( ) 争議行為と法 鈴 目 次 1 問題の所在 2 争議行為の意義と概念 争議行為の法的保護 争議行為の概念 3 争議行為の制限・禁止 木 憲法条と争議行為の制限・禁止規定 労調法による制限 スト規制法等 4 争議行為の正当性 目的 態様 (手段) 主体・手続 5 争議行為と賃金 争議行為参加者の賃金 争議行為不参加者の賃金 6 違法争議行為の責任 損害賠償責任 懲戒処分 7 争議行為と第三者 8 使用者の争議行為 ロックアウトの意義と法的根拠 ロックアウトの正当性 9 労働争議の調整 争議調整の意義等 調整手続 芳 明 ( ) 1 争議行為と法 問題の所在 欧米諸国における争議権保障にいたる過程をみると, 争議行為に対し特別刑 罰法規を用意した争議行為の原則的否定の段階に始まり, 次いで特別刑罰法規 を撤廃し, 市民的自由権としての争議行為の自由を容認するにいたった例外的 肯定の段階を経て, 労働組合および個々の争議参加者の不法行為責任を免除し, さらに争議参加者の契約責任をも排除する争議行為の原則的肯定の段階へとい たる。 しかしながら, 争議行為は相手方に何らかの損害を与えるものであり, 市民法秩序に抵触するおそれが多分にあるがゆえに, 欧米諸国のすべてにおい て争議行為の原則的肯定段階に到達しているとはいえない。 また, 争議権保障 の内容も, 各国により一様ではない。 とくに争議参加者の契約責任の点になる と, 西欧諸国ではいまだにその免除に全面的に肯定的ではない。 この意味にお いて, 欧米諸国における争議行為法理の発展を踏まえつつ, 労働基本権として の争議権を保障することによって争議行為の刑事免責, 民事免責を肯定し, 争 議行為の高度の法的許容を実現した憲法条の意義は大きいといわなければな らない1)。 憲法条は, 団結権, 団体交渉権とならんで, 団体行動をする権利を勤労者 (労働者) に保障している。 これは, 通常, 労働者の争議権および組合活動権 を保障したものと解されているが, この規定を受けて, 労組法は, 正当な争議 行為に対する特別の保護 (刑事免責 び不当労働行為からの保護 同1条2項 , 民事免責 同8条 およ 同7条 ) を規定している。 そこで, こうした法 的保護を享受しうる 「争議行為」 とは何か, 「正当性」 はどのように判断され るかが問題となる。 また, 正当でない争議行為については, 個々の労働者にどのような責任を課 すべきか, 争議行為により損害を受けた第三者が労使に対して賠償責任を問う ) 久保敬治=浜田冨士郎 労働法 (年, ミネルヴァ書房) 頁以下。 ( ) ことができるのはいかなる場合か, ロックアウトにより使用者が賃金支払義務 を免れうるのはいかなる場合か等, 争議行為をめぐって, 判例・学説上さまざ まな問題が論議されてきた。 本稿では, このような状況を踏まえ, 争議行為に関する法的諸問題 (争議行 為の意義と概念, 争議行為の制限・禁止, 争議行為の正当性, 争議行為と賃金, 違法争議行為の責任, 争議行為と第三者, 使用者の争議行為, 労働争議の調整) について検討を行うことにしたい2)。 2 争議行為の意義と概念 争議行為の法的保護 憲法条は 「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権 利は, これを保障する」 と規定し, 団結権, 団体交渉権と並んで, 団体行動権 を保障している。 団体行動権は, 争議権と組合活動権からなる。 そして, 同条 による争議権の保障を受けて, 労組法は正当な争議行為に対する法的保護を規 定している3)。 第1に, 労組法1条2項は 「刑法第条の規定は, 労働組合の団体交渉その 他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて 適用があるものとする」 と定め, 正当な争議行為については刑法上の正当行為 ) 久保=浜田・前掲注 ) 書 頁以下, 下井隆史 労使関係法 ( 年, 有斐閣) 頁以下, 山口浩一郎 労働組合法 第2版 (年, 有斐閣) 頁以下, 西 谷敏 労働組合法 第3版 (年, 有斐閣) 頁以下, 菅野和夫 労働法 第版 (年, 弘文堂) 頁以下, 土田道夫 労働法概説 第2版 ( 年, 弘文堂) 頁以下, 荒木尚志 労働法 第2版 (年, 有斐閣) 頁以 下, 中窪裕也=野田進 労働法の世界 第版 (年, 有斐閣) 頁以下, 水町勇一郎 労働法 第5版 ( 年, 有斐閣) 頁以下, 東京大学労働法研 究会 注釈労働組合法 上巻 (年, 有斐閣) 頁以下, 西谷敏ほか編・別冊 法学セミナー 新基本法コンメンタール 労働組合法 (年, 日本評論社) 頁以下, 唐津博 「争議行為の概念・正当性」 ジュリスト増刊 労働法の争点 ( 年, 有斐閣) 頁以下など参照。 ) 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前 掲注 ) 書頁以下など参照。 ( ) 争議行為と法 として違法性が阻却され, 刑事責任を問われないこと (刑事免責) を明らかに している。 なお, 労組法1条2項は, 当該行為が 「労働組合の」 行為と規定しているが, 同条項は憲法条の確認規定であり, 労組法上の労働組合とはいえない憲法 組合や争議団のなす団体行動にも適用があることは, 立法過程でも確認されて いる。 第2に, 労組法8条は 「使用者は, 同盟罷業その他の争議行為であつて正当 なものによつて損害を受けたことの故をもつて, 労働組合又はその組合員に対 し損害を請求することができない」 として, 正当な争議行為について民事免責 を定めている。 民事免責も憲法条の争議権の保障から要請されるものであり, 労組法8条 はその確認規定である。 第3に, 使用者が正当な争議行為を行ったことを理由として労働者に対し解 雇, 懲戒処分等の不利益取扱いをなすことは, 不当労働行為として禁止される (労組法7条1号)。 正当な争議行為を理由とする不利益取扱いは, 私法上公序 (民法条) 違反として無効となり, 事実行為として問題となる側面では不法 行為の違法性を備え, 不当労働行為制度により救済命令の対象となる。 争議行為の概念 法的保護を受けうる 「争議行為」 について定義した規定は労組法にはないが, 労調法には 「争議行為」 を 「同盟罷業, 怠業, 作業所閉鎖その他労働関係の当 事者が, その業務を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行 為であつて, 業務の正常な運営を阻害するものをいふ」 (同7条) とする規定 がある 4) (なお, 特労法条, 地公労法条参照)。 この点について見解を明 ) それは, 労調法による労働争議調整の対象となる争議行為について定義した規定 である。 ( ) らかにした判例はまだ存しないが, 多数説は, 争議行為の一般的な定義として これを用い, 争議行為とは, 労働組合ないし労働者集団が一定の目的を達成す るためにその統一的意思決定にもとづいて行う集団的行動であって, 「使用者 の業務の正常な運営を阻害する一切の行為」 をいうとする立場 (業務阻害説) をとっている5)。 これに対して, 有力説は, 争議権を業務阻害ととらえる多数説は労調法7条 にいう 「争議行為」 の定義 (「業務の正常な運営を阻害する行為」) に影響を受 けたものであって, この定義では, 労働組合が行う使用者に対する圧力行動の すべてが法的にも争議行為と把握されることになり, 概念の外延が際限なく広 がる可能性がある等として, これを根拠に争議行為を定義することに疑問を呈 する。 そして, 争議行為を集団的労務不提供 (ストライキ・怠業) と, この経 済的圧力を強化するための付随的行為 (ピケッティング・職場占拠等) と定義 すべきであるとしている 6) (労務供給拒否説)。 そこでは, リボン闘争やビラ 貼りは, 争議時に圧力行動として行われても争議行為の範疇には入らず, 組合 活動の正当性が問題となるにとどまる7)。 他方で, 争議行為とは, 業務阻害の有無を問わず, 争議手段として (争議意 思をもって) 労働組合が行う行為であるとする説も主張されている8)。 団体交渉の容認・奨励の過程のなかで団体行動権 (争議権) が形成・承認さ れた歴史的経緯や, 業務阻害説の争議行為概念では争議行為 (ストライキ等) と業務懈怠行為 (単なる職場放棄) との区別が曖昧になること, 組合活動と争 議行為の違いが不明確になることなどから, 争議行為を一定の類型の行為に限 ) 石井照久 新版 労働法 (第3版) (年, 弘文堂) 頁, 外尾健一 労働 団体法 (年, 筑摩書房) 頁, 西谷・前掲注 ) 書 頁以下など。 ) 菅野・前掲注 ) 書頁, 頁, 下井・前掲注 ) 書頁, 荒木・前掲注 ) 書頁以下など。 ) なお, 水町・前掲注 ) 書頁は, 争議行為を, 労務不提供を 「中心とした」 行為と定義することにより, 労務不提供に付随して行われるリボン闘争やビラ貼り も争議行為に含まれうるとする。 ) 山口・前掲注 ) 書頁。 ( ) 争議行為と法 定する労務提供拒否説の立場が妥当であろう。 3 争議行為の制限・禁止 憲法条と争議行為の制限・禁止規定 憲法条は, 団結権, 団体交渉権とともに労働者の団体行動権を保障する。 労働者の団体行動は, 争議行為と組合活動からなるが, 現行法のもとでは, 公 務員については争議行為は全面的に禁止されている。 それと憲法条との関係 をめぐってはさまざまな議論があり, また, 禁止規定の解釈・適用に関する問 題も多く存在する9)。 非現業公務員 特定独立行政法人, 地方公営企業等の職員を除くいわゆる非現業公務員は, 同盟罷業 (ストライキ), 怠業その他の争議行為, およびそれを企て, 遂行し, そそのかし, あおることを禁じられ (国公法条2項, 地公法条1項), 禁 止規定に違反した者は, 懲戒免職等の身分上の不利益を受け (国公法 条3項, 地公法条2項), また, 争議行為の遂行を共謀し, そそのかし, あおり, ま たはそれらの行為を企てた者は刑罰に処せられる (国公法条1項号, 地 公法条4号)。 判例においては, 公務員の争議行為禁止規定と憲法条の関係について, 争 議行為禁止はその適用範囲を限定的に解釈することによってのみ合憲たりうる とする 「限定的合憲解釈」 の立場がとられた時期もあったが), 年代半ば 以降は全面的に合憲性を肯定する立場 (いわゆる 「全面的合憲説」) が確立さ れている)。 それらは, 公務員の勤務条件法定主義や労働基本権の制約に対す ) 下井隆史 労働法 第4版 (年, 有斐閣) 頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下など参 照。 ) 都教組事件・最大判昭 ・・刑集巻5号 頁, 全司法仙台高裁事件・最大 判昭・・刑集巻5号 頁など。 ) 全農林警職法事件・最大判昭 ・・ 刑集巻4号 頁, 岩手県教組事件・ ( ) る代償措置の存在などを争議権制限の合憲性の根拠としている。 現業公務員 特定独立行政法人, 地方公営企業の職員等のいわゆる現業公務員も, ストラ イキ, 怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為, およびそれを共 謀し, そそのかし, またはあおることを禁じられ, 違反した者は解雇されるこ とになっている (独労法条・条, 地公労法条・条)。 最高裁は, まず公労法による争議行為禁止は憲法に違反せず, 労組法1条2 項は適用されないとした)。 その後, 年の全逓東京中郵事件判決) におい て, 「限定的合憲解釈」 の立場をとり, 現業公務員の正当な争議行為には原則 として刑事免責が与えられると判断した。 ところが, 最高裁は, 年の全逓 名古屋中郵事件判決 ) において限定的合憲解釈の立場を否定し, 現業公務員 と旧公共企業体職員の争議行為禁止は憲法条に抵触せず, 公労法条・地公 労法条に違反する行為には刑事免責は認められず, 不利益取扱い禁止の保護 も与えられないとする 「全面的合憲説」 の立場を示した。 それ以降今日に至る まで同判決の立場が踏襲されている。 労調法による制限 労調法は, さまざまな観点から争議行為を禁止する規定を設けている)。 まず, 労働委員会に設置された調停委員会の調停案が当事者の双方によって 受諾された後, その解釈・履行について意見の不一致が生じたときは, 調停委 員会が解釈・履行に関する見解を示すまでの間 (日以内), 当事者は争議行 最大判昭 ・・刑集 巻5号頁, 全運輸近畿陸運局事件・最二小判昭 ・ ・民集巻7号頁, 仙台管区気象台事件・最三小判平 ・・労判 号 7頁, 全農林事件・最二小判平 ・・労判 号6頁など。 ) 国鉄檜山丸事件・最二小判昭 ・・刑集巻2号頁。 ) 全逓東京中郵事件・最大判昭 ・ ・刑集 巻8号 頁。 ) 全逓名古屋中郵事件・最大判昭 ・・刑集巻3号頁。 ) 西谷・前掲注 ) 書 頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下など参照。 ( ) 争議行為と法 為を行うことができない (同条4項)。 調停案を受諾した後の平和状態をで きるかぎり維持するための規定である (ただし, 罰則規定は設けられていない)。 労調法条は, 「工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行 を停廃し, 又はこれを妨げる行為は, 争議行為としてでもこれをなすことはで きない」 と規定する。 ここでいう 「安全保持の施設」 とは, 人命・身体に対す る危害予防または衛生上必要な施設と解されている (昭 労発号等)。 公益事業については, 関係当事者が争議行為をするには, 開始日の少なくと も日前までに, 労働委員会および厚生労働大臣または都道府県知事にその旨 を通知しなければならない (労調法条1項)。 この規定の趣旨は, 公益事業, すなわち公衆の日常生活に欠くことのできない①運輸事業, ②郵便・信書便・ 電気通信事業, ③水道・電気・ガス供給事業, ④医療・公衆衛生事業等 (同8 条) において争議行為が行われようとしている場合に, その予告を義務づける ことによって公衆の受ける不利益を最小限にとどめることにある。 違反につい ては万円以下の罰金が規定されている (同条)。 さらに, 労調法は, 緊急調整の制度を設け, その決定と公表がなされた場合, 関係当事者は日間争議行為を禁止される旨規定している (同 条)。 緊急調 整は, 「公益事業に関するものであるため, 又はその規模が大きいため若しく は特別の性質の事業に関するものであるために, 争議行為により当該業務が停 止されるときは国民経済の運行を著しく阻害し, 又は国民の日常生活を著しく 危くする虞があると認める」 ときに, 内閣総理大臣が, 中労委の意見を聴いて 決定し, 理由とともに公表するものである (同条の2−条の4)。 争議禁 止違反は, 万円以下の罰金刑の対象となる (同条)。 スト規制法等 電気事業においては, 「電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常 な供給に直接に障害を生ぜしめる行為」 を争議行為として行うこと (スト規制 ( ) 法2条), 石炭鉱業においては, 「鉱山保安法……に規定する保安の業務の正常 な運営を停廃する行為であつて, 鉱山における人に対する危害, 鉱物資源の滅 失若しくは重大な損壊, 鉱山の重要な施設の荒廃又は鉱害を生ずるもの」 を争 議行為として行うこと (同3条) が禁止されている。 船員法条は, 「船舶が外国の港にあるとき, 又はその争議行為に因り人命 若しくは船舶に危険が及ぶようなとき」 の争議行為を禁止している (制裁規定 はない)。 4 争議行為の正当性 争議行為が法的保護を受けるためには, それが 「正当な」 ものでなければな らない (労組法1条2項・8条・条)。 そこで, 争議行為の正当性をどのよ うに判断するのかが問題となる)。 労組法上, 正当性の判断基準は特に示され ていないが, 通説・判例は, 争議行為の目的, その態様ないし手段の両面から, さらにその主体, 手続等の点も考慮しつつ, 社会通念に照らして個別具体的に 判断するとの立場をとっている)。 目的 争議行為の目的に関しては, 憲法条は団体交渉を実質的に機能させる手段 として争議権を保障したと考えられるので, 団体交渉の対象となるべき事項 (義務的団交事項) に限定されるべきである)。 したがって, 「組合員たる労働 ) 久保=浜田・前掲注 ) 書頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前 掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前掲注 ) 書 頁以下, 安枝英=西村健一郎 労働法 第版 (年, 有斐閣) 頁以 下など参照。 ) 石井・前掲注 ) 書頁, 石川吉右衞門 労働組合法 (年, 有斐閣) 頁, 外尾・前掲注 ) 書 頁, 久保=浜田・前掲注 ) 書頁, 下井・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁, 西谷敏 労働法 [第2版] (年, 日本評論社) 頁, 山田鋼業事件・最大判昭 ・・刑 集4巻号頁など。 ) 同旨, 下井・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ( ) 争議行為と法 者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって, 使 用者に処分可能なもの」) について要求を貫徹するために行う争議行為であれ ば, 目的の点で正当性が認められる。 この点, 政治的主張や政府・議会に対する措置・立法等のために行われる 「政治スト」 は, 目的において正当性を欠くこととなる。 学説上は, 政治スト を立法や政策等労働者の経済的利益に直接関わる 「経済的政治スト」 と, それ 以外の 「純粋政治スト」 に分け, 現代社会における労働者の生活利益の擁護と 政治との不可分性のゆえに前者は憲法条による保障の範囲内のものとして正 当性が認められるが. 後者は憲法条 (表現の自由) の領域に属するとする立 場も有力である)。 しかし, 労働者の経済的利益に関係するとしても, 使用者 が団体交渉によって解決できない政治目的を掲げるストライキには争議権保障 の効果は及ばず, 正当性は否定されると解すべきであろう)。 判例も, 政治ス トの正当性を否定している)。 また, 使用者に対する要求の実現ではなく, 他企業における他組合の争議の 支援を目的として行われる 「同情スト」 (「支援スト」 とも呼ばれる) も, 当該 使用者との間の団体交渉によって解決できない事項に関わるものであり, 正当 とは認められない)。 なお, 使用者の団交拒否や協約違反等に抗議する目的で 行われる 「抗議スト」 は, 目的の点で正当性が認められると解される。 態様 (手段) 労働組合が行う争議行為の態様は多様であるが, そのすべてが正当とされる ) 書頁, 中窪=野田・前掲注 ) 書頁, 水町・前掲注 ) 書頁など。 ) 鈴木芳明 「団体交渉と法」 大分大学経済論集巻 ・号 (年) 頁参照。 ) 外尾・前掲注 ) 書頁, 西谷・前掲注 ) 書頁など。 ) 同旨, 山口・前掲注 ) 書 頁, 菅野・前掲注 ) 書 頁, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前掲注 ) 書頁など。 ) 全農林警職法事件・前掲注 ) 判決. 三菱重工業事件・最二小判平 ・・労 判 号頁など。 ) 杵島炭礦事件・東京地判昭 ・・労民集巻5号 頁。 ( ) わけではない。 一般的には, それが労務の不提供または不完全な提供 (消極的 態様) にとどまるかぎり原則として正当性が認められ, 積極的な業務阻害や損 害を使用者や第三者にもたらす場合は, さらにその内容・程度等が評価される ことになる。 ストライキ (同盟罷業) ストライキは, 一定数の労働者が同時に労務を停止する (労働義務の不履行) という代表的な争議手段である。 労務の完全な停止としてのストライキには, 全面スト, 部分スト (組合員の一部のみが参加), 一部スト (組合員のみが参 加し, 非組合員は不参加), 指名スト (組合指令により特定の組合員のみが参 加), 無期限スト, 短時間ストを繰り返す波状スト, 時限ストなどさまざまな 態様がありうるが, 労務の不提供にとどまるかぎり, いずれも原則として正当 である。 怠業 怠業 (スローダウン) とは, 労働者が全体として使用者の指揮命令に従いつ つ, 部分的にこれを排除して不完全な労務を提供する戦術である。 賃金カット を免れること, 団結の拠点である職場を確保することなどにそのねらいがある。 作業能率を低下させたり, 作業の速度を落とす消極的な態様にとどまるかぎり, 正当性が認められる)。 いわゆる順法闘争も, 基本的に消極的怠業の一種であ り, 正当といえる。 しかし, 機械・製品を破壊・毀損したり, 故意に不良品を生産したりする積 極的サボタージュは, 正当性をもたない。 上部遮断スト, 電話受発信拒否, 納金ストなど特定の作業だけを拒否する行 為も原則として正当とされているが, 場合によっては積極的加害として正当性 を否定されることもありえよう)。 ) 日本化薬厚狭作業所事件・山口地判昭 ・・労民集6巻6号頁。 ) 中窪=野田・前掲注 ) 書 頁。 ( ) 争議行為と法 ピケッティング ピケッティングとは, スト中の労働者が, 就労しようとする他の労働者 (他 組合員・非組合員・代替労働者等), 業務を行おうとする使用者側の者 (役員・ 管理職等), 企業施設に出入する使用者の取引先・顧客等に対し, 呼びかけや 説得等働きかけをすることをいう。 問題はその態様であり, 学説上は, 言論に よる平和的説得にかぎり正当性を認める立場) (平和的説得論) と, ある程度 の実力行為も許されるとする立場) (実力阻止容認説) が対立している)。 最高裁は, 平和的説得の立場をとっている)。 従前は, 労働者の実力の阻止 が 「諸般の事情」 により正当な範囲を逸脱していないと評価される場合には, その違法性阻却を認め, 平和的説得論を事実上緩和したとみられる時期もあっ たが), 年の国鉄久留米駅事件判決) 以降, 最高裁は, 違法性判断の基準 を 「諸般の事情」 の考慮よりも 「法秩序全体の見地」 に移すことによって, 労 働者の実力行使に対し, より厳格な態度をとるようになっている)。 ピケッティングの正当性については, ストライキを維持・強化するための説 得と考えられる範囲内で正当性を認められるが, 実力により積極的に業務を妨 害しようとすることは許されないという原則に立ちつつ, 個々の事案において 具体的諸事情を総合して判断するほかないであろう)。 ) 田辺公二 労働紛争と裁判 (年, 弘文堂) 頁以下, 石井・前掲注 ) 書 頁以下, 石川・前掲注 ) 書 頁, 頁, 下井・前掲注 ) 書 頁, 山口・ 前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下など。 ) 久保=浜田・前掲注 ) 書頁以下, 外尾・前掲注 ) 書 頁など。 ) 学説の状況については, 香川孝三 「ピケッティング」 労働法文献研究会編 文献 研究労働法学 (年, 総合労働研究所) 頁以下, 古川陽二 「ピケッティング 論」 籾井常喜編 戦後労働法学説史 (年, 労働旬報社) 頁以下参照。 ) 刑事事件として, 山陽電気軌道事件・最二小判昭 ・・刑集巻8号 頁など。 民事事件として, 朝日新聞社小倉支店事件・最大判昭 ・・民集6 巻9号頁, 御國ハイヤー事件・最二小判平 ・・労判 号8頁など。 ) 三友炭礦事件・最三小判昭 ・・刑集巻 号頁, 札幌市労連事件・ 最三小決昭 ・・刑集 巻6号頁。 ) 国鉄久留米駅事件・最大判昭 ・ ・刑集巻3号 頁。 ) 西谷・前掲注 ) 書 頁以下参照。 ) 同旨, 下井・前掲注 ) 書頁。 ( ) 職場占拠等 職場占拠とは, スト中の労働者が使用者の意に反して職場 (企業施設) に座 り込み等の滞留をなすこと (シットダウン・ストライキ) をいう。 職場占拠の ねらいはピケッティングとほぼ同じで, ストライキの実効性を確保することに ある。 多くの裁判例は, 職場占拠が部分的なもので, 組合員以外の者の立入り や操業を妨害しない場合には正当性を失わないが, 占拠が全面的・排他的な場 合には正当性を否定し違法としている)。 学説上は, 争議行為は所有権の機能を停止させるものであり, 操業阻止のた めの職場占拠も正当であるとする見解もなくはないが, 職場占拠をストライキ の維持・強化のための争議行為ととらえ, 一定範囲の限度内で施設管理権に対 する侵害が違法性を阻却されるという考え方に立って, 裁判例の用いる基準に 拠りながら正当性の有無を判断するのが妥当であろう)。 ボイコット ボイコットとは, 組合員や第三者に対して, 使用者の製品を買わないよう働 きかける戦術をいう。 単なるボイコットの呼びかけは, 暴行, 脅迫, 虚偽の宣 伝等にわたらないかぎり, 正当である)。 主体・手続 争議行為の主体の点については, 争議権保障の趣旨から, 団体交渉の主体と なりうる者が主体となって行うものでなければならない。 この観点からは, い わゆる憲法組合や争議団の争議行為も正当性を認められる。 独立の労働組合た ) 肯定例として, 群馬中央バス事件・前橋地判昭 ・・労民集5巻4号頁, 小野田セメント津久見工場事件・福岡高判昭 ・ ・労民集 巻5号 頁など。 否定例として, 林興業事件・札幌地決昭 ・ ・判時 号頁など。 ) 同旨, 下井・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書 頁。 ) 福井新聞社事件・福井地判昭 ・・労民集巻3号 頁。 なお, 岩田屋百 貨店事件・福岡高判昭 ・・労民集巻5号頁は, 「岩田屋の食料品は高 い」, 「腐っている」 等の顧客に対する発言を違法と判断している。 ( ) 争議行為と法 る下部組織が上部団体の承認を得ないで行う 「非公認スト」 は, 対使用者との 関係においては, それによって団体交渉関係を阻害しないかぎり正当といえる。 しかし, 一部の組合員が組合の承認を得ないで行う 「山猫スト」 は正当性を否 定される。 争議行為は, 開始の時期や手続の点からも正当性が問題となりうる。 争議行 為は団体交渉による解決の可能性を前提とするが, 団体交渉のどの段階で行う かは労働組合の選択に委ねられている)。 予告のない争議行為 (いわゆる 「抜打ちスト」) も, 法律や労働協約により 予告が義務づけられていない場合には, 原則的に正当性は否定されない。 しか し, 予告を欠くことにより, 社会通念上著しく不公平な事態がもたらされる場 合には, 正当性は否定されうる)。 5 争議行為と賃金 争議行為が正当であっても, 労働者の賃金の帰趨については別途考察を要 する)。 争議行為参加者の賃金 争議行為に参加し労務を提供しなかった労働者は, 争議行為が正当であった ) ドイツでは, 争議行為は団体交渉の可能性が尽くされた後の 「最後の手段」 ( ) としてのみ認められているが, わが国では, 団体交渉の折衝開始 後, どの段階で争議行為を行うかは組合が戦術として決することができ, 最後の手 段としてのみ行いうると解すべきではないとされている (東京大学労働法研究会・ 前掲注 ) 書 頁, 菅野・前掲注 ) 書 頁, 荒木・前掲注 ) 書 頁, 中窪= 野田・前掲注 ) 書頁, 水町・前掲注 ) 書頁など)。 ) 予告したスト開始時刻を半日前倒しして実施5分前に通告し実施したストライキ について正当性を否定した裁判例として, 国鉄千葉動労事件・東京高判平 ・・ 労判 号頁。 ) 下井・前掲注 ) 書頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前掲注 ) 書頁以 下, 水町・前掲注 ) 書頁以下など参照。 ( ) かどうかにかかわらず, その期間につき労働義務を履行していないため, 賃金 請求権は発生せず, 使用者は賃金を控除 (賃金カット) することができる (ノー ワーク・ノーペイの原則)。 学説上, ストライキ期間中賃金請求権が発生しない理由については, 若干の 見解の対立があるが, 個別的労働関係の次元で問題をとらえ, 一般の賃金債権 は特約がないかぎり労働義務の履行後に具体的に発生し (民法条), 労働義 務の履行が可能であるのに履行されなかった場合には賃金債権は発生しないと する見解が有力である)。 問題は, この控除をなしうる賃金の範囲であって, 従前, 学説においては, 賃金には日々の具体的な労務提供に対応して支払われる 「交換的賃金」 と従業 員たる地位にもとづいて支払われる 「生活保障的賃金」 とがあり, 後者に属す る家族手当や住宅手当などは, ストの場合でも賃金カットの対象とならないと する見解 (いわゆる賃金二分説) が有力であった)。 最高裁も, 年の明治 生命事件判決 ) において, 労働協約等に別段の定めがある場合等のほかとい う留保をつけつつも, 賃金カットが許されるのは 「拘束された勤務時間に応じ て支払われる賃金」 に限られ, 「職員に対する生活補助費の性質を有すること が明らか」 な賃金部分は当然に消滅しうるものではない, との見解を示した。 しかし, 学説では次第に賃金二分説に対する批判が強くなり, 最高裁も, 年の三菱重工長崎造船所事件判決) において, 「ストライキ期間中の賃金 ) 外尾・前掲注 ) 書頁, 頁, 東京大学労働法研究会・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書 頁。 それ以外に, 争議行為は使用者の責めに帰すべき事由 によるものではなく, 危険負担に関する民法条1項・2項の原則からして賃金 請求権が発生しないのは当然であるとする見解 (下井・前掲注 ) 書頁), 争議 行為により雇用契約上の権利義務関係が停止し, その結果使用者は賃金支払義務か ら解放されるとする見解 (山口・前掲注 ) 書頁) などがある。 ) 本多淳亮 「労働契約と賃金」 季労号( 年)頁, 久保=浜田・前掲注 ) 書頁, 外尾・前掲注 ) 書頁など。 ) 明治生命事件・最二小判昭 ・・民集巻1号頁。 ) 三菱重工長崎造船所事件・最二小判昭 ・・民集巻6号頁。 ( ) 争議行為と法 削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の 区別は, 当該労働協約等の定め又は労働慣行に照らし個別的に判断するのを相 当」 として, 賃金二分説を明確に否定している。 賃金カットの範囲は, 賃金二 分説のように当事者の意思解釈を離れた賃金の本質論によって判断すべきもの ではなく, 労働協約, 就業規則, 契約, 慣行等に照らして, ノーワーク・ノー ペイの原則に対する例外が設定されているか否かという意思解釈によって決す べきであろう)。 怠業は不完全就労, すなわち労務給付債務の不完全履行であるから, 使用者 は不完全な程度に応じた賃金カットをなすことができる ) (「応量カット」 と 呼ばれる)。 しかし, カットは公正な基準によってなされなければならないの で, 実際には困難を伴う場合が少なくない)。 争議行為不参加者の賃金 争議行為に参加しなかった労働者が, ストライキの結果, 就労できなかった 場合, 賃金はどうなるか。 この点は, 部分スト (組合員の一部が行うストライ キ) や一部スト (従業員の一部のみを組織する組合が行うストライキ) に関し て問題となる。 この問題については, 特殊労働法的考察を主張する見解もあるが), 判例, 学説の多くは危険負担理論によって問題処理を行っている。 部分ストや一部ストの場合であっても, 労働者の従事する業務が存在し, 就 ) 同旨, 下井隆史 労働基準法 第4版 (年, 有斐閣) 頁, 山口・前掲 注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁, 荒木・前掲注 ) 書頁など。 ) 東京大学労働法研究会・前掲注 ) 書 頁, 西谷・前掲注 ) 書頁など。 山 口・前掲注 ) 書頁は, 怠業の場合も, 通常のストライキと同様, 全額の賃金 カットが可能で, 不完全ながらなされた労務給付は不当利得の問題となるとする。 ) 裁判例は, 使用者が応量カットを行う場合には相当に厳格な態度をとっており, 各労働者について不完全部分の割合を正確に算定することを要求している (東洋タ クシー事件・釧路地帯広支判昭 ・・ 労判 号頁など)。 ) 下井隆史 労働契約法の理論 ( 年, 有斐閣) 頁以下など。 ( ) 労させることが可能であるのに就労させないことは, 債権者の責めに帰すべき 事由にもとづく労務の履行不能となるため, 労働者は賃金請求権を失わない (民法条2項)。 これに対して, ストライキの結果, なすべき業務が消失し, スト不参加者の 就労が客観的に不能もしくは無価値になった場合はどうなるのか。 部分ストに ついては, 学説は多岐に分かれ 賃金請求権を肯定する見解とこれを否定する 見解が対立しているが ), 判例は否定説に立って, 「ストライキは労働者に保 障された争議権の行使であつて, 使用者がこれに介入して制御することはでき ず, また, 団体交渉において組合側にいかなる回答を与え, どの程度譲歩する かは使用者の自由であるから, 団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても…… 使用者に帰責さるべきものということはできない」 とし, 「労働者の一部によ るストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつ た場合は, ……右ストライキは民法条2項の 債権者ノ責ニ帰スヘキ事由 には当たらず, 当該不参加労働者は賃金請求権を失う」 としている)。 労使対 等の原則からみて, 否定説が妥当であろう。 一部ストの場合は, 部分ストのようなスト参加・不参加者間の組織的一体性 がないため, 問題は微妙となる。 判例は, 部分ストの場合と同じ理由で否定説 に立つが), 学説では, 一部ストの場合にはスト不参加者 (他・非組合員) は 争議意思の形成に関与していない (組織的一体性がない) ことを重視して賃金 請求権を肯定する見解が有力である)。 一部ストの場合も, スト不参加者の賃 金請求権については部分ストと同様に考えてよいであろう )。 ) 学説の状況については, 東京大学判例研究会 (荒木尚志) 「最高裁判所民事判例 研究 (民集巻5号)」 法協巻9号(年)頁以下参照。 ) ノース・ウエスト航空事件・最二小判昭 ・・民集巻5号頁。 ) ノース・ウエスト航空事件・前掲注 ) 判決。 ) 山口・前掲注 ) 書 頁, 下井・前掲注 ) 書 頁以下。 ) 同旨, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁, 水町・前掲注 ) 書頁など。 ( ) 争議行為と法 また, 部分スト・一部ストの場合, スト不参加者の休業手当請求権 (労基法 条) も問題となる。 労働者の生活保障の観点から, 労基法条にいう 「使用 者の責に帰すべき事由」 は民法条2項の 「債権者の責めに帰すべき事由」 (故意, 過失または信義則上これと同視すべき事由と解されている) よりも広 く, 不可抗力に該当しないかぎり. 「使用者側に起因する経営, 管理上の障害」 を含むと解されているが, 判例は, 部分ストについては, スト参加・不参加者 の一体性を根拠に, 「使用者側に起因する経営, 管理上の障害」 にあたらない としており), これに従えば, 休業手当請求権も否定される。 一方, 一部スト の場合は, スト参加者との組織的一体性がないこと, 休業手当が労働者の生活 保障という目的を有することから, 休業手当請求権を肯定すべきであろう)。 6 違法争議行為の責任 正当性のない争議行為 (違法争議行為) が行われた場合, これに関与した労 働者は刑事免責 (労組法1条2項) を受けられず, 刑事責任を問われる ) ほ か, 使用者から民事上の責任を追及され, 損害賠償請求や解雇・懲戒等の不利 益処分を受けることになる)。 損害賠償責任 争議行為が正当でない場合, 労働者・労働組合は労組法8条による民事免責 ) ノース・ウエスト航空事件・最二小判昭 ・・民集巻5号頁。 ) 同旨, 明星電気事件・前橋地判昭 ・・労民集巻6号頁, 菅野・前 掲注 ) 書頁, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁以下, 水町・前掲注 ) 書 頁以下など。 ) 刑事責任については, 労調法により労働組合に罰金が科せられる場合 (同条・ 条参照) を除けば, 責任は組合員にのみ生ずる。 この点に関しては, とくに異論 はない。 ) 下井・前掲注 ) 書 頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 ) 書 頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁以下, 荒 木・前掲注 ) 書 頁以下など参照。 ( ) を失い, 使用者に対し争議行為によって生じた損害を賠償する責任を負う。 し かし, 違法な争議行為に参加した個々の組合員が損害賠償責任を負うか否かに ついては, 学説上議論があり, 見解が分かれている。 多数説は, 争議行為の本 質は集団的意思決定にもとづく団体としての行動であるから, 集団的行為の構 成部分にすぎない組合員個人の行為は法的評価の対象とはならないとして個人 責任を否定する ) (個人責任否定・組合単独責任説)。 これに対して, 争議行 為における個々の組合員の行為を無価値なものとは考えずに, その実行行為者 性を認め, 行為者の債務不履行や不法行為にもとづく損害賠償責任を肯定する 見解もある ) (個人責任肯定説)。 労働組合への帰責の法的構成は個人責任否 定説と肯定説で異なり, 否定説では民法条によって責任を負うが, 肯定説 では行為者である組合員の責任を前提に, 労働組合の責任を一般法人法条 (旧民法条) や民法条によって基礎づけるものが多い。 裁判例は, 違法争議行為に参加した組合員の行為は, 組合の行為であると同 時に, 組合員個人の行為でもあるとして不法行為責任を認め, 個人責任と団体 責任の関係については, 不真正連帯責任と解している)。 争議行為が正当でない場合に組合員個人にも不法行為責任が発生するという 論理を貫くと, 組合員は違法争議行為によって生じた全損害の賠償を連帯して 負わなければならないこととなり, 過酷な結果をもたらすことになりかねない。 個人責任と団体責任の関係については, 実際に加害行為を行った個人につき民 法条により不法行為が成立するという行為者責任の原則を前提にして, 団 体等も一般法人法条や民法条にもとづき責任を負うという基本的ルール を争議行為に関して否定することは困難であるが, 個人責任の否定ではなく, 個人責任の範囲を限定するという観点から, 組合決議による違法な争議行為の ) 蓼沼謙一 「争議行為のいわゆる民事免責の法構造」 一橋論叢巻2号 (年) 頁以下, 外尾・前掲注 ) 書頁など。 ) 菅野・前掲注 ) 書 頁以下, 下井・前掲注 ) 書頁など。 ) 岡惣事件・東京高判平 ・・労判 号頁。 ( ) 争議行為と法 場合には労働組合が第一次的に責任を負い, 個々の組合員は第二次的に責任を 負うと解するのが妥当であろう)。 懲戒処分 正当性のない争議行為が行われた場合, これに関与した労働者に対する解雇・ 懲戒等の不利益処分の可否が問題となる。 これについても, 学説上, 争議行為 が団体の行為であることを理由に個々の組合員の懲戒処分を否定する説) と, これを肯定する説 ) が対立している。 この点, 裁判例の大勢は, 個々の組合 員の懲戒処分を肯定している)。 懲戒処分は規律上の行為者 (個人) の責任を問うものであり, 争議行為が正 当性を欠き企業秩序を乱す場合には個々の組合員に対する懲戒処分は可能と考 えられるが, 懲戒権濫用法理 (労契法 条) に則して企業秩序侵害行為の程度・ 内容等を個別具体的に判断する必要があろう)。 懲戒処分がなされる場合, 参加者全員ではなく, 組合役員だけが対象となる ことが多いが (「幹部責任」 の問題), 組合役員が正当でない争議行為を企画・ 指令・指導し, 企業秩序侵害について実質的に重要な役割を果たしたときは, 指令に従って争議行為に参加した一般組合員よりも重い懲戒処分を受けること はやむを得ないであろう)。 7 争議行為と第三者 労働組合による争議行為は, 使用者以外の第三者 (使用者の取引先・顧客等) ) 同旨, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 下井・前掲注 ) 書頁以下など。 ) 外尾・前掲注 ) 書 頁以下, 西谷・前掲注 ) 書頁以下など。 ) 菅野・前掲注 ) 書頁など。 ) 全逓東北地本事件・最三小判昭 ・・民集巻5号頁など。 ) 同旨, 下井・前掲注 ) 書 頁, 山口・前掲注 ) 書頁, 土田・前掲注 ) 書頁など。 ) 同旨, 下井・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁など。 ( ) に対して損害を与えることがある。 労組法はこの点について規定していないが, 一般に, 争議権保障の趣旨に照らし, 労働者・労働組合は, 第三者との関係に おいても, 争議行為が正当なものであるかぎり損害賠償義務を負わないと解さ れている)。 これに対して, 正当性のない争議行為の場合は, 損害賠償責任を 免れない)。 学説には, 直接に第三者に対し不法行為がなされた場合は別とし て, 正当性のない争議行為によって使用者の取引先に対する債務が履行されな い結果になった場合は, 労働者は使用者の履行補助者にすぎないこと, 争議行 為は企業内部の問題であり, 取引先との関係では使用者のみが責任を負うこと, 第三者の被害は間接被害であり, それには不法行為法上の責任は及ばないこと などを理由に, 労働者・労働組合の第三者に対する不法行為責任を否定するも のが多い)。 裁判例にもこのような見解をとるものがある)。 しかし, これら は契約責任についてはともかく, 責任はまずもって行為者自身に生ずるという 不法行為法の原則を無視したものである)。 使用者が取引関係にある第三者に対する債務を争議行為のために履行するこ とができなかった場合に債務不履行責任を負うかどうかについては, 学説では, とくに争議免責約款がないかぎり, 争議行為は企業の内部問題であり 「不可抗 力」 に該当しないとして, 争議行為の正当性のいかんにかかわらずこれを肯定 ) 石川・前掲注 ) 書頁, 外尾・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書 頁, 下井・前掲注 ) 書頁, オーエス映画劇場事件・大阪地決昭 ・・ 労 裁集1号頁, 東京急行電鉄事件・横浜地判昭 ・・判タ 号 頁など。 ) 菅野・前掲注 ) 書頁, 下井・前掲注 ) 書 頁, 山口・前掲注 ) 書 頁, 荒木・前掲注 ) 書頁など。 ただし, 間接損害については, 責任の範囲を 限定しなければ加害者の負担が大きなものとなってしまうので, 労働者・労働組合 の対第三者責任については, この点を十分に考慮する必要がある (同旨, 下井・前 掲注 ) 書 頁)。 ) 柳川真佐夫ほか 全訂判例労働法の研究 (下) (年, 労務行政研究所) 頁, 沼田稲次郎 労働法要説 [改訂版] (年, 法律文化社) 頁, 本多淳亮 「争議行為と損害賠償」 季労 号( 年) 頁, 外尾・前掲注 ) 書 頁, 西谷・ 前掲注 ) 書 頁以下など。 ) 王子製紙苫小牧工場事件・札幌地室蘭支判昭 ・・労民集巻1号頁。 ) 下井・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 ) 書 頁参照。 ( ) 争議行為と法 するものが多い)。 しかし, 少なくとも争議行為が正当な場合には, 第三者も 損害を甘受すべきであり, 企業の債務不履行責任を追及しえないと解すべきで あろう)。 なお, 正当な争議行為により鉄道会社のサービスを利用できなかった者が使 用者と労働組合に対して共同不法行為にもとづく損害賠償を請求した事案では, 争議に対する社会的批判にすぎないとして, いずれの責任も否定されている)。 8 使用者の争議行為 ロックアウトの意義と法的根拠 ロックアウトとは, 労働組合の争議行為に対抗して使用者が労働者の就労 (労務の提供) を集団的に拒否することをいう。 ロックアウトの最大の争点 は, ロックアウトと賃金請求権の問題, すなわち, 労務の受領を拒否した使用 者が労働者に対する賃金支払義務を免れることができるのはいかなる場合かで ある)。 労働組合には憲法・労組法上明確に争議権が保障されているが, 使用者の争 議権を根拠づける規定が存しないため, ロックアウト権の存否について種々の 見解が主張された。 そこでは, 憲法条が勤労者にのみ団体行動権を保障し, 使用者にはロックアウト権を保障していないことを根拠に, 賃金請求権の有無 を専ら受領遅滞等の個別契約上の問題として処理しようとする考え方 (市民法 的考察) と, 使用者の争議権としてのロックアウト権の存在を承認し, 賃金支 払義務の存否はロックアウトの正当性如何によるとする考え方 (労働法的考察) ) 東京大学労働法研究会・前掲注 ) 書頁以下参照。 ) 同旨, 石川・前掲注 ) 書頁以下, 下井・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁など。 ) 東京急行電鉄事件・前掲注 ) 判決。 ) 下井・前掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前掲注 ) 書 頁以 下など参照。 ( ) の対立がみられた。 こうした状況の中で, 最高裁は労働法的考察の立場にたち, 憲法 条や法 律が 「労働者の争議権について特に明文化した理由が専ら……労使対等の促進 と確保の必要に出たもので, 窮極的には公平の原則に立脚するものであるとす れば, 力関係において優位に立つ使用者に対して, 一般的に労働者に対すると 同様な意味において争議権を認めるべき理由はなく, また, その必要もないけ れども, ……使用者に対し一切争議権を否定」 することは相当でなく, 「個々 の具体的な労働争議の場において, 労働者側の争議行為によりかえつて労使間 の勢力の均衡が破れ, 使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような 場合には, 衡平の原則に照らし, 使用者側においてこのような圧力を阻止し, 労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められる かぎりにおいては, 使用者の争議行為も正当なものとして是認される」 とした。 そして, ロックアウトの正当性の有無は, 「個々の具体的な労働争議における 労使間の交渉態度, 経過, 組合側の争議行為の態様, それによつて使用者側の 受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし, 衡平の見地から見て労働 者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうか」 によっ て判断され, 相当性が認められる場合には, 「ロックアウト期間中における対 象労働者に対する……賃金支払義務をまぬかれる」 とした)。 その後の判例は, この判決の見解を踏襲しつつ, 具体的事案におけるロック アウトの正当性の有無についてはかなり厳しい基準によって判断している)。 ロックアウトの法的根拠を労使対等の実現という憲法条の基本的な法理念 に求めるこうした見解は, 妥当なものであるといえよう, 判例の立場は, 今日, 学説においても一般に支持されている)。 ) 丸島水門製作所事件・最三小判昭 ・・民集巻4号 頁。 ) 山口放送事件・最二小判昭 ・・ 民集巻3号頁, 日本原子力研究所事 件・最二小判昭 ・・ 民集巻5号頁など。 ) 下井・前掲注 ) 書 頁以下, 西谷・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書 頁以下, 荒木・前掲注 ) 書 頁など。 ( ) 争議行為と法 ロックアウトの正当性 判例によると, 著しく不利な圧力を受けた使用者が, 労使間の勢力の均衡を 回復するための対抗防衛手段として行う受動的・防衛的ロックアウトのみが正 当とされる。 先制的・攻撃的ロックアウトは, 一般に正当性を否定される)。 また, ロックアウトの正当性は, ロックアウトの開始の時点だけでなく継続中 にも必要とされる)。 ロックアウトが正当性の範囲を逸脱し相当と認められない場合, 就労を拒否 された労働者には賃金請求権が発生する。 9 労働争議の調整 争議調整の意義等 もとより, 労使の集団的紛争は当事者自身によって自主的に解決されること が望ましいが, 第三者の助力によって早期に解決されることも多く, それは労 使当事者や社会全体にとって有益でもある。 こうした観点から, 労調法は, 労 働委員会等による紛争調整制度を設けている)。 労調法の調整の対象となる 「労働争議」 とは, 「労働関係の当事者間におい て, 労働関係に関する主張が一致しないで, そのために争議行為が発生してゐ る状態又は発生する虞がある状態」 とされている (同6条)。 争議行為が発生 する可能性がある状態を広く含むものであるため, 労使関係上の紛争の多くが これに含まれる。 個々人の労働条件等に関する紛争であっても, 労働組合が取 り上げるかぎりは, ここにいう労働争議となる。 労働委員会等による調整にあたっては, 当事者の自主的調整の努力が優先さ れるべきこと (同2条−4条), 争議調整ができるだけ迅速になされるべきこ ) 日本原子力研究所事件・前掲注 ) 判決。 ) 第一小型ハイヤー事件・最二小判昭 ・・判時 号頁。 ) 久保=浜田・前掲注 ) 書頁以下, 下井・前掲注 ) 書 頁以下, 西谷・前 掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁 以下, 水町・前掲注 ) 書頁以下など参照。 ( ) とが謳われている (同5条)。 調整手続 労調法は, 労働争議の主たる調整手続として斡旋, 調停, 仲裁, 特殊な調整 手続として緊急調整を用意している。 斡旋 斡旋は, 当事者の双方もしくは一方の申請または労働委員会の職権にもとづ いて, 原則として斡旋員候補者名簿に記載されている者の中から労働委員会会 長が指名した斡旋員が, 当事者双方の主張の要点を確め, 事件が解決されるよ うに努める手続である (同条以下)。 斡旋員の任務は当事者の主張の要点を 確めこれを双方に取り次ぐことであり, 紛争解決の見込みがないときは事件か ら手を引かなければならないが, 実際には斡旋案が提示されることが多い。 労働委員会の調整手続のうち最も簡便なものであり, 調整件数の 割以上を 占めている。 調停 調停は, 労働委員会の会長により委員または特別調整委員の中から指名され た調停委員で構成される調停委員会が, 当事者の意見を聴いて調停案を作成し, その受諾を勧告する手続である (同条以下)。 調停案を受諾するか否かは当 事者に委ねられており, 調停案に拘束力はない。 調停は, 当事者双方からの申 請または労働協約の定めにもとづく当事者の双方または一方からの申請によっ て開始される。 公益事業に関しては, 当事者の一方による申請や職権にもとづ いて開始されることになっている (同条3号−5号)。 仲裁 仲裁は, 公益委員または公益を代表する特別調整委員の中から当事者が合意 により選定した者につき労働委員会の会長によって指名された仲裁委員 (3名 以上の奇数) で構成される仲裁委員会が仲裁裁定を下す手続である (同条以 ( ) 争議行為と法 下)。 仲裁は, 当事者双方からの申請または労働協約の定めにもとづく当事者 の双方または一方からの申請によって開始されるが, 仲裁裁定が下されると労 働協約と同一の効力をもつ (同条・条)。 緊急調整 緊急調整は, 「公益事業に関するものであるため, 又はその規模が大きいた め若しくは特別の性質の事業に関するものであるために, 争議行為により当該 業務が停止されるときは国民経済の運行を著しく阻害し, 又は国民の日常生活 を著しく危くする虞があると認める」 ときに, 内閣総理大臣が, 中労委の意見 を聴いて, 日間争議行為を禁止する 「緊急調整の決定」 を行い, その間, 中 労委がすべての事件に優先して, その事件の解決のために努力する手続である (同条の2以下)。 争議禁止違反は, 万円以下の罰金刑の対象となる (同 条)。 緊急調整の決定がなされたのは, 年秋に敢行された日間に及ぶ炭 労ストに対する同年 月 日の第1号決定のみで, その後は発動されていない。
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