特異な画像所見を呈した胸膜中皮腫の1例

2012.3.No.16
特異な画像所見を呈した胸膜中皮腫の1例
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現病歴及び入院経過:60 歳代の男性.昨年初め呼吸苦を覚え,近
医を受診した.胸部写真にて右側に辺縁整の大きな異常影を指摘
され,本学呼吸器内科を紹介された. CT では濃度均一の液体成
分を示す大きな腫瘤と圧排されて虚脱状の上葉が認められた(図
1,2,3,★印). PET では異常集積を認めず,腫瘍マーカーも正
常範囲であった.胸腔穿刺液の性状は淡黄色透明,細胞診は class
図 1 2,ヒアルロン酸値 70800ng/ml も高いとは言えない.喫煙歴は 30
本/日×40 年で,造船業従事による石綿曝露歴がある.
合同カンファレンスの検討:組織診の得られない状況で,横隔膜
上の陰影(図 1,2,3,赤矢印)に疑念は残るが,主病変★の性
状と形態から中皮腫よりも縦隔の嚢腫,リンパ管腫、中皮嚢腫な
どの稀な疾患も考え,症状緩和をも含めて試験開胸を選択した.
手術所見及び術後経過:嚢胞壁内一面に白斑網目状病変を認めた
図 2 (図 4)
.これは未だ腫瘤形成に至らない時期の中皮腫を思わせる
所見であったが,迅速診断結果は膠原
結合組織であった.嚢胞壁は胸膜その
ものと判明したので,癒着胸膜の剥離
図5
を進めた後,切除範囲を上葉の一部と
嚢胞様部分−臓側及び壁側胸膜−に
図
図 44
図3
止めた.術後は順調に経過し,右肺の
再膨張と呼吸苦の消失を得た(図 6).
病理組織学的所見:摘出標本(※は胸腔側)では,異型細胞が網目
状構造や腺腔形成を伴って結合組織内へ浸潤性に増殖していた
(図 5).免疫染色では異型細胞は AE1/AE3(+), calretinin(+),
D2-40(+), WT-1(+), CEA(-)を示し,上皮型中皮腫と診断した.
図5
解説:中皮腫の画像は様々であるが*,本例のような所見は稀であ
る.成因としては部分的な胸膜癒着によって胸腔が区画に分けら
れているところに中皮腫が発生し,更に胸水が圧排性に貯溜した
ものと考えられる.我々が渉猟し得た限りではこのような報告は
見出せず,術前に本疾患を疑う事は困難であった.中皮腫の術中
迅速診断は多くの場合困難で,本例の確診も術後の詳細な検討後
図
図 66
に得られており,今回の手術結果も止むを得なかった.現在,呼
吸器内科で化学療法(シスプラチン、ペメトレキセド)の施行中であるが,今後,残存腫
瘤の影響で胸水が再貯留すればその制御も必要となろう.この度は石綿曝露歴の重要性を
再認識させられた 1 例となった.*酒井文和,胸膜びまん性中皮腫の画像診断,肺癌,2010;
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