PAS反応

PAS反応
2007/11/18 病理基礎講座
名古屋記念病院 小熊 孔明
【PAS反応の目的】
PAS反応は多糖類を検出する組織化学的手法として広く用いられてい
る。陽性部位となるのは一定の閾値以上の濃度で糖鎖が存在する部位。
単純多糖類
グリコーゲン・セルローズ・デキストラン
複合多糖類
粘液蛋白・アミロイド・糖蛋白・核酸・糖脂質
胃(HE)
signet ring cell carcinoma
肺(HE)
aspergillus
食道(HE)
顆粒細胞腫
軟部腫瘍(HE)
Alveolar soft part sarcoma
【PASの原理】
CH2OH
H
CH2OH
H
O OH
H
OH H
H
H
→
HO
H
=
H
H
OH
HIO4
=
HO
+
O OH
C
C
O
O
H
+ H2O
過ヨウ素酸酸化による糖質からジアルデヒドの生成
(グルコースの場合)
炭素原子の2.3位に隣り合う水酸基が過ヨウ素酸で酸化・開環
してアルデヒド基が2個形成される。これにshiff試薬1分子と
結合する事によって赤紫色の化合物を形成する。
【PASで利用できない固定液】
糖質を酸化する成分を含む固定液は全て利用不可
オスミニウム酸
過マンガン酸カリウム
重クロム酸カリウム
メタ過ヨウ素酸ナトリウム
等
【PASで利用できない固定液】
ホルマリン
ホルマリン系
10%ホルマリン
○
中性ホリマリン
○
中性緩衝ホルマリン
○
アルコール
昇汞
氷酢酸
重クロム酸カリウム
ピクリン酸
4%緩衝パラホルムアルデヒド
その他
パラホルムアルデヒド
アルコール系
純アルコール
○
純メタノール
○
冷アセトン
アセトン
エーテル・アルコール
○
エーテル
カルノア液
○
クロロホルム
重クロム酸系
ミューラー液
オルト液
○
○
ツェンカー液
○
○
○
○
ピクリン酸系
ヘリー液
○
○
マキシモウ液
○
○
ブアン液
○
○
○
アレン液
○
○
○
○
○
○
クロム酸、結晶性尿素
電顕用
2∼4%グルタール
グルタールアルデヒド
1%オスミニウム酸
オスミニウム
酵素抗体用
リジン.PFA.
メタ過ヨウ素酸Na
PLP固定液
ザンボーニ固定液
○
PFA.NaOH
【染色手技】
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
脱パラ、脱キシレン、水洗
1%過ヨウ素酸
10分
水洗
5分
シッフ試薬(cold shiff)
15分
亜硫酸水
3層 各3分
水洗
5分
核染色(マイヤーのヘマトキシリン)
色だしー温湯
5分
脱水、透徹、封入
【水洗について】
水洗5分
水洗4時間
【酸化剤の選択について】
濃度(%)
A判定
B判定
0.50
25
8
1.00
12
3
5.00
1
0
オルト過ヨウ素酸
0.50
4
0
(二水和物)
1.00
2
0
1.00
2
2
0.50
0
1
過ヨウ素酸(二水和物)
過ヨウ素酸ナトリウム
(メタ過ヨウ素酸ナトリウム)
不明
平成18年度愛臨技精度管理より(PAS反応) 参加施設60施設
【過ヨウ素酸の比較】
メタ過ヨウ素酸ナトリウム
0.1%
0.5%
1.0%
0.5%
1.0%
オルト過ヨウ素酸
0.1%
(名古屋大学医学部付属病院
加藤克幸氏提供)
【時間経過によるアルデヒド基形成への影響】
過ヨウ素酸
10分
過ヨウ素酸
1時間
【クロム酸・PAS反応】
過ヨウ素酸シッフ反応
クロム酸シッフ反応
【シッフ試薬について】
ボイルドシッフ
フクシンを沸騰して溶解
コールドシッフ
フクシンを加熱しないで調整。シッフ反応の感度を上げるため、塩基
性フクシンはボイルドの2倍量。
粘液を染める場合には両者にあまり差は認められないが、腎糸球体
や尿細管基底膜ではコールドシッフのほうが診断に有用。
但し、アルデヒド基は組織全体に広く分布しているため染色強度の
高いコールドシッフを用いると共染が生じやすい
【コールドシッフの動向】
平成10年度
平成18年度
ムトウコールド
メルク
ムトウボイルド
自家製コールド
シグマ
自家製ボイルド
不明
ムトウコールド
ムトウボイルド
メルク
自家製コールド
メルクボイルド
シグマ
自家製ボイルド
不明
数
%
平成10年度
24/52
46
平成18年度
34/60
56
コールドシッフの使用率
【シッフ試薬比較】
ボイルドシッフ
コールドシッフ
【シッフ試薬の保存について】
ドーゼ密閉、水混入あり
軽いフタ、水混入あり
シッフ試薬は亜硫酸
ガスの揮発が染色性
低下の原因となる
ドーゼ密閉、水混入なし
軽いフタ、水混入なし
(名古屋第二赤十字病院 水嶋祥栄氏提供)
【亜硫酸水の有無ついて】
亜流酸水なし
亜流酸水利用
【亜硫酸水の有無ついて】
(前の写真より)
• 腎臓の切片は殆ど共染無し
• 大腸癌の切片は共染あり
PAS反応は切片の厚さに影響される
腎臓は形態学上薄い切片を要求される(1μ∼2μ)
大腸癌は2×5cmのブロックの影響で薄切、切片の厚みが増す(3μ∼4μ)
原理
シッフ試薬が酸化され、パラローズアニリンが生
成する。(+)に荷電の塩基性色素であるパラ
ローズアニリンは、組織部位の(−)の部位への
静電気的結合をして、疑陽性、ないし共染をおこ
す
(参考)
【亜硫酸水の種類について】
1) 亜硫酸無し
2) 亜硫酸水
(10%重亜硫酸Na
6ml + 1N塩酸 5ml + 蒸留水100ml)
3) 亜硫酸水
(10%メタ重亜硫酸Na 6ml + 1N塩酸 5ml + 蒸留水100ml)
4) 亜硫酸水
(0.5% メタ重亜硫酸Na)
【亜硫酸水
比較】
亜流酸無し(水洗)
10%重亜硫酸Na+1N塩酸+ 蒸留水
10%メタ重亜硫酸Na+1N塩酸+蒸留水
0.5%メタ重亜流酸Na
まとめ
・ PAS染色は多くの施設で一般的に行われる染色であり、診断的価値は高い(印鑑細胞
癌・アメーバー・顆粒細胞腫など)
・ 過ヨウ素酸はアルデヒド基まで酸化する。これをシッフ試薬と反応させる
・ 糖質を酸化する成分を含む固定液は全て利用不可能
・ 正しい酸化剤(オルト過ヨウ素酸)の選択・管理
・ 糸球体の病変の観察にはコールドシッフが有効
・ シッフの有効利用のためには密栓・水の混入を極力避ける
・ 亜硫酸の利用はあった方が望ましい。
切片が厚くなると静電気結合の影響で、共染を受けやすいが薄い切片では影響を受
けにくい。