総合行政システムと連動する統合型 GIS に関する検討

総合行政システムと連動する統合型 GIS に関する検討
片井一行,石井将史,前田充,大伴真吾
An examination of integrated GIS that synchronizes with the local government
information system
Kazuyuki KATAI, Masashi ISHII, Mitsuru MAEDA, Shingo OTOMO
Abstract: There are not a lot of cases where GIS that in real time synchronizes
with the local government information system is operated in the public office.
Recently, it has become easy to exchange the data between systems by the use of
an open technology. Then, it reports on the result of review of the specification of
integrated GIS, the data specification, the effect measurement, and the problem
based on details of the development of GIS that synchronizes with the local
government information system.
Keywords: 統 合 型 GIS(integrated GIS) , 総 合 行 政 シ ス テ ム (local government
information system),共用空間データ(common spatial data),シンクライアント(thin
client),iDC(internet data center)
1. はじめに
2. 統合型 GIS の仕様
市町村において日常業務で使用している総合行政
統合型 GIS の導入の目的,期待される効果につい
システムと GIS とをリアルタイムに連動させて運
ては総務省より示されている[1]が,導入する立場で
用している事例はあまり多くない.ここ数年に構築
もこれらを具体に検討し,それぞれ統合型 GIS 基本
されたシステムは,オープン技術等の活用により,
計画としてまとめ,この計画に基づいて導入及び運
システム間のデータ交換を行うことが容易となって
用を行うことが一般的である.北海道自治体情報シ
きている.そこで,人口規模が比較的小さい自治体
ステム協議会が会員団体向けにまとめた統合型 GIS
における総合行政システムと連携した GIS のシス
整備仕様書における統合型 GIS に求める要件[2]及
テム開発の経緯を踏まえ,統合型 GIS のあるべき姿, び筆者らの経験を基に,統合型 GIS 及びこれに関係
データ仕様,効果予測及び課題についての検討結果
する要求事項を以下にまとめた.
を報告する.
① 統合型 GIS のシステム像
GIS の持つ基本的な機能を持ち,全ての業務で,
片井:〒063-0828 札幌市西区発寒 8 条 11-3-50
株式会社北海道朝日航洋 生産技術部資産情報 G
Hokkaido Aero Asahi Corporation,
11-3-50 Hassamu-hachijou, Nishi-ku, Sapporo
063-0828, Japan
Tel 011-662-1031
e-mail: [email protected]
全職員が利用可能なシステムであること.操作性は
短時間の研修を受けることで習得可能なレベルが望
ましい.
② 空間データ資源の活用
既存のディジタル空間データ資源を活用すること
で整備費の削減を図ること.
③ 導入済み GIS の活用
稼働中の特定業務の GIS と空間データの交換を
行うことで,新たに導入する統合型 GIS との整合を
確保すること.
④ アウトソーシング
統合型 GIS に係る運用をアウトソーシング可能
であること.
サーバ及びシステムを庁舎内ではなく,
iDC(internet Data Center)にて管理することで,初
期導入時の経費削減,運用時のリスク分散を図る.
⑤ シンクライアント
統合型 GIS を,今後導入が加速すると思われるシ
ンクライアント PC で運用できること.シンクライ
図 1 統合型 GIS システム構成
アントによりセキュリティの強化,導入及び保守費
用の削減を図る.
⑥ 総合行政システムとのリアルタイム連動
なお,iDC とのネットワークが使用できなくなっ
た場合に備え,庁舎内にバックアップシステムを設
GIS から直接総合行政システムの関係するデータ
け,災害時でも稼動し,持ち運び可能なように耐震
を利用することができること.GIS 運用事例を見る
性,防塵・防滴に優れたノート PC 上に構築されて
と,空間データの主題属性(物地物の場合では所有
いる.
者名,用途など)は総合行政システムからある時点
3.2. 連携システム
でデータを抽出し,これを GIS へ提供,GIS で入れ
総合行政システムと統合型 GIS とを連動させる
替えを行う事例がほとんどである.連動させること
ためには,独立した二つのシステム間をブリッジ的
で,データの一元管理を確保し,かつ,データの入
な役割を果たすシステムが必要となる.そこで,両
れ替え作業をなくす.
システムのためのプロトコルを設け,このプロトコ
3. 総合行政システムと連動する統合型 GIS
ルに基づき,双方のシステムからのユーザ認証,要
3.1. 構成
求及び結果の受け渡しを行う連携システムを開発し
統合型 GIS に求める要件を踏まえたシステム構
た.連携システムの開発に際しては,双方のユーザ
成の一つを図 1 に示す.シンクライアントで GIS を
権限に基づくデータの操作,ネットワーク上を流れ
使用するための稼動方法として,Web ブラウザもし
るデータ量並びに双方のシステム内での処理効率を
くはターミナルサービス(以降 TS とする)を使用
向上させるような仕組みに留意した.なお,この連
する方法がある.前者の場合は,Web ブラウザがあ
携システムは TS サーバに格納し,統合型 GIS を稼
れば GIS が稼動し,後者の場合は Microsoft 社の
動させる各 PC に格納する必要はない.
Windows シリーズの OS であれば稼動するため,シ
4. データ仕様
ンクライアント側での設定がほとんど不要である.
4.1 共用空間データ
筆者らは,GIS の操作性向上及びある程度年数の経
統合型 GIS を運用するためには,総務省が推奨す
過した性能の劣る PC,旧版の OS でも GIS を使用
る共用空間データ 16 項目[1]が整備されていること
できるようにするため,
TS 上での運用を想定した.
が理想ではあるが,これから統合型 GIS を導入しよ
うとする多くの市町村においてはほとんど整備され
家屋図から,郊外は航空写真を基に数値化を行い,
ていないのが現状と推測される.しかしながら,こ
個々の家屋にユニークな番号
(以降家屋番号とする)
のような市町村の場合でも,GIS の導入時に位置の
を付け家屋図形データを取得している.
家屋番号は,
よりどころとなる骨格的な空間データがあると,そ
総合行政システムで持つ家屋課税データと結び付く
れを基準にして GIS 上で様々なデータを整備する
ように持ち,このため一つの家屋図形に複数の家屋
ことができる.一方で,総合行政システムのデータ
番号を持つ場合もある.
を活用するためには,このデータに結合する基とな
総合行政システムが持つ住民情報との関係付けは,
る空間データが必要である.このような観点から,
家屋番号に世帯主を結び付けることで実現する.こ
総合行政システムと連動する GIS のデータとして
のとき,一つの家屋図形に複数の家屋番号を持つも
の共用空間データ最小構成項目を以下に示す.
のは,最初に検索された家屋番号を代表家屋番号と
① 基盤地図
し,これに世帯主を結び付ける.集合住宅のように
位置のよりどころとなる基盤的な地図データで,
一つの家屋図形に対して,複数の世帯主が存在する
少なくとも道路,水涯に関する情報が必要である.
場合には,この家屋図形が持つ家屋番号に複数の世
ディジタルマッピングデータがある場合には,これ
帯主を結び付ける.この関係を図 2 に示す.
を使用するとよい.このような資源が無い場合,最
このような関係付けを行うことで,例えば,総合
も安価に調達するには数値地図 25,000 あるいは
行政システムの住民情報に基づいた災害弱者がいる
2,500(空間データ基盤)があるが,整備時点や前
家屋を,GIS により地図上に強調表示することがで
者は精度がレベル 25,000 であること,後者は都市
きる.
計画地区に限定されていること等が支障となること
もある.この他,市販されている住宅地図の中に入
っている同様の情報を利用する方法もある.
② 家屋
総合行政システムに格納されている住民情報,家
屋課税情報等と結合するためのデータで,総務省が
推奨する共用空間データの建物に相当する.
③ 筆
総合行政システムに格納されている土地課税情報
と結合するための情報であり,総務省が推奨する共
用空間データの筆に相当する.
4.2 データ間の関係付け
GIS が持つ個々の地物とこれらに対応する総合行
図 2 家屋地物と総合行政システムデータとの結合
(2) 筆
政システムのデータを結び付けるには,地物が持つ
北海道における平成 19 年度当初の地籍調査進捗
ユニークな ID 番号と総合行政システムのデータが
率は 62%(国土交通省土地・水資源局)であるため,
持つユニークなレコード ID 番号を対応付ける情報
市町村によっては地籍調査の成果をそのまま筆デー
を持つことで実現する.以下に結合対象の中心とな
タとして使用することができる.地籍調査が終了し
る地物を例に関係付け方法を記す.
ていない地域あるいは,地籍調査を実施していない
(1) 家屋
市町村は各市町村所有の地番図を基に筆データを取
北海道の多くの市町村は,家屋形状は,市街地は
得する.
筆と関連付く総合行政システムのデータの一つに
土地課税データがある.筆と土地課税データの関係
想定されている幾つかの課題[3]を次に示す.
(1) 曖昧なデータの取り扱い
付けは,所在を用いて筆図形データのユニークな ID
今後 GIS 上のデータと各種台帳データとを結合
番号と土地課税データのユニークなレコード ID と
させる作業を行う上で,空間的に曖昧なデータであ
を結び付ける.結び付けの際に,両データの持つ所
る場所を特定する情報(住所,所在地番等)をいか
有者名が等しいことを結合条件とすることで,デー
に効率よく適切に処理するかが問題である.
タ間の整合を検証することもできる.なお,一つの
(2) データの信頼性
筆図形データに対して,複数の土地課税データのレ
コードが付く場合もある.
総合行政システムと GIS との間で整合を図った
データベースを構築しても,住民が適切な手続きを
このような関係付けを行うことで,例えば,総合
行っていない場合には,処理結果が現状と合わなく
行政システムの土地課税データに基づく課税情報に
なる.行政はこのような事態を避けるためにも,住
係る各種主題図(土地利用現況図等)を GIS により
民に対して的確な行政サービスを行うために適切な
作成することができる.
手続きを行うように,よりいっそうの呼びかけが必
5. 期待される効果
要であろう.
総合行政システムと連動する GIS 導入により期
待される効果[2]は次の通りである.
(1) GIS の有効活用
(3) ワンストップサービスの実現
総合行政システムと GIS が連動することで,住民
に対する高度なサービスが可能となるツールの一つ
特定の業務に依存しない統合型 GIS を用いるこ
が整備されたことになる.運用状況を見ながら,こ
とで,これまで何らかの形で地図を利用してきた業
のツールをいかに活用して具体のワンストップサー
務の効率化・高度化を図ることができる.さらには
ビスを実現させるか,人員の配置や交付例規の整備
部署間の地図を媒体とした即時の情報交換が可能と
などを今後検討する必要がある.
なるため,部署間のコミュニケーションが活性化さ
謝辞
れ,多方面からの政策立案などが可能となる.
(2) 行政データの一元管理
北海道自治体情報システム協議会からは会員団体
の統合型 GIS に関する要件のまとめを,標茶町から
総合行政システムにて管理されたデータを GIS
は「標茶町統合型 GIS 基本計画」を提示及び教示い
で直接利用することで,これまで GIS で二重管理さ
ただいた.中央コンピューターサービス株式会社に
れてきたデータの一元管理が可能となる.一元管理
は,システム構成に関する助言,総合行政システム
することで,データ移行作業の廃止,時点管理によ
と GIS とのインタフェースの設計及び開発をいた
るトラブルを防止できる.
だいた.ここに深く感謝の意を表する.
(3) 総合行政システムデータの高度活用
参考文献
総合行政システムデータが持つ文字及び数字を中
[1] 総務省自治行政局地域情報政策室(2004),統合
心とした情報を GIS により地図上に視覚的に展開
型 GIS 導入・運用マニュアル
表示することで,
最新の情報による空間分析ができ,
[2] 大槻祐二(2006),
「北海道自治体情報システム協
より的確な住民対応,政策立案が可能となる.
議会における統合型 GIS」
,GIS データの標準化実
6. 今後の課題
践セミナーin 札幌レジュメ
本システムは,2007 年 8 月より本格的な稼動が
[3] 標茶町(2007),
「標茶町における統合型 GIS への
始まったばかりであるため,運用上の課題は今後明
取り組み」
,
地理空間情報整備の狙いとそのインパク
らかになってくるものと思われる.そこで,事前に
ト講演会レジュメ