第4回 CIC 東京大学連合フォーラム「環境問題と大学の役割」の開催報告

第4回 CIC 東京大学連合フォーラム「環境問題と大学の役割」の開催報告
(基調講演風景)
10 月 29 日にキャンパスイノベーションセンター(CIC)東京において、第4回 CIC 東京
大学連合フォーラムが開催されました。
今回も昨年度に引き続き、
「環境問題と大学の役割」
をメインテーマとして掲げ、今年のサブテーマは「持続的な資源の活用に向けて」と致し
ました。本フォーラムの開催にあたっては、CIC 入居大学から 14 大学の参加と国立大学
財務・経営センターおよびスズキ財団からの支援を賜り、お陰様で国際会議室がほぼ満席
の 120 名の参加者があり、成功裡に終わることができました。
改めて、今回のフォーラムの実施概要とその状況を述べてみたいと思います。
前回は基調講演、パネル討論、研究事例紹介、ポスター展示を行いましたが、今回は基調
講演とパネル討論、さらにポスター展示のみに絞り、特にパネル討論に重点をおいた企画
と致しました。
1. 基調講演
前回はホンダ技研の小川徹氏から「自動車産業における環境問題への対応」について講
演をお願い致しましたが、今回は日本消費生活アドバイザーで、環境省、経産省あるいは
東京都などの環境施策関連委員として活躍されている辰巳菊子氏に「持続的な資源の活用
に向けて、消費者の立場から」というテーマで講演を行って頂きました。
辰巳氏は携帯電話などの身近な商品を例にとりながら、サスティナブル社会を構築して
いくためには消費者自身がグリーンコンシューマーとしての行動が大切であるとともに、
商品を開発・生産する企業が製品の上流から下流に至る情報をきちんと伝えることが重要
であり、これらの実現のためには、双方に対する教育と、それぞれのコミュニケーション
を円滑に行うネットワーク作り、さらにその両者を結ぶ第3者機関の構築が不可欠である
ことを力説されていました。
会場からはこの意見に対する賛同の声が多く聞かれましたが、
このようなネットワークの進展には大学の果たす役割もかなり大きく、大学関係者にとっ
ても大いに参考になったものと思われます。
2. パネル討論
先ず、司会者(フォーラム実行委員長)として、
これ迄の世界主要国における研究開発投資額の
推移と我が国製造業における付加価値創出額の
動向を示しながら、本フォーラム開催の背景説
明を行いました。我が国は戦後から一貫して世
界第2位の研究投資を行ってきていますが、昨
今では中国が急速な伸びを示し、追い抜かれそ
うな状況であること、付加価値創出額では 90
年代中頃からかなりの低下傾向が目立っており、
この解決には大学への積極的な研究投資と大学が有する知恵の活用と環境問題への対応が
不可欠であることを訴えました。従って、本フォーラムのひとつの目的は、地方に拠点を
おく大学が環境問題解決のためにどのような活動を行っているかを首都圏でもよく知って
頂き、その活動に積極的な支援を頂くことにあります。
パネル討論は比較的大きな環境保全システム構築に関するプロジェクトを推進してい
るパネリストと、どちらかといえば具体的な環境保全技術を推進しているパネリストとの
二つのグループに分けて進めました。
第一グループ
先ず、静岡大学からは、創造科学技術大学院教授の鈴木款氏により「海洋バイオマスの
環境戦略:低炭素循環型社会の創成」に関するプロジェクトの事例紹介がありました。地
球の温暖化で海洋の酸性化が進み、プランクトンの異常な減少など、海が痩せていく現象
が大きな問題になっています。このプロジェクトでは、深層水などを活用して海産藻類を
大量に培養する技術を開発し、各種有用物質の生産、さらには大規模な高効率漁場創成な
どの大掛かりなバイオマス循環型システムを構築しようとするものです。鈴木氏からこの
プロジェクトの推進には全国規模の協調ネットの構築が重要であり、関連大学および産業
界からの支援を期待するとの要請がなされました。
愛媛大学の南予水産センター長山内皓平氏からは愛媛大学が愛媛県の活性化を目指して
進めている愛南町水産・食料基地創成クラスターの紹介がありました。このプロジェクト
は産学官が連携して、
単なる技術革新だけではなく、
大学のもっている生命科学研究部門、
環境科学研究部門、社会科学研究部門などを総動員して、地域社会の内発的、かつ自発的
な発展を促すというもので、愛媛大発の安心・安全・持続可能な水産物供給基地を創成す
ることを目的として展開されているものです。会場からはこのプロジェクトの進展に期待
する、あるいはその活動に協力していきたいという意見が多く出されていました。この愛
媛大学プロジェクトの進め方は他の大学における環境関連プロジェクトの仕組みづくりな
どに大いに参考になったものと思われます。
金沢大学からは、フロンティアサイエンス機構教授鈴木克徳氏より「金沢大学における
環境問題への取り組み・ESDへの取り組みと能登半島の里山里海の活性化」についての
事例紹介がありました。金沢大学では国連総会で決議された持続可能な開発のための教育
(ESD)を石川県内の 20 大学と連携して進める戦略的大学連携事業を展開しています。それ
に加えて、
さらにキャンパス内の活動を能登半島に広げて里山・里海の自然環境を整備し、
新しい観光ビジネスなどの創出と地域の活性化を産官学が連携して進めている状況が紹介
され、本フォーラム参加者に強い印象を与えていました。また、金沢大学が進めている T
字型の知識体系を修得する環境教育は他の大学にも大いに参考になったものと思われます。
山梨大学の大学院医学工学総合研究部教授鈴木嘉彦氏からは「バイオマスタウンづくり
の支援と CO2 フリー山梨の実現に向けて」と題する事例紹介がありました。県内の 78%
が森林であり、かつ日照時間が全国一位であるという環境下にあって、このプロジェクト
はそのバイオマス資源、水力資源、太陽光資源などを活用した持続可能な地域社会を世界
で初めて実現しようと展開されています。この実現には情報技術の活用、リース取引など
を含めた新しいライフスタイル・社会構造の確立が不可欠ですが、産官学が連携して、30
年後は再生可能なエネルギーだけで生活できる山梨県の創成を目指してその実証を進めて
おり、熱意のこもった取り組みが披露されました。
同志社大学からは商学部二年の佐藤理恵氏より「世界学生環境サミット in 京都」と題し
て本年 6 月に京都で開催された第一回学生環境サミット開催の報告がありました。8 月に
開催された G8 の「洞爺湖サミット」を意識したこの会議には世界の 11 カ国、15 大学から
56 名の学生が京都に集まって、学生の立場から環境問題の解決に向けての討論が行われて
います。この会議の成果は「世界学生環境サミット意見書」として纏められ、直ちに環境
省に提言すると同時に、世界学生環境ネットワークが新たに設立されてその活動が今後も
世界規模で展開されることになったと報告されました。学生主体での環境活動への参画、
さらに学生独自な国際的なネットワークの構築に努力しているパネリストには会場から多
くの賞賛が寄せられていました。今後の展開に期待したいと思います。
第二グループ
秋田大学からは工学資源学部教授中田真一氏より、秋田大学における環境問題への取り
組み状況の説明の後、具体例として「環境浄化触媒の開発」について事例紹介がありまし
た。環境浄化触媒としては、自動車排ガス浄化用、軽油の脱サルファー用、バイオディー
ゼル燃料化用への展開成果が説明され、レアメタルなどの資源枯渇を危惧する産業界など
から高い関心が寄せられ、早速具体的な研究連携の要請がなされていました。
広島大学からは大学院先端物質科学研究科教授の西尾尚道氏より「有機排水・バイオマ
ス廃棄物の嫌気微生物処理と再資源化、バイオ燃料化」と題する事例が紹介されました。
活性汚泥や家畜糞などをはじめとする有機廃棄物は我が国の循環型社会の形成に充分な量
を有する有機物資源であり、その有効活用技術の開発が強く望まれているところです。こ
の課題に対して、広島大学の西尾氏からは水素・メタンの二段発酵プロセスおよび乾式の
アンモニア・メタン二段発酵プロセスなどの画期的な発酵システムが新しく開発され、さ
らにその実証プラントを広島県内に設置して新しい循環型社会への展開を図っている事例
が説明されました。この資源化プロセスはこれ迄処理の難しかった発酵中のアンモニアの
発生を逆に有効活用するプロセスであり、産業界などから注目されるものと思われます。
熊本大学の大学院自然科学研究科教授木田建次氏からは「バイオテクノロジーを駆使し
た資源循環型プロセスの構築と地域の活性化」
について事例紹介がありました。
ここでは、
熊本大学が取り組んでいる地域活性化プロセスの一環として、生ゴミや水処理を含む循環
型バイオマスタウン構想の実証事例、さらに新しいエタノール発酵酵母の開発成果などが
紹介され、会場の参加者から注目を浴びました。特に、生ゴミや甜菜かすなどの資源作物
を活用した新規燃料用アルコール製造プロセスは、既に各地の資源循環型まち作りへと展
開されており、産業界や関連研究を行っている大学から具体的な連携を求める声が聞かれ
ました。
九州工業大学のエコタウン実証研究センター長白井義人氏からは「持続可能な社会のた
めのバイオマスの利用:バイオマスプラスチックと新しい循環型社会」と題する事例が紹
介されました。これは、
「生ゴミを糖化してポリ乳酸系プラスチックを作る、ポリ乳酸を使
用して製品を製造する、回収したポリ乳酸をケミカルリサイクルして新しいポリ乳酸を生
産する」の一貫した実証プラントを北九州市に設けて、NPO 法人で実際にビジネスを展開
しているものです。具体的に環境関連ビジネスを展開しているだけに話に迫力があり、参
加者の多くから賞賛の声が出ておりました。このセンターでは、既にマレーシアと連携し
てオイルパームなどのバイオマスの効率的な活用法も検討され始めており、
「石油に代わる
プラスチック原料の供給はアジア地域から、製品開発は日本で」という事業展開も図られ
ているとのことでした。ポリ乳酸系プラスチックは炭素固定型の持続性可能プラスチック
として自動車部品や農業用資材、
包装資材として世界的に注目を浴びている材料ですので、
このプロジェクトの成果は多くの国々、各種の産業界からかなりの関心がもたれるものと
期待されます。
3. ポスター展示
ポスターとして事例紹介を行ったテーマは下記
の通りです。
①秋田大学
自動車排ガス浄化触媒の開発
資源処理および金属精製技術を利用した希少
元素金属のリサイクル研究成果
②山形大学
山形大学における環境問題への取り組み
山形大学における ESCO 事業
③金沢大学
金沢大学における里山里海問題への取り組みと環境教育 ESD への取り組み
④静岡大学
亜臨界水によるバイオマス廃棄物の資源化技術
コンポスト腐熟度の DNA センサーの開発
⑤同志社大学
「世界学生環境サミット in 京都」の報告
⑥奈良先端科学技術大学院大学
植物による水中の環境ホルモン除去技術
⑦鳥取大学
粉末活性炭濾過法による加工油剤のリサイクル処理システム
日本梨新品種の開発―地球温暖化への適応
⑧広島大学
有機排水・バイオマス廃棄物の嫌気微生物処理と再資源化、バイオ燃料化
植物による温暖化ガスの削減力の強化
⑨山口大学
耐熱性エタノール生産細菌を用いたエタノール生産技術
空調ポンプの電力量を 20-50%低減できる配管抵抗減剤
⑩愛媛大学
南予水産研究センターの概要と活動状況
⑪熊本大学
バイオテクノロジーを駆使した資源循環型プロセスの構築と地域の活性化
熊本大学イノベーション推進機構の取り組み
⑫鹿児島大学
鹿児島大学の環境技術トピックス紹介
4. 全体の感想
環境問題は数多くの大学が取り組んでいますが、トピックス的に技術の紹介が新聞やテ
レビに登場するものの、地道に活動されている多くの大学の技術開発や社会連携活動の全
体像はあまり知られていないと思います。今回のフォーラムを通して、多くの大学がそれ
ぞれの地域と連携しながら、地道で、かつ成果ある活動を行っていることが多くの参加者
にご理解頂けたものと信じております。また、このフォーラムが、参加者・研究者同士の
交流、他の大学で実施しているプロジェクトの仕組みづくり、さらには大学間での連携、
大学と産業界との連携などを促進していくのに何らかの役割を果たすことができたならば
実行委員会として努力の甲斐があったと感じております。このようなフォーラムの開催は
キャンパスイノベーションセンター東京(CIC)に入居する数多くの大学が連合してはじめ
て可能となるものであり、CIC 東京でなければできない意義ある活動のひとつではないか
と考えております。 最後に、本活動を支えて頂きました財務経営センターの吉田理事、
伊東課長をはじめとするスタッフの皆様方、スズキ財団の海東専務理事に深謝致しますと
同時に、CIC 東京に入居している大学群から参加頂きました 14 の大学、さらに本フォー
ラムの実行委員として活動して頂いた愛媛大学、金沢大学、静岡大学、同志社大学、鳥取
大学、広島大学、山形大学の東京オフィスのスタッフの皆様方に厚く御礼申し上げます。
(文責) 実行委員長 静岡大学東京事務所 客員教授 酒井忠基