( 28 ) No.279 November 2008 メキシコ、 GM、 Ford による北米内サブ 加・墨‐メキシコ 2008 年夏以降の世界的な金融危機と米国経済の低迷を 受け、 自動車部品サプライヤー 2 社がメキシコへの新規 投資計画を変更した。 フランス Michelin はメキシコでの 第 2 工場新設を白紙撤回。 また、 トヨタ系サプライヤー の豊田合成は、 トヨタの米国での減産に伴い新工場稼働 を延期している。 2007 年後半以降の米国市場の後退を受 け、 当初、 メキシコでは 2008 年以降の自動車減産が予測 されていた。 しかしながら、 自動車メーカー各社はメキ シコのコスト・ロジスティクス上の優位性や、 南米およ び欧州向けの輸出増からメキシコでの増産を進めている。 メキシコ経済省は、 2006 年から 2010 年の自動車メーカー による総投資額は少なくとも 116 億ドルと見込んでいる。 部品産業も含めたメキシコの自動車産業は拡大・成長基 調にあり、 金融危機の余波は暫定的であるとみられる。 欧州・南米向けの自動車輸出が増大しているとはいえ、 メキシコの自動車生産台数中 6 割強は米国・カナダ輸出 向けである。 米国の市場トレンドが大型車から小型乗用車 にシフトしている今日、 自動車メーカー各社はサブコンパ クトモデルの低コスト生産を追求せざるを得なくなってお り、 人件費が米国の約 4 分の 1 であるメキシコを生産拠点 として選んでいる。 GM は 2008 年 8 月に San Luis Potosi 州の新工場で Chevrolet Aveo の生産を開始、 Ford は 2010 年より欧州モデルの Fiesta を Cuautitlan 工場にて 生産予定である。 さらに、 超小型車の生産計画を打ち出 したのは日産で、 2010 年に年産 15 万台規模の小型モデル 生産を開始し、 中南米市場向けに輸出する計画である。 現在サブコンパクトモデルを北米で生産していないメーカー にとっても、 メキシコでの生産は一つの選択肢となろう。 【メキシコ、 自動車メーカーの主な増産計画 (2008 年 6 月以降発表事項)】 メーカー 動向 新工場稼働 GM HEV 生産 Fiesta 生産 Ford 生産能力拡大 VW 生産能力拡大 超小型車生産 日産 現地調達率拡大 日野 注) 新工場建設 内容 ・2008 年 8 月、 San Luis Potosi 州の新工場でサブコンパクトモデル、 Chevrolet Aveo の生産を開始した。 ‐生産能力は 30 台/日、 メキシコ国内向けに加え、 米州各国に輸出予定。 ‐工場開設に伴う関連投資額は約 10 億ドル。 フル稼働で 17,500 人の雇用を見込む。 ・2009 年春に米国投入予定の Pontiac G3 を生産開始予定。 ・当初カナダ Oshawa Truck 工場で生産予定であった 2009MY のフルサイズピックアップトラックの HEV モデルをメキシコ Silao 工場で生産す る予定である。 ・2010 年初より Cuautitlan 工場でサブコンパクトモデルの Ford Fiesta (ハッチバック、 セダン) を生産開始する予定。 ‐それに伴い、 同工場は F-Series 生産拠点から北米向け小型乗用車生産拠点に変更する意向。 ‐Ford は小型車生産開始を含め、 メキシコ生産拠点に総額 30 億ドルを設備投資費として拠出する。 うち 24 億ドルを Ford が、 残り 6 億ドルを サプライヤーが出資する。 ・2012 年までに Hermosillo 工場、 Cuautitlan 工場合計の年産能力を 50 万台に引き上げることを発表した。 ‐生産能力拡大に伴い過去 5 年間で 50 億ドルを投資、 2007 年の両工場の生産実績は約 30 万台。 ‐Ford Fusion と Mercury Milan のハイブリッドモデルを生産モデルとして追加する計画。 ・2008 年 9 月、 2010 年までに Puebla 工場の年産能力を 45 万台から 55 万台に引き上げることを発表した。 ‐2008 年より 3 年間で総額 10 億ドルを投資する計画。 2010 年に世界市場向けロワーミディアムセダンの新モデル (第 6 世代 Jetta の可能性) を生産開始予定で、 2011 年に生産規模が 55 万台に達する見通し。 ・2008 年 8 月、 Aguascalientes 工場で 2010 年 2 月より A プラットフォームベースの超小型車を生産開始することを決定した。 ‐当初ブラジルでの生産を検討していたが、 メキシコの方が部品サプライヤー集積度が高いため。 ‐年産 15 万台を計画、 中南米市場向けに輸出する計画。 ・2008 年 8 月、 日産はメキシコでの部品購買を拡大することを発表した。 ‐2008 年 8 月現在 Tier 2、 3 部品の 36%をメキシコ外から調達しているが、 向う 2∼3 年で 10%とし、 調達量の 90%をメキシコ内で調達する方針。 ・2010 年に生産開始予定の A プラットフォームベースの超小型車生産では、 ほぼすべての部品を現地調達する方針。 ・2008 年 8 月、 三井物産との合弁により Guanajuato 州に新工場を建設することを発表した。 ‐2008 年 8 月中に 「Hino Motors Manufacturing Mexico」 を設立、 資本金 900 万ドルのうち日野自動車が 80%、 三井物産が 20%を出資する。 ‐生産開始は 2009 年 7 月で、 従業員数は 40 人を計画。 ‐積載量 4 トンクラス以上の Hino 500 シリーズを年 1,200 台生産する予定。 部分は小型乗用車生産に関する投資計画。 (各社広報資料、 各種報道より作成) 【メキシコ、 部品サプライヤーの主な増産・減産動向 (2008 年以降発表事項)】 メーカー 動向 ArvinMeritor 新工場稼働 Getrag DCT 合弁 工場設立 Michelin 第 2 工場 白紙化 Ternium 大規模投資 発表 豊田合成 工場稼働 延期 日本ガイシ DPF 量産 計画 喜怒川ゴム 新工場設立 アーレスティ 生産拡大 内容 ・2008 年 8 月、 3000 万ドルを投資し、 Monterrey 市近くの Cienega de Flores に新アクスル工場を稼働した。 ‐当初の従業員数は 146 人だが、 フル稼働での従業員数は 500 人の予定。 ・Ford と提携し Mexico 州 Irapurato に工場を新設し、 2009 年∼2010 年にデュアルクラッチトランスミッション (DCT) を生産予定。 ‐設備投資額は 5 億ドルで、 年産 35 万基のデュアルクラッチトランスミッションを生産する。 ・2008 年 8 月、 北米でのタイヤ需要減を受け第 2 工場建設の白紙化を決定した。 ‐Michelin は 7.4 億ドルを投資し、 2010 年に Guanajuato 州に第 2 工場を稼働、 1,300 人を雇用予定であった。 ‐Michelin によれば、 2008 年 6 月の北米でのタイヤ売上は前年同月比 14.9%減であった。 ・鉄鋼企業の Ternium (イタリア・アルゼンチン資本) は、 42 億ドルを投資し Nuevo Leon 州に大規模な鋼板工場を設立する計画を発表。 ‐Nuevo Leon 州の Pesqueria 市に圧延・表面処理鋼板の製造工場を建設する。 自動車産業や建設業での鋼板需要の拡大を狙ったもの。 2012 年 に第 1 工場を、 2013 年に第 2 工場を稼働する。 ‐同工場設立に伴い 1,500 人の雇用が見込まれる。 ‐メキシコでは鋼材の 25%を輸入に頼っているが、 工場設立により国内の鋼材調達が拡大し、 輸入量が低下する見通し。 ・3 億円を投資しメキシコに現地子会社 「Toyoda Gosei Automotive Sealing Mexico」 を設立し、 San Luis Potosi に新工場を稼働予定であった が、 延期された。 ‐工場設立には 1,250 万ドルを投資。 敷地面積 16,000㎡、 建屋面積 11,000㎡。 2010 年までに従業員を 500 人に増やす。 トヨタのテキサス工場向 けにシーリング材を生産予定で、 2010 年に売上高 31 億円を見込んでいた。 ‐同工場は 2008 年 10 月に稼働予定であったが、 トヨタの北米減産を受け延期することを決定。 ・2009 年 9 月より Nuevo Leon 州の Monterrey 市郊外の新工場で DPF を生産予定。 ‐同拠点ではディーゼル向けハニカムセラミックスとコージェライト製 DPF を年 100∼120 万個生産予定。 ‐メキシコ新工場開設に 150 億円を投資。 新工場の敷地面積は 24 万㎡。 ‐米国で 2010 年に施行されるディーゼル車の排ガス規制 「US10」 によって環境規制が強化されるため、 需要増を見込み生産体制を整える狙い がある。 ・2008 年 9 月、 北米での日系、 韓国メーカー向け納入拡大に向けメキシコに新工場を設立する計画を明らかにした。 候補地を 2009 年までに決定 し、 2010 年の稼働を目指す。 ・2008 年 9 月、 Zacatecas 州にあるアルミダイカスト工場の生産能力を拡大する方針を明らかにした。 ‐既存工場に隣接する土地に工場を増設し、 敷地面積を現行より 50%広い 10 万㎡とする。 ‐アルミダイカスト生産を増強し、 生産の一部を米国 Ohio 州工場から移管する。 ‐既存工場は 2007 年に稼働している。 2010 年度を最終年度とする中期経営計画ではメキシコでの売上高目標を 2009 年度 3 月期予測の 2 倍以上 となる 105 億円に設定している。 (各社広報資料、 各種報道より作成) 世界自動車調査月報 No.279 November 2008 ( 29 ) コンパクト車拠点投資で部品産業も活性化 North America 自動車部品産業がメキシコに新規投資をする背景とし ては、 自動車メーカーの増産対応以外に複数ある。 第 1 に、 サプライヤーが北米事業の再編時に生産拠点を人件 費の安価なメキシコに集約していること、 第 2 に欧州サ プライヤーの場合、 為替リスクヘッジのために当初欧州 で生産し米国に向け輸出していた部品をメキシコ拠点か らの輸出に変更していること、 第 3 に米国の環境規制強 化に伴う新規投資の必要性がある。 例えば Ford は米国 の燃費規制 CAFE 基準の強化に向け、 製品の燃費低減が 求められており、 2009 年以降にドイツ Getrag と合弁で デュアルクラッチトランスミッション工場を稼働予定。 日本ガイシは DPF の量産計画を発表、 2010 年の米国で のディーゼル車向け排ガス規制 (US10) 強化に伴う需要 増を見込む。 また、 自動車メーカーがサブコンパクトク ラスの小型乗用車の生産を計画し、 欧州あるいは日本メー カーの開発した製品を北米市場向けに導入するため、 今 後はベース車の開発に携わってきた欧州・日本サプライ ヤーによる新規投資が拡大する可能性もある。 更なる産業発展のため、 メキシコ政府も大規模なインフラ 整備計画を始動している。 2007 年に発足した Carderon 政 権は、 2012 年までの 5 カ年計画で、 道路・港湾やエネルギー セクター等の抜本的な改善と新規整備に総額 2,260 億ドルを 投資する計画である。 計画が達成されれば、 自動車・部品 生産の製造・輸送コストの低減や輸送効率の向上に繋がる。 メキシコ経済省は部品生産を含む自動車産業の生産額見通 しを、 2006 年の 410 億ドルから 2015 年に 780 億ドル、 2030 年 には 1,180 億ドルに拡大すると予測、 インフラ整備計画が更 (鍵山) なる投資を呼び込むための追い風となるであろう。 【メキシコ、 世界的な金融危機の影響は軽微、 中長期的に自動車産業への投資は拡大】 Secretaria de Economia Minister、 Raul Urteaga Trani 氏へのインタビュー 2008 年 10 月 10 日、 メキシコ経済セミナー、 名古屋商工会議所にて Q:2007 年以後米国経済の停滞が懸念されている。 米国自動車市場の後退により、 最近になって Michelin は第 2 工場建設を白紙化し、 トヨタの米国 での減産を受けトヨタ系サプライヤーがメキシコでの投資を延期している。 このようにメキシコでの投資を白紙化したり、 延期する部品サプライ ヤーが続出しているが、 こういった状況は今後も続く見通しか? A:確かに世界一の経済大国である米国の自動車市場後退の影響は懸念される。 しかしながら、 製造業にとってメキシコは現在米国よりも投資環境 として魅力がある。 米国経済悪化が懸念される状況であっても、 低コストでの生産という利点を考えると、 多くの自動車メーカーは次期投資国と してメキシコを候補とする。 確かにフランスタイヤメーカーの Michelin はメキシコでの第 2 工場建設を白紙撤回した。 しかしこれは一時的なもの にすぎず、 世界経済が回復基調となれば同社もメキシコでの投資計画を再検討するであろう。 また、 トヨタ系サプライヤーの投資計画は延期され たが、 トヨタ本体は長期計画の一貫でメキシコへの投資を検討している模様だ。 トヨタは現在、 メキシコ北部に小規模のピックアップ生産工場し か有しておらず、 メキシコでの第 2 工場建設について調査中である。 トヨタがメキシコへの投資を検討する理由は 2 つある。 1 つ目に、 トヨタに は北米でサブコンパクトカーを生産する工場が必要であるため、 コスト、 ロジスティクス上の優位性を考えると、 メキシコが妥当だ。 また、 サブ コンパクトカー生産においては、 (製品をより安く売るために) 工場建設や、 労働者の賃金面、 輸送コストなどあらゆるコストを安価に抑えるため にもメキシコでの工場設立が最良の選択肢である。 トヨタのメキシコ投資は非常に慎重であるが、 今後数ヵ月内に投資計画が発表されることを期 待している。 Q:ということは、 長期的なビジョンとしてはメキシコへの投資は増加すると? A:そうだ。 米国景気が後退しているとはいえ、 GM、 Ford、 Chrysler も投資計画を持っており、 現在進行中だ。 米国 3 社もメキシコでの増産に際 し、 サプライヤーにメキシコへの投資を進めている。 よって、 サプライヤーがメキシコへの投資を踏み止まるという現象は一時的なものにすぎず、 今後も投資は拡大するとみている。 Q:BANCOMEXICO (メキシコ中央銀行) は、 メキシコに生産拠点を持つサプライヤー数が 2007 年に約 1,060 社であるのに対し、 2010 年に 1,620 社まで拡大すると予測しているが、 この数字は妥当か? A:妥当な数字だ。 サプライヤーの投資計画を考慮すると、 今後数年内に 1,620 社まで拡大する余地は十分ある。 具体的な増加数を出すのは困難で あるが、 米国 Big3 や、 VW がメキシコで増産体制にあり、 工場が増設されるたびに、 それぞれ約 25∼50 のサプライヤーの新規工場も設立される。 自動車メーカーの新規投資計画が 10 件ほどとなれば、 2010 年にサプライヤー数が 1,620 社に増加という数字は的確である。 Q:サプライヤー数は増加傾向にあるが、 現在メキシコの自動車部品貿易収支は赤字だ。 今後これが黒字転換する可能性は? A:メキシコでの自動車部品生産高は 2007 年に 280 億ドル強 (過去最高) となったが、 確かに貿易収支は赤字だ。 しかしながら、 完成車生産に注目 すると、 輸出比率が高い (2007 年では 8 割弱が輸出向け)。 完成車輸出台数は年 160 万台規模であり、 (貿易収支は黒字である)。 完成車メーカー はメキシコで (マキラドーラ制度など部品輸入関税等の) 税制上の優遇を受け、 輸入部品で完成車を生産し輸出している。 完成車輸出は、 部品輸 出より採算がとれ、 利益率が高い。 よって、 完成車貿易収支が黒字である以上、 部品貿易収支が赤字で推移していることは深刻な問題ではない。 部品を安価に輸入して、 より高価な完成車として輸出すればよいからだ。 また、 メキシコで生産される完成車は廉価車ではなく、 米国、 欧州など 環境・安全規制の厳しい市場向けの高額なモデルが多いため、 輸出する際の利益率も高くなっている。 Q:メキシコは他国・他地域との FTA 締結推進国であるが、 今後インドや中国といったアジア諸国との FTA 締結も考慮に入れているのか? A:メキシコ政府は自由貿易・輸出拡大政策を推進しており、 それが今日の投資拡大に結び付いていると考えている。 2008 年現在アジア諸国の中で 自由貿易体制が整っているのは、 EPA (経済連携協定) を発行している日本のみだ。 中国、 インドとの FTA は検討中でまだ調査が必要となる。 それよりもプライオリティーが高いのは韓国との FTA で、 現在政策・貿易・関税等多角的な面から交渉中である。 NAFTA 加盟国であるため米 国・カナダとの自由貿易体制も整っているし、 複数の南米諸国とも FTA が発効している。 現在ペルーとの FTA 交渉が最終局面に入っており、 数 週間後に締結する見通しだ。 ブラジルとは完成車・自動車部品分野において自由貿易となっているが、 非常に表向きの色合いが強く、 まだ規模は 小さい。 メキシコ、 ブラジル両国に拠点を持つ自動車メーカーとサプライヤーが必要量の完成車や部品を輸出入しているのみだ。 ひとつ言えるこ とは、 このような世界的な経済危機の中では、 今後リスク軽減のためにも、 メキシコ対一国間との FTA よりも、 多国間との FTA が重要となって くる。 FTA の一本化をすることで、 リスクの際の対応策を合同で講じることができる。 また、 メキシコにとっても、 多国間との FTA が成立して いることで、 貿易の米国依存を軽減することができる (今回の金融危機の影響も最小限に食い止めることができる)。 世界自動車調査月報
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