ハートで禁煙

ハートで禁煙
妊婦のための禁煙プログラム
サマック教育センター編
日福電子文庫シリーズ
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もくじ
はじめに --------------------------------------------------p.3
タバコって何?---------------------------------------------p.4
タバコの歴史/タバコを知るということ/タバコのイメージ広告/タバコ
に含まれる化学物質とその影響/ 20 年遅れている日本の禁煙対策/タバ
コを初めて吸ったとき/喫煙する理由/依存性/発ガンやその他の疾病と
の関係・脳や運動機能への影響/肺や気管支に及ぼす影響/胃腸への影響
/副流煙について/火事の元/世界の国々での禁煙事情/タバコは美容の
大敵/禁煙は美肌の決め手/母体への影響/胎児への影響/赤ちゃんが食
べてしまう危険/不経済なタバコ
タバコ・フリー・プログラム ---------------------------------p.25
禁煙は楽しい/さあ、
禁煙を選択しましょう/リラクゼーションについて
/タバコから自由になること/ タバコの奴隷/「吸いたい」という罠/
「だ から」の言葉の魔力/三つの「吸いたい」という欲求/喫煙する正し
い理由なんてない/あなたが初めてタバコを吸った時のこと/「あのと
き」をいま、作り替える/親のこと/大人になりたいから吸う/「・・・け
ど・・・」という悪循環/ここで「鏡のセッション」というのを紹介しましょ
う/ベビーとの対話/タバコとセックスについて/タバコフリーの呼吸法
の練習/心の中で泣く子/タバコと死/「愛」と「癒し」について/傷つ
いたまま癒す/ベビーとのコミュニケーション/スキンシップとタバコ
小説『5 万回のキャンセルを越えて』 一色麗子/著 -------------p.75
サポーター向け小冊子--------------------------------------p.111
ママへのサポート/妊娠について/禁煙について/もしあなたがタバコを
吸わない人なら/もしあなたが喫煙者なら/副流煙について/あなたも一
緒に禁煙
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はじめに
ようこそ、タバコ・フリー(禁煙)プログラムへ。
このプログラムは、喫煙している妊婦が、自然にタバコから解放され、
母子ともに健全な出産をむかえられるよう、
そして出産後も健康的で自立
した有意義なライフスタイルを送れるようにとの目的で組まれました。
タバコの有害は、多くの研究によって立証されています。
成人はもちろんのこと、
妊娠中や出産後の喫煙が胎児や新生児に及ぼす
害は、重大でとても深刻です。
本編では、タバコとは何であるのか、その害はどういったものであるの
かといった情報を提供するとともに、妊婦に精神的・肉体的ストレスの掛
からない形で、自然に楽しく禁煙する方法を提案しています。
加えて、喫煙を続ける妊婦を家族に持つ方への、禁煙へのサポート。
(禁
煙は独力では達成ができない場合もあります。
周囲の理解と協力が不可欠
です)
さらに禁煙のための小説(オリジナル)を掲載し、情緒的側面からも支
援しています。
喫煙年齢の低年齢化や女性の喫煙人口の増加に対して、
積極的に警鐘を
鳴らす必要があります。
健康は、自らが創造し、維持し続けるものです。
この本が妊婦の禁煙と健康に少しでも役立てられれば幸いです。
サマック教育センター
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タバコって何?
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.... タバコを知ることから始めましょう。
幻想ではなく、じっくりと事実を ....
■タバコの歴史
喫煙の習慣が私たちに広がったのは、いまからちょうど500年前、かの
コロンブスがカリブ海の小島で原住民が葉を巻いて吸っているのを見て、
みやげに持ち帰ったのがきっかけだと言われています。
ヨーロッパでは当
初、クスリとして吸われていました。
日本へは、鉄砲の伝来と同じころ、ポルトガル船によって種子島に運ば
れた最初は日本でもクスリとして吸われていたタバコも、
またたく間に広
まり江戸時代になるとファッションとして吸われるようになってきまし
た。
慶長年間(1596 年∼ 1615 年)には、各地でタバコが栽培され、女性や
子供までが吸うようになったといわれています。
徳川幕府は、火事の原因であるタバコを栽 培すると、米や麦の生産量
が減る、身体に悪い、といった理由から禁煙令を発布しました。
しかしタバコは、その中毒性が原因で庶民の間に流行し、ひそかに吸わ
れ続けました。
明治に入り、1900年には日本で未成年者喫煙禁止法が公布されました。
1962年にはイギリス王位医学会が初めて喫煙の有害性について研究結
果を発表しました。ここでの、タバコと喫煙への反対の動きには、二つの
論拠があげられました。第 1 に健康を害するとされタバコの吸いすぎは、
不妊と胎児性の障害を引き起こし、狂気へ導き、他の多くの病気の原因に
なると主張された。反対理由の 2 つめはタバコをスティグマ化(社会的逸
脱行為)と捉えたものでした。
アメリカでは、青少年をタバコの害から守ることが、反タバコ運動の支
配的なテーマでした。1909 年には、紙巻タバコ販売の全面禁止を一五の
州が制定しました。テネシー州とウェスト・ヴァージニア州の二州ではタ
バコに高い関税をかけました。こうした禁制措置や、人々のあいだに反タ
バコの態度が広く見られたにもかかわらず、
タバコの消費は増加したので
した。女性の喫煙は娼婦のシンボルとみられ、男性がそれを吸うのは女性
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的な行いとみなされました。
タバコはあきらかに、行儀の良さや洗練を示すものではなかったので
す。
WHO(世界保健機関)が「禁煙予防教育を、全教育過程を通じ、さま
ざまな段階で強化すべき」
と勧告して各種医学団体がタバコの有害性を発
表し、世界的に「禁煙・嫌煙」が提唱されるようになってきています。
■タバコを知るということ
あなたが何気なく吸っているタバコ。
それが何であるかを知るというこ
とは、とても大切なことです。
この際だから、しっかりと見つめて、タバコに対する間違った認識や、
根拠のない迷信 を取り除いて、
タバコについての正しい知識と認識を持っ
ていきましょう。
「敵を知り、オノレを知れば、百戦危うからず」と言います。禁煙の第
一歩は、まずタバコとは何かを知ること。今まで知らなかったタバコの歴
史・成分・人体への影響などを知っていくことで、思わぬ驚きも得られる
かもしれません。
誰でも、真っ暗な地下室に入っていくのは怖いものです。闇の中にオバ
ケや怪物がひそんでいるのではないか、とそんなことを想像したりしま
す。でも、そこに明りがついて何もかもがハッキリと見てとれたなら、怖
がることはないのだと納得するでしょう。タバコもこれと同じです。
タバコとは何か。禁煙とは何かをあるがまま見ていけば、あなたも自分
にもできると確信していくでしょう。
そしてそれはとても楽しいことなの
です。あなたにとっても、またあなたのお腹の赤ちゃんにとっても。そし
て健康という報酬をえることができます。
■タバコのイメージ広告
ちまたに氾濫しているタバコの広告を注意深く見ていると、
それらがい
くつかの共通のイメージを訴えかけているのに気がつきます。
たとえば、
南国の海をバックにヨットに乗ってタバコをふかしているハ
ンサムな男性。彼を見つめ微笑みかける水着を着たセクシーな女性たち。
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カウボーイ姿で馬にまたがる男性が土ぼこりの中でタバコを満足気にく
ゆらす。
人気のあるアクションスターが、
スパイ映画のような場面で悪いヤツラ
から見事逃げきって、美人の横で笑いながらタバコの煙を吐き出す。
これらは、皆一様に男性のあこがれや夢を扱い、タバコがさわやかさや
好感の持てる物であると訴えています。
その味や成分とは無関係に、タバコとはカッコイイ物で、これを吸うと
そうした気分になれる、
あるいはそうした人達と一緒に見られるのだと暗
示しています。
そうしたイメージで市場を開拓していく種類の商品であるわけです。
喫煙者は、
こうした広告宣伝によって喫煙を正当化されていることに満
足していますし、逆に禁煙運動を押し進めている団体からすれば、タバコ
のこうしたイメージ広告に対して非常に警戒するようになるのも至極当然
といえるでしょう。
ただしさすがに「妊婦」を登場させた広告はありません。
■ タバコに含まれる化学物質とその影響
人は赤ちゃんのころから、口にするものが毒でないかどうか、神経質な
くらい注意して育てられます。乳児のころは、母親の乳首まで消毒してか
ら口に含ませるくらいです。
いたみかけた食べ物など、ちょっとでも臭ったり、ねばついたりしただ
けで、私たちは敬遠するのが常です。
というのも、いかに毒物が私たちの健康を損ね、時には死にいたらしめ
るものであるかを知っているからでしょう。
ところがこの、本能的ともいえる防衛感覚が、同じように口にするもの
でありながら、ことタバコに関してだけは、どうも正常に働かないようで
す。
タバコの煙には、全体で約 4,000 種類の化学物質が含まれています。タ
バコの中には最初から 200 種もの有害物質が詰まっています。臭ったり、
ねばついたりしただけで、私たちは敬遠するのが常です。
というのも、いかに毒物が私たちの健康を損ね、時には死にいたらしめ
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るものであるかを知っているからでしょう。
ところがこの、本能的ともいえる防衛感覚が、同じように口にするもの
でありながら、ことタバコに関してだけは、どうも正常に働かないようで
す。
タバコの煙の成分は粒子相物質(粗タール)と気相物質(ガス相)に分
けられるといいます。
《煙の粒子相成分に含まれる主要有害物質》
ベンゾ・ピレン 発ガン初発因子
メチルクリゼン 発ガン初発因子
ベンゾ・フッ化アンセン 発ガン初発因子
ベンツ・アントラセン 発ガン初発因子
ジベンツ・アクリジン 発ガン初発因子
ジベンツ・カルバゾール 発ガン初発因子
ビレン 発ガン促進因子
フッ化アンセン 発ガン促進因子
ベンゾ・ペリレン 発ガン促進因子
ナフタレン類 発ガン促進因子
メチルインドール 発ガン促進因子
メチルカルバゾール 発ガン促進因子
カテコール 発ガン促進因子
メチルカテコール 発ガン促進因子
ニトロソノルニコチン 発ガン物質
ナフチルアミン ボウコウ 発ガン物質
ポロニウム 発ガン物質
ニッケル化合物 発ガン物質
カドニウム化合物 発ガン物質
ニコチン 有害物質
フェノール 繊毛細胞傷害物質
クレゾール類 繊毛細胞傷害物質
ヒ素 発ガン物質
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《煙の気相成分に含まれる主要有害物質》
ジメチルニトロサミン 発ガン物質
エチルメチルニトロサミン 発ガン物質
ジエチルニトロサミン 発ガン物質
ニトロピロジン 発ガン物質
ヒドラジン 発ガン物質
ビニルクロライド 発ガン物質
ウレタン 発ガン初発因子
ホルムアルデヒド 発ガン促進因子
これらは主だったものであり、
このほかにも多くの発ガン物質や有害物
質が含まれています。
あるいはそうした範疇にいれていいか意見の別れる
疑わしい物質もあります。
■ 20 年遅れている日本の禁煙対策
先進国のうちで、男性の喫煙者が 60%を超える国は日本だけです。
今や、アメリカタバコは、日本のタバコの総売上本数(約3200億本)の
16%以上を占めています。
特に未成年者や若い女性のアメリカタバコを吸う割合は増えています。
このアメリカタバコですが、
1986年にはタバコの総売上のわずか2%を
占めているだけでした。
しかし、その年の 7 月、日米間の貿易摩擦問題で便宜をはかるために関
税を撤廃し、
アメリカタバコを全売上の20%まで伸ばすことにしたという
のが原因といえます。
タバコの広告規制は、各国でどんどん進んでいます。広告の全面禁止に
ふみきった国は、北欧を初め、アメリカ、カナダなど20ヵ国以上になりま
した。シンガポールでは、タバコの商品名のステッカーを車のドアにはっ
たり、Tシャツに図案化しただけでも罰金刑だそうです。
1991 年 11 月 11 日には、EC 12ヵ国の厚生大臣が集まって、EC全体
でタバコの広告宣伝を禁止する法案を提案しました。
これにくらべ、日本では、テレビ、ラジオ雑誌はもとより、ビルや駅の
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看板などあらゆる媒体を駆使し、
若者のアイドルタレントを使って大々的
に宣伝しています。
「日本の禁煙対策は世界に20年遅れている」と各国の人々からいわれる
のは、このCM事情を見ても明らかでしょう。
■タバコを初めて吸ったとき
初めて吸ったときの理由を調べてみると「好奇心」
「何となく」
「友人の
勧め」が上位を占め、つづいて「親の勧め」
「先輩の勧め」
「友達が吸って
いるのを見て」「カッコイイから」となっています。
特に残念なことに第 3 位に「親から勧められて」というのがあるという
ことです。
あなたはどうでしたか?
このような回答がでてくるのは、学校や家庭での意識が低く、禁煙教育
がほとんど行われていないからではないでしょうか。他の先進国のよう
に、小学生のころから学校での禁煙教育が徹底的に行う必要があります。
タバコを吸う人のほとんどは、10 代のうちに吸い始めます。10 代の年
代にとって、仲間意識はとても強く働きます。
仲間として受け入れてもらうために、
仲間たちの習慣や行動をすぐに受
け入れることが多く、
タバコを吸い始めるきっかけになる場合も多いので
す。
20歳になるまでタバコを吸ったことのない人は、
それ以降もタバコを吸
わない確率が高いのです。
両親や兄弟、
姉妹がタバコを吸っている場合には、大人になったらタバ
コを吸うのがあたりまえと思って、吸い始めることがあります。多くの喫
煙者は、タバコを吸う人を活発で快活な、社交的で洗練されたイメージの
人とらえがちです。
これには、前に申し上げました通り、大人から子供へ「個人的判断力」
と「社会的責任」をうたっているような禁煙教育が必要ですし、それを行
う義務が大人にはあります。
■喫煙する理由
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喫煙者を対象としたタバコを吸う理由の調査によると、
「気分転換にな
る」
「手持ちぶさた」
「気持ちがやすまる」というのが上位を占めています。
タバコは仕事の能率を高め、試験やミーティングの前の緊張感をほぐ
し、デートのときに勇気をわき起させてくれるといいます。
また、喫煙者は、パッケージのセロハンをあける動作、指と指の間でタ
バコをもてあそぶこと、そしてライターをカチッといわせ、ふうーっと大
きく煙を吐き出すこと、それら全部を楽しんでいるのだといいます。
タバコを吸うことによって得られる気持ちよさは、
赤ちゃんが指しゃぶ
りするときのようなものだと言いきる心理学者もいるほどです。
生活様式や社会の経済状態が喫煙を促すということもあります。
交通渋滞や、重圧のもとでの意思決定などのさまざまなストレスが、人
をタバコへむかわせるのです。
欧米で、女性たちが大幅な社会進出をはたした 1970 年代、会社と家庭
と両方のストレスがたまり、
金銭的に余裕のできた女性たちの多くがタバ
コを吸うようになったとみられています。
しかし、社会的な風潮は時と共に変わり、いまでは、タバコを吸うのは、
かっこうの悪いことだという風潮が広がりつつあります。
タバコを吸わないミュージーシャンや映画スターも増えています。
■依存性
それでは何故タバコをやめることができないのでしょう。
タバコを吸い始めるきっかけや、
どのぐらいの本数を吸うかなどは人に
よって違います。
しかし、一度吸い始めたタバコを、ずっと吸い続けることになるのに
は、一つの大きな理由があるとされています。
初めてタバコを吸った人は誰でもそうですが、頭がくらっとしたり、せ
きこんだり、それでも我慢して吸い続けると、冷や汗が出てきたり、顔が
青ざめたりします。
これはタバコの中に含まれているニコチンの作用なのです。
ニコチンの毒は、非常に危険なものなのですが、いったん慣れてしまう
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と、今度はそれなしではいられない、体のなかのニコチンが切れるとイラ
イラしてくる、
そしてタバコを吸ってニコチンがゆきわたるとすっきりす
る、というふうに、習慣性や依存性がついてしまう性格を持っています。
タバコを吸っている大人の70%もが「できることなら、タバコをやめた
い」と考えているにもかかわらず、そして30%以上の人が過去にやめよう
とした経験をもっているにもかかわらず、
やめられないで吸い続けている
のは、一つにはニコチンのこの習慣性や依存性のせいなのです。
■ 発ガンやその他の疾病との関係
タバコには、中毒性のあるニコチンを初め 40 種類以上の発ガン物質、
200 種類にも及ぶ有害物質が含まれています。
ニコチンは、青酸カリよりも強烈な毒物で、体重 50 キロの人が 50 ミリ
グラムのニコチンを飲み込めば死んでしまいます。
そのほかに、一酸化炭素(車の排気ガスにも含まれる)
、タール、アン
モニア(爆薬にも使われる)、シアン化水素(強力な毒性を持つ)、石炭酸
(腐食性がある)、フェノール(刺激性がある)などが含まれています。
以下は、タバコの煙が原因で起こる主な病気を占めています。
これらの症状はタバコを吸い初めてから何年も経って現われてきます。
1、肺ガン
2、咽喉ガン
3、口腔ガン
4、子宮頚ガン
5、心臓病
6、冠状動脈血栓症
7、血液凝固
8、脳卒中
9、気管支炎
10、肺気腫
11、早期閉月経
12、動脈疾患
13、末梢血管疾患
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14、肝腎疾患
15、えそと切断
16、胃・十二指腸潰瘍
17、動脈ガン
18、感染症に対する抵抗力の低下
19、呼吸困難
20、体調不良
21、歯肉炎
22、乳児の突然死
23、死産
24、流産
特に妊婦にとって回避すべきいくつかの重要な疾患があることに注意し
てください。
■脳や運動機能への影響
タバコは、頭の回転を鈍くして、美容にも悪く、そのうえスポーツにも
悪影響を与えます。
人間は運動をする時、通常の 20 倍の酸素を必要とします。ところがタ
バコを吸っていると、
筋肉に酸素が運ばれなくなっているので思うように
体が動きません。
数字でいうと、
タバコを吸う人は吸わない人よりも常に10%酸素を運ぶ
能力が劣っているということになります。
これは、高さ2,500mという酸素の薄いところで運動をしているのと同
じになり、
スポーツをする上ではとてつもないハンデを背負っているとい
うことになるのです。
妊娠中の運動への悪影響はもとより、
出産にまつわる母体の運動へのハ
ンデは特に考慮が必要です。
■肺や気管支に及ぼす影響
タバコといえば、肺がんというイメージがあります。
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私たちの気管支の内側は繊毛と呼ばれる六ミクロンの毛のようなもので
覆われています。
この繊毛が喉の入ってくる埃や細菌をキャッチして、
タンとして体外に
排出してくれます。
ところがタバコを吸っていると煙によって、この繊毛の動きが鈍り
キャッチした埃や細菌を体の外に追い出せなくなってしまいます。
そうすると、気管に悪影響を及ぼし、気管支炎や肺炎になりやすくなり
ます。
1日 20 本タバコを吸う人は、1年でコップ1杯の黒くてドロドロした
タールを肺に流し込んでいるのと同じことになります。
■胃腸への影響
タバコは胃腸にも悪影響を与えます。
タバコに含まれているニコチンが自律神経のバランスを崩し、
胃の粘膜
に作用して必要以上に胃液を分泌させます。
この胃液が胃の粘膜を刺激するため、ニコチンによって血管が収縮し、
抵抗力が弱っている胃粘膜が荒れてしまいます。
すなわち、自分の胃液が、自分の胃壁や十二指腸を消化してしまい、そ
の結果、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こしているのです。
とくに胃潰瘍は、タバコを吸っていると再発する場合が多く、胃潰瘍か
ら胃ガンに進むケースも少なくありません。
胃ガンは食べ物が関係しているといわれていますが、
喫煙が大きく影響
している場合も多いようです。
■副流煙について
タバコを吸っている人の中に、自分だけが吸っているのだから「誰にも
迷惑をかけていない」などという人がいます。
しかし、その考え方は間違っています。実は周りの人にとっては大きな
迷惑なのです。
その原因の1つが副流煙です。
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タバコの煙には、喫煙者が吸っている煙(主流煙)と、タバコの点株か
ら立ち上っている煙(副流煙)があり、この副流煙が周りの人の体に影響
を及ぼすのです。
一本のタバコから発生する煙の量は、副流煙の方が圧倒的に多く、さら
に、
フィルターやタバコの葉を通過して人体に入る主流煙よりも有害物質
が多く含まれています。
例えば、副流煙に含まれるタール、ニコチン、一酸化炭素の量を主流煙
と比べると、タールが 2.1 ∼ 3.4 倍、ニコチンが 1.8 ∼ 2.8 倍、一酸化炭
素が 4.7 倍というデータがあります。
これらは燃焼時の温度によります。
主流煙は吸引による高温のためニコ
チンやタールの燃焼がよく、
副流煙はくゆらすため低温で不完全燃焼する
のです。
これらの物質の体に対する悪影響は、前に説明したとおりです。
当然副流煙を吸っている人、つまり喫煙者の周りにいる人も同じです。
タバコを吸わない人が、副流煙を吸い込んだり、目に入ったりしたとき
の不快感は、吸う人のそれと比べものになりません。
主流煙よりも副流煙のほうが刺激が強いことは、
医学的にも証明されて
います。
■火事の元
日本全国の火事の原因の第1位もここ数年来タバコの火の不始末による
ものが続いています。
また、タバコの吸い殻などのゴミ処理にかかる費用も年々うなぎ登り、
まさにタバコは社会の迷惑なのです。
こうして考えてみると、喫煙者一人一人が、健康上の大きな危険を背
負っていると同時に、社会的責任を負っているのです。
万が一、タバコが原因の火事を起こしてしまったら、その損害や、時に
よっては、火事で失われる人命にも責任を負わねばなりません。
火の付いたタバコやマッチの先は、数百度の温度に達します。もし衣服
やじゅうたん、寝具やゴミ、枯れ葉などの上に落ちると、あっという間に
くすぶり始めます。このとき、誰かが見つけなければ、大きな規模の火災
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に広がってしまいます。
タバコが原因の火事での犠牲者には、逃げ遅れてしまった5歳以下の子
供が多く含まれています。
山火事などを引き起こした場合には、多くの資源を損失し、何年にもわ
たって影響を受けることになります。
そうした負担は、政府や保険会社や個人に重くのしかかってきます。
■世界の国々での禁煙事情
禁煙運動は外国では日本以上に盛んに行われています。
国によっては、F 1 レースの広告が空白になっていたりします。
これは、その国ではタバコのコマーシャルが禁止、または、大幅に規制
されているからなのです。
タバコのコマーシャルが許されているのは先進国の中では日本だけで
す。
また、
海外のタバコのパッケージには以下のような注意書きがはっきり
と書かれています。
イギリスでは「著しく有害である」
アメリカでは「警告!公衆衛生総監は、タバコの喫煙は、あなたの健康
に有害であると決定した」と表示されています。
また、全世界の健康をつかさどる国際機関であるWHOは、喫煙は人類
の健康を脅かす最大のものとしてとらえ、
世界各国に再三にわたってタバ
コの消費を抑える方法を考えるよう言っています。
先進国はこのような勧告に対して、専門機関を設立し、タバコ問題に真
剣に取り組んでいます。
フランスでは「喫煙禁止令」を作り、公共の場での喫煙を禁止していま
す。
スウェーデンでは「禁煙25ヵ年計画」を実施し、タバコのない社会を作
ろうとしています。
ロシアのソチ市では「禁煙都市」を宣言しています。このように、禁煙
は世界的規模で推進されているのです。
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■タバコは、美容の大敵
タバコをやめると、体重が増えるというのは本当かしら?
喫煙している、主に若い女性に多いのですが、
「タバコをやめると太り
そうだから、嫌だな。胃腸に余りよくないっていうことは、ダイエットに
もなるかしら」などと、本気とも冗談ともつかないようなことを言うのを
耳にすることがあります。
タバコは毒です。腐りかけた食べ物、生命のない食べ物です。
そのようなものを食べればお腹をこわし、どんどんやせていきます。そ
れは「毒」を体に流し込んでいるということです。
確かに禁煙すると太るケースは多くあります。
アメリカの調査では平均
して5キログラム体重が増えたという報告もあります。
「前は頬がげっそりしていたのに、変わったわね」と言われて、本人が
太ったことを苦にするよりも喜んでいることは、言うまでもありません。
なぜ太ったのでしょうか。
いうまでもなく食べ物が美味しいと感じられ
るようになったのです。
第 1 に味覚が正常になったということです。
甘味、苦味に対して舌が敏感になり、第 2 に嗅覚も鋭くなります。
舌も鼻も良くなり、食欲が旺盛になったのです。
タバコをくわえない口寂しさやストレスもあるでしょうが、
禁煙のプラ
スは肥満をはるかに超える価値があるのです。
■禁煙は、美肌の決め手
肌の手入れの基本は血行を促進すること。 「ニコチンは血管を収縮さ
せる」ものですから、美肌の大敵です。
タバコはビタミンCを破壊します。
ビタミンCはメラニン代謝にも関係し、メラニンは黒褐色、黒色の色素
のことですから、肌は荒れ、色が悪くなることとタバコの関係は明白で
す。
また煙が直接顔や髪に触れることで、
肌はさらにダメージを受けていき
ます。
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■母体への影響
妊娠した女性がタバコを吸うと、
胎児の発育に大きな影響を与えること
は知っているでしょうか。
東京の母子衛生研究会が、妊娠中の女性1,896人にアンケートしたとこ
ろ、
「全く吸ったことがない」が 64%
「今回の妊娠でやめた」が 30%
「妊娠中もずっと吸っている」が 4.4% もいました。
生まれたときの体重が 2500 g以下の赤ちゃんを低体重児(未熟児)と
呼びますが、
妊娠中ずっとタバコを吸い続けていた母親から低体重児が生
まれてくる確率は、吸わない母親に比べて 2.4 倍。
しかも 1 日に 16 本以上吸っていた母親からは 4.3 倍の高率で低体重児
が生まれることがわかりました。
女性とタバコの関係は、
男性とタバコとの関係ではありえない特別な恐
ろしい害を生み出しているからです。
もちろん、その最大のものが胎児への影響です。これ以外にも、女性自
身、母体自身への、男性にはないタバコの害が次々に明らかになってきて
いるのです。 第 1 は子宮ガンや卵巣ガンの危険性です。
子宮や卵巣は女性にのみあり、
本人だけでなく子孫に関係してくる器官
です。
喫煙者の場合、特に子宮ガンに冒される危険性が大変大きいのです。
子宮ガンにも、正確には子宮頚部(入り口)のガンである子宮頚ガンと、
中の体部のガンである子宮体ガンとに分けられますが、
日本では圧倒的に
前者が多いので、ここではこれを子宮ガンとよぶことにします。
タバコと子宮ガンの強い相関関係は、
原因についてはいろいろ説があり
ますが、だいたい、喫煙により、ニコチンやタール内の発ガン性物質が血
液を通して侵入し、子宮頚部の上皮によって分泌、というルートを想定し
ている学者が多いようです。
また、子宮ガンを『性交によって伝播される感染症』で、常習的喫煙男
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性の精液中により感染した発ガン性物質の存在は無視できないという説も
ありますから、女性だけの問題ではないかもしれません。 しかし、本人
の喫煙が影響していることは無視できないでしょう。
■胎児への影響
妊娠中喫煙していた母親から生まれた赤ちゃんの体重は、平均150gか
ら 250g軽く、母親が吸わなくても父親が吸っていた場合には、約128 グ
ラム軽いことがわかりました。
タバコのなかのニコチンが、
胎児に血液を送っているへその緒を収縮さ
せ、十分に栄養や酸素がとどかなかったことが原因です。
赤ちゃんがタバコに弱い理由としては、いろいろありますが、たとえば
胎児の脳は母親が体の中に受け入れた有害物質に対して全く無防備です。
私たちの脳の中にはグリア細胞という脳細胞があります。
この細胞の大切な役割の一つは、脳の中に有害物質が入ることを防ぐ、
いわば関所のようなものを作るの。
グリア細胞は生後1年間に400gから700∼800gにもなるけれど、胎
児の脳はこの細胞が非常に少なく、
そのため妊娠中のお母さんがタバコを
吸ったり、
お酒を飲んだりするとそれらの有害物質が赤ちゃんの脳に蓄積
されて行くのを防ぐことができません。
ニコチンは末梢神経を収縮させ、胎児に流れる血液の量を少なくし、発
育に影響を及ぼします。 喫煙により、
ニコチンと一酸化炭素は胎盤をバリ
アーを通過して胎児の血液中に移行するため、胎児障害を起こすのです。
そして喫煙は異常妊娠につながります。
流産、早産は、特に1日 20 本以上吸う人は、吸わない人に比べて自然
流産の率が約 2 倍にもなります。
喫煙は大きくなりたい赤ちゃんの成長を妨げます。
ニコチンは脳の呼吸をつかさどる部分の発送を阻止し、生後すぐの赤
ちゃんに呼吸障害を起こします。
また、低出生体重児、周期死亡、先天異常を引き起こします。
タバコを吸う両親をもった赤ちゃんは、生まれたあとも受難が続ます。
出産後の喫煙再開にともなう乳児の死亡率上昇についてこんな報告もあ
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ります。
「妊娠中に禁煙しても、出産後喫煙を再開した母親の赤ちゃんは、突然
死の確率がタバコを吸わない母親の赤ちゃんに比べ2倍になることが米保
健統計センターの調査でわかった。
妊娠中の喫煙が突然死の危険性を増大させることは、
以前から指摘され
ているが、出産後の喫煙も悪影響があるという報告は初めて。調査に当
たった医師たちは周囲のタバコの煙を吸い込む二次喫煙と突然死の関係に
ついて、更に調査する必要があるとしている。
この調査は健康な赤ちゃん1万人と突然死した6千人の赤ちゃんを対象
に行われた。
また、喫煙習慣を持つ母親の大部分は妊娠中に禁煙しても、出産後にま
たタバコを吸い出すこともわかった」 (ニューヨーク時事・1992・11 月 23 日) タバコを吸う母親が母乳を飲ませれば、
そのなかに溶けたタバコの有害
物質が赤ちゃんの発育を妨げます。
なんと母乳のなかにニコチンが入り込
んでいて、
赤ちゃんが母乳で育てられたばかりにニコチン中毒にかかった
ケースすら、珍しくないのです。母親が吸わなくても、父親が吸うタバコ
の副流煙を吸わされながら育った赤ちゃんが、
気管支炎や肺炎ににかかる
確率は、
吸わない親に育てられ赤ちゃんの2倍から3倍という報告もあり
ます。
両親がともにタバコを吸う場合、子供は、その子自身がタバコを吸って
いるわけではなくても、11才の時点で、平均より少し小さく、文章の読解
力も普通より少し遅れており、
病気で学校を欠席する割合も1.5倍になる、
という最近の研究もあります。
妊娠初期は特に胎児は大きな影響を受けやすいので、
妊娠に気づいてか
らタバコをやめたのでは、もう遅いのです。
では、常習喫煙者は妊娠すべきではないのでしょうか。
つまり、妊娠の可能性のある性交はすべきではないということなので
しょうか。 基本的、医学的には「そのとおり」といわざるをえません。
妊娠とわかった時点であわてて禁煙しても、
残念ながらまったく喫煙し
ない女性に比べると危険性は高いのです。
だからこそ、未婚の女性も直ちに禁煙をといいたいところです。
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もちろん、そうはいっても、喫煙の癖がついてしまった女性もいつかは
一生の伴侶に出会うでしょうし、愛しあうこともあるでしょう。
ですから、男性もふくめてですが、心で愛を感じた瞬間に禁煙してくだ
さい。
■赤ちゃんがタバコを食べてしまう危険
ハイハイやよちよち歩きの赤ちゃんが、
灰皿にあったタバコのすいがら
をつまんで口に入れてしまい、
救急車がかけつけて一命を取り止めたとい
う話はよく聞きます。
これを「異物誤飲事故」とよびますが、一才未満の乳幼児の誤飲事故の
中で一番多いのがタバコの誤飲で73%にもなっています。
(ついで医薬品、
防虫剤、洗剤、硬貨の順になっています)
しかもタバコの誤飲事故は、日曜日に最も多く起こっています。
日曜日にお父さんが、畳の上にごろりと横になって、テレビを見ながら
タバコを吸っています。
お母さんに、何か手伝ってと言われて立ち上がった後に、ハイハイして
きた赤ちゃんが、タバコの吸い殻を口に入れてしまう・・・
こんな情景を想像してみてください。
そして近い将来、あなたは子供を育てるのですから、必ず思い出してほ
しいと思います。
ニコチンはまぎれもない毒です。
純粋なニコチンをたった一滴あなたの舌の上に落とせば、
あなたはまち
がいなく数分のうちに死にます。
日本でも昔から「ニコチン一滴馬をも殺す」といわれています。
これはけっしてオーバーな表現ではありません。
この言葉は中国の禁煙
キャンペーン・スローガンにもなっています。
馬をも殺す毒をあなたの大切な赤ちゃんに飲ませることができますか?
母乳や空気といった経路も含め、
赤ちゃんの生活環境は大変な危険にさ
らされているのです。
なお、タバコの葉を誤飲したとき、体重 10 ㎏の赤ちゃんの場合、2セ
ンチ以上の葉によって中毒症状が起こります。
(気持ちが悪い、吐く、よ
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だれが多い、真っ青になる、ぐったりするなど) 葉が消化される30 分∼
4 時間の間に見られます。もちろん 2 cmセンチ以下でも慎重に。
異物誤飲に関する「中毒110番」は全国で2ヶ所。 日本中毒情報センター
つくば中毒110番 0990-52-9899/大阪中毒110番 0990-50-2499
24 時間体制。 ※情報帝京相談料は有料1回 300 円です。
応急処置としては、牛乳や水などを飲ませた後、吐かせて胃を洗浄する
などしてください。
■不経済なタバコ
タバコの原価は大変に安いものです。しかしそこに税金が掛けられる
と、たちまち高価なものになってしまいます。
海外からの、
特にアメリカからのタバコは今日簡単に手に入れることが
できますが、以前は多くの関税を掛けていたため、今よりももっと高価な
ものでした。
20 本入りのタバコ1箱を 250 円として、計算しますと、たとえば 1 日
に1箱吸うという人で、1 月で 7500 円、1 年で 9 万円を出費したことにな
ります。 2箱吸う人はこの倍ですし、高いタバコを吸っている人は、更に上です。
10 年間吸っていたとすると、約 90 万円ものお金をタバコだけにつぎ込ん
だことになります。
そして禁煙するということは、
これらがまるまる出費されないで手元に
残るということです。
国レベルでタバコの収支バランスをみると、タバコは年間約2兆円の
税収をもたらすほか、葉タバコ栽培やタバコの製造、広告費用など、全
体で年間2兆8,000億円の経済効果を生み出すことが、国立がんセン
ターの試算から明らかになっています。
一方、医療費の増加や早期死亡による所得の損失など、タバコによる
社会コストが年間5兆6,000億円にのぼり、国レベルでの収支は年間
約3兆円の赤字になっています。
日本のタバコ消費量は年間約3,000億本で、1本吸うたびに、国に
10円程度の経済負担をかけている勘定になります。
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研究によると、喫煙本数に比例して年間の医療費が増加し、1日に吸
う本数が1∼14本の人では4%(51.3万円)、15∼29本では7
%(52. 6万円)、30本以上吸う人では12%(55. 2万円)と、
吸わない人(49.2万円)に比べて医療費が高くなることが報告されて
います。また、喫煙に肥満(BMI25以上)と運動不足(1日の歩行
時間が60分未満)が重なると、医療費が35%(15万円)も増加す
ることが明らかになっています。
企業の視点で、喫煙によるコストを算出したデータによると、「喫煙
者1人当たりの企業コスト」として、シアトル大学で試算した結果、常
習欠勤216ドル、医療費233ドル、疾病率増加と早期死亡766ドル、保険
料9 2 ドル、労働時間の損失1 8 1 7 ドル、物的損害5 0 0 ドル、医事管理費
500ドル、被喫煙者の病気483ドル、合計4,607ドルとなりました。全体
のコストのうち、約40%を占めるのが喫煙による労働時間の損失で
す。
タバコは国や自治体にとって税収になると言いますが、一方で、病気
の原因となって医療費などのコストがかかってます。では、全体で言う
と社会的/経済的にはどうなのでしょうか。
以下は、国立がんセンターによると、
タバコ産業経済メリット 2兆8千億円
タバコ産業社会コスト 5兆6千億円
差し引き −2兆8千億円 非喫煙者の医療コストが少ないことから、生命保険では非喫煙者の保
険料を安く優遇する動きが広がっています。
■禁煙治療に保険が適用
2006年4 月、ニコチン依存症が病気と認定され、治療の基準を満たし
た患者は、公的保険による治療が受けられるようになりました。6 月に
は禁煙治療の補助薬「ニコチンパッチ」にも保険の範囲が拡大し、それ
まで3∼4万円ほどかかっていた治療費は1万2000円程度にまで下がり、
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これまでよりも負担は遥かに軽くて済みます。禁煙治療をおこなってい
る医療機関には、「保険診療」のほかに、治療費が全額患者負担となる
「自由診療」のところがあります。保険診療を行う医療機関は、施設や
設備・人員の基準を満たす必要があり、病院の事情で基準をクリアでき
ないところでは、自由診療で対応しています。近所に保険が利く病院が
ない場合は、各保険事務局に直接電話で問い合わせてみてください。
以上が タバコに関する情報です。
タバコがどういうものであったか、分かっていただけたと思います。
禁煙は大したことではない、というのは誤りです。
おおげさなことではなく、
「人生の課題」として取り組むべき重要なこ
とがらです。
麻薬やアルコール中毒の場合と違いはないのです。
さあ、いよいよ「禁煙プログラム」です。楽しく始めましょう。
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タバコ
・フ リ ー
・ プログラム
コ・
ー・
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■禁煙は楽しい
前章でタバコについていろいろなことが分かったのではないかしら。
さあ、いよいよここからが『タバコ・フリー・プログラム実践篇』の始
まり。一緒に楽しくやっていきましょう。
リラックスして、自分自身に注意を向けて。
禁煙はなにも難しいことではありません。
けれどあなどってはいけない
わ。他でもない、あなたの愛の力で禁煙していくのです。
合言葉は「ハートで禁煙」。
禁煙て素晴しい。禁煙て素敵でとっても楽しいものなのよ。
■さあ、禁煙を選択しましょう
タバコと死産・流産・奇形児・精薄児などとの因果関係は、多くの医学
者が指摘しています。
一刻も早くタバコをやめましょう。
母体や胎児に多大なダメージを与え
ます。
ストレスを感じずに禁煙をするということ。
リラックスして楽しく禁煙
していくこと。実は、とてもシンプルで簡単なことなのかもしれません。
「禁煙は楽しい!」
禁煙を楽しむこと。小川に魚をそっと返してあげるように、タバコを手
放しましょう。
毎日リラックスしながら、
お腹の胎児と親密なコミュニケーションをす
ることができる。理想的でしょ。そしてタバコを吸わない人たちは、もう
始めているわ。あなたもぜひ仲間に入りましょう。
タバコは有害だし、ストレスを誘発するので、ご存じの通り、喫煙者の
方がいつもイライラしています。
イライラするからタバコを吸って落ち着
かせようと喫煙者は言うけれど、そうではなくて、真実は逆で、喫煙者は
定期的に、あるいは常に吸いたいという欲求があるため、イライラするの
です。
タバコを習慣化してしまった人は、この罠からなかなか抜け出れませ
ん。そして喫煙以外の方法で、リラックスの方法を学ぶ必要があるわ。
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リラックスとは、自分のすべてを受け入れるということ。タバコをやめ
てしまっても、タバコを吸っているときのように、あなたがいつでも満足
感に浸り、リラックスして状況や時間を楽しむということ。
タバコはあなたが思っている以上に、
あなたの心身をともに傷つけてい
るのよ。いえ、そのほとんどが精神的ダメージといってもいいかもしれま
せん。つまり「禁煙とはあなたの心を癒すということ」なのです。
自分を認め、あるがまま受け入れ成長する力。
お腹のベビーを愛する力。
家族を愛する力。
これらの力を借りて、あなた禁煙していきます。
■リラクゼーションについて
まずはリラクゼーションを学びましょう。
リラクゼーションの基本は、なんといっても「心」
。ゆったりと、心を
開いていくこと。禁煙の基本も同じ。
意識的に心をゆったりとすること。
静かな環境音楽や、波の音などを聴きながら、身体を床やベッドのうえ
に、だらりとなげだしてみる。
「ああ、ああー」なんて自由に声を出して、身体中の疲れを吐き出しな
がら、足先や手の先まで、充分に楽になるのを感じていく。
ロウソクの炎のように、
身体が自然と揺れるままに揺らしてみるのも効
果的。
宇宙のクリアーなエネルギーを吸い込んで「自分にはタバコは必要な
い」と声を出して言ってみるのもいい。
そして、
「心」いっぱいに、愛し、愛されていることをイメージしてね。
ゆったりした音楽をかけながら。
たとえ涙があふれてきても、そのまま流してあげる。
お腹に手をあてて、ベビーと交流してみて、きっと豊かな愛情を分かち
合える。
こうした心の環境を整えておいてから始めましょう。 ついでにメディテーション(瞑想)も紹介しておきましょう。タバコが
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吸いたくなったらこれを思いだしてね。
まず、目を閉じ、鼻から深く息を吸い込みます。
吸った息をお腹まで下ろし、少しの間息を止めた後、すぼめた口から静
かにゆっくりと吐き出してください。
これを何回も繰り返していきます。
考えこんだり、雑念を持ち込んだりせず、ひたすら呼吸を観察してくだ
さい。そのうちに下腹部が気で充満し、温かくなっていきます。
意識が鮮明になったら、その清らかな心に注意を向けてください。
この瞬間にあなたが経験していること、身体、思考、感情、音など何で
あれ、それらはみな心、すなわち意識。
あなたが瞑想で感じたものの本性は、空のように澄みきった、色も形も
ない純粋な意識なのです。
この透明かつ純粋な心の本性に、注意の焦点を当ててあげてね。
私たちの生まれながら本性は透明な輝きであり、
四六時中私たちのもと
を離れたりはしないのだから。
■タバコから自由になること
それは、いわゆる「禁煙」
「絶煙」
「ノースモーキング」と言うものとは
少し違うの。
それらが、タバコと「闘う」とか「拒絶」といった男性的な解釈とする
なら、タバコ・フリーとは、タバコに依存している「自分を認め、ただ受
け入れていく」女性的な対応であると言えるわ。
このプログラムでは、単にタバコを吸う吸わないという次元を超えて、
より高い視点から人生の問題を扱ます。それは、タバコがそうした諸問題
と深くからまりあっているから。
タバコと戦いやっつけようとしても、良い結果は得られない。それより
もタバコにまつわるすべてを受け入れることが大切ね。解放され、安らか
な心で、健全な愛を育むこと。闘ったり、拒絶したり、欲求を抑圧すると
いう方法ではなく。
このプログラムは、そのために組まれました。
いうなれば、タバコ・フリーとは、愛による生き方のこと。
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そうした意識の変革のためのプログラムです。
お腹のベビーのサポートを受けながら、あなたが、ゆるやかに、癒され
つつ、成長し、自己実現へと向かっていくプロセスでもあるのです。
ゆっくりと、あなたの心の速度で受け入れていってください。正しい
も、間違いもありません。答えは、あなたの中に輝いています。ただ、カ
バーをとるだけ。
■タバコの奴隷
あなたを拘束している影の主人(マスター)は、他でもない、あなたの
中にある「喫煙の欲求」という主人(マスター)。
あなたは、タバコが吸いたくなったとき、ごく自然にタバコを取り出
し、火を付け、吸っているでしょ。意識すらしないでタバコをくわえてい
ることすらある。
誰にも止められない。
そして、実はあなた自身にも!
たとえば「もうタバコを吸わない」と自分に命令する。でも、ダメだっ
たでしょ。
「私は、もう決してタバコを吸いたいと思わない」
できるかしら。結論から言えば、これもできないわ。あなたは、しょっ
ちゅうタバコを吸いたいと思っている。
この欲求は、簡単にコントロールできるものではないわ。あなたの生理
的なものが、勝手に欲求を起こしているのですもの。
どんなに疲れていても、外が雨でも、タバコだけは買いにいける。
吸いたいときは、吸い殻はもちろん、家のゴミ箱をひっくり返してもタ
バコがほしい。
今月のお金が無くても、タバコ代だけは平気で、優先的に支出してしま
う。などなど。
こうしたことは、喫煙者なら皆思い当たる。
これって、タバコの奴隷。
タバコこそがあなたのマスター。
■「吸いたい」という罠
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「タバコが吸いたくなったから、タバコを吸うことにした」
たぶんいつもこんな風に吸っていたと思うの。
「吸いたい」という欲求と「吸う」という行動が、強く結び付いてしまっ
ているのね。
考えて行動を選んでいるというより、
機械のように勝手に身体が反応し
てるということなのね。
「吸いたい」と「吸う」
これを切り離していくことがタバコ・フリーの第一歩。
「吸いたい」→「吸う」
「吸いたい」→「吸わない」
「吸いたくない」→「吸う」
「吸いたくない」→「吸わない」
こんなに四通りもあるでしょ。
禁煙とは、ただ「吸わない」ということ。自分が吸いたいとか吸いたく
ない、ということに関係無く「吸わない」のだということを確認しましょ
う。
そうは言っても欲求は、抑えがたいものがある。
でも、タバコを「吸う」というのはあなたの行動。
つまり、あなたが止めることができる。
禁煙に成功した人たちは、
「タバコを吸いたいと思わなくなった」とい
うわけではないのよ。いえ、ほとんどの人が、定期的にかあるいは何の前
ぶれれもなく突然に、相変わらずタバコが吸いたくなるの。
ただし、吸わない。
そのたびに自分がタバコを吸いたがっているということを認め、
自分を
愛し、「吸わない」と選択してその行動をとっているだけ。
理由は、人それぞれ。
動機もそれぞれ。
でも行動は一つ。「吸わない」
■「だから」の言葉の魔力
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「Aだから」→「Bをした」
というときに、注意して欲しいのは、
「Aだから」→「Bをした」とい
うことを当然のこととして受け止めているいるのは、自分だけ、というこ
と。
AとBとは、
本来なんの関係もない別々のこととして受け止めるわけで
す。
とってもタバコが吸いたい。タバコを欲しがっている、と、自分のすべ
てを認めてあげる。声に出して言うのもいいわ。
ただ「タバコを吸う」という行動をそこへ結び付けない。
逆にもし吸うなら、
「吸いたいから」という欲求を理由にしないで、た
だの行動として吸ってみる。ホラ、吸いたくなくても「吸える」でしょ。
「私は、ただ理由もなく吸うわ。タバコが吸いたい、とかとは無関係に」
「吸いたい」というのは、勝手に起こる素敵な欲求。
「吸う/吸わない」は、あなたの行動。
大切なことは、その二つを結び付けていた「だからの矢印(→)」を取
り外して、おのおの別なこととして受け止めるということ。
「タバコを吸いたくなった」と感じているあなたは、あるがままの自然
なあなた。
でも「タバコを吸うことにした」というあなたは「自動的」から「自律
的」に。OK!
■三つの「吸いたい」という欲求
1、身体が求める「吸いたい」
これはニコチンの特製によります。
禁断症状と言われるものは、禁煙しだして何日かでやってきます。そし
て何日かで必ず消え去っていきます。
でも本当のニコチン中毒の人というのはあまりいないと言われていま
す。吸いたいという欲求は、別のところにあるのです。
2、習慣が求める「吸いたい」
これは吸いたいという欲求が継続的に続いている状態です。
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欲求して吸うというより、習慣的にタバコに手が出るといったことで
す。
3、心が求める「吸いたい」
これこそが、欲求の根幹であり、禁煙の目的でもあります。
「心」が「吸いたい」という欲求と結び付いているのです。
これも離してあげる必要があります。
なぜ、心と吸いたいという欲求とが結び付いたのか。
これを解明していくことが、タバコから解放されね手だてです。
誰も、タバコを吸いながら生まれてきたわけではありません。絶対に吸
わなければ許されない、といった状況にあったわけでもありません。
本人の「心」がタバコを求めたのです。
吸う前にそうしたタバコを求める「因子」が、心のどこかにあったのか
もしれません。
吸っていくうちに「因子」ができあがっていったのかもしれません。
その因子とは、心の傷のことです。
あなたは傷付き、また傷つけ続けているのです。
■喫煙する正しい理由なんてない
いい景色を見ても、いい音楽を聴いても、退屈でも、イライラしても、
タバコを吸わない人は、
タバコを吸うことでそれらに対応しようなどとは
思いません。
つまり、どんな状況も喫煙の理由にはならないのです。
「いい景色を見たから」
「いい音楽を聞いたから」
「退屈したから」
「コー
ヒーを飲んだから」
「お酒を飲んだから」
「イライラしたから」などなど。
・・・だから、タバコを吸おうというのは、喫煙者にだけ使われる常套句
です。同じ理由でも普通の人はまったく喫煙しません。
それが嘘であることに自分で気付いていません。
すべての喫煙者が同じ理由で吸いたいと思うわけでもありません。
もし、喫煙理由というものがあるなら、喫煙者を取り巻く状況にあるの
ではなく、
状況によって誘発される喫煙者の心理の中にそれはあるようで
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す。
できるだけ欲求を刺激しない状況を作っていくことも大切です。
その一つが公共施設などでの禁煙コーナーでしょう。
同時に、どんな刺激に対しても、それに打ち勝つだけの自律心を養って
おく必要があります。
結局、
吸う吸わないの直接の影響を受けるのはあなたとお腹のベビーな
のですから。
ではまず、
あなたの心にがっちりと噛みついたタバコの一つ一つを追っ
てみましょう。
■あなたが初めてタバコを吸った時のこと
これは大変に重要なポイントです。
そっと、思い出してください・・・。
いつのこと? どこでかしら? 誰がそこに居たの? なぜ吸おうと
思ったの? シチュエーションは? タバコの銘柄は?
昨日のことのようにあなたは憶えている。
「あなたが、初めてタバコを吸ったのは、恋をしていたときかもしれな
い・・・」
さあ、絵を描くことが好きならば絵で、字を書くことが好きならば文章
で、そのときの状況を書いてみてください。
上手とか、下手とかではなくて、正直に、細部にまで注意深く克明に書
くことが大事。
書いていくうちに、思わぬ発見があるもの。それが禁煙への隠された
扉。
「初めて吸った時のこと」をあなたはとても気に入っていて、忘れられ
ない。
タバコを吸うことで、あのとき感じていた何かを、再確認したいのかも
しれない。
あるいは今も吸い続ける理由のすべてがそこに集約されているのかもし
れない。
あなたの人生の傾向はその時から今に至るまで、
継続されているというこ
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と。
ではなぜその「初めて」に至ったのか。
「初めて」を迎える前に、当然
そこへと向かう必然性があったわけです。
「初めて吸った時のこと」とは、多くの扉を含んでいます。自身を観察
して、ぜひ記録し、深い気付きを得てください。 例えばとして、あなたの「大人」へのイメージや「社会」との距離を決
定しているかも。
「不良」へのあこがれ。
あなたの「性」意識。
そして「死」への意識。
あなたは人生の出発に際して、何を選択しているかしら。
そうした気付きこそがあなたをタバコから解放させる扉です。
自分をコ
ントロールする重要な母としての訓練にもなります。
喫煙は、心と身体への刻印の儀式です。
注意することは、自分を責めてはいけないということ。
あなたはそのままで充分ステキなのだから! あなたは多くの人がそうしているように、
自分の人生や生活のスタイル
を持っている。
タバコを吸うということでとても大きな成果を得てきた。
喫煙することで、バランスをとってきたこともある。
それでもいいのです。そうするしか方法を知らなかった。良いも悪いも
ない。
そしてそのままでいいから、今から少しずつ禁煙を学んでいきましょ
う。OK?
ほんのちょっとした気付きが開眼のきっかけ。
■「あのとき」を今、作り替える!
過去は変えられない、とあなたは信じている。でももしかしたら変えら
れるかもしれない。あのときの傷を、今、癒せるかもしれない。
あなたは、
演劇やテレビドラマや映画を観ることは好きかしら? 少し
の間、一緒にドラマを創っていってみましょう。
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もちろん、主人公は「あなた」。
ただし同じ「あなた」でも、
「弱虫なあなた」と「普通のあなた」のふ
たりが登場するのよ。
ドラマの設定は、あなたが初めてタバコを吸った、あのとき、あの場所。
さあ、あなたは一人? それとも、何人かと一緒? 友達、恋人かし
ら?
あなたは、タバコを口にくわえ、いままさに火を付けようとしている。
さあ、ここでドラマは始まるの。
「弱虫あなた」と「普通のあなた」を、送り込みましょう。
「普通のあなた」は、タバコをくわえている役。
「弱虫のあなた」は、それを見てとても心配気している。そしてそれを
止めようと説得する。そういうシチュエーションでいきましょう。
「普通のあなた」と「弱虫のあなた」は互いに見つめあっています。
いいこと。では、スタート。 普「なに見てるのよ」
弱「べつに・・・」
普「じゃあ、こっちを向かないでよ」
弱「は、はい・・・」
ストップ。
これじゃ、何にもならないわ。弱虫さんは、弱くていいけれど、もう少
し言うべきセリフを言わないと。
普「なに見てるのよ」
弱「べ、べつに・・・」
(そうじゃないでしょ。しっかり!)
弱「べつに・・・、これといった話じゃないけど・・・」
普「なによ」
弱「あ、あの・・・」
普「だから、なによ」
弱「だから・・・その・・・」
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普「じれったいわね、なによ」
(しっかり、言いたいことを言っちゃいなさい)
弱「タ・・・」
普「たァ?」
弱「バ・・・」
普「ばァ?」
弱「コ・・・」
普「こォ?」
弱「良くないわ」
普「?」
弱「タバコ、良くないわ」
(そうよ、あなたは言えたわ。ちゃんと伝えられたじゃないの!)
弱「タバコは、身体に良くない」
普「そう?」
弱「吸っちゃいけない」
普「そう? 大きなお世話ね」
弱「タバコを吸う人は嫌い」
普「わたしも、あなたのような人は大嫌いだわ。出てってちょうだい」
弱「!」
(まあ!)
「普通」さんも「弱虫」さんも、どちらも「あなた」の中に居る大切な心
のパーソナリティです。
どちらが勝ったり、負けたりではなくて、認めあうことが大事。ケンカ
別れは、一番よくないわ。
あなたの心の部屋には、あなたという「普通」さんが住んでいる。でも、
よく見ると、「弱虫」さんも居る。
本当は、もっといろいろな「あなた」が居る。
それでいい。あなたは、その「みんな」をすべて知っているわけではな
い。みんなが好きというわけでもない。できたら、気に入った人だけこの
部屋に残して、あとはみんな追い出してしまいたいくらいに思っている。
でも、それはできない相談でしょ。 あなたはだれをも追い出すことはで
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きない。仲良く認め合いましょ。あなたがそこに居るように、その人もそ
こに居る。
その人を変えようとしてもできない。ただその人本人が、あるようにあ
るだけ。
タバコをやめるということは、あの時の「弱虫」さんが、大人へと成長
して「タバコを吸わない」と堂々と主張すること。
あなたが、タバコを吸いたいと思うとき、それは「普通」さんのあなた。
あなたが、吸いたい自分を認めつつ、吸わないとしたら、それはあの時の
「弱虫」さんが今立派な大人になったということ。
「あのとき」
を今もう一度体験して作り替えるということは可能なのよ。
地味であんなに格好悪かったのに、
「弱虫」さんは、今ではあなたの心
の支えと成ろうとしている。 あなたがもうすぐベビーを産んで、育てて
いくように、あなたは「あなた」をも産んで、育てていく。さあ、もう一
度。ドラマを続けて。
普「なに見てるのよ」
弱「あなたよ」
普「わたしのなにを」
弱「タバコを吸っているところ」
普「身体に悪いから、よせって言うのね」
弱「いいえ。吸っているあなたも好きだわ。吸い たいから吸っているん
でしょ。ただ、わたしは吸 わないだけ」
普「あなたは吸いたくないんでしょ」
弱「いいえ、やっぱり吸いたいわ。あなたと同じようにね。そして、吸わ
ないの」
普「信じられないわ。そんなこと」
弱「信じなくてもいい。本当のことだから。でも、そのことであまりわた
しを苛めないで。わた し、知っての通り、弱虫だから」
OK! Good。 弱くて、みっともない自分を、正直にさらすとい
うことは、けっこうステキよ。
あなたは心の中で、この「弱虫」さんのセリフがしっかりと言えるかし
ら? - 37 -
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このセッションの意図は、意識のスイッチを切り替えるということで
す。
あなたの喫煙の最初のページを禁煙にしていくという作業を通じて、
喫
煙のルーツを絶っていくというダイナミズムを体験してください。
禁煙できないという人は、過去のことなのにこのセッションで「吸わな
い」と言ないのです。 不思議と言えば不思議ですが、
当然であるともいえ
るのです。
と言うのも、
人は現在に準じて過去の記憶を作り替えたりするものなの
で、すなわち、喫煙者は過去の場面でも禁煙を選択できないのです。
ドミノを倒すように、スタートの地点で禁煙にスイッチすれば、喫煙者
の意識が変革していくわけです。
雑草を絶やすには、地下の根の最深部まで引き抜く必要があります。
あなたはあの時を今作り替え、過去を生きるのではなく、今を生きるの
だということ確認してください。
■親のこと
次に「両親」について見てみましょう。
あなたの両親のうちどちらかがタバコを吸っていませんか? 第一章の中でも取り上げましたが、初めて喫煙したという理由の中で
「親に勧められて」というのが第四位に入っています。あなたの子供には
決してそういったことはしないでください。
家庭の中にタバコが存在しているということはそれだけでも喫煙習慣の
きっかけを作っているとも言えます。
あなたが子供のときに親がタバコを吸っていたなら、あなたは「家庭」
という社会や世界の中にタバコが存在することをとても自然なことと受け
止めるでしょうし、ましてや親に勧められたのなら当然です。
あなたの親の喫煙している姿を思い浮かべてみてください。
何を感じますか。
素敵ですか? みっともないですか? あなたは両親が好きですか? 愛していますか?
そのことを言葉にしてみてください。ノートにでも書いてみましょう。
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正直に。
あまりに複雑な感情が入り組んでいるために、
マヒ状態になってしまっ
ている人もいるでしょう。
そして読み返すときに一つ約束があります。それは「あなたが両親の立
場」に立って読んでみるということです。書いたのは、あなたではなくて、
現在あなたのお腹の中に居るベビーなのだと想像してみてください。
書かれている対象の親は、あなたの親ではなくて「あなた」のことだと
思って耳を傾けてみてください。
ベビーからのメッセージ、告白だと思って受け止めてください。注意深
く。
人によって、苦しみや怒り、不快や悲しみなどを体験するかもしれませ
ん。あるいは、喜びや安心感、満足感を得る
かもしれません。それらは大切な感情です。
これは人によっては、大変に時間がかかる作業かもしれないわ。難しい
ことかもしれない。
というのも、あなたはあなたの両親を、何十年もの間「両親」としてし
か見ていなかったから、それ以外の見方で、彼らを見つめ直すということ
に抵抗感があるかもしれない。
ましてや、自分が彼らの立場に立って、あなたからの人物評をかみし
め、受け止めなくてはならないのですからね。
でもぜひチャレンジして、成功させてください。 あなたは、親になる
のですから。
あなたの中の「親」の部分を学び育てる、ということが目的でもあるの。
人は、子供を産んだときに初めて親になる、というわけではないわ。戸
籍上親なだけであって、精神的に親になったというわけではないでしょ。
子供を産んでもいつまでも親に成れない人もいる。
自分と両親との関係
に、未完了なものが多く含まれていて、プレッシャーにあうと、親子関係
のなかに逃げ込んでしまう。その人にとっては安全で、わがままをいえ
て、甘えられるから。
子供は生まれながらに、自然の状態で「子供」であるけれども、親は、
親になることを学習しなくてはならないの。
時間がかかることかも知れな
いわ。
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子供にとっては「親」とは確かに、安全で、わがままを言えて、甘えら
れる存在だけれども、子供は成長していくもの。その成長を親が認めなけ
れば、
子供はいつまでも親の価値観でしか生きられない人間になってしま
う。
いわゆる子離れできない親、親離れできない子、というところかしら。
互いが、自分が成長する、と選択し、自分の殻を破り出なければ、いつ
までたっても親離れ子離れできないということになるわね。
親子の問題というのは、とても重要で、簡単には扱えるものではないけ
れども、だからといってまったくお手上げ、というわけではないわ。
子供にとって親は、絶対の関係。社会であり、人間のすべてであり、親
というもののテキストでもある。
生まれたときから彼らを見て育つわけで
しょ。
いい悪いの判断も、人生ではこう生きろという価値観も、人に対しては
こういうふうに対処しようということもみんな親から、
有形無形に教わる
わけ。極端な話、あなたのすべてが、そうした情報の集積かもしれない。
あなたというコンピューターには、
あなたの両親からインプットされた情
報でいっぱい。
肉体も親から頂いたわけだし、
もうすべて両親のコピーと言えなくもな
いわね。
あなたの親がタバコを吸っていたということは、あなたの心の中の
「親」
も吸っているということ。
あなたはイメージした喫煙する親を前にして、
かれらを否定することな
く禁煙を伝えてることができますか。
あなたの代でやめないと代々あなたの家系にはタバコが遺伝するわけで
しょ。
私「お父さん、どうしてタバコを吸っているの?」
父「・・・」
私「私、タバコやめようと思うのよ」
父「・・・」
私「私がやめても、嫌いにならないでください」
父「もちろんだよ」
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■大人になりたいから吸う?
大人はタバコを吸っている。二十歳にならないと吸えない。子供だと馬
鹿にされる。大人の世界は自由で楽しそうだ。タバコを吸うことで仲間入
りしたい。同級生に差を付けて、一足先に大人になりたい。
と、こうしてタバコを吸ってみたりするけれど、実は「喫煙」というの
は最も「子供」な部分で吸っているのです。
「カッコいい」
「仲間に入りたい」
「セクシーだから」
「退屈だから」
「美味しいから」
「イライラするから」
「いい音楽だから」
「いい風景だから」などなど。
それらはみは、感覚的で快楽指向であったりしている。
これらは倫理や価値観を主にした「親」的な視点でも、判断力の豊かな
「アダルト(成人)」の視点でもない。
タバコの不思議なのはいくつもの矛盾の上になりたっているというこ
と。
この場合もそう。タバコは大人に成りたくて、そう見られたくて吸うの
に、そういう感覚自体はとてみ子供っぽいということ。
外見は大人、中味は子供ということでしょ。
そもそも「子供」には禁煙はできません。
自律心とは無関係ですから。
ただ自分の中の「親」や「成人」は可能です。
「タバコが吸いたい」・・・ああ、これは「自由な子供」の部分なのだな、と
いうことが分かる。
「吸うのはよそう」・・・わたしは「親」や「アダルト」の部分で、吸うこ
とを選択しない。
こうしたことは、特別に訓練がいる、というわけではないから、
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「ああ、自分はいまこうしたがっているのだな」
「そして、こういう選択をとることもできるのだな」
ということを知っているだけで随分と楽になるでしょ。
自分自身と仲良
くするということはこうしたことでもあるのね。
「吸いたいから、吸う」
そればかりじゃ「自由な子供」ばかりに人生の主導権を与えて、他の大
切なパーソナリティーである「親」や「アダルト」といった部分を無意識
に否定しているということでもあるのだからね。
自分の意識の中の「親」は、とりもなおさずあなたの実際の両親の影響
が色濃く投影されています。
あなたは両親と衝突することで自分の意識の
中の「親」とも知らず知らずのうちに絶えず喧嘩しているわけです。それ
では「親」が健全に育たない。あなたのベビーとうまくやっていけない。
タバコをやめることもできない。
もっと自分と親密に楽しく付き合う必要があるわ。それがタバコ・フ
リーの第一歩だということ。意識を切り替えるということは、なかなか思
うようにはいかないかもしれないけれど、楽しみながらやっていきま
しょ。自分自身への新しい発見が次々と訪れてくることでしょう。それら
はいい悪いを超えて、タバコ・フリー(禁煙)プログラムのあなたへの報
酬なのよ。
「禁煙は、楽しい!」
だったわよね。
タバコというのは、嗜好品であるから、つまり生活必需品ではないか
ら、それがないと生命が危ない、生活が営まれない、というものではない
でしょ。簡単な話、趣味みたいなもの(もっとタチが悪いけどれどもね)。
別な言い方をすれば、あなたはどこかでタバコと出逢わなければ、タバコ
を吸うことはなかったわけ。たぶん多くの喫煙者は、家庭でその「洗礼」
にあっている。パパが吸っている。あるいは、ママが吸っている。
子供からみれば、その人は、なにか美味しそうなものを口にして、幸せ
そうな表情をしている。しかも、鼻や口から、煙を出している。子供は不
思議なものはみんな大好きでしょ。ましてや煙なんて、好奇心がおさえき
れない。自分もそれを食べたいな、と思う。実際、子供がタバコを食べて
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しまうという事故は、とても多いの。
1日のうちに、必ず 20 ∼ 60 回も口へ運ぶもの。そんあものがほかにあ
るかしら。しかも毎日、決してとぎれることなく、何十年ものあいだにわ
たってなんて。トイレだって、そんなには行かない。せいぜい 5 回か、10
回でしょ。水だって、そんなには飲まない。お菓子だって、そんなには食
べないわ。同じお菓子を、毎日、1 袋か 2 袋ずつ、何年にもわたって食べ
続けるなんていうこと、
あなたできる? タバコ以外ではそんなものない
わ。
そうした喫煙状況を「無条件の愛情」をもって子供が受け止めていた
ら、自分も「それ」が欲しい、と思わない方が不思議。
もし、あなたの親が喫煙しているとしたら、親への「無条件の愛情」ゆ
えの喫煙欲求、なのだと受け止めてもいいかもしれないわね。
あなたは、それがなんであれ、親と同じことをしたかった。身体に悪い、
と知りつつ、親と同じことをすることで、親のように成りたかった。こう
したことは、普通、無条件で行われるし、愛そのものでしょ。
喫煙は、自分の意思でのことである。決して親の影響ではない。むしろ
親のことが大嫌いだ、とあなたは言うかもしれない。でも実際はあなたの
無条件の愛があなたの喫煙を支えているのかもしれない。
そしてその答え
は、あなたの子供が、同じことをしたとき、理解できるかもしれない。
親は自分が喫煙しているくせに、
子供が吸ったからといって叱りつける
ということがなかなかできない。
健康に悪いといっても、それは親にも言えることだし、未成年のくせし
て、と言っても、たぶん自分自身も未成年のときに喫煙していたから何も
言えない、というのが実情じゃないかしら。
(あなたは、本当に叱られたがっていたのかもしれないけれど)
あるいは逆に、
親は喫煙しているあなたを見てこっぴどく叱ったかもし
れない。叱られてあなたは理不尽をを感じた。何で自分ばかり吸っている
んだ、と。あなたはそこに、親への愛を認めることができますか?
つまり両親とタバコとの関係は、
「あなたにとってタバコが、あなたと両親との確執そのものである」
ということ。
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■「・・・けど・・・」という悪循環
タバコというのは、実に不思議で多様な性質を持っているのだけれど、
なかでも異色なのは「対象を手元に引き寄せつつ拒絶する」という矛盾し
た性質があることなの。
どういうことかというと、タバコは、たとえば精神的なものを求めると
きでも、ぎりぎりのところでそれを拒絶する。タバコを吸ってあこがれの
人に近づこうとはするけれど、けっしてその人のようにはなりたがらな
い。
吸いたいから吸うわけだけれども、
決して本人に至福感があるというわ
けではないの。つまりどんなに吸っても、幸せというわけではない。その
くせ吸っていないといられない。
絶えず自分の身近においていないと不安
なのね。
吸いたいという気持ちは、渇望やイライラといった、どちらかというと
マイナスの方向へと引き寄せられた感情であるのに対して、吸う、という
行動によって満たされつつも、それは長続きせず、一本を吸い切らないう
ちに早くも不快になる、という独特の性質を持っているの。
「大人になりたい、けどなりたくない」
「イライラしたくない、けどイラ
イラしてしまう」
「見たいけど見たくない」
「立ち向かいたいけど行きたく
ない」そうした相反する方向を兼ね備えているの。これがタバコの魔力の
本質であり、人間の弱さの一つでもあるわね。タバコとの癒着。依存と
いってもいいかしら。一旦タバコとそういった関係に陥ったら、残念だけ
れども、一生涯解放されきることはない、とさえ言われているわ。
タバコは良くない、とみんな知っている。
けど、吸う。この奇妙な関係こそが、タバコの生命であり、あなたと両
親との関係そのものでもあるのかもしれない。
あなたの両親との確執そのものが、
あなたとタバコを吸うという行為の
中に継続されているということ。どうかしら考えてみて。
あなたは、
両親を愛しているかしら? 仲はどう? 会話はある? お
互いに精神的に自立しているかしら? 伝えたいことを伝えあっている?
子供じみた要求はない? もし、
そうしたことでうまくいってないとした
ら、それはあなたの心の中で、両親を受け入れられなくてケンカしている
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のかもしれない。そしてあなたの心の「親」がブロックされ「確執」があ
なたの心を支配している。そしてその「確執」がタバコを吸う。
いま確執がタバコを吸うと言ったけれども、確執は実態などないもの。
吸うのはあなた。両親のどちらかが吸っていても、あなたは彼らではな
い。あなたの中の「親」が抵抗していると言ったけれども、
「親」などハ
ナから虚構であって、実際はあなただけ。分かるかしら。
親と全くの無関係になる、なんていうことはできないわ。いい意味での
相互依存は続けることはできるでしょう。それは、互いに自身を受けと
め、相手の人間性を尊重し、慈しみあってのことでしょ。縁を切る、とい
うことではなくて、心の中から手放してあげる、ということ。
それとあなたの心中の「親」幻想とは別。
そうしたことをイメージしてみると、自立や禁煙状態ということが、ど
ういうことなのか「あなただけに」直観的に分かると思うわ。そのビジョ
ンを信じて。あなたが、タバコ・フリーになることと、自立することとが
深く関係している、ということを理解すればするほど、あなたはその両方
を得ることができるようになるわ。
あなたにとって、両親てなにかしら。両親とどういった関係にあるのか
しら。両親をどのように愛し、どのように拒絶しているのかしら。
そうした問いの奥にある自分の姿勢を、
一度じっくりと観察してみる必
要があるわね。
それがまた、禁煙の扉でもあるの。
■ここで、
「鏡のセッション」というのを紹介しましょう。
あなたは毎日鏡を見ていると思うの。
お化粧するときは、もちろんだけれども、ちょっとした時に鏡を見て、
自分のみだしなみや表情、
お化粧のノリをチェックしたりしているのじゃ
ないかしら。
お化粧の時には、どのくらい鏡を見ているかしら。化粧以外でも、あな
たはずいぶん長い間鏡を見ているかもしれないわね。しかも、毎日の日課
のように。
「鏡のセッション」
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それはなにも難しいことじゃないわ。
あなたが、いつも知らず知らずのうちに、そうしているように、鏡のな
かの自分に、愚痴をこぼしたり、相談したりして話しかけるわけ。こうし
たことを自然にやっていた人には、この「鏡のセッション」は受け入れや
すいかもしれないわね。逆に、あまり鏡を見るなんていうことが好きでは
なかったり、ましてやそこに写った自分に話しかけるなんて気持ち悪い
わ、なんていう人には、少々冒険になるかもしれない。でも、これはとて
も楽しくて、簡単で、それでいて効果抜群だからぜひ試して欲しいの。
どういうことをするのかというと、鏡に向かって、自分といろいろなこ
とを話し合ってみる、と言うことなの。自分とコミュニケーションをと
り、自分へ向けて声を出して
「わたしは、タバコを吸わないわ」
と楽しく、チャーミングに宣言するわけ。
「アファーメイション」ていって、肯定する・確信する・断言する、と
いうのがその主たる意味だけれど、要は自分自身を力づける、ということ
ね。
「自分とのコミュニケート」
「テーマを声に出す」
ということは、意識を物凄く前進させるのよ。
自分との信頼関係ができてない人は、
約束をしても約束通りの行動をと
ることができなくて、結局自分に裏切られ、よけいに信頼関係をなくして
いくわけ。
人は目的達成してその「成果」を得るか、達成できなくて「言い訳」を
得るかどちらかだけれども、自分との信頼関係という点では、
「言い訳」は
その信頼を壊していくものではあるわね。
鏡を見る。その中に写った自分を見る。
どう、あなたはあなたの顔が気に入っているかしら?
ブスだとか美人だとかいうことではなく、
顔のここが好きとか嫌いとか
いうのでもなく、まるごと好きかということ。あなたがあなたを好きにな
ることができなかったら、だれも好きになることができないわ。
あなたがあなたを無条件に愛するということをしていなければ、
あなた
はだれとも無条件に愛し愛されるということができないじゃない。
難しい
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ことではなく、ただ愛し愛されればいいの。そして「よくやっているわよ」
とか「あなたは素敵。しっかりと生きて輝いているわ。私はそんなあなた
を見ているのが好き」とか、そういった励ましを言っていくこと。これが
何よりも大切。
そしてタバコが吸いたくなったときに、
「あなたは、いまタバコがとて
も吸いたいみたいね。分かるわ。でも、大丈夫よ。きっとそうした欲求は
あなたの本質ではないのだから、いつか過ぎ去っていく。それをじっと
待っていましょう。タバコを吸いたい、という欲求に対して、タバコを吸
うという行動で対応させなくてもいい、
ということはあなたは充分知って
いるわね。さあ、笑って、自然にまかせてリラックスしましょう」と、言っ
てやることができるじゃない。
あなたは、いつもあなたと居る。あなたは、いつもあなたを励まし、励
まされる。そうした経験を積んでいくことで、友を励まし励まされるとい
うことが、よりスムーズになるのじゃないかしら。
なにしろ、無条件なのですからね。そして、アファメーションを習得し
ていけば、鏡がなくとも、自分を肯定し、励ますことの喜びと、その力づ
けによってあふれ出てくる勇気の偉大さを体験することができるわよ。
さあ、今日から、お化粧の時に一言でいいから、話しかけて見てちょう
だい。恥ずかしがらず。きっとあなたに話しかけられることを、あなたは
待っていると思うの。OK!
■ベビーとの対話
何度もいうように、子供はだれに教わることなく「子供」をやっている
わけでしょ。ベビーは、
「ベビー」の天才。胎児もそうね。みんな一生懸
命で、真剣で、チャーミング。
では、親は、というと必ずしもそうというわけではないわ。親は、生ま
れながらにして「親」というわけではないのよ。
「親」に「成る」のね。そ
れは、親とはなんであるのかを「学ぶ」ということでもあるの。こんなと
きは、どうしたらいいか。あんなことがおきてしまったけれど、どうした
らいいのかしら。そうしたこと一つ一つが、学ぶ対象だけれども、もっと
大切なもの、それはあなたが親としての自覚を持つということ。その自覚
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Nippuku
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なしには、あなたの周りで起こる様々なことに、適切に対応することは難
しいことかもしれないわ。
あなたがただのお嬢様なら、おろおろしたり、失敗ばかりしたり、人に
助けを求めてばかりいても、笑って許してくれるかもしれないけれど、
「親」に成るというとそういうわけにはいかないでしょ。
確実にあと何ヵ月かで、あなたはママになる。その日に向けて、あなた
のお腹のなかではベビーが、必死になって成長しているように、あなたも
成長する必要があります。
ベビーは、世界に出て生きることを選択しているのですもの。あなた
も、ママになる日を目指して、準備しなくてはならないわね。つまり生ま
れてくるベビーが、あなたを見て
「あっ、この人がわたしのママだ」
と確かめ合えるように、
あなたが素敵なママになっているっていいこと
だと思うのよ。ベビーは、あなたのあるがままを受け止めている。
妊娠とは、ただ単にベビーを育むということだけではなくて、あなたが
あなたの心の中の「親」を育てる期間でもあるわけなのね。あなたはそう
した「親」としての自覚があるかしら。
ベビーを手にしてから考える?
いえいえ、あなたには見えないけれどもお腹の中で、もう立派にベビー
は活動しているのよ。ベビーがいかに奇蹟を行っているか、目のあたりに
することでしょう。
これだけは忘れないでね。
あなたが親としての責任でたばこを吸うこと
をやめ続けるということは、あなたの「親」としての意識を育てる有効な
方法なのだということ。分かるわね。
あなたは、あなたの身体や、ましてやあなたの愛するベビーが、あなた
の喫煙によってどれほど痛手を被っているのか注意を向けないといない。
あなたの愛するベビーが、あなたの胸に小さな手を当てて、喫煙するこ
とを悲しみ、泣きながら「やめて」と言ってさすり続けている。そんな姿
あなたは見たい?
もしかしたらあなたは、あなた自身だけのちからでは、あなたを大切に
することができないのかもしれない。
あなたは、あなたのことを真剣に無条件に、誰よりも深く愛してくれる
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Nippuku
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存在に出逢ってはじめて、その大切さを知るのかもしれない。
そのうちの一人はベビーなのだということは確かね。ただし、あなたは
そのベビーをもタバコで汚染している。自分を責めてはいけない。ただ、
アクション=禁煙、を起こすのよ。
いいこと。めげるのではなくて、勇気を出して行動するの! やってし
まえば、やれるものよ。みんな、そうしているのですもの。あなたは、ひ
とりじゃないわ。みんな同じなのよ。自分を癒すこと。大きな愛をいつも
ベビーに与えて。
ベビーと対話するということは、とても有意義。お腹に手を当てて、何
でも話して聞かせるといいわ。おとぎ話や歌を聞かせるのもいい。あなた
が見ているものを説明するのもいいわ。
そして時にはあなたの相談相手に
もなってくれる。
理屈でばかり考えるのではなくて、心をゆったりとさせて、直感や心の
囁きに耳を傾けるというのも大事なこと。
なにしろベビーはあなたの心を
直接感じているし、あなたの心に直接語り掛けるのだから。あなたが満た
されていることがベビーにも一番いいこと。考えてもみて、ママがイライ
ラしている「世界」にあなただって生まれ出たくはないでしょ。ママがニ
コニコしている「世界」で一緒に遊びたいでしょ。
朝、起きてから、夜、寝るまで、いつも話し掛けてあげましょう。そう
するうちに、あなたも親としての喜びがあふれ出てくるにちがいないわ。
そしてタバコが吸いたくなったなら、お腹に手を当ててこう尋ねてみ
て。
「ママ、タバコが吸いたくなっちゃったけど、どうしよう。吸っていい
かな?」
あなたはきっと、この奇蹟の瞬間を生涯忘れることはないでしょう。嘘
だと思ったらやってみて。ただしベビーの声を聞く心の準備は忘れずに。
■タバコとセックスについて
突然で、びっくりしたかしら。
セックスとタバコ、いったいどういった関係にあるのかしら?
セックスなんて、はしたない。セックスなんて大嫌い。下品で、破廉
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恥?・・・なんてね。いえいえ、自分自身の性を肯定することはとても大切
なこと。
さて、あなたは性的なことで何か心に傷はないかしら。男の子のような
ヘア・スタイルや洋服を着ていない? 自分の性を否定していないかし
ら。
あなたは、女性でしょ。
男性には、妊娠はできないのよ。
お互いにできることと、できないこととがあって、助けあい、おぎない
あって生活しているわけでしょ。
というわけで、性という視点からタバコ・フリーを見ていきましょう。
楽しくね。いい。
セックスに求めるものと、
タバコに求めるものとを比較してみましょう。
まず質問。
あなたは何才ごろからタバコを吸うようになりましたか?
マスターベーションは何才ですか。
初めてのセックスは何才ですか?
きっとそれらの時期は重なっているはず。
あなたがタバコに手を出し始めた理由の中に、
性的な理由はありません
でしたか? 例えば好きな彼氏が吸っていた。例えばセクシーな人々が
吸っていた。あるいはタバコをくわえている姿が、特に唇に性的なものを
感じた、など。
どう、そういえば思い当たるものがあるでしょ。 けっこうタバコとの関
連、ありそうだとは思わない?
はっきり言いましょう。
タバコの隠喩(メタファー)は、ペニスです。
男性はつまりタバコを吸うことによって、
男らしさを表現しようとして
るみたい。
では、女の人はどうかしら。
魅惑的な映画スターがスクリーンの中でタバコを吸っている。
それだけ
で、アダルトなセクシーな映像でしょ。
男性のものであるはずのタバコを女性が吸うということは、
性的な女性
の側からの寄り添いを意味したりするのかもしれない。
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いえいえ、実は十六世紀頃タバコは娼婦の象徴だったの。だから男が吸
うのは女々しいとされていたの。男性のものとなったのは最近のことな
の。その後女性が公衆の面前で喫煙することが禁止され、今日、女性の社
会参加が盛んになり、男性と同じように喫煙するようになったわけ。
男性にとってのタバコと、女性にとってのタバコは意味が違うの。
男性にとっての喫煙は、ペニスの誇示であり、存在アピールと言えま
す。
一方、女性にとってもタバコは誘いであり、ペニス願望・ペニスコンプ
レックスと言えるかもしれません。
男性は、ペニスがあり、ペニスという性器を持ちながら、更にそれを誇
示します。
女性はペニスがないゆえに、ペニスを求め、また、かりそめのペニスを
飾り付けるわけなのね。
あるタバコのメーカーは、そのパッケージを、女性がタバコを口にくわ
えているところをデザイン化してるということでもわかるのじゃないかし
ら。多くのタバコメーカーは、その市場を二十代前半から後半にかけての
女性に、照準を当てているとも言われています。それはとりもなおさず、
性的な成熟期にある年代の女性であり、
同時に出産年齢とも重なるわけな
のです。
女性が成熟し、男性を求め受胎したがるその根源的な欲求を、タバコは
見逃さず、取って替っているとも言えるのです。
「男性がタバコを吸うと、大人を連想させる」のに対し、女性のそれは
男性経験を暗示させるのも不思議。思い浮かべて。あなたも含め、あなた
の周りで喫煙している人で、
自分の性的魅力にウエイトを置いている人は
多いのではないかしら。あるいは逆に物凄く男性っぽいか。どちらにして
も、
「性」的ね。自慢するにせよ、コンプレックスを感じて抑圧している
せよ、どちらも、性の影響下にあるわけでしょ。
あなたがタバコを吸っているのは、性的意味をもっています。あなたは
セクシーか、もしくは男っぽい環境で生きている? それは、あえて自分
の性を誇示しなければならないという性的なストレスの場に置かれている
ともいえるわね。その中心にあって意味するところは、男性コンプレック
スなのかもね。どうかしら?
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あなたは男性に憧れつつ必要以上に、
畏怖を感じているのかもしれない
わね。
あなたがタバコを止める、あるいは、タバコから解放されるという状況
を想像してみてほしいの。
あなたは男性なしで自立的に生きていけるかしら? 男性への依存を止
めることができるかしら? 男なんて信じられない、男なんて要らない、
とか言って拒絶していないかしら。
あなたは本来なら自分でちゃんと立てるのに、
男性に寄りかかろうとし
ているのかもしれない。あなたは既に十分に魅力的であるのに、男性好み
のメイクやラインのはっきりした服を着て、
男の価値観に媚びているのか
もしれない。試そうとか、だまそうとか、傷つこうとか、ゲームを始めよ
うとしているのかもしれない。あなたは、あるがままに社会に参加できる
のに、男性として振る舞おうとしているのかもしれない。
もしそうだとしたら、そうした方が得だったから、そうした方が楽し
かったから、そうせざるを得なかったから、でも、もうそれはいいでしょ
う。
あなたは女性にしかできないことをしている。女性としての、あるがま
まの真の魅力の十分に備わっている一人の人間。生命力、女としての実
在、飢えではなくして充実感、競争ではなくて、共存、戦いではなくて、
平和。
そうしたものを、女性の本来的な、特性として堂々と前面にだしてもい
いのではないかしら。
あなたは一個の立派な女。飢える必要もないし、欠けているものもない
し、寄り添うべき世界もない。共に生きる人々と、生を分かち合う。
広大な大地=母。そうした価値観に立つとき、あなたは飢えやコンプ
レックスや寄り添いや恐怖から、タバコを求め続けることはなくなる。
あなたはタバコを吸わないでも十分セクシーであるし、また、タバコを
利用しない性的な自身のアピールにもチャレンジできる。
こうしたプログラムを読んだからといって、
あなたの前で吸っている女
性を非難したり軽蔑してはいけない。彼女は以前のあなたなのだから。以
前のあなたとケンカしてはいけないわ。
セックスは、
マイナス地点から出発した飢えや奪うという行為ではなく
- 52 -
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て、互いに認めあい、与えあい、受け止めあう精神のおおらかな融合。愛
とはそういうものであり、その確かな事実として、あなたのお腹の中にベ
ビーが息づいているのだから。
セックスとタバコ、これらは妊娠の意味を知る上で大切なことなの。
そして、セックスを見据えることは、自分の存在した姿勢を正し、自立
へと向かわせる力となるの。
■タバコ・フリーの呼吸法の練習
ここでちょっと一息。
生命の最も重要な行為、呼吸についてです。
まず大切なことは、自分の身体の中で、どのパートが無性に吸いたがっ
ているのかを細かく、探ること。
多くの場合は、胸、それも気管支のあたりがかきむしられるように、無
性にタバコを欲しがっています。
そこへ意識を集中してください。
あなたの場合はどうですか。
注意深く探って見ましょう。
口の中、など漠然としたとらえ方ではなくて、口の中のどこなのか、舌
の先なのか、上顎の奥なのか。
こめかみ。
指の先。
(指の先がタバコを吸いたがるなんていう話はへんてこりんだ、などと理
屈で否定してしまわないで、
自分のからだのどこがタバコを求めて反応し
ているのかを観察してください。)
そのときに注意する点は、できるだけ正確なポジションをさぐりあて
る、ということ。
できるだけ細かく細胞単位というつもりでで見ていってください。
その部分を正確に意識すればするほど、明確にすればするほど、タバコ
の呪縛からの解放がスムースになります。
人間の生理の不思議を体験してください。
意識を集中し、身体からの反応を静かに見つめると、それらは収まる方
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Nippuku
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向に自然と向かっています。
タバコが吸いたくなったとき、
吸いたがっている身体の箇所を見つけ出
すことができたならば、
吸いたいという思いが蒸発するように消えていく
ときがあります。
もし、胸や気管支がタバコの煙を求めて、あなたを激しく喫煙に急き立
てたら、口を細めて空気を勢いよく吸って、胸の中を真空状態にしてみて
ください。
そうして深呼吸へと導いていくのです。
実際は誰もあなたを喫煙へと急き立てるものなどいません。
あなたの意
識が、あなたの肉体に反応して、喫煙しようとしているにすぎないので
す。
そうして深呼吸へと導いていくのです。
■心の中で泣く子
例えば、大声で泣く赤ちゃんに、ミルクキャラメルを与えると泣き止む
のだ、ということをあなたはよく知っている。
何度もそれで泣きやませることをしてきた。 さて、
またあなたの前でそ
の子がうるさく泣き始めた。
あなたはなぜ、その子が泣いているのかを考えるより先に、うるさいの
でミルクキャラメルを口に投げ込むでしょう。
喫煙とはまさにそれなの。
赤ちゃんはミルクキャラメルが欲しくて泣いて要るのではないのです。
あなたはさまざまな理由、
精神的渇望や肉体的飢餓によって喫煙を催促
し、胸のあたりが「泣く」と、あなたは反射的にタバコをくわえ、火を付
け、煙を吸い込んでいくわけなの。
あなたは、あなたが欲しがっているものがタバコではないのに、自分で
タバコを与える習慣をつけてしまっているのだということにまず気付いて
ください。
あなたが吸いたい気持ちのままじっと自分を観察するのは、
まるで大声
で泣きじゃくる赤ちゃんに対してミルクキャラメルを与えず、
じっと耳を
傾け続けるようなものです。なかなかできることではありません。でも、
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それをしないと、悪循環から出ることはできません。
赤ちゃんが欲しいものは、実はあなたと同じに愛情かもしれません。
ミルクキャラメルなどではなくて、
強くしっかりとダッコしてほしいの
かもしれません。
でも、赤ちゃんは言葉が言えないし、ママはしかめっ面で自分を見つめ
て、うるさくて嫌だわ、ということを全身で訴えている。
赤ちゃんは怖いママを見て余計うるさく泣きます。
そうしたところへ突然、口の中に甘いミルクキャラメルが放り込まれ、
気持ちがそっちへそらされてしまう。
泣き止む。
でも、心は満たされることなく、愛情に飢えたまま、ほっぽっておかれ
ると言うことでは・・・。
ミルクキャラメルがなくなればまた泣き出すのです。
そのうち、赤ちゃんの方でも、このママに愛を求めても、強い包容を求
めても、決して与えられないのだとわかってきます。
そして泣けば甘くておいしいミルクキャラメルが与えられるのだ、
とい
うことも。
本当は、そんなもの少しも欲しくないのに。
あなたもこれと同じ。
あなたは、本当は何が欲しかったのでしょう。
タバコですか。
あなたの人生で、タバコにめぐり逢うことで、本当に満足できたかし
ら。
タバコを止める恐怖は、あなたの心の中の渇望と向かい合う、という恐
怖と一つです。
あなたはあなたの中で、定期的に泣きじゃくる赤ちゃんを、愛情をもっ
て抱きしめることがなにより大切なのです。
自分を受け入れる、とはそういうことでもあるのです。
さあ、ゆっくりと、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで、身体中に酸
素を送りましょう。
タバコの代りに、自分への思いやりを胸の中へと送り込みましょう。
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Nippuku
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■タバコと死
いよいよこのテーマだわね。暗いし、嫌ね。
できることなら、避けて通りたい。
違うかしら?
そして見つめてみましょう!
タバコ吸うことによって、寿命がどのくらい縮まるのか、よく議論され
るのは、肺ガンやその他の疾病にどういった悪影響を与えているのか、と
いったことだけれど、
タバコを吸ったからといって早死にするとは限らな
い。皆が皆、肺ガンになるといったわけでもないのよね。
アメリカのある禁煙団体は、
「アメリカでは、毎年、434000 人もの喫煙
者が死んでいる。それはアルコールやドラッグや、交通事故や墜落事故や
エイズよりも多いのだ」なんて言っているけれど。
タバコを吸って100歳も生きた人もいれば、タバコも吸わず、自然食を
食べながら、ヨガをやり 40 歳で死んだ人もいる。
ここで扱う「死」とは、そうした健康や病気などへの漠然とした幻想と
しての「死」として論じるものではないの。
誰でもない、あなたの心の中で確かに存在している「死」そのものを見
ていきます。
馬車馬のように、家族のために、会社のために働いて突然死んでしまう
男がいる。
彼は、心の底で本当に生きるために働いていたのかしら。
それとももしかしたら無意識に「死」を決意していたのかもしれない。
タバコを吸うとどうなる、ではなくて「人生」そのものへの姿勢。
「生」
への姿勢、向き合い方、それ自体が問題なの。
あなたは、タバコを吸うことをどう合理化してみても、その意味すると
ころは「死」であると認められますか? 喫煙するとは、なだらかな自殺
であると認めますか?
あなたが人生において「心の死」を選択したのはいつ?
それは、なぜ?
どんな感情が、そのときあなたを取り巻いたの?
そしてもう一つの事実、
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Nippuku
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あなたの身体の中から新しい命が生まれつつあるということ。
その事実から出発して、「死」とタバコとを見つめ返してみましょう。
あなたがタバコをやめようと決意したのは、赤ちゃんのためではなく、
誰のためではなく、ただ自分自身の心の中に居座る「死」の陰を取り払お
うと、そういう無意識の挑戦なのかもしれない。
確かに以前は「死」を選択していたが、いまこうして子供を授かってみ
ると、自分がまぎれもない「生」を選択しているということがわかる、と。
私はもう死ぬから、おまえは生きてくれ、では子供は苦しみ育たないわ
よね。
あなたの子供が、あなたのように十代でタバコを覚え、妊娠し、子供を
産むとなったとき、あなたはその子に「生命」を感じる? 愛を感じます
か? それとも「死」を感じるかしら?
子は無条件に、母親の胎内で、身をゆだねているの。あなたが感じるま
ま感じ、あなたが呼びかけるのを喜び、受け止め、あなたの胎内の毒素を
もわけ隔てなく受け入れ、あなたに逢う日を楽しみに、成長し続けていま
す。
子への愛は、自分に心の「死」の投影であってはなりません。
あなたは、タバコを吸うということは子供の成長よりも、愛よりも、自
身の死を刹那的な快楽を優先させているということかもしれないでしょ。
見ていきましょ。丁寧に。
人は、なかなか「生」ということを見つめることができない。
自分が生きている、と言うことだけで、それ以上の説明も探究もいらな
いのだと思ってしまいがち。 もしかしたら、
「生」が何であるのか知らな
いのかもしれない。
漠然として、つかみどころがないのだもの。まるで光そのもののよう
に、ただ輝いているだけでしょ。
安穏なただ平和なだけの人生を、ふと退屈と思ってしまうように、
「生」
というもののと尊さは時として忘れ去られて、
荒々しく自分を追い込むこ
とで「生」を実感したいと願って行動する人も多いいわ。
「生」を「生」のまま扱うのは、とても難しいのかしら。
あなたはタバコをよりよい「生」のために吸っていたの? それとも
「死」のためかしら?
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人は時に「生」を知る手だてとして、その輪郭、つまり「生」の果てる
地点である「死」を道具のように使ったりもする。あなたもそう?
「生」を見つめる変わりに、「死」を見つめているというわけ。
「死」は「生」のように漠然とはしていない。
なぜって、「死」は確実に自身にやってくるのですもの。
「死」とはこれである、と明確に名指しすることができる。
これの方が「生」よりわかりいい。いきおい「生」を考えることの代用
として「死」を考えてしまう。しかも「死」は絶体であって、
「生」はと
うてい「死」にかなわないような気がする。
「死」からは、逃げようがない。
こうして並べてみる限り「死」の方に分がありそう。しかも、
「死」は、
いつ自身を襲うのかわからない。何十年も先のことかもしれないし、一秒
後に突然かもしれない。でも、それがいつであれ、確実に来る。しかもどっ
ちにしろ、刻一刻と近づきつつある。
加えて、それがどんな形でやってくるのかも分からない。
病気で、なのかもしれない。事故で、なのかもしれない。どちらにして
も、決して気分のいいものではない。
そうした姿形のはっきりしない、得体のしれない「影」が、しかも確実
に自身に寄り添って、絶えず自分の様子をうかがっている。
「死」を考えると、本当にいたたまれない。
考えたくないことだわ。
忘れ去っていたい。
でも、両親が、友が、有名人が、次々と自分の目の前で死んで行く。
順番というものがあるのなら、次はだれなのだろう。
自分は何番目なのだろう。
このじれったさ。真綿で首を締められる感じ。
「ああ、考えれば考えるほどタバコが吸いたい」
その正体も知らずに、
こちらからは何らアクションを起こすことができ
ず、ただ受動的に待つだけ。
誕生が人生のスタートなら、「死」とは、その終点。
いえ、そこへ向かって一直線に進むということでは、まるで自分の人生
の目標そのものみたい。
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「死」への恐怖。
「死」への嫌悪。
でも、それはひるがえって、人生の上に味わいのある鈍い陰影を与えて
くれる。
つまり、これがタバコの味なのね。
「死」とタバコとは、決して無関係ではない。
タバコは、確実に人生を短くするためにも使われている。
「死」が何であるのかを確かめたくて、自分にとってリアルなものにし
たくて、タバコというものを手がかりとして、あなたはダンスを踊ってい
るのかもしれない。
喫煙の深層部分に触れるとは、おのずと「死」を扱わないわけにはいか
ないのかもしれない。
そして、喫煙を通して、自分がいかに「生」を否定し、
「死」を手前に
手繰り寄せようとしているのか、知っていくことになる。
そもそも、あなたは人生を愛しているのかしら。
よくやっているぞ、とても素敵よ、と慈しんでいるのかということ。
だけど、喫煙=「死」という簡単な図式では、本質は見えてこない。
人間は、もともと本質において「死」を求めているのかもしれない。逆
にいえば「生」を強く愛しているとも言える。
どっちなんだろう。
タバコを吸うのは「死」をたぐり寄せつつも、本当は生きていたいとい
うこと。矛盾してる。
それがどんなに人生を短くさせようとも、
そのデメリットを補って余り
あるほどの意義が、喫煙にはあるのだ。
開き直って「死」をもてあそんでいるとさえ言える。
そしてたぶん、その根底にあるのは、やはり「死」への恐怖なのでしょ
う。
でも、どうしたわけかしら、あなたも含めすべての生物は子供を産むで
しょ。
子孫を繁栄させようと必死になる。
いつか自分が死ぬと知っていて、子供をつくる。まるで、自分の死を受
け止め切れないがために、虚構としての「生」を子供に託しているかのよ
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Nippuku
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うじゃない。
わたしは死ぬ、けれどもあなたは生きてね、と。
あなたはなぜタバコを吸うのかしら?
そもそも「生」を考え、
「生」を肯定していこうということと、
「死」を
考え、
「死」を受け入れていこう、ということの間には、関係がないのか
もしれない。
もしかしたら、
「生」は「生」、
「死」は「死」であって、両者は対立す
る反対概念ではないということ。
「生」の対立語、反対語は、例えば「絶望」であるとか「過去に生きる」
ということであったり、
「死」の対立語、反対語は「活動」とか「行動」と
いうことかもしれないでしょ。
あなたは「死」を望んではいない。なぜなら、生きているのだから。そ
してベビーを産もうとしているのだから。
ただ、あなたの潜在意識は「死」を選択しているかもしれない。
ヤケになったり、投げ出してしまったり、自暴自棄になったりしてし
まったら、それはつまり「死」でしょ。
自分を根底で肯定する力、意思、覚悟というものは、ものすごくあなた
を成長させる力となってくれる。それは「生」でしょ。
なにも恐れることはなくて、自分に向けて気付いたときに、
「生」を選
択する、と何度も言い聞かせてあげればいい。
そうしていくうちに、巨大な船がコースをゆっくりと変えていくよう
に、明確に自身を「生」へと導いていくことができると思う。
そして生き生きと自分の人生を生きていくことができるようになる。
子供が生まれると、もっとリアルな問題として感じるようになる。
さあ、ここまで分かったなら、あなたの行動は簡単でしょ。
タバコを吸いたくなったなら、自分は「死」を選択するのか、
「生」を
選択するのか、自分に聞いてみる。
そしてタバコを吸いたくないときも、
いつでも気付いたときに同じこと
を自問自答してみればいい。
答えは同じはずよ。そしてお腹のベビーもこう言うはずだわ。
「ママ、生きることを選択ましょう」
ベビーは、明確にあなたのお腹の中で「生」を選択しているのですも
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の!
その上で、あなたに全面的に、無条件に、生命を預けているわけでしょ。
あなたがタバコを吸うことすら、許している。
そして吸うか、吸わないかは、あくまでもあなた次第。
「生」を選択するのも、「死」を選択するのも、あなた次第。
自主性に任せるわ。
みんなあなたの「生」を応援している。
分かるわね、この微妙な感じが。誰が、主体で、だれがあくまで補助な
のかを。
タバコを吸うと、寿命が縮むというのは本当かもしれない。
でも、だからといってタバコをすぐにやめられる、というわけではない
でしょ。
たぶん、ほとんどの喫煙者は、タバコが身体に良くないということ、そ
して寿命に影響を与えるということは、知っていると思うわ。本当に肺ガ
ンの発成率も高いし、胎児に対しての悪影響は大変なものね。
喫煙に限らず、アルコールでも、麻薬でも、母親本人よりも胎児のほう
がより強い影響を受けるのだということを知っておいてほしいわね。
知らなかった、ではすまされないでしょ。
大切なのは母子の健康であって、情報の多さ、ではないのですから。多
くのことを知っている必要はないの。
ただ安らかに、おおらかに、喜びをもって妊娠を受け止め、お腹のベ
ビーにたくさんの愛を与え続けていってほしいの。
なによりも、それが一番なのだから。
喫煙にまつわる恐怖感を強烈に与えてしまうということは、
胎教にもよ
くはないでしょ。
それでタバコから解放される人はまだいいけれども、
タバコもやめられ
ず、しかもより一層の罪の意識をもち続けてしまう、なんていう人もいる
わけだから。
もしも、母体と胎児との関係の神秘を無視することができたなら、あな
たはにはこんなくどくどとしたセッションよりも、
何十枚かの物凄い写真
やデータを見せて、
「どう、まだこれでもあなたは吸う気?」
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なんて脅かしてしまった方が、手っ取り早いのかもしれない。
乱暴だけれども、タバコと死の関係を説明するには、もってこいの方法
ね。
けれども、それは決して良くない。
母体と胎児の絆は、あなたの想像以上に親密なのよ。
まさに「奇蹟」。
神秘そのもの。
素晴しいわ!
喜びも、悲しみも、怒りも、興奮も、何もかも、あなたと分かち合って
いる。
信じられるかしら?
でも、これは事実なのよ。
だから、あなたがタバコを吸うということは、ベビーも同時に吸ってい
るということ。
あなたがタバコについての情報で恐怖感をもつということは、
ベビーも
また恐怖感をもつということ。
あなたが恐怖しつつタバコをやめることができない、
そして自己嫌悪に
なるということは、ベビーもまた自己嫌悪になるということなのね。
逆に、楽しく禁煙し、自分を愛し、喜びと充足をもって妊娠を受け止め
ていれば、ベビーだって世界を心地よく受け入れ、成長しようと思うで
しょう。
妊娠中、
あなたの精神状態をいい状態にしておくことの大切はそこにあ
るのよ。
タバコをやめるのにこしたことはない。
でも、やめるために恐怖心を使うのも、同様に良くないの。
タバコと「死」の問題は、恐怖の対象としてのアプローチではありませ
ん。
むしろ「癒し」や「リラックス」を目的としたものだから、安心してほ
しいの。
とは言っても、少々ショッキングな印象を受けた人もいるでしょう。
何しろテーマは「死」なのですから。
気持ち良くはないわよね。
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Nippuku
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でも、こう思ってほしいの。
「ああ。自分はこう感じているんだ。恐怖心も人にとって大切な生命保
存のための機能なんだわ」と。
「死」を扱うと言っても、煎じ詰めれば「生」を大切にするということ。
私たちが恐れている「死」は、実は「生」への恐怖であって、いわばそ
の影におびえているのかもしれないわ。わかるかしら。
あなたは「あなた」を、恐れているのかもしれない。
妊娠中のお母さんが乱れた生活を送っていると、
未熟で弱い赤ちゃんは
たちまちダメージを受けます。
体に害のあるタバコやお酒をスッパリやめることも大事な胎教のひとつ
です。
■「愛」と「癒し」について
結論・・・
『私は、タバコを吸っていた某人物を愛しているがゆえに、タバコを吸
い、死を選択していた。
今、更に、深い愛を学び、自身を癒すことで、タバコから解放される』
【ヒーリング(癒し)】
「愛」というものには、与える愛と、相手の心を受け止める愛とがある
といわれています。
ここでは愛についての概念や定義についての討論はしません。
ただ、大切なことは、
「人を愛する」ということと「タバコを止める」と
いうことはとても深く結びついているのだ、ということなのです。
そして、喫煙によって被っている心や身体の各器官の傷や痛みに対し
て、率直に認め、癒し、肯定的生活へと改善する選択をし、様々な人々の
協力やサポートを得ながら、実行し、禁煙というものを自分が死に至るま
で続けていくということ、
それがそのまま自分自身への誠実な愛情なのだ
ということを学んでいく必要があるのです。
意識を更に広げ、あなたの人生に乗っ取って言うならば、あなたは愛と
癒しとの意味を学ぶためにタバコというものを選んだのかもしれない。
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私の言っている意味がわかるかしら。
愛といっても、観念的な、言葉だけのものであっては意味ない。
より具体的であって、実生活に根ざしたものこそが、長く育まれていく
ものなのではないかしら。
あなたは、タバコが吸いたくなるときがある。
言い換えれば、あなたは胸や口がむずむずしたりして、いたたまれなく
なる。
すると、ああこれは「タバコが吸いたい」
という身体からのメッセージなんだな、と解釈する
タバコを吸いたがっているのだから、早速吸ってしまいましょう、と。
でも、果たして本当にそれは、喫煙の欲求の知らせなのかしら?
そうじゃないかもしれない。
喫煙の欲求の知らせ、とも言えるし、ただ単に胸がむず痒くなっただけ
ということかもしれない。
そして、もしかしたらまったくの逆で、あなたはあなたに向けて救助信
号を出しているのかもしれない。
救助信号を、あなたは喫煙の欲求と誤解し、さらにタバコを吸い続けて
しまっているのかもしれない。
そうやって考えていくと、自分がいかに自分へのいたわり、というもの
から遠くかけ離れているかがわかってくる。
このプログラムで多くの問題を取り扱ってきたけれども、結局はこの
「愛」と「癒し」というテーマに集約されてくるように思うの。
あなたがあなたであるために、本当にタバコが必要ならば、いったい誰
がそれを奪うことなんてできますか。誰が止めようかなんて悩みますか。
潜在意識がタバコを止めたがっている。
要はあなた自身。
あなたがあなたを救出したがっている。
タバコは自分自身を見つめるチャンス。
成長するチャンス。
自分の心と身体を癒すチャンス。
そのチャンスをチャンスとして受け止め、活かすかどうかは、あなたし
だい。
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Nippuku
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「癒し」というものが何であるのか、知らない人がいるけれど、あなた
はどうかしら?
何が、自分の心を安らぎへと導くのか、見当の付かない人がいる。
例えば、こんな喫煙者の場合があった。
彼女は、ハキハキして、明るくて、自由だった。
いろいろな男と寝たし、遊び、酒を飲み、そしてタバコを吸い続けてい
た。
けれども本人は、心のどこかで、こうした生活を改めたいと願ってい
た。
でも、あきらめていた。
だから、ちょっと不安になったり、辛いことがあったりすると、それを
打ち消すために、タバコを吸った。
ある日、タバコを止めたいと思った。
彼女は相談した。
禁煙したい、だけど何度禁煙にチャレンジしても結局ダメだったと。
「そうね、またダメかもしれないわね。あなたは、あなたの力で、自分
を救うことができない女性なのかもしれない。
でも、いつの日か、あなたのことをあなた以上に愛する人が現われて、
その人があなたに向けて、心から禁煙を援助したら、その時始めて、あな
たはあなたが一体何を求めてタバコという苦しみを選択していたのか、
気
付くかもしれない」
分かるかしら。
あなたが向かい合おうとしているものが。
鏡をみて。
そこに写っているあなたは、本当は泣いていたりするんじゃないの?
寂しくて、孤独にあえいでいるんじゃない?
タバコが似合う?
いいえ、はっきり言うわ。
あなたは、タバコよりも、自然な、健康な笑顔が似合うのよ。
■傷ついたまま癒す
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Nippuku
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例えば、胸の中の中心を強くさすってみる。
左右の肋骨がつながるあたり、ちょうど喉の下 十センチぐらいの所、
そこに愛をつかさどる胸のチャクラがある。
そこのチャクラを指で丁寧に押し探ると、コリコリと筋が見つかる。
それを丁寧にもんであげると、痛かったりする。
その痛み、とは何かしら。
それこそ、あなたのキャンセルしてきた心の痛み。タバコが吸いたくな
ると、ここが痛くなるんじゃないかしら?
そこにはいろいろな感情が、悲しみが、溜まっている。
タバコが吸いたくなるのは、「愛のチャクラ」と無関係ではないの。
あなたは多くの感情を、愛にまつわる感情を、表現しよう、放出しよう、
分かち合おうとする前に、タバコを吸うことによってキャンセルし、先送
りし、蓄積し、汚したり、傷つけたりしているのだということ。
禁煙しだすと、その痛かった場所が中心となって、癒されていきます。
スポーツのときの荒々しい呼吸や、水風呂に入ったときなど、しばらく
の期間胸のチャクラのあたりが、息苦しく、麻痺しているのを観察するこ
とができます。
あなたは、妊娠し、タバコを止めるということで、無意識のうちに愛を
学びたがっているのです。
あなたのお腹の中にいるベビー、そこは丹田というところにあり、同じ
く重要なスポット。
「生命のチャクラ」というところです。
あなた自身の生命を司るところであり、ベビーの生命のそれでもある。
不思議でしょ。
男女を問わず、丹田「生命のチャクラ」に気を充実させることが大切な
のは、気巧や、ヨガや、太極拳を習ったことのある人ならすぐにわかるわ
ね。
あなたは「愛」と「癒し」を学び、ベビーはあなたの「生命のチャクラ」
にいます。
素敵でしょ。
ただ、自分が生きていて、愛を学び、癒される。 ベビーが、生命の息
吹きを育んでいる。
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Nippuku
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そして、
一切の喫煙が多くのことがらを学ぶための課題を提供するもの
だったのだということ。
意識を宇宙にまで広げ、ただ、祈る。
タバコを吸いたくなったときに、まるで、その指の間に一本のタバコを
はさみ、火をつけ、吸い込むように、空気を吸い込むということをしたわ
ね。 更にそれから一歩進めて、
今度タバコが吸いたくなったら、あなたが
タバコを吸っていたときのように、指を唇にあて、そして、その時、目を
閉じるの。
もう片方の手は、胸のチャクラか、生命のチャクラ、つまりベビーに触
れてください。
それがあなただけの祈りのポーズです。
タバコを吸う、という同じ形であなた自身がいつでも、どこでも、人に
気付かれることなく、人を気にする事もなく、静かにただ癒されるのを体
験してください。
あなたの胸の中で、タバコへの欲求が、あなたの愛への餓え(渇望)と
して、体の外に流れるままに流れ手行くのを感じることができるわ。
そしてもし、吸いたくなったなら、そっと唇に手をあてて、目を閉じ、
祈るの。
あなたもそうして、
同様にこの世に生を受けたのだという事実を思い出
しながら。
「癒す」ということが苦手な人がいる。
癒すということは、とても辛いことなのかもしれない。
身体ばかりではない。
心も傷を負う。
そしてそうした心身の傷がいやされるためには、
癒しのためのケアと時
間とが必要だわ。
タバコ・フリー呼吸法でも少し触れたけれど、胸のあたりでむずむずと
して、
「ああ、タバコが吸いたいな」という欲求が生まれたとき、大概の
人は、そのままタバコに火を付けてしまう。
というのも、胸のむずむずが喫煙欲求であると解釈しているから。
けれど、本当はそうではなくて、あなたの胸が喫煙による痛手から回復
しているという知らせでもあるの。 - 67 -
Nippuku
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身体の傷が直り始めると、かさぶたができて、痒くてたまらなくなるわ
ね。あれと同じ。
下の傷が直らないうちにかさぶたを掻いて取ってしまってはならないと
いうことは、知っているでしょ。いつまでたってもそれじゃ、直らないわ
ね。
胸や気管支のむずむずも、こうした原理と同じで、粘膜や皮膚が自然治
癒していく過程でむずむずとしてくるわけ。
そのときにまた、タバコを吸ってしまっては、元の木阿弥でしょ。
だから胸や気管支がむずむずしてきたら、
意識的に優しくしてあげるこ
とが必要ね。
そのむずむずは、タバコを求めているのではなくて、癒されることを求
めているのですから。
癒す方法というのは、いくつかポイントがあるのよ。
一つは、意識の中で、むずむずの在りかを定め、それを傷なのだと認め
ること。
そしてそれが静かに、あるがままに癒されていく、というイメージを描
くこと。
それが大切。
手を添えるのもいいわね。
指をつかって傷の在りかを探り、もみほぐしてあげること。
もう一つは、そのときに感情を放出すること。
感情というのは、身体にしこりという形で蓄積されるの。
ストレスで肩がこったりするでしょ。あれと同じ。
身体中が、感情の貯蓄庫みたいなものね。
どこにでも溜まる。
でも、人によってクセみたいなものがあるの。
胃に溜める人。
頭髪に溜める人。
肩に溜める人。
脳に溜める人。
神経に溜める人。それぞれ。
あなたの場合はタバコを使ってのどや肺に溜めていたわね。
- 68 -
Nippuku
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それらが、マッサージできる箇所であるなら、マッサージしてあげるの
が一番いい。
でも、内臓やその他の、マッサージできない箇所であるなら、そのツボ
を刺激するか、さもなくば、イメージトレーニングでリラックスさせてい
くわけ。
そのときに何をイメージするかというと、
きれいな水が小川のように身
体を流れ、傷ついた箇所を優しく潤しながら癒す、という様子。
生命の輝き、光をイメージする。
ほぐすのであれば、思いつく限り「やわらかいもの」をイメージすると、
効果的ね。
そして、その過程で自然と沸き起こってくる感情を、そのまま自然に出
してあげる、ということなの。
決して止めてはいけないわ。
止める、と蓄積されたままでしょ。
感情を出すことに馴れていない人は、練習が必要。でも、じき勘をつか
めるわ。
例えば、
「悲しみ」というものを蓄積している人 は、自分の意識では、
自分が悲しみを感じるということを否定していたりします。
本当は「悲しみ」を感じているのに、頭で「悲しいはずがない」とか「悲
しんではいけない」とか「悲しむのは愚かだ」と否定してしまうから、そ
の分が蓄積されるの。
感じている、ということを認めてあげれば、そしてそれを放出してあげ
れば、消えてしまうものなのよ。
だから、マッサージしている最中に、この「悲しみ」が沸き起こってき
たときに、また頭で「これはいけない」とか「感じてはだめだ」とか「泣
くなんて恥ずかしい」と、感情を抑えこんでしまいがち。
なぜなら、そうしたことがあなたの人生の中で、もう何度も行われてい
て、癖になっているから、線路のようにその上を走るしかできないの。不
自由なのね、自分自身に。
「癒す」とは、この悪循環のコースを考える、ということ。
泣きたければ泣いていいの。
「寂しい」「悲しい」と叫んでいいの。
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あなたがそう感じているんですもの。
癒す、とは傷を直すこと。
そして傷の原因を取り除いてあげること。
傷が抱えているものを受け止めてあげること。
自分自身を抱きしめてあげること。
自分がつらくなったら、そっと愛する人を抱きしめるように、自分自身
を抱きしめてあげて。
そのときあなたのベビーも抱きしめらるのだから。
それが一番の癒しだわ。
あなたは、癒されるにふさわしい人なのだから。
■ベビーとのコミュニケート
コミュニケートはとても大切。
大切なものだけれども、なかな思うようにできない。
でも、
できないからといってコミュニケート続けることをあきらめてし
まってはいけない。
コミュニケートの大原則は、相手の心を受け止めるということ。
そして、相手が受け止めやすいように心を伝えていく、ということ。
キャッチボールの要領。
暴投はいけない。
そしてこれは胎児との場合でも同じ。
あなたがなにを考えているのか。
なにを感じているのか。
なにを見ているのか。
なにを聞いているのか。
みんなベビーは知っている。
みんな知っているからといって、なにも話しかけない、というのはいけ
ないわ。
愛情をもって話しかけられる、
ということはあなた自身に置き換えてみ
ても、うれしいでしょ。
ママであるあなたに、愛情をもって話しかけられれば、こんなにうれし
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いことはないわ。
あなた自身も、あなたが愛情をもって話しかける、という体験を通して
さらに深い愛情を確認し、深めていくことができるの。
始めはぎこちないかもしれないけれど、
気にせずどんどん話しかけてみ
て。
きっと素敵な、不思議な、エキサイティングな、ファンタスティックな
体験ができるわ。
あなたはそろそろ胎児が動くのを感じたかしら。 まだかしら。
あなたが話しかけると必ず胎児は喜んで成長して いきます。
いろいろなことを尋ねてみて。
足で蹴ったりもぞもぞと動いたりして答えることはもちろんだけれど
も、胎児なりに母胎のなかで声を出している。
なかなかそれを聞くチャンスはないけれど、胎児は声を出せる。
ただこの声とコミュニケートするのというとは困難だけれども、
母子の
絆の奇蹟、
つまりテレパシーの様なもので語り合うことは十分にできるの
よ。
懸命なママはこのことをよく知っている。
多くのママが体験しているいるわ。
あなたもぜひ、この機会に体験してほしいわね。
まずお腹にてを当てて、リラックスして、胎児が生を得たことを心から
の喜びをもって、微笑みながら話しかける。
いろいろなことをそうして話しかける。
一日中でもいい。
一日中の方がいい。
一枚の皮を隔てて、もうここに一人の立派な人間がいるのだ、と言うこ
とを何度も確かめながら、話すこと。
愛情をもって。
そして「人は信じるに値するし、世の中は安全なのだ」と教えてあげる。
そうしていくことが大切。
あなたの心のなかにある人間への不信や世界に対する、恐怖や嫌悪。そ
れらがもしあったなら、そうした心を少しずつ癒して、信頼と平和を取り
入れていく。
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自分をも再教育していくつもりで。
胎児が、あなたを信頼して、お腹のなかでメディテーションしているよ
うに、あなたも世界を信頼することができる。
胎児を信頼して、自分自身を再教育していくことができる。
タバコのことも聞いてみましょう。
「ママはタバコが大好き。でもタバコをやめたいと思っている。
そして今、そのためのプログラムを読んでいる。
けれど、自信がないし、時々ものすごく吸いたくなる。
どうしたらいい?
あなたは、ママがタバコを吸うということをどう考えている?」
たぶん、何かメッセージがくると思うわ。
胎児はママのことを愛しているし、大好きだから。
手を当てていたところを強く蹴ってきたり、ぐるぐる動いたり、声を出
したり、テレパシーを送ってきたり。
いろいろとコミュニケーションしてみてくださいね。
■スキンシップとタバコ
人間の情緒面に多大な影響を与えているもののうちの一つに、スキン
シップがあげられると思うけれども、その大切さはわかっているのに、実
際の行動としてなかなかできないのが日本人ね。
頬にキスをしたり、抱きしめあったりというのはあまりないみたいね。
スキンシップが苦手な国民かもしれない。
恋人同志にはみられるけれど、
親子や家族兄弟との間ではめったにみら
れないでしょ。
だからといって、日本人は皆、スキンシップを必要としていないのかと
いうと、そうではないと思うのよ。いえ、むしろ逆ね。日本人のほうが、
スキン シップを求めているのではないかしら。
必要なのに与えられなかったから、その分、未完了として大人になって
もどこかで人一倍求めているのかもしれないわ。
母と子の絆。
それは、スキンシップで培われる、といっても過言ではないでしょ。
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特に、幼い子供には親の包容が大切。
子の時期に、十分な包容を与えないと、成長してからも精神的に不安定
な人格を形成してしまう、という話を聞いたことがあるでしょ。
その時期その時期にすべき事があって、
その時に満たされていないもの
は、何年も引きずることになってしまうのね。
あとになってからだと、
何倍ものネガティブなエネルギーになってしま
う。
スキンシップというものは、何も体の外の皮膚ばかりではないわ。あな
たの内側の皮膚、つまり消火器系統や肺も、皮膚といえなくはないのね。
空腹感もスキンシップの飢餓感と無関係ではないし、
喫煙欲求もそうだと
言えるかもしれない。
タバコの煙は、独特のざらつき、感触があるでしょ。それが舌や喉、気
管支や肺に触れるとどういった感覚がするかは、あなたは知っているわ
ね。
あなたは、タバコが吸いたい、というとき、タバコに含まれているニコ
チンであるとかタールであるとかを求めているのか、
香りを求めているの
か、観察してほしいの。
そしてその中には、舌、喉、気管支、肺といった箇所への刺激を求めて
いるのかもしれないということを、デリケートに確認してほしいの。
人間は身体中で記憶します。身体中で考える。
あなたはタバコを吸うことで、舌や喉や気管支や肺で感じ、考え、記憶
するのね。
でも、そうした喫煙による記憶は、おおむねネガティブなものになって
しまいがち。
スキンシップ、という観点から、タバコを考えると、つまり満たされて
いない身体のふれあいという点で考えると、
あなたはいったいタバコの煙
を使って、
どんな舌やのどや肺へのザラザラとしたスキンシップを求めて
いるのかしらということね。
つまり、孤独。
あなたはタバコを吸うほどに孤独なのだということ。
スキンシップの欠落は、自分ではどうしようもないこと。
本当なら、あなたは、タバコではなくて、誰かの暖かい優しい手で、舌
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や喉や気管支や肺の内側を強く撫でてほしいのかもしれない。
それでもいいのよ。
もし可能ならば、たばこを吸いたくなった時に「さびしい」とつぶやい
てみたら。
恥ずかしがることなんてない。
そう感じているのに、感じていないフリをするほうが不自然。
あなたの感じているがままの言葉を自分に向けてつぶやくことで、
あな
たが癒されるという体験をしてみてください。
きっと、飢餓感の所在がわかるかもしれないわ。
飢餓感が見つかったなら、
それをタバコの煙で補わないですむ可能性を
発見できるでしょ。
飢餓感は、たとえば、人に与える、と言うことで満たされたりする。人
の心を受け止める、ということで満たされたりする。
その本質は、愛でしょ。
そしてあなたのベビーを、大切に育んで、抱きしめてあげて。
飢餓感もまた、あなたの代でさようなら。
あなたの代から、愛をこんにちは。
それじゃあ、あなたがタバコから開放される日を祈っている。
これで、タバコ・フリー(禁煙)プログラムは終了です。
ありがとう。
じゃあね。
アイ・ラブ・ユー!
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小説
『 5 万回の 説『
キャンセルを越えて』
色麗
一色
麗子/著
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リサは公衆電話の受話器を取るとてばやく姉の家の電話番号をたたい
た。
そして呼び出し音が始まる前にタバコに火を付けて深々と一服してい
た。
ここ数年の冷夏つづきの中で特に気温の低い日だった。
通りでは長そでの服がめだった。
サマーセーターを重ね着している女性もいた。
皆もう夏が来ないのではないかと思っていた。
リサは心が高鳴って、呼びだし音をまどろっこしく思った。
早く出てよ姉さん。
あなたに真っ先に伝えたいことがあるんだから。呼びだし音が、途切れ
た。
「あ、姉さん? あたし、リサ!」
返事はなかった。
リサは闇に話しかけている気がした。あれ?間違えちゃったかな。
「・・・なに?・・・」
しばらくして闇はそう重くつぶやいた。姉の声だ。
「姉さん、いい知らせがあるの、あたし妊娠したみたいなの。子供がで
きたらしいのよ、ついに」
「・・・」
「やっとよ、やっと。ああ、うれしい。これで約束通り姉さんと一緒に
出産できるわね。覚えてるでしょ、一緒に産めたらいいねって話し合った
の。姉さんは先に妊娠したけど、あたしはなかなかできなかった。けど、
今日病院にいったら、オメデタだって!やったー!ねえ、聞いてる?姉さ
ん、おめでとうぐらい言ってよ」
「それイヤミ?」
「なに言ってるのよ姉さん、何かあったの?」
「母さんから聞いてないの?」
「何のこと?」
「本当に知らないの? それで電話してきたのかと思ったわ」
「何よ、どうしたの? 何があったの?」
「・・・ふふ・・・」
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闇の中で姉は笑った。気味悪い程楽しそうに。自嘲の笑いで。そうして
こう吐きすてた。
「あたし流産したのよ」
リサは頭をひっぱたかれたのかと思った。
目がプッシュボタンを見つめたまま動かなくなった。
周りの雑踏が再び
耳に流れ込んでくるまでどのくらい時間がたったろう。
姉はしずかに、
まるで病院の疲れ切った受け付けが患者に愛想なく料金
を告げるときのように言葉をついだ。
「今から入院するの。たまたま荷物を取りに来たときに電話してくるな
んて、リサはやっぱり気が利く妹だわ、しかも他人の心を逆なでするよう
な嬉しいネタでなんて、感謝感激よ。切っていいかしら?」
「姉さん、あたし・・・」
電話は機械的な信号にとって変わった。
リサにとっての最高に幸せな一日が、
最低の一日になった瞬間でもあっ
た。
そのまま指がやけどしそうなほどタバコを持っていた。
いつもならさっさと捨てたタバコが、
その時やけにリサの心をつかんで
離さなかった。
タバコは灰になってリサの指の間でなだらかな弧を描いていた。
まるでみじめな自分のようだった。
なだめてやりたい気がして、
そっと動かした瞬間灰は根元からボソッと
路面に落ちていった。
風がすぐさまこなごなにした。
「あのォー、いいですかァ」
あまりに長い間、
受話器を握っていたために後でならんでいた営業風の
男性が声をかけてきた。
リサは我に帰って受話器を置いて去ろうとしたがふと思い返すと男性に
ごめんなさいと謝ってもう一件電話をかけた。
そこは呼びだし音ばかりで誰もでなかった。
3回かけなおしてカードを抜くとお義理に男に頭を下げてその場を立ち
去った。
不愉快そうににらみつける男の視線もリサにはいっこうに気に止まらな
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かった。
母さんはもう家を出てしまったんだわ。
リサは歩きながら混乱した考えにまかせて考えあぐねていた。
何が起こったのか詳しくはわからない。
だが何かとんでもないことが起こったのだ。
リサの喜びもふっとんでし
まいそうなほどのことが。
結婚して 2 年というものまったく子供ができなかった。
リサも望んでいたし、夫のシゲルは彼女以上に欲しがった。
そしてシゲル以上に彼の両親は孫の顔を見たがった。
その待望の子供がこのお腹の中に芽ぶいたのだ。
だがどうしてだろう混乱している。
リサは空を見上げた。
駅を囲むように高いビルが天に向けて立っていた。
その中のガラスの塔
のようにそそり立つビルの一角に太陽が反射していた。
電車が線路の上を騒がしく走り去っていく。
だれもかれもリサの妊娠の喜びを知らない。
姉の悲しみを知らない。
自分たちを取り残して世界は今日も何ら変わりなく動いている。
だが、
その活動している様そのものがリサのかき乱された心の様相を物
語っているかのようにバラバラだった。
いざこうして妊娠してみると、
今までの情熱がくるくると空回りして蒸
発していってしまう気がした。
妊娠したいという願い一筋でここまでこれたのに。
これからはいったい
何を心の支えにして、生活に張りを持たせればいいのだろう。
子供を無事出産し育てるということの実感も責任もわかない。
そして以前のあの懐妊への情熱がこれらへとって変わるのだとはとうて
い思えなかった。
なんだかつまらないわ、と思った。
私はこれから一生この子のことで悩まされ拘束されていくのでしょ。
確かに女に生まれた喜びなのかもしれないけれど、
周りの友人たちにも
自慢したいのだけれど、
なんだかそれと引き替えに途方もないものを失っ
てしまったのではないかしら。
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リサは今年 24 歳になった。
都立高校を卒業し信用金庫に入社した。
その間に簿記二級とスキューバーダイビングのライセンスをとった。
ユーミンが好きで、ピアノが好きで、幼稚園の保母さんになりたいと
思っていた。
あの頃、東幹久と風間トオルのファンで、ぜったいに自分はああいう男
性と結婚するんだと信じていた。
だが、保母の夢もともにかなわぬまま、友達の紹介でクマみたいなや
ぼったい男と結婚してしまった。
だが、夫は誰よりも優しい。
クマはクマでもクマのプーさんだと笑えば、
それが一番すてきなことな
のだと、自分では知っている。
そうそう、うちのクマのプーさんにも電話しなくちゃ。
「はい、田村ですけど」
オフィスでの夫はリサの知っている人物とはまるで違う声の張りをもっ
ていた。
リサは少し気おくれした。
いくら急用でも会社に電話するのはまずかったかしら。
「あ、あたし、リサです」
「なーんだ。どうした?」
「いま、忙しい?」
「うん、まあね」
「そう」
「何だよ」
そう言って夫は電話の向こうでタバコを吐き出した。
何だよと言われて話しだせるほどに落としめたくないわと思った。
でも話したい。
受け止められたい。
喜びをもって歓迎されたい。
私が抱いている混乱の中から輝きだけをえりすぐって取り上げてほし
い。
「あたし、子供ができたみたいなの」
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「ええ! なんだって?」
やったー! リサはこおどりしたいのを抑え静かにわざとボソボソと
言った。
そのほうが夫の大声が聞けるから。
「今日病院へ言ってきたの。そしたらお医者さんがオメデタですって」
夫はタバコをあわててもみ消してあやまって灰皿を床に落としてしまっ
たらしい。
周りのざわめきやため息の中で、
舌うちしてあやまっている声が聞こえ
る。
リサの想像以上にショックだったようでうれしかった。
愛を感じた。
「どうも失礼しました」
夫は間違って受話器をつかんでリサにまで社交的にあやまった。
リサはクスッッと笑った。
「えっ? ああ、オーオー!」
夫は何を言っているのか意味不明な声をたてている。
「子供か・・・それホント?」
「たぶんね」
「そうかあ・・・そうかあ・・・」
しきりになにか納得している。
「それでおまえは大丈夫か? 苦しくないか? 歩けるか?」
「歩けるわよ、病気じゃないもの」
リサは声をたてて笑った。
夫はリサが笑ったことで少し落ち着きをとりもどし、
笑いに交じってき
た。
「今どこにいるの?」
「駅の近く」
「これからどうするんだ」
「街をぷらぷらして帰るわ」
「そうか、気をつけろよ。おれもすぐに帰るから。寄り道すんなよ。車
に気をつけて。階段にもな、手すりをちゃんと握ってるんだぞ」
それ以上笑ったら失礼かもしれないとリサは思った。
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この人は本気で私を心配しているんだから。
「ええ、ちゃんと手すりをつかんで歩くわ、御心配なく」
「御心配なくって! おまえ・・・オレはおまえのこと!」
「ごめんごめん、御心配とてもありがとう。今日はギョーザ作って待っ
てるからね。早く帰ってきて」
夫の「うん」という小さな声が聞こえた。
この声は夫が満足している声だ。
頬を盛り上げ目を閉じながらうなずくいつもの姿が目に浮かんだ。
リサはそっと両手で受話を切った。
街の雑音が波のように押し寄せる。
電話の中に体を滑り込ませて夫のもとへと飛んでいきたいと思った。
本屋に寄ってマタニティー関連の本を何冊か買った。
デパートの屋上にいって開いて読んだ。
横で子供たちが遊んでいる。
母親たちはそれを見守りながら雑談していた。
ジュースを飲んで、帰りにスーパーに寄ってギョーザの皮、ブタのにき
肉とにらとキャベツとショーガを買った。
リサはギョーザをいつもより多く作った。
ご飯もたくさん炊いて、お味噌汁もいっぱい作った。
ワインも買ってカリンカリンに冷やしておいた。
けれどこうしたもの一切が無駄になった。
シゲルが電話をよこし、
レストランを予約したからそこで一緒にお祝い
の食事をしようと誘ってきたのだ。
青山にあるそのレストランはイタリアの家庭料理をたっぷりと楽しむこ
とができる。
二人がまだお互いに独身だったころからよく通ったお気に入りの店だっ
た。
待ち合わせの時間にちょうどシゲルは地下鉄の出口をかけ上ってきた。
真っ赤なバラの花束をふり回しながら。
「待った?」 リサの足元には口紅のついたタバコの吸い殻が 3 つころがっていた。
「ううん」
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Nippuku
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「急に呼び出して悪かったかな? たまには外で食事しようとおもって
さ。こんなおめでたい大事な話のときぐらい」
「あたしはいいけど、フリーザーは大変ね。もうこれ以上なにも入らな
いってほどギョーザを詰めこんだんから」
二人はこれでもかというほど食べた。
前菜からはじまってオニオンブレッド、店オリジナルの赤ワイン、魚肉
の盛られたピツァ。二人が笑いながら手で口を隠したのはイカスミスパ
ゲッティーを食べたためで、
なにしろ歯といわず口の中が真っ黒になった
からだ。
「まるでオニババみたいだな」
「あなただって、まるで下水管みたいよ」
「食べてるときにナニ言っているんだよ!」
二人は笑った。
あまりにくったくなく充分に笑ったので、
もう何を聞いてもこの喜びは
揺らぐことはないと自信が持てた。
「今回の流産で何回目だっけ」
「4 回じゃないかしら」
「姉さんはそれで大丈夫なの?」
「わからないわ、まだ連絡してないの」
「今してきたら、そこの電話で」
「今?」
「そう、早いほうがいいよ」
リサはあまり乗り気ではなかったが、
シゲルの言う通りだと思って黒革
のハンドバックをつかんで席を立った。
シゲルはタバコを取り出すと火をつけた。
そして煙をゆっくりと吐き出した。
リサのものごしの中に彼女の不安を感じていた。
姉妹の仲というものは自分にはうかがい知ることはできないけれど、
姉
にとって心待ちにしていた赤ちゃんがまた流産してしまった。
その心痛は
いかかばかりか、推し量ることすらできない。そしてそれは妹にもつらい
思いなのだろう。
ボックスの中でリサが身をこわばらせて受話器を握っている。
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Nippuku
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込み上げてくるものをこらえるかのようにときおり目を閉じて。
まるで荘厳な音楽を聞きながら祈る殉強者のよう にシゲルには見えた。
リサ、おまえはなにも悪くはないのだから。姉の痛みを自分のものとす
ることはないのだぞ。
それどころかおまえは今が大事な身体なんだから。
それでなくても楽し
く悩みなく生活していてほしいのに。
長電話だった。その間にテーブルの上の皿はすべて下げられ、緑色をし
たムース状のケーキと茶色い泡の立ったエスプレッソが置かれた。
灰皿には吸い殻が 3 本追加され、4 本目はシゲルの口先で赤くとんがっ
て光っていた。
シゲルは待ちくたびれてイライラしだしていた。
そうして再び戻ってき
たリサは顔をこわばらせショックをかくしきれずに彼の前に座った。
シゲルは最後に大量のタバコの煙を吸い込むと灰皿にタバコを押し付け
ながら、で、どうだった?と訊ねた。
彼の口から煙がその言葉の息どおり切れ切れに吐かれテーブルの上に吹
きつけられた。
その煙の中でリサは言った。
「姉さんがガンらしいの」
「え!」
「子宮ガンなんだって。ショックで倒れちゃったらしいの」
こういったときの子宮という言葉は何と悲しい響きをもっているのだろ
う。
ましてやそこが病巣になるなんて、とシゲルは思った。
自分の肉体にはないパーツだけに、悲しむにせよ驚くにせよ、躊躇し
た。
「どうやらタバコが原因らしいの。流産も子宮ガンも」
シゲルはドキッとした。
今しも五本目のタバコに火をつけようとしたときだったというのもある
が、自分が喫煙者だということで責めらている気がした。
無意識に自分の喫煙が及ぼす姉の流産と子宮ガンの因果関係を不安気に
たどろうとした。
「あたし・・・どうしよう・・・」
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「どうしよって・・・」
どうもできないだろう、とシゲルは続けようとした。
だが、その言葉を飲み込んで、リサをなんとか力づけなくてはと思いあ
ぐねているうちに、彼女は両目から大きな涙粒を落としはじめていた。
シゲルは慌ててハンカチを取り出してリサにわたした。
リサは、ありがとうと言って目頭を押さえた。
リサはハンカチの向こうでいったんは少し気が楽になりかけたものの、
すぐに激しく泣き出した。
鼻をズルズルとすすり、
ハンカチをどけてシゲルに顔を向けたときには
もはや別人のように悲しみに充血していた。
「あたしは産みたい! 立派な赤ちゃんを産みたい! タバコ・・・やめる
わ!」
シゲルはそうだね、そうだね、と無言でうなずいた。
こんなときにどんな決意が有効だろう。
お願いだ。ただ悲しみに泣くのだけはやめてくれ。今日は二人にとって
の最高の日なのだから。
このバラはおまえを泣かせるためなんかに咲いていないんだから。
数日後、リサは姉の入院している大学病院へ見舞に行った。
もう何世紀も建っているのではないかと思わせるほど古ぼけたビルだっ
た。
暗くて陰気だった。
ひんやりとした廊下をリサは姉の病室へと急いだ。
いきかう病人は皆、次はリサおまえの番だぞ、と言っている気がした。
看護婦までもが、あなたもいつ病気になるか知りませんけれど、世話は
かけないでくださいね、と言っているようだった。
医者もたずねればすぐにでもリサの病名を二、
三挙げることができると
いった冷ややかな目で見ていませんけれど、世話はかけないでください
ね、と言っているようだった。
医者もたずねればすぐにでもリサの病名を二、
三挙げることができると
いった冷ややかな目で見ていソファーに腰掛けて映画の話をしているみた
いにゆったりとタバコを口にさし、抜いては白い煙を吐いた。
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リサは足を踏み込むことができなかった。
しばらくその場に立ちすくみ
二人を見つめていた。
まず母が気付き、声をあげた。
つづいて姉がリサを見つめた。
そして冷たい笑いを片方の頬に浮かべ空
虚な瞳でリサの下腹部を透かし見た。尋常な眼差しではなかった。
「あんた、なに今ごろのこのこ来て!」
母はタバコを荒々しくもみ消しながらリサに吐き捨てるように言った。
「ヨッちゃんがどんな思いでいるのかわからないの! 赤ちゃん死ん
じゃったのよ! 聞いてるの?さあ、そんなところにバカみたいに突っ
立ってないで、こっちに来て姉さんにあやまんなさい!」
「いいのよ母さん。この子はいつもこうなんだから。端で気をもむほう
がバカみちゃう。ありがとうね、リサ。もう帰っていいのよ」
姉の目は輝きを失っていた。マヒしていた。 だがリサを見つめたことで、悲しみがあふれ出てきた。
ぶるぶるとふるえ涙がにじみ出てきた。
それはリサの目も同じだった。
突然姉は高笑いをしだした。
さいわい喫煙室には他にだれもいなかったが誰かがもし彼女を見たら気
がふれたと思ったにちがいない。
姉の指の間で白い 1 本のタバコが真面目に煙をつむぎだしている。
母は困惑し、それを怒りにかえてリサをにらみつけた。
「あんた、姉さんを苦しめに来たの? 姉さん病気なのよ。言ったで
しょ」
「母さん、リサに子供ができたのよ」
母は一瞬顔をこわばらせ、
喜びがわきあがってくるのを待って再び蹴ち
らした。
「そうなの? リサ。母さんには何にも教えてくれないで。あんたって
子はいつもそう、何にも教えてくれない。母さんを親とも思っていないん
だ」 「そうじゃないわ、母さん。姉さんのことで大変だったから言えなかっ
たのよ。頃合を見てシゲルさんと一緒に報告に伺おうかと思っていたの
よ」
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「報告なんて、他人行儀な、どうせ夫婦の中の出来事なんだから、おば
あちゃんには関係ないんでしょうけどね。ああいやだ。鬼っ子だよ。姉さ
んは優しくていい子なのに不幸ばっかり続いて、
あんたみたいなろくでも
ない人間に子供が授かるんだから世の中はわからないわ」
「母さん、ろくでもない人間だから子供ができるのよ。そういう世の中
なのよ今は」
「そうねえ、ホントそう」
そう言うと母はひざの上にかかえていたハンドバックからタバコを取り
出すと、そそくさと火を付け肺に深く吸い込んだ。
「医者も医者だわ。タバコが原因だなんて。あたしはタバコを吸ってい
ながらあんたたち二人立派に育てたのに。うそばっかり。タバコがそんな
に悪いなら誰が子供なんか産めますか、父さんだって吸っていたわよ、死
ぬまで平気だった」
母は自分の心の中をかき乱すものと戦っていた。
タバコが身体によく
ないと彼女は知っている。だからタバコの有害を認められない。認めれば
自分が壊れてしまう。 そう考えながらタバコを吸っていた。
自分は悪くない、愚かでバカでもない。
タバコは皆が支持するだけの立派な存在理由があるのだ。
そして自分が禁煙できないし、
チャレンジする熱意もないことを人生と
いうものの無為感と重ね合せて相殺した。
人生はまるで 1 本のタバコのようになんにも残しはしないのだと。
「こっち来なさいよ、そんなところに突っ立てないで」
リサは二人の間に入りたくなかった。 タバコの煙の中に身を置くことも嫌だった。
だがかたくなにそれらを拒んで家族と不仲になることのほうが辛かっ
た。
リサはそっと息を止めて白く濁った煙の中には入っていった。
煙はリサの記憶を呼びもどした。正直、なつかしくて落ち着いた。
自分も吸いたくなった。
だが吸ってはいけない。
吸ったら負けだ。子供が死んでしまう。
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あたしは絶対に姉のようなハメには落ちたくない。
だが呼吸のたびにリサの心は揺らぐ。
そして自分ではタバコをくわえないけれども、
こうして喫煙者の横にい
るだけで少しだけれどもタバコの煙を吸っていられるので、満足した。
自分は吸ってはいないし、吸うことができた、と。
何を話したかなんて覚えていない。
母と姉は談笑しながら気がふれたようにタバコを貪っていた。
その横でリサは彼女らの吐き出す煙を間接的に吸うことばかり考え、
そ
して満足していた。
母はあまりに激しく吸う姉に、
「あんた、タバコ少し減らしたらどう?」
と尋ねた。
姉は車が一台横を通ったぐらいしか気を止めなかった。
母も姉もいつもよりよけい吸った。
吸わずにはいられなかった。
「あんたも吸う?」
姉はニヤニヤ笑いながらタバコをリサにすすめた。
「いらないわ、やめとく」
リサは断わった。だが母はリサをにらみつけ離そうとはしなかった。
「禁煙でもしてるの?」
ものすごくイヤな言いかたをした。
禁煙がまるで偽善者か何のように、弱虫のえーかっこしい。そんな侮蔑
があった。
「吸いなさいよ、無理しないで」
リサは無性に吸いたかった。 イライラしてどうしようにもなかった。
胸の中にため込んでいるものをタバコの煙で中和し吐き出してリラック
スしたかった。
だが赤ちゃんのために禁煙しなくては。
「やめとく」
「ホラ」
姉は自分の持っていたタバコケースを差し出して、器用に1本とび出さ
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せた。
頭でこばんでも目が釘付けだった。
リサはその誘惑に抗することができなかった。
さっと 1 本つまんで慣れた手つきでくわえると姉のライターで火をも
らった。
姉も母も、満足気だった。
やっと仲間と認め、打ち解けることを許したようだった。
いつ病院に行ったの? 予定日は? どこの病院で産むの? 母子手帳
はもらった? 仕事のほうはどうするの? リサはこれらの質問に注意深く答えた。
母と姉との太い絆に比べ自分の位置は微弱だ。
自分の役柄というものも決まっている。
それを少しでも逸脱するということは、
家族の関係をこわしてしまうと
いうことだ。
反逆児のレッテルを貼られてしまう。
誰もそれを望んではいない。
しかしリサはその与えられた役柄に本当は不満だった。
不快だった。
自分はそんなんじゃない。本当のあたしはもっとでっかくて自由で、明
るいんだ。
もっと大声を出せるし、いざとなれば腕力だって一番なんだ。母や姉に
負けはしない。
母は親身をよそおってイヤミがましく言った。
「あんたもタバコ吸ってるから流産するよ」
リサはぎくりとした。
「あんた、ジュース買ってきてよ、あたしも姉さんも喉かわいちゃった。
あんたかしおり一つもってこないんでしょ」
「持ってきたわ」
リサは紙袋を差し出した。中にはクッキーが入っていた。
「そんなのだめよ。気が利かないわね、相変わらず。さ、買ってきて
ジュース二つ。コーヒーの方がいいかしら。ねえ、どっち? なに飲む
の?」
- 88 -
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姉はほほえみながらコーヒーと母に告げた。
「じゃ、コーヒー二つね」
ウェイトレスに注文するイヤな客といった感じ。
リサは心の中が嵐にな
りそうなのを知った。
リサは一階の売店に入ってコーヒーを三つ買った。
喫煙室にはいると二人の姿はなく、
やせた男の老人が足を組んで吸って
いた。
寝間着姿で松葉杖をつきながら中年の男も入ってきた。
灰皿の上には姉と母とが吸っていた銘柄のタバコの吸い殻が何本もつき
刺さっていた。
そして脇に空の箱が口を開けたまま捨てられていた。
リサは無性にタバコが欲しくなった。
泣き出してしまいそうだったので自動販売機でタバコを買うと、
フィル
ムをはがす手ももどかしく素早くタバコに火をつけた。
「ひどいのよ、姉さんたら、あたしが妊娠したのを蔑んでるの」
「そんなことないさ」
リサはその日の夜、夫のシゲルを前にして思いのたけをぶつけた。
「そうよ、あなただって知っているでしょ、母さんだって姉さんばっか
りに優しくして」
「いいかげんにしろよ、そんなことオレに言ったってどうしようもない
だろ」
シゲルはタバコを我慢していた。
タバコが妊娠によくないことは知っていた。
もちろん自分の健康にもよくないということも。
だが自分のためというのでなく子供のためにタバコをさしひかえようと
思っていた。少なくとも家ではよそう。
だが、このイライラには勝てない。
リサのあまりの子供じみたダダに手をやいて、なだめる気すらしなく
なった。
シゲルは立ち上がってポケットからタバコを取り出した。
「ちょっと、なにするのよ、タバコはよしてよ、あたし妊娠してるのよ」
- 89 -
Nippuku
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シゲルはリサの激しさにびっくりした。
いつもならシゲルは腹をたてて反撃したかもしれない。
けれども今は争う気すらふっとんでしまった。
シゲルはそっとタバコをもとのポケットに戻した。
その夜二人は、布団の中で手を握りあったままで眠った。
妊娠。二人にとって初めての。そして待ちに待った。
男の子だろうか女の子だろうか。
名前は。
お金はどのくらいかかるのだろうか。
食べ物への注意、カルシウムはとらないと・・・。
二人はそれぞれ思いをめぐらした。
それは不安をかきたてることでもあったが、おおむね満たされていた。
充実感を与えてくれた。
自分はパパになるんだ。
ママになるのね。
どちらからともなく腕を引き合い、唇を重ね抱きあった。
リサの胸は心なしか張っているような気がした。
シゲルもいつものとは違った。
神聖な行為をしているように思えた。
リサもシゲルも激しく求めあった。
だが性的満足には互いに至らなかった。
強く求めあいすぎたのだろうか。
それを補うように終わった後もしばらくは互いに腕を放さなかった。
心が満たされていた。
シゲルはリサの腕をふりほどくとシャワーを浴び、
ホタル族よろしくベ
ランダでタバコを吸った。
夜が宝石のように輝いていた。
部屋の中からシゲルの名を呼ぶけだるく甘い声がした。
「こっち来て」
「今いくよ、これを吸い終わったら」
- 90 -
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シゲルは会社でタバコを吸っていた。ここなら誰にとがめられるでな
い。
ここで働く男たちの九割は喫煙者だし、女性に至っては全員吸ってい
る。
彼女らも結婚し子供を産むとなったら禁煙するかもしれないが、
今のと
ころはそんな行動にはでないだろうし、
オフィスを禁煙空間にしようなど
と大声で叫ぶようなこともありえない。
そもそも会社というストレス製造工場でタバコ以外にいったい何で発散
させればいいのだ。
もし自分がタバコをやめたいと思ってもこの環境ではまたすぐに吸いだ
てしまうにちがいない。
タバコをとるか会社をとるか。
本気で禁煙しようと思ったら会社を辞めるしかないのではないかと思っ
た。
少なくとも今は会社では吸うが家では吸わない、ということでいこう。
「田村さん、なんかこの頃タバコの量、増えたんじゃない?」
「そう?」
「なんか、ストレスあるんじゃないの?」
二人して一緒に産んで、一緒に幼稚園にいこうね。リサは姉が妊娠した
時にお祝いに行って互いに笑いながら約束したのを昨日のことのように思
い出した。
リサは入金勘定をしながらため息をついた。
「田村さん、これ数字合わないよ。書類にハンコも押し忘れてる。どう
しちゃったのよ。ミス多いよ、ここんとこ」
「ああ、すみません。ホントどうしちゃったのかしら、あたし。気をつ
けます」
「課長、ヤボなんだから、ねえ、田村さん。オンナには色々とあるのよ
ねェ」
「え? う、うん」
「色々って、ダンナとか?」
「バカじゃないの、課長」
リサと同期のリツコが長い髪を揺らして笑いころげていた。
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課長はなぜ自分が笑われているのか、まだ、わからないらしい。
きょとんとしてリツコを見ていたが、じき怒って行ってしまった。
リツコはリサを誘って女子トイレにいった。
「それはそうとリサ、ホント最近ヘンだよ、なにか心配ごとあんじゃな
い? タバコも吸わなくなったし、もしかして・・・」
リツコはピンクのポシェットからタバコを取り出し金のライターでカチ
ンと火をつけると、
煙を勢いよく吐きながら鏡ごしにリサに意味ありげな
目線を送って、
「デ、キ、タ、?」
とクチパクで言った。
リサはうなづいた。
リツコは目を細めて、おめでとおー、と強くささやいた。やったじゃん。
ついに。念願のママになんのよ。
「ねえ、ねえ、いつなの、予定日」
「3 月 20 日ごろ」
「へえ、男なの、女なの?」
「まだ、わかんないわよ」
「どっちがほしいの?」
「どっちでもいいわ、健康な子に産まれれ
ば」
そう言ってリサははたと思った。
子供がまだできなかった頃はシゲルと二人で、
やれ男の子がいいだの女
の子が欲しいだの言って、学者にしよう、スポーツマンにしようとたわい
のない会話をしていたけれど、いざこうして本当に妊娠してみると、まず
思うことは健康な子であってほしいといういつわらざる思いだった。
障害を持って産まれてくるのは正直かわいそうではないか。
自分も一生その子の面倒をみるのはつらいかもしれない。
その子に責任
を問われたら針のむしろだ。
マタニティーの本にも書いてあったけれど酒やタバコはつつしまなけれ
ば、添加物の多い食品も電子機器の近くもよくない。
ああ、なんだか色々と考えることが多くて頭が痛い。
「あたしも早く結婚しなくちゃー」
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Nippuku
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リツコは手洗い台の中にタバコの灰を指で規則正しく叩いて落としてい
た。
その度に小さくジュッと音をたてた。
「やっぱり女はこれよねえ」
ひとりでリツコは納得していた。
「会社、いつまで続けんの?」
「わかんない。働けるだけ働きたいけど。許されないかもね」
「許されないってことはないでしょ、今のご時勢で、ただ、たいがい辞
めちゃうわね。実際つらいよ。妊娠しながら働くの、だいいちラッシュア
ワーを乗り切れないでしょ。押しつぶされちゃって」
「そうね」
リサはまたひとつ頭の痛いネタが増えて少々感傷気味になった。
いったい妊娠って何?
こんなに大変なことだとは思わなかった。
まったくもう、誰かに代わってもらいたいくらいだわ。
「あたしがかわって妊娠したいわ。ねえ、とっかえっこしてよう、赤ちゃ
ん、あたしが代理妻したげる」
二人は笑った。
笑い声が響いたのか同僚のケイがあわてて入ってきて、
シーッと言って
外をさし、人さし指を両手に当てて角のかっこうをした。
「オレは吸いたいんだよ!」
その夜シゲルは帰宅の時から好戦的だった。
家のドアを開けるなり、ただいまの代わりに疲れた、と言ってシャツを
脱いだ。
服を脱いで風呂に入ったときも、けったるい、食卓についてハシを持つ
ときにも、会社を辞めたい、そしてとうとう食後にこう叫んでタバコを吸
い出してしまった。
仕事で疲れてんだよ、タバコは嗜好物なんだから、他人にとやかく言わ
れると頭に来る、と怒鳴り散らした。
今にもテーブルをひっくり返さんという勢いだ。
リサはうろたえた。
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何故シゲルがこうも攻撃的になったのかわからない。
この会社に勤めてそろそろ三年になる。
前の会社も三年で辞めたという。
もしかしたらこの人は三年くらいしかひとところにいられない人なのか
もしれない。
それでもリサはいっこうにかまわないと思った。
一緒に幸せに暮らせ
るなら、いくつ会社を代わったっていい。そのうちに肌の合う場所が見つ
かるだろう。
あるいは何か会社であったのだろうか。
上司と折り合いが悪かったのだろうか。
同僚とケンカしたのだろうか。
クマのプーさんは人あたりはいいのだがそのぶん内にためこんでしまう
ところがあるから、
リサやほんの一部の心を許せる人にだけヤツ当たりの
ような言動をしてしまうところがある。
甘えだといえばそれまでだが、完全な人間なんていやしない。
リサと欠点をおぎない合って支えあって生活できればそれが一番素敵な
ことだ。
「オレはタバコを吸うぞ!」
吸いたければ吸えばいい。
だがリサにはその発言がすなわち、
夫婦の亀裂を意味しているように聞
こえた。
「あたしの前ではやめてって言ってるでしょ」
「オレの勝手だろ」
「そうよ、あんたは手前勝手なのよ」
「おまえだって、吸わないでくれって言うことじたい自分勝手じゃない
か」
「どうしてよ、あたしのお腹には子供がいるのよ! あたしはそれだか
ら言ってるんでしょ」
「うるせえなぁ、大声出すことないだろ」
「大声出してるのはそっちでしょ!」
「そんなにタバコが嫌なら、おまえが外に出てればいいだろ」
「身重の女に外に出ろというの、あんたは」
- 94 -
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「身重もクソもあるか、外で仕事してるじゃないか」
「仕事しないと食っていけないからでしょ、あんたひとりの給料じゃ、
多すぎてやってけないのよ」
「なんだと、もう一度言ってみろよ!」
「あたしだって、好きで仕事してるんじゃないわ、あんたばっかり被害
者ヅラしないでよ」
「オレがいつ被害者ヅラしたよ! いつもメソメソしてんのはおまえだ
ろ、自分の力で乗り切ってみろよ、いつも他人に頼って生きてて、偉そう
なこと言うな。
子供子供って子供を盾にとって自分を守って正当化すんの
は人間のクズだ、最低の奴だ」
「うるさいわねえ!」
「うるさい!」
「うるさいわねえ!」
「うるさい!」
あと 2 回つづける。
後はどちらかがこらえきれずに笑い出すまでにらみ合いが続いた。
二人は愛し合っていた。
けれども互いにかかえている問題の重さに耐えかねていた。
シゲルがタバコを吸った。
それをリサは泣きながら見ていた。
シゲルは 2 口吸ってすぐにもみ消した。
思ったほど吸いたいわけではないのだということに気づいた。
味も決して美味しくはなかった。
ただわずかでも部屋に煙が流れ、香りが漂ったことでリサは動揺した。
自分の子宮がタバコで汚された気がした。と、同時にこのなつかしい香
りをいとおしく思い、また、喫煙しているシゲルを見て自分も無性に吸い
たくなった。
シゲルが、おまえも気にせず一服吸えよ、と優しくタバコを差し出した
なら、
そして肩を抱いて二人がお気に入りのドリカムの曲をかけてくれた
なら、自分はタバコを吸ったにちがいない、と思った。
「シゲルがなんだか遠いよ」
リサはまた泣いた。
- 95 -
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産婦人科医の沢藤友利子はリサを診た後で、
カルテにペンを走らせなが
らこう切り出してみた。
「あなた、本当はタバコを吸うんじゃない?」
病院では吸っているところを見たわけではないし、
アンケートにもタバ
コは吸っていないと記されていた。
「ええ、以前は吸っていました。でも、今は吸っていません。妊娠して
からはずっと」
「そう、それは懸命ね」
「どうしてですか?」
友利子は口の中で小さくうなずいて、医者としての態度を保ちつつ、応
えを、躊躇した。
二十歳を過ぎた人がタバコを吸ってとがめられるということはない。
タバコは健康によくないし、そのことはたぶん知っているだろう。
その上で、吸う吸わないは本人の判断だ。
極端な話、
そのために胎児がどんな疾患や疾病にかかろうとも成長が著
しく阻害されようとも、母親の意思にまかせられている。
つまりは、どんな結果になろうともそれを選択した本人に責任はある。
だが、
偏った情報や価値観をもってして洗脳するかのように無理に禁煙
をといたところでしかたない。
ただそうは言っても一人の人間として、
いっかいの医者として話をした
いときもあった。
「こういう仕事をしているとね、つい色々なことが見えなくなってしま
うの。たとえば人はなんで生きているのか、なんで愛しあうのか、本当の
幸せって何なのかっていうこと。
田村さんはどう? そういうこと考える
ことあるかしら?」
「ええ」
「あなたは今、幸せ? なんだかとてもつらそうよ、苦しそう。ひとり
ぼっちっていう感じ。それじゃあ、お腹の赤ちゃんがかわいそうだわ。ご
めんなさいね。勝手なこと言って」
「いいえ」
「ダンナさんとうまくいってないの?」
- 96 -
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「ええ」
「ホント?」
リサは我慢しきれずに泣き出した。
今の今までためていた悩みを打ち明けたいという衝動にかられて。
だが何を言ったらいいのかわからない。
何がどうスジになっているのかわからない。
入り組んでいて、複雑で、絶望的な気がした。
話してどうなるというものでもない。
もう何もかも手遅れで、
ただ結論に向かって走っていくしかないのでは
ないか。
姉のことを話した。
沢藤友利子は黙って聞いていた。
リサは自分も流産してしまうのではないかという不安を抱いているとい
うことを告白した。
女医は話しを全て聞いた後でゆっくりと落ち着いた声で話し始めた。
「お姉さん、とてもご不幸だったわね。さぞ、辛かったことでしょう。
あなたもお姉さんを愛するがゆえに自分を責めたてているのね。
もう、十分でしょ。自分を許してあげなきゃ。
あなたを見ていると禁煙って辛いことのよう。あなたを苦しめ、自由を
奪い、拘束し、人生の楽しみを色あせたものにしてしまっている。
禁煙ってホントはとっても楽しいものなのよ。
人生の中でものすごく重要なテーマでもあるし。
それにチャレンジする
ということも素晴しいこと。尊いことだわ。あなたはもっと胸を張ってい
いのよ。
愛をつらく感じる人もいる。
人を傷つけ自分も傷つくばかりの人もいる。
でも本来愛はもっと広く大きな、ステキなものでしょ。
ワクワクすることでしょ。
禁煙も同じ。
あなたはお腹の中の赤ちゃんを愛している? 夫を愛している? お姉
さんやお母さんも愛しているんじゃないかしら? そのことで苦しむ必要
なんてないのよ。
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ただ愛すればいいのよ。愛を伝え受けとめればいいの。
本当に伝えたいときに、伝えたいものが心の中に燃えているときに、タ
バコを吸ってしまうことではぐらかしているのかもしれないわ。
受けとめたくないものを受けとめ切れないときに、
タバコを吸ってごま
かしてしまっていないかしら。
思い返してみて。
でも、そうしたタバコのおかげで今までこれた人だし、否定せず受けと
めましょ。
あなたは 24 歳だったわね」
「ええ」
「何歳から吸っているの?」
「17 のときから」
「そう、するとざっと 7 年間ってとこね、1 日に何本吸うの?」
「1 箱です」
「20 本くらいね」
「ええ」
「7年間で1日20本だから、ざっと5万本吸ったわけね。やめられそう?」
「どうでしょう。
でも今先生のお話しを伺って少し心が楽になりました。
なんとかがんばってみます」
友利子はほほえんでうなずいた。
リサはその日以来、友利子に会うのが楽しみになった。
診療の度にタバコについて話し合った。
タバコをやめるという恐れを持っているという自分にも気づいた。
タバコを吸うということを罪悪視している自分にも気がついた。
吸っている自分も他の人も許せなかったのだ。
心の中で戦っていては自分というものが全体認められていないに等しい
ということもわかってきた。 禁煙することで、タバコを通して自分が見
えてくる。
わからずにいたものが、
カバーがはぎとられてあるがままそのものが現
われてくる。
禁煙を通して自分を学んでいる。心が成長していく気がした。
「お母さんがあなたの前でタバコを吸っているのをイメージしてみて、
- 98 -
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何を感じる?」
「イラだっているわ。あたしが何か悪いことをしたかのように、責めら
れている気がする。怖くて話しかけることができない」
リサは正直に友利子の質問に応えた。リサの目の前にはイライラしなが
らタバコをふかす母の姿がはっきりと写っていた。
友利子は静かに語りかけた。
「確かに子供時代からタバコが身近にあったという環境は、いいとは決
していえないわね。お父さんは?」
「離婚して会っていません」
「そう、お母さんはお父さんの分まで頑張ったわけね」
「ええ、そうです。小料理屋をひとりできりもりしていました」
「立派ね。もしあなたのお母さんが、あなたの健康に悪いからタバコは
やめるわ、と言ったら、あなたはどう思う?」
「え、そんなこと想像もできません」
「どうして?」
「だって、
あたしの為なんて一度も言ってもらったことないんですから。
なにもかもみんな姉さんの為ばかりでした。実際そう言っていましたし」
「そう。本当かどうかは私にはわからないけれど、あなたの話を聞くか
ぎりでは、あなたは相当そのことで傷ついているみたいね。
お姉さんもタバコを吸うんだったわね」
「ええ、相当に」
「それで流産してしまったんでしたっけ。お母さんもお姉さんのタバコ
を吸う。あなたも吸う。やめることへの恐れもある」
「きっと仲間に入りたかったんですね、愛されたかったんです」
「当然のことよ、あたりまえだわ、いたいけな少女が、親や姉から愛さ
れたいと思うのは自然なことでしょ」
女医がほほえんだ。
リサもその表情を見てほっと脱力した。
今まで心の中でわだかまっていたものが言葉にすることで整理されてお
さまっていく。
楽になっていく。
友利子は決して禁煙を無理じいしないものもリサには気にいった。
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Nippuku
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無理じいされたらそのストレスでつぶれてしまったかもしれない。
「吸うことを罪悪視しない方がいいと思うわ。吸っても吸わなくてもど
ちらでもいい。ただ自分は今、吸わないことを選択し、実行してるんだっ
て。楽しいからそうしているんだって。ハートで禁煙よ!」
友利子はウィンクした。
リサは禁煙する中で、自分を見つめる喜びを知った。
自分自身が自分自身のコントロールで変わっていくという体験をした。
エアロビクスに通っているように、心がシェイプアップしていく。
だらだらと間食していてる自分もいい。
寝っころがってテレビを観てい
ると楽だ。
それにひきかえエアロビは汗もかくしお金もかかるし間食への欲求も自
律的にならざるをえない。
どちらも一長一短だ。その意味で同等だ。
そして今、リサは心のエアロビを選択しているのだと自分で思った。
「あなたの為に禁煙するわ」
友利子はリサの母に成りかわって言った。
リサは眉をしかめた。
「あなたの為に禁煙するわ、リサ」
今度は、優しく語りかけた。
「お母さんは心を入れ替え、あなたを大切にする。そのために禁煙する
わ」
リサは熱いものがこみあげてきて目をとじた。
そうしてまぶたの間から何本もの涙を流して深呼吸しながら背筋を伸ば
した。
「どう? お母さんはあなたの為に禁煙するといっているけれど」
「そうね・・・」
リサはしばらく黙って心を整頓していた。
何を感じているのか。何を感じマイと抵抗しているのか。注意深く探っ
た。
それら全てに正直でありたい。
うそを偽りなくあるがままみとめてあげたい、とそう思った。
色々なことが頭をよぎり、それを考えると泣きながら笑ったりもした。
- 100 -
Nippuku
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そして女医に打ち明けた。
「ええそうね、うれしい。けれどもなんだか禁煙の責任をあたしに転嫁
しているみたいで不快でもあるわね。
あたしは母にあたしの理由でなにかしてほしかった。大切にしてほし
かった。優しくしてほしかった。でもそんなことされたことなかったか
ら」
「ホントウに? これっぽっちも?」
「少しはあったけど、あたしが望むほどには愛情をもらえなかったので
しょ、今も欲しがっているのね。子供みたいに」
「子供みたいじゃいけない」
「あたしお母さんになるのよ、もう 24 歳だし」
「そんなこと聞いてないわ、子供みたいじゃいけない?」
「いけなくないわ、ちっとも」
リサは笑いながら、熱く泣いた。
そしてハンカチで顔をおおいながら、母さん、と小さく叫んだ。
「あなたもお腹の子のお母さんになるのだけれど、
その子供に向かって、
あなたの為に禁煙するわ、といってみて。あなたを愛しているから、あな
たの為にママは禁煙する、と」
リサはお腹にてを当てて、そうつぶやいた。お腹がそのとき動いた気が
した。
「動いたわ! 今、お腹が動いた。赤ちゃんが動いた、わかるのかし
ら!」
「わかるわよ! 赤ちゃんもあなたを愛しているんですもの。ずっと一
緒に居るんですもの。
耳だって目だって手や足も胸もみんなしっかり働い
ているのよ!」
「ええ」
「何言ってるかわかる? あなたが禁煙することに」
リサは両手をふくらんだお腹にあてて、
目を閉じ以前にも増して熱心に
心を集中させた。
「ありがとうって言ってる。うれしいって。でも、ママはママの理由で
禁煙してほしいって言ってる。
自分はただ黙ってそれにしたがっているだ
けだって、しかも自分を負担に感じないでほしいって」
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「そう、あなたはステキな子供を持ったわね」
「ありがとう」
リサと女医の沢藤は抱きあって喜びをわかちあった。 リサは少しずつママになることのなんたるかを学びはじめているという
実感を得てきた。
子供はもうすでにあたしのお腹の中で生きていて、学んでいる。
成長している。ものすごいパワーで、ものすごい早さで。
あたしも学びたい。成長したい。
そして無事出産したときに、
この子と一緒に生命の喜びを感じとれるだ
けの人間になっていたい。
「子供は皆天才。無垢で、愛そのもの。でも親であるわれわれは、親と
は何であるのかを学ばねばならないの。
学んではじめて親になるんですも
の。いわば子に教えられる。子に育てられるとも言えるわね」
リサは女医の言葉を思いかえした。
そうか、こうした一切があたしという一個の人間の成長過程なのか。
「オレは吸うぞ」
シゲルはその夜も食卓でタバコを取り出した。
最近は週のうち何度かこうしたことがある。
それはきまって会社で嫌なことがあったり、
仕事がうまくいかなかった
ことで心がとても疲れてしまったときだ。
「いいわよ、もちろん。気にしないで。あなたが楽になるんなら。でも
いちいちあたしに報告して許しを得なくてもいいのよ」
「許しを得てなんかいないさ。おまえがタバコをやめてるから気をつ
かってるんだ」
「ありがと」
そう言ってリサは立ち上がり窓のところへ行って窓を全開にする。
カー
テンが大きく揺れた。
「寒いよ!」
「そう?」
リサは夜空を見上げている。
「寒いよ、閉めろよ!」
- 102 -
Nippuku
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リサはバタンと音を立てて閉めた。
「ダダッ子みたい。でも、しかたないわね、それがあなたですもの」
シゲルはキョトンとしている。
いつもならケンカになるであろうところ
がケンカにならない。
「あたしもシゲルが吸っているところを見ちゃうと吸いたくなっちゃう
な。やっぱり。でもあたしは吸わないから、この子と一緒に散歩にでるわ。
留守番たのむわね。三十分くらいだけど、その間シゲルは独身に戻れるの
よ」
そう言うと、タバコを指にはさんだまま茫然としているシゲルを残し
て、底の厚い運動靴を履くとリサは表に出た。
夜気はさわやかだった。
自分がいましがた言った言葉を思いかえしてみた。
シゲルを傷つけなかっただろうか。
自分を傷つけなかったろうか。
お腹の子を傷つけなかったろうか。
何度も何度も点検して、納得しながら夜の道を歩いた。
「ママはパパを傷つけませんでしたか? ママを傷つけませんでした
か? あなたのことを傷つけませんでしたか?」
犬が鳴いている。電車が走っている。
「聞こえますか? 犬さんです。あれは電車さんです」
家々の窓から光があふれ、
家族がテレビを観たり食事をしたり思い思い
に過ごしている。
いいなあと思った。
シゲルはこんな風景を毎日観ながら帰ってくるのかと思った。
そうしたことをみんなお腹の赤ちゃんに報告した。
話しかけて赤ちゃんから送ってくるテレパシーを受け取めた。
空には星がまたたいていて、
見上げていたら涙があふれでてしかたがな
かった。
何かわけもわからずうれしかった。
心が満たされていた。
シゲルを愛しているという実感があった。
町内を一周して帰ってきたらシゲルが家の前で立って待っていた。
- 103 -
Nippuku
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「どこいってたんだ、心配したぞ、もう」
彼の背中を見ながら家に入った。
「独身どうだった?」
「さびしかったよ!」
リサはクスッと笑った。
「赤ちゃん、順調よ」
沢藤は診察を終えてリサにそう伝えた。
「どう、最近は」
「ええ、充実しています。毎日が輝いて、もう見えるもの聞くもの皆に
感動しています」
「そう、それは良かった。それが一番赤ちゃんの為にもいいのよ、ダン
ナさんとはどう仲いい?」
「ええ、なんだか最近少し変わっちゃて自分もタバコやめるなんて言い
出したんです」
「へえ、それはそれは、良かったじゃない」
「ええ、でもどっちでもいいんです。そうでも思わないと身がもたない
でしょ」
二人は笑った。
女医はリサの成長をまぶしく思った。
自分もこんな時代があったのだ。
「きっと、あなたを心から尊敬しているんじゃないかしら、お姉さんは
その後どう?」
「摘出手術をしてもう退院しました」
「そう」
友利子は見たこともないリサの姉を思った。
死産しその上もう二度と子を産めなくなった女の悲しみは、
どんな海よ
りも深い。
「お姉さんに力を落とさないように言ってね」
「ハイ」
友利子は本棚から本を一冊取り出してリサにメモをするように言った。
同じ様な境遇にある女性のための力づけの本だった。
そうした話題にのぼったせいだろうか、
家に帰ると姉からハガキが届い
- 104 -
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てた。
『前略、リサ様、その後おかわりありませんか、退院の際は色々とあり
がとう。おかげで大変たすかりました。
ところで、あまりいい話ではないのですが、私ども、昭治さんと離婚す
ることになりました。色々話し合った末のことですのでしかたありませ
ん。名字は元に戻すつもりです。さっそく働き出ねばならなくなりまし
た。気分転換にいいかもしれません。しばらくは実家にいそうろうさせろ
もらおうかと思っています。当分どさくさが続くかと思われますが、なん
とか乗り切ってみせます。というわけですので。よろしく。
吉恵 追伸、タバコはやめられません』
リサは胸が痛かった。
ドラキュラが木のクイで心臓を打ち抜かれるのもこんな感じなのだろう
かとふと思った。
病院の喫煙室で母と二人で気がふれたように吸っていた情景が鮮明によ
みがえってきた。
シゲルの場合、彼がタバコをやめると言い出したとき、嬉しかったけれ
ど、同時に当然だという思いもあった。
女医の前であんなことを言ったけれど、
やっぱり一刻も早く禁煙して欲
しかった。
ところが姉はタバコをやめられないという。
子供を失ってもまだタバコから縁を切れない。いや、むしろもうひらき
なおって吸っているのかもしれない、自暴自棄になって。
だが、こうしたことを書いてくるということ自体、姉は心のどかでタバ
コをやめたがっているのではないか、
リサに助けを求めているのではない
かと思った。
そう思うとリサはいてもたってもいられなかった。
姉がいじらしかっ
た。
たった一人の血をわけた姉なのだから。
リサはさっそく次の日実家に寄った。
- 105 -
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姉はリサを見て、何をしに来たのか全くわからない、という顔をしてい
た。
自分は手紙など書いていないし、
だいいちリサに心配されるような身の
上ではない、と。
だがそんな演技もすぐに消えうせた。
ほどなくうちとけるとリサのまえで吉恵はさめざめと泣いた。
母も泣いた。
リサも泣かずにはいられなかった。
「あんまりだよ、昭治さんも薄情だ。子供ができないとなったら、おん
出して、自分だけ知らんぷりして、人の皮かぶった鬼だ」
「やめてよ母さん、あの人の悪口言うの!
もう終わったんだから!」
「だって、おまえ」
「やめて! やめてったら」
リサはまた自分の入る余地のないのに困惑した。
悲しみすら二人から
おこぼれをもらっているみたいだ。
じき二人は泣くことにも疲れると、
流した涙の分の水分を補給するかの
ようにお茶を飲んだ。
そしてどちらからともなくタバコを吸いだした。
リサはこの時ほどタバコを吸わなくなってよかったと思ったことはな
かった。
禁煙は幸せへの切符のような気がした。
人間は変わらない、かたくななまでにカラを守り通す。
姉や母を見ているとそう思った。
姉も母も何かのきっかけがあってタバコを吸いはじめたのだろう。
何かへのあこがれがあったのかもしれない。
愛する人に勧められたのかもしれない。
誰もがそうであるかのように最初の一口にはイガラッぽくて苦かった。
けれどそれを何度か我慢して吸い続けるうちにやめられなくなってし
まった。
タバコを覚えたおかげで、
母は男性に互して仕事をするようになったの
かもしれない。 - 106 -
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姉は人生を楽しくすることを学びたかったのかもしれない。
セクシーにみられたり、
大人に扱われたりしたことに喜びを感じていた
のかもしれない。
あたしもそうだった。
家に帰りたくなくて、早く大人になって家から出て自立したかった。
タバコはそうした夢を実現させる手がかりだったような気がする。
初めて友達の家で吸ったとき、
自分はもう大人になっていたのだと気付
いた。
もう後戻りできない区切り線を引いたのだとそんな気がした。
あの日以来あたしは吸い続けた。
何のために。今は結婚して、子供もできた。
いったいこの幸せを得るためのどこにタバコが必要だったのだろう。
あたしが女であるということをタバコを使ってどうしてアピールする必
要があったのだろう。
孤独だったのだ。
とほうもなく絶望的なまでにひとりぼっちだった。
自分をなぐさめる方法をまずは手当りしだいに探すしかなかった。
そのひとつがタバコだった。
タバコはあたしをなぐさめた。
現実を遠くおしやってくれた。
女優のように装う喜びを与えてくれた。
みんなどれもこれも実態のない遊びばかりだったのかもしれない。
リサは二人を見ていて激しい嫌悪をもよおした。
唾を吐きかけ棒きれ
で何度も叩きたい衝動にかられた。
ぐちゃぐちゃになるまでなぐったらタバコのヤニに染まった茶色く臭い
血が流れ出てくるだろう。
と同時にリサは今までにないほどの喫煙欲求におそわれた。
吸いたかった。物凄く。
口が求めた。舌や歯、のどが肺が指がはげしくタバコを求めた。
タバコがふるえ、頭から血の気が引いてきた。
そのくせ妙に頭は冴えわたった。
つばをごくりと飲み込んで姉と母が吸うタバコを睨みつけた。
身悶えが
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止まらなかった。
そのとき、これが自分にとっての愛の原点なのだと悟った。
涙が溢れてきた。
妊娠が情緒を少し不安定にしているのかもしれない。
でも涙が止まらな
い。
心はいつも本当のことしか叫べない。
あたしはもうキャンセルはしたくないんだ。
リサはゆらめく混沌の中から一握りの確かな輝きをつかんだ。
「母さん、姉さん、あたしの正直な想いをきいてくれる?」
二人は驚きを隠すことなくリサを見た。
リサはもはやうろたえていた自分を思い出せないほどにまで明確な意識
になっていた。
「あたしは母さんに長生きしてほしい。 今まで女手ひとつであたしたちを育ててくれて本当に心から感謝してい
る。
母さんがタバコを吸っているのを見るのはとても辛かったし、
今もとて
も辛いわ。
母さんがタバコを吸うたびにあたしは母さんに生活の負担をかけている
気がして、その罪の意識で心が張り裂けそうだった。
死にたかった。
あたしが死ねば、その分食費は浮くのだから。
でもおかげさまでこうして幸せに結婚することができました。
だからもう母さんには心配をかけたくない。
お礼がしたい。
だからタバコをやめて長生きしてください。
姉さん、
あたしは姉さんにあこがれてタバコを吸っていたのかもしれな
い。
姉さんはきれいで、素敵だった。
セーラー服を着て母さんに内緒でタバコを吸っているのを見たときの衝
撃は忘れられない。
あたし一人取り残された気がした。
一日も早く姉さんみたいになりたかった。
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でも姉さんは先に結婚し、また置いていかれた。 あたしも結婚し、よ
うやく同じスタートラインにたどりつけて、
さあいよいよってときにこん
なことになっちゃった。
一緒に産んでいっきに二人の孫を見せて母さんをよろこばせようって二
人して誓いあったのに。
でも姉さんはこりずにタバコを吸っている。
そんなのちっともカッコよくないんだってあたしは気付いた。
姉さんのカッコよさはそんなタバコを吸っていることではなくて、
自分
の人生を生きているその凛々しさの中にあったのだと気付いた。
姉さん、自分を投げ出さないで。
二人とも心と身体の為にタバコをやめてほしいと、あたしは思ってい
る」
最後は涙で声にならなかった。
リサは正座して両手でひざをにぎりしめながら、一語一語告げた。
もうキャンセルはイヤだ。
本当のことを言わないかわりにタバコを吸うなんてイヤだ。そう思っ
た。
自分の心にキャンセルしないで言葉をしゃべるというのは大変なことだ
と知った。
何を言っているんだか頭の中がボーっとして来た。
でもそれはいびつだった心がのびのびと背筋をのばしていく過程なのだ
と知った。
気持ちよかった。
自分がまた好きになれた。
涙を拭ってリサは言った。
「禁煙を押し付けちゃったかしら?」
「ありがと」
姉と母の声は静かで明るかった。
予定日より1週間遅れてリサは男の子を無事出産した。
陣痛から分娩まで早かった。
けれどもリサには何万年にも思えた。
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その間に宇宙が始まって現在に至った。
大声を上げ、わめき、いきみ、身体の中が割れる、ああっと思ったら光
に包まれた。
3016 g、大きな子だ。
シゲルがへその緒を切った。
感動で泣いていた。
涙が幾すじも川になって白いマスクにしみこんでいた。
男の子は元気よく泣くともう一度安らかな心境へと戻りたいかのように
顔をしかめ、両手で小さく虚空をかき、ほどなくリサの豊かな乳房をつか
むとむしゃぶりついた。
誰も教えもしないのに力づよく乳を吸った。
友利子はその一部始終をほほえましく見守っていた。 男の子は安心してリサの胸の中でじき眠りについた。
リサもしばらくして胎盤が出たのを確かめると眠りについた。
暖かい春の始まりだった。
おわり
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禁煙サポーター向け小冊子
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【はじめに】
このパンフレットは、妊婦のパートナーの為に編纂されました。
ここで言う『パートナー』とは、パパであったりその他の家族や同居者
を指します。
つまり、妊婦の禁煙を家庭でサポートする人々を対象にしているので
す。
喫煙者にとって禁煙とは、たいへんに重要な課題です。
ましてや妊婦にとっては、胎児の健康も含め、最も重要な克服すべき問
題であると言えます。
早急に、確実に、禁煙へとシフトしていかなくてはいけません。
そのためには、是非とも家族の協力が必要なのです。
タバコの弊害は、喫煙者本人によるものもちろんですが、周囲での喫煙
も有害であり、
むしろ毒性は他人の喫煙による副流煙の方が数段に上なの
です。しかも、妊婦というのはデリケートで特別な生理の状態にあるた
め、日によって、あるいはちょっとした天気や気温の変化、環境の善し悪
しによって、その状態に作用していきます。
腫物にさわるような対応はむしろマイナスですが、
最低限タバコのない
環境作りに協力するよう心がけてください。
出産後も乳幼児にはタバコがたいへん有害である、
という報告がありま
す。
ですから、妊娠中だけにととまらず、この期に家庭からタバコを一切追
放するのだという意識でいてください。
タバコは、喫煙者の肉体および精神を蝕んでいますし、確実に死に結び
つきます。
そして忘れてならないのは、喫煙は胎児を殺すに充分だということで
す。
毎年多くの胎児や乳幼児が、明らかにタバコの直接的・間接的弊害に
よって死亡しています。
胎児や乳幼児を死亡させないでください。
そのために、今、妊婦はこのプログラムを受けて、自身の成長にチャレ
ンジしています。
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是非とも大いなる理解と愛情とサポートを与えてあげてください。
【ママへのサポート】
まず、重要な点を確認して頂きたいと思います。
一つは、ママは妊娠しているということ。
二つは、ママは禁煙しているということ。
これらのことは、そのメカニズムや驚異を深く理解されていないため、
往々にして軽視されたりします。
妊娠も禁煙も、人生のうちで大変に重要な課題です。
あなどることも、手を抜くことも許されません。
真剣に人生に取り組み、
生活のスタイルを変えようとチャレンジしてい
るママにとって、周囲の理解は不可欠ですし、より深い豊かな愛情を必要
としています。
妊娠も禁煙も、特殊であるということで、いきおい孤立へと追い込まれ
てしまいます。孤立させないでください。
ママへのサポートとは、
そうした精神的なものを含めた一切の援助を意
味します。
是非とも、相互理解と健全なあかちゃんの出産・育児に協力してくださ
い。
【妊娠について】
妊娠ということのメカニズムを簡単に説明します。
妊娠とは、卵子と精子の結合によって生まれた胎児の、母胎内での生育
のことを言います。
受胎は、子宮の胎盤という部位に着床した状態を言い、以後、出産まで
の期間をそこで過ごします。
受胎から 27 週までの状態を『胎芽』といい、まだほんの数センチの大
きさですが、最近の研究では、すでに聴覚・視覚・触覚などさまざまな感
覚がほとんど出来上がっていると言われています。
28週から出産後7日までを周産期といい、母子ともに注意を要する期間
であると言われています。
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Nippuku
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ママが現在、第何週目であるのか、そして胎児はどの位の発達状態にあ
るのか、そしてその頃の母子にはどういったものが必要であり、また避け
なければならないものは何なのかといったことなどを、
充分に理解してお
く必要があります。
特にパパとママの信頼関係、
コミュニケーションといったことは胎児の
育成に最も顕著に影響を与えるもののうちの一つですから、
明確な意識を
もって親密な信頼関係を育てていってください。
妊婦の中には、つわりがひどく、特にタバコの煙に対して非常に嫌悪を
もよおす場合が多いものです。
(つわりがひどくなくても、タバコの煙は
他人にとって不快なものですが)
そのように妊娠というものが非常にデリ
ケートであって、他のもの、特に男性にとっては無条件に理解することの
困難な生理かもしれませんので、この期を利用して、人間の、生命の神秘
を学び、その尊厳を謙虚に受け止めてください。
妊娠中はすべての時期において注意を要しますが、
特に妊娠初期には流
産、出産前後には母子の健康維持に特に注意を向ける必要があります。
【禁煙について】
禁煙の困難は、むしろその困難をあまり理解されていない、ということ
にも起因します。
つまり「禁煙は簡単である」そして「すぐに失敗してしまうものだ。仕
方ない。それでもいいのだ。」と思っているということです。
禁煙は決して簡単ではありませんし、失敗しない人も沢山います。
禁煙をあなどり、自律意識の低い状態では、いつまでたっても禁煙へと
ライフスタイルをシフトすることはできません。
タバコはアルコールと並んで、最も危険に満ちたものの一つであり、人
間が作り出した特異な矛盾に満ちた嗜好品でもあります。
タバコは、
それを吸わない人たちにとっては何の意味も価値もないもの
ですが、いざ常習しだすと、生活のあらゆるものに優先する必需品となっ
てしまいます。
アルコール中毒患者と同じに、
タバコに対して中毒であると認めるとこ
ろからしか解決の糸口はないのだ、ということが現実です。
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精神に破綻をきたすほどのアルコール中毒患者は、
死ぬまで直すという
ことができません。
何十年にもわたって禁酒してきたにもかかわらず、
たった一個のウイス
キーボンボンでまたアルコール中毒へと真っ逆さまに落ちていったという
人もいます。かれらは、日々が戦いです。一口くらい、いいや、ではダメ
なのです。そういう戦いを通して人生を学ばざるを得ないほど、破綻して
いたのだと言えます。
タバコの中毒患者もこれと同じです。
何年も禁煙していても、何かの拍子にちょっと一服したら最後、二週間
以内に九九%の人間が以前、
もしくは以前以上の喫煙習慣に入っていくと
いう調査報告があります。
喫煙がどれほど健康に悪いか、ということを理解する必要があります。
そしてその習慣性が、生活をどの程度破綻し、どの位の優先順位にタバ
コが置かれているのか、冷静に観察する必要があります。
喫煙習慣のあった妊婦が、タバコの弊害を知りつつも、なおも喫煙を続
けている場合、彼女の優先順位では、赤ちゃんよりもタバコが優先である
といわざるをえませんし、実際彼女にとっては、生活全般においてたぶん
何よりタバコが優先であるでしょう。
しかも、悲劇的なのは、本人にはその優先順位の事実も、そのことのも
つ残酷な意味も全く理解されていない、ということなのです。
喫煙者はどんなに疲労していても、
眠たくてもタバコが吸いたいとなれ
ば買い物にいきます。
喫煙者はどんなにお金がなくとも、食事を抜いてでも、タバコが吸いた
いとなればタバコを買ってしまいます。
赤ちゃんがお腹を空かせて泣いていても、ミルクを買わずにタバコを
買ってしまう母親もいます。
かれらは、何に対してもタバコ優先です。
喫煙者はイライラやストレスに対して喫煙ということで対処します。
そ
うすることで一時緩和されたような気がするので、そうして続けていま
す。しかし、実際は逆です。
喫煙者が一服した気持ちのいい状態とは、
タバコの習慣のない人々の普
通の状態と同じ状態であって、
じき去っていき一本を吸い終わらないうち
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Nippuku
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にニコチンで独特な軽い陶酔状態になります。
その時に喫煙者はタバコを消します。
その状態でしばらく過ぎ、なだらかに不快になっていって、再び喫煙欲
求が起こるときに不快の絶頂を迎え、喫煙します。
その繰り返しです。
タバコの間隔は一定であるとも言われていますし、
実際ほとんどの喫煙
者は一日の本数が決まっています。
タバコ会社は、さわやかさや、爽快感や喜びといったものをアピールし
ています。
しかし、タバコにはそういったものはないどころか、全くの逆のイメー
ジです。
街や公共の場で見かける喫煙者は、実に自然に、リラックスしながら、
美味しそうにタバコを吸います。
ですが、タバコは自然でもなければ、リラックスもしませんし、美味し
くもありません。
そう錯覚させる魔力がタバコにはあるのだ、というだけです。
喫煙を続けるうちに、より高いタールやニコチン、よりにがい味のタバ
コへと移行していくということは、ほとんどの喫煙者が知っています。
そうして喫煙者本人たちだけが認めたがらないのですが、
喫煙は多くの
場合で死に直結しています。
こうした矛盾の中に、喫煙者は生きています。
ここでもう一度、
ママは妊娠しています。
そしてタバコを止めようとしています。
是非、応援してください。
【もしあなたがタバコを吸わない人なら】
もしあなたがタバコを吸わない人なら、
ママがいかに禁煙ということが
人生においての一大事業であるか、
ということを理解するのは大変かもし
れません。
タバコを一口でも吸ったことがあるならもちろん、
他の人が吸っている
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Nippuku
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のを側で嗅いだことがあるから分かるでしょうが、
タバコは全く苦しくて
臭くてイヤなものです。
側に一緒にいるだけで、気持ちが悪くなったり、吐きそうになったり、
頭痛になったりします。
そうした苦痛や不愉快を喫煙者は知りませんし、無視し続けてきまし
た。
それどころか、かれらはタバコが大好きなのです。
実に信じられないことかもしれませんが。
ですが健康はもちろん、
今日いろいろな公共施設や乗り物などで禁煙と
いうことが叫ばれるようになって、
かれらは遅まきながら自覚しだしてい
ます。
「嫌煙権」という形で広まったこの運動も、最近では徐々に浸透し、ま
た形を変えてきました。
施設や場所の管理者自身が、自主的に禁煙を打ち出してきたのです。
また喫煙者への禁煙へのシフトも多く見られ、
逆に喫煙者の若年化が進
んでいます。
十代の女性が最も増加しているとの報告もあります。
彼女たちは、将来結婚し、子供を産むのでしょうけれども、社会や未来
への不安から、子供を産むことに懐疑的であったりします。
いきおい刹那的、快楽優先的、自己中心的な価値観で対処していこうと
しています。
彼女たちの喫煙を支えている背景には、
こうした世相も色濃く反映して
いるのです。
ママがどういった経緯で喫煙するようになったかは別として、
今禁煙を
決意し、ライフスタイルを大きくシフトしようとしています。
喫煙者にとって、タバコは生活全般の中での最優先の「必需品」です。
中には食事を減らしてでもタバコを吸っていたいという女性や、
胎児が
癌で死んでしまってもいいからタバコを吸っているという妊婦もいます。
彼女らにとっては、タバコの方が大切なのです。そして恐ろしいのは、
これらは例外的な話というのではなくて、
潜在的には皆そうした可能性を
持っているということなのです。
これに打ち勝つにはタバコを吸ったことのない人には想像すらできない
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Nippuku
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苦しみや葛藤があるのです。
ママは、お腹の子供をこの上なく愛しています。
そして勇気をふるい禁煙にチャレンジしています。どうか理解し、相談
や話し相手になってあげてください。
タバコについての話を聞いてあげるというだけでも、随分違います。人
はしゃべると楽になったり、客観的に自分を見れたりします。
そしてママが末永くタバコから解放されるように力づけてあげてくださ
い。
人によって違いますが、
数日から数ヵ月間にわたってイライラしている
かもしれません。
以前ならその全てのイライラしたときに喫煙していたわ
けです。
そして周りの人に指摘されてみなければ、
自分がイライラしていたとい
うことも、
そしてそれがまさかタバコを止めたせいなのだとは気づかない
のです。
安易に自動販売機などで買えるからといって、
決してタバコを甘く見な
いでください。
そこら中に平気でタバコが存在しているからといって、
油断しないでく
ださい。
むしろママ以上に神経を使い、彼女の周りから喫煙環境を排除し、より
健康的な生活を送れるよう協力してあげてください。
ただしそのときに一番注意してほしいのは、
禁煙は彼女の自主的な選択
によって行われているので、
もし万が一喫煙を再開してしまったら否定せ
ず認め、許し受け入れてあげてください。
受け入れたくなくても、受け入れてください。
それほどに禁煙とは困難なものなのです。
意思が弱い、とか、妊婦のくせに、などとは絶対に攻撃してはいけませ
ん。
お腹の赤ちゃんを引き合いにだし、
「赤ちゃんが可哀相だ」とかなんだ
とか正しそうなことを言ってママを攻撃するのだけは絶対に止めてくださ
い。それこそ逆効果です。
赤ちゃんは、そうしたケンカを一部始終聞いています。そして自身を理
由にされたことで自分を責めたりもします。
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それよりも彼女がそのときに至るまでいかに努力したのかを、分かち
合ってください。
そして本人が、
再び自分の意志で禁煙にチャレンジし出すのを辛抱強く
待ってあげてください。
くれぐれも圧力をかけて催促をしないように。そうした「他人にやらさ
れた禁煙」は母子共に決していい結果を生みません。
彼女の魂の自浄力、運命の奇蹟を信じて、ただ愛してあげてください。
あなたの愛の力だけが、たぶんママを救える唯一の扉であるのだから。
その意味で、あなたも、愛する人が苦悩しているということで、愛とは
何かを学必要があるのです。
【もしあなたが喫煙者なら】
もしあなたが喫煙者なら、タバコを吸う人の気持ちは分かると思いま
す。
そして同時に、禁煙を誓った者の勇気を蔑んでいるかもしれません。
あなたは以前に、禁煙にチャレンジしたことがありますか?
たぶんほとんどの人が多かれ少なかれあるでしょう。
そしてあなたはそれに失敗している。
そのことであなたは禁煙がいかに無謀であるか、愚かなあがきである
か、を主張しているかもしれません。
でも、無謀なのは喫煙し続けることであり、愚かなのは喫煙者自身で
す。
禁煙とは、そうした「失敗者」たちの攻撃に会いやすいのです。
失敗するためのさまざまな間違った情報も与えられてしまいます。
失敗者たちは、あの手この手で失敗させようとします。
禁煙の成功者が純粋に脅威なのである、と精神科医は分析します。
ですから、少なくてもあなたは、いろいろな手だてをつかってママを失
敗させる様なことはしないでください。
たとえば「禁煙なんてどうせ続かないよ」と暗示でもかけるように言
う。
たとえば、彼女の前でタバコを美味しそうに吸う。ざま見ろ禁煙なんて
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馬鹿げたことをして、と言わんばかりに薄笑いを浮かべて。
あるいは「じゃあ、君に悪いから、別の場所で吸ってくるよ」と、一見
優しいことを言っているかのようで、実は「自分は君とは違った価値観と
行動をとるよ」
「僕はタバコを吸う」
「本当はここでのんびりと、だれに気
がねなく吸いたいのに、君のせいで、僕は別の場所へ移動しなくてはなら
ないんだ」
「君は自分の理由で自分をその場所に縛りつけているんだ」と
いったメッセージを投げつけていることになるわけです。
こうした迫害は、禁煙者には付き物です。
タバコを吸わない人は、タバコを吸う人に対しては、攻撃するかもしれ
ませんが、
間違っても禁煙しようとしている人に対してはそんなことはし
ません。
一方喫煙者同士は、双方が喫煙しているときには攻撃などしませんが、
いざどちらかが禁煙しようとなるととたんに攻撃しだします。
足を洗って、カタギになろうとする仲間の小指を、見せしめに落とす
人々と同じです。
喫煙者の禁煙者への攻撃は、陰湿で、際限がありません。
そして必ず「吸っているほうがいい」と言うことを言います。
あなたはそうしたことを、ママには決してしないでください。
彼女の前で吸うことももちろん、どこどこで吸ってくるだとか、タバコ
を目につきやすいところに置いておくだとか、
卑劣なことはしないように
してください。
あなたにできなかったことを、彼女はやりつつあります。尊敬こそ相応
しいのではありませんか。
相当に手厳しい口調になってしまいましたが、それもこれも、彼女の生
活環境の良化といった点では、
あなたの喫煙習慣は最大のネックであるこ
とに間違いはありません。
どうかあなたの愛で、彼女の自立をサポートしてあげてください。
【副流煙について】
タバコは着火して初めて用をなすのだけれども、
吸引しているときと吸
引せずにただ燻らしているときとでは火の温度がまったく違います。
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吸引しているときの温度は高温で、
そのためタールやニコチンがよりよ
く燃焼するのに比べ、ただくゆらしているだけでは燃焼が悪く、その分有
害な煙が流れ出るのです。
ためしに喫煙者が吸引した煙の色と灰皿などに置いて自然燃焼している
煙の色とを見てもらえれば一目瞭然ですが、前者は白く、後者は青い色を
しています。
つまり意外なことですが、喫煙している本人の煙よりも、周りにいて間
接的に吸引している煙のほうが格段に有害なのです。
この煙を「副流煙」といい、そうした形で身近な人の喫煙によってタバ
コの煙を吸い込むことを「受動喫煙」といいます。
つまり本人はまったく意識していなくでも、
喫煙している人と一緒にい
るだけで喫煙したことと同じになる、いえ、それ以上に有害な煙を吸い込
んでいることになる、ということです。
あなたが、無造作に吸っているとき、ママがその同じ空間に同席してい
たら、あなたが認める認めないに関わらず、意図するしないに関わらず、
彼女は受動喫煙をしていることになります。
胎児への悪影響も同程度またはそれ以上あると言わねばなりません。
妊婦の環境良化という点では、心すべき重要ポイントです。
【あなたも一緒に禁煙】
やはりベストな形は、夫婦や家族中が一緒に禁煙する、というもので
しょう。
環境を作るということではこれにまさるものはありません。
ですが、ここで注意したいのは、各人が自らの意志と責任において禁煙
を選択することが何よりの大前提でなくてはならないということです
「みんなが禁煙しているんだから、あなたもしなさい」
といったことをつい言いがちですが、
これでは本人の尊厳もなにもあり
ません。
タバコの害以前に、人間関係の弊害のほうが深刻です。
「タバコは良くない」ということが、相手の人格を無視し拘束する全く
正しい理由になってしまいます。
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タバコの弊害を自分の自律的な禁煙の選択に結び付けるならばいいので
すが、他人を服従させるための根拠にしてはなりません。
それらは似ていますが、待ったく逆の方向です。
おのおのが互いに立派な人間として独立し、
尊重し愛し合っているとい
う関係があって、更にその成長の一段階として、皆で禁煙と真面目に取り
組むということです。
ママは自分の意志で禁煙を選択しています。
多くのサポートを必要とし
ています。
そしてたぶん、あなたにも禁煙をしてほしいのではないでしょうか。
あなたは、禁煙する意志がありますか?
それは強制ではもちろんなくて、
たとえママ本人が禁煙に失敗し喫煙を
再開しだしたとしても、あなたはキ然として禁煙し続け、かつ彼女が再び
禁煙を選択するのを援助することを意味します。
ママ以上にママを愛し、ケアーする必要があります。あなたがあなた以
上にママに愛されたという事実があるように。
そのことまでをも含めて、
あなたが主体的に禁煙を選択するのを薦めま
す。
より大いなるものへと移行するチャンスとして、
この問題と真面目に辛
抱強く向かい合って頂きたいものです。
サマック教育センター
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