談いただき たい。 22 (5)記録請求等について ⑦でんさいネットでは質権設定記録を取り扱っていないと理解 しているが、独自に質権設定の通知をすることにより、民法上 は有効として取り扱われるか。 【回答】 質権設定記録をしなければ,でんさいを目的とする質権は無 効である。 担保として受け入れることを想定しているのであれば、譲渡 記録を活用して譲渡担保の形式で行っていただきたい。 23
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