糖尿病治療のための人工膵臓を目指した薬物放出システムの開発(2014年度、2015年度) 研究代表者 三林 浩二(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 教授) 研究のゴール 研究の特徴 1 型糖尿病治療(血糖成分を駆動源として自律的に薬物を放出する血糖値制御システム 「人工膵臓」の開発) まだ他の研究では実現していない、 「外部電源に依らず血糖成分 を駆動源とし、血糖値の安定的な制御を可能とするシステム: 人工膵臓」を実現するために、血糖センサに使われるグルコー ス酸化酵素を用いることで、血糖成分であるグルコースをエネ ルギー(駆動源)に、その濃度に応じた減圧を発生し、自立的 に薬物を放出するシステムを作製しています。 研究概要 これまで、酵素を用いることで基質の化学エネルギーを力学エネルギーへと、直接 変換が可能な「有機エンジン」を開発してきました。その一つとして、グルコース 酸化酵素 (glucose oxidase, GOD) を利用することで、血糖成分であるグルコースの 濃度に応じて減圧を発生する「グルコース駆動型減圧機構」を作製し、そこで起こる 減圧をもとに薬物を放出する「薬物放出機構」と組み合せることで、グルコース 濃度を自律的に調節可能な薬物放出システムを考案しました。しかし既存システム では薬物放出の動作に血糖値の約 10 倍高濃度のグルコース溶液を必要とし、血糖 レベルで駆動するには各機構の更なる性能の向上が求められています。 そこで本研究では、 (1)グルコース駆動型減圧機構の出力向上、(2)減圧式の 薬物放出機構の改良、 (3)改良した薬物放出システムによるグルコース濃度制御 特性の評価の3点に取り組み、1型糖尿病の治療法を目指した薬物放出システムを 構築していきます。 ■これまでの研究結果・成果 これまでに開発したシステムでは、薬物放出の動作に血糖値の約 10 倍高濃度のグルコース溶液を必要とし、 血糖レベルで駆動するには各機構の更なる性能の向上が求められていました。そこで、酵素膜の大面積化や膜質 の改善により高出力化を図ることで、薬物放出に必要なグルコース濃度を、従来の 1/4 に低減することに成功 しました。また減圧加速度の向上などにより、グルコース濃度の変化に対する応答性が改善されました。 ロ ー ドマップ 現在の進捗率 約30% 人工膵臓に向けた「有機 エンジン」 ・ 「薬物放出 機構」の創製 現在の状況 現在の課題は、グルコース駆動型減圧機構において薬物を放出するため の駆動力(減圧)を血糖値レベルで発生させることです。そのため、出力 を向上させるためにグルコースを基質とする酵素 POD、AOX、GAO と その複合酵素の固定化法を検討しています。また安定した薬物放出を実現 するためには、薬物放出機構においても圧力開放弁などの改良を行う必要 があります。 この研究で患者の生活や他の研究にどのような波及効果があるか(期待されるか) 現在 自律式薬物放出システム の開発・最適化 コントロールを行いたい血糖から駆動力を発生させ、自律的にその時 の血糖値に応じた量の薬物を投与できるので、1日に何度も行う血糖値測定 2020年 動物実験によるシステム の評価 およびインスリン注射などが不要になり、患者さんの負担が軽減されると 考えられます。将来的には自立的に生体成分濃度を制御する本システムの アイデアを基にし、他の臓器への応用も期待されます。 2024年 システムの臨床試験 患者・家族、 寄付者へのメッセージ いつもご支援賜り、誠にありがとうございます。皆様から頂戴した助成 をもとに、1型糖尿病治療のための「人工膵臓」の開発を進めております。 「人工膵臓」実現 28 本研究から得られる成果により、皆様のご負担の軽減ならびに1型糖尿病 の根治に貢献できるよう最善の努力を尽くしてまいります。 2025年 「治らない」 から 「治る」 へ −不可能を可能にする−挑戦
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