砂底に生息する棘皮動物 - AMSL 阿嘉島臨海研究所

アムスルだより
No. 109
2011年
Akajima Marine Science Laboratory
5月10日
阿嘉島臨海研究所
〒901-3311 沖縄県島尻郡座間味村字阿嘉179
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●砂のなかの星たち
-砂底に生息する棘皮動物-
だんだんと夏に近づいてきました。夏
といえば台風ですが、今年は 1 号目から
慶良間に向かってきました。これから先
の台風はどうでしょうか?ここ数年は慶
良間を直撃する台風が少なく、直撃して
も大きな影響は見られていません(去年
は 2 つの台風が慶良間の真上を通過した
のですが、いつ通過したのかわからない
くらい被害は小さなものでした)。もち
ろん台風は人間だけでなく、海の生き物
にも大きな影響を与えます。サンゴにも、
台風が良い面でも悪い面でも影響を与え
ることは、前にアムスルだより(No.92)
でお話ししました。しっかりした岩に張
り付いているサンゴに対してさえそうな
のですから、波に動かされて地形すら変
わってしまう砂地にすむ生き物にとって
は、きっとさらに大変なことでしょう。
今回は、そうした砂地にすむちょっと気
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になっている生き物についてお話します。
砂地の特徴は、なんといってもその
‘やわらかさ’です。岩のように固い場
所は頑丈なので、その表面に張りつくよ
うにしてくらすのには都合が良いのです
が、もしそこが平らな場所ならば、かく
れることもできません。砂地はというと、
すでに書いたように波で形が変わるほど
動きやすいので、言い方を変えると‘不
安定’で、例えばせっかく表面に植物が
生えても、ひと波で砂に埋もれてしまう
かもしれません。けれども、砂の中にも
ぐることができるならば事情は変わりま
す。そこは、敵におそわれにくい、安全
なすみかになるのです。また、砂の一粒
一粒はとても小さなものですが、それが
無数にあるということは、とても広い表
面やたくさんのすき間があるということ
を意味しますから、バクテリアなどの微
小な生物やごみのような粒を食べてくら
す動物にとっては、良いエサ場となりま
す。
そういうわけで、砂地を探してみると、
バイカナマコなどの大型のナマコが転が
っていますし、フタスジナマコが砂にも
ぐっていたりしています。ナマコの仲間
は、砂粒の表面やすき間のごみなどを食
べる動物なのです(アムスルだより
No.61 で紹介しました)。また、ウニの
仲間のブンブクは、大変な砂掘り名人で、
砂にもぐるだけでなく、その中を移動し
てくらしているので、なかなか生きたブ
ンブクにはお目にかかれません(同
No.64)。この間、死んだ魚は海の底でど
うなるのか知りたくて、魚の肉のかけら
を砂地の上に置いたまましばらく観察し
ていると、やがて短くて細いひものよう
なものが砂の中から出てきて、もぞもぞ
と動き始めました。ゴカイの仲間かな、
と思いましたが、どうも違うようです。
ひもは、どうやら魚の肉をねらっている
ようなのですが、片方の端をいつも砂の
中に入れていて、全体が見えません。こ
うなると死んだ魚の将来より、ひもの正
体の方が気になります。思い切ってざっ
くりと砂ごと掘りおこして探してみまし
た。出てきたのは、小さなクモヒトデの
仲間でした。深海の海底にたくさんのク
モヒトデが生息している場所があること
は知っていましたが、砂の中に埋もれて
暮らすクモヒトデがいるとは、新たな驚
きでした。
こうした動物を見るたびに、何もいな
いように見える砂地がどんどん面白くな
ってきますが、実は、ここしばらくずっ
と探しているけれども、まだ生きたもの
に出会えていない動物がいます。それは、
カシパンとモミジガイです。カシパンと
は、また変な名前ですが、ウニの仲間で
す。といっても長いトゲはなく、短い毛
のようなトゲの生えた円盤の形をしてい
て、上の面に 5 枚の花びらの模様がうき
でています。これも砂にもぐって暮らし
ている動物で、これまでに慶良間の海底
から集めた砂の中からミナミヨツアナカ
シパンの幼体(冒頭の写真)が見つかっ
たという記録があるのですが、生きた成
体を見たことがありません。それから、
モミジガイというのは、“貝”という名
前ですが、ヒトデの仲間です。薄っぺら
い星型の体で、砂の上やもぐってもごく
浅いところにすむ動物で、モミジガイや
カスリモミジガイの仲間が何種類かは慶
良間の海にすんでいておかしくないので
すが、まだ見つかりません。これからの
季節、みなさんも海に行くことが多くな
ると思います。もしもカシパンやモミジ
ガイを見つけた時には、ぜひ研究所にも
教えて下さい。
● 阿嘉島の海より
今年はゴールデンウィークと同時に沖
縄地方が梅雨入りしたため、雨や曇り空
の多い大型連休になってしまいました。
また、例年のこの時期に比べて海水温も
少し低いため阿嘉島を訪れたダイバーか
らは「寒い」という言葉をよく耳にしま
した。
3 月に起こった東北地方の大震災やそれ
にともなう自粛ムードの影響もあってか、
今年のゴールデンウィークに島を訪れた
観光客は例年に比べてかなり少なかった
ようです。今後もしばらくは色々な影響
がでてくることになるのでしょう。