下肢静脈瘤のお話 - 森塚クリニック

For Informed Consent
03/01/28
TOSHIHIKO MORITSUKA, M.D. & Ph.D.
下肢静脈瘤のお話
人は直立歩行をすることによって、脳が発
達し、進化したと言われています。しかし、直
立歩行はよいことばかりではありません。これ
からお話する「下肢静脈瘤」も、直立歩行する
ヒトならではの病気なのです。
肺
胸腔
血液は、心臓の収縮によって動脈血として
心房
全身に送り出されます。全身に行き渡った後に
心室
心臓に戻る血液を静脈血と呼びます。静脈には
動脈のような「血圧」はありません。下半身に
行った血液は、なんとか重力に対抗して、心臓
まで戻らなくてはならないのです。これが直立
歩行の問題点です。そのために、いくつかの仕
筋肉
組みが備わっています。
胸腔内陰圧:息を吸おうとすると胸の中
が陰圧になり、空気を吸うと同時に、血
液を吸い上げる力にもなります。
動脈
静脈
心室の拡張:心臓は収縮したあと拡張し
静脈弁不全が生じると、
ます。これが血液を吸い上げる力になり
血液が逆流して、表面
ます。
の静脈が膨れます。
筋肉ポンプ:下肢の筋肉が動くと、内部
の静脈をギュッと押しつぶして、心臓側
へ押し出す力になります。
これらの作用によって、下肢の静脈血は心臓へと戻ります。そして、静脈の途中にはいくつもの
「静脈弁」があって、吸引力が低くなっている間にも、簡単には逆流しないような構造になってい
るのです。
静脈瘤を医学的に表現すると『静脈の内腔が異常に拡張し、屈曲・蛇行した状態』ということに
なります。原因から表現すれば、『静脈の弁機能不全のために、血液の重力による逆流で静脈が拡
張した状態』ということになります。正しくは、これは「一次性静脈瘤」と呼ばれ、先天性の血管
奇形、動静脈瘻、深部静脈血栓症が原因で生じるものを「二次性静脈瘤」と言います。両者は治療
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TOSHIHIKO MORITSUKA, M.D. & Ph.D.
方法が異なるため、きちんと鑑別するのが医師の役目になります。
一次性静脈瘤の特徴は、次の通りです。【1】立位で顕著となる。【2】中年以降の女性に多く、
立仕事・肥満・妊娠により悪化する。【3】自覚症状のないこともあるが、下肢の重い感じ、疲労
感、疼痛の訴えがあり、長時間の立位により増悪する。【4】下肢を挙上すると症状が速やかに軽
快する。【5】経過の長いものは、皮膚の肥厚、色素沈着、皮膚潰瘍を生ずることがある。
まず、下肢静脈瘤を根本から治療することは、残念ですが現在の医学ではできません。つまり、
『ダメになってしまった静脈弁をすべて元通りに治す』という治療方法はないということです。
一般には、弾性ストッキングの着用、就寝時に下肢を高くするなどの保存療法が行なわれます。
これらは、静脈瘤の更なる増悪を防ぐ方法であって、静脈瘤をなくすことはできません。
「ダメになった静脈を治す」方法はありませんが、「ダメになった静脈をなくす」治療ならばあ
ります。ひとつは外科的な手術治療です。
「静脈抜去術」と言われ、「ダメになった静脈を抜き取っ
てしまう」という治療です。もうひとつは「静脈瘤硬化療法」と呼ばれる治療方法で、
「ダメにな
った静脈を薬剤で固まらせて、血液が逆流しないようにする」という治療です。
静脈を抜き取ったり、固まらせても大丈夫なのかとご心配でしょう。結論として言えば、深部の
静脈が開存していれば、表面の静脈はなくなっても心配ないのです。かえって、潰瘍ができたり、
色素沈着が生じたりしているのであれば、その原因をなくす方が利益があるということです。
当院では、二次性静脈瘤は適応とはしていません。すなわち、先天性血管奇形・動静脈瘻・深部
静脈血栓症は硬化療法の適応外です。また、アレルギー体質の方、心臓病・糖尿病・感染症・妊娠
中・授乳中の方は、硬化療法の禁忌と考えています。かなり太い静脈瘤の場合は、適応外ではあり
ませんが、逆流量が多いために治療成績がよくありません。従って、径が 6 ミリを越える静脈瘤は
硬化療法単独では難しいでしょう。
硬化療法の利点は、手術療法のように入院の必要がなく、麻酔も不要で、さらに切開創などが残
らないことです。簡便さと美容的な面では、硬化療法が最も優れた下肢静脈瘤の治療方法です。
硬化療法の欠点は、副作用防止のために一回の治療に使用できる硬化剤の量が限られており、こ
のために一回で完治できない場合があるということです。この場合は、繰り返して治療が必要にな
ります。また、1ヶ月間は弾力包帯で圧迫し、硬化剤を注入した静脈に血液の再流入を防ぐ努力が
必要になります。つまり、患者さんご本人の努力も必要です。硬化療法の合併症としては、薬剤ア
レルギー・色素沈着などの報告がありますが、頻度は低く、比較的安全な治療とされています。
森塚クリニック
胃腸科・消化器科・外科・肛門科
〒238-0042 神奈川県横須賀市汐入町 2-7
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俊彦
Toshihiko MORITSUKA, M.D. & Ph.D.