〈小説と現実が入りまじり…〉 ジャーナリスト 想がとめどもなく膨らんでゆく。 マとエマ、現実と小説が入りまじった妄 だ が、 『 ボ ヴ ァ リ ー 夫 人 』な ど 読 ん だ こともない現代っ子のジェマは、そんな 監督アンヌ・フォンテーヌである。 うラブ・コメディに仕上げたのは、女性 会を重ねる。その現場を目撃したマルタ ジェマは、夫の目を盗んでエルヴェと密 という結構なご身分。気分晴らしに村へ 場。村 の 古 い 城 に 滞 在 し て 受 験 勉 強 中 松本 侑壬子 うに人生を楽しもうとする。そこへまる こ と な ど お 構 い な し。自 分 の 好 き な よ フランス・ノルマンディ地方の美しい 田園地帯にある小さな村。パン屋のマル ンは、仕事も手につかない。 でア ポロンのよ う な 美 青 年エルヴェ登 ばれている。片田舎に住む若妻エマ・ボ タンはパリで十二年 間 出 版 社 勤 務の後 ネ リ、クロー ド・シャブロール、アレキ ジャン・ルノワ ール、ヴ ィンセント・ミ 世界十大小説の一つに挙げ、これまでに 作 家 サ マ セ ッ ト・モ ー ム は こ の 小 説 を と い う 言 葉 も よ く 知 ら れ て い る が、米 ベール自 身の「ボヴァリー夫人は私だ 」 のエマさながらに奔放で、目が離せなく ( 頭 文 字 の G を 取 れ ば エ マ だ )は、小 説 と知ったマルタンの驚き。美しいジェマ と! ジ ェ マ と チ ャ ー リ ー・ボ ヴ ァ リ ー あ る 日、向 か い の 家 に 若 い イ ギ リ ス 人夫婦が引っ越して来た。その名が、何 夫人 』だ。 繰り返し愛読しているのが『ボヴァリー き甲斐。とりわけ、ぼろぼろになるまで タンは、ある行動に出るのだが ・・・。 い女よ 」との妻の声も耳に入らないマル 滲 み 出 す。 「 あ ん な の、平 凡 な つ ま ら な ファブリス・ルキーニの絶妙な表情から 恋 するおじさんのかわいらしさが 名 優 を保とうとするが、それは無理 ・・・。 る 程 度 に は 接 近 で き る う れ し さ。平 静 か り で は な く、至 近 距 離 で 体 温 を 感 じ 年男の乱れに乱れる胸の内。見ているば 下りて来たところを一目で恋に落ちた。 ヴァリーが、平凡な結婚生活に飽き、不 日の単調な暮らしの中で、文学だけが生 に帰郷、この地で父親の店を継いだ。毎 〝恋を恋する女〟―十九世紀仏作家 ギュスターブ・フローベールの長編小説 倫と借 金を重ねた末に追い詰められて サ ン ダ ー・ソ ク ー ロ フ ら 主 に 芸 術 派 の く パンのおいし さ に すっか り 虜 に なっ なる。ジェマはジェマで、マルタンの焼 『ボヴァリー夫人 』のヒロインはそう 呼 服 毒 自 殺 を す る ま で の 悲 劇 だ。フ ロ ー こ の ま ま で は ジェマ は エマ と 同 じ 運 命 を 辿 る の で は な い か ―― 思 い 悩 む 中 本作は、小説の熱烈な読者であるパン 屋を主人公に、勝手にヒロインのエマと コミ カル な 勘 違い とロマンチ シ ズムの 想に走る男の物語。原作の愛の悲劇を、 とでいっぱい。パンをこねながら、ジェ つれて、マルタンの頭の中はジェマのこ てしまう。言葉を交わし、親しくなるに が分かれるだろう。 化。ただし、あっと驚 く 結 末には、賛 否 映 画 は、フ ロ ー ベ ー ル の 小 説 を 基 に した英国のグラフィック・ノベルの映画 監督が次々に映画化している。 現 実 の 隣 人 の 妻 を 同一視 し て あ ら ぬ 夢 入り混じった軽やかで上品な、ひと味違 『ボヴァリー夫人とパン屋 』 フランス映画(99 分) 監督:アンヌ・フォンテーヌ 出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、 ジェイソン・フレミング、ニールス・シュナイダー 公開中 © 2014 – Albertine Productions – Ciné-@ - Gaumont – Cinéfrance 1888 – France 2 Cinéma – British Film Institute 11 We learn 2015.8
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