「発酵であそび、発酵で学ぶ」 ∼酵母の疑問編

どよう便り 81 号(2004 年 10 月)
第4回
「発酵であそび、発酵で学ぶ」
∼酵母の疑問編∼
大塚典子(グラフィックデザイナー)
さて、ここまで色々と酵母のことを調べてきました
が、全て「あ∼そうか!」と納得できることばかりで
はありません。「へぇ∼、そうだったの?…でも本当か
な?!」という疑問が色々と出てきました。自分で酵
母を育てるパン作りの方法そのものにも疑問です。本
当にこのやり方や考え方で良いのか…?もしかしたら、
もっと違う方法があるのかもしれません。
より酵母を理解するためには、自ら体験することが
一番の近道。というわけで、今回から酵母に対する疑
問と、その疑問を解くための実験を行ってみたいと思
います。
今回はまず私の思った「酵母の疑問編」です。
■疑 問 そ の 1 /酸 素 が あ る と き の酵 母 、ない
ときの酵母
パンやワインを作るためには、酵母をアルコール発
酵させなければならないので、酸素が欠乏していて高
濃度の糖がある環境を作ります。酸素の欠乏している
状態 でな いと、酵母 はアル コー ル発酵 しな いの です。
酸素がないとき、酵母は「発酵系代謝」をしています。
C 6 H 12 O 6 (グルコース)
→ 2 C 2 H 6 O (アルコール) +2 CO 2 (炭酸ガス)
では、酸素がある環境で酵母は何をしているのでしょ
う?
C 6 H 12 O 6 (グルコース)+6O 2
→ 6CO 2 (炭酸ガス)+6H 2 O (水)
酸素があるとき、酵母は「呼吸系代謝」をしています。
酸素が十分にある環境だと、酵母はアルコールを全く
生成せず、どんどん出芽増殖して数を増やしていきま
す。
この環境の違いで、酵母の働きは全く変わってしま
います。お酒を作るときはもちろんアルコール発酵さ
せなければいけませんが、パンの場合はどうなので
しょう?
私はまったくワインなどと同じように、アルコール
発酵させた酵母を小麦粉に混ぜてパンにしていました。
これが、もっとも良く知られている方法です。もちろ
ん、これで十分美味しいパンができます。でも、もし
かしたらパンの発酵場合は「酵母の数」が多くなる「呼
吸系代謝」も取り入れたほうが、より膨らみの強い酵
母ができるのではないでしょうか?しかし、空気中に
は他の微生物も数多く存在しています。そこで、まず
は酵母が強い環境をつくり出してから、「呼吸系代謝」
をさせるようにすれば、強い酵母を作ることができる
かもしれない、と考えています。
■疑問その 2 /酵母は生き返る?
酵母の使用期間(寿命)は 2 週間くらい、と聞いて
いました。あまり古くなると、パンの膨らみは悪くな
るし、香りもあまり良いとはいえません。ということ
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で、酵母も死ぬことがあるようですが、前回調べた通
り飢餓状態になると有性生殖して酵母は生き残ろうと
します。全て死んだわけではなく、したたかに生き
残っているものもいるのです。その生き残りがいるだ
ろうと思われるのが、ワインなどの「おり」ではない
かと思います。おりの中に、生きた酵母は存在してい
るのでしょうか?おりを集めて、もう一度発酵するの
でしょうか?パン、もしくはワインができるのか?と
いうのを実験してみたいと思います。
■疑 問 そ の 3 /何 で も 発 酵 す る の? 酵 母 に 何
でも食べさせてみよう!
酵母は高濃度で酸性の環境でも生きられます。酵母
のエサで、スタンダードなのは果物です。でも、巷で
はヨーグルトやら、ミルクやら、おからやら、酵母が
食べられない!と言われているものまで発酵している
ようです。一体どうして?!いろいろ食べさせて、本
当に発酵するのかの実験と、その「どうして?」を探
ります。
■疑 問 そ の 4 /酵 母 に よ っ て 違 う「香 り 」と
は?
同じ種類の酵母でも、エサとなる食べ物によって香
りが違います。りんごの香り、ゆずの香り、みかんの
香り、ごはんの香り…。どうしてエサによって、特徴
のある香りになるのでしょうか?酵母と香りの関係を
調べます。
まだまだ謎の深い、酵母菌の世界。酵母道は、長く
険しそうです。
◆先の9月20日に早稲田商店街の方々が中心になって行われ
た「早稲田地球感謝祭」に市民科学研究室の上田と大塚典子
さんで「酵母を知ろう! 酵母と遊ぼう!」のブースを出
し、酵母の顕微鏡観察をはじめ、訪れた方と楽しく過ごしま
した。本誌にそのときのチラシを同封しましたので、ご覧く
ださい。