生活保護制度の運用について① 事例検討<稼働能力活用> 本世帯は

生活保護制度の運用について①
事例検討<稼働能力活用>
本世帯は、5名の子ども(5歳から15歳まで)のいる母子家庭であり、生活保護を受け
ている。
長女(15歳)は、在学中不登校の時期などがあったが、本年3月に中学を卒業した。し
かし、定時制高校受験に失敗し、来年の高校受験を目指している。福祉事務所は、母親(世
帯主)に対し、
「長女が中学卒業後、高校に進学しないなら、働いてもらわないといけません」
と指導を行った。長女は、この指導に従い、ホテルの清掃員の仕事(アルバイト)に就いたが、
厳しい仕事であったことから、とても続けられないと思い1日で辞めてしまった。
その後福祉事務所は、本年5月中旬に「長女が1週間後までに仕事を見つけられなければ
長女を世帯分離する」と通告した。そして、その1週間後に長女が仕事に就いていないこと
を電話で確認すると、長女を6月1日付けで世帯分離した。
この処分により、母親の世帯は、子1人分の生活保護費を削られ、長女は医療扶助も切ら
れてしまった。この世帯分離についてどう考えるべきか。
【検討する際のポイント】
1 中卒後、高校進学を目指している子どもへの就労指導について
2 世帯の自立と子どもの高校進学
3 世帯分離を行うに際しての手続
生活保護制度の運用について②
事例検討 <ホームレス住居設定・居宅移行支援>
「生活保護申請」と「アパート転宅のための一時金申請」が同時に行われた方の事例
A さん
プロフィール・・49歳 北海道で出生 男性 生活保護新規開始ケース
今までアパート生活の経験なし
就職歴・・地元の中学卒業後、自動車会社に勤務し寮住まい。働きながら夜間高校を卒業し
た。
その後、パチンコ店・うどん屋・キャバレー等で住み込みで働いた。そして、2
4歳からは建設業日雇いの仕事を行うようになった。
エピソード・・
43歳の時仕事で足を痛め、関東の B 福祉事務所で初めて生活保護を受給した。その後も、
東京 C 区、三多摩 D 市等で受給歴あり。施設経験も多いが、個室の簡易宿泊所では比較的長
期に居住していたが、SSS等の団体生活には耐えられず短期間で退所していた。
その後はダンボールで寝て、街頭のアンケートに答えて図書券を貰ったり、炊き出しで食い
つないでいた。
2010年11月夜公園のベンチで座っていた時、NPOの支援者に声をかけられ、生活の
相談を行った。
翌日、NPOの支援者に付き添われ当福祉事務所に来所。生活保護申請が行われ、同時にア
パート転宅のための一時金申請も出された。
(生活保護は申請日から開始された。
)
生活保護開始日から簡易宿泊所(個室)で生活していた。しかしAさんは簡易宿泊所は熟睡
できず、自炊をしたいので、早急にアパート転宅を認めてほしいと生活保護ケースワ-カーに
訴えた。
【検討する際のポイント】
1
ホームレスの方は、すべての方が施設に入らなければならないのでしょうか。
2
アパート生活が可能と考えられる条件を考えてみましょう。
3
A さんは今までアパート生活を経験したことはありません。あなたが担当ケースワ-カー
であれば、Aさんのアパートへの転宅希望について、どのように判断しますか?
生活保護制度の運用について③
事例検討<資産・車の保有>
A さん(27 歳)は、2歳と4歳の二人の子どもを抱える母子家庭の母である。離婚後1年
が過ぎ、これまでは前夫からの示談金と子どもたちへの養育費で生計を維持してきた。しかし
蓄えも費消し、頼れる親族もないため生活保護を申請することになった。
また、これを機に子どもたちを保育所へあずけ、仕事を始めることにした。しかし、最寄り
の保育所は定員の空きが一人分しかなく、二人の子を一緒に入所させることが困難であった。
このため別々の保育所に預かってもらうこととなった。
一方、職場は自宅から遠い距離にあり、公共交通機関を利用しなければならないが、2か所
の保育所へ送迎しての通勤は困難であることが判明した。この事情を知った友人から中古の軽
自動車を無償でもらい、自家用車で子どもたちの送迎と通勤をすることとした。
なお、車は自宅の空スペースに駐めることが可能で、職場も無償での駐車が許可された。
このような場合、車の保有についてどのように考えるべきであろうか。
【検討する際のポイント】
1 通勤用自動車の保有の可否(
「社会通念上処分させることを適当としないもの」の取扱い)
2 自立助長とはなにか
① 母親の就労意欲をどのように評価すべきか
② 民間会社の勤務時間の厳格さを理解しているか
③ 保育所の始業時間と終業時間の理解
生活保護制度の運用について④
事例検討<扶養・申請時とその後>
35歳の単身男性。失職により手持ち金減少し保護申請。結婚歴なし。高卒後、親元を離れ、
専門学校を経て、設計の仕事をしてきた。若い自分が生活保護の対象だとは思っていなかった
ため、不足する生活費はサラ金を利用して補っていた。債務が150万円を超え、法律相談を
したところ、債務整理と同時に生活保護制度の利用を勧められ、来所し、申請に至る。
新規調査の際に、父親と妹への扶養照会に触れたところ、急に興奮して強く拒否。父親には
連絡をとらないでくれと。それならば保護はいらないと言い出す。
事情をポツリポツリ語りだした。高校1年の時に母が長年の闘病の末、病死。悲しみに暮れ
た父は本人にだけつらく当たるようになり、暴力を含む喧嘩が絶えなくなる。県下有数の進学
校で、大半が国公立大か有名私大に進学する中、勉強に集中できなくなり、成績が低下。希望
する国立大学に入るために浪人させて欲しいと父に言ったところ、無視された。大学進学を諦
め、高卒後、家を出て住み込み就職。働きながら設計の専門学校(夜間)に通い、技術を得た。
実家には父が残っているはずだが、家を出て以後、妹の結婚式の時にだけ顔を合わせたが、目
も合わさず。電車で30分の距離だが、20年近く実家に帰っていない。母の墓も知らないま
ま。そのような関係なので連絡を取って欲しくないということだった。
係長に上記の事情を告げたところ、是非扶養照会をしようと言い出した。係長が現役ワーカ
ー時代に、扶養照会の結果、長年断絶していた親子再会を実現させ、ワーカー冥利に尽きる場
面だったと目を輝かせている。そのような経験を是非させてあげたいと言う。また、今年度の
組織目標の一つとして、
「効率的で効果的な扶養照会の実施」が掲げられているので、DVや
虐待ならば照会しないこともできるが、援助できるかどうかは直接調べないと分からないので、
原則することになると説明を受けた。板ばさみのワーカーはどうしたらいいのか、分からなく
なった。
【検討する際のポイント】
1 申請時に扶養照会を拒否した場合、保護開始は可能か。
2 扶養義務者への照会の範囲はどう考えるか。
3 扶養義務履行が期待できない関係とはどのようなものか。
4 自立につながる扶養照会とはどのようなものか。このケースを通して考えてみてください。