イギリスの法人税改革の動向 (国際課税の観点から) 2011.7.26 JTI国際課税研究会 筑波大学 青山慶二 1 目次 1.英国法人税制の改正動向(国際課税の観点から) (1)法人税率の引下げ (2)CFC税制の改革 (3)支店課税制度の改革 2.我が国税制改正への示唆 (1) 領域主義への移行 (2) 立法過程とコンサルテーション (3) 立法・執行の協調 2 英国の法人税改革に取り組む体制 (二階層によるビジネスとの諮問体制) • 財務省政務官の下での法人税改革リエゾン委員会 • 分野ごとのワーキンググル―プ(WG:5分野) (メンバーは公募・推薦制) パテントボックス制度 外国支店課税 R&D税額控除 CFC税制最終改革(金融資産、IP、保険、銀行、不動産の5分科会により構 成) CFC税制中間改革 • それに加えてのビジネスとのアドホックなコンサルテーションの開催 3 中長期戦略の文書 “Corporate Tax Reform: Delivering a more competitive system” HM Treasury Nov.2010 • 報告書の構成 第1章:法人税改革のロードマップ 第2章:CFC税制の改革 金融資産及び知的財産に関する新しいCFC税制 を含む 第3章:技術革新と知的財産に対する課税 パテントボックス制度と研究開発税額控除を含む 第4章:CFC税制の中間改革案 第5章:外国支店課税 4 法人税改革のロードマップ • ロードマップの概要 G20で最も競争力のある法人税制を今後5年 間かけて構築 4つの着眼点 法人税率 法人税課税ベースの確定 税制構築の質 法人税制の執行方法 5 法人税率と課税ベース • 4年かけて4%引下げ(28から24へ) EU内のポジション 1997:10/27 2010:20/27 • 課税ベースの2つの課題 海外所得 無形資産取引からの所得 6 税制のクオリティと執行等 • ビジネスが関心を寄せる税制のクオリティ • コンプライアンスを容易にする執行メカニズム HMRC・大規模納税者間の効率的なコミュニケーションにより、 重要課題への迅速な対応と紛争処理 (法人税改革に関連する他の重要改正) • 個人所得税(年金課税を含む) • 環境税 • 銀行業界に対する付加税としての銀行税 7 法人税改革の諸原則 (ボックス2A:法人税改革の諸原則) • 課税ベースを維持しながらの税率引下げ より少ない税軽減措置の下での低い法人税率が、事業投資に中立的な最良のイ ンセンティブと政府は考える。 • 安定性の確保 安定的な税制がビジネスにとって肝要であり、無用な改正は避けるべき。ビジネ スとともに持続可能で長期安定型の税制を構築する方向で改正に取り組む • 最新の事業実態の反映 過去20年間グローバライゼーションと技術発展により飛躍的に変化を遂げた事 業実態を斟酌しない税制ではだめ • 複雑性の排除 良い税制は簡明であることである。事業運営の複雑化や従事者の多様性から 不可避と考えられる一定の複雑性を考慮しながらも、政府は改正内容の簡明化 に努める • 納税者にとって公平な税制環境の提供 法人税制は事業判断を撹乱することのないあらゆる納税者にとって公平なも のでなければならない。従って、特別救済措置は市場の失敗のケースなどに限 定すべき 8 法人税率 • 今後4年間での24%までの段階的引き下げ これによりG7中最低水準、G20中下から5番目 引き下げの財源は、課税ベースの拡大 例:減価償却の削減 税制優遇措置の導入よりもすべての納税者に裨 益する税率引き下げを優先 9 法人税の課税ベース • グローバル化の下での更なる領域主義への移行 −−英国に本社を置く多国籍企業の国際投資に友好的な税制が必要 −−そのため課税ベースを更に領域主義的なものに変換する 具体的には、CFC税制と外国支店課税の改正 • 支払利子控除 ーー政府は英国の競争力の観点から大きな改正を予定せず −−利子控除を認めるのがOECD加盟国の実践であり、会計基準にもマッチ −−政府は、ローンがどこで用いられようとも、支払利子控除を維持 (投資と成長促進に必要な安定性と確実性に奉仕) −−即ち、支払利子について領域主義に移行するメリットより現行制度維持 のメリットの方が大と判断 −−租税回避のリスク対応については、引続きリビューする見込み 10 CFC税制の改革 • 立法提案趣旨 ①従来から強い改正要望〔競争力の観点から。誕生後25年 経過し、グローバル化の下でのビジネスの実体にマッチさせ る必要〕 ②現行ルールの人為的租税回避防止の観点からの行過ぎ の是正〔海外事業管理の効率化への攪乱要因の減少〕 ③特に、金融資産と無形資産の取扱いに焦点 −−部分的な金融会社免除の導入、IPによる課税ベース 侵食の防止 • 2011年改正でのCFC税制の中間改革〔2012年に最終改革) 11 新CFCルールの提案概要 ボックス1A: • 主として事業体別制度の下での、人為的所得移転 に的を絞ったCFC税制の導入 • 部分的な金融会社適用除外の導入 • 事業会社について偶然的・付随的に発生する利子 所得の適用除外。金融会社についての適用除外の 事業会社の余剰資金への適用 • IPに関連するリスクを管理するアプローチの採用( 英国から移転する超過利潤の特定) 12 金融資産についての新しいCFCルール 目的は、グループの海外事業のファイナンスの管理を容易にさせるとともに、英国の 課税ベースの侵食を防止 • 金融資産とは利子類似のリターンを生む現金及び現金相当資産、並びに、債権及び 債権相当資産 • 金融資産が本来の事業資産である銀行及び保険会社には別段の定めを用意 • 検討された課題 金銭債権を利用した課税ベース侵食への対応の重要性 金融資産のFungibility故に、次の分類困難 • 事業目的の金融 課税ベース侵食のための金融 両方の性格を併有するもの 多国籍企業によるグループファイナンス管理の効率化を狙った一拠点集中の傾向 グループ会社間の長期社債等仕組金融の拡大と、日常的な財務機能(キャ ッシュプーリング契約等)との併存 現行CFC規則における上記状況に対する、適用除外規定の未整備 13 (参考)金融取引による課税ベース侵食の例 • 低課税国事業体から英国事業体への貸付 現在はWorld‐wide debt cap制度が一定の歯止めの役割 (あらゆるケースにおける課税ベース侵食をカバーできて はいないと評価) • グループの英国における借入と、当該借入を利用した低課 税オフショアへの株式資本投資(英国における利子控除とオ フショアで発生する利潤への英国非課税) 14 金融資産についての政策選択肢の検討 (CFC税制以外での対応策の検証) • 追跡方法による英国課税ベース侵食取引規制 課税手法の複雑性と予測不可能性 • 完全な領域主義による支払利子の控除否認 オフショア投資向けの借入金から発生する支払利子控除を英国に おいて否認 (ただし、英国外から借入れて英国外で使用する金融資産について は適用除外) (政府提案) • 利子控除について現行法を維持し、金融資産の利用による英国課税ベ ース侵食に対してはCFC税制で対応 現行法が保障するアドバンテージを失い、英国の競争力を減殺するこ とを憂慮(領域主義へ移行するメリットとの比較衡量) 複雑性と不安定性をもたらすことなくすべてのビジネスにとって公平な 15 利子控除制限の設計の困難性 ファイナンスカンパニーについてのCFC適用除外案 • 「部分的なファイナンスカンパニーへの適用除外」 適正に資本注入されたファイナンスカンパニーについては CFC税制の適用除外とする方法 (ファイナンスカンパニーの自己資本が一定のD/E比率 を越える場合、比例的なCFC課税が発生) ==ビジネスはOK 政府原案はD/E比率1:1で、実効税率が10%以下程度にな るのが理想的との考え (当初試算)D/E比率1:2 この前提に立てば、100%自己資本のCFCは所得の66%が適用除外 2012の法人税率26%を前提とすれば、実効税率は9%、 予算が予定する将来法人税率24%の下では8% • この適用除外の濫用防止のための規定の必要性 グループ内でのリサイクリング・ファイナンスや英国から当該CFCへの 人為的所得移転を対象 16 (参照)超過キャッシュと財務会社(Treasury Company) • 海外子会社重複機能を果たす場合への対応 現行税制からのメリットを受けるため、事業活動と資金管理の双方を実 施するケースが多い(「超過キャツシュ問題と呼ぶ) • (政府提案)ファイナンスカンパニーに適用されるルールを低課税国で超 過キャッシュを有する場合にも適用 ただし事業会社の偶発的・補助的な利子所得は、適用対象外 超過キャッシュが生じた場合には、ファイナンスカンパニーに生じたもの とみなしてD/E比率を適用してCFC課税 • 事業用金融資産の日常的管理を行う「財務機能」はローリスクで少額の 金融所得を発生させるにすぎない業務であり、英国課税ベース侵食の脅 威は少ないと判断(原則として適用除外) 17 知的財産権に対するCFC規則 • • CFCのIP所得課税ルールへの領域主義の導入により、IP所得の国境を越 えた適正配分を実現 IPの広範な定義 無形資産とそれに付随する権利 (工業的・商業的・科学的情報、専門知識、特許権、商標権、ブランド、 著作権、意匠・デザイン等) • 移転価格税制との関連 移転価格税制・出国税と並行しての必要性の認識 • 導入の手順 2011中間改革で、英国とわずかな関連しか持たない海外IP(内外の共 同開発や重要な関連もつものを除く)の適用除外の提案。更には、偶発 的・付随的所得やデミニマス基準の適用もあり。 ただし、能動的な管理による適用除外は提案せず 18 (参照)CFC税制で対応すべきとする3つのIP取引 • IPが英国で開発され低課税国へ移転されるケース • オフショアで保有されるIPが実質的に英国で管理さ れるケース • オフショアで投資勘定として保有されるIP投資に英 国のファンドが利用され、英国がリターンを受けてい ないケース 19 (参照)CFC税制改革での具体的なIP課税方法 第1ステップ:英国と実質的な関連を有するIPを保有するハイリスクのCFCの特 定 ①過去10年以内の英国からのIP移転 • ②IP価値の創造・維持のための活動の重要部分が英国で実施 独立した機能のサブコントラクトは、それがIPの創造・維持に重要な部分でな い限り実質的関連とはみなさず ③実質的にオフショア投資として保有されているIP • 第2ステップ:「超過収益」計上されているか否か。計上されているならそのうちど の割合が、人為的な英国利得の流出か 上記①②の状況 低リスク事業体については、セーフハーバールール(特定コスト・特定資産 に対する最低利益率基準) セーフハーバーを満たさないものについては、セクターごとにいくつかの実 質基準(専門性、雇用者数、オフショアの活動内容、ファイナンス所得金額、資本 構成、等) 英国から人為的に流出された所得に対応する「超過所得」の特定 上記③の状況 金融投資と同等の状況であるとして、オフショア金融資産と同様の課税 20 技術革新と知的財産権の課税 • G20中で最も競争力のある税制の視点を強調 科学技術とハイテク技術のIPに焦点 MNEグループの開発拠点選択と税制 • パテントボックスの提案 英国内でのIPの開発・製造・使用許諾の優遇は、高付加 価値の仕事・活動を国内に誘導する根源 併せて現行のR&D税額控除の維持・改善 この点に関しては出国税の賦課による規制強化は逆効果 (IPを自国で創作・維持しかつ商業化を図る必要性) • パテントボックスの仕組み(2013.4からの実施) IPの中で特許権、ブランド、商標権に焦点 選択制、ネット所得に対し税率10%、費用は商業化以前 の費用を含める 21 CFC税制中間改革案(2011)の概要 • 目的 現行法下では適用対象となるが、英国の課税ベース侵食の可能性が ないとビジネスとの間で合意した商業的に正当化される活動の適用除外 海外でM&Aを行う英国企業の支援 最終改革に向けたコンサルテーションで確認された現行法制の大規模 改革を伴わない改善案の実施 • 中間改革案パッケージ (現行のオールオアナッシングアプローチの修正) −−関連者間の外・外取引で英国課税ベースの侵食の恐れのないも の −−IPもCFCも英国とわずかな関連しか有しない場合のIP活用所得 −−組織再編で初めてCFC税制の適用対象となる外国子会社の3年 間の適用除外 −−デミニマス基準の改善と一定の持株会社についての適用除外措 置の撤廃の延期 22 (参照)グループ法人間活動への新しい適用除外措置 • 狙い グループ間の一定の外・外の財貨・サービス取引の適用除外 • 充足すべき基本的4条件 −−事業実体の存在:現行法通り −−事業活動条件:主たる事業が投資事業でないこと −−金融所得・IP所得の金額:(これらの中身については最終改革案で 決着) 当座は総所得の5%以内の基準で適用除外(保険会社も同様) 超過分のみCFC税制の適用 ただし、金融所得については事業活動に付随するもの、本業に属 するものは除外 −−英国との関連性 事業所得と事業費用のうち英国との関連のあるものが10%を越えない ものは除外。過半数を越えるものは課税(ただし、越えた場合の取扱いの 詳細は最終改革案で検討)。10−50%間の場合はセーフハーバー(実質的 23 管理の程度・一定の利益率)の範囲かどうかで決着 (参照)英国との関連性を持たないIP活用所得等 (IP活用所得) • 対象となるIPの英国関連性 IPが英国で開発され保有されていたかどうか • CFCの英国関連性 IP活用からの収益が英国から発生しているか、R&D活動につき発生 する費用が英国で引き受けられているか 更には、CFCが英国からの株式資本で資本注入されている割合の検 討 (M&A等組織再編の特則) • M&Aにより初めて英国のCFCになった法人を対象:適用除外取扱い期 間を、現行法の2年から3年に1年間延長 (その他改善策) • デミニマス基準の引き上げ(年間課税利潤5万ポンドから20万ポンドへ) 24 外国支店課税の改正 • 選択制の支店所得免税制度の導入 従来の支店損失の通算メリットの維持の観点 一般的な支店損失控除+将来利益での取戻し方策も検討 • 政府案の内容: −−選択した法人は支店損失控除の利益を喪失(外国子会社とのパ ラレルな扱い) 技術的な「取戻し」制度の不要 −−選択は変更不可能 −−対象所得は、支店の事業所得及び支店に実質関連する投資所得 (所得の定義は個別の租税条約による。条約なき場合はOECD モデル条約) −−対象となる支店所在地国は条約未締結国も含む(大規模中規模 法人の場合のみ) −−ただし、CFC並みの暫定租税回避防止規則の適用あり 25 税制の簡素化と税制改正過程の改革 (簡素化) • 税制簡素化室の設立 • 簡素化の対象となる2つの領域 −−租税特別措置 −−小規模事業者税制 (税制改正過程の改革) • 税制の予測可能性と安定性の確保の提示 −−ビジネスとの間の前広でタイムリーな コンサルテーションの実施 • 税制改正に随伴する租税回避リスクへのより戦略的な対応 (システマティックな適時適切な立法対応等)の検討 26 法人課税の執行に当たっての基本方針 • HMRCと大規模法人との連携強化 近年の成果 ーー相互信頼、透明性、公開されたコミュニケーション −−執行の費用効率性の向上効果 • 法人税法解釈に当たってのビジネスの実態理解の必要性の 認識 −−ビジネスからの解釈の不明確な分 野の指摘の必要性 −−特に、国際課税の分野 • HMRCと大規模法人との間での責任感共有による安定性・持 続性の確保 −−法人税制全体の健全性と競争力を目的として 27 改革のタイムテーブル(2010.11文書) 2010:秋 「CFC改革レポート」、「IP・パテントボックス・R&D税額 控除文書」、「CFC中間改革案・選択的外国支店課税改革案 の詳細文書」の発表 2011:春 法人税率の引下げ(27%)と中小法人軽減税率の引 下げ (注) 26%への引き下げを1年前倒しして2011.4から実施 「新CFCルールの詳細・パテントボックスの詳細に関する諮問 文書」の発表 2012:春 法人税率の引下げ(26%) 新CFCルール、パテントボックス税制の成立 2013:春 法人税率引下げ(25%) 2014:春 法人税率引下げ(24%) 28 〔参考〕2011.6諮問文書による追加検討事項 • 低リスクCFCの適用除外要件 CFCの定義 低利潤の適用除外 ホワイトリスト方式 組織再編に伴う期間限定適用除外 ファイナンス会社規則 • 領域内事業の適用除外(無形資産の取り扱いを含 む) • 外国支店へのCFC規則の適用 • 保険業・銀行業等への適用除外 29
© Copyright 2024 Paperzz