電力不足は第三次エネルギー危機 石油・都市ガス 東北ほぼ復旧

■電力不足は第三次エネルギー危機
日本経済新聞(2011.04.19)
今回の震災に伴う電力不足は、日本が過去に 2 度経験した石油危機に匹敵する危機であ
り、第三次エネルギー危機といっても過言ではない。
電力不足は東日本に限った話であり、電力料金が跳ね上がったわけでもない。その意味
では今回の衝撃は石油危機ほどでもないといえよう。しかし危機が持続するという点にお
いて、日本経済への影響は決して小さくない。
当面の課題である夏の電力不足は節電で乗り切れるかもしれないが、その分、生産は下
押しされる。冬以降の電力不足に対処するため火力発電への依存度を引き上げることにな
ろうが、それで問題が解決されるわけではない。
日本は発電の 23%を原子力に依存しており、2019 年にはこれを 41%に引き上げる計画
であった。原発事故でエネルギー政策の抜本的見直しが不可避となったが、自然エネルギ
ーの開発は容易ではなく、日本は中長期的のも電力不足に直面する可能性が高い。当面は
火力への依存度を高めざるをえないが、火力はあくまでつなぎの電源である。日本は先進
国として、いつまでも二酸化炭素(CO2)削減の問題にほおかむりすることは許されない。
世界的な資源価格の高騰が続けば、結局は石油危機になる。
この危機を乗り切るためには、重要サイドの改革が不可欠である。省電力型の産業構造
へのシフトはもとより、増え続けてきた家庭の電力消費を抑制する必要がある。省電力家
電の普及、照明のLED化、エコ住宅化、太陽光パネルやコージェネの設置促進など家庭
でできることは多い。オフィスや商業施設も省電力、エネルギー効率改善の余地は大きい。
都市全体のシステムやワークスタイル、ライフスタイルなど社会構造の変革も必要である。
単位的には省電力化はコスト上昇要因にあるが、省電力型の製品やサービスに対する需
要が拡大すれば、量産効果も生まれ、新たな産業を生み出すチャンスのもなる。
日本は 2 度の石油危機を軽薄短小化で克服した。今回の危機も日本の技術力とシステム
改革でチャンスに変えることができる。省電力製品やシステムを日本の新たな産業競争力
の源泉とすることができれば、中間層の拡大とともにエネルギー消費の拡大に直面しつつ
あるアジアの重要を取り込むこともできる。政府は早急に成長戦略を練り直すべきである。
■石油・都市ガス
東北ほぼ復旧
日本経済新聞(2011.04.19)
石油連盟は 18 日の記者会見で、
「東北の給油所は 9 割が再開し、東北地方の給油は元に
戻った」と述べ、東日本大震災後の東北のガオリン、灯油などの製品不足が事実上収束し
たことを明らかにした。製油所の再稼働や稼働率向上で出荷量は震災前の水準に戻ってお
り、油槽所などの物流拠点も大部分が復旧した。石油連盟によると、東北六県の大手元売
り 7 社の系列給油所 2647 ヵ所のうち、15 日時点で 92%営業している。
日本ガス協会は 18 日、都内で記者会見し、東日本大震災で供給が停止した都市ガスが津
波などによる被害地域を除き月内に復旧する見通しになったことを明らかにした。協会が
中心となり全国の 51 事業者を現地に派遣、同日までに対象戸数の約 99%の復旧が完了した。
なお供給停止が続く石巻ガス(宮城県石巻)の約 4500 戸の復旧に全力を挙げる。
■自家発電 150万 キロワット拡大 ( 原発1基分 化学など 20 社で )
=
夏の電力不足、企業が対策
=
日本経済新聞(2011.04.22)
産業界が電力不足対策を本格化する。化学、石油などは自家発電設備の稼動率を上げて
東京電力からの調達を減らし、余剰分を東電に供給する。東電管内で主要企業が震災後に
積み増した発電能力は原子力発電所1基分を越える 150 万 キロワットに達した。自動車業界は
平日の2日間を一斉休業とし電力使用を平準化させる。こうした対策で東電の供給不足が
補われるため、経済産業省は 25%としている企業の使用電力の削減目標を引き下げる方針
だ。
三菱化学は 7 月から鹿島コンビナートの自家発電設備で発電した電力のうち 20 万キロワット
を東京電力に供給する。コンビナート全体の電力をまかなった上で、余剰分を東電に供給
する。三井化学、住友化学も発電量を増やす方針で、化学界全体で震災後、30 万~40 万キロ
ワットを上積みする。
都市ガス、石油のエネルギー業界は震災後、IPP(独立系発電事業者)として手がける火
力発電設備の稼働率を引き上げ、約 60 万キロワットを上積みした。
東京ガスは JX 日鉱日石エネルギー、昭和シェル石油などと出資する首都圏の 4 ヶ所の火
力発電所がいずれもフル稼働の状態。東燃ゼネラル石油の川崎工場(川崎市)も稼働率を
引き上げた。
鉄鋼では JFE スチールが東電から要請があれば、平日の昼間のみ稼動している東日本製
鉄所千葉地区(千葉市)の火力発電を休日も含めた 24 時間体制にし、毎時約 25 万キロワットを
追加供給できるとしている。東日本旅客鉄道(JR 東日本)は自社の火力・水力発電所の稼
働率を震災後に1割引き上げ 60 万キロワットにした。
震災後、東電管内に大規模な自家発電装置を持つ主要企業 20 社が積み増した発電量を集
計したところ、
150 万キロワットを超えた。
関東地区には約 1640 万キロワットの自家発電装置があり、
昨夏の平均稼働率は 5 割強で、計算上は約 750 万キロワットの余力がある。
東電は 15 日時点で、夏場の供給力を 5200 万キロワットと発表したが各社からの供給分を含め
5500 万キロワットに引き上げる見込み。
これを受け経済産業省は 25%としている企業の使用電力の削減目標を引き下げる方針で、
15%を軸に調整している。
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自 家
発 電 >
電気を消費する事業者が発電設備を用意して
自らの需要をまかなうこと。石油コンビナートや
製鉄所など大量に電力を消費する施設では電力
会社の発電所に匹敵する大型設備を備えている
ケースが多い。重油を燃料とする設備が一般的だ
が、近年は風力など環境負荷の小さい設備も増え
ている。
経済産業省の認可ベースでは 2010 年 9 月末で
の全国の自家発電の出力合計は 6035 万キロワットで、そのうち5割が東北・関東地方。自家発
を昼間だけ稼働させたり、燃料高の次期には休止して東電からの購入に切り替えたりなど
の方法でコストを抑制している企業も多い。
■「 隠れ電源 」生かせ ・ 「 化学・石油 」自家発電を拡大
日本経済新聞(2011.04.22)
電力をつくるのは電力会社だけではない。一般の事業会社でも、化学や石油など素材メ
ーカーを中心に自家発電能力を持つ企業は多い。その規模は想像以上に大きく、経済産業
省によると関東地区には 875 の自家発電設備があり、合計の発電能力は 1639 万キロワットに達
する。
一方、これら設備の平均稼働率は昨年松の場合で5割強にとどまっていた。つまり単純
計算すると、各企業が持てる能力を 100%稼働すれば、残る5割弱に相当する約 750 万キロワ
ットの電力供給を上積みできることになる。東京電力管内の夏場のギャップが 500 万キロワット程
度と見積もられている現状で、無視できない規模である。もっともすべての設備が長い時
間稼働できるかどうかは分からない。一部の設備は常用電源ではなく、非常時用に一日か
ら数日の運転を前提にしたものもあり、その場合は一夏まるまる動かすのは厳しい。
また、自家消費の限度を超えて発電し、それを電力会社に売電するには特別な設備が必
要だ。自家発電の実力がどの程度で、今夏の電力不足にどの程度寄与できそうか、政府や
電力会社は精査を急いでほしい。
企業サイドの不安材料はコストと燃料調達だ。石油高が続くなかで、重油による自家発
電の場合、1キロワット時当たりの発電コストは現在 16~17 円程度。一方で電力会社から買電
すれば 11~12 円程度ですみ、本来なら買ったほうが有利だ。
また夏場にかけて燃料の重油やガス、石炭を安定調達できるかという課題もある。
「非常
時だからできる限りの協力はするが、燃料調達などで政府も協力してほしい」という声が
多い。電力不足を乗り切れるかどうかは、日本経済の将来を大きく左右する。自家発電と
いう普段は目立たない「隠れ電源」をどう活用するか、官民の知恵が試される。
■自 動 車 、 平 日 2 日 一 斉 休 業
日本経済新聞(2011.04.22)
トヨタ自動車や日産自動車など国内自動車メーカーが加盟する国内自動車工業会は、夏
の電力使用を平準化するため平日に 2 日間一斉休業を設定する方針を固めた。電力消費の
少ない土・日曜日に工場を動かし、平日の2日間を連続休業とする。複数の完成車メーカ
ーと取引がある部品業界も一斉に休み、効率よく節電できるようにする。
対象は東京電力と東北電力の管内にある工場や事務所、販売店など。工場では 12 社、13
拠点が参加する見込み。乗用車では国内生産能力の 4 分の 1 に相当する 245 万台分の設備
が対象となる。中部や中国地方など、東電・東北電力管内以外の拠点でも自工会の方針に
合わせるよう要請する。
期間は 6 月末から 9 月末を想定して検討している。政府の電力需要対策本部が定める節
電計画に沿って最終決定する。自工会では輪番操業への他の業界の参加を日本経団連に提
案しており、他業界の動向をみながら何曜日を休業とするかを決める。他業界の賛同がな
い場合も自動車業界だけで一斉休業日を設定する。
休業日の変更は組合との協議事項であり、自工会は自動車総連と平時の休業日設定につ
いて交渉を始めた。
■夏の電力不足「想定せず」
= 原発点検長期化でも、関電、独立系から調達
=
日本経済新聞(2011.04.26)
関西電力は 25 日、電力需要が最も膨らむ夏の停電事故を想定した復旧訓練を報道各社に
公開した。訓練後の会見では原子力発電所の点検長期化などによる今夏の電力不足は想定
していないと明言。万が一、自社で不足する事態になったとしても、独立系の発電業者か
ら電力融通を受けるなどして、計画停電は避けられるとの考えを強調した。
訓練は例年、最需要期を控えた5月ごろに実施している。今回は京都府内の主力発電所
で送電線がショートし、周辺一帯が停電になったと仮定。大阪市にある中央給電指令所が
京都市の拠点とともに電力供給の回復や原因の特定に取り組んだ。
関電は今年 8 月の電力使用ピークを 2956 万キロワットと見込み、供給力は約 11%多い 3290
万キロワットあるとの計画を公表している。計画は現在、定期点検中で稼働していない原発3機
の運転再開を前提にしている。
東京電力の福島第1原発の事故を受け、関電の原発でも事故の防止策や徹底した点検で
運転再開の時期が大幅に遅れる可能性はある。関電は火力発電所の稼働や他の発電事業者
の供給を増やすことで「(計画停電を実施するような)電量不足に陥る事態は想定していな
い」との説明を繰り返した。」
■夏の節電目標15%に緩和
=供給不足、残る懸念。政府内に慎重意見(東電見通しは「言い値」
)=
毎日新聞(2011.04.29)
東京、東北電力管内での夏のピーク時の政府の節電目標が、企業、家庭とも昨夏比一律
15%に緩和された。東電が、例年のピーク需要に匹敵する 5500 万キロワットの供給力を確保で
きる見通しになったため。ただ、昨夏並の猛暑になれば、重要は 6000 万キロワット近くに達す
る可能性がある。火力発電所などが想定通りに稼働しないおそれもあるため、政府は東電
の供給力を精査する必要があると判断。大口需要家を対象にした電気事業法に基づく使用
制限令の発動方針を維持するとともに、今週中に予定していた電力不足時の取りまとめを
連休明けに延期した。
政府は 8 日、大口需要家に 25%、中小企業など小口に 20%、家庭に 15~20%―程度の
節電を、東電、東北電には供給力の上積みを求めることとした、電力需要対策の骨子をま
とめていた。
しかし、工場を一度止めると、再開に
時間のかかる半導体産業などが「目標の
達成は困難」と反発。復興の原動力とな
る経済活動への影響を懸念する声が広
がったことから、東電の供給力上積みに
あわせ、削減目標を緩和することにした。
一方、政府内には「東電の上積み見通
しは『言い値』。検証無しに信頼してい
いのか」との慎重な見方が根強い。たと
えば東電が「夏の戦列に入れたい」と復
旧を急ぐ広野火力発電所(福島県広野町、
5基計 3800 万キロワット)
。津波で大きな被害を受けた上、現地では依然、余震が続いている。
横須賀火発など老朽化で停止していた発電所の再稼働も計算に入れており「被災、老朽施
設の総動員態勢でどこまで乗り切れるのか」
(経産省幹部)との厳しい声もある。また、昨
年並みの猛暑になれば大幅な供給不足が見込まれることから、海江田氏は「引き続き節電
をお願いしたい」とも表明した。
節電目標がわずか 3 週間足らずで緩和されたことについて、本来歓迎するはずの経済界
からも戸惑いの声が上がる。日本経団連の米倉会長は 26 日の会見で、従来の 25%削減を維
持する方針を表明した。
「節電意識が緩み、重要が逼迫する懸念がある」ためだ。28 日の決
算会見でホンダの池史彦専務も「自工会が計画している 25%削減が前提」と強調した。
東北電については、十分な供給力確保が困難として、東電から電力融通を検討する。