札幌会研修会レジュメ - 札幌土地家屋調査士会

札幌土地家屋調査士会 今 取 り 組 む 新たな土地家屋調査士業務
「エコシステム(経済的な生態系)の確立」
平成25年3月2日
児 玉 勝 平
1. 筆界に生きて(土地家屋調査士の現状)
A. 筆界の歴史を学んで
1)
筆界誕生の歴史
筆界の誕生
地租改正(明治6年)
封建制度を解体・・・資本主義制度の基盤確立
土地所有者の確定(権利の位置と領域の明確化)
地番設定
地積確定(数量の明確化)
2)
地租改正4年前(明治2(1869)年)の現況写真 (マサチューセッツ工科大学)
http://ocw.mit.edu/ans7870/21f/21f.027j/beato_places/index.html
(注意)残酷な写真もありますので、閲覧には気をつけて下さい。
オープンコースウェア(OpenCourceWare; OCW)
大学など高等教育機関で正規提供された講義等をインターネットを通して無償で公開。
日本オープンコースウェア
2. 司法の判断を拠り所として
1)
最高裁判断
当事者の合意では処分できない。
a) 土地境界確認請求本訴、同反訴請求
(最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)第118号 昭和42年12月26日判決 破棄差戻)
判示事項:境界についての当事者の合意と境界の確定
要旨:隣接土地所有者間に境界についての合意が成立したことのみによつて、右合意のとお
りの境界を確定することは許されない。
理由:相隣者間において境界を定めた事実があつても、・・・一筆の土地の境界自体は変動
しないものというべきである。(昭和31年12月28日当裁判所第二小法廷判決・民集10
巻12号1639頁参照)
合意の事実を境界確定のための一資料にすることは、もとより差し支えないが、これ
のみにより確定することは許されない
b)
立木伐採禁止等請求
(最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)第688号 昭和31年12月28日判決 棄却)
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理由:境界は・・・当事者の合意によつて変更処分し得ないものであつて、境界の合意が存
在したことは単に右客観的境界の判定のための一資料として意義を有するに止まり証
拠によつてこれと異なる客観的境界を判定することを妨げるものではない。
現況の確認 (地籍調査の判断)
a) 国土調査の地籍調査の成果無効等確認請求事件
(最高裁判所第二小法廷 昭和60年(行ツ)第188号 昭和61年7月14日判決 上告棄却)
理 由〈第一審判決〉
(一) 地籍調査の成果につき
土地の現況を調査記録するという単純な事実行為に過ぎないし、その結果作成さ
れる成果である地積簿や地籍図も・・・行政庁における内部資料に止まり、・・・
対外的に効力を有するものではない。
(二) 成果の認証請求及び認証
成果に対する認証とは、・・・一定の限度でその精度を担保するための制度的保
障としての行政庁相互間の内部的行為に止まり、・・・権利義務関係に直接影響を
及ぼすものではない。
(三) 登記簿の変更及び地図の備え付け
地籍調査の成果に基づいてなされる登記は、・・・権利義務関係に直接影響を及
ぼすものではない。
不動産登記法17条地図・・・は地籍調査の成果として当該土地について、その形
状、位置関係等の事実情況の把握を目的とするものに過ぎず、これによって実体的
に土地の権利関係、境界等を確定する効力を有するものでない。
2)
筆界を法律に定義(不動産登記法)
第六章 筆界特定 第一節 総則
第百二十三条第一項 筆界
表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題
登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその
境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。
第百二十三条第二項 筆界特定
一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより、筆界の現地
における位置を特定すること(その位置を特定することができないときは、その位置の範囲を
特定すること)をいう。
C. 筆界考古学の誕生
「経界確定の訴は明治初年に設定された地番の経界を現地においてどこに存在
するかということを確定することにその本質がある。」
(松村判事「民訴雑考」)(土地境界基本実務叢書Ⅰ p129)
D. 業務形態の変化(新旧比較)
1)
以前の業務実態
a) 旧基本手順
(1) 受託
(2) 資料調査・・・・準地図、14条地図、地積測量図
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(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
現地立会・・・・利害関係者の会合立会、口頭確認
境界標設定・・・立会時、計測地に設定
計測・・・・・・任意座標、各種補正なし、立会時観測
申請
完了引渡・・・・登記済証、地積測量図
b)
特徴
依頼人が隣地所有者と立会し、両者の合意により境界確認
立会時に境界標設定と計測を済ませる。
c)
問題点
当事者同士で決めることは出来ないという最高裁判例と相違
「合意が成立したことのみによつて、右合意のとおりの境界を確定する
ことは許されない」
「合意の事実を境界確定のための一資料にすることは、もとより差し支
えない」
d)
何の境界を決めたのか?
所有権界、占有界を決定
占有は民法186条1項で所有権を推定。
第二章 占有権
第一節 占有権の取得(占有の態様等に関する推定)
第百八十六条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占
有をするものと推定する。
第二節 占有権の効力
(占有物について行使する権利の適法の推定)
第百八十八条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推
定する。
(1) 境界確定協議は民法695条の和解契約
第十四節 和解
第六百九十五条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめるこ
とを約することによって、その効力を生ずる。
(2) 所有権の「処分行為」
(和解の効力)
第六百九十六条 当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認
められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者
の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた
旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転
し、又は消滅したものとする。
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2)
現在の業務手順
a) 現基本手順
(1) 受託
(2) 資料調査・・・準地図、14条地図、地積測量図、旧公図、更正図、土地台
帳、都市計画図、空中写真
(3) 事前計測・・・調査地と街区周辺の現況構築物、地形
(4) 筆界考察・・・各種重ね図、面積比較、辺長比較、利害関係、紛争予防
(5) 仮筆界設定・・立会時に現地説明用、考察結果と現況の比較
(6) 事前説明・・・利害関係者へ挨拶、説明、意見(内心)聴取
(7) 筆界再考察・・事前聴取事実を組み入れ
(8) 再計測・・・・再考察の裏付事実調査
(9) 仮筆界設定
(10) 現地立会・・利害関係者と個別に
(11) 筆界確認書・筆界確認図、写真等で筆界を視認明確化 (資料1)
(12) 境界標設定・筆界確認書受領後
(13) 申請
(14) 報告書・・・依頼者への精査書(資料2)、権利図(資料3)
(15) 完了
b)
特徴
(1) 旧業務の問題点(法令、判例違反)を解決
合意のみに依拠しない。・・・当事者の合意は参考
調査士の鑑定結果を反映・・・当事者同士で決めさせない
不登法と最高裁判例に沿った業務内容を保証
(2) 客観的証拠の探索過程を保証
筆界確認作業は客観的物理的事実の確認行為の過程を残す。
c)
問題点
(1) 立会に潜む問題
(a) 依頼人の意識は処分行為
一般人は、筆界と所有権の区別認識はなく一体化
紛争性が前面に現れ
所有権界の相談となる
(b) 所有権界として立会した場合
処分行為・・・・・・・・・・権利の得喪
立会時の説明、指示など・・・双方の主張と論拠で交渉行為
紛争性に関与・・・・・・・・紛争性の強弱と関わり方
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(c) 弁護士法違反の可能性・・・・報酬を得、反復継続
訴訟、調停に準ずる程度の紛争性の有無が問題となる。
第九章 法律事務の取扱いに関する取締り
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非
訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申
立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解そ
の他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とするこ
とができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合
は、この限りでない。
(2) 新たな対応(解決策)
(a) 認定調査士の取得
業務・・・所有権界の相談(調査士法第3条第1項8号)
第三条 調査士は、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
七 土地の筆界が現地において明らかでないことを原因とする民事に関する紛
争に係る民間紛争解決手続であつて当該紛争の解決の業務を公正かつ適
確に行うことができると認められる団体として法務大臣が指定するもの
が行うものについての代理
八 前号に掲げる事務についての相談
2 前項第七号及び第八号に規定する業務は、次のいずれにも該当する調査士
に限り、行うことができる。
二 前号に規定する者の申請に基づき法務大臣が民間紛争解決手続代理関係業
務を行うのに必要な能力を有すると認定した者であること。
d)
留意点(一般調査士の対応策)
(1) 紛争性の無い立会を模索する必要
筆界の場合(調査士の場合)
不動産登記法に明記
事実の調査・・・双方の証言聴取
(2) 筆界特定制度、ADRの利用
(3) 個別に利害関係者と立会(紛争性を顕在化させない)
利害関係者同士を立会させない。・・・紛争性の低減
内心の発露と真実発見 (ADRの技術と発想)
立会人の自由な意見をどう保証し、聴取できるか。
本音を掴み、将来の紛争防止
3)
新たな業務手順には(私の三ヶ条)
a) 心構え・・・・当事者に決めさせない。
b) 証拠に基づく筆界探求
各種資料の比較考察・・・・証拠の創造
現況の絶対性と相対性・・・調査地、周辺状況の経年変化
証言との照応・・・・・・・前2つの証拠と証言の比較
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c)
3.
リスク衡量
理論的整合性と現実的妥当性(個人間、社会)を衡量し結論に導く。
つまり、将来問題が再発しにくい段階まで追求する。
基本は裁判官になった立場で考察とバランス
三つの力(能力)を持つ調査士
一. 基準を見る目・・・・筆界特定(基準の決定判断能力)
公法上の境界を探索、認定する。
調査能力を培ってきた。
二. 違いを見る目・・・・ADR(トラブルを発見し、予防解決能力)
公法上の境界と実態の違いを認定できる。
悩みや人間関係に心を砕き、解決へ向けて権利と財産に直接、携わる。
三. 所有権を見る目・・・・名付け親(所有者を発見認定する能力)
土地、建物の所有権を認定し、信用制度の基盤を守っている。
4.
三つの力を活かす新たな三つの取り組み
どんなことをするのか。
誰でも出来る簡単な取り組みでなければならない。
(1) 「説明」と「権利図」
業務完了後、必ず業務内容を説明し、気付いたことを伝える。
依頼者、相手方、関係者へ。
権利図(権利の範囲を現地で明らかにする図面)を発行する。
(2) 「寄り添い」
境界以外のその他の悩みにも積極的に相談にのる。
専門家(弁護士、税理士、ケアプランナーなど)へ紹介、同席する。
専門家と依頼者間の「通訳」となる。
(3) 「業務情報公開」
業務で調査の箇所をWebで公開する。
調査資料を流通させる。
5.
私たちの周りの状況(社会状況)
どうして三つの取り組みが必要なのか?
(1) 登記業務の減少
登記件数
平成8年と平成22年
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登記件数
H8
H22
割合
土 地
15,155,566
8,823,282
58.2%
建 物
5,730,982
3,364,338
58.7%
会員数
18,553
17,617
95.0%
(2) 人口変動
A. 人口減少
☆ 人口ピークは2004年
☆ 世帯数ピークは2015年
「国土の長期展望」より
(資料4)
2050年に予想される社会
人口は3,300万人減少。
大部分の地域で過疎。
現過疎地域は、人口が半分以下に。
現居住地域の2割が無居住地域に。
単独世帯(高齢者)が増加。
相続者、管理者がいなくなる。
国土交通省国土審議会政策部会長期展望委員会「中間とりまとめ」
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_sg_000030.html
B. 法律に影響?
土地、建物が余る。(維持管理できない。)
所有権の権限制限へ。
空き家条例
社会資本の管理が出来ない。(官公署の財政難)
(3) 産業の変動期(技術革新)
(最近の気になる事例)
E. コダック(kodak)の民事再生法申請
• 米国連邦破産法第11章(日本の民事再生法に相当)適用
• 創業132年の巨人
• 原因・・・デジタル化に乗り遅れた。(皮肉も世界初のデジカメ開発)
F. ソニー、2,200億円の連結損益赤字(業績予想)
• 主力のテレビ事業の価格下落
•原因・・・コモディティ(commodity:日用品)
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差別化無く、個性を失ったため、何処のメーカを買っても大差無し。
低価格競争に陥る。
トリニトロンから液晶TVへ。
地積測量図のコモディティ化は?
G. アップルの地図産業参入?
• カーナビ市場に激震(株価下落、6月13日WWDC発表の影響)
音声で操作。
スマートフォンでカーナビの代替。
• 地図会社の再編
ビジネスモデルが崩壊。(地図の更新が無料)
地図の供給、メンテナンスに伴う統廃合。
• 家電の地図市場への参入
次世代車載ナビ構想(ダイジェストレポート) (資料5)
出典: SBDジャパンのWebSiteより
ナビゲーション 3.0: 次世代車載ナビの構想(SBD/TEL/3660)
H. 位置情報の計測と可視化
• 正確な位置情報(標定を含む)・・・GNSS
GPS、準天頂、ガリレオ(EU)、グロナス(ロシア)、
コンパス(中国)、インド
• QZSS(準天頂システム)による合理化( LEX補正)
‎www.gsi.go.jp/common/000054541.pdf
SPAC(衛星測位利用推進センター)
みちびきを使用した民間利用実証
‎www.eiseisokui.or.jp/ja/pdf/forum_10/forum_10-09.pdf
• 三次元管理の基盤構築
「Google Maps」も真っ青?- アップル、3Dマッピング技術のC3テクノロジーを買収
空中写真で三次元モデル 解像度10cm(高度500m)
• AR(拡張現実)との組み合わせ
技術の組み合わせで何が生まれる?。
(事例)
カーナビのAR化
情報化施工の未来を予感!フロントガラスで見るARカーナビ
実際の風景にナビ情報を重ねて表示する YouTube
筆界探索に専門家は不要?
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(4) 履歴社会
A. 政策
ストック市場へ転換。
2003(平成15)年の既存住宅流通割合(中古住宅流通数
新築住宅流通割合数)
日本
アメリカ
イギリス
フランス
13.1%
77.6%
88.8%
66.4%
出典 : 社会資本整備審議会産業分科会不動産部会「中間とりまとめ」参考資料
(2009年4月13日)
ストックの品質、責任の明確化。
品質を示し、国民へ明確にするために、住宅性能評価や完了検査、
地盤調査、土壌汚染対策などを公開。
(参考)
住宅履歴情報整備検討委員会
住宅履歴情報整備検討委員会
住宅履歴情報整備検討委員会:業者の方向け
B. 情報提供の方法
資格者の活用 社会資本整備審議会産業分科会不動産部会「中間とりまとめ」
(2009年4月13日)
不動産部会 過去の開催状況 - 国土交通省
第21回不動産部会・配付資料
‎www.mlit.go.jp/common/000037566.pdf
C. 技術の世界からも
BIM(ビルディングインフォメーションモデル)へ移行
CADにデーターベースを連動
形状、空間の関係、地理情報、数量、建物要素のプロパティ(例え
ばメーカー情報など)を履歴管理。
BIM - Wikipedia
(参考)
「CADは線を引くという作業をデジタル化するだけだが、BIMや住宅専用3次元
CADは、線を引くという概念ではなく、柱を置く、壁を立てる、窓を取り付け
る、屋根の形状を決める、外装の仕様を決める、といった通常、建築設計にお
ける作業を逐次デジタル化して入力していくという作業だ。」
「2次元CADで図面を描くときは、形さえできればできたという感じがあ
る。しかし、BIMソフトは各部材への属性情報の持たせ方やモデリングの
仕方など、設計のこと全部を考える必要がある。CAD上の部品が単なる図
形ではなく、建築的な機能をもったオブジェクトであるという概念がない
と大変かもしれない」
出典: Nikkei BPnet掲載記事より
BIMで泣く新卒! 後手に回る大学の建築教育|日経BP社 ケンプラッツ
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(5) 登記の世界にも変化が求められている。・・・ 東日本大震災への取り組みから
A. 「滅失建物と土地移動の可視化」の必要性
(滅失建物)
全壊、半壊数 (警察庁緊急災害警備本部の発表 7月23日付)
全壊 109,649戸 半壊 127,722戸 合計237,371戸
相当個数の調査が必要となる。
津波により一つの地域ごと流失した区域での調査は判断が容易い
が、焼失、倒壊など場合は広い範囲に点在しており、半壊により後
日、取り壊した建物もあるため、調査範囲も広範囲となり一軒一
軒、震災前と後を比較する調査となる。
調査の正確性と合理化
• 空中写真の利用
多くの空中写真が公開され、被災前後の写真比較により家屋の消
失などが確実・迅速に確認でき、正確性が向上する。
• 地籍と空間情報の恊働
WMSの公開 国土情報基盤図、空中写真などがオンラインで
取得可能。
GISコミュティ、地図作成チーム、各研究所との恊働
空間情報の活用方法、GISサーバ、GoogleEarth、QGIS利用
恊働が拡大。
(土地の移動状況把握)
移動の実体
地殻変動により最大約5.3mの移動(国土地理院公表)が確認され
ているが、財産、権利に影響し、国民生活に密着した細かな移動実体
を明らかにしなければならない。
(参考)
仙台市太白区緑が丘3丁目の事例 (資料6)
不動産登記法第14条地図地区(平成21年度作成)の実体
• 南側(6mから40mの範囲)は1mmから3mmの較差のため
相対的な変動はなく、等しく平行移動。
• しかし、北側(13mから30mの範囲)は40cmから50cmの
ズレを確認。
• この70mの範囲では相対的に40cmから50cmの広がった土
地と伸縮が起きなかった土地が混在。
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• 一見すると変化ない地域に見えたが計測すると歪んだ土地
移動が判明。
• この道路と民地の間の側溝が約20cm圧縮され側溝が狭くな
っている。
• 排水側溝の復旧には道路幅員の確保、また民地も所有権だ
けでなく、建築基準法の制限も絡み、相互の合意形成が必
要となる。
自治、権利に携わる人々への情報提供
• 震災前の地図や図面を根拠に現地を復元すると現地の境界標識、塀
の位置と異なる箇所となる。
• 復旧工事、建築計画、公共基盤の復興整備などに携わる人は現地で
苦慮する。
• 登記所や私たち土地家屋調査士はその相談を求められ、何らかの説
明の根拠を準備しておかねばならない。
• 区域毎の土地の歪みを資料として提供することで、現地での解決の
糸口となるはず。
B. 登記の防災マッシュアップへの可能性
滅失建物と登記情報のマッピングで被災建物類型提供
• 震災直後から地理情報に携わる人々の恊働が広がり、官民を問わず
多くの情報が一気に集約された。
• 位置情報による統合が大きな解決をもたらすことを実証した。
ALL311:東日本大震災協働情報プラットフォーム
URL http://all311.ecom-plat.jp/
• 被災建物の位置情報に登記情報の新築日、建物の種類、構造を結び
つけてマッピングし、広く公開。
• 地震倒壊と建築時期、構造の別、また都市の時間的広がりの分布が
考察でき、防災研究の一助となる可能性がある。
• 登記は答えられるのか?・・・「地番がない」
現在、登記システムにそうした機能があるのか。
C. 現地情報の収集者でもある土地家屋調査士が果たす課題とは?
地番、筆界線を公開すれば。
建物形状、構造、新築年月日などを公開すれば。
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(6) ジオメディアサービス(位置情報産業)の動向
A. 地図情報等を活用した管理業務、分析業務支援サービス 株式会社NTTデータ 「BizXaaS MaP」を大幅拡充
∼不動産物件情報や小売業の店舗情報の管理をクラウドで提供開始∼
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2012/080200.html
(推察)
不動産データ(登記情報を含む)の民間基盤の一つになり、位置情報サ
ービス産業は登記情報の管理が可能であることを示すことになる。
B. 災害情報、ヤフーやグーグルに一括提供・・・政府が検討
【8/10:日本経済新聞】
災害情報、ヤフーやグーグルに一括提供 政府が検討 :日本経済新聞
C. 政府の公開情報、著作権手続きを不要に・・・気象や交通関連など
【7/30:日本経済新聞】
政府の公開情報、著作権手続きを不要に 気象や交通関連など:日本経済新聞
(推察)
国のデータを民間へ提供でき、民間がデータを管理できる実績を築き、
先々、民間が国のデータを管理できるようにするための布石の役目も果た
す。(二元化の基礎基盤となる可能性を秘めている。)
公共地理空間情報の利用状況とオープンデーターの期待
http://www.egyousei.jp/seminar/w02/data/ws2_skt.pdf
産業と公共機関の融合を模索する組織の存在
新しい産業の創設
(7) 多目的地籍と国際的標準化
登記と位置情報サービスの統合化が進んでいる。
4.
三つの取り組みとその重要性
一. 「説明」と「権利図」
(説明)
• 現地調査員(情報取得、加工者)であるからこそできる。
• 登記の結果だけでなく、途中で気付いた身近なことを助言する。
「塀が傷んでいるから、防災のためにも修理を。」
• 将来予想される問題点を収集し、説明。
• 購入者、融資者など社会に広く利用されやすいものとする。
• 取引では必ず説明を終えた後に決済が行なわれるようにする。
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•
•
•
•
説明を文章にして「報告書」として提供すれば、関係者は喜ぶ。
調査士の説明ない場合、信頼度が低下する常識を築く手段である。
履歴社会での専門家説明解説に加わるための基盤造りとなる。
調査士の自らの業務意識が変わってゆき、体験を通じた意識改革。
(権利図)
• 地積測量図から権利の範囲を現地で明確にした図面に切り替える。
• 「権利図」の名称とし、説明・理解し易い図面にする。 (資料1)
• 現況地物等を記載し、一般人に分かり易く、位置や範囲を誤認されない
ようにする。
• 財産を守る意識の現れとして国民は「権利書」を大事にしてます。
• その語感と潜在意識を調査士の図面に結びつけ、所有者が替わっても
「権利」を守る書類として生き続ける調査士の本来の役割を社会に認
知、醸成させる。
• また、不動産登記法上の地積測量図と民法上の所有権、占有の範囲など
を取り扱う業務のほか、将来業務範囲にしたい民法以外の法制限範囲
(空間情報)を盛り込むための基礎となる。こうした視点から意識的に
権利の範囲を網羅する用語として普及させる。
• 測量士は面積を目的とできるが、権利は目的外のため、差別化になる。
• 不動産をお持ちであれば「一家に一図」。あなただけの権利図を備えて
下さい。
二. 「寄り添い」
• 調停の他に「よろず相談」を組み入れる。
• 境界を筆界、所有権界と捉えている意識を人と人との心の間に生じる全
ての境界の(揺らぎ、悩み)だと捉える。
• 調査士と世間との関係はとてつもなく広がる。
• 境界の相談の背景にある人間関係やお金の問題、生活の不安等を聞き、
分からないこと、不安なことを相談者と共にその道の専門家へ出向き、
相談する。
• 相談者の背景や思いを適切に専門家へ伝える。
• 専門家の説明を分かり易く相談者へ補足する。
• 専門家との相談が終わった後、相談者に解説をする。
• 専門的な知識は最初から必要なく、専門家の説明から学べる。
• 専門家へ業務を紹介でき、専門家との信頼関係が高まる。
• 専門家からも相談者からも喜ばれ、街の良き相談者となる。
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(弁護士の視点) (資料8)
「弁護士以外の隣接法律専門職種の方々が、それぞれその持場にお
いての重要な役割を果たしておられることは十分に承知しています
が、これらの職業の本来の趣旨は、それぞれの監督官庁の、いわゆる
申請業務を円滑に進めるためのエージェントとしての役割にありま
す。したがって、国民の人権、財産に関する法的問題を直接に扱うこ
とを予定した制度となっていません。」
「弁護士のあり方」について(司法制度改革審議会)2001年1月23日
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/dai44/44bessi2.html
こうした見解を実務で乗り越えるため、法的問題に直接関わる。
(参考)
行政書士の行政庁に対する不服申し立てを業務とする法改定
日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:行政書士法改正に
反対する会長声明
三. 「業務情報公開」(資料9)
(4) 仕組
A. 業務の調査場所をWebで公開
• 閲覧無料のWeb地図上の調査箇所に「調査済」の印をつける。
• 調査済の印に調査箇所の所在地番、調査事務所名などの情報を組み込
む。
• 業務調査位置と会員が結びつく。
• 所在・地番を公開する。
B. 管理
• 会員が単独で項目を入力、削除、管理する。(主体)
• 全体管理は別組織となる。
C. 調査資料の流通
(資料10)
調査報告書、収集図書などの流通、販売。(電子出版)
• 登記に至らない調査図面などを公開する。
• 事務所に眠る資料、情報の再活用する。
(事例)
調査当時の現況(写真)との比較できる。
権利図、登記情報など
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(2) 意義(戦略)
A. 公共財としての活用
見えない法的品質を可視化することで不動産の品質を示す指標になり、
調査士の能力を社会に必要なものとする。
利用し易い環境により社会は価値ある情報提供者と看做す。
調査士を唯一無二の認証者へ導く。
事後責任救済(自己責任)型社会で求められる認証者へ発展する。
調査士法の目的を拡充する。
第1条「権利の明確化に寄与」の権利の範囲を豊かにし、義務、制限
にも広げる。
B. 専門家としては
信頼と地位の向上へ
印のある不動産の信頼性が認められると専門家への信頼も高まる。そ
して全国津々浦々にある印はブランド化し、安全性を求める国民と中古
家屋等ストック流通市場に移行する不動産業界とで安全と信用を守る業
務ブランドとして、その地位は向上。
不動産活用者の相談者に発展
地識人として活用される基盤とする。ADR業務、筆界位置特定、所有
権界位置の確認などの情報専門家として利用され、その経験、判断能力
を発揮できる環境となり、調査士法で広がった業務範囲を活かし具体化
が促進される。
地理空間情報提供の一翼を担う資格者へ
筆界から各種制限界までの情報取得、加工、提供の資格者として、登
記及び測量制度とは別制度に基盤を確保する。
C. 社会理念の変化に対応
瑕疵担保責任から事後規制責任(自己責任)へ
調査情報を容易く入手可能となるため購入者、利用者が自ら調査する
ことが常識となる。つまり、売り主責任より買い主責任が重視される法
体系への機運を盛り上げられる。
D. 業務改善
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権利の明確化へ合理的貢献
• 表示登記、筆界特定などの筆界、境界安定情報を業務情報公開地図に
より容易く確認できるため、効率的に不動産にかかる権利の明確化に
寄与できる。
• 訴訟、ADRにともなう調査情報も含めば、予防法務にも貢献できる。
業務情報の効率的伝達による調査業務の質的向上
• 既に調査済の不動産位置の確認、その調査者の情報入手が簡便化され
るため、隣接地や周辺地との整合性、正確性確保の調査が効率化でき
る。
• 精査報告書、規則93条調査報告書が効率的情報伝達の一つとなるた
め、報告書の利用が期待され、記載内容の質向上が見込まれる。
業務の安全性向上
• 会員間の筆界情報などの流通が進み、業務の間違いを防止し易くな
る。
会員間の結束と責任感の向上
• 調査資料の相互利用により会員間の結束意識の広がりと相互依存関係
から責任感向上が見込める。
• データセンターの普及にも貢献する。
広報
• 印の有無が良否比較に利用され、調査済の印を求める風潮も広がり、
依頼機会の増加が見込める。
• 不動産利用の際に必要不可欠のものとされ、調査会員へ利用者を導く
役割りを果たす。
収益の向上
• 情報販売(電出版等)による収益増。
• 相談、コンサルタント業務による収益増。
• 公開箇所の周辺地からの業務依頼の期待が高まる。
E. 市場
不動産取引での活用
調査資料、特に重要事項説明に適応した調査報告書(リスク報告書)
が求められる。
金融機関での活用
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調査資料、特に家屋・構築物の所有権確認、返還請求権、妨害排除の
有無等の調査報告書(リスク報告書)が求めらる。
建築・土木事業、公共事業での活用
建築時の敷地確認など設計者、建築確認検査機関、住宅性能評価機関
などの公的利用が可能となります。また土木工事における事前確認、完
了検査での利用もある。
公共事業での収用の際には、必要不可欠な資料になるはず。
*住宅履歴情報整備検討委員会の調査士版とする。
利用者が創りだす市場
地理空間情報社会の発展とともに新しい市場が創造され、その市場で
の活用を利用者自身が準備する。
四. 重要性
「説明と権利図」業務 +「寄り添い」業務 +「業務情報公開」業務
市場における標準(デファクトスタンダード)を築く
(参考)
寳金敏明弁護士の「格付け・認証」制度の提言(連合会報H24年1月号)
http://www.chosashi.or.jp/activity/publications/kaiho/img/
kaihou2011/201201kaiho.pdf
認証者へ。------> 実質的「公証人」を目指すことに繋がる?。
• こうした情報を細やかに所持しているのは土地家屋調査士。
• 「調査士会は、その情報を修正し、国民に提供するひつようあります。」
• 予防医療(法務)の専門家として、筆界情報の格付けを!
• 立法に頼らず、独自で立ち上げ。(独占規定以外の市場を築く。)
5.
市場への参入には
(1) なぜ、新たな市場へ進めないのか?
• 登記を乗り越える。
• 独占資格の立場を自ら乗り越える。
• 地図作りが独占資格に依拠している。(やり易い)
(2) 調査士と登記の再定義(各調査士の取り組み)
新たな業務
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• 担保精査
• 相続財産調査
• 証拠保全
•損害保険調査 etc
依頼者への精査書を届け、説明が大切
• 規則93条調査報告書は、登記所への精査書(表示登記に必要な情報のみ)
• 登記所は従的
「表示に関する登記における実地調査に関する指針(改訂)」への視点。
地図作りの視点を変更
• 官から民へ
• 国民の側に立った参加が求められている。
(3) 全国全会員の運動が必要
• 全国1万7千人の調査士が毎日、情報を更新し、その履歴を残す。
• 見えない法的品質を可視化する。
• 不動産の品質を示す指標を創る。
(4) 土地家屋調査士法第1条の改正 (資料11)
A. 調査士法の目的の変遷
昭和25年制定時
「不動産登記の基礎である土地台帳、家屋台帳の登録の正確さを図る」
昭和35年改正
「登記簿における不動産の表示の正確さを確保する」
一元化に合わせた表現となる。
昭和54年改正
「 不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し、
もって不動産に係る国民の権利の明確化に寄与する」
登記事務補完者から、権利保護者としての視点を追加。
B. 目的の質的変化
国家統治の基盤から個人の権利保護への転化。
課税のための「数量」から権利のための「領域と位置」明確化。
次世代は、「領域と位置」に「履歴」が加わる。(管理の概念を含む)
C. 権利の明確化の異なる展開
平成18年の改定、筆界特定手続と民間紛争解決手続の新たな「国民の
権利の明確化」手法。
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① 筆界特定手続•••••••登記所を媒介して。
② 民間紛争解決手続••••国民への直接の働きかけ。
対象は、
① 筆界特定手続•••••••筆界。
② 民間紛争解決手続••••筆界以外の境界。
D. 第1条と民間紛争解決手続の不整合
第1条「 不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し、
もって不動産に係る国民の権利の明確化に寄与する」
①「もって」は「表示登記を通じて」と理解
「もって」は手法、手段を意味で、「権利の明確化」は「登記手続
の円滑な実施に資」する手法と手段でのみ実現と限定解釈される。
② 民間紛争解決手続(第3条第1項7号)は登記所を媒介しない業務
「もって」を登記手続の手法、手段として限定すると、齟齬する。
E. 目的の分割へ
第3条業務との整合性は第1条より「もって」の単語を省くこと。
「 不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し、
不動産に係る国民の権利の明確化に寄与する」
第1条の目的は次に分離される。
①「 不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し」
②「不動産に係る国民の権利の明確化に寄与する」
民法以外の諸法規の権利義務と制限を内包
分離された「不動産に係る国民の権利の明確化に寄与する」は、登
記にない民法以外の諸法規の権利義務と制限も含むことが可能とな
る。(弁護士と同じ視点に立ち、事務弁護士の一翼を担う。)
今後の社会制度の発展への対応と不動産の空間概念および不動産に
係る様々な輻輳の明確化への根拠となる。
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