産科婦人科後期研修プログラム 和歌山県立医科大学産科婦人科学講座 【和歌山県立医科大学産科婦人科学講座における研修の概要と特徴】 従来の産科学婦人科学は、妊娠分娩の管理と婦人科腫瘍性疾患の診断と治療、不妊症治療を 主な診療対象としていました。しかし、最近の目覚ましい医学の進歩は産科学婦人科学をいくつ かの専門領域に細分化させてしまう結果となり、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本産婦人科内 視鏡学会専門医、日本不妊学会専門医、日本周産期・新生児学会専門医などの専門医制度が 確立されつつあります。一方で産科学婦人科学の全領域をカバーできる産婦人科医師が少なく なりつつあるという弊害も生じてきています。現在の全国的な産婦人科医師激減現象は全臨床医 学領域で最も深刻な社会的問題にもなっており、産科学婦人科学細分化専門医のみでは力不足 です。したがいまして、和歌山県立医科大学産科婦人科学講座では、どこでも通用する産科学婦 人科学の全診療分野をカバーできる技能を修得すると同時に、自ら選択したいずれかの産科学 婦人科学細分化専門医を獲得することを目指した臨床研修を実施する計画です。さらに、診療技 能修得のみならず、新しい診断方法、治療方法、疾患の病態生理解明など、世界に通用する研 究能力の開発、希望があれば海外留学による世界的視点の自覚、なども目指しています。 当教室ではこれらの中で特に婦人科悪性腫瘍の診断・治療について力をそそいできており、国 内でも指折りの高い治療水準を誇っています。日本婦人科腫瘍学会の指導医が2名おり、婦人科 腫瘍専門医教育認定施設になっています。さらに婦人科癌に対する抗癌剤治療専門病院にのみ 認められる婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構の和歌山県内唯一の認定施設にもなっています。 また年間約 400 例の手術を施行しており、そのうち癌関連手術は約 100 例近くになります。この数 は全国の大学病院の手術数の平均以上です。また、当施設は和歌山県唯一の総合周産期医療 センターに認定されることになっており、分娩数は年間 400 例近くあり、ハイリスク妊産婦が県内お よび大阪南部から頻繁に搬送されてくる役割を担っています。このような診療体制から、医師数の 少ない当病院では若い医師1人当たりの患者数、手術数、分娩数が極めて多くなり、臨床研修効 果は非常に高くなります。必然的に若くして手術の執刀チャンスが多くなるので、当教室出身者は 若いうちから手術やハイリスク妊産婦管理の上手な医師が育っているのが最大の特長です。 【後期研修プログラムの目標】 3つの研修段階に分けます。 (1)初期研修(いわゆるスーパーローテートの2年間) (2)後期研修3年間(卒後3年目から5年目):日本産科婦人科学会専門医資格修得まで 産婦人科医師としては最初に絶対取得しなければいけないのが、日本産科婦人科学会専 門医資格です。これにはスーパーローテートの後、学会指定研修施設において3年間以上 の臨床研修を必須としています。そこでは、妊娠、分娩、腫瘍、内分泌などに関わる産科学 婦人科学の全分野に及ぶ多数の患者診療の経験を要求されます。具体的な研修目標は、 後述するように、日本産科婦人科学会の指定する全領域を含みます。和歌山県立医科大学 附属病院産婦人科は日本全国の大学病院産婦人科の中でも特に症例数の多様性、数の多 さなどが極めて優れており、当科で研修した場合はほとんどが一回で専門医試験に合格する ものと考えています。 (3)専門医研修 3-5 年間:産科学婦人科学領域の根幹的細分化専門医資格修得までの研修 3-5 年間 後期研修期間においては、各自の希望に応じて、専門領域を重点的に研修し、産科学婦人 科学領域の根幹的細分化専門医資格修得を目指してもらいます。ただし、特に細分化専門 医資格の取得を望まない医師がおられる場合は、前期研修分野をさらに深く確実に広く研 鑽し、全分野をカバーできる指導者になってもらいます。産科学婦人科学はいくつかの専門 領域に細分化されており、それぞれの学会が独自の専門医資格を確立しつつあるというのが 現状です。しかし、今現在、スーパーローテート中の研修医が日本産科婦人科学会専門医 資格を取得する時期には、主要な産婦人科関連学会の多くが、独自の専門医資格を認定す るシステムになっていることは確実です。その場合は、専門医申請のための必須条件は日本 産科婦人科学会専門医取得後、細分化された専門領域で 3-5 年程度(専門医により要求研 修期間が異なる)の専門的研修を受けることになっています。さらに、一定レベル以上の一定 数以上の、専門分野の論文発表や学会発表も不可欠です。現在、婦人科腫瘍学領域では 日本婦人科腫瘍学会専門医制度は開始されたばかりであり、和歌山県立医科大学産科婦 人科には2名の学会認定指導医がおり、数少ない学会認定研修施設のひとつとなっておりま す。周産期領域では、日本周産期・新生児学会専門医(産科)制度が検討中です。内分泌・ 不妊領域では日本不妊学会指導医制度が発足したばかりです。各分野の専門研修につい ては後に詳しく述べます。 オプションとして次の2コースも研修に含まれます。 (4)博士号学位取得・大学院博士課程進学(希望者のみ) 希望者に限りますが、医学博士の学位取得コースです。これには大学院博士課程に進学す るコースと、大学院に進学しないで診療の合間に研究して学位を取得するコースの2つの選 択肢があります。後者の方が博士号取得までの期間が少し長くなります。選択は自由です。 大学院は率後3年目、スーパーローテート終了後であればいつでも進学が許可されます。研 究課題は、基本的には各自に決定してもらいますが、もし自分で研究課題を決められない人 の場合は、講師以上の指導者の下で研究を行ってもらいます。 (5)海外留学(希望者のみ) 博士号取得者で、海外研究室に受け入れられるだけの一定以上の研究業績がある者は積 極的に海外留学を応援します。 【後期研修3年間(卒後3年目から5年目)】 入局後の 3 年間は産婦人科専門医を目指して産婦人科診療全般にわたって研修していただき ます。最初の1−2年は大学病院で研修してもらいます。年度によっては入局後直ちに助手に就 任してもらいます(平成 18 年度は可能です)。また1年目から学内助手を兼務しながら大学院への 進学も可能です。その後、関連病院でも十分な経験を積んでもらいます。3年終了後専門医の受 験資格が出来ますので4年目の夏に専門医試験を受けていただきます。 産婦人科の一般外来が担当できること、一般的な妊婦の管理と分娩が取り扱え、また帝王切開 の必要性を判断し手術ができること。悪性腫瘍手術の術後管理が出来ること。単純子宮全摘術ま での婦人科手術ができること、一次救急に対処できることなどが目標です。当教室での初期研修 の特徴は、一次救急から難治症例まで多くの症例を優れた指導者の下で、立派な設備を利用し て研修が出来ることです。 研修施設:主として大学病院で研修を行いますが、1年間程度、日本産科婦人科学会認定研修 病院で研修することもあります。 具体的研修目標:日本産科婦人科学会専門医資格修得を具体的目標とした研修内容です。以 下の技能技術理論を3年間に研修することになります。 (1)周産期管理:一般の妊娠分娩だけでなく、各種ハイリスク妊産婦の管理法を取得する。新生児 救急医療を修得する。手術技能としては、帝王切開術、頸管縫縮術などは全て確実に執刀できる。 周産期領域の専門医を早期から目指す者は、周産期診療に重点を置いた研修も可能である。 (2)不妊・内分泌:基礎原理と通常診療技能を修得する。不妊領域専門医を目指す者は体外受精 胚移植のような ART 技能の取得も前期研修期間中から行う。 (3)婦人科腫瘍学および婦人科学一般:婦人科腫瘍学全般に及ぶ基礎原理と通常診療技能を修 得する。手術技能としては、腹式単純子宮全摘出術、膣式単純子宮全摘出術、腹腔鏡下卵巣嚢 腫摘出術程度の手術は全て確実に執刀できる。悪性腫瘍根治的手術の術後管理や抗癌剤化学 療法についても確実に修得する。婦人科腫瘍学領域の専門医を早期から目指す者は、癌診療に 重点を置いた研修も可能である。 (4)更年期医学:基礎原理と通常診療技能を修得する。当科には漢方療法、内分泌療法の専門 家がいるので、早期より専門性の高い研修も可能である。 【専門医研修3—5年間】 後期研修期間で十分な臨床経験が出来ますので、ほぼ全員が専門医の試験に合格します。こ の期間には大学の助手として初期研修医の指導をしていただくとともに、それぞれの興味に応じ て、診療における専門分野(sub-specialty)を目指してもらいます。産婦人科には、腫瘍学、内分泌 学(不妊症の臨床も含む)、中高年婦人科学(更年期障害、骨粗鬆症など)、周産期という sub-specialty があります。講師や助教授の先生の指導のもとこれらの分野での臨床および研究を 行い、いずれかの分野の専門医の資格が得られるように教育します。またこの時期から臨床的、 基礎的研究も開始してもらいます(大学院生はすでに研究を開始している)。そして後期研修が終 了時学位修得も可能なよう研究指導も行います。 研修施設:専門医を目指す者は、主として大学病院で研修を行いますが、時に、日本産科婦人 科学会認定研修病院で研修することもあります。 研修の意義:日本産科婦人科学会認定専門医を取得した後、各自の希望により、さらに進んだ専 門領域の確立を目指す期間です。同時に、この研修期間の間には、大学病院での研究者・教育 者、関連病院での主任勤務医として地域診療の指導的立場に立つ道、開業医師として地域医療 の第一線で活躍する道など、自らの将来の進路を決定する時期にも当たります。進路は各自が自 己決定するものであり、産婦人科医局が強制することはありません。 研修の具体的目標:各種の産婦人科関連領域の専門医取得を目指します。以下に代表的な具 体例を示します。 婦人科腫瘍医(日本婦人科腫瘍学会専門医、日本癌治療学会専門医、日本臨床腫瘍学会専門 医、日本産婦人科内視鏡学会専門医など):研修期間中に、各種の婦人科癌手術を執刀できる 技術を取得する、各種抗癌剤化学療法に精通する、放射線治療の併用方法も理解する、などを 到達目標とする。少なくとも、日本婦人科腫瘍学会認定専門医を取得する。 周産期産科学専門医(日本周産期・新生児学会専門医):ほぼ全てのハイリスク妊産婦を管理で きる理論と技術を取得する。少なくとも日本周産期・新生児学会認定専門医を取得する。 内分泌不妊専門医(日本不妊学会専門医):体外受精胚移植・顕微受精を含む各種不妊治療、 各種内分泌療法の理論と技術を取得する。少なくとも日本不妊学会専門医を取得する。 【専門医研修終了後】 各自の希望に応じて、進路を決めていただきます。さらに専門性を極めたいと希望する者は、大 学病院の講師として後輩の臨床、および研究指導を行うとともに、自らの研究を一流雑誌や国際 学会など、世界に向けて発表します。希望が有れば留学も可能です。また勤務医として専門性を 生かした診療を希望する者は、和歌山周辺の基幹病院に赴任し地域の臨床の中心となって産婦 人科診療にあたってもらいます。
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