燃料電池自動車用水素の供給価格と技術課題

水素エネルギーシステム Vol.33, No.1 (2008)
特
集
燃料電池自動車用水素の供給価格と技術課題
中村恒明・岩渕宏之・村田謙二・坂田 興
(財)エネルギー総合工学研究所
〒105-0003 東京都港区西新橋1-14-2
Supply Cost and Technology Issues of Hydrogen for Fuel Cell Vehicles
Tsuneaki NAKAMURA, Hiroyuki IWABUCHI, Kenji MURATA, and Ko SAKATA
Institute of Applied Energy
1-14-2 Nishi-Shimbashi, Minato-ku, Tokyo, 105-0003
Extensive analytical investigation has been conducted to predict supply cost of hydrogen for fuel cell
vehicles, thereby identifying technology issues needed to reduce the cost. Sources of hydrogen studied are
natural-gas on-site reforming, off-site byproduct hydrogen from oil refineries and on-site electrolysis. A
number of transportation methods for off-site hydrogen production are also considered, such as high
pressure storage, liquefaction and organic hydride. Cost structures are analyzed by taking into account of
both fixed and variable cost along the process of hydrogen supply. Key processes with significant impact
on the cost of hydrogen are identified. Technologies needed to reduce the cost are then summarized.
Keywords: Hydrogen, Fuel Cell Vehicle, Supply, Technology
多様な水素の製造・供給パスの技術実証を行うため、2007
1. 緒言
年8月末現在、首都圏・中部・関西圏で合計12の水素STが
エネルギーセキュリティーや地球温暖化対策として水
運営中である。
素エネルギーに注目が集まっている。
水素エネルギー社会
の中核は、
従来の内燃機関自動車に代わる燃料電池自動車
(FCV)と水素供給インフラであり、これを構築するた
めに産官学に渡る長期的・戦略的な取り組みが進められて
いる。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は水素
エネルギー社会構築に必要な広範囲の技術開発を極めて
戦略的に主導してきた。
水素安全利用等基盤技術開発事業
図1. 水素ステーションとFCV
はその一つである。本稿では(財)エネルギー総合工学研
究所が本事業の調査研究として取り組んできた水素供給
図2に水素の製造・供給パスの代表例を示す。水素ST
価格シナリオ分析等に関する研究 [1] の中から、水素の
は、オンサイト型、オフサイト型に分類される。オンサイ
供給価格・技術課題について報告する。
ト型は水素STにて水素を化石燃料から改質製造するか、
水電解等により製造する。オフサイト型は、集中して大規
2. 水素供給インフラとその導入目標
模に水素を製造しトレーラー等で水素STに水素を輸送し
図1は水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)で進
められている水素ステーション(水素ST)の一つである。
供給する。
オフサイト水素源としてはいわゆる副生水素が
主流になると言われている。FCVへの水素供給は高圧圧
-27-
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特
集
<オンサイト製造・高圧水素供給>
<化石燃料改質> 都市ガス
LPG等
<水電気分解>
改質水素製造
電力
<オフサイト製造・高圧水素供給>
水素供給
水電解水素製造
水素ステーション
製油所副生水素
製鉄所COG副生水素
オフサイト
圧縮機
塩電解副生水素
高温ガス炉水素
オフサイト製造・圧縮・出荷
鋼製カードル
トレーラ・トラクタ
圧縮機
圧縮水素輸送
蓄圧器
ディスペンサ
FCV
水素供給
図2. 水素の製造・供給パスの代表例
縮水素によるものが主流である。
自動車と同等の燃費となるべく、40円/㎥台(揮発油税等
図3にFCV、水素STの普及台数・基数、水素供給コス
の道路特定財源分除く)を目標としており、また、当面の
トの推移イメージを示す。資源エネルギー庁による、FCV
ターゲットは100円/㎥台であると考えられる。
/水素STの導入目標は、2007年8月現在:
2010年:
5万台/ 500箇所
3. 本格普及期の水素供給コストと低減策
2020年: 500万台/3,500箇所
2030年:1,500万台/8,500箇所
である。
3.1. オンサイト型水素ST
2007年時点で走行中のFCVが100台弱と言われている
図4に水素供給コスト算出例を示す。定格水素製造・供
実状を勘案すれば、
上記の導入目標は極めてチャレンジン
給能力500N㎥/hのガソリンスタンド併設型水素STを仮定
グである。水素供給コストは、本来は、内燃機関自動車を
した。普通乗用車クラスのFCVに10~20台/時程度供給
代替するものとしてライフサイクルコスト評価のもと、
水
できる。普及期として上記2020年目標値である水素ST:
素の競合可能販売価格から決定されるものである。FCV
1,500箇所を仮定した。その時点での建設費は、現在の初
の価格が不明確な現状では、
本格普及期においてガソリン
号機の建設費を基に量産効果によるコストダウンを予測
10,000,000
FCV、ステーション数、水素コスト(¥/m3)
1,000,000
100,000
FCV: 500万台
水素ST:3500基
水素供給コスト ¥/m3
(イメージ)
10,000
FCV: 5万台
水素ST:500基
1,000
競合可能水素販売価格
100±20¥/m3程度(対ガソリン)
実証事業等に必要な
補填額の単価
揮発油税
等相当分
50円/m3H2位
100
FCV台数
10
水素ST基数
現CNG車並普及
3万台/300基
現LPG車並普及
30万台/2000基
本格普及時
水素供給コスト
40-50¥/m3程度
1
JHFC-(技術実証)
2005
2010
FCV:50~100台位
ST:10基程度
2015
2020
黎明期(社会実証)
FCV:1~2万台
(~2千台/年)
ST:200-300基
(~20基/年)
2025
2030
初期普及(市場創設)
FCV:50~100万台
(1-5万台/年)
ST:1000-2000基
(~200基/年)
図3. 水素インフラ普及イメージ
-28-
2035
2040
本格普及
FCV:1-2千万台
(~百万台/年)
ST:5千~1万基
(~千基/年)
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特
350
水素供給コスト(円/m3-H2)
人件費)の割合が大きくコストの60%程度を占める。こ
建設費償却分
土地賃料・人件費
変動費
300
のことは、
水素供給コストが設備の稼働率に大きく影響を
250
200
集
受けることを示している。
政府の水素供給コスト目標であ
普及初期の低稼働率による
建設費償却分の増大
る40円/㎥-H2台を安定的に目指すには、固定費償却費負担
150
100
の低減が極めて重要であることが推察される。
量産効果による
建設費償却分低減
50
0
3.3. 稼働率の向上による水素供給コストの低減
都市ガス改質 都市ガス改質 都市ガス改質 アルカリ水電解 初号機(稼働率15%) 初号機(稼働率85%) 普及期(稼働率85%) 普及期(稼働率85%)
ここまでのコスト評価では、ガソリンスタンド(SS)
(注:稼働率=営業時間中(13時間/日)の設備稼働率)
図4. 水素供給コスト(オンサイト水素ST)
の平均的営業時間である13時間/日を前提としてきた。一
方、最近はガソリンスタンドの集約化・大型化・24時間
して求めた。量産効果によって建設費は約60%に低減し、
営業化が進行中である。大型SS並の水素STを仮定して水
その分水素コストに占める建設費割合
(償却負担)
が減る。
素供給コストを算出したのが表2である。例えば、供給能
人件費・土地賃料は規制見直しによる保安要員の減尐を考
力500N㎥/hの水素STを、大型化24時間営業化し供給能力
慮したことによる。水素STの稼働率は普及期では85%(13
1,000N㎥/hの水素STにすると、水素供給コストは、55円/N
時間/日営業時間中の設備稼働率)としている。
㎥-H2程度から10円以上減り40円/N㎥-H2台半ばになる。
普及期のオンサイト都市ガス改質の水素供給コストは
55円/N㎥-H2程度と予測される。アルカリ水電解では変動
表2. 水素供給コスト(オフサイト水素ST)
費のうち水電解用の電力コストが大きく(想定電力単価:
オンサイト都市ガス改質
営業時間(h/日)
供給能力(㎥/h)
供給量(㎥/日)
建設費
固定費
土地・人件費
変動費
合計
13円/kWh)、水素供給コストを大幅に押し上げる。電力
コストを1/3以下にまで低減する必要がある。なお、水素
STはFCVの普及に先行して建設されるので、その稼働率
は普及初期には低いと予想される。
量産化によるコストダ
ウン効果が無く、稼働率が低い場合は、水素供給コストは
300㎥/h H2ST 500㎥/h H2ST
13
24
13
24
300
600
500
1000
3,315 9,435 5,525 15,725
26.3
17.6
23.7
15.9
6.9
4.8
7.0
4.9
24.7
22.9
24.4
22.6
57.8
45.4
55.1
43.4
300円/N㎥-H2(稼働率:15%)を超える。
また、水素STの稼働率を上げる方策として、図5に示
3.2. オフサイト型水素ST
す様に、水素STから水素駆動型定置式燃料電池に水素を
表1にオフサイト型の水素ステーションの水素供給コ
併給するモデルも検討した。この場合も、水素供給コスト
スト算出例を示す。水素供給コストは、オフサイトの水素
は、40円/N㎥-H2台半ばになる。水素STの大型24時間営業
製造コストと輸送コストの合計コストで水素を仕入れ、
水
化、定置用燃料電池への併給モデルいずれも水素STの稼
素STでのコスト(固定費負担+変動費)を上乗せしたコ
働率を飛躍的に向上させる点では同じ効果がある。
水素エ
ストである。
副生水素の製造コストについては公開されて
ネルギー社会の普及期においては、大規模な水素STを中
いる様々な数字を範囲で示す。水素STでの水素供給コス
核に、FCVへの水素供給と周囲の住戸に水素を併給する
トは、3つの副生水素でほぼ同じ,60±5円/㎥-H2程度であ
「水素コミュニティー」
を構築することも一考に値しよう。
る。水素供給コストに占める固定費(建設費+土地賃料・
表1. 水素供給コスト(オフサイト水素ST)
円/㎥-H2
塩電解副生 製鉄所COG副生 製油所副生水素
工場出荷価格(製造・精製・圧縮コスト)
17
22.2~24.6
14.2~26.2
輸送コスト(20MPa、輸送距離50km)
13.2 (固定費:11.7、変動費:1.5)
水素STコスト(500N㎥/h、SS併設)
25.4 (固定費:21.2、変動費:4.2)
水素供給コスト
55.6
-29-
60.8~63.2
52.8~64.8
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も制限が厳しいと思われる、
敷地面積と建築基準法の用途
FCV
自動車
地域規制を縛りとしSSとCNGSTを類型化した。
FCVバス
図6に結果を示す。
建築基準法の用途地域制限とは危険
<想定条件>
オンサイト都市G改質
500Nm3/h (2020年)
物の貯蔵に関する規制である。現状、準工業地域や工業地
定置用FC
FCVへの供給のみ
55~58円/Nm3
定置用FCへの水素併給
41~44円/Nm3
域においては標準的な規模(供給能力:300~500 N㎥/h)
の水素STが建設可能であるが、いわゆる商業地や住居地
域においては、小型(供給能力:50~100 N㎥/h)の水素
図5.水素STから定置用燃料電池への水素併給モデル
STしか建設ができない。また、いわゆる住居専用地域に
おいては貯蔵が出来ないので水素STの建設は出来ない。
4. 黎明期の水素STモデル
既存のSS、CNGSTの敷地面積としては、500㎡あれば水
素STに転用可能、また、1000㎡程度あれば水素STの併設
現在進められているJHFCプロジェクトは技術実証の
が可能であると言われている。
サンプル調査による考察で
フェーズであり、
次いで社会実証と呼ばれるフェーズが必
は、首都圏で100箇所(全国で300箇所)程度の水素STは、
要であると言われている(図1参照)。社会実証フェーズ
小型のSTを含めれば、今でも既存のSS・CNGSTに併設建
は本格的な普及の前段として、水素STやFCVが社会に受
設可能と推測される。一方、本格普及期に必要な数(例え
け入れられるための実証であり、例えば、全国で水素ST:
ば3500箇所)の標準的水素STを、既存のSS・CNGSTに併
100~300箇所、FCV:1~3万台程度の普及が必要と言わ
設するのは、現状困難と結論できる。
れている。また、普及初期の水素STは既存のガソリンス
図7,8にそれぞれSS、CNGSTに水素ST(300N㎥/h)を
タンド(SS)や圧縮天然ガスステーション(CNGST)に
併設した概念設計図を示す。SS併設の場合はオフサイト
併設することが立地面や経済面で好ましいとされている。
型水素STを、CNGST併設の場合は天然ガス改質オンサイ
そこで、既存のSS、CNGSTについてサンプル調査を行
ト型水素STを併設している。敷地面積は1,100㎡程度ある
い、水素STを併設することが出来るかどうか調査を行っ
比較的大型のSS、CNGSTである。水素STを併設するには、
た。水素ST併設には様々な要件があるが、ここでは、最
既存設備の廃止・移設等や追加の敷地が必要となる場合も
SSサンプル(1都3県:全SS約7000カ所)
総数145(100%)
小型水素ST
に転用可能
総数 53 (100%) すべて用途地域>住居
用途地域>住居:99
500m2以上:110
小型水素ST
が併設可能
71 (49%)
内
1000m2以上:
23 (16%)
(準)工業地域:
10 (7%)
1000m2以上x準工業:3(2%)
標準的水素ST
を併設可能
CNGSTサンプル(1都6県:全CNGST約110カ所)
(準)工業地域
18 (34%)
1000m2以上
16 (28%)
小型水素ST
を併設可能
標準的水素ST
に転用可能
小型水素ST
に転用可能
500m2以上:41 (78%)
9 (17%)
標準的水素ST
に転用可能
標準的水素ST
を併設可能
図6. ガソリンスタンド(SS)と天然ガスステーション(CNGST)の類型化
圧縮機、蓄圧器、
カードルトレーラー
(事務所裏)
改質器
水素ディスペンサー
水素ディスペンサー
CNGディスペンサー
ガソリンディスペンサー
図7. SSに併設した水素ST(オフサイト)の設計例
・圧縮機
・蓄圧器
・バッファ
タンク
・カードル
トレーラ
置き場
-30-
図8. SSに併設した水素ST(オンサイト)の設計例
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あろう。しかし図6に示すように、全国で300程度の水素
る技術開発課題を整理した。代表的な水素製造・供給パス
STであれば、多尐無理をすれば既設SS、CNGSTに併設が
について、
プロセス毎のコスト構造やエネルギー効率を算
可能である。一方、本格普及のためには、水素STのさら
出した。コスト削減、効率向上に大きなインパクトがある
なるコンパクト化が必要であると判断できる。
と思われるプロセス、設備・装置項目を抽出し、技術開発
社会実証フェーズを5年行うとすると、全国で毎年60箇
の方向性を明確にした。前提とする水素STは:
所程度の水素STを建設することになる。水素ST1箇所で
– 想定年度:2020年(全国に約3,500箇所普及段階)
平均3億円程度の建設費が必要で、年間200億円弱の投資
– 水素供給能力: 500m3N/h
となる。水素供給コストとしては図4に示したように、稼
– 設置形態:単独設置タイプ
働率が低く割高になると予測され、
価格競合力を担保する
– FCVへの水素供給:高圧圧縮水素(35MPa)
には建設費相当分について何らかの補助が必要であると
– 営業時間・日数: 13時間/日、365日/年
予測される。
– 営業時間中の設備稼働率:85%。
である。
5. 水素製造・供給に関わる技術課題
5.1. オンサイト水素供給
都市ガス改質と水電解水素製造を取り上げた。図9にコ
水素供給価格を低減し経済性を高めるために必要とな
スト構造、効率を示す。水素製造の固定費、変動費(人件
都市
ガス
改質水素製造
電力
下表中()内表記は、水の電気分解の数値
水電解水素製造
コスト影響度:1位
2位 3位
コスト影響度:1位、2位、3位
<水素供給コスト>
<水素供給価格費>
円/Nm33-H2
2
円/Nm -H
固定費
固定費
変動費
変動費
労務費
労務費
合計
合計
製造
製造
圧縮機
圧縮機
蓄圧器
蓄圧器
ディスペンサ
ディスペンサ
土木工事
土木工事
合計
合計
12.2(10.9)
12.2(10.9)
15.8(64.2)
15.8(64.2)
2.1
2.1
0.8
0.8
2.1
2.1
9.9
9.9
4.6
4.6
1.7
1.7
8.3
8.3
0.0
0.0
1.7
1.7
2.5
2.5
0.1
0.1
1.7
1.7
3.8
3.8
2.1
2.1
0.0
0.0
12.0
12.0
27.1(25.7)
27.1(25.7)
25.7(71.0)
25.7(71.0)
6.7
6.7
59.5(103.3)
59.5(103.3)
1.7
1.7
76.7
76.7
<エネルギー効率>
<エネルギー効率>
都市ガス改質
採掘・輸送・供給
都市ガス改質
製造
採掘・輸送・供給
製造
エネルギー効率
86.4%
エネルギー効率
86.4% *1
WtT
100%
86.4%
WtT
100%
86.4%
オンサイト
オンサイト
改質・精製
昇圧・充填
改質・精製
昇圧・充填
74.0%
90.0% *2
74.0%
90.0%
63.9 %
57.5 %
63.9 %
57.5 %
図9. オンサイト 高圧水素供給のコスト構造、効率
表3. オンサイト製造供給の技術課題
タイプ
コ
抽出因子
ス
取り組むべき
ト
技術課題
抽出因子
効
取り組むべき
率
課題
化石燃料改質
高圧水素供給
製造-変動費
製造-固定費
・ 改質効率の向上
・ 改質装置の低コスト化
製造
・ 改質効率の向上
-31-
水電解
高圧水素供給
製造-変動費
製造-固定費
・ 電解効率の向上
・ 電解装置の低コスト化
発電
・ 再生可能エネルギー
由来電力の適用
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特
費除く)のウェイトが高い。また、エネルギー効率として
集
5.2. オフサイト水素供給
は改質操作において大きなロスを生じている。
従って技術
オフサイト水素供給の場合には、
集中的に製造した水素
開発課題としては表3に示すように、改質・電解効率の向
を水素ステーションにまで輸送する方法がいくつか提案
上や改質・電解装置の低コスト化が重要課題である。これ
されている。ここでは、高圧水素、液体水素、有機ハイド
には、例えば、高効率メンブレン型リフォーマーや高温動
ライドで輸送する方式を取り上げる。水素製造・出荷基地
作PEM電解システム、高圧水素発生システムの開発が必
から12t/dの水素がFCV向けに出荷され、一律50km離れた
要となろう。水電解製造については、再生可能エネルギー
20~22カ所の水素STに水素が輸送されるものとした。
由来電力を用いるなど、
製造する水素に別の観点から付加
FCVへの供給は、高圧水素(35MPa)供給とした。
価値を付けることも必要である。図10にバイオマスや太
[高圧水素輸送/高圧水素供給]
陽光由来の水素製造技術をまとめて示す。
長期的には水素
高圧水素輸送では、
トレーラー・トラクターを使用する。
を高効率に直接発生する技術が期待される。
汎用鋼鉄製カードルを用い、輸送圧力は20MPaである。
技術の現状
今後の展開
水素製造
(
バ
イ
オ
マ
ス
熱分解処理
開発フェーズ
後段で改質操作 実用階段
熱水処理
(超臨界・亜臨界水処理)
水素直接発生
実証段階
メタン発酵 後段で改質操作 実用段階
微生物
処理
水素発酵 水素直接発生
)
(
太
陽
光
工程
太陽電池発電/
水電解プロセス
基礎研究
段階
実用階段
光触媒
/光電気化学
実証段階
内容
実用化時期
・ガス化プロセスは実用化技術
・ガス化ガスからの水素製造/水素変換フ
゚ロセス用 設備構成、運転条件の最適化
短期
・反応容器材料の選択
・長寿命触媒の開発
・反応炉への原燃料供給機構の構築
中~長
期
・高収率、高発生速度の発酵菌探索
・当面の効率目標:「太陽電池+水電解」
・吸収波長長波長化材料研究開発
光合成微生物
実用段階
・当面の効率目標:「太陽電池+水電解」
長期
・遺伝子操作、育種改良等工学的効率の向上
太陽光集熱
/熱化学法
基礎研究
段階
・反応プロセスの確立/反応装置設計検討
・実運用システムの検討
)
水素直接発生
図10. バイオマス・太陽光由来水素製造の技術開発
オフサイト
水素供給
設備
<水素供給価格費>
<水素供給コスト>
操作
操作
工程
工程
コスト影響度:1位、2位、3位
コスト影響度:1位 2位 3位
オフサイト
オフサイト
運搬
運搬
オンサイト
オンサイト
合計
圧縮 トラクター トレーラ コンプレッ
ディス 土木工事費土木工事費
圧縮
トラクター トレーラ
ディス
製造
精製
蓄圧器
その他
製造
精製 出荷 トレーラー 受入
サコンプレッサ 蓄圧器
ペンサ
その他
出荷
トレーラー 受入
ペンサ
固定費
固定費 (5)
(5)
変動費
(8)
変動費
(8)
0.90.9
1.41.4
労務費
労務費 (0.2)
(0.2)
合計
合計 13.2
13.2
0.10.1
2.42.4
2.02.0 14.014.0 0.260.263.5 3.5 0.8 0.82.1
3.73.7 1.5 1.5 0 0 3.4 3.4 0
0 0.1
0.30.3 4.9 4.9 1.4 1.4 1.4 1.4 1.4 1.41.4
6.06.0 20.820.8 1.7 1.7 8.3 8.3 2.2 2.23.6
2.4
6.0
輸送合計
-
<エネルギー効率>
操作
<エネルギー効率>
採掘輸送精製
工程
操作
エネルギー
工程
効率
エネルギー
WtT
効率
採掘輸送精製
93.9
100%
93.9
輸送
WtT 100%
輸送
20.8
1.66
-
-
オフサイト
製造
精製
オフサイト
72.7%
製造
98.6%
精製
圧縮出荷
94.1%
圧縮出荷
-
トレーラ
貯留
2台の
合計
場合
39.2 39.2
31.9
2.110.3 10.3
18.1
0.1 0
018.1 18.1
11.1
1.4 0
011.1 11.1
68.4 68.4
61.1
3.610.3 10.3
-
30.9
23.5
輸送
オンサイト
運搬
輸送
昇圧・充填
オンサイト
97.8%
運搬
92.6%
昇圧・充填
93.9% 72.7% 68.3% 98.6% 67.3% 94.1% 63.3% 97.8% 61.9% 92.6%
57.3%
100%
98.6%
92.7%
90.7%
93.9%
68.3%
67.3%
63.3%
61.9%
57.3%
図11.
高圧輸送・高圧水素供給のコスト構造、効率
-オフサイト100%
98.6%
92.7%
90.7%
-32-
-
水素エネルギーシステム Vol.33, No.1 (2008)
特
集
トレーラーを水素STに留め置きして水素供給する。図11
素STの液体水素タンクに貯蔵し、液体水素ポンプで圧縮
にコスト構造、効率を示す。コスト負担の大きいのは輸送
した後、気化して高圧水素供給を行うと仮定した。
の部分である。
圧縮水素のトレーラーによる輸送は極めて
図12にコスト構造、効率を示す。コスト負担の大きい
輸送効率が悪く、20トントレーラーで一度に250kg程度
のは液化の部分である。コスト的には、液化に関わる固定
(20MPa圧縮)しか水素を輸送できない。従って水素単
費、変動費の割合が大きい。液化効率は通常75%程度と言
価への固定費負担が大きくなる。
われており、
効率的にも液化がボトルネックになっている。
[液体水素輸送/高圧水素供給]
[ケミカルハイドライド輸送/高圧水素供給]
液体水素の輸送には、液体水素ローリーを使用する。水
トルエン-メチルシクロヘキサン系のケミカルハイドラ
オフサイト
水素供給
設備
コスト影響度:1位 2位 3位
コスト影響度:1位、2位、3位
<水素供給コスト
<水素供給価格費>
オフサイト
オフサイト
操作
操作
工程
工程
運搬運搬
オンサイト
オンサイト
液化 液水 液水
ディス
液水 液水 蓄圧器
ディス 土木工事費
製造 精製
精製 液化
製造
タンク タンク ポンプ
蓄圧器
ペンサ
出荷出荷 ローリ ローリ
ポンプ
ペンサ その他
合計
土木工事費
その他
液化・出荷
設備費
合計
49億円の
場合
(6)(6) 1.01.0 28.928.9 3.9 3.92.1
2.1
1.1
1.1
0.8
0.8
2.1
2.1
10.3
10.3
55.8
55.8
48.6
変動費
(9)(9) 1.51.5 14.014.0 0.3 0.3 0
労務費
(0.2) 0.10.1 1.1 1.1 2.1 2.11.4
労務費 (0.2)
00.6
0.60
0
0.1
00.1
0
25.4
25.4
25.4
固定費
固定費
変動費
合計
合計
14.6 2.72.7 44.044.0 6.3 6.33.5
14.6
-
輸送合計
2.7
44.0
<エネルギー効率>
操作
<エネルギー効率>
採掘輸送精製
工程
操作
エネルギー
効率
工程
採掘輸送精製
93.9
93.9%
WtT
-
100%
-
93.9
1.4
1.4
01.4
0
9.1
9.1
9.1
2.2
3.6
3.6
10.3
10.3
90.4
90.4
83.1
-
-
-
56.5
50.5
3.5
-
72.7%
93.9%
精製
圧縮出荷
98.6%
75.0%
液化
圧縮出荷
オフサイト
製造
100%
1.4
1.4
3.1
2.2
オフサイト
製造
72.7%
WtT
エネルギー
効率
輸送
6.3
1.4
1.4
3.5
3.1
精製
68.3%
100%
68.3%
98.6%
67.3%
98.6%
75.0%
67.3%
輸送
オンサイト
運搬
昇圧・充填
輸送
オンサイト
運搬
昇圧・充填
89.9%
50.5%
73.9%
50.5%
89.9%
98.9%
45.5%
66.5%
45.5%
45.0%
98.9%
-
45.0%
輸送 図12.
-オフサイト
100%
98.6%
73.9%
66.5%
液水輸送・高圧水素供給のコスト構造、効率
オフサイト
水素供給
設備
<水素供給価格費>
<水素供給コスト>
オフサイト
運輸
オフサイト
運輸
操作
操作 工程
ケミカル
水素添加
製造
水素添加 ケミカル
工程
製造 反応装置反応装置 ローリ
タンク
ローリ
固定費
(6)
5.3
0.3
固定費
(6)
5.3
0.3
0.3
変動費
(9)
4.1
0.4
変動費
(9)
4.1
0.4
0
労務費 (0.2)
0.4
1.4
労務費 (0.2)
0.4
1.4
1.2
合計
15.5
9.8
2.1
合計 輸送合計
15.5
9.8
2.1
1.5
9.8
2.1
コスト影響度:1位、2位、3位
コスト影響度:1位
2位 3位
オンサイト
オンサイト
合計
コンプ
ディス 土木工事費
合計
蓄圧器
ディス 土木工事費
レッサ
ペンサその他その他
蓄圧器
ペンサ
4.5
3.5
0.8
2.1
10.3
33.0
3.5
0.8
2.1
10.3
33.0
7.7
3.4
0
0.1
0
25.1
3.4
0
0.1
0
25.1
1.2
1.2
1.2
1.2
0
8.0
1.2
1.2
1.2
0
8.0
13.4
8.1
2
3.4
10.3
66.1
8.1
2
3.4
10.3
66.1
13.4
40.3
脱水素
脱水素 反応
タンク
コンプ
反応精製装置
レッサ
精製装置
0.3
4.5
0
7.7
1.2
1.2
1.5
13.4
1.5
<エネルギー効率>
<エネルギー効率>
オフサイト
輸送
オンサイト
採掘・輸送
オフサイト
輸送
オンサイト
採掘・輸送
精製
操作・工程
製造
水素添加
運搬
脱水素化
昇圧・充填
精製
操作・工程
製造
水素添加
運搬
脱水素化
昇圧・充填
エネルギー効率
93.9% 93.9% 72.7% 72.7% 97.9% 97.9% 99.9%99.9%
79.1%79.1%
92.6%
エネルギー効率
92.6%
WtT WtT100% 100% 93.9% 93.9% 68.3% 68.3% 66.8%66.8% 66.8%66.8% 52.3%52.3% 48.9%
48.9%
輸送 輸送 100% 100% 97.9%97.9% 97.9%97.9% 77.4%77.4%
- -
図13. オフサイト ケミカルハイドライド輸送・高圧水素供給のコスト構造、効率
-33-
水素エネルギーシステム Vol.33, No.1 (2008)
高圧輸送
高圧水素供給
タイプ
-
液化操作
ケミハイ輸送
高圧水素供給
水素添加-固定費
脱水素装置-固定費、-変動費
・ 水素添加設備/脱水素装置
の低コスト化
・ 脱水素反応装置の高効率化
脱水素操作
-
・ 液化効率の向上
・ 脱水素反応効率の向上
抽出因子
輸送-固定費
コ
ス
・ 輸送効率向上
取り組むべき ・ 輸送用容器
ト
技術課題
の低コスト化
抽出因子
効
取り組むべき
率
技術課題
特
・複合材料容器の適用
液水輸送
高圧水素供給
液化-固定費
液化-変動費
・ 液化効率の向上
・ 液化設備の低コスト化
・磁気冷凍技術の開発
鋼製容器カードル
20MPa×710L×20本
充填水素総量:245kg-H2
90万円/本×20本=1,800万円
複合容器カードル
35MPa×内:205L×125本
充填水素総量:625kg-H2
150万円/本×125本=18,750万円
集
・高効率脱水素反応システムの開発
H2
Cat
111K(ガス)
↓
20K(ガス)
↓
20K(液水)
シクロ ヘキサン
Membrane
Reactor
ベンゼン
H2
水素の液化の実証
(液化効率 50%)
デカリン
Cat
過熱液膜
反応器
ナフタレン
図14. オフサイト製造供給の技術課題
イド輸送を仮定した。
トルエンに水素添加したメチルシク
地に足のついた地道な取り組みをしっかりと行いつつも、
ロヘキサンを製造し、ケミカルローリーで水素STに輸送
革新的な技術開発にもチャレンジする必要があろう。
また
する。水素STで、脱水素し発生したトルエンを同じロー
水素の安全を始めとする社会的受容性を向上させる取り
リーで製造基地に逆輸送する。
組みも重要であり、
益々多面的かつ戦略的な取り組みが必
図13にコスト構造、効率を示す。水素化、脱水素化そ
要とされるよう。なお、水素供給価格の算出には前提条件
れぞれに装置が必要であり、
コスト負担の大きいのは水素
等の設定が重要であり、その詳細については参考文献[1]
化の固定費負担部分と脱水素化の変動費負担部分である。
を参考にされたい。
特に脱水素化は吸熱反応なので、
ここでのエネルギー効率
低下、変動費負担がボトルネックである。
7. 謝辞
図14にオフサイト製造供給の技術課題をまとめて示す。
高圧輸送では、
複合材料を用いた軽量容器の開発が待たれ
本検討は、NEDO技術開発機構、燃料電池・水素技術開
る。液体水素輸送では、高効率な液化が期待できる磁気冷
発部殿の御指導のもとに行ったものである。
その高い専門
凍技術の開発が待たれる。また、ケミカルハイドライド輸
性・先見性・先進性・戦略性に裏打ちされた強靱かつ柔軟
送では、ケミカルハイドライド媒体の探索、脱水素反応の
な御指導力に深く感謝の意を表したい。また、NEDO技術
高効率化技術が必要である。
開発機構の御指導のもと、
水素供給価格シナリオを共同で
なお、オンサイト、オフサイト共に土木工事費が水素供
検討した
(株)
三菱総合研究所にも謝意を表する。
最後に、
給コストに占める割合はかなり大きい。
保安等の規制見直
本調査の技術課題検討は、現在、三菱重工業(株)に所属
し等による敷地面積の縮小等が必要である。
する岩渕宏之氏によるものである。
氏の献身的なかつ多大
なる努力と貢献には感謝の意を表しても表しきれない。
6. まとめ
参考文献
水素インフラの構築には長期的な取り組みが必要であ
1. NEDO技術開発機構:平成17年度~平成18年度成果報告、
る。JHFCプロジェクトを初めとする先進的な取り組みに
水素安全利用等基盤技術開発/水素に関する共通基盤技術開
よって技術的には水素を供給することが実証されてきた。
発/水素供給価格シナリオ分析等に関する研究
一方、実用レベルで水素を供給するにはコストダウン、効
率向上に向けたさらなる取り組みが必要である。
これには、
-34-