コンプライアンス経営に取り組む経営者と担当者へのメッセージ016 企業倫理の浸透は企業文化の変化 -第一にあるのは経営者の変化- 企業倫理に関わる者として遺憾に思うことが多すぎる。歪められた企業文化の中で仕事 をしている境遇にある人ならなおさらのことだろう。最もひどいのは経営者によるものだ。 会社のため、従業員のためにと称しながら現在にそぐわない成功体験に依存した仕事を続 けさせていたり、その時代における社会からの要請、規制などへの対応に遅れていても問 題として対処させないような組織に育ててきていることなどは、会社を危うくさせている いい例だ。企業倫理が浸透するということは、その企業の文化が良い方向に変化していく ことを一方で意味している。しかし、これが理解できない経営者は多いようだ。企業文化 が変化する大きな要因のひとつは経営者自らが変わることにある。それは企業倫理浸透へ の本当の第一歩なのである。 ○企業文化は企業の組織文化にある 「組織文化」では諸説あるが、その組織が抱え、また絶えず発生する課題などに対処し ていく過程において、組織メンバーによって共有化された価値観や考え方、積み重ねられ るうちに形成された行動ルールなどのことといえるであろう。そして、その組織の行動様 式や練り上げられた思考様式などとして、その企業流に可視化されたものが「企業文化」 と考えられる。ここでいう組織文化は、共通の職務、業務遂行の現場で共通の体験が得ら れるならば、企業内のあらゆる組織、階層において生じる可能性がある。つまり、組織単 位ごとに大なり小なり存在する可能性があるということで、ここに企業倫理を浸透させる 活動の難しさのひとつがある。 組織文化の形成に大きな影響を与える主なものとして、創業者、経営者、部署の責任者 などリーダーの想い、組織としての成功体験の大きさやその共有化の状況などが考えられ る。これらのことは、属人的な組織の方がより顕著になるようだ。 ○企業文化の変化への自覚と認識 「これがうちの営業所のやり方だから。この地域は他と違いこのやり方でなければ。こ れがここの伝統だから。今までこの方法でうまくいっていたから。これなら今まで問題に なったことがないから」など、よく耳にする言葉だ。会社が定める行動規範などとは別に、 各部署で一つや二つは抱えているものらしい。所属長の属人的なものから、慣習化されて いるものまで様々だ。これらが組織の文化を一方で示しており、非公式に継承されている ものであろう。 企業倫理の浸透は、これらに対する認識を変え、既定の行動規範などを優先することで あり、うち(部署)の業務などの進め方、やり方を変えていくということでもある。ただ、 1/2 BEIビジネス倫理研究所 http://www.beinstitute.org 今までの非公式なルールなどについても一概に切り捨てるのではなく、既定の行動規範な どに則って今後も続けることが可能かどうかを検証することが大切で、公式なものとして 採用することも時にはあるはずだ。これは、不祥事発生要因のひとつともなっている行動 規範などの独善的な拡大解釈を防ぐことにもなる。 ○倫理も文化も中長期的視点で考えるもの 個人情報の保護と漏えい防止については、その重要性をどこの企業でも認識し、セキュ リティ対策にコスト面からも理解を示している。そのため、入退室の認証管理、送信や持 ち出し時の暗号化などの対策や規程類の整備を進める企業が増えている。しかし、営業の 現場などからは、そんなことをしていたら実績などに影響するなどの声が聞こえなくもな い。業績と企業倫理という永遠のテーマであり、切実なジレンマである。 現代は何にしても短期的な視点、考え方が主流で、成果についても同じであるがための この声のようでもある。 「文化」や「倫理」にはそれ相応の年月と醸成が必要とされことか ら、すぐにでも中長期の視点に立った企業倫理の浸透施策を進めるべきである。 以 2/2 BEIビジネス倫理研究所 http://www.beinstitute.org 上
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