ランチョンセミナー 5 軟部組織のリコンディショニング −フランス製最新機器によるリンパ・ドレナージュ− フィジオセンター 大田 幸作,石井 美和子 軟部組織の機能不全は,局所の運動制限やアライメン ト不良,全身的な姿勢・運動の変容を引き起こすだけで なく,栄養障害や浮腫などの循環障害に起因するさまざ まな問題をもたらす。特に循環障害は,例えば浮腫が関 節の運動性低下を助長する場合や,瘢痕部の円滑な治癒 を阻害する場合など二次的な機能不全につながる因子で もあり,臨床上積極的な介入が必要である。 軟部組織の機能不全による循環障害に対するアプロー チの概念として,リンパ・ドレナージュがよく知られて おり,その有効な手段として徒手的治療や物理療法など が用いられている。一方,その有効性は把握しているも のの,時間的制約や技術的な問題が絡み十分な介入がで きず,循環障害のさらなる悪化を招いてしまう場合があ ることもまた事実ではないだろうか。それらの問題を解 決しつつ軟部組織の機能改善を図る方法として,現在フ ランスの臨床施設では Keymodule I が活用されている。 Keymodule I は,皮膚や皮下組織,筋など軟部組織へ介 入する医療用ツールとして開発された機器である。特に 浮腫に対して高いドレナージュ効果を有することが研究 により実証されていることから,現地フランスではすで に多くの臨床現場において徒手的治療と併用されてい る。軟部組織の機能不全が生じた後の治療的介入のほか, 損傷した軟部組織の修復を促進する目的や循環障害を防 ぐ予防的介入手段としても用いられている。さらに,最 近では Keymodule I による刺激に結合組織の生成を促す 作用があることなどが報告されており,美容健康面への アプローチ・ツールとしての用途も話題となっている。 フランスでは理学療法士が開業するクリニックが医療・ 福祉分野のみならず美容・健康分野にも関わっているこ とも多いため,理学療法士が Keymodule I を医療用とし てだけでなく,抗加齢を目的とした美容健康的側面への アプローチも兼ねたツールとして扱っている。 今回のセミナーでは,軟部組織の機能不全に起因する 循環障害について,その病態とメカニズムを解説する。 さらに,それを解決する一手段として Keymodule による 軟部組織のリコンディショニングについて,フランスの 現状を交えて紹介する。 ランチョンセミナー 6 理学療法としての Seating とは ─マット評価に基づく座位姿勢のコントロールと Seating ─ 特定非営利活動法人 日本シーティング・コンサルタント協会 吉川 和徳 理学療法士の専門領域の一つに姿勢と動作のコント ロールということがある。姿勢は「構え」と「体位」か ら構成されているので,例えば「股関節を 90 度屈曲した 構え」を空間上で保持した体位が座位という姿勢である。 ここで座位が,臥位や立位と大きく異なることのひとつ に,座位を重力空間で保持するためには装置,すなわち 「いす」が不可欠ということがあげられる。股関節屈曲角 度という構えは,いすの座面と背もたれの間の角度(座 背角)に影響を与え,いすの座背角は股関節屈曲角度と いう構えに影響を与えるということになる。 さて,最近は理学療法の領域のみならず,介護や看護 などの領域でも,褥瘡の予防や治療,身体拘束禁止といっ た分野で Seating という言葉をよく聞くようになった。 Seating というとモジュラー車いすやクッションといっ た道具を思い浮かべたり,それらを身体に合わせるため に調整している情景を思い浮かべたりする人が多いかも しれないが,上述したように,座位姿勢といすは相互に 影響を与え合っているものであるから,Seating とは道具 そのもののことや道具を調整する行為を指すのではな く,Seating(人がいすに座った状態)= Sitting(座位姿 勢)+(Wheel)Chair((車)いす)と考えるべきである。 我々理学療法士の専門は(Wheel)Chair ではないから, 根拠に基づいてSittingをいかにコントロールして最適化す るか,そしてそれをモノづくりの専門家との Collaboration によって, (Wheel)Chair という装置でどのように生活の 中で再現することができるか,それにより患者の QOL を どのように向上させることができるか,と展開していく ことが理学療法としての Seating ということになる。 しかしながら理学療法士養成教育課程の中で,座位姿 勢の評価手法やそれに影響を与える(車)いすについて は,立位や歩行とそれに影響を与える義肢・装具の教育 内容や時間数に比べると極めて貧弱であるといえる。 今回のセミナーではこれらのことを踏まえて,マット 評価による座位姿勢評価の考え方とその実際をデモンス トレーションも交えて解説し,根拠に基づく座位姿勢の コントロールと(車)いす(座位保持装置)による最適 化について説明する。 なお本学会では, (車)いすやクッションなどについて も機器展示コーナーにおいて展示するので,それらとあ わせて理解を深めるよう期待したい。詳細は日本シー テ ィ ン グ ・ コ ン サ ル タ ン ト 協 会 ホ ー ム ペ ー ジ http:// seating-consultants.org/ を参照されたい。 −156−
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