ダダチャマメの成分について 山形大学農学部 生物資源学科 植物遺伝

ダダチャマメの成分について
山形大学農学部 生物資源学科 植物遺伝・育種学研究室
阿部 利徳
(1)ダダチャマメ系統の遊離アミノ酸
遊離アミノ酸の組成・含量は、エタノール抽出後、プレカラムのPico-Tag法により
測定した。開花35日後におけるエダマメ子実の遊離アミノ酸のクロマトグラムを図5
に示した。呈味性アミノ酸のうちエダマメに比較的多く含まれている3種の遊離アミノ酸、
すなわちグルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、アラニン(Ala)の含有量が全遊離アミノ
酸の約50%をしめる。
図1.
白山ダダチャ未熟子実の遊離アミノ酸クロマトグラム
ダダチャマメ系統6品種および山形県で栽培されているダダチャマメ以外の2品種の遊
離アミノ酸含量の品種間差異を図2に示す。全遊離アミノ酸含量が多かったのは,エダマ
メ用ダイズ品種の白山ダダチャ,早生白山,尾浦,甘露およびサッポロミドリで,新鮮重
100g当たり800mg以上含有していた。エダマメ用品種でも秘伝では全遊離アミノ酸含量は
いずれも新鮮重100g当たり500mg前後と少ない。白山ダダチャ系統の品種では、特にアラ
ニンを150∼200mg程度含有し、すこぶる多い。白山ダダチャにおける全遊離アミノ酸含量
の経時的変動を図3に示す。全遊離アミノ酸含量は開花30∼35日後にもっとも多く、40日
以降になると急激に低下する。収量は開花後40日の収穫で多くなるが、遊離アミノ酸含量
は35日以降低下するので、このことからも収穫は開花後35日が適当であると言える。遊離
アミノ酸は施肥量によっても変動する。多肥によって特に転流アミノ酸であるアルギニン
やヒスチジンが増加するが、食味には良い影響を与えない。
1000
AABA
GABA
Lys
Phe
Leu
Ile
Met
Val
Tyr
Pro
Ala
Thr
Arg
His
Gly
Gln
Ser
Asn
Glu
ASP
900
遊離アミノ酸含量(mg/100gFW)
800
700
600
500
400
300
200
100
図2
秘
伝
サ
ッポ
ロ
ミド
リ
庄
内
5号
庄
内
3号
甘
露
尾
浦
早
生
白
山
白
山
ダ
ダ
チ
ャ
0
山形県で栽培され ているエダマメお よび
図3
普通ダイズの遊離 アミノ酸組成・含 量
白山ダダチャにお ける全遊離アミノ 酸の
開花後の変動
( 2004年 エ ダ マ メ 、 3 反 復 の 平 均 値 )
(2)ダダチャマメ系統のGABA含量
機能性成分として注目されている、GABA含量に 着目していく つかの品 種で比較す ると 、
GABA含量が特に多かった品種は,白山ダダチャおよび早生白山の2品種で新鮮重100g当た
り50mg以上と多い(図4)。この含有量は、乾物重当たりに換算すると発芽玄米より数倍
多い値である。この2品種において全遊離アミノ酸量に対するGABA含量の割合は5∼6%
を占める.これまで報告された論文で、エダマメ子実のGABA含量を測定したデータは少
ないが、我々の研究によって、エダマメ用ダイズ未熟子実のGABA含量は品種間差異が大
きいこと、エダマメ用ダイズでも品種によ
って新鮮重100g当たり50mg以上のGABAを
含む品種のあることが確かめられた。GABA
含量の多少が食味にどのように影響してい
るかは不明であるが、機能性アミノ酸であ
るGABAは顕著な血圧降下作用があり、高血
圧の抑制、肝機能や腎機能を活発化、脳内
血流の活性化といった働きがあるとされて
いる。
図4
エダマメ 子実における GABA含 量 の品種間差異
(3)ダダチャマメ系統の糖組成・含量
エダマメの糖を熱エタノールで還流抽出し、エダマメ糖組成・含量を、HPLCを用
いて分析すると、エダマメ子実中の糖としては、スクロース,グルコース,フルクト
ースおよびイノシトールの4種が認められる。全糖に対してスクロースは圧倒的に多
く、80∼85%を占める。グルコースは3.9∼9.0%、フルクトースは5.8∼9.7%、イノシ
トールは3.9∼7.7%であり、スクロース以外の糖はいずれも10%以下である。エダマ
メ子葉中の糖組成・含量の品種間差異を図5に示す。ダダチャマメ系統の6品種のう
ち3品種(白山ダダチャ,甘露,および庄内3号)は全糖含量が新鮮重100g当たり
5,000mg以上で多く、ダダチャマメ系統でも早生白山,尾浦,庄内1号および庄内5
号は4,500mg以下であり、ダダチャマメ系統内でも品種間差異が認められる。また、
普通エダマメ用ダイズ品種のサッポロミドリおよび秘伝は3,000mg以下であり、ダダ
チャマメ系統より明らかに劣る。白山ダダチャにおける全糖含量の経時的変動を図6
に示す。全糖含量は開花35日後に約5%に達するが、その後は緩やかに低下する。
6000
6000
イノシトール
フルクトース
グルコース
スクロース
4000
5000
糖含量(mg/100gFW)
糖含量(mg/100gFW)
5000
3000
イノシトール
フルクトース
グルコース
スクロース
4000
3000
2000
2000
1000
1000
0
20日
25日
30日
35日
40日
50日
秘
伝
ポ
ロ
ミ
ドリ
内
5号
サ
ッ
庄
内
3号
庄
尾
浦
甘
露
白
山
早
生
白
山
0
図5
エダマメ未熟子実 の糖組成・含量の
品種間差異
図6
白山ダダチャにお ける開花後の糖組 成・
含量の変動
(4)ダダチャマメのタンパク質パターン、特に7Sグロブリンサブユニットの量的差異
図7に、開花後35日に収穫した未熟種子タンパク質のSDS-PAGEパターンの品種間差異
を示す。普通ダイズ3品種のパターンは全く同様であるが、エダマメダイズ5品種のパタ
ーンをみると、7Sグロブリンのうち特にβ-コングリシニン β-サブユニットに量的な差
異が認められる。すなわち、用いたエダマメダイズ6品種のうち、雪の下やかほりの
SDS-PAGEのパターンは普通ダイズ品種と同一であるのに対して、白山ダダチャおよび甘
露では、7Sグロブリンのβ-コングリシニン β-サブユニットや62 kDa−スクロース結合
タンパク質が量的に幾分少ないことがわかる。この他に、白山ダダチャ系統の品種は、グ
リシニンのA 5 A 4 B 3 サブユニットを持つ特徴がある(図9)。
図11に、未熟種子のSDS-PAGEとCBB染色後のデンシトメトリ−の結果を示す。スキャ
ンニング後にタンパク質バンドの定量を行った結果、白山ダダチャや甘露の種子では、7
Sグロブリンのうち、特にβ-サブユニットが普通ダイズ品種と比較すると、約70%に低下
していた。また、β-サブユニットの他に7Sグロブリンの一種である62 kDaスクロース結
合タンパク質も白山ダダチャおよび甘露で約75%に低下していた。このデータから、11S
/7S比を求めると、普通ダイズ品種では2以下であるのに対して、白山ダダチャおよび甘
露では3前後を示し、含硫アミノ酸の割合が相対的に高いことが示唆される。
図7
エ ダマメ用ダイズ品種 および普通ダイズ
図8
エ ダマメ子実タンパク 質のデンシトメ−タ
品種にお けるタンパク質電気 泳動( SDS-PAGE)
によるプ ロフィルの比較
パターン の品種間差異
A:岩手 2号、B:白山ダダ チャ
1:岩手2号、2:タマホマレ、3:ナカセンナリ、
4:雪の下、5:サッポロミドリ、6:白山ダダチャ
7:一人娘、8:かほり
図9
エダ マメ子実タンパク質 の二次元電気泳動( 2D-PAGE)
パターン の比較
A:岩手 2号、B:白山ダダ チャ
1,2: ス ク ロース結合タンパク 質、 3-5: β ーコ ングリシニンβ
6: A 5 A 4 サブユ ニット
(5)ダダチャマメにおけるその他の特異的成分
ダ ダ チ ャ マ メ の 未 熟 種 皮 に は アントシアニンのもとになるプロアントシアニジンを
多く含む。プロアントシアニジンはダダチャマメの新鮮重1g当たり、50∼100μMの範囲
で含まれているが、普通のエダマメ用ダイズにはほとんど含まれていない。未熟種皮抽出
液のDPPHラジカル消去活性は、プロアントシアニン含量に比例して高まり、プロアントシ
アニジン含量とDPPHラジカル消去活性の相関は極めて高い。すなわち、ダダチャマメ系統
の未熟子実は抗酸化活性を持っており、種皮も一緒に食することにより、細胞に有害な活
性酸素を除去する作用を期待できる。