世田谷区における道路空間再構築による自転車走行環境整備に関する研究

世田谷区における道路空間再構築による自転車走行環境整備に関する研究
パシフィックコンサルタンツ株式会社
パシフィックコンサルタンツ株式会社
世田谷区 土木事業担当部長
世田谷区 土木事業担当部
世田谷区 土木事業担当部
1.目的
正会員 ○中嶋
非会員
長田
正会員
山口
非会員
桐生
非会員
石川
良樹
拓也
浩三
邦寛
哲男
における新たな自転車走行ルールの受け入れ可能性お
東京都世田谷区では、移動に便利で環境負荷も少な
い自転車の適切な利用促進を目指して、駐輪場や自転
車走行環境を整備するとともに、利用マナーの向上に
向けた取り組みを進めているところである。
よび安全性向上に関して、以下の方法により検証を行
ったものである。
1)有効幅員 2.5m という『狭い歩道空間』において、
白線と路面標示・案内看板により歩行者と自転車の
一方で、区内は狭い道路が多く、歩道は十分な幅員
通行位置を区分け
を確保しがたい状況となっていることから、歩行者や
2)歩道での自転車走行について、自動車と逆方向の一
自転車が安全で安心して通行できる自転車走行環境の
方通行ルールを導入(路面標示や看板により周知)
確保方策を探ることが、喫緊の課題となっている。
そこで、本研究は、既存の道路空間を活用して、
「道
3)車道の一部をカラー舗装化(ブルーゾーン)するこ
とにより自転車走行空間として明確化
路空間の再構築による安全な自転車走行環境の創出実
表 1 実験の実施概要
験」を実施し、歩行者・自転車の安全性向上や自転車
利用のマナー向上施策について検証し、今後の展開方
実験1
策について検討したものである。
2.自転車走行環境創出実験の概要
実験2
(1)対象路線の概要
実験内容
狭小歩道における自転車走
行位置の明示と一方通行化
実験1に加え、車道左端の
カラー舗装化により自転車
走行空間を明確化
実施期間
H19.11.4
~11.30
H19.12.9
~H20.3.14
世田谷区は、人口は 821 千人(425 千世帯)
(H19.1.1)
であり、都心に近いうえ、交通の便が良い住宅地とし
ての性格が強く、現在でも人口が増加している。
今回の実験は、区の拠点の一つである三軒茶屋駅に
近い補助 209 号線(明薬通り)を対象とし、国道 246
2.0m
1.0m 1.0m
号との交差点より約 600mの区間で実施した。
新代田駅
渋谷区
下北沢駅
池
ノ
上
駅
世田谷代 田駅
京王井
の頭線
環
状
七
号
線
首
都
3号
高
山
手
線
線
国
24
道
6号
田
園
都
市
手
通
り
3000
1000
450
カラー舗装(ブルーゾーン)
歩道
車道
側溝
中目黒駅
白 線
図 3 車道部の詳細図(単位:mm)
東
急
実験対象路線
2.0m
代官山駅
三軒茶屋 駅
祐天寺駅
東
横
線
明薬
通り
16.0m
池尻大橋駅
線
1.0m 1.0m
1.0m
図 2 実験区間の断面構成
渋
谷
駅
神
泉
駅
山
世田谷区
東急
世田
谷線
駒場東大前駅
6.0m
1.0m
3.社会実験結果の評価
目黒区
図 1 対象路線の概要
(2)社会実験の概要
今回の実験は、歩行者の安全性向上に向けて、歩道
(1)利用状況からみた評価
歩行者と自転車の通行位置を区分した結果、歩行者
については約9割、自転車については6割程度の人が
それぞれの通行位置を利用する結果となった。
キーワード 自転車,道路空間再構築,交通安全,自転車走行環境,歩行者
連絡先
〒163-0730 東京都新宿区西新宿 2-7-1 パシフィックコンサルタンツ株式会社 TEL 03-3344-1486
自転車の一方通行化の影響をみると、実験1では3
評価が分かれる結果となった。この理由として、約8
割程度の人が実験前と反対側の歩道を利用するか、ま
割の人が一方通行化により迂回が必要になることを挙
たは車道部利用に転換したと推測され、歩道部におけ
げており、今回実施した通行ルールは、歩道利用の整
る自転車利用のルール化の効果が確認できる。
序化や安全性の向上に寄与する一方で、自転車の利便
実験2(ブルーゾーン設置)では、さらに2割近く
性が下がることに不満を持つ人が多いことが分かる。
が車道部利用に転換し、全体の3~4割が車道部利用
ブルーゾーンの評価をみ
となった。道路交通法では、自転車は車道通行が原則
ると、車道部を利用した人
であり、ブルーゾーンの設置は道路交通法に則した自
の 45%が良いと回答して
転車利用の誘導効果が高いことが確認された。
おり、評価が高いことが分
(台)
600
320
400
434
8
10
200
310
426
進
行
方
向
360
0
402
118
400
198
200
359
204
0
実験前
実験1
実験2
実験前
実験1
との交差部における歩行者 図 6 ブルーゾーンの評価
100
との接触の危険性を指摘する人も多い結果となった。
自転車
歩行者
(台)
600
427
400
67
200
360
356
119
241
172
115
0
実験前
進
行
方
向
291
実験1
370
9
296
400
9
200
自転車交通量(歩道部)
上記に加えて、道路交通法などルールの浸透を指摘
する人が多く、意識啓発の重要性が改めて確認された。
5.今後の展開
アンケート結果では、歩行者、自転車ともに、条件
付も含めて本格実施に好意的な人が約6割、反対が約
2割という結果が得られた。この結果や社会実験によ
317
6
287
361
311
実験前
実験1
実験2
0
実験2
(n=120)
実験2
車
道
(台)
600
どちらとも
言えない
38%
290
自転車
歩
道
良い
45%
よる危険性や取り付け道路
歩行者
歩
道
悪い
14%
390
《駒沢通り方面》
《国道246号方面》
かる。ただし、路上駐車に
(台)
600
477
369
9
分から
ない
3%
自転車交通量(車道部)
図 4 自転車交通量の変化(7 時~19 時)
り得られた課題を踏まえ、今後は以下のような展開を
図っていくこととしている。
1) 歩行者、自転車の通行位置の区分け
利用者からは概ね受け入れられており、安全性向上
効果も期待できるため、実験終了後も継続することと
し、他の道路へも順次展開していくこととした。
(2)利用者の意向からみた施策の評価
社会実験において実施した沿線住民へのアンケート
2) 歩道部における自転車の一方通行化
結果から、歩行者、自転車ともに歩道の通行について
通勤時間帯など一方通行化の適用性が限定的である
安全になったとする人が約5割を占め、歩道利用の安
ことに加え、利用者の不満も強く、交差部の処理や一
全性が向上したことがうかがえる。
方通行の向きの判断など課題も多い。このため、さら
なる適用性の検証が必要と判断される。
歩道を通行する際の安全性
【歩行者】
45%
33%
11% 11% (n=443)
【自転車】
46%
34%
11% 10% (n=461)
安全になったと思う
危なくなったと思う
どちらとも言えない
分からない
【自転車】
45%
31%
34%
34%
歩き(通行)やすくなったと思う
歩きにくく(通行しにくく)なったと思う
10% 11% (n=464)
28%
道路交通法に則した自転車利用の誘導効果が高く、
適切な自転車利用や自動車ドライバーへの意識付けの
観点からも、継続的に実施し、他の道路へも順次展開
していくことが効果的と考える。
歩道の歩きやすさ(通行しやすさ)について
【歩行者】
3) ブルーゾーンの設置
7% (n=455)
どちらとも言えない
分からない
図 5 歩道部における安全性、通行のしやすさの評価
歩道の歩きやすさ(通行のしやすさ)については、
歩行者の評価は高いものの、自転車利用者については
ただし、併せて、荷捌きなど路上駐車対策、バス停
や交差点における安全対策などの課題への対応ととも
に、ドライバーへの周知徹底を図っていく必要がある。
さらに、植栽のあり方など既存道路空間の有効幅員
を広げる方策や、自転車が走り易い道路構造の検討等
を進めるとともに、世田谷区にふさわしい自転車通行
ルールの構築を目指していくこととしている。