No.12 - 日本獣医学会

The Journal of Veterinary Medical Science
和 文 要 約
第 70 巻,第 12 号,平成 20 年 12 月
オンライン投稿・査独システムの導入(2008 年 3 月 5 日以降)により,和文要約の記載
は不要となりました.そのため第 70 巻第 8 号より和文要約の掲載は旧システムでの投
稿受付論文に限ります.
解 剖 学:
癲癇抵抗性及び感受性スナネズミの海馬における小膠細胞及び星状膠細胞マーカータンパク質
の特異的免疫反応性
(短報)
━ Lee, C. H.1)・ Hwang, I. K.2)・ Lee, I. S.2)・ Yoo, K.1)
1)
Y. ・ Choi, J. H. ・ Lee, B.-H.3)・ Won, M.-H.1)
(1)Department of Anatomy and
Neurobiology, and Institute of Neurodegeneration and Neuroregeneration, College
of Medicine, Hallym University, 2)Department of Anatomy and Cell Biology, College
of Veterinary Medicine and BK21 Program for Veterinary Science, Seoul National
University, 3) Institute for Systems Medicine, Gil Medical Center, Gachon
University of Medicine and Science, South Korea)........................................................... 1405-1409
癲癇抵抗性(SR)及び感受性(SS)スナネズミ海馬でのイオン化カルシウム結合アダプ
ター分子 1(Iba-1)及びグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の,それぞれ小膠細胞及び
星状膠細胞に対する免疫反応性を検討した.SS スナネズミ海馬での Iba-1 陽性小膠細胞
密度は SR スナネズミより高値を示した.一方,GFAP 陽性星状膠細胞では差はなかっ
た.本結果は,SS スナネズミ海馬での Iba-1 陽性小膠細胞の活性化を示唆する.
細 菌 学:
組換え Cu-Zn superoxide dismutase を用いた ELISA によるイヌのブルセラ症のスクリーニン
グ
(短報)
━ Tsogtbaatar, G.1)・橘 理人 1)・渡邉健太 1)・金 スク 2)・鈴木宏志 3)・度会
1) 1)
雅久 ( 帯広畜産大学畜産学部応用獣医学講座,3)同・原虫病研究センター,2)慶尚大
学獣医公衆衛生学講座)............................................................................................................. 1387-1389
簡便なイヌのブルセラ症の血清学的診断法を開発するために,組換え Cu-Zn superoxide
dismutase(SOD)を用いた ELISA の検討を行った.組換え SOD はウェスタンブロッティ
ングおよび ELISA において B. canis 感染血清に特異的に反応することが認められた.以
上の結果から,SOD を用いた ELISA はイヌのブルセラ症のスクリーニングに有用であ
ることが示唆された.
寄生虫病学:
日本国内のペットウサギにおける Encephalitozoon cuniculi 感染に関する血清疫学調査━
五十嵐 慎 1)・大橋英二 2)・ Dautu, G.1)・上野晃生 1)・刈屋達也 1)・古屋宏二 3)
(1)帯広
2)
3)
畜産大学原虫病研究センター, あかしや動物病院, 国立感染症研究所寄生動物部)... 1301-1304
ウサギエンセファリトゾーン症は,微胞子虫の Encephalitozoon cuniculi 感染により中
枢神経,腎臓あるいは眼症状を呈する疾患であり,また不顕性感染となることも多いと
されている.本研究目的は,ELISA により抗 E. cuniculi 特異的 IgG および IgM 抗体を同
時測定することで日本国内のペットウサギにおける E. cuniculi 浸潤状況を明らかにする
ことである.2006 年から 2007 年にかけて 20 都道府県で採取された 337 頭のウサギ血清
を使用し,健康・単独飼育群(n = 74,第 I 群),健康・複数飼育群(n = 121,第 II 群),
神経症状群(n = 105,第 III 群)およびその他の疾患群(n = 37,第 IV 群)の 4 群に分類し
て検討した.IgG 陽性率は第 III 群が 81.0 %と最も高く,次に第 II 群の 75.2 %であった.
第 I 群は 29.7 %と最も低値で,第 IV 群(43.2 %)を除く他 2 群と有意差が認められた.一
方,4 群の 14-40 %が抗 E. cuniculi IgM 抗体陽性を示した.本研究結果から,日本国内の
ペットウサギにおいては,神経症状を呈するウサギのみならず,健康ウサギにおいても,
E. cuniculi が高率に浸潤していることが明らかとなった.
s · iii
臨床繁殖学:
分娩後の無発情および鈍性発情の牛と水牛におけるホルモン処置による発情誘起と妊孕率━
Honparkhe, M. 1)・ Singh, J. 1)・ Dadarwal, D. 1)・ Dhaliwal, G. S. 1)・ Kumar,
A. 1)
(1)Department of Animal Reproduction, Gynaecology and Obstetrics, Guru
Angad Dev Veterinary and Animal Sciences University, India).................................... 1327-1331
分娩後 60 ∼ 90 日間に亘り発情の認められないインド・パンジャブ地方の各地域に飼
養されている牛 82 頭と水牛 48 頭,合計 130 頭を供試した.それらについて 1 週間に最
低 3 回の直腸検査と採血を行い,ボデーコンディションスコアも記録した.卵巣の直腸
検査所見と血漿中のプロジェステロン(P4)濃度により,これらの供試動物を無発情
(GpI)と鈍性発情(GpII)に分け,さらに,処置を施した GpIa 群(牛 40,水牛 16 頭)と
GpIIa 群(牛 12,水牛 14 頭)および処置を施さなかった GpIb 群(牛 20,水牛 8 頭)と GpIIb
群(牛 10,水牛 10 頭)に区分した.無発情・処置の GpIa 群には,カプロン酸ヒドロキシ
プロジェステロン 750 mg の 72 時間間隔での 3 回筋肉内注射とその第 3 回注射後 72 時間
における馬絨毛性性腺刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)750IU の筋肉内注射
を行った.それらの動物について,誘起された発情の後に発来した発情時に交配を行っ
た.初回授精受胎率(FSCR),授精実頭数に対する受胎率(OCR),受胎に要した授精回
数および妊娠率は,無発情・処置の GpIa 群の牛ではそれぞれ 44.4 %,48.0 %,2.08,
60.0 %,同群の水牛ではそれぞれ 50.0 %,62.5 %,1.61,62.5 %であった.しかし,無
発情・無処置の GpIb 群の牛では 5 頭が発情を示したが,いずれも受胎せず,同群の水
牛では発情を示したものはなかった.鈍性発情・処置の GpIIa 群には,プロスタグラン
ジン F2Ï(ジノプロスト)25 mg の筋肉内注射を行い,誘起された発情時に交配を行った.
鈍性発情・処置の GpIIa 群の牛 100 %と水牛 85.7 %が処置に反応し,誘起発情時の FSCR
と妊娠率は,牛ではそれぞれ 50.0 %,水牛では 66.6 %と 57.1 %であり,鈍性発情・無
処置の GpIIb 群は不妊であった.摘要として,先ず,P4 動態は無発情と鈍性発情の診断
区分および,その診断区分に基づくホルモン療法の決定に有用であること,次に,無発
情および鈍性発情症例にホルモン療法を施すことにより妊娠が期待できる発情を誘発で
きることがわかった.
成熟雌ニホンツキノワグマ
(Ursus thibetanus japonicus)
における血清レプチン濃度の周年変
1)
2)
3)
2)
2,4)
化
(短報)
━ 坪田敏男 ・佐藤美穂 ・岡野 司 ・中村幸子 ・淺野 玄 ・小松
5)
6)
7) 1)
武 志 ・柴田治樹 ・斉藤昌之 ( 北海道大学大学院獣医学研究科生態学教室,2)岐阜
大学大学院連合獣医学研究科,3)同・野生動物救護センター,4)同・応用生物科学部野
生動物医学研究室,5)阿仁ツキノワグマ研究所,6)(株)森永生科学研究所,7)天使大学
大学院看護栄養学研究科栄養学講座)...................................................................................... 1399-1403
イヌレプチン特異的酵素抗体測定法により,ニホンツキノワグマ(以下クマと略)の血
清レプチン濃度測定を試みた.交尾群および非交尾群の血清レプチン濃度は,5 ∼ 8 ま
たは 9 月に低レベルで推移し,9 または 10 月から徐々に増加し 11 月下旬に顕著に上昇
した.本測定法はクマ血清レプチン濃度測定に有効性が示唆され,レプチン濃度は 11
月下旬にピークを有する明瞭な周年変化を示すことが明らかとなった.
ウイルス学:
セレンゲティ生態系に棲息するバーチェルシマウマの三叉神経節におけるウマヘルペスウイル
ス 9 ゲノム DNA の検出
(短報)
━ Borchers, K.1)・ Lieckfeldt, D.2)・ Ludwig, A.2)・
3)
4)
Fukushi, H. ・ Allen, G. ・ Fyumagwa, R.5)・ Hoare, R5)
(1)Institute of Virology, FU
2)
Berlin, Leibniz-Institute for Zoo and Wildlife Research Berlin, Germany, 3)岐阜大
学応用生物科学部獣医学課程, 4)Department of Veterinary Science, Gluck Equine
Research Centre, University of Kentucky, U.S.A., 5)TAWIRI-Messerli Foundation
Wildlife Veterinary Programme, Tanzania)..................................................................... 1377-1381
ウマヘルペスウイルス 9 型(EHV-9)はトムソンガゼルの脳炎から分離された.EHV-9
の自然宿主は不明であるが,ガゼルの感染源はシマウマであると考えられている.この
仮説を検証するために,我々はセレンゲティ生態系に棲息する 43 頭のバーチェルシマ
s · iv
ウマ
(Equus burchelli)
と 21 頭のトムソンガゼル
(Gazella thomsoni)
由来の血清中に,EHV に
対する中和抗体が存在するかを調べた.7 頭のシマウマが EHV-1,EHV-9 とグレイビー
シマウマ由来 EHV-1 T965 株および T616 株に対して中和抗体をもっていた.17 頭のバ
ーチェルシマウマと 1 頭のトムソンガゼルの三叉神経節において,EHV-9 gB 遺伝子な
らびに EHV-1 ICP0 遺伝子を Nested polymerase chain reaction(PCR)により検出することを
試みた.その結果 1 頭のシマウマの三叉神経節から EHV-9 特異的配列が検出され,さら
に塩基配列を決定することで PCR の結果を確認した.以上の結果からから,バーチェ
ルシマウマは EHV-9 の感染を受け,同ウイルスは潜伏感染していると考えられた.
The Journal of Veterinary Medical Science(平成 20 年)総目次....................................................
s· v
s・3-12