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Project Report
USER
株式会社IHI
PROFILE
株式会社IHI
本 社:東京都江東区豊洲3丁目1-1
創 業:1853年(嘉永6年)12月5日
大規模な生産管理システム再構築プロジェクトを入念な準備と的確な
提案で成功に導き、プロジェクトマネジメント能力を存分に発揮
設 立:1889年(明治22年)1月17日
資 本 金:957億円
事業内容:エネルギー・環境事業、ロジス
ティクス事業、輸送・原動機事業、
セキュリティ事業
1853年(嘉永6年)の創業以来、150年以上の長きにわたり日本の重工業を牽引してきた株式会社IHI。産業、社会を支えるプラント、
従業員数:7,670名(平成21年3月期)
船舶、航空エンジンから、身近な暮らしに役立つ設備まで多彩な製品を提供し、その分野は陸、海、空にとどまらず宇宙にまで広が
URL:http://www.ihi.co.jp/
る日本を代表する総合エンジニアリング企業です。
同社の航空宇宙事業本部では2000年よりSCM(Supply Chain Management)の実現を目指し、生産管理システムの再構築を進めて
います。計画系システムの構築を実現した第1期プロジェクトを経て、その仕上げとして実行系のシステム対応を目指す第2期プロ
ジェクトを2004年に立ち上げました。TISはIHIのシステム子会社、株式会社IHIエスキューブのもと、この第2期プロジェクトで大き
な役割を果たしました。
第2期プロジェクトのスタート
ム・インテグレータとしてTISが選ばれ、この第2期プロジェ
も解析と調査を主体的に行った。TISのこれらの活動が高く評
しっかりとした柱を構築することが重要であるというプロジェ
クトから新たに参加することになった。
価され、当初の予定であった計画系の「エンジン生産計画」開発
クトメンバーの認識のもと、IHI航空宇宙事業本部の各業務の
に加え、実行系の「社内製作管理」および「実行管理」のシステ
スペシャリストがプロジェクトの専任メンバーとして集められ
ム開発も任されることになった。
た。
「決められたルールの上で正しい財務データが確実に取得
IHI航空宇宙事業本部では、2000年以前までMRP(資材所要
積極的な提案と行動で信頼を獲得
量計画)をすべてホストコンピュータで処理していた。その後
ハードウェアとソフトウェアのサポート停止を受け、生産管理の
され、正しい経営指標へつなげることが、今回のプロジェクト
新システムへの移行を目指したのが第1期プロジェクトであっ
TISは第2期プロジェクト開始後、要件定義途中の2005年8月
た。しかし、当時流通していたパッケージ製品ではIHI航空宇
にプロジェクトへの参加打診があり、同年11月から正式メン
宙事業本部のニーズを満たすものがなく、最終的には自社開発
バーとして参画した。
「大規模プロジェクトをまとめるノウハウ
を行うことになった。3年後の2003年10月、第1 期プロジェク
に非常に共感を持ちました」
(山本氏)
。
トはカットオーバーしたが、当初の目標だったホストコンピュー
第2期プロジェクトにおけるシステム構築は、データベース
タ管理からの完全移行はならず、計画系部分の移行にとどまっ
サーバにAS400、フロントにWeb技術を採用したオープン系
た。それを受けて、第2期プロジェクトでは入出庫管理など実
システム開発という、非常に稀な組み合わせだった。TISはこ
行系の本格移行を目指し、2004年8月にプロジェクトがスター
のプロジェクトのため、工場生産管理に多くのノウハウを持つ
トした。翌年3月まで現状の問題点の洗い出しが行われ、その
同じITホールディングスグループのクオリカをメンバーに加え
中で各工場でのデータの点在、データ精度の低さなどが大きな
て体制を組んだ。TISのプロジェクトチームはWeb系の最新技
問題として露呈した。この解決に向け、当初の予想を大幅に超
術動向やそれに基づいたプロトタイプを作成、それらをドキュ
えるプロジェクト規模の拡大が必要となった。プロジェクト規
メントとしてまとめて展開するなど積極的なサポートと提案活
模拡大などに伴い、新たなパートナー選定が必要となり、生産
動を実施した。またAS400上のワークフローとして採用された
管理業務に明るくかつ、Web系システムの構築にも強いシステ
Webアプリケーションフレームワークの「Intra-mart」に関して
2001年
2002年
第1期プロジェクト
2003年
社内からは「そんなに制約が厳しいと融通が利かず、出荷に
てた長期計画となった。大規模プロジェクトの成否は、1本の
支障をきたす」という反発もあったが、これまでデータチェッ
C o m m e n t s
山本 和昭氏
正確なデータ蓄積で経営指標を
高品質で素晴らしい開発
TISの広範囲のサポートに感謝
今回のプロジェクトでは、現場によって不統
今回のプロジェクトは、従来の資産を置換し
TISさんには、実績を持つ工場系システムの
一だったデータフォーマットを見直し、正し
ながら周辺システムとの融合を図るという、
開発経験を基にした苦労話やプロジェクト推
マスタ∼所要量計算機能部分の拡充
い経営指標を得るための正確なデータ蓄積を
これまでに経験したことがないほど複雑で、非
進のポイントを伺い、非常に共感を持ちまし
・マルチソース/マルチパーツ機能など
目指しました。現場からは様々な反発もあり
常に大規模なプロジェクトになりました。その
た。今プロジェクトには欠かせない存在でし
各種「制約」・「権限」機能付加
ましたが、意志を貫き通したことが良い結果
ため、システムの大きな軸となるコンセプト作
た。担当以外のことでも相談すると様々な提
につながったと感じています。現在、現場か
りを重要視し検討に多くの時間を割きました。
案をしていただき、それもありがたかった。
・ToDoリスト、問題品目の見える化など
ら機能追加などのリクエストもくるように
結果として高品質のシステムができ、カット
私は今回のような大型プロジェクトのマネジ
資材取揃機能付加
なっています。
オーバー後、大きな障害もなく稼働しており
メントは初めてでしたので、TISさんの支援
その判断は正しかったと認識しています。
には非常に感謝しています。
2006年
2007年
第2期プロジェクト
計画系システムの拡充
・オーダ発行条件など
各種「ワーニング」機能付加
・組立部品集結状況照会など
│2009 Vol.26
から翌年5月)
、外部設計に4カ月間(2006年7月から11月)をあ
石岡 健氏
2005年
・購買要求/取り揃え出庫/在庫管理
・社内製作管理/実行管理/実績収集
・出退勤管理
12 │
れが良かったと感じています」
(石岡氏)
。
谷本 昭雄氏
2004年
実行系システムの移行
マスタ管理
プロジェクトはスタートから要件定義に7カ月間(2005年10月
株式会社IHIエスキューブ
第一ソリューション事業部
第二ソリューショングループ
マネージャー
・計画系システムの移行を実現
・エンジン生産計画
・部品生産計画
・資材所要量計画
を置いたことで、通常より時間はかかりましたが、結果的にそ
株式会社IHI
航空宇宙事業本部 事業開発部
情報システムグループ
主査 生産管理の新システムへの移行
計画系システムへの移行
の最大の柱と考えました」
(谷本氏)
、
「土台を作るところに重点
株式会社IHI
航空宇宙事業本部 生産センター
生産企画部 工事計画グループ
主査 IHI SCM実現プロジェクトロードマップイメージ
2000年
周到に進めた事前準備作業
2008年
2009年
2010年
第3期プロジェクト
SCM統合システムの実現
2009 Vol.26│
│ 13
Project Report 株式会社IHI
第2期プロジェクト構築システム構成
高品質のシステム開発、マネジメント能力に高い評価
実行系システム
計画系システム
ERPサーバ
AS400
夜
間
閉
鎖
Web APサーバ
Intra-mart
(フレームワーク)
働している。システム再構築前には1日遅れで出ていた在庫デー
PC
現場
班長クラス
進捗管理
Web
アクセス
Infor
実行管理
ブラウザ
エンジン生産計画
DB
社内製作管理
部品生産計画
タもリアルタイムで把握できるようになるなど、これまで見え
に入った。TISは万が一に備え24時間稼働システムに対応し、
なかったSCMの流れが「見える化」し、それに伴い現場からさ
24時間3交代のサポート体制を取った。主な作業として夜間の
らなる使い方を求める新しい要望も生まれている。今回の第2
バッチ処理の確認、データ処理件数の記録とレポートなどを実
期プロジェクトを踏まえIHIでは、生産系の経営指標を支援す
施したが、カットオーバー後の稼働状況はこの規模のシステム
るシステム拡張を第3期プロジェクトとして見据えている。今
としては珍しく、重障害はゼロという結果だった。リスク管理
回高い評価を得たTIS・クオリカ連合の開発力とプロジェクト
や方式設計の周到な準備活動が功を奏した形となった。
マネジメント能力が、次のプロジェクトで改めて発揮される時
現場
作業者
作業報告
Oracle
夜間閉鎖
M e s s a g e s
DB
文字入力
期も近いだろう。
タッチパネル
DBサーバ
ユーザ
部品生産計画部
2008年5月のカットオーバー後、3カ月間の稼働フォロー期間
カットオーバーから1年以上が経過した現在も、プロジェク
社内製作管理
トのユーザサポート体制のもと、システムはノートラブルで稼
実行管理
夜間のデータを貯める
TIS担当部分
ク機能の甘さから有効なデータ蓄積が難しかったという反省に
ト、と大きな問題もなくクリアし、このまま最後まで支障なく
立ち、需要計画、生産計画、入出庫管理、実績からマスタへの
進むと思われた。しかしフィールドテストからいざ移行という
フィードバックといった業務フローの一本化を進めた。
「業務の
段階になり問題が発生した。
TIS株式会社
産業事業統括本部 エンタープライズビジネス事業部
エンタープライズビジネス営業部
主査 TIS株式会社
産業事業統括本部
エンタープライズビジネス事業部 産業システム第1部
主査
荒木 一馬
山田 幸男
開発者とお客様の距離感を解消
プロマネとしての貴重な経験
私は営業の立場でお客様とTISの開発者との距離を縮めることに注力
2年半に及ぶ長いプロジェクトでしたが、管理方法、スタッフのモチ
各社が個々の持ち場で開発したシステムの品質には問題はな
しました。全体を通してその距離感が非常に近かったプロジェクト
ベーション作りなど、プロジェクトマネジャーとして多くのことを学び
かったが、連携する周辺システムとの整合性に不具合が発生し
だったと言えます。また、複数の会社が参画したプロジェクトですの
ました。ドキュメントや設計標準といった事前準備が、品質に直結す
カットオーバー直後から積極的にシステムを利用して導入効果
たのだ。周辺システムの改修と同期が取れず、同時に進行しな
で、全体の足並みを揃えるための提案も良い結果につながったと感じ
ることを改めて実感したプロジェクトでした。
を発揮しつつある。そうした点が素晴らしかった」
(石岡氏)
。
ければならないユーザ受入体制、ユーザ教育、ユーザマニュア
ています。
専任メンバーが、このくらい制約をつけても大丈夫だという判
断を下して要求仕様を固めていった。また、ユーザも協力的で、
TISは要件定義、外部設計において、複雑多岐にわたる開発
ルの準備が追いつかないなど、細かな問題が次々に明らかと
作業に関するシステム標準化や、画面デザイン、システム管理
なっていった。こうした問題は、大規模システム開発では起こ
計画、ユーザ規約などの方式設計を準備しIHIエスキューブを
り得ることだったが、その数の多さにプロジェクトメンバーの
支援した。これが設計書のテンプレートとしても活用された。
誰もが戸惑った。このままではカットオーバーの総合的な判断
第2期プロジェクトでは、システム規模が大きいためIHIエス
ができないと危惧したTISは関係者に相談し、カットオーバー
キューブを頂点にTISを含むシステム構築パートナー各社が、
クライテリア(判断基準)による客観的な評価方法を提案した。
それぞれ複数の開発工程を受け持つという体制を取っていた。
これが受け入れられ、早速、カットオーバークライテリアの設
そのため、プロジェクト推進の足並みを揃えることは困難を極
定にとりかかった。
TIS株式会社
産業事業統括本部 エンタープライズビジネス事業部
産業システム第1部 主任 TIS株式会社
産業事業統括本部 エンタープライズビジネス事業部
産業システム第1部 主任 牧野 豊
鈴木 啓也
者が毎日進捗状況を確認しながら必要な対策を講じていった。
入念な準備が品質につながる
自由な発言ができる環境
コミュニケーションが成功の鍵
それはこのプロジェクトにおいて緊張と同時に最も一体感が生
Webに関する画面デザイン、システム管理規
私はアプリケーション全体の仕様統括を担当
TISとクオリカのコミュニケーションに加え
約などを事前に定義しましたが、今回は今ま
しました。今回のプロジェクトでは全体を通
IHIエスキューブさんとのコミュニケーション
でで一番周到に準備を行いました。できるこ
して自由な発言、アイデア出しができる雰囲
も非常に良かった。要件定義と外部設計にお
めた。そうした中、TISはIHIエスキューブを支援するととも
大きなチェックポイントは3つ。不具合件数と解消状況の確
に、積極的に各社と連携し問題点の把握と解決を行い、プロ
認、周辺システムの改修状況の確認、ユーザ教育。これらの
ジェクトの確実な進捗に努めた。こうして2006年11月に外部設
チェックポイントを300ほどの評価項目にまとめ、これを関係
計を終了し、翌2007年2月から内部設計・製造・単体テストの
段階に入った。
まれた期間でもあった。こうして一つひとつの問題を潰し、
カットオーバーを確実にする判断基準作り
内部設計は順調に推移し、各社とも単体テストからサブシス
テム内統合テスト、サブシステム間統合テスト、システムテス
14 │
│2009 Vol.26
カットオーバーへの不安が確実に払拭されたのはカットオーバー
クオリカ株式会社
システム本部 第二事業部
ビジネスシステム第二部 統括マネジャー
橋 良幸
と、できないことを明確にし、リスクヘッジ
気がありました。お客様とのコミュニケー
いて検討を重ね、一体感を持って事前にリス
予定の1週間前だった。
「もともとTISさんにはプロジェクト推
を含めた提案を行いました。これが高い品質
ションを緊密にし、どんな話でも聞き、柔軟
クを洗い出せたことが、プロジェクトの成功
進のマネジメント支援も期待していたのですが、実際には期待
を保てた一番大きな要因だと感じています。
にお応えする、この姿勢が大事だと再認識し
につながったと感じています。
値を大きく超えた仕事をしていただきました」
(山本氏)
。
ています。
2009 Vol.26│
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