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レーザー医療機器:IS Report 吉田 拓也 廣安 知之 山本 詩子 2014 年 4 月 19 日 IS Report No. 2014041912 Report
Medical Information System Laboratory Abstract
レーザーは,工業・通信・軍事など幅広い分野で利用されている.レーザーには,単色性・指向性・干
渉性などの性質があり,その性質に着目した L.Goldman が医療の分野に結びつけた.現在では,医療
分野におけるレーザーの開発も進み,旧来の手法では難しかった手術もレーザーを用いることにより
侵襲の少ない治療が可能になった.本稿では,レーザーの仕組みやレーザー医療機器について述べる.
目次
第 1 章 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
第 2 章 レーザーの概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.1
性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2
原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2.1
励起 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2.2
自然放出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2.3
誘導放出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2.4
反転分布状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
2.3
レーザーの発生装置の構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
2.4
媒体の違いによるレーザーの性質の違い . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.4.1
炭酸ガスレーザー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.4.2
Nd:YAG レーザー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
第 3 章 レーザーを利用した医療 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.1
レーザーメス
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.1.1
炭酸ガスレーザー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.1.2
Nd:Yag レーザー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2
光線力学療法
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.3
レーザー治療の問題点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
第 4 章 今後の展望 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
第 5 章 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
第 1 章 はじめに
レーザー(Light Amplication by Stimulated Emission of Radiation:LASER)は特殊な装置で発生
させた人工的な光で,1960 年に発明された 1) .アメリカの T.H.Maiman がルビーの結晶からレー
ザーを発振させることに成功し,その後,アメリカやソ連で工業・通信・軍事用のレーザーが開発さ
れた.医療分野への応用も早く,レーザーの誕生した翌年には,アメリカの眼科で網膜剥離の手術に
レーザーが使われた.日本では,1980 年前後に眼科からレーザー医療が始まったとされている 1) .
レーザーは,単色性・指向性・干渉性などの性質があり,これらの性質に着目した L.Goldman によ
りレーザーと医療が結び付けられた.その結果,今までは治療が難しかった疾患も治すことができる
ようになった.本稿では,レーザーの原理について述べた後,医療用レーザーについて述べる.
2
第 2 章 レーザーの概要
本章では,レーザーの発振装置,および発生原理について述べる.
2.1
性質
レーザーは特殊な装置を用いた人工的な光で,3 つの性質がある.レーザーの性質を自然光と比較
し以下に述べる.
• 指向性
レーザーと自然光の指向性の違いを Fig. 2.1 に示す.自然光は,Fig. 2.1(b) に示すように光源
から光が放射状に広がるのに対し,レーザーは Fig. 2.1(a) に示すように光が一方向へ直進する.
• 単色性
レーザーと自然光の波長の違いを Fig. 2.2 に示す.自然光は,Fig. 2.2(b) に示すように様々な
波長で構成される光に対し,レーザーは,Fig. 2.2(a) に示すように 1 つの波長で構成される.
• 干渉性
レーザーと自然光の干渉性の違いを Fig. 2.3 に示す.自然光は,Fig. 2.3(b) に示すように位相
が揃わない光に対し,レーザーは,Fig. 2.2(a) に示すように位相が一致する.
2.2
2.2.1
原理
励起
励起について Fig. 2.4 に示す.外部から光が入射すると,原子中の電子は光を吸収し,基底状態と
呼ばれる一番低いエネルギー状態からより高いエネルギー状態になる.エネルギーが高まると電子は
通常の軌道から外側の軌道に移る.このエネルギーが高まっている状態を励起という.
2.2.2
自然放出
自然放出について Fig. 2.5 に示す.励起された電子は,吸収したエネルギー量に応じて,エネル
ギー準位が上がる.エネルギーを高められた電子は,ある緩和時間が経過すると安定しようとしてエ
ネルギーを放出し,低いエネルギー状態に戻ろうとする.この現象を自然放出という.
2.2.3
誘導放出
Fig. 2.6 のように高いエネルギー状態にある電子が存在し,そこに自然放出された光が入射すると,
エネルギー・位相・進行方向が全く同じ光を放出する.つまり,入射時に 1 つだった光が出射時は 2
つになる現象が発生する.これを誘導放出という.誘導放出された光は,エネルギー・位相・進行方
向が揃っているため,多くの光を誘導放出することにより強い光を作り出すことが可能である.
レーザー光は,この誘導放出という現象を利用して入射光を増幅している.そのため,前節で述べ
た指向性・単色性・干渉性の 3 つの性質をもつ.
3
2.3 レーザーの発生装置の構造
第 2 章 レーザーの概要
光源
(a) レーザー
(b) 自然光
Fig. 2.1 レーザーと自然光の違い (指向性)(自作)
プリズム
プリズム
(a) レーザー
(b) 自然光
Fig. 2.2 レーザーと自然光の違い (単色性)(自作)
(a) レーザー
(b) 自然光
Fig. 2.3 レーザーと自然光の違い (干渉性)(自作)
2.2.4
反転分布状態
レーザーの誘導放出を用いて発振させるためには,高エネルギー状態の電子の密度を低エネルギー
状態の電子密度よりも圧倒的に高めた反転分布状態にする必要がある.つまり,吸収される光よりも
誘導放出される光の数を上回らせることで,効果的にレーザーを創り出すことが可能である.
2.3
レーザーの発生装置の構造
レーザーの発生装置は,Fig. 2.7 に示す 3 要素から構成される.
• レーザー媒体
レーザー媒体とは,誘導放出を引き起こしている材料である.
• 励起源
4
2.4 媒体の違いによるレーザーの性質の違い
第 2 章 レーザーの概要
励起状態の電子
光
原子
基底状態の電子
Fig. 2.4 励起 (参考文献 2) より自作)
励起状態の電子
光
原子
基底状態の電子
Fig. 2.5 自然放出 (参考文献 2) より自作)
励起源とは,レーザー媒質を励起するためエネルギーを与えるための装置である.
• 増幅器
増幅器とは,2 枚のミラーで囲み光を反射させ光を増幅させる装置である.ミラーには,全反
射ミラーと出力ミラーがあり,全反射ミラーは反射率 100 %の性質があり,全ての光を反射す
る.出力ミラーは透過率 1∼60 %の性質があり一部の光を透過する.
2.4
媒体の違いによるレーザーの性質の違い
レーザー媒体には,様々な種類がある.一般的に固体レーザー・液体レーザー・気体レーザー・半
導体レーザーと分類することができ,各レーザーからも数多くのレーザーに分類することができる.
本稿では,広い分野でよく用いられる炭酸ガスレーザーと Nd:YAG(Yttrium,Aluminium,Garnet)
レーザーについて述べる.
2.4.1
炭酸ガスレーザー
レーザー媒体となる炭酸ガスに上下一対の放電電極が配置され,左右に部分反射鏡と全反射鏡が対
面しており,電極間に高電圧を加えると部分反射鏡からレーザー光が放出される.
レーザーが発生する仕組みは電極間に高電圧を加えると電子が飛び出し,レーザー媒体中の窒素分子
を介してそのエネルギーを炭酸ガス分子に与え 励起された炭酸ガス分子は光子を放出する.この光
子は全反射鏡へ向かったものが部分反射鏡との間を往復しながら,他の炭酸ガス分子に衝突する.こ
れが繰り返されるうちに光子が増加し,レーザーとなって部分反射鏡から外部へ取り出される.炭酸
ガスレーザーの波長は 10.6µm である.
5
2.4 媒体の違いによるレーザーの性質の違い
第 2 章 レーザーの概要
=励起状態
=基底状態
Fig. 2.6 誘導放出 (参考文献 2) より自作)
全反射鏡 レーザー媒体
部分反射鏡
Fig. 2.7 レーザー発生装置の構造 (参考文献 2) より自作)
2.4.2
Nd:YAG レーザー
Nd:YAG 結晶は,YAG(Y3 Al5 O12 ) 結晶中の Y の一部を Nd(ネオジム) に置換した結晶である.こ
の結晶にフラッシュランプやレーザーダイオードなどを 用いて外部エネルギーを与えることで,結晶
内の電子が励起され,反転分布状態となる.ある一つの励起電子が基底状態に遷移する際に放出する
光 (1064 nm) がトリガーとなって 誘導放出することにより,放出光の位相がそろった レーザー(基
本波,波長 1064 nm)が得られる.この基本波を KTP(TiOPO4 )結晶に通すことによって 2 倍波
(波長 532 nm) が得られる.
6
第 3 章 レーザーを利用した医療
レーザーを利用した診断や治療は,外科,内科,眼科,歯科,皮膚科など広範囲の医療分野で成果が
挙げられている.レーザー医療は次のような特長がある.
• 非接触治療が可能であるので,痛みが少なく,感染の恐れも少ない.
• レーザーによる加熱治療は止血・凝固性があるため出血が少ない.
• 波長が長いレーザーは熱を生じやすく,波長が短いと熱が生じにくい.
• 熱的治療のほかに光線力学療法も可能であり,無血で局所的治療が可能となる.
• 光ファイバーを利用することにより,体内の治療も可能である.
3.1
レーザーメス
レーザーメスは,炭酸ガスレーザーや Nd:YAG レーザーなどがよく用いられる.これらのレーザー
を使用すると,熱エネルギーにより,血液が凝固して出血が少ないため,従来の金属メスの代わりに
レーザーメスが利用されている.応用例として内視鏡に組み込むなどの利用方法がある 3) .
3.1.1
炭酸ガスレーザー
炭酸ガスレーザーは,出力波長が遠赤外光にあたるため水に吸収されやすい性質を持っている.皮
膚に照射すると,皮膚組織内の水分に吸収されて熱を生じレーザー照射部の温度は 1000 度前後に上
昇する.温度が上昇することにより生体組織の水分の蒸発などで表皮が押し上げられ,表皮の破壊や
組織が切開される.切開された組織の表面は,レーザー加熱で炭化されるため出血は抑えられる 4) .
3.1.2
Nd:Yag レーザー
Nd:YAG レーザーは炭酸ガスと比べ,近赤外光のため体内の水分や血液に吸収されにくく組織の内
部まで浸透する性質を持っている.波長は 1064nm と 532nm を選択することができる.1064nm のと
きは,高いエネルギーのまま深部まで到達するので,太田母斑や異所性蒙古斑のような深在性疾患治
療に適した波長である.532nm を選択したときには,ヒトの皮膚の色素でもあるメラニンに反応し,
表在性色素斑 (シミ・そばかす) の治療に用いられる.
3.2
光線力学療法
光線力学療法は PDT(photo dynamic therapy) とも呼ばれ,レーザーと光感受性物質を用いた治
療法であり,ガン治療によく用いられている 5) .光感受性物質は,ガンに多く集まり特定の波長の
レーザーを当てると活性酸素を発生させるという性質がある.その性質を利用し,体内に光感受性物
質を注入しガン組織に集積した後,レーザーを照射することにより,光感受性物質は活性酸素を発生
させ,その活性酸素がガン細胞を破壊する.レーザーの波長は光感受性物質にしか反応しないため正
常な細胞を壊すことなく今までのガン治療法と違い侵襲が少ないという治療法である.
7
3.3 レーザー治療の問題点
3.3
第 3 章 レーザーを利用した医療
レーザー治療の問題点
レーザーは強力な熱エネルギーの持つため,熱を術部周辺まで広げてしまうので正常な細胞を変性
させるといった問題がある.その為,医師に高度な技術が要求され,操作を誤ると火傷などを起こす
場合がある.
8
第 4 章 今後の展望
前章で述べた問題点を解決するため,フェムト秒レーザーを用いた治療装置が考えられている.フェム
ト(femto, 記号:f)は,国際単位系において基本単位の 10−15 倍の量を示し,1 フェムト秒は「1000
兆分の 1 秒」を表す.つまり,フェムト秒レーザーは,レーザーのパルス幅が 1000 兆分の 1 秒のレー
ザーである.そのため,現在使われている炭酸ガスレーザーや YAG レーザーなどのナノ秒レーザー
と比べ,照射時間が短いため熱が広がる前に体内に吸収される.そのため,フェムト秒レーザーは,
熱を広げないという性質を持っている 6) .これにより,術部周辺の細胞を傷つけることは少ないの
で,今までの治療よりも質の高いものになると考えられる.
9
第 5 章 まとめ
レーザーは,幅広い分野で利用されている.本稿では,レーザーの性質と原理について述べたあと,
レーザー機器の中の炭酸ガスレーザーと Nd:YAG レーザーや光線力学療法について述べた.レーザー
は媒体によって発生方法が変わり,炭酸ガスレーザーと Nd:YAG レーザーは波長の違いを利用し疾
患の深部によって使い分ける.レーザーは,侵襲が少なく旧来の治療方法と比べ身体への負担が少な
い治療が可能というメリットがある.しかし,医師の操作・判断ミスにより疾患を悪化させる場合が
ある.
現在では医療用のフェムト秒レーザーが開発されており,今まで以上に侵襲の少ない治療が可能に
なると考えられる.
10
参考文献
1) レーザーの歴史.
http://www.lumenis.co.jp/laser/history.html, 参照:2014/04/10.
2) 学ぶ レーザーの原理.
http://www.marking.jp/tech/., 参照:2014/04/10.
3) 佐藤卓蔵. レーザー CD プレーヤーから X 線レーザーまで. 電気書院, 1987.
4) 清水忠雄. レーザーの入門 基礎から応用まで. 森北出版株式会社, 第 1 版, 1989.
5) 新田雅之. 光線力学療法 (pdt) を用いた悪性脳腫瘍の治療. Istope News 2013 年 3 月号, No. 707,
2013.
6) シグマ光機株式フェムト秒レーザー.
http://www.sigma-koki.com/pages/community/knowledge/011_jp.php, 参照:2014/04/10.
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