資源地域社会学概論 田所 生態資源と象徴資源 ・自然物がどのようなときに資源として認識されるのか ・生態資源の価値には差がある。その差が資源の象徴化に影響している。 1.はじめに 生態資源:人間を取り巻く生態環境において、何らかの形で資源として認識されたもの。 周りでたくさん咲いている花:きれい。花を植えて人を呼ぼう。観光資源。富良野。 資源の象徴化:ある資源に象徴的価値が加わること。資源の象徴化とは、生態資源のもつ資源価値に、抽象的な意義 づけがなされ、本来認識されていた価値とは異なる象徴的価値が認識されることをさす。 ハワイにいる赤い羽根を持った鳥:ただの鳥。羽がケープやマントを装飾。生態資源に。首長しか身に着けない場 合、象徴的な価値が付加され象徴資源に。 象徴的な価値:個々の集団によって異なる。資源をどうとらえるかによって、意味も価値も異なる。 ミクロネシアのヤップ島:石貨、パラオまで出かけて行って切り出し、持ち帰る。パラオの人にとってはただの石。 2.古代ハワイ 1)階層社会 ・18 世紀:王を頂点とし、貴族、平民、奴隷という身分が明確な階層社会が発達。 ・所属する身分を表す服装や装身具。神聖性の顕示。オセアニアには貴金属が不在。別の物が利用。 ・入手が困難なものや作成に時間がかかるものが社会的地位を表象する資源に。 2)象徴資源の例 クック船長(1776 年~80 年) ・羽毛でつくられたケープやヘルメットをかぶり、他の身分の者との違いを顕示。 ・ケープはアフウラ、ヘルメットはマヒオレ。ポリネシアで神聖な色とされる赤と黄色の羽を利用。 ・赤い羽根は、イ❛イウィと呼ばれる。ハワイミツスイ(鳥の一種)の胸や背の羽。 ・黄色い羽根は、オ❛オ。 ・小さな鳥であるため、一羽からとれる羽の数は限られる。 ・ケープ自体は、社会的地位の高い男性によってのみつくられる。首長の家計を読み込んだ歌を歌いながら作られる ことによって、神聖な霊力がこのケープに込められ、神聖性を表象する象徴的な価値が与えられる。 3.ミクロネシアの島々 1)自然環境の多様性 島嶼環境は資源の種類が少なく絶対量も少ないという特徴も持つが、そこにある資源に大きな差が生じる。火山の噴 火によって形成された島は鉱物資源や水資源に恵まれ、人間が生活する上で重要な植物や鉱物などの自然資源は比較 的豊富である。 ・サンゴ島には石も粘土もなく、土壌も貧困なので生育する植物の種類も限られる。 ・ミクロネシアには火山島とサンゴ島が混在し、 利用できる生態資源の差が資源利用の特徴を生み出すと考えられる。 2)出土した土器から見た外界接触 ・サンゴ島のファイスでは生態資源の貧困さを資源の移動によって補っていた。 3)サフォイ交易 ・サウェイ交易には中央カロリン諸島の主要な島々が加わっていた。年1回東端のサンゴ島から手工芸品などを積み 込んだカヌーが西進し、サンゴ島では入手しづらい土器やタケ、食用植物、ウコンなどの生態資源類がサンゴ島へ 持ち帰られた。 ・これに対し、サンゴ島から交易品としてヤップへ持ち込まれたものは主に手工芸品だった。サウェイ交易での交換 物を見ると、生活必需品や食料などの生態資源を多く入手するサンゴ島の人々のほうに利がありそうに見えるが、 ヤップの人々が入手する織物が持つ象徴的価値が、この交易関係のバランス関係を保ってきたように見える。 3.シベリア地域の毛皮資源 1)シベリアの先住民族 ・シベリアで生態資源として主に利用されてきたものでも毛皮を持つ毛皮獣は重要な生態資源として狩猟され、食用 の肉と毛皮の両方が利用されてきた。食用資源と毛皮資源という二つの価値を認識していた。 2)狩猟動物の価値体系 ・狩猟動物の価値体系は森の動物の序列に従い、動物の大きさなどにより資源価値の序列が生じる。一方、美しい毛 皮を持つと同時に恐ろしい肉食獣でもあるアムールヒョウとトラは畏れられる存在であり、狩猟の対象にはされな かった。 ・シベリアの先住民の間には15・6世紀ごろ貨幣経済が持ち込まれた。交易用資源として動物を消費することも行 われた。山丹交易といわれるものはウデヘやニヴフなどの先住民はロシアや中国に出向いて毛皮を納め、見返りに 絹織物などを入手していた。日本もその交易に含まれていた。 3)毛皮交易 ・狩猟者であるウデヘやニヴフが本来もっていた動物の資源的価値とは異なる価値体系であるが、いくら売れるかと いうレベルで毛皮獣としての序列が決まった。 ・クロテンはかつてヨーロッパにも生息していたものの、早々に取り尽くされたため、ロシアはシベリアへ進出する のだが、シベリアの先住民たちから銃や鉄製品と引き換えに毛皮を入手した。そのためクロテンの持つ資源価値の 高さが、シベリアの先住民の間で一気に認識された。 ・中国においてもクロテンは極上の毛皮として使われていた。交易相手の象徴的価値が高いものを交易することで、 ニヴフの人々より多くの交換物質を入手していた。 4)生態資源の象徴的価値づけ ・象徴的価値は社会によって一様ではなく、クロテンは中国では価値が高かったが、日本では二束三文であった。ニ ヴフは日本から安くクロテンを買い入れ、それを中国に持っていって高値で売り、中国から日本で価値の高い、絹 織物やガラス玉を仕入れ、高く売っていた。ニヴフはその儲けで大きな鉄なべや銀の装飾を施したやりや刀などを 買った。 ・物質的価値は人間集団ごと、あるいは時代によっても異なり、生態資源の象徴的価値付けはここの社会の価値体系 と密接な関係があった。 5.古代アンデス 1)古代アンデス文明 ・南米を代表する酒、チチャはトウモロコシが原料である。トウモロコシはメソアメリカの原産で、紀元前700年 ごろから特に生産が拡大された。 チチャは粉にしたトウモロコシをかんで唾液と混ぜ、 それを煮込んで発酵させる。 ・古代社会の権力を支えるものには、 ・経済力 ・軍事力 ・権力を支えるイデオロギー の三つの基盤的要素があった。中でもイデオロギーとは信仰や儀礼、あるいは特殊な物質文化を利用して、社会の秩 序を保っていた。 6.まとめ ・自然界に存在する自然物は、人間にとってその価値が認識されたときに生態資源になる。 主体となる人間、認識する時間・場所によって多様。希少な生態資源については、その所有を巡って社会の中で 反発や対立が生まれることがある。 階層化された社会では、希少資源の独占をはかり、資源としての積極的な利用がなされることもある。 (生態資源 の象徴的価値の付与) ・生態資源の象徴化、象徴資源という概念は、人間集団の持つ人間らしい社会概念
© Copyright 2024 Paperzz