インターネット時代の音楽著作権と収益モデルの検討: 『弱い著作権』の音楽情報財の収益モデルを巡って Copyright and Business Models of Music in The Era of The Internet: Possibilities of Weaker Copyright. 瀬藤 康嗣 * 丹羽 順子 ** 要約: インターネット時代に適合した音楽著作物のビジネスモデルの提案を行う。そのため、 著作権の中でも財産権よりも人格権を優先する『弱い著作権』の可能性について検討 を行った。その結果、 『弱い著作権』の音楽情報財を無償で流通すると、著作権の『弱 さ』ゆえに容易かつ広範囲に流通するのでプロモーション効果が上がり、またコンサ ートなどの補完財との抱き合わせにより収益をあげられることを確認した。 キーワード: インターネット、情報財の収益モデル、著作権、グレイトフル・デッド、プリンス The purpose of this paper is to suggest a business model suitable for the era of the Internet. For this, we examine the possibilities of distributing free music protected by weaker copyright, which accords moral rights priority over property rights. As a result, we testify that weaker copyright has promotional effects because information is easily and widely distributed among people, and * 慶應義塾大学環境情報学部非常勤講師 東京藝術大学音楽環境創造科非常勤助手 E-mail: [email protected] ** Forum For The Future, United Kingdom. E-mail: [email protected] 1 it is possible to make profits with supplementing goods such as live concert tickets. KEYWORDS: Internet, Business Models of Information goods, Copyright, Grateful Dead, Prince I 研究の背景 1. メジャーレーベルによるレコード産業の支配とその収益モデル 近年のさまざまな研究は、レコード、カセット、CD などの録音物を扱うレコー ド産業 1) ほど国際的な集中化が進んでいる文化産業の部門はないことを明らかにして いる。 『録音された音楽を扱う産業は、十九世紀の末の欧米にはじまり、つねにひと握 りのメジャー企業によって支配されつづけてきた。(中略)一九九〇年代初頭からは、 六つのメジャーレコード会社が世界的な売上高のほぼ八〇∼八五%にあたるレコード を制作、製造、配給するのに必要な機能をコントロールしてきた』 (Negus 1996=2004: 90)。20 世紀を通じて世界のレコード産業を独占し続けて来た、巨大な多国籍レコー ド会社は一般にはメジャーレーベルと呼ばれている。合併や経営統合の結果、メジャ 2) ーレーベルは現在までに4つの会社へと集約され 、全世界の音楽売り上げの約 75% という圧倒的なシェアを維持し続けている(IFPI 2004: 7)。また、1999 年のメジャ ーレーベルの売り上げの 1/4 は、わずか 88 枚のレコーディングからもたらされてい る(Mann 2000)。こうした寡占状態は、メジャーレーベルが扱っている音楽が文化 的に優れており、人々がこれらの音楽を求めているからであると考えることも可能で ある。 しかしながら、現在に至るメジャーレーベルの繁栄は、扱っている音楽の質だけで はなく、レコードの生産や流通の過程を独占的にコントロールすることによって、可 能になったと一般的に考えられている。例えば、東アフリカでポリグラム・ケニア(現 ユニバーサル・ミュージック)と唯一ライバル関係にあったレコード製造会社が 1976 年に倒産した際、ポリグラム・インターナショナルはその会社の機械のほとんどを買 2 い上げてケニア国外に運び出した(Wallis et. al. 1984=1996: 82)。このようにして 東アフリカおける自社以外のレコード生産手段を排除し、ローカルなアーティストの レコードの生産を困難にすることで、ポリグラム陣営は東アフリカ市場を優位にコン トロールしたと考えられる。メジャーレーベルは、レコードが消費者へと届けられる 流通過程もコントロールしようと腐心している。多くの人が聞いている人気のラジオ 局で、曲を流すには少なからぬ『袖の下(payola)』が必要である。できるだけ多く の人の耳に入るよう、テレビ番組や映画とのタイアップも必須である。こうしたプロ モーションの重要性は、音楽が経験財(Experience Goods)であるという事実に基 づくといわれる。すなわちリスナーは商品(レコード)の質や内容について事前に知 ることができないため、音楽商品の販売においては広告宣伝の役割が重要である(阿 部 2003: 34)。さらにレコード店の店頭においても、レコード棚の目立つ場所は金銭 によって取引されることがある。 メジャーレーベルの収益モデルは、(1)音源をレコードや CD のパッケージメデ ィアに固定する(2)音源の複製権を法制度(著作権)によって保護する(3)生産 から流通にいたるリソースや技術を支配的に所有する、という3点を前提に成立して いた(服部 2004: 183)。その上で、豊富な資金力を背景に大規模なプロモーション を行い、世界中で同じ商品を大量に販売することで莫大な利益を上げ、マーケットを 優位に支配してきたと考えられている。 2. デジタル技術の出現と、レコード産業の変容 しかしながらデジタル技術の出現は、メジャーレーベルが前提としてきた音楽の生 産や流通のプロセスを大きく変容させた。今日、ミュージシャンは安価なコンピュー タを用いて自宅で音楽を制作することが可能である。制作された音楽ファイルは、イ ンターネットを介してサーバーにアップロードされる。リスナーは、オンライン音楽 配信サービスのサイトで気に入った音源を探して購入する。支払いは電子決済によっ てなされ、リスナーの口座の残高が少しだけ減り、逆に売り上げたアーティストの口 3 座の残高が少しだけ増える。これらの過程でやり取りされるのは、すべてデジタル化 された情報に過ぎない。音楽がデジタルな過程から解放されるのは、リスナーがヘッ ドフォンで音楽を聞く時、ヘッドフォンから鼓膜に至るわずか数センチの間だけであ る。このように今日、生産/流通/消費に至るほぼ全ての過程がデジタル化が可能で ある音楽は、完璧なデジタル財(Digital Goods)であるといえる。そして、音楽のデ ジタル化がレコード産業全体にインパクトをもたらすのは、デジタル財が(1)容易 に複製できる(2)容易に他者へ転送できる、という性質を持つためである。 音楽はいまやパッケージメディアに音源を固定されなくなり、デジタル財は複製/ 他者への転送が容易であるという性質をもつため、生産∼流通の独占というメジャー レーベルの収益モデルの前提は大きく揺るがされていると言える。特に、デジタルテ クノロジーの個人への普及が、レコード産業に大きな打撃を与えている。 3. メジャーレーベルの苦境 周知のように1990年代後半以降、音楽ソフトの売上高は世界的に激減を続けてい る。世界的には1999年から2003年の5年間で売り上げが約17%も減少した(IFPI 2004: 16)。また、日本国内においても音楽ソフトの総生産額は1998年から2003年の 間に約25%減少している(日本レコード協会 2004: 9)。この音楽ソフトの売り上げ 低下の原因として、IFPI(The International Federation of the Phonographic Industry㸯 国際レコード産業連盟)や日本レコード協会などの業界団体が指摘しているのが、イ ンターネット上のファイル共有サービスを用いた違法なファイル交換と、CD-Rによ るCDの複製行為である。 サービスによって多少の違いが存在するが、Napster に代表されるファイル共有サ ービスは、特定のファイル共有ソフトをインストールしたコンピュータのハードディ スク上の情報が、同じソフトをインストールしている世界中のユーザーに対して公開 され、相互に自由にダウンロード複製することを可能にする。 こうしたファイル共有サービスは違法な音楽ファイル交換の温床となっていると目 4 されており、ファイル共有サービスを提供する会社や、これを違法な音楽ファイル複 製に利用したユーザーに対するレコード産業側の対応は、きわめて厳しいものである。 たとえば Napster の場合は、1999 年5月に会社が設立されサービスの提供が開始さ れたが、RIAA(Recording Industry Association of America: 全米レコード協会) は、1999 年 12 月に Napster 社を著作権侵害幇助で提訴、2001 年 2 月に第 9 巡回区・ 連邦控訴裁判所は、Napster 社が著作権侵害の行為を助長し、かつ利益を得ていると いう判断を示し、Napster は事実上のサービス停止に追い込まれた。また、違法複製 行為を行っている個人ユーザーに対する訴訟も数多く起こされている。 しかしながら、こうしたレコード産業側の強硬な対応は、しばしば強い反発を招い ている。例えばファイル共有サービスを利用して音楽ファイルをダウンロードした 12 3) 歳の少女を RIAA が訴えた事例は、度が過ぎるとして消費者からの反発を買った 。 また、プリンス(Prince)、スティーブ・ウィンウッド(Steve Winwood)らのアー ティストはファイル共有サービスに賛同の意を示し、実際に自らの楽曲を提供してい る。その他、ファイル共有サービスに反対している音楽家はわずかに 28%である、と 4) いう調査結果も出されている 。 次に、CD-R による CD の複製行為について検討する。アナログテープと異なり、 CD-R による複製では品質の劣化が起こらない。また、倍速ドライブを用いると時間 がほとんどかからず、メディアの価格もきわめて低廉である。つまり、極めて低い時 間的/経済的コストで、オリジナルと同質の複製品が手に入るため、消費者が CD-R を用いて CD の複製を行うインセンティブは極めて高いといえる。実際、個人の CD 入手枚数自体は増加しているが、そのうちシングルの場合の 50%、アルバムの場合の 34%が、CD レンタル店で借りたものを CD-R で複製したものであるという調査結果 が存在する(阿部 2003: 40)。 横行する CD の複製行為に対して、各レコード会社はソフトウェア的に CD の複製 を不可能にする CCCD(コピーコントロール CD)を採用した。しかしながら、CCCD は音質の劣化を引き起こすといった理由からアーティストからも反対の声が上がり 5 (津田 2004: 125-138)、また CD プレイヤーによっては通常の再生もできないとい った問題があったために消費者からも反対の声が上がり、一部では CCCD の不買運動 にまで発展した。 以上、2つの事例を紹介したが、その他にも音楽著作権の保護期間の延長に向けた 動きや、デジタル権利管理技術(DRM)を用いたデジタル音楽ファイルへのコントロ ール強化といった動向に見られるように、メジャーレーベルやその関連団体は、著作 物に対するコントロールや著作権そのものを強化することによって、この苦境を乗り 切ろうとしている。しかしながらこうした試みは、上述したようにアーティストやリ スナーのどちらからも同意を得られず、極めて強い反発を買う場合すらある。つまり デジタル技術の普及により、メジャーレーベルは 20 世紀を通じた繁栄をもたらした 収益モデルを破壊され、さらにそれに対する対応策を講じるとアーティストや消費者 からも反発を買うという、二重の苦境に陥っているといえる。 II 強い著作権と弱い著作権への分裂 著作権そのものの強化を目指し、あるいは DRM によって著作物に対するコントロ ールを強化しようとするメジャーレーベルによる試みがアーティストやリスナーから の反発を買う一方で、インターネット上では新たな動きが顕在化し始めている。これ らの事例では、著作物へのコントロールを強化するのではなく、むしろリスナーを信 頼して自由な著作物の利用を認め、リスナーの便益を図ろうとする姿勢が共通して見 られる。上述したように、ファイル共有サービスに積極的に自らの作品を提供するア ーティストも存在する 5) 。また、現在もっとも成功しているオンライン音楽配信サー 6) ビスである iTunes Music Store が成功したのは、他のサービスと比較して消費者に とって使いやすいように『ユーザーフレンドリーなゆるい DRM』(ibid.: 286)を採 7) 用しているからだといわれている 。 名和(2004)は、ディジタル技術を含む種々の技術革新に対応するために修正が加 えられる過程で著作権制度が高度に複雑化し、一般人には理解不能で専門家にしか理 6 解できなくなっている現状を指摘したうえで、デジタル時代の著作権の動向について 極めて興味深い考察を行っている。名和は、近未来における著作権者を3つに分類し ている(pp.243)。 (1)伝統型著作者:伝統的な著作権の所有者 (2)財産権指向著作者:著作権ビジネスへの新規参入者 8) (3)人格権指向著作者:ハッカー や大学の研究者 このうち、(1)と(2)の著作権者の目的は、経済的利益の最大化であり、著作権 の中でも経済的な権利(財産権)の確保あるいは拡大を目指して、著作権の強化を指 向する。たとえば日本でも、業界団体による国会への働きかけにより、音楽著作権の 9) 保護期間を死後 50 年から 70 年に延長することが、現在検討されている 。一方、 (3) の人格権指向著作権者が、著作物のユーザーに求めるのは、 『著作者の名前を表示させ る権利、かつ著作物の表現を弄らなせない権利』(ibid.: 210)であり、経済的報酬を 求める事もあるが、多くの場合シェアウェアのように強制的なものではない 10) 。こう した方向性を本論では名和に倣って『弱い著作権』と呼ぶ。 これら3つの権利者の求める利益やインセンティブはそれぞれ異なるため、今後そ れぞれの権利者のタイプに応じて、著作権制度は分裂するのではないか、というのが 名和の主張である(表1)。 表1:近未来の著作権像(名和 2004: 245) III レコード産業が「音楽産業」の全てなのか? 7 『強い著作権』を指向する権利者が、著作権強化の必要性を主張する際の典型的な 論理は、 「違法コピーが蔓延すると著作権者に金銭がもたらされなくなり、誰も作品を 作らなくなる。」といったものだ。確かに、メジャーレーベルのような収益モデルにと っては、深刻な打撃となりうる。しかしここで『果たしてレコード産業が、 「音楽産業」 の全てであるのか?』と問う必要がある。 ここまでの背景説明では意図的に、音楽産業の中でも録音物を扱うレコード産業を 中心に話を進めて来た。実際、音楽研究の文脈では、「音楽産業(Music Industry)」 という言葉が「レコード産業(Recording Industry)」と同義に用いられることが多 く、また実際に現在の音楽産業の中心はレコード産業である 11) 。しかしながら、ライ ヴコンサートに関連する産業や、楽器を製造販売する産業もまた音楽産業の一部であ る。そして、新しいメディアの出現と普及は、 『既存の様式を淘汰するのではなく、そ れらのあいだに新しい関係を生み出すのである』 (Negus 1996=2004: 117)。つまり、 いま必要とされているのは「いかにレコード産業の利益を守るか」という視点ではな く、デジタル技術とデジタルネットワークの特性を理解した上で、 「音楽産業全体の利 益を最大化するために、どのような音楽産業全体のバランス設計が可能か」という視 点なのである。 後藤(2001)は、Peacock(1993)や Throsby(2001=2002)の議論を援用し ながら、ライヴパフォーマンス(実現芸術)などのオリジナルを扱う市場を文化市場 の一次市場、レコードなどの複製芸術を扱う市場を二次市場と定義した上で、 『一次市 場と二次市場の関係をうまく設計すれば、二次市場の広がりによって一次市場の資金 を賄うことができ』(pp.64)、さらに『情報技術が発展すればするほど、二次市場の 価 格 は 低 下 し 、 一 次市 場 に お け る オ リ ジ ナ ル な 芸 術 の 価 格 は 相 対的 に 高 く な る』 (pp.65)と述べ、特に著作権等のルールの制度設計の重要性を説いている。 従来のレコード産業を中心とする音楽産業の収益モデルでは、ほとんどの収益を二 次市場で上げていた。レコードの生産の場合、アーティストのスカウト、作曲者・編 曲者・演奏者への謝礼、録音・マスタリング、広告費などで多額の初期投資が必要と 8 なる。しかし一旦メガヒットが生まれれば、CD を大量にプレスすることで、莫大な 利益を上げることが可能であり、かつ CD 一枚当たりの複製コストは非常に低いとい う性質を持つ(阿部 2003: 31-2)。一方でライヴコンサートの場合、会場の大きさと いう物理的な制約から、ある投資額に対する収益にあらかじめ上限が存在する。それ ゆえ、1990 年代の日本のポップスでは、ライヴをほとんど行わないアーティストも 存在した 12) 。現在のレコード産業が『強い著作権』に固執しているのは、これまで二 次市場で集中的に収益を上げるという収益モデルで成功してきたからに他ならない。 それでは『弱い著作権』の音楽情報財から、収益モデルを構築することは可能なの であろうか。コンピュータソフトウェアの世界では、Linux に見られるように人格権 指向の『弱い著作権』の無償の情報財から、利益を生み出す事が可能である事がすで に明らかになりつつある 13) 。音楽においても、著作権における『弱さ』を、どのよう に収益上の『強さ』へと変換することができるのか。そして『弱い著作権』の音楽情 報財から利益を上げられる事は果たして可能なのであろうか。 次章では、情報財の収益モデルの観点から、『弱い著作権』の音楽情報財から収益を あげる可能性について検討を加える。 IV 音楽情報財の収益モデル 服部(2004: 183-4)は、インターネット上に置かれた情報財(Information Goods) は、著作物の複製や流通に関わる限界費用がほぼゼロになるため、 『市場競争のもとで は価格がゼロになるまで、値下げ競争が継続する』という議論を紹介している。たと えば、当初年間 2,000 ドルで提供されていた『ブリタニカ百科事典』のオンラインサ ービスは、競合他社との熾烈な価格競争の結果、数年間で当初の約 1/20 まで値下げ を余儀なくされた。この事実は、前節で紹介した「情報技術の発展により二次市場の 価格が低下する」とする後藤の主張とも一致する。 デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境下において情報財の価格が低下す る中、いかに情報財である音楽から収益をあげることが可能であろうか?服部と国領 9 (2002)は音楽業界に対する詳細な調査を行い、Dyson(1997)、Shapiro and Varian (1998)、国領(2001)らの議論を下敷きにし、生産者が収益をあげる場を市場メカ ニズムと社会的メカニズムを用いたものに大別した上で、次のような4つの収益モデ ルを挙げている(表2)。なお、実際のビジネスではこれらのモデルのうち、どれか単 体で収益を上げる場合もあるが、多くの場合は複数のモデルを組み合わせることによ って収益を上げている。 表2: 音楽 情報財 の収 益モデ ル: 服部 (2004: 199) まず、社会的メカニズムに基づいた収益モデルについて説明する。互酬モデルと は、ファンやパトロンからの自発的な寄付や援助に基づくようなモデルで、代表的な 14) 事例としてリスナーからの寄付で運営されている National Public Radio や、筆者 15) 自身が運営に関わっている cosmosmile などが挙げられる。再配分モデルとは、芸 術活動の外部性を社会全体が承認した上で、行政府によって集められた税金を再配分 するようなモデルで、代表的な事例として中央政府や地方公共団体による助成金が挙 げられる。 次に、市場メカニズムに基づいた収益モデルについて説明を加える。収益はなんら かの希少性に依拠しているので、何の希少性に収益が依拠しているかによって、収益 10 モデルを分類することが可能である(国領 2001)。 有償著作物モデルは、情報財を CD やレコードのようなパッケージメディアとして 物財化するか、あるいは著作権保護技術によって疑似物財化することによって希少性 を作り出し、これを販売することで成立する。これは、現在のメジャーレーベルが行 っている収益モデルに相当する。この有償著作物モデルでは、 『消費者サイドで著作物 のコピーや流通が簡単に行われわれないことが条件となり、現行の著作権制度や著作 権保護技術の有効性が重要』(服部 2004: 200)である。従来のレコード産業は、生 産および流通手段を独占することによって、この有償著作物モデルから容易に収益を 上げることができた。しかしながらデジタル技術およびインターネットの普及により、 消費者自身が音源の複製も流通も行えるようになってしまった。また、各レコード会 社やソフトウェア開発会社が、不正コピーの出来ない強固な著作権保護技術の開発を 競っているが、これを無効化するソフトが著作権保護技術に反対するプログラマによ って開発されてインターネット上で公開されており、有償著作物モデルの将来性はや や不透明である。 無償著作物とは、上述した『弱い著作権』の情報財とほぼ同義であると考えて良 い。つまり、著作物の人格権を尊重する限りにおいて、経済的な対価は必ずしも要求 されず、流通や利用は自由である。したがって『弱い著作権』を採用すると、著作物 から直接利益を上げることは難しいが、対価が要求されないために流通が促進される ので人の目には触れやすい(名和 2004: 210)。本論 1.1 節で触れたように、音楽が 経験財であることを考えると、消費者に訴求する上でこの効果は無視できないと考え られる。無償著作物の収益モデルは、人々の間に著作物を流通させる事で消費者の認 知や関与を高め、関連する稀少財を販売することで収益をあげる収益モデルを採用す ることになる(ibid.: 199)。服部と国領(op cit.)は、(1)関連するグッズや物財 の販売に物財帰着型(2)ライヴ・コンサートやファンクラブなどのサービスの販売 につなげるサービス帰着型(3)広告、検索や推薦など消費者の認知の限界を利用し た認知限界帰着型の3つのタイプに、無償著作物による収益モデルを分類しており、 11 『弱い著作権』の音楽情報財でも補完財の売り上げによって収益が上げられる事を示 している。 V 著作権の『弱さ』を、収益上の『強さ』に変換するメカニズム 以上、2節から4節での議論をもとに、著作権の『弱さ』を、収益上の『強さ』に 変換するメカニズムについて、本論では以下の仮説を提唱する。 まず著作権の『弱さ』ゆえに、音楽自体は広く流通し多くの人の耳に触れることに なる。音楽は経験財であるので、消費者の立場からすると購入前に試聴することが重 要である。従来のメジャーレーベルの収益モデルにおいては、広告プロモーションに 多額の投資を行うことで、実現して来た事が、デジタルネットワーク上では、そのメ ディアの特性上極めて低いコストで実現できる。 次に、後藤が指摘するように、著作権は一次市場と二次市場の収益バランス構造に 影響を及ぼす。 『強い著作権』の音楽情報財では、二次市場で集中的に収益を上げてい たが、 『弱い著作権』の音楽情報財では、二次市場だけではなく一次市場からも収益を あげることになる。 『弱い著作権』で流通される音楽情報財は、消費者がさまざまな形でアクセスしや すいので、消費者間のコミュニケーションが起こりやすい。特に、特定の情報財への 関心や価値観を共有する人々によって自発的にコミュニティがつくられ、さまざまな 問題解決に力を発揮する。 この仮説を検証するために、『弱い著作権』を積極的に援用した代表的な音楽家と して、まずグレイトフル・デッド(Grateful Dead)を取り上げる。グレイトフル・ デッドは 1980 年代より、ファンがライヴ・コンサートの模様を録音し、かつ非営利 目的である限り録音物を自由に交換する『テープ・トレーディング』を認めながらも、 年間 5000 万ドルものチケット収入を上げていた(丹羽 2003)。現在、多くのアーテ ィストが『テープ・トレーディング』をインターネット上で継承しており、それぞれ がライヴの動員数を延ばしており、これを一つの特殊な成功事例と看做すことはでき 12 ない。まずグレイトフル・デッドの事例を通じて、筆者の仮説の有効性を検討する。 次に、プリンスの事例を紹介する。プリンスはファイル共有サービスの有用性を認め、 また、ライヴに来た観客に最新アルバムの CD を配布するという戦略を取りながら、 ライヴのチケット収入を中心に 5650 万ドルもの収益を上げ、2004 年の全米の音楽 家の中で最高の収益を上げることに成功した 16) 。プリンスの収益モデルはグレイトフ ル・デッドのものとはやや異なるものの、彼の成功は、これからのインターネット上 での音楽収益モデルを考える上で、有益な視点を与えてくれるものと考えられる。 VI ケース分析:グレイトフル・デッド 1. グレイトフル・デッドとは まず、最初にグレイトフル・デッド(以下 GD と略記)というバンドについて紹介 する。GD は 1965 年にデビューしたロックバンドで、中心メンバーであったジェリ ー・ガルシアが死去した 1995 年まで活動した。音楽的にはライヴ特有の「いま、こ こ」で起こる即興性を重視する。集団(バンド)による即興演奏は「ジャム(Jam)」 と呼ばれるが、GD はしばしば『史上最高のジャムバンド』と称される。ベンヤミン は複製技術の登場による芸術の変容を『アウラの喪失』と表現したが、GD はむしろ 再現不能な『アウラ』をライヴの即興演奏を通じて探求するバンドであり、 『その本領 はコンサートにおいて発揮されるバンドであり続けた』(難波 2001: 186)。こうした 姿勢は、ライヴを CD の売り上げ向上のためのプロモーションやファンサービスと見 なす、メジャーレーベルのアーティストとは対照的である(丹羽 2003: 19)。ちなみ に、GD は収入の面においてもジャムバンドの中で『最高』であり、1995 年にはライ ヴから年間約 5000 万ドルのチケット収入を得ていたといわれる(ibid.: 6)。 GD はデビュー当初より、アメリカ西海岸のヒッピー・ムーブメントやサイケデリ ック・カルチャーの中心的存在であり、多くの熱狂的なファンを抱えていた。GD の ファンはデッド・ヘッズ(Deadhead)と呼ばれ、彼/彼女らの間では 50 回以上のラ イヴショーを見るのが普通とされ、中には無職もしくはパートタイムの仕事をしなが 13 ら GD のツアーに同行して旅をする熱狂的なファンも居た(難波 2001: 187)。それ ほどに、GD のライヴを(「鑑賞」というより)「体験」することはファンにとって非 常に重要な意味を持っていたのである。GD のライヴツアーに大勢のファンが同行し ながら全米各地を転々とする様子はさながら移動する共同体であり、他の音楽シーン には見られない独自の文化を形成していった(Adams & Sardiello 2000)。 2. テープ・トレーディングとファン・コミュニティの実践 GD とファンのコミュニティの実践の中で、特徴的なのが『テープ・トレーディン グ』と呼ばれる行為である。これは、 (1)バンドのライヴをファンが録音することを 認め(2)金銭的取引の対象としない限りにおいて、ファン同士がその録音物を自由 に交換することを認める、というものである。このような実践は、メジャーレーベル に所属するようなアーティストのライヴにおいては反倫理的な行動して厳しく指弾さ れうるものであるが、GD のファン・コミュニティにおいてはむしろ推奨されたので ある。さらには、このテープ・トレーディングを許可することによって、GD は収益 をより拡大することが出来たとすら考えることができるのである。 まず、テープ・トレーディングがファンの間でどのように実践されていたのかを紹 介する。ファンによるライヴの収録を GD が公式に認めたのは 1984 年のことである。 ライヴの録音自体はそれ以前にもバンドからは黙認されていたが、特に会場側の警備 員によって録音機材の持ち込みを阻止されることが多かった 17) 。また、ファンが持ち 込んだマイクが観客席に林立すると、他のファンの席やサウンドボード(会場の中心 に設置された音響および照明をコントロールするためのエリア)から、ステージが見 えないといった問題があったため、メンバーの間で対策に関する話し合いが持たれた。 話し合いの結果、サウンドボード後方に通常のチケットより5ドル高いテーパーズ・ セクションと呼ばれるエリアを設けることになり、このエリアでの録音が公式に認め られるようになった(Shenk & Silberman 1994=2004: 298)。ライヴ会場で録音を 行う熱心なファンはテーパー(Taper)と呼ばれ、ショーで知り合った他のテーパー 14 と、自分が所有する交換可能なテープのリストが記された名刺を交換していたという。 また個人間でテープを郵便で交換するための非公式組織も多数存在した(ibid.: 297)。 こ う し て テ ー プ を フ ァ ン の 間 で 交 換 す る 行 為 は テ ー プ ・ ト レ ー デ ィ ン グ ( Tape Trading)と呼ばれる。 テープ・トレーディングを通じ、自ら録音を行ったテーパーから、録音物が徐々に ファンの間に広まってゆく。その過程で、テープ・トレーディングに関しての規範や 構造が形作られてゆく。その代表的なものが『B&P(Blank & Postage)』と呼ばれる 18) 規範であり、 『テープ・ツリー(Tape Tree)』 と呼ばれる構造である。 『B&P』とは、 他のテーパーが公開している音源リストの中に、自分が欲しい音源があった場合、空 (Blank)のテープや CD-R などの記憶媒体と、返信用の送料(Postage)を送り、そ こに希望するコンテンツをコピーして返送してもらう、というルールである。また、 テープ・ツリーとは、誰かが「種(Seed)」音源を「根(Root)」になる人に提供する。 「根」の人は「枝(Branch)」となる数人に音源をコピーし、さらに「枝」の人は「葉 (Leaf)」となる数人に音源をコピーし、これを繰り返すことで組織的に効率良く音 源をファンの間に広めてゆく方式である(ibid.: 314-5)。 テープ・トレーディングという行為は、音源という『モノ』の交換であるが、それ 以上に重視されたのがファン同士のコミュニケーションであった。難波(2001: 190) は、日本の GD ファンのメーリングリストにおけるやり取りを次のように紹介してい る。B 氏『テープトレードにしろテープそのものより、そこに生じる関係を重んじた い、と思っているんです。』H 氏『物の流通以上に欲しいものがあると思います。テ ープなどはいわば触媒でして、目的の全てではありません。…自然の多い地域でテー プと交換でクワガタ虫をつかまえて送ってあげたという方を私は知っています。』A 氏 『テープトレードからは『コレクションを増やす』ってことよりも先に多くの方から 『シェアーする心』を教えてもらいました。』このようにテープ・トレーディングは、 単なる録音物の交換から発展して、ファン同士のコミュニケーションを活性化し、ひ いては GD のファン・コミュニティ全体の活性化を促すような役割を果たしていたと 15 考えられる。 3. ファン・コミュニティの自発性と、バンドの活動への貢献 丹羽(2003)は、ファンの自発性に基づいた行動と、それによって創発される自律 分散的なコミュニティ構造が GD のファン・コミュニティを理解する鍵であると考え ている。そもそもテーパーを容認することになったいきさつも、会場に機材を持ち込 んで録音を行うファンの数が増えすぎて、ライヴショーの運営全体に差し支える事態 になったために、苦肉の策としてテーパーセクションを設けたに過ぎない。ただ、GD はファンによる一連の自発的な行動を禁止するのではなく、こうしたニーズがある事 を理解し、また GD の利益を損なわない限りにおいて、ファンの行動に寛容であった だけであるともいえる。彼/彼女らは『強制的なルールや組織がないからこそ、個人 が自由に動き回ってコミュニケーションをし、お互いの知恵を持ち寄り、その場の状 況に応じて協力し合いながら信頼し合える関係性を構築しているのである』 (pp. 28)。 そして「テープ・トレーディングを核とした強いコミュニティ意識」 (難波 2001: 189) を共有するファンたちは単なる受動的な消費者ではなく、<生産者消費者>という 枠組みを超えて、様々な問題解決に力を発揮する。たとえば、テーパーコミュニティ の中において、アーティストの許可のもとに録音された音源と、そうでない海賊版 (Bootleg)は区別されており 19) 、違法な海賊版の交換はしないように呼びかけられ ており、結果的に海賊版は減少傾向にあるという(丹羽 2003: 36-37)。このように、 アーティストの望まない行動は、ファンによって自発的に形作られた規範によってコ ミュニティの中で禁止されている。 さらに、ファン・コミュニティはバンド活動のさまざまなコストを自律分散的に負 担している。ライヴの場合、地域のプロモーターを雇わずに、ファンにプロモーター を頼み、会場の斡旋から宿の手配までを一任する。 開催が決定すると、ライヴの事前 プロモーション(ポスター貼りやフライヤー配布)を地域に居住するファンに任せる場 合もある 20) 。労働の代償として、ライヴのチケットやバックステージでバンドメンバ 16 ーと交流する機会を提供することで、インセンティブを与えている。プロではないフ ァンに仕事を分散させることは、場合によってはリスクにもなりうるが、自分が好き なバンドとコミュニケーションを取りながらライヴのプロデュースに関わることは、 ファンにとっては大きな喜びであり、時にはプロのスタッフ以上の情熱とをもって運 営に貢献することがある(pp.31-2)。 無償で交換されているライヴの録音は、ライヴのプロモーション活動でも効果を発 揮する。音楽は経験財であるため実際に音を聴いてみないと、その人にとっての価値 は理解されない。ここで、無償交換されている音源が言わば『お試し版』となり、GD のことを知らない、あるいは興味はあるが実際に音を聴いた事がない人々に広がって ゆく。そして実際の音源を聴いた人が GD の音が気に入った場合、ライヴのチケット 購買へと繋がってゆく。このように無償の音源が宣伝材料としても大きな役割を果た している。 また、テーパーやファンによって無償で交換されているライヴ音源は、必ずしもオ 21) フィシャル CD の売り上げを阻害しない。むしろ、テープを流通させることはファ ンに演奏を異なる録音状態で聴く機会を増やすことにつながり、バンドの演奏や音全 般に対する知識が深まったりするために、オフィシャル版の CD の購買意欲にもつな がる(Sawyer 1999)。これは、Stigler & Becker によって主張された、芸術消費に 対する学習効果に関する理論とも合致する。つまり、芸術体験から得られる充足や楽 しみは、過去の芸術体験や芸術に関する知識や教育に依存するため、芸術に関する知 識を持っている人とそうでない人では、知識を持っている人のほうが同じ体験をした ときに得られる充足度が高い(Stigler & Becker)。そのため、人が音楽を楽しみ、よ り多くの金銭を消費しようとする意欲は、対象となる芸術への知識と理解力に強く関 連する。このようにして、ある人がよい音楽を聴けば聴くほど、それに対する嗜好が より強くなり、いわば『中毒』になるのである(Throsby 2001=2002: 182-3)。こ うして、ファンが無償のライヴ CD を聞き込むほどに、録音状態の良いオフィシャル 版 CD の希少価値が増すという現象が起こるため、テープ・トレーディングという行 17 為はオフィシャル版の CD 売り上げにむしろ貢献するのである。 さらにテーパーたちはオフィシャル CD の製作のコストを負担することもある。CD 制作へのファンの関与について、丹羽は以下のように記している。 『Grateful Dead のテーパーで、1974 年から 20 年以上に渡り趣味で録音をしてい た Dick Latvala 氏は、何百というコレクションの数とその品質の良さをかわれ、バン ドのオフィシャルなテープ管理人として雇われるに至った。彼のコレクションは、 "Dick's Pick's"というオフィシャル CD として現在までに 29 枚販売されており、それ ぞれが 50000 部以上を売り上げている。 Latvala 氏の快挙はテーパーの情熱と技術力の高さがプロフェッショナル並かそれ 以上である事を物語っており、テーパーの中でも伝説的な存在として語り継がれてお り、バンドのオフィシャル録音技師として雇われることを目指して精を出すテーパー もいる。またバンド側でもテーパーの存在は不可欠で、ライヴ録音されたテープや映 像をバンドでアーカイヴしておけるよう、提供を依頼することがある。』(pp.32) このように、GD とファン・コミュニティの関係をみると、<ライヴを主催・運営す る側><チケットを買って鑑賞する側>、また<生産者><消費者>という境界線は実に曖 昧である。様々な局面でそれぞれが立場や役割を変えながら能力を発揮し、コミュニ ティが協働して製作コストを分散する仕組みが確立されているのである。 4. 他のバンドへの波及 以上、見て来たような GD とそのファン・コミュニティの実践は、まず音楽活動の 中心がライヴであり、ファンがライヴ会場で録音し、録音物を共有することを認める 場合に有効に機能すると考える事ができる。そしてファンに対して、無償の録音物の 著作物を提供することで、ファン同士のやり取りが生まれ、自発的にコミュニティが 形成される。こうして形成されたファン・コミュニティが協働しながらさまざまな形 でバンドの運営への貢献を行うため、無償の著作物を流通させることはバンドの利益 を損なわず、むしろ利益に貢献する。 18 しかし、GD が成功したのは彼らがスーパースターであったからであり、無名の 新人ミュージシャンにもこのモデルが適用可能なのか、という疑問も残る。こうした 疑問に対して解答となりうるのが、Phish というバンドの事例である。Phish は CD デビューする 1989 年以前から、ファンによるテープトレーディングを認めて来た。 現在、Phish は『世界で最もネットにつながっているバンド』と呼ばれ 160 以上のフ ァンサイトがネット上に立ち上げられており ドルに達した 23) 22) 、2003 年のチケット収入は 3,580 万 。つまりテープトレーディングを軸とする収益モデルは、GD のよう に名の通ったスターが行ったから成功した訳ではない。Phish の事例が示すように、 むしろデビュー前から一貫してテープトレーディングを行うことで、強固なファンの ネットワークを構築することができると考えられる。もちろん、テープトレーディン グを認めたにも関わらず失敗に終わったアーティストも少なくない。しかし、彼らの 成功と失敗を分けたのはテープトレーディングの導入の是非ではなく、ファンを充分 に捉えるだけの音楽性を持っていたかによるのではないだろうか。 無償著作物をファンへの提供し、ライヴを中心とする収益を上げるという仕組み は、GD や Phish 以外の多くのミュージシャンによっても取り入られ始めている。 24) Etree.org はジャムバンド系のライヴ音源を収集するアーカイブサイトとして有名 であるが、ここには 500 以上のバンドの音源が収集されている。中には Sonic Youth、 Pearl Jam、G. Love & Special Sauce、Pat Metheny のようなメジャーレーベルと 契約しているスターアーティストの音源も含まれている。こうした動きは、著作権を むやみやたらに強化するのではなく、むしろ録音物を無償ないしは弱い著作権で流通 させたとして、ライヴとレコードでバランスよく収益が上げられるということが、ア ーティストの間でも認識され始めている事を如実に示していると言えるだろう。 VII プリンスの成功 プリンスは、1978 年にアルバム『For You』でメジャーデビューした。その後、 1984 年にリリースしたアルバム『Purple Rain』が全米チャートで 24 週連続1位を 19 獲得、世界中で 1500 万枚以上も売り上げ、トップスターとしての地位を確立した。 しかし、新しい音楽表現を模索するプリンスは、確実に売れるレコードの制作を要求 するレコード会社(ワーナー)と対立するようになり、1993 年にはアーティスト名 を 発 音 不 能 な 記 号 に 変 更 し 、 か つ て プ リ ン ス だ っ た ア ー テ ィ ス ト ( The Artist Formerly Known As Prince) と名前を変えた。さらにワーナーからの強要で自ら希 望しない音源を制作する際には、顔に Slave(奴隷) と書いてレコーディングを行 っ た と い う 逸 話 が 残 さ れ て い る 。 ワ ー ナ ー と の 長 期 契 約 が 切 れ た 1996 年 に Emancipation(奴隷解放) というアルバムを発表し、2000 年になってアーティ スト名を再びプリンスに戻した 25) 。 ワーナーとの契約解除の背景には、上述した表現の方向性を巡る葛藤もあったが、 もう一つ重要だったのはレコード原盤の所有権を巡る争いである。レコードの制作過 程で作られるマスターテープの権利は原盤権と呼ばれる。レコード会社はこの原盤権 を所有することで、マスターテープから音源を複製し、レコード、テープ、CD ある いはオンライン配信などの形態で販売することが可能になる。つまり、原盤権はレコ ード産業においてもっとも重要な権利の1つである。レコード会社の立場からすると、 レコード制作に関わる諸経費を負担しているのはレコード会社であるから、原盤権を レコード会社が所有するのは当然のことである。ところがプリンスは、彼のアーティ ストとしての芸術性と創意によって作られた音源の所有権が、レコード会社が独占す ることに不満を覚えており、レコード会社がレコードの原盤権を独占するシステムを 『現存する奴隷制度』と呼んでいた(小林 2001)。1996 年に出された Emancipation は、プリンスによる自主制作で原盤権は彼自身が所有した初めてのアルバムである 26) 。 原盤権をレコード会社が独占的に支配している限り、アーティスト自身が『弱い著作 権』での配信を希望したとしても、レコード会社の同意が得られない限り不可能であ る。こうした意味からも、原盤権をアーティストが所有することは重要な意義を持つ。 プリンスは 2001 年2月にインターネット上に自らのファンクラブサイト NPG 27) Music Club を立ち上げた。ファンクラブの会費は 25$(無期限)で、未公開音源や 20 ビデオへのアクセス、会員限定のグッズの販売や、ライヴでのアリーナ席の予約権、 ライヴ前のサウンドチェックやライヴ後のアフターパーティーへの参加などの特典を ファンに提供している。2004 年の段階で会員は約 40 万人おり、会員からファンクラ ブの会費を徴収し、会員限定グッズの販売を行うことで収益を上げている。 また、NPG Music Club を立ち上げた直後の 2001 年 4 月、当時すでに RIAA と の裁判闘争に敗れ、サービス利用者が激減していた Napster に対し、プリンスは発売 前のアルバム『Rainbow Children』に収録の楽曲 Work Pt.1 を無償で提供した 28) 。 アルバムの発売前に Napster への音源提供がなされたため、Napster によるプロモー ションがアルバムの売り上げに貢献した直接的な効果を計ることは難しい。しかしな がら Napster や P2P ファイル共有という新しいテクノロジーに対して、メタリカら が反 Napster 訴訟の原告になるなどアーティスト間でも意見が分かれる中、率先して Napster のアーティストにとっての有用性を主張し、かつ自身が率先して実行に移し たことは高く評価されるべきである。後にスティーブ・ウィンウッド 29) は、アルバム 『アバウト・タイム』発売の1年後に、アルバムの収録曲の別テイクとリハーサル光 景を収録した動画ファイルを、ファイル共有サービスに提供したところ、アルバム売 り上げが8倍にまで伸びたという(津田 2004: 232)。P2P によるファイル共有ネッ トワーク上での音楽ファイルの流通が、CD の売り上げを阻害するのか、貢献するの か、あるいは無関係なのかについてはさまざまな立場から議論されており、性急な結 論を出すことは避けなければならない 30) 。しかし、少なくともウィンウッドの事例は、 プリンスの主張の有効性を支持するものである。 2004 年に発売したアルバム『Musicology』と、同名の全米ツアーでプリンスが行 った試みも極めて興味深い。このツアーでは、コンサートのチケットを買うと、自動 的に CD がプレゼントされる 31) 。厳密に言えば、この CD のコストとして約 9US$が チケット代金に含まれているが、それでもチケットの値段は 49.5US$∼75US$であ り、他のア ーティ ストのチ ケット価 格と比 較 して十分に 競争力 のある価 格であ る (Waddle 2004)。これは消費者の立場からすると、通常のライヴの料金で無料の CD 21 がついてくることとほぼ同意であり 32) 、プリンスは CD とライヴのチケットを抱き合 わせることによって、消費者に訴求しようとしたのである 33) 。この販売戦略は大きな 反響を呼び、最終的に合計 90 回のコンサートに、150 万人の観客が足を運び、9,020 万ドルのチケット収入があった。 また、CD は Sony Music Entertainment を通じ、通常の小売店でも 18.98US$で 販売された。この販売戦略について、Sony の担当者は『コンサートに来た観客がす ぐに新しいアルバムを入手することで、アルバムについての口コミが広がり、小売店 での売り上げや、さらにはこの非凡なアーティストとファンの関係に影響を与えるだ ろう 』と述べている(Christman et.al. 2004)。そして、このアルバムは全米で 200 万枚以上売り上げ、RIAA の Platinum Disc にも選ばれた。プリンスのアルバムがこ れほどのセールスを記録したのは、1996 年の Emancipation 以来の事である 33) 。 オンラインファンクラブの NPG Music Club の入会金やグッズ販売、Musicology ツアーのチケット収入、そしてアルバム CD『Musicology』の売り上げから出された 収益の合計は 5650 万ドルに達し、プリンスは全米第一位の音楽長者の座に返り咲い た 34) 。1990 年代後半以降、プリンスはアーティスとしてビジネスに失敗し、もう時 代遅れな存在だとされていた。しかしながら、インターネットの普及の初期段階から、 インターネットのもつ可能性に関心を示し、実際にさまざまな実験的な試みを行って 来た。プリンスが音楽産業の中心に返り咲いた事実は、プリンスの先見性の確かさを 証明するとともに、 『弱い著作権』によって音楽情報財を流通させたとしても、一次市 場(ライヴ)と二次市場(CD)の両方から収益を上げられる事をも証明しているとい える。 なお、グレイトフル・デッドの事例で確認されたファン・コミュニティの貢献につ いては、プリンスの場合まだ完全に明らかにはなっていない。現在筆者は、非公式の 35) 会員制ファンサイト Prince.org におけるファンのやり取りを分析しているが、1つ のトピックに対して1週間の間に 200 以上のメッセージが付け加えられ、17000 人 以上がそれを閲覧している様子が観察されており 22 36) 、公式ファンクラブ NPG Music Club の会員数がすでに 40 万以上であることも考えると、他の有名アーティストと比 較して極めて活発なコミュニティが形作られつつあるように見受けられる。Prince の ファン・コミュニティの分析については、今後の研究課題の1つとしたい。 IIX 本論のまとめと、今後の課題 本論では、二次市場で集中的に利益を上げる従来のメジャーレーベルの収益モデル が、デジタル技術の発展によって困難に直面していることを示した上で、代替的な新 しい収益モデルとして『弱い著作権』の音楽情報財を流通し、補完財で収益を上げる モデルの可能性を検討した。その結果、 (1)著作権の『弱さ』ゆえに音楽自体は広く 流通するのでプロモーション効果が上がる(2)無償著作物との抱き合わせによって、 ライヴ・チケットや補完財の販売により収益をあげることが可能である(3)情報に アクセスしやすいため消費者間のコミュニケーションが起こりやすく、結果的に価値 観や関心を共有する人々によってコミュニティが形成されさまざまな問題解決にあた る、ということを確認した。 最後に今後の課題について検討したい。まず最初に、他のアーティストの事例を含 めたより綿密な調査により、本論で提唱したモデルの妥当性を慎重に検証することが 上げられる。また、ポピュラー音楽研究や音楽産業研究では、音楽産業の従事者̶レ コード会社の経営陣、プロデューサー、A&R、プロモーターなど̶が門番(ゲートキ ーパー)として文化的商品の生産を行っている、という見方がなされる。こうしたゲ ートキーパーの役割が、本論の主張する『弱い著作権』モデルにおいてどのように機 能し、あるいは代替されているのかを明らかにすることも、ポピュラー音楽研究の立 場からは非常に重要であると考えられる。さまざまなインターネット上のビジネスに ついて言われるように、中間業者の『中抜き(disintermediation)』が起こり、また 顧客同士が情報交換を行い能動的な価値生産を行う『顧客間インタラクション』 (国領 1999)が行われていることが、本論で取り上げた GD やプリンスの事例からも観察さ れたが、この新しいビジネスモデルの詳細な構造分析については、今後の研究のなか 23 でより綿密に行いたい。 そして最後に、インターネット上の著作権を巡る問題を経済上の問題として捉える だけではなく、文化の問題としても捉えことも極めて重要であると考えている。Lessig (2001=2002)が主張するように、過度の著作権強化は、社会全体の文化的イノベ ーションを阻害する危険性がある。情報技術の発展により、消費者と生産者の境界は 曖昧になり(Toffler 1980=1982)、音楽の世界においても DJ 文化に代表されるよ うに、より多くの人々が消費者という枠を超えて音楽制作に参加しつつある(増田ほ か 2005)。サンプリングという音楽制作方法̶レコードなどの音源の一部分を切り取 り、それを再構成して音楽を制作する̶が一般化しつつある昨今、インターネット上 では『弱い著作権』の音源がインターネット上で公開され、それらを世界中の人々が 共有しながら相互にサンプリングを行い、各自が自らの音楽作品を制作する文化が広 がりつつある 37) 。こうした現象は『弱い著作権』が、デジタル・テクノロジーを基盤 とするネットワーク社会において、経済的な収益モデルとして有効であるだけでなく、 文化的な意義をも持つことを強く示唆している。経済的側面からだけではなく、文化 的な立場からもインターネット上の著作権の問題への考察を深める事によって、文化 経済学の大きな目標の1つである文化的価値と経済的価値の両立という課題の達成に 近づく事ができるのではないだろうか。 【注釈】 1) 本論では、以後『レコード』という言葉をレコード、カセット、CD などの音楽ソ フトの総称として用いる。 2) ユニバーサル・ミュージック、ソニーBMG、EMI、ワーナー・ミュージックの4社。 3) CNET Japan 記事『P2P 業界団体、RIAA への少女の和解金支払いを肩代わりへ』, <http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000047715,20060885,00.htm>, 2003 年 9 月 11 日。(2005 年 3 月 16 日閲覧) 4) Pew Internet & American Life Project, ͆Artists, Musicians and the Internet,͇ <http://www.pewinternet.org/report_display.asp?r=142>, 2004 年 12 月 5 日。 (2005 年 3 月 16 日閲覧) 5) 2005 年 3 月に行われたサウス・バイ・サウスウェスト音楽祭では、合意した参加 アーティスト 758 組の音源が、P2P ファイル共有サービスの BitTorrent によって配 24 給された。Hotwired Japan 記事『2005 年『SXSW』音楽祭、750 曲以上を P2P で 一括配布』,<[http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20050310208.html>, 2005 年 3 月 8 日。(2005 年 3 月 27 日閲覧) 6) Apple 社が 2003 年 4 月に開始した有料音楽配信サービス [http://www.apple.com/itunes/]。合法的な音楽ダウンロード販売の 70%程度のシェ アを持つといわれる(͇A big week for Apple,͇ Economist, Vol. 372, 7/31/2004, 53.)。 7) 購入した楽曲は最大5台までのコンピュータへ複製可能で、CD-R へのコピーも認 められている(津田 2004: 286-9)。 8) ここでいうハッカーとは、コンピュータシステムに不正侵入を行う犯罪者の意味で はなく、コンピューターサイエンスの文脈での元来の意味、つまり『天才的なプログ ラマ』といった意味合いである。山形浩生『What̓s Hack』 [http://cruel.org/freeware/hack.html]を参照のこと。 9) 文部科学省ホームページ <http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/04093001/001/016 .htm>(2005 年 3 月 27 日閲覧) 10) 著作者の人格権は(1)公表権(2)氏名表示権(3)同一性保持権の3つから成 り、作品を売却(財産権が移動)しても人格権は作者に残り、著作者の死後まで有効 であるという特徴を持つ(名和 2004: 51-2)。 11) 2004 年のレジャー白書によると、日本国内の市場規模はレコード関連産業が約 5,000 億円規模、コンサート関連産業が 2,000 億円であるとされる。これは消費者の 立場からすると、CD やラジオなどのメディアを通じた音楽鑑賞は(1)ちょっとし た時間の合間を埋めるのに適している(2)他の活動と同時に行うことができる(3) 従ってほとんどの人にとっていつでも可能であるのに対し、ライヴパフォーマンスは ある特定の決まった時間と場所で行われるため、ライヴよりもメディアによる鑑賞/ 消費の方が優勢となりやすいためである(McCarthy & Jinnett 2001: 9)。 12) たとえば 1990 年代に日本の音楽市場で多くのヒット作品を出した ZARD は、1999 年までライヴ活動をまったく行わなかった。 13) 佐々木ほか(2000)を参照のこと。 14) http://www.npr.org/ 15) http://www.cosmosmile.com/ 16) CNN Money, ͆The artist currently known as king: Prince took first place on Rolling Stone̓s list of top moneymakers, Madonna placed No.2,͇ <http://money.cnn.com/2005/02/09/news/newsmakers/prince/>, 2005 年 2 月 9 日。(2005 年 3 月 16 日閲覧) 17) そのためファンはさまざまな工夫をこらして、録音機材を会場に持ち込む必要があ った。 『あるカップルは大晦日ごとに「ハッピー・ニューイヤー!」と糖衣した「D-5 (筆者註:テープデッキの型番)ケーキ」を焼いて、中に平たいソニーのコンパクト・ デッキを入れていた。』(Shenk & Silberman 1994=2004: 126) 18) テープ・ツリー以外に、テープ・ヴァイン(Tape Vine)という回覧システムも編 み出された。詳しくは ibid. pp,314-5 を参照。 19) 『利潤が目的の海賊版に多くのヘッズは眉をひそめる』『海賊版を作っているのは デッドヘッズではない』(Shenk & Silberman 1994=2004: 46) 25 20) 最近のジャムバンドの場合、ポスターなどはネット上からダウンロードして、ファ ンが自由に利用できる工夫がしてある。 21) 初期のアルバムはメジャーレーベルの Warner から出されており、スタジオ録音を 13 枚残している。バンドの中心メンバーである J.ガルシアはスタジオ録音をする動 機について次のように語っている。 『レコード作りの動機として、契約は、部分的な動 機でしかない。レコード会社の意のままに動かなくてはいけないほどに契約でがんじ がらめにしばられているようなことはない。一年に一度くらい、自分の考えをまとめ るためにも、レコードを作るのはいいことだと僕は思っている。年次報告みたいなも のだ。』(Garcia 1972=1976: 105)。 22) 詳しくは Hotwired Japan 記事『人気バンド『フィッシュ』、最新のライブ音源を 配信する有料サービス開始』, <http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/business/story/20030131107.html>を参 照のこと。 23) Burlington Free Press. ͆Phish̓s finale sells out of tickets,͇ <http://www.burlingtonfreepress.com/specialnews/phish/2.htm>, 2004 年 6 月 20 日。(2005 年 6 月 24 日閲覧) 24) http://www.etree.org/ 25) 以上の記述は NPG Prince Site<http://www.npg-net.com/prince/>を参考にした。 (2005 年 3 月 28 日閲覧) 26) このアルバムはライセンス契約を結んだ EMI が配給やプロモーションを行った。 また、この頃に『Crystal Ball』という5枚組のアルバムを、インターネット上で自 主通販したが 25 万セットしか売れなかったという(小林 2001) 27) http://www.npgmusicclub.com/ 28) Internet Watch 記事『人気アーティスト Prince、Napster で新曲をプロモーショ ン』, <http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2001/0403/prince.htm>, 2001 年 4 月 3 日。(2005 年 3 月 16 日閲覧) 29) http://www.stevewinwood.com/ 30) 詳しくは津田(2004: 234-241)を参照。「ファイル交換ソフトと音楽業界の売り 上げの相関関係」に関する各種調査がまとめられている。津田は、一般的な傾向とし て、レコード会社や業界団体主導の調査では『ファイル交換ソフトが CD 売り上げに 悪影響をおよぼす』という結論、中立的な調査団体や研究者による論文では『ファイ ル交換ソフトと CD 売り上げには関係がない(もしくは好影響を及ぼす)』という異な る結論が出る傾向がある、と指摘している。 31) 「アーティスト特集:プリンス」東京:リットーミュージック『キーボード・マガ ジン』2004 年 11 月号、pp.12-14。 32) ある雑誌記事のタイトルでは『プリンス、すべての席に CD を授ける(Prince bestows a CD with every seat)』となっている(Conniff 2004)。 33) コンサートのチケットに CD を付属させるというアイデアは、すでに他のバンドに よっても模倣され始めている(Waddell 2004)。 33) RIAA Web サイト <http://www.riaa.com/news/newsletter/020305.asp>, 2005 年 2 月 3 日。(閲覧日 2005 年 3 月 25 日) 34) ライヴツアーの収入はマドンナ(Madonna)の方が多かったが、プリンスは制作 コストを削減することで、利益面で上回った。詳しくは CNN Money. ͆The artist currently known as king: Prince took first place on Rolling Stone̓s list of top 26 moneymakers, Madonna placed No.2,͇ <http://money.cnn.com/2005/02/09/news/newsmakers/prince/>, 2005 年 2 月 9 日。(2005 年 3 月 16 日閲覧) 35) http://www.prince.org/ 36) 例えばあるスレッド(特定の話題について話し合う掲示板)では、2005 年 3 月 20 日∼29 日の間に 215 件のメッセージが寄せられ、17,000 ほどのアクセスがあった。 <http://www.prince.org/msg/7/138120>(2005 年 3 月 29 日閲覧) 37) スタンフォード大学のローレンス・レッシグが提唱するライセンス CreativeCommons[http://creativecommons.org/]はインターネット上でこうした 実践を行う際の、一般的なライセンスとなりつつある。CreativeCommons には、サ ンプリングしてもよい音楽作品であることを示すサンプリング・ライセンスも用意さ れているが、これは現在ブラジルの文化大臣を務める音楽家ジルベルト・ジル (Gilberto Gil)によって提唱された。たとえば MacBand[http://www.macband.com/]というサイトではアップル社の音楽制作ソ フト『GarageBand』用の音源ファイルが CreativeCommons ライセンスで公開され いている。 【参考文献】 Adams, Rebecca and G., Sardiello, Robert [eds.]. 2000. 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