講義資料 (第9回) 内田

2014/12/15
神経・筋疾患の病理
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筋組織の生検の病理検査(医学領域)
・凍結標本による検索が基本。
・複数の特殊染色や酵素染色を実施する必要がある。
末梢神経組織生検(医学領域)
・グルタルアルデヒド固定プラスチック包埋標本が基本。
・通常のホルマリン固定パラフィン標本に加え、
神経の解きほぐし標本による観察が必要とされる。
獣医学領域では、通常の生検と同様の処理が殆ど
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神経・筋組織生検を考える前に
 どの様な手順を踏んで病理生検に進むのか?
 組織はどのように処理すべきなのか?
 どれぐらいの精度で診断可能なのか?
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神経・筋組織生検適応と部位の検討
適応の妥当性の検討
・犬種特異的なmyopathyあるいはneuropathyが多い(確認は?)
・家族歴など遺伝的背景の有無(検査方法や組織保存方法に影響)
・一般的身体検査、神経学的検査、血液生化学的検査(必須)
・電気生理学的検査および神経学的検査
筋疾患:筋原性vs.神経原性、全身性vs.局所性)
神経疾患:中枢性、末梢性、運動系、感覚系、あるいは自律神経系?
疾患リストの作成と採取方法・保存方法
・遺伝性疾患の場合、凍結材料の保管が望ましい
・採取場所の検討
・採取組織の処理方法の検討
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神経・筋組織生検組織の固定
(ホルマリン固定・パラフィン標本)
 神経(N2と記載)と筋(M1と
記載)の組織生検。それぞれの
両端が注射針で割りばしに固定
されている。
 ホルマリン固定の場合はこの様
に、神経・筋の過剰な収縮によ
る組織のゆがみが生じないよう
に処理する。
 可能であれは神経の近位・遠位
の方向を識別してマークしてお
くことが望まれる。
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筋組織生検の凍結標本とパラフィン標本の相違
筋組織の凍結標本(a, 10μm)とパラフィン標本(b, 2μm)のHE像。凍結標本
は、筋線維の状態(萎縮の程度など)が観察しやすく、パラフィン標本では
組織像がシャープで、間質に浸潤した個々の細胞形態(この写真には認めら
れない)や血管の病変などの描出が容易である。
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筋・神経組織生検の凍結標本とパラフィン標本の相違
組織の種類
筋
凍結標本
パラフィン標本
神経
パラフィン標本
染色方法
目的
脂肪染色(Sudan Black B, Oil red Oなど)
過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色
脂質蓄積
糖原蓄積、基底膜の観
察
酵素染色(ATPaseなど)
I型筋・II 型筋の 分布確
認
免疫染色(ジストロフィン、メロシン、ザルコグリカン、 主 要 な 筋 ジ ス ト ロ
ジストログリカン、エメリンなど)
フィー関連蛋白の発現
状態確認
マッソン・トリクローム染色
間質結合組織と筋線維
の観察
リン・タングステン酸ヘマトキシリン(PTAH)染色
横紋筋構造と間質結合
組織の観察
抗デスミン免疫染色
筋線維の状態の観察
PAS染色
ルクソール・ファスト青(LFB)染色
マッソン・トリクローム染色
抗ニューロフィラメント免疫染色
抗Iba-1免疫染色
末梢性ミエリンの描出
ミエリン全般の描出
膠原線維増生の評価
軸索の観察
マクロファージ評価
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筋凍結標本による検索が不可欠あるは望ましい検索
筋の凍結標本を用いた酵素染色(ATPase pH10.4 )の染色像と抗ジストロフィン
抗体による免疫染色像(DAB発色)。
酵素染色によりI型筋とII型筋のモザイク構造が確認できる。
免疫染色により、筋膜に一致したジストロフィンの局在が観察され、ジストロ
フィン異常に起因する筋ジストロフィーではこの染色性が減弱もしくは消失する。
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筋型のモザイク構造確認の意義
Type groupingの検出
I型筋とII型筋はそれぞれ固有の神経
により支配されモザイク構造を形成
する。
ある特定神経が障害されると、その
支配を受けていた筋型の筋線維が特
異的に萎縮消失する。
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神経原性筋萎縮の際の群萎縮Group atrophy
ある特定神経が障害されると、その支配を
受けていた領域の筋線維が群をなして萎縮
消失する。
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神経組織の特殊な検索方法
*神経疾患治療マニュアル http://www.treatneuro.com/ より転載
末梢神経組織の検索には、電子顕微鏡用の組織固定・包埋semi thin 標本のトル
イジンブルー染色による観察を実施する(ミエリン・軸索の観察に優れる)。ま
たオスミウム固定組織のときほぐし標本を作製して実施される。医学領域の神経
生検では前者は必須項目とされる。
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イヌの主な筋疾患
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動物筋疾患の大分類
(1)炎症性筋疾患
感染症や免疫学的背景をもって筋が障害される疾患群。
(例)好酸球性筋炎、多発性筋炎、イヌの咀嚼筋炎
(2)神経原性筋疾患
上位・下位の運動神経障害に起因する2次的筋萎縮。
(例)馬運動神経病、幼獣型脊髄性筋萎縮症
(3)筋原性筋疾患
筋の1次的障害に起因する筋萎縮、変性、壊死。栄養性、
中毒性、労働性、代謝性、遺伝性(筋ジストロフィー)に分類。
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(1)炎症性筋疾患(原因不明の疾患群)
①好酸球性筋炎 Eosinophilic myositis
ウシ、ヒツジ、イヌで発生がみられるが、反芻獣とイヌでは
病態・病理発生が異なると考えられる。
イヌ:特にジャーマン・シェパードの咬筋炎。ミオシンに対
する自己免疫疾患が疑われている。
②免疫介在性筋炎 immune-mediated myositis
獣医領域ではイヌで報告が多い。関連疾患として多発性筋炎、
皮膚筋炎、咀嚼筋炎、眼筋炎など。これらの疾患の一部では
抗核抗体や抗筋抗体が確認されることもある。
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好酸球
性筋炎
住肉胞
子虫症
好酸球
性筋炎
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イヌの主な炎症性筋疾患
1. 免疫介在性筋症
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咬筋炎masticatory muscle myositisの病理発生
 2M筋線維は肉食動物ならびにヒト以外の霊長類の咀嚼
筋に存在するため、イヌに特異性の高い筋疾患であり、
病理診断は臨床症状、抗2M筋自己抗体の有無等を加味
した上で実施する。
 病理学的には筋線維の変性壊死とリンパ球、形質細胞、
および組織球系細胞の浸潤と特徴とする。
 CD20、BLA36などのB細胞の表面抗原に陽性を示す
Bリンパ球の浸潤が優勢であり、本筋炎の病理発生には
自己抗体を介した免疫応答が非常に重要と考えられる。
 慢性期には、間質結合組織の増生と筋組織の変性消失
が顕著となるため、生検診断の価値は乏しい。
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咬筋炎masticatory muscle myositisの病理像
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咬筋炎masticatory muscle myositisの病理像
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多発性筋炎 Polymyositisの病理発生
 イヌの多発性筋炎の病理所見:特発性多発性筋炎の活
動的病変としては、筋線維の変性壊死、間質における
リンパ球、組織球系細胞、および形質細胞等の単核細
胞浸潤が特徴的に認められる。
 免疫染色により炎症細胞の表面抗原を検索すると、T細
胞の浸潤が優勢であることが特徴である。
 本疾患では特異的な自己抗体が検出されないことが多
いこと、T細胞では特にCD8陽性細胞が多いことなど
から、病理発生として、細胞傷害性T細胞が筋組織傷害
に重要な役割を担っていると考えられている。
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多発性筋炎 Polymyositisの病理像
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多発性筋炎 Polymyositisの組織像
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皮膚筋炎 Dermatomyositisの病理発生
 コリーあるいはシェトランド・シープドッグに発生。
 筋組織の間質にリンパ球と組織球系細胞の浸潤を特徴
とするが、小血管中心の炎症所見が皮膚および筋で認
められる場合がある。
 炎症細胞の主体はT細胞と組織球系細胞である点は多発
性筋炎と類似するが、T細胞では特にCD4陽性細胞が
多いとされている。
 このため液性免疫による免疫複合物Immune complex
の血管壁沈着が血管病変あるいは皮膚病変の形成に関
与すると考えられる。
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皮膚筋炎 dermatomyositisの病理像
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外眼筋炎extra ocular myositisの病理発生
 臨床症状とCT検査所見などより外眼筋の腫大が確認
される。診断の確定は困難なため、リンパ腫等の疾
患を除外した上で、免疫抑制療法に対する反応を確
認する。
 外眼筋炎が疑われた症例の血清に骨格筋組織の横紋
に反応する自己抗体を検出した例があった。
 Western blot法等による詳細な抗原定性は実施して
いないため、本抗体の抗原や疾患との関連は不明で
あるが、組織検索を実施することが困難な部位であ
るため、本疾患における自己抗体の有無については、
今後も検討の価値があると考えられる。
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外眼筋炎extra ocular myositisの病理像
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ウェルシュ・コーギーの炎症性筋症の病理発生
 Pembroke Welsh Corgi犬の舌萎縮を特徴とする疾
患は、炎症性筋疾患と思われる
 炎症巣ではB細胞と組織球系細胞が優位であり、IgG
やC3沈着が認められる点は咀嚼筋炎に類似する。
 蛍光抗体法の結果より、本疾患の発生機序には抗横
紋自己抗体が関与していると思われる。
 Western blot法の結果により、症例によって血清中
自己抗体には多様性があることがわかった。特に主
要抗原として42kDaの蛋白質の関与が示唆された。
 骨格筋に分布するCreatin kinase mitchondrial 2
等の蛋白が自己抗体の標的抗原と考えられる。
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ウェルシュ・コーギーの炎症性筋症の病理像
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ウェルシュ・コーギーの炎症性筋症の病理像
剖検後の舌のパラフィン標本HE組織像。
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ウェルシュ・コーギーの炎症性筋症の病理像
大腿筋と側頭筋の剖検時組織像。炎症所見が主に大腿筋で確認される。
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ウェルシュ・コーギーの炎症性筋症の自己抗体
b
a
(kDa) 50
40
心
臓
肝
臓
肺 胃
腎
臓
脾 舌
臓 筋
咬 大 脳
筋 腿
筋
c
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多発性関節炎・多発性筋炎症候群の病態
 ミニチュア・ダックスやジャーマンシェパード
等で散見される。
 非びらん性多発性関節炎と多発性筋炎が併発。
 全身性エリテマトーデス(SLE)と類似するが血
清中の抗核抗体は陰性。
 四肢関節の腫脹と痛み及び全身性の筋萎縮。
 病理学的には血管周囲炎に随伴した筋変性が認
められる。
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多発性関節炎・多発性筋炎症候群の病理像
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多発性関節炎・多発性筋炎症候群の病理像
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症例紹介①:
イヌ、シェットランドシープドッグ、8y3m、♂×
臨床事項
 主症状は開口不全。脚弱もみとめられる。
 ステロイドの治療に反応が乏しい。
 筋生検(側頭筋)を実施。
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生検した筋組織像
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生検した筋組織像
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病理組織像のまとめ





筋肉組織に変性・萎縮等の変化は乏しい。
組織内の末梢神経組織に著変はない。
線維化や炎症を示唆する所見なし。
血管アミロイドの沈着の意義は?
関連文献なし。
現在のところ診断不明
予後等も・・・?
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イヌの主な炎症性筋疾患
2. 感染性炎症性筋症
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感染性炎症性筋症
イヌやネコにおける感染性炎症性筋症の原因
原虫:ネオスポラ(イヌ)、トキソプラズマ(ネコ)
細菌:レプトスピラ、クロストリジウム
リケッチア:エーリヒア
ウイルス:ネコ免疫不全ウイルス
寄生虫:フィラリア、住肉胞子虫
真菌:スポロトリコーシスなど
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ネオスポラ感染症における筋組織の病理像
 病理学的にネオスポラ感染による筋炎あるいは神経炎
の病態は多彩。
 活動期の病変では、組織球系細胞、リンパ球、形質細
胞および好中球等の多彩な炎症細胞浸潤と、筋線維の
壊死が認められる。
 病変中に、原虫の偽シストが観察されることがあるが、
採取組織が限られる生検では、しばしば原虫体を確認
することが困難で非特異的な筋炎として診断される場
合が多い。
 筋生検において、殆ど炎症反応を欠いた組織中に偶発
的に原虫のシストが観察されることもある。
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ネオスポラ感染症における筋組織の病理像
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イヌの主な筋原性筋疾患
・筋ジストロフィー
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筋ジストロフィーに関連する主な分子
ザルコグリカンの分布
エメリンの分布
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主な筋ジストロフィーの分類
1)Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)
X染色体劣性遺伝。進行性筋変性。致死的。ジストロフィン完全欠損。
2)Becker型筋ジストロフィー(BMD)
X染色体劣性遺伝。DMDに比べ緩慢な進行。ジストロフィン不完全欠損。
3)肢体型筋ジストロフィー(LGMD)
常染色体優性(LGMD-1)/劣性遺伝(LGMD-2)。 複数疾患を含む。遺
伝子座が解明されたものよりABC順を付して細分類化。LGMD-1の原因は
規則性が乏しいが、LGMD-2の多くはザルコグリカン類やラミニンα2欠
損に起因する。
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新しい筋ジストロフィー分類概念(原因タンパク別)
(1)ジストロフィン異常症 (Dystrophinopathy)
Duchenne型(DMD) , Becker型(BMD)
(2)ザルコグリカン異常症 (Sarcoglycanopathy)
LGMD-2C、D、E、及びF
(3)メロシン異常症 (Merosinopathy)
LGMDの一部、先天性非進性(非福山型)
(4)カルパイン異常症 (Calpainopathy)
LGMD-2A
(5)ディスフェルリン異常症 (Dysferlinopathy)
LGMD-2B
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イヌの筋ジストロフィー
 Dystrophin異常に関連する症例を中心に非常に多くの研
究がなされている。
 国立精神・神経センターではゴールデン・レトリバーの
コロニーが維持され、基礎研究に利用されている。
 Dystrophin以外の分子に関する報告は比較的少ない。
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ネコの筋ジストロフィーの病態
 比較的症例数が少ないため、詳細な研究が進んでいない。
 これまで、dystrophin, beta-sarcoglycan, Laminin
α2の減少あるいは消失に起因する例が報告されている。
 病態がヒトと異なる場合が多いとされる。
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筋ジストロフィー(Dystrophin欠損)
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イヌの筋ジストロフィー(Dystrophin欠損)
Dystrophin免疫染色
Laminin α2免疫染色
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ネコの筋ジストロフィー(Laminin α2欠損)
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筋ジストロフィー(Laminin α2欠損)
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筋ジストロフィー(Laminin α2欠損)
Normal
Affected
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産業動物の代表的神経原性筋
疾患
ウマ運動ニューロン病
Equine motor neuron diseases
1990年にJ.F.Cummingsらにより始めて報告された運
動失調を特徴とするウマの疾患で、北米での症例数が
圧倒的に多い。脊髄、脳幹の運動ニューロンが系統的
に変性・消失し、これに伴う運動失調、筋萎縮が生じる。
原因は不明。ヒトの萎縮性側索硬化症(ALS)との類似性
が指摘されている。遺伝性側面は不明。
運動ニューロン病
運動ニューロン病
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馬運動ニューロン病における大群萎縮
ウシのアカバネ病
Spinal cord (C1)
LFB-HE
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アカバネ病の矮小筋症
矮小筋症
(3)筋原性筋疾患 Myogenic myopathy
筋原性筋病変の分類
①栄養性筋症
ビタミンE・セレニウム欠乏症(白筋症)、I型筋障害。
②中毒性筋症
モネンシン、コジポール中毒(病変は白筋症に類似)、I型筋障害。
③労働性筋症
筋色素(ミオグロビン)尿症、II型筋障害。
④代謝性筋症
ライソソーム蓄積症(糖質・脂質蓄積症)。ウシでは糖質蓄積。
⑤遺伝性筋症(筋ジストロフィー)
遺伝性かつ進行性の筋萎縮・変性疾患群。
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ウシ白筋症(心筋型)
ウシ白筋症の硝子様変性
イヌ・ネコの主な末梢性神経疾患
1.炎症性疾患
2.腫瘍性疾患
3.変性性疾患
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1.炎症性末梢神経疾患
①特発性炎症性疾患
 変性あるいは炎症などにより、脊髄根あるいは神経節が
障害された状態を根神経症radiculoneuropathyという。
イヌでは特に犬種に特異性のない炎症性疾患が比較的好
発する。
 脳神経では特発性の三叉神経炎が認められる。
 免疫介在性末梢神経障害については、早期治療により症
状の改善が期待できるため診断的治療を優先すべきであ
る。
 病変が慢性化すると炎症病変は減弱し、髄鞘の脱落と
シュワン細胞および線維芽細胞の増生が顕著となり、非
可逆的病変が主体となる。
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主な炎症性根神経症
○
・
・
・
急性多発性神経根炎
別名:アライグマ猟犬麻痺
ヒトのGuillain-Barre症候群に相当
脊髄神経腹根、末梢神経が病変部位
○
・
・
・
慢性多発性神経根炎
慢性の進行性/回帰性の運動・感覚末梢神経障害を示す
末梢神経、脊髄神経根・神経節が病変部位
脊髄背索に二次的な脱髄と軸索変性を呈する
○
・
・
・
神経節神経根炎
別名:感覚神経症 ~ Sensory neuropathy ~
末梢神経、脊髄神経背根、脊髄神経節が病変部位
脊髄背索に二次的な脱髄と軸索変性を呈する
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主な炎症性根神経症の障害部位
疾患
急性多発性
神経根炎
慢性多発性
神経根炎
神経節神経根炎
脊髄神経腹根
脊髄神経根
神経節
脊髄神経背根
神経節
病変分布
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多発性神経根炎(慢性)
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多発性神経根炎(慢性)
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神経節神経根炎(sensory neuropathy)
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神経節神経根炎(sensory neuropathy)
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神経節神経根炎(sensory neuropathy)
sensory
Motor
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症例紹介②:イヌ、ポメラニアン、オス、1y7m
09年4月
2回目の6種ワクチン接種→視力障害、運動機能障害を呈する
同月中旬
眼科・MRI 検査で視神経に異常、肉芽腫性髄膜脳炎の所見
→プレドニゾロン療法開始
→視力は改善するも対光・威嚇反射の低下など異常は続く
9月
後肢の異常(ナックリング、不全麻痺)は継続
→MRIで病変は検出されず、視神経の異常所見は消失
11月
後肢の異常はさらに悪化→滑りやすい床では起立不可能
12月
前肢にも麻痺やナックリング
10年3月
努力性呼吸
4月7日
斃死
R
R
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症例の病理所見
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症例の病理所見
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症例の病理所見
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症例の病理所見
 脊髄神経根・節、 脊髄灰白質、三叉神経、視神経で炎症細胞浸潤
 炎症細胞は、T細胞、B細胞、形質細胞、マクロファージが主体
 脊髄神経根・節、三叉神経で脱髄、軸索変性・消失
 視神経で、髄鞘や軸索の消失、グリアの増生
・ 多発性神経根炎
・ 三叉神経炎
・ 視神経炎
併発?
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1.炎症性末梢神経疾患
②感染性疾患およびリンパ腫
 感染性の炎症性末梢神経疾患としては、イヌではジステン
パーウイルス感染症とNeospora caninum感染症の鑑別
が重要。
 これらの感染症については抗体のチェックやPCRによる
遺伝子検査等を組織生検の前に検討することが望まれる。
 原虫については特に採取された組織中に病原体が必ずしも
観察されない可能性が高い。
 末梢神経に局在するリンパ腫も発生するため、クローナリ
ティーの確認や免疫染色により特定クローン増殖の有無を
確認する。
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ネオスポラによる神経炎
HE染色
抗ネオスポラ抗体による免疫染色
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神経原発リンパ腫
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イヌ・ネコの主な末梢性神経疾患
1.炎症性疾患
2.腫瘍性疾患
3.変性性疾患
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イヌの多発性神経症polyneuropathy
先天性:犬種に特有・遺伝性が多い。Lysosome病を含む。
後天性:原因はさまざま。
(1)免疫介在性炎症性疾患
(2)感染性・中毒性
①原虫疾患(ネオスポラ症)
②中毒(ヘビ毒、アクリルアミド、植物毒etc.)
(3)代謝性
①糖尿病性、甲状腺機能低下症etc.
②腫瘍随伴性paraneoplastic syndrome
(4)特発性
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多発性神経症の病理的アプローチ
 病理学的には障害の主体が、ミエリン鞘あるいは神経
突起のいずれに存在するのかを確認する。
 方法としてはミエリン鞘の状態をLFB-HE染色で、軸
索の状態を抗ニューロフィラメント免疫染色により評
価し、病変の主体が脱髄によるものか神経突起に存在
するのかを確認。
 病名の判断は臨床事項、傷害された神経の分布、およ
び病理組織像を総合的に判断する。
 疾患特異的な病理所見は非常に少ない。
 電気生理学的に上記を判断することは可能で、病変分
布は病理的検索では判断できないため、まずこれらの
非侵襲的な検査が優先されるべき。
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甲状腺機能低下症関連性neuropathy
 ヒトでは甲状腺機能低下症患者の72%で様々なレベルのポリニューロパ
チーを呈す。
 イヌでは進行性の四肢不全麻痺、筋萎縮、脊髄反射の低下などを起こす。
 死因としては喉頭麻痺、巨大食道症が多い→誤嚥の原因に
診断:血清中fT4濃度のみにより診断
fT4が低値で症状があっても、他の甲状腺機能低下症の症状がない例もある)
治療:甲状腺ホルモン製剤の投与により症状が2〜3ヶ月で回復した例も報
告されている。喉頭麻痺、巨大食道症は治療に反応しないことが多い
病理:感覚神経が侵されることが多い(脱髄、軸索変性)
原因:末梢神経性神経症の原因は不明
Schwan cellに対する傷害、軸索輸送障害(モデルラットで報告あり)
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糖尿病性neuropathy
 ネコで多い(イヌにもある)
 イヌでは症状が潜在性のことが多い
<診断>
・血糖値
<治療>
・インスリン投与
・インスリン感受性改善薬 など
<病理>
・髄鞘の変性・脱落が顕著、軸索変性も
LFB-HE
MTC
→髄鞘の脱落と再生を繰り返し、最終的には繊維化
<原因>
・ソルビトール蓄積説
・IGFs関連説
・酸化ストレス説
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甲状腺機能低下と糖尿病関連neuropathyの病態
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多発性神経症の具体的な症状は多様(運動神経、感覚神経、自律神経)
原因も様々(遺伝性、中毒性、代謝性、腫瘍随伴性、免疫介在性、感染性)
臨床症状のみからこれらの原因を鑑別するのは困難
→現在手元にある症例を病理学的に検討し、それらの特徴を比較してみた。
Breed
Dog 1
Gender Onset Death
Border collie female
Major clinical signs
3m
1y1m
hindlimb ataxia, pain sensability loss,
megaesophagus, chewing front paws,
aspiration pneumonia
Dog 2
Chihuahua
male
1y7m
1y9m
salivation, bilateral eyelid reflex reduction,
continuous penis prolapse, ataxia,
forelimb paralysis, vertebral pain
Dog 3
Beagle
male
3y
11y
paddling-gait, bradycardia,
hypothyroidism, aspiration pneumonia
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病理組織所見の比較
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病理組織所見の比較
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病理組織所見の比較
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病理組織所見の比較
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病理組織所見の比較
Neurofilament免疫染色 (L4 level, nerve roots)
Dog 2
Dog 3
Control
sensory
motor
Dog 1
Department of Veterinary Pathology
病理組織所見の比較
Department of Veterinary Pathology
3症例の病理組織所見の主な相違
Dog 1(ボーダー・コリー)
Axonal Swelling & hypomyelination (後肢主体)
Dog 2(チワワ)
Fibrosis & Giant axon(前肢主体)
Dog 3(ビーグル)
Edema & Cholesterol deposition(四肢)
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2014/12/15
病理像のまとめ
●Dog1とDog2に関しては、遺伝性の末梢神経疾患である可能性が高い。
-ヒトCharcot-Marie-Tooth病ではこれまでに44種の遺伝子異常が発見され、
最近では原因遺伝子ごとに疾患分類。
⇒CMT病の分類を参考にすれば、イヌ遺伝性PNの原因遺伝子を特定可能?
Ex) ERB2, MPZ, PMP22など
●Dog3(ビーグル)→甲状腺機能低下症に関連した末梢神経疾患。
-水腫を特徴とする末梢神経病変は過去のヒト/イヌ/ラットでの報告と一致。
-コレステリンの沈着についての報告はない:脂質代謝の異常が原因?
●いずれの症例も末梢神経を主体として障害される ⇒ polyneuropathy
しかし、その病理学的特徴やその分布は三者三様。
⇒今後更に症例を蓄積し、それぞれの原因を特定していけば、
臨床現場で末梢神経障害を示す動物を診断する際、病変分布の違いや
末梢神経の病理像の特徴から原因をある程度推定できる?
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